無防備考







「世間様では、『アマビエチャレンジ』なるものが流行しているそうですよ。」
「はぁ~?何だそれ?『アマエビ踊り食いして経済回そうぜ!』的な挑戦か?」
「アマエビの属名はホッコクアカエビ(北国赤海老)…深海に生息する、美味しいエビだよね~」
「生後3年は無性別、4~5年目はオス、交尾後5~6年目にメス…性転換するエビです。」


黒尾法務事務所では、例年通りGWは行楽…には行かず、おウチでの~んびり過ごしている。
連休には動かず、平日に合間をぬって外出するのが、隙間産業たる個人事業主の生態だ。
今日は宅配のお寿司をとり、端午の節句にちなんだ『菖蒲酒』での酒屋談義…を仕掛けて、
最後に残ったアマエビの1貫をめぐり、四人で攻防戦を繰り広げていた。

「アマエビじゃなくて、アマビエ…妖怪だそうですよ。」

江戸後期の弘化3年(1846年)、肥後国(熊本)に一度だけ出現した半人半魚の妖怪で、
『当年より6カ年は豊作が続くが疫病も流行する。私の姿を写した絵を人々に見せよ』…と、
光輝く姿で海中から現れ、豊作と疫病を予言して帰った、レア妖怪だそうだ。

「その伝承を元に、アマビエの絵を描いてSNS上に投稿&拡散するチャレンジが、
   新型コロナ退散祈願として、海を渡って世界中で流行っているのだとか。」
「それ…厚生労働省の啓発ポスターに描かれてる、不思議な姿のキャラクターですよね?」



厚生労働省HPより(クリックで拡大)


「鳥の嘴、鱗を纏う、長い黒髪の…三本足?」
「アマビエは、よく似た妖怪『アマビコ』の誤記ではないか?という説もあるそうですが…」

アマビコは『猿に似たる三本足』で、海中から出現し、豊作や疫病の予言の行い、
さらには姿を写した絵による除災という点で、アマビエとほぼ同種の存在と考えられている。

「疫病退散に効果がある、貼りもの…ねぇ。」
「海からきたアマビコ…海彦もしくは天彦。」
「『三本足』で『猿』で『鳥』な半人半魚…」
「同時に豊作も司る…へぇ~なるほどねぇ~」

こうしてキーワードを並べただけで、アマビエの正体がだいたい掴めてしまうのは、
四人で散々酒屋談義してきた成果…語り合ったことが、妄想ではなかった証拠だろう。


まず『半人半魚』と言えば、やはり人魚姫
月島と山口が独り暮らし×2(なんちゃって同棲中)だった頃に語った、王子様シリーズだ。
この人魚に繋がるものとして、月島と赤葦が寿司屋で考察したのが、海蛇ヒュドラだった。

「もうこの時点で…『蛇』と繋がりました。」
「海は、あの世。まつろわぬ者…死者の国。」
「『元々いた神』は、海から来て海に還る…一寸法師こと医療の神・少彦名もそうだよな。」
「間違いなく、アマビコは海彦…海から来た漂泊神として、蛭子神とも繋がりましたよね。」


そして、まつろわなかった元々いた神…蛇の使いが、『鳥』だった。
蛇と鳥の関係については、永田町〜虎ノ門〜新橋ぶらぶら後、焼鳥を食べながら盃を傾けた。

「鳥は鳥でも、ただの鳥じゃねぇ…よな?」
「三本足の…八咫烏。と同時に、猿です。」
「猿については、山口最愛のかなまら様…三猿でじっくり語ったよね。」
「かなまら祭では、『長い黒髪』が災厄を取り除く象形文字だって、話したよね~」

つまり、猿猴(神猿)を祀る日枝山王神社から…アマビエは海比叡もしくは海日吉になろうか。
ちなみに、猿猴(えんこう)はインコウ→井の子→川の子→河童…まつろわぬ妖怪の代表だ。


最後に、私の姿を描いた絵を見せれば、疫病から逃れられる…という話。
これと非常によく似たモノを、八咫烏の森から頂いてきたはずだ。

「六月晦日の、夏越大祓ですね。巨大な注連縄をまぁるい輪っかにした…茅の輪潜りです。」
「疫病等の罪穢れを蛇にかか呑みさせ、水に流してしまう…七夕の元となった神事だよね。」
「茅の輪飾りと共に、『蘇民将来子孫』と書かれた魔除け札(お守り)を貼っておけば…」
「疫病から逃れられる…まつろわぬ者の『睦(仲間)』として、攻撃されなくなります。」


珍妙な姿に見えるアマビエも、酒屋談義を通して考えると実に『そのまんま』であり、
正史ではなく『物語』としてしか騙り継げなかった、歴史の『真の姿』を象徴するように、
アレもソレも、コレでもか!!!というぐらいに、特徴を繋ぎ合わせた姿だと考えられる。

「ということは、アマビエ・アマビコの本当の姿、即ち、どういう存在かを知らないまま…」
「変な妖怪の絵が、疫病退散に何か御利益あるらしいよ~的なノリで、拡散しまくっても…」
「とてもじゃねぇが、『私の姿を写した』とは言えねぇ…名前も姿も変わりまくってるし。」
「何故そんな姿をし、何故そう呼ばれるのかを考えないと…単なる一方的な神頼みですね。」

