仕置巣窟①







「やっと終わったな…」
「長かったですよね…」
「正直疲れましたよ…」
「ちょっとヤりすぎ…」


黒尾法務事務所の4人は、3階の黒尾・赤葦宅和室に布団を敷き、ゴロゴロ…
今日は、昨秋より週1ペースで行われている新習慣…『酒屋談義合宿』の日だ。

いつも以上に酷い明光からのムチャ振りにより、怒涛の三徹修羅場…
仕事そのものより、クライアントと明光の『記憶違い』に振り回された4人は、
忌まわしい修羅場(及び明光)の記憶を消し、昂ぶり迸る怒気を抑えるために、
『記憶喪失』に関する考察を、力尽きて寝落ちするまで行った。


その際、研磨先生からの御指示『クロをとことん甘やかしとく計画』に従い、
4人各々が記憶喪失になるという、それは甘い『ミニシアター』を創作したが、
好奇心と下心から湧き出たはずだったのに、意外とツボってしまい…
考察時と同じように、黒尾・赤葦宅和室に全員でゴロ寝合宿しながら、
『ミニシアター』4種を完成させるという、趣向を変えた酒屋談義を愉しんだ。

それが先日、4カ月ほどかけてようやく全て完結…正直、もうグッタリだ。
この期間に考察したことも含め、全部まとめて記憶を消したい気分にもなるが、
考察を途中で止めるのは、ウチのスタイルには合わない…心底気持ち悪い。

そんなわけで、考察から始まったのならきちんと考察でシメるべし!
『ミニシアター』はあくまでも例示的創作…『酒屋談義』として完結させる!
…と、相変わらずの億劫組織ぶりを発揮し、今週も4人でゴロゴロ集合した。


「この『ミニシアター』三昧を通して、4人で集まりたい症候群と言うか…」
「何だか妙〜な『ひっつきもっつき癖』が付いちゃったカンジがするよね~」

大して広い部屋でもないのに、全員180超の大柄な超体育会系野郎が4人、
普通に並んでもギッチリの中、一か所に固まるようにミッチリ引っ付き合う…
他所様にはとても見せられないし、正気に戻ったら自分も正視に耐えない姿だ。

「全員が冷静さを取り戻す前に…ヤってしまいましょう。」
「それがいいな。今回の総括的な考察…早速始めようか。」

黒尾の号令に3人は背筋をピシっと伸ばし、体育会系の良いお返事…
各々が創作した『ミニシアター』の資料を取り出し、シメの考察を開始した。



「今回の『ミニシアター』は、記憶喪失の原因4類型を例示するものとして、
   次のような4タイプを順次完成させていく…という方式を採用しました。」

   ①薬剤性…月島のケース (空室襲着)
   ②外傷性…山口のケース (月王子息)
   ③症候性…黒尾のケース (王姫側室)
   ④心因性…赤葦のケース (既往疾速)

「それぞれの『ミニシアター』の詳細に関しては、この後順番に見ていくが、
   4タイプに通底するルール…共通するテーマを、まずは確認しておこう。」

これは単なるシュミの創作ではなく、れっきとした考察の一環であったため、
一つ一つが独立した話だったとはいえ、そこには厳密なルールが存在していた。
そうでなければ、全体としてまとまった『酒屋談義』とは言えないからだ。


「まずは…全てが『小さ子譚』考察を中心に据えていたこと、だよね~」
「『よくある話』繋がりとして、『記憶喪失モノ』と『小さ子譚』をリンク…」

4人が大好きな物語考察…全話を通して『新・王子様シリーズ』になっており、
記憶喪失者の『相手方』を王子様(もしくはお姫様)と当てはめた上で、
『記憶喪失者本人よりも相手方が苦しむのではないか?』と、問題提起した。

「月島君が記憶喪失になり、相手方の山口君が『一寸法師』として苦悩する…」
「分解しちまえば、全部ワンパターン…雰囲気は随分違えど、本質は同じだ。」


同様に、全話共通となっているのは、
   ・『きおくそうしつ』の7字
   ・記憶と何かをWで喪失する
   ・『一寸先の闇』から出歯亀
   ・『カラダの記憶』への言及
   ・相手方目線のテーマソング

これらをケース毎に組み換えつつ、基本的には同じ構造を踏襲して創作した。
似たような話ばっかり…そうなるように予め設定していたのだ。

「そうでもしないと…4パターンも連続して作れないよね~」
「技量不足と想像力枯渇を、ルールの一言で誤魔化しただけ説もあるよね。」


これは単なる言い訳だが、世界中の物語や神話を俯瞰して見ても、
『小さ子譚』『語源譚』『異類婚姻譚』といった類型に分類できるのだから、
主軸となるテーマを同一とする話を創作することは、別に悪いことではない。

