※写真や考察内容の一部に、オトナ向けモノがございます。ご注意下さいませ。



    同行四人(中編)







「あの喧騒は…」
「何だったんだろうな…」


一週間前の4月1日、僕の咄嗟の思い付きにより、四人で川崎大師へ参拝した。
新年度のスタートにイースター、そして花まつり週間も重なるという偶然の上、
お大師さんのごく近所で、憧れの『かなまら祭』にも遭遇という奇跡が起きた。

本やネットの情報でしか知らなかった、世界的に有名な『奇祭』なんて、
「面白そう♪」「できればイってみたいな~」程度の好奇心しかなかったのに、
まさかこんな近場で、そんな超有名なお祭りをしてたとは…心底驚いた。

あのとんでもない人の波と、街中を包み込む熱気を自分で体感していなければ、
未だに『巨大な男根が練り歩く祭』の存在なんて、信じられなかったかも…
(だって、偶然にも4月1日…ウソでしたオチのネタにピッタリだし。)


あれから一週間…今日は4月8日。
お釈迦様の誕生日こと『花まつり』本番に、僕達は再び川崎大師へやって来た。
先週も朝早くに到着していたけど、今日はそれ以上に早く…朝8時半に到着。
『花まつり』当日だし、先週の大混雑の記憶も鮮明だったこともあり、
早めに駐車スペース(と、僕専用の高級おセレブ箱ティッシュ)を確保し、
混雑前に金山神社へと向かうことにしたのだ…が、予想は大きく外れた。

「花より団子、とは言うけどさ…」
「花より男根、ってことなんだね…」

川崎大師の方には、定番の屋台の準備をしている人がチラホラいたり、
花まつりでお茶を点てるイベントのために来ている、お着物のご婦人達や、
地域の学校の茶道部さん達が、境内を歩いたり写真撮影をしているものの、
大師を離れ駅方向へ足を運ぶと、駅前にもほとんど人が居なかったのだ。

そして、先週は近付くこともできなかった若宮八幡宮…金山神社に至っては、
僕達以外の誰も居おらず、社務所に宮司さんらしき人陰が見えたような…?
あまりの激変ぶりに、やっぱり先週のは夢だったのかとすら思ってしまった。


祭の時だけ大賑わい…僕はそれで全然構わないと思う。
神社やお寺の経営は厳しいかもしれないけれど、いつも『ハレ』の方が問題…
大多数の『ケ』の日は、静かな『神域』であるべきじゃないかなぁと思う。

人の気配が少なく、静謐とした社寺仏閣をじっくり拝観しながら考察…
これこそが、僕達の求める『酒屋談義』の基本的スタンスだったから、
「一週間後に再訪する」という黒尾さんの作戦に、皆が文句を言わなかったし、
その作戦大成功を、赤葦さんが(三人を代表して?)褒めちぎっておいた。

先週の道祖神愛好家こと、山口&赤葦さんの大フィーバーっぷりは、
僕が思わず涙してしまうレベル…二人も少しはそれを反省しているらしく、
今日はいつも通り控え目に、黒尾さんの後ろを大人しくついて歩いている。



若宮八幡宮・境内


まずは主役たる若宮八幡宮に参拝。
黒尾さんの二礼二拍手一礼に合わせ、全員で脇目もふらず神妙に頭を下げる。
それが終わってから、ずっと我慢していた『脇目』を思いっきりカッ開き…
走り出したい衝動を必死に抑えながら、「ゴクリ…」と喉を鳴らした。

「凄ぇ!の…一言だな…っ」
「くっ…黒かなまら様…っ」



金山神社・社殿


さすがは鉱山と鍛冶の神らしく、いわゆる『神社』っぽい建物とは一線を画し、
鋼鉄を思わせる黒い鉄板に覆われた、一辺が3m程の正六角形の社殿だった。
社殿内部は、祭の時以外は開放されないらしいが、格子窓から中を覗き込むと、
高さ8mぐらいの吹き抜け構造で、真ん中に鍛冶場が設えてあるのが見えた。