自分達が祈りを捧げ、願いを叶えてくれと縋る神様は、一体どういう存在なのか?
考察とまではいかなくとも、せめて神に想いを馳せるぐらいは、してもいいんじゃないのか。
この『アマビエチャレンジ』は、酒屋談義の主要テーマをリアルタイムで体感した…
したくなかったけれども、やむを得ずしなければいけなくなってしまった『現実』と言える。


「正史よりは物語の方に、歴史の真実が正々堂々と描かれているかもしれない…」
「この点についても、歴史じゃなくてリアルタイムの現実を見れば、よくわかるよね~」
「コロナ騒ぎについての正史…官報や政府・厚労省等の『公式発表』が、信用できるのか?」
「統計も公文書も改竄しまくった実績アリ。反旗を翻す有識者達や、一般人の呟きの方が…」

後世、『真っ当な発言』や『庶民の嘆き』は、正史に残ることなく埋没し、消え逝くだろう。
残せるとすれば、何の権力(権威)的お墨付きもない、一般人の紡いだ『物語』という形だけ。
だが、コロナ騒ぎが未だ『歴史』ではなく、リアルタイムに生きている我々にとっては、
どちらが『現実の姿』か?だなんて、言わずもがな…特別語るまでもない『共通認識』だ。

「だから暗黙の了解は、『記録』として残りにくい。想うだけじゃ、誰にも伝わらないのに…
   一般人の記憶や想いは、残そうと努力しなければ…未来に繋いでいけないんだよ。」
「そういう意味でも、ドキュメンタリー映画等の文化・文芸の場を、絶やしちゃいけねぇな。
   映画館や本屋さんが、コロナ騒ぎで絶滅すれば…『現実の姿』を残すのは至難の業だよ。」
「未知の疾病に怯え、疑心暗鬼になって他人を傷付け、貢献してくれた人達までも差別した…
   神(医療従事者)を、災いに触れた『祟る者』扱いした歴史が、目の前に現れていますよ。」
「自分が実際に災厄を目の当たりにしないと、正史と物語の関係性…実感持てなかったかも。
   神々や巫女を恐れ奉り、蔑すんで封印し続けてきたことも、今まさに…痛感してるよね。」

できることなら、こんなカタチで『実感』なんて、したくなかった。
何の役にも立たない、酒屋のグデグデ…肴として愉しむだけが、幸せだったはずなのに。

「でもそれはもう…不可能だ。」


黒尾は最後に残ったアマエビを掴むと、一口だけ齧って皿に戻し、大きく息を吸った。

「以上の考察から、導かれるのは…」

『アマビエチャレンジ』の真意は、アマビエの絵を描いて拡散しまくることでもないし、
ましてや『正史』を編纂しうる権力者が、マスコットキャラとして使うようなもんでもない。

アマビエがどういう存在かを理解した上でそれを掲げ、自分達もアマビエの仲間だと宣言し、
正史には残らない『現実』や『想い』を、アマビエの旗印の下、物の語りとして伝えていく…

「まさに…『挑戦』なんだ。」

   いつまでも、庶民が黙ってると思うなよ。
   まつろわぬことを、よしとする者もいる。
   無謀?無防備?いや、そんなことはない。
   ちゃんと『物語』は、残していけるんだ。


「嫌なものは嫌と…僕は声を上げ続けます。」

嫌だ駄目だと言わない者は、口を封じられた…死者と同じですからね。
現実から目を逸らす者も、目を潰された奴隷と同じ…歴史的に、そう扱われてきました。
僕は死ぬまで延々と目くじらを立て、大文句を言い続けると…このアマエビに誓います。


「カラダもココロもアタマも…防備するよ!」

うがい手洗い三密回避。んで、三カ所程の親密なお気に入り店で経済を回し、閉店を避ける!
正しい知識を得て、不確実な流言や人を傷付ける飛語には、絶対に流されないようにする。
知識ナシ&考えナシも、マスクなしと同じぐらい無防備だもんね~っと、俺も誓います!


「自分にできることを…精一杯やりますよ。」

ちっぽけな庶民の俺達には、大したことや大それたことなんて、できやしません。
それこそ、無謀な挑戦なんて無理…できる範囲のことを、精一杯やればいいだけです。
自分を犠牲にしてでも…という過剰な正義感こそ、極端な自警団や電凸、曝しに繋がります。

たとえ小さな囁きでも、自サイトで想いを文字にするだけで…物語として残るかもしれない。
アマエビの尻尾ぐらいしか残らなくとも、地道に努力し続けると…誓います。

「俺達は、考察を…止めない。」


それぞれが一口ずつ最後のアマエビを食べ、TVに映るアマビエに深々と頭を下げると、
考察を怠り、無防備にならない…無謀さで誰かを傷付けたりしないと、固く誓い合った。




- 終 -




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ドリーマーへ30題 『19.無防備』

お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。


2020/05/08

 

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