ただ、似たような『ド定番』を連続して作ると、作者も読み手も飽きてしまう…
そのため、枝葉の設定をいかに工夫し、モチベーションを保つかという点が、
創作で一番面白くて、同じくらいしんどいポイントなのではないだろうか。

この点は、一次作品よりも二次創作において、特にその傾向が強くみられる。
二次にオリジナティを求めるのは、そもそも矛盾しているという見方もあるが、
一次(公式)作品という大枠(ルール)の中で、枝葉を工夫するという意味では、
類型的な『○○譚』の物語を作るケースと、実は似ているのかもしれない。

「じゃあ、俺達が頑張ったのは…『HQ譚』の中の『女性向け譚』かな?」
「『月山譚』であり『クロ赤譚』かつ、『記憶喪失譚』という大枠だね。」
「ついでに言うと、エンディングはハッピー限定…『ハッピー譚』だな。」
「甘じょっぱいパウダーがクセになるお菓子みたい…あれも王子ですね。」


あぁ…黒尾さんがしょーもないコトを言うから、あの味を思い出してしまった。
オレンジと黄色の細長小判型王子様が、無性に恋しくなってしまった赤葦は、
布団からもぞもぞ這い出して台所へ向かい、王子と共に和室へUターン。
すると、3人は座卓を出して待機…万雷の拍手で赤葦と王子を出迎えた。

ターン王子の御供に、赤葦はハッピーとは一文字違いのホッピーも連れて来た。
『とび!うま!』というラベルに書かれた文字を、『飛び』『馬』にかけた…
箒で飛ぶ魔女と竹馬の話にちなんだ、驚く程しょーもないセレクトである。


ホッピーは、麦芽様清涼飲料水(ビールテイストの炭酸飲料)で、
冷やしたグラスに冷えた焼酎を入れ、ホッピーで割るのが一般的な飲み方だが、
赤葦は焼酎ではなく、別のベース…白ワインとホッピーを簡単に混ぜ合わせた。

「白ワイン!?風味があって、香りもいい…凄く美味しそうですね!」
「簡単なのに、ちゃんとカクテル…いくらでもイケそうですよね〜♪」

大蛇山口の『いくらでもイケる』程、アテにならない基準はない…
黒尾と赤葦は呆れ顔を見合わせ、柔らかく微笑みながらグラスを掲げた。




「準備ができたところで…1つずつ確認もとい、ツッコミ大会しましょう。」
「それじゃあ、改めて…4パターン無事完結、おめでとう!皆お疲れさん!」

黒尾の音頭に合わせ、乾杯!!と4人はグラスを軽やかに打ち鳴らし…
久々にリラックスした雰囲気の『酒屋談義』が、ようやくスタートした。




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「一番最初の『ミニシアター』は、ツッキーが記憶喪失になるケースだね〜♪」
「何と恐ろしいことに…いきなり『赤葦京治作』からスタートだったんだよ。」


いつもの『酒屋談義』は、話の流れが『サイン曲線』を描くことが多いため、
ラブラブなオチの一歩手前にあたる部分は、必然的に一番↓なネタになり…
4人のしんがりを担当する『赤葦のターン』が、最も↓方向になりがちなのだ。

「より正確に言えば、ド真面目な考察でシンミリしたトコから一転…
   『↓から↑にギュン♪』とイく、起承転結でいう『結』のとこだね。」
「いの一番にツッキーが『○起』しちゃって、俺がそれをズッポリ『承って』、
   黒尾さんがほらよっと『転がし』て…赤葦さんの『ケツ』でフィニッシュ!」





「4人という構成上、これは仕方ない部分もあってだな…」
「適材適所だと自覚してますから…どうぞお気遣いなく。」

そんな『↓から↑方向担当(専任)』な赤葦がトップバッターというだけでも、
今回のシリーズは異例中の異例…スタートから『っぽい話』になってしまった。


「烏野OB会で同期飲み比べ。酔い潰れたツッキーは記憶を失い…」

朝起きたら、幼馴染と共に裸で同衾。昨夜僕達は、一体ナニをヤって…!?
泥酔した勢いでコトをイタした記憶を失った挙句、大混乱の果てにヤり逃げ。
実にド定番なよくある話…薬剤性記憶喪失に陥った、サイテーな月島蛍の話だ。