何よりも注目すべき…いや、どうやっても目に飛び込んでくるのは、
社殿脇に威風堂々と鎮座し、眩しく艶光る『黒かなまら様』の御姿(雄形)だ。

「新宿の花園神社とか、道祖神を祀ってる神社はいっぱいあるんだろうが…」
「大抵、鳥居の上や本殿裏に隠して…こんなに表!!な男根は珍しいですね。」


そして社殿前には、絵馬や木製男根等を奉納する『絵馬殿』が立てられていた。


絵馬殿


「子宝を切実に願う絵馬…そこに描かれた『絵』を見てみろよ。」
「男根以上に目立つのは…『桃太郎』と『かぐや姫』ですね!!」

子どものいなかった老夫婦。二人の元へやってきた、神の子…
四人で語り合ってきた『小さ子譚』と、こんなところで繋がるとは。
いや、太古から子宝…子孫繁栄を人々が願い続けてきたからこそ、
かなまら祭を始め、各地の男根(道祖神)信仰がずっと大切にされてきたのだ。

そして、国家繁栄の象徴が子宝と製鉄だったから、この二つは固く結び付き、
金山比古&金山比売の夫婦神は、両者を共に守る神になったのだろう。

その証拠とも言えるもの…子宝と製鉄の融合を見事に表すものが、
絵馬殿のド真ん中に置かれた、鍛冶や金属加工に用いる作業台…『金床』だ。



絵馬殿・金床


「こちらの『鉄かなまら様』も…大層御立派!!な男根ぶりですよね。」
「確か、金床の先っぽの尖った部分を、角もしくは『鳥口』と言うんだよな。」

元々いた神…『蛇』と呼ばれた製鉄の民や、その使い達が『鳥』だった。
元は熊野の神だった八咫烏、長脛彦をはじめとする土蜘蛛の首領が八十梟帥…
『鳥』の名が付く者達は、タタラに深く関わる存在だったと思われるのだ。


また蛇と繋がる鳥の中には、お酒(医療)に関わるものもいた…笹に雀、だ。
『蛇=製鉄=鳥=酒』を示す証拠も、ここ金山神社にしっかり残っていた。

「毎年10月第三日曜日に開かれている『水鳥(すいちょう)の祭』…だな。」
「水はさんずい、鳥は酉…水鳥とはすなわち『酒』のことですからね。」


大師河原酒合戦三百五十年記念碑


『水鳥紀』という江戸前期の仮名草子(菱川師宣挿絵)によると、
武州川崎の名主・大蛇丸底深に、江戸大塚の儒学医・地黄坊樽次(作者)が、
酒合戦をしかけ、三日三晩に渡って飲み比べた…という史実に基づき、
川崎側と江戸側に分かれ、川崎大師から酒合戦しつつ街を練り歩き、
若宮八幡宮に到着して和睦…という、実に朗らかで、楽しそうな酒祭である。

「川崎の大蛇丸側が15名に対し、江戸の樽次側が17名で競うそうです。
   この『人数の差』が、若干気になりますが…リングネーム?が秀逸ですね。」
「ウチの大蛇様…山口が出場したら、冗談抜きでMVP取れそうじゃねぇか?
   飛び込み参加も可能、利酒コーナーもある…酒マニアの赤葦垂涎の祭だな!」


若宮八幡宮や川崎大師等、古くから残っている社寺仏閣の境内には、
再開発や道路拡幅に伴い、行き場をなくした石碑や道標だけでなく、
小規模な地主神社やお稲荷さん、お地蔵さん等が集まり、同居することが多い。

このことは、時の移ろいや無常観を感じるのは勿論のことだが、
地域の歴史が一同に会することにもなって、逆によく見えてくる場合もある。
同じところに集まるのには、それ相応の理由…繋がりがあるはずだからだ。

「僕達が集まって『同行四人』になり、互いに繋がり合ったように…」
「きっと若宮八幡宮と金山神社にも、深い繋がりがあるんだろうな。」


…おかしい。明らかにおかしい。

先週に引き続き、山口と赤葦が喜びそうなネタばかりだというのに、
若宮八幡宮にお参りした直後、金山神社前で「ゴクリ…」と唾を飲んで以降、
二人は黙ったまま…どころか、黒尾達からも目を逸らし、聞こえないフリ。
まるで猿田彦…庚申講の『三猿』みたいな、気味の悪い『イイ子』っぷりだ。

「おいツッキー、あいつら…一体どうしちまったんだ?
   この神社と同じで、先週の『お祭り騒ぎ』との差が激しすぎじゃねぇか?」
「もしかすると、ここでエっちゃんに…エリザベス神輿に会えなかったことが、
   実は結構ショックだったとか…静かすぎて逆に怖いですよね。」

   まさか俺ら、気付かねぇうちに…
   怒らせたりしてません…よねっ!?

やけに静かな奥様に、大抵の旦那様が抱く疑念…黒尾達もその例外ではなく、
上擦る声で「おおおっ、俺らも『和合』をしっかり祈っとこうぜっ!」と、
黒尾はテカテカ光る『黒かなまら様』の頭を、柔らか~く優し~くナデナデし、
月島は『鉄かなまら様』の脇に箱ティッシュを置き、わざとらしく鼻ちゅーん!
…しながら、チラリと奥様方を見ると、二人が猛然とこちらへ突っ込んで来た。


「や…止めて下さい!恥かしい…っ!」
「もうっ…見てらんないよ…っ!!!」

黒尾さんと『黒&鉄かなまら様』のツーショットとか…シャレになりません!
傍にタってるだけで生々しさハンパないのに、ナデナデ…羞恥プレイですか!?
それか、先週俺達が調子乗り過ぎたことへのお仕置き…放置プレイでしょうか?

ツッキーはツッキーで、真顔でおカタい考察しつつ『男根』連呼しまくりとか…
イケメンでツンデレでムッツリな分、破壊力抜群なんだけどっ!!
そんでもって、ずっと箱ティッシュ抱えてるなんて…ヤらしいにも程があるよ!

「俺達二人が、社務所で御朱印等を頂いてきますから…」
「黒尾さん達は、ソコで大人しく…待ってて下さいねっ」

真っ赤に染まった顔で俯き、小鳥のように小さく早口で囀ると、
二人はバタバタと足音を立てながら、社務所へと飛んで行った。


残された旦那衆は、その場にガクリ…
膝が落ちるのを誤魔化すべく、ティッシュで顔を覆い盛大に鼻を啜り上げた。

「ちょっ、今のはズルいでしょ…っ!」
「予想外の恥じらいは…卑怯だろっ!」

先週はあれだけ『かなまら様』に大フィーバーしまくっていた二人が、
祭が終わり、普段の冷静さを取り戻した途端、もじもじ恥じらうなんて…
なんだよそれ、無茶苦茶…可愛い過ぎだろウチの奥様はっ!!!


   最高の伴侶をありがとうございます!

黒尾と月島は、金山神社に向かって深々ーーーー!!と、全力でお辞儀…
緩む頬を必死に引き締めながら、心の中で和合の神への感謝を大絶叫した。




***************




社務所で御朱印等を頂いた後、四人は再び川崎大師駐車場の方へ戻り、
その更に奥…芝生広場やプール等がある大師公園にやって来た。
軟式野球場では、ちょうど社会人リーグらしき試合をやっており、
人のいなかったレフト側の観覧席に並んで腰掛け、観戦しつつ考察を始めた。

「この公園、先週のお祭りのメイン会場だったみたいですよ。
   『ウタマロフェスティバル』という、そのままズバリなネーミングです。」
「ウタマロって、野球部とかの屋外競技必須アイテムの…超強力洗剤だっけ?
   俺達バレー部は泥汚れがないから、ウタマロより汗臭対策用柔軟剤だけど。」