「オトナなら誰しも心当たりのある、封印したい記憶の一つ…
   『酔って記憶トんじゃいました♪』という、実に身近な記憶喪失ですよね。」

だから俺は、月島君がフツーにサイテーな所を何とかカモフラージュすべく、
『懐古(レトロ)調酒屋談義』というステキな舞台設定を構築したんですが…

「ざっと数えて6000字程度しか持ちませんでした…無念です。」

憧れだったバー経営&探偵事務所も実現できた、最高の舞台設定だったのに、
なぜか『いつも通り』の雰囲気に…これは名探偵でも永遠に解けない謎です。
どんな設定でも、酒屋談義は酒屋談義でしかない…という証明になりました。


「自分が失った記憶を取り戻そうと、ツッキーは猫&梟探偵に依頼…
   その過程で、記憶の本質について一つの見解を示したんだよな。」

同じモノを見ていても、同じように見えているとは限らないし、
見たモノをどう捉えるかも人それぞれ…同じ世界を見ている人は存在しない。
長年連れ添った夫婦でも、腐れ縁の幼馴染でも、見ている『世界』は全く違う。

「自分が見聞きし、経験したモノの集積が『記憶』…ということは、
   誰一人として同じ『記憶』を持っている人はいないってコトだね。」
「その記憶は、自分がどう捉えたかという判断や認識…主観的なものだから、
   客観的事実とズレて当然…ただの『思い込みの積み重ね』でしかないんだ。」

その激しい『思い込み』と『記憶違い』の結果として、
『10年超の片想い×3人』と、『ズレまくり幼馴染観×1人』の計4人が…
『妖精化寸前の童貞×4人』という、筋骨隆々な超体育会系集団が出来上がる。


「『記憶』は『共通認識』ではない…実に曖昧な存在だということだな。」
「その存在すら不確かな場合もある…それが『一寸法師』のお話ですね。」
「そして、記憶の有無は『記憶力の差』にも、大きく影響されるもので…」
「共通認識…相互理解には、その差も乗り越えなきゃいけないんだよね。」

どのくらいの個体差と認識差があるか、ここで例示がてら確認してみましょう。
そうですね、一番わかりやすく差が出るものは…やはりコレでしょうか。

「本当は同じ『事実』を体験し、見聞きしているはずの2人×2組…
   皆さんの『初めて。』で、一番記憶に残っているコトをお答え下さい。」

考えすぎては、相手への『ご機嫌取り』になってしまい、面白くないですから…
…はい!一斉に大絶叫っ!!

「直腸内与薬手順の最後は何だっけ?」
「トロ~っとした天津飯が食べたい!」
「風呂は『一緒に入る』が正解だな!」
「常夜灯は黄色?それともオレンジ?」


こっ…これ以上の考察(詮索)は不要かつ危険ですよねっ!?
それでは、ここからは『ミニシアター』詳細に関する補足の時間にしましょう。

4人は誰とも目を合わせないように、視線を虚空にバタバタと泳がせ、
赤葦の提案に黙ってコクコクと頷いた。



*****



<タイトルについて>

『空室襲着(くうしつおそき)』は、誰も居ない部屋に、襲着(上着)だけが残る…
一義的には、月島がヤり逃げした朝の風景を現したものであり、
副次的に、山口が隠れていた『一寸先』を開けた時の情景でもあった。

「そして同時に、『きおくそうしつ』のアナグラム…並び替えです。」
「以後、シリーズ全てが同じ…7文字並び替えの四字熟語なんだな。」

実にどうでもいいルール…だが、ここに拘るのが構想初期の楽しみの一つ。
3日程かけて、30種ぐらいのアナグラムを作成し、大半がボツった。

「『キツく襲うし』や『奥突きしそう』とか、
   『記憶喪失。(まる)』までイれて、『キツそう奥締まる(。)』とか…」
「どうして↓方向ばかりになるのか…完全に『蛇足用』サブタイトルだよね。」


<記憶力の差について>

今回、山口がズバ抜けた記憶力の持主であるという設定…
忘れることが前提であるはずの記憶を、『喪失できない』状態だとした。
『記憶の個体差』をはっきり示すため、このような条件設定を行ってみた。

一見ファンタジー色満載な『特殊能力』のように感じるかもしれないが、
現実的には、異常としか思えない記憶力の持主など、そこらじゅうに居る。

一度会った人の顔・名前は忘れない…接客のプロ達。
1000条を越える民法の、条文の文言を一字一句暗記している…法律家。
全シリーズ登場モンスターの、素材獲得率を把握している…ハンター。
自分が立った打席の、全配球とコースを覚えている…元野球部の親父。
特に仕事や趣味が絡む事柄に対して、記憶力は偏重される傾向があるようだ。

「僕は、2018年のHQ!!カレンダーに描かれている全57名のうち、
   名前がわかるのは半数以下…顔と名前を覚えるのが極端に苦手なんだよね。」
「ツッキーの場合、それは覚える気がサラッサラないだけだよね。
   自分に無関係なことには、貴重な記憶力は一切使わない…脳って凄いよね~」


<『一寸先は闇』について>

小さ子譚 → 一寸法師 → 一寸≒3.03cm → 平均的な建具(扉)の厚さ。

「…以上のような思考の流れから、『一寸先の闇』が意味するのは、
   『建具を隔てた誰も居ない空室(隣室)は真っ暗』であると結論付けました。」
「モロに建築系な赤葦っぽい考え…それが、隣室から出歯亀ならぬ、
   『誰かが盗み聞きする』っていうパターンに、落ち着いたってわけだよな。」

ちなみに、『舌先三寸』だと10cm弱…平均的な木造住宅の壁の厚さになる。
そして、三寸と言えば発見当時のかぐや姫と同じサイズである。

「壁に耳あり障子に目あり…これを基準にすると、大きさが想像しやすいね~」
「壁にかぐや姫あり障子に親指姫あり…これ以上想像するの、やめとくよ。」


<『W喪失』について>

これはもう、語るまでもない。
今回は、『記憶』と『童貞』をダブルで喪失…という、ロクでもない話だった。
この考察をシリーズ最初に持ってくるあたりが、実に赤葦っぽい構成である。

「とは言え、『前戯とは何か』等を考察した時もそうだったけど…」
「『童貞』についても、そんなに知らなかった…知った気になってただけ。」

当然ながら、童貞についても心から大真面目に考察をしたわけだが、
童貞のくせにウマくヤろうなんて甘い考えが、そもそも童貞っぽい…ではなく、
『童貞は手続的記憶を持っていない』という点が、ここでの主題である。

「手続的記憶…つまり『カラダの記憶』を、一番わかりやすく説明しました。」
「ヤったことねぇならヤれねぇ…妄想と現実がこれほど違うもんもねぇよな。」

「おやおや黒尾さん。妄想の俺と現実の俺…そんなに違いましたか?」
「それは、お前のカラダが一番記憶してるはず…忘れちまったのか?」

「あーこれ、返答によってはイロイロと喪失しちゃうやつだよね~怖い怖いっ」
「その辺で止めとかないと…『今晩』と『明日朝』の機会をW喪失しますよ?」


<一寸法師と少彦名について>

大国主と共に国造りをした少彦名は、一寸法師のモデルにもなった偉大な神だ。
この酒と種の神は、一体何を表しているのか…という考察を行った。

「いつもながら思うけど、神話等の物語を『↓方向』に捉えるのって…アリ?」
「いや、物語だからこそ…人間や社会の『本質』を表しているかもしれない。」

いわゆる『正史』と呼ばれるものは、勝者のみが残すことができるもの…
事実を都合良く解釈し、後世に伝えられる『歴史編纂』こそが、権力の証だ。

そして勝者の記憶は、敗者や第三者から見た事実とは大きく違う…
歴史(正史)も『共通認識』とは、程遠いものと言わざるを得ないのだ。


「『鬼(おに)』は、死者を意味する『隠(おん)』にも繋がる言葉なんだが、
   鬼の古訓(昔の読み方)は、『モノ』だったそうだ。」
「死などの穢れを避ける、『物忌み(ものいみ)』という言葉もありますし、
   『元々いた神』即ち鬼達の主の名が…大物主です。」

そしてもう一つ、皆がよく知っている言葉も『鬼』を指していることがわかる。
神話や伝説などの、『正史』ではないもの…歴史とは認められないものだ。

「『物語』は本来…『物』と言われた者達の語り、ってことなんだね。
   だから、『人ならざるもの』の話が多い…それが当たり前だったんだ。」
「人の記憶と同じく、都合よく改竄されるのが大前提の正史よりも、
   むしろ物語の方が、事実や本質を捉えているかもしれないんだよ。」

堂々と言うのが憚られること…『忌むべきこと』を諷刺や歌で暗喩するのは、
「これは物語…創作です。」という建前で隠された事実を語る…常套手段だ。


「『創作』という建前で本音を語る…この『ミニシアター』もそうだよな。
   だから、神話や物語に『↓方向』のネタが隠されているのも頷ける。」
「人間の本質の中核にあるものなのに、堂々と語るのは少々憚られるもの…
   その代表こそ『エロ』に関するお話…生命に直結するネタですよね。」

「たった二千年くらいで人の本質は変わらない…昔からエロ大好きなんだね〜」
「とは言え、いつも『↓方向』の考察に落ち着く言い訳にはならないけどね。」


<テーマソングについて>

補足事項とまではいかないが、あと一つ挙げるなら、テーマソングだろうか。
今回、記憶喪失する月島の相手方・山口の心情を表すものとして選んだのは、
BONNIE PINKの『Surprise!』という歌だった。

   自分のためにただ
   生きてるわけじゃなく
   あなたのためにただ
   尽くすわけでもなく

   どこへ行けばいい?
   何を望めばいいのだろう
   とても自由なのに

「歌という芸術も、物語と同じ…直接言えないコトを表現する技法ですよね。」
「『言葉になる前の想い』という意味では、記憶にも近いかもしれないよな。」

「『あなたを越えるほど もっと変わってしまいたい』ってとこが、
   実に一寸法師っぽいというか…僕は一寸法師的サプライズなんて御免だよ。」
「『私の○○が…出し~ あなたの手のひらを 流れ出したけれど~』なんて、
   実に少彦名っぽいな~って、俺はこっそりムフムフ♪したよ~」

同じ歌から感じるもの、見える風景も、人によってここまで違う…
人間の感性と脳(記憶)は、サプライズの宝庫では?という例示でもあった。



*****



「ざっとだけ見ましたが…この程度でいいですよね?」
「あまりツッコミすぎると…イロイロ出ちまうしな。」

これまで、考察したことを踏まえて『ミニシアター』を作ることはあったが、
自分達を題材にした『ミニシアター』について、再度考察することはなかった。

初の試みとなった今回の補足(専門用語でネタバレ)を通してわかったのは、
『人によって見える世界は全然違う』という、主題そのものではなかろうか。


「作者…今回は赤葦さんが、何をどう考えて物語を紡いだのかを聞いて、
   読み手だった俺達には、凄く新鮮で…サプライズの連続でしたよ~」
「きっと世界中の物語も、作者の意図を正確に汲むことは不可能…
   だからこそ、読み手には神話や伝説を自由に考察する楽しみがあるんだね。」

そして、この楽しみを追求したひとつの形が、『二次創作』かもしれない。
手持ちの情報(公式な一次作品)をどう捉え、そこから何を想像していくか…
『考察』と『二次創作』の本質は、実際にはほとんど変わらないのだ。


「同じものを見ても、そこから何を想像し、どう記憶に残していくのか…」
「それは人それぞれ…『幸不幸』と同じで、捉え方次第ってことだよね~」
「『月山』を『公式カップル万歳!』と捉えるか、『ありきたり』とするか…」
「『クロ赤』は『マイナー』か、『妄想の余地満載♪』か…それと同じだな。」

結論としては、『どちらか』ではなく、『どちらも』オイシイだけである。
考察も妄想も、違う意見や記憶があるからこそ、楽しくてたまらないのだろう。


「ではそろそろ、今回の『シメ』を…」

赤葦に促された黒尾は、指に付いたハッピーなパウダーをペロリと舐め取ると、
3人揃って頬に付けていたパウダーを、笑いながらその指で順番に拭った。

「人は皆、違うが…同じものもある。」

物語や歌から感じ、記憶するものは違うけれど、『共通認識』だって存在する。
それこそが、考察や妄想の『原動力』となるもの…
サプライズでも何でもなく、ごく当たり前の欲求だと思うんだ。

考察から始まった『記憶喪失』に関する『ミニシアター』だったから、
きちんと『補足』という考察でシメるのが、俺達の…『酒屋談義』の流儀だ。
だとしたら、もう一つの方も、その流儀を徹底すべきなんじゃないだろうか?

4人の『共通認識』…一斉に叫べ!!


「『ミニシアター』のシメも…必須!」
「続き…エンディング後が気になる!」
「補足があるなら…蛇足も欲しいっ!」
「シリーズ最後は…『↓方向』です!」



    →空室襲着⑥ (月山編)*へ

    →空室襲着⑥ (クロ赤編)*へ





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※記憶喪失に関する考察 →『億劫組織
※クロをとことん甘やかしとく計画 →『大収穫!研磨先生
※幼馴染でも同じ『世界』は見ていない →『結意之夜
※『初めて。』の記憶 →『三路分岐』『姫様豹変
※2018年HQ!!カレンダー →『後背好配
※『前戯とは何か』等の考察 →『無限之識


2018/02/13 

 

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