「違うだろ。『ウタマロ』って言やぁ、喜多川歌麿…浮世絵師だよな。」
「海外では浮世絵…春画をウタマロと言い、転じてアレの隠語ですよ。」

外国人観光客には、一体ナニのフェスティバルなのか一発でわかる…
スペシャルにミヤビでフーリューな、クールジャパン的ドキワクネームだ。


「どうやら、ウタマロ石鹸も全くの無関係ではないみたいなんだよ。」

繋がりはコレ…と、月島は小脇に抱えていた箱を天に掲げた。
ウタマロの創業者は元々、京花紙…ティッシュを作っていたらしいが、
大の日本版画好きで、そのティッシュを『広重』という商標で販売していた。
その改良版『歌麿』が大ヒット…同ブランドとして石鹸の販売も始めたそうだ。

「かなまら様とティッシュが、春画…ウタマロで繋がったってことか。」
「切っても切れないカンケー…絶対に切らしちゃいけないモノですね。」

ちなみに、歌麿の春画用ペンネームは『不埒茎』だそうなので、
『アレ=UTAMARO』になったことは、御本人にとっては本望かもしれない。


山口と赤葦の様子も、ようやくいつも通りに戻って来た。
黒尾と月島はコッソリ安堵のため息をつき、取り置いていた話題に引き戻し、
二人に若宮八幡宮と金山神社の繋がりについて、意見を求めてみると…
ごくごくアッサリ、ストレートな答えが返ってきた。

「若宮八幡宮の『若宮』は、八幡様にとっての若宮…つまり、ムスコです。」
「八幡様は第15代応神天皇。ムスコは第16代仁徳天皇…祭神だったよね?」

仁徳天皇と言えば、別名が大雀命や大鷦鷯(おおささぎ)天皇で、
日本一有名な前方後円墳…陵の名も百舌鳥耳原中陵という、鳥づくしの人だ。


百舌鳥耳原中陵(仁徳天皇陵)


「雀も鷦鷯(ミソサザイ)も、百舌鳥(モズ)も、全てスズメ科の鳥ですね。」
「雀=酒。金山比古達と同じ、持統天皇(第41代)より前の『元々いた神』…」

仁徳天皇の皇后・磐之姫(いわのひめ)は葛城氏出身で、別名『葦姫』だ。
二人の間の子が第17代履中天皇、その孫が不即位天皇だった…飯豊青皇女。
昨夏、仙台バカンスの際に語り合った、青衣の女人…飯豊つまり梟の女帝だ。
また、葦姫の兄弟が葦田宿禰、その娘が飯豊青皇女の母『黒媛』だった…
『黒』と『葦』が妙なところで繋がるなぁと、その時も随分驚いたものだ。


「実は、仁徳天皇の妃にも『黒比売』という女性が存在するんですよ。
   こちらは吉備海部直の出身…今度は先日の桃太郎考察に繋がります。」

つまり仁徳天皇には、この時代の有力者だった、葛城と吉備出身の奥様がいた…
そのどちらもが、『黒』という名の女性に繋がっていることになる。

「これは単純に、『娘を嫁にやった』というだけの話では…ありませんよね。」
「『黒』とは鉄…各地の鉱山・製鉄利権が中央に簒奪された、歴史的証拠だ。」

なお、吉備海部が大和朝廷に協力し始めるのは、応神・仁徳天皇の時代から…
桃太郎こと吉備津彦が吉備を『平定』した後に、大和に仕えるようになった。
金山神社の絵馬だけでなく、若宮八幡宮の祭神も桃太郎に繋がるのだ。


「仁徳天皇にはもう一人、俺達が考察した女性と絡み合う妃がいるよ。
   日向髪長姫…『ラプンツェル』の時とは、違う髪長姫だけどね。」

あの時語った髪長姫は、藤原不比等の養女になった、宮子姫…
持統天皇の孫・軽皇子(文武天皇)の皇后で、聖武天皇の母となった女性だ。


「なぁ、この『髪』の名を持つ女性も…『黒』と似た出自なんじゃねぇかな。」

黒尾は片目にかかる長めの前髪を、指先でくるくる巻き取りながら、
これは俺の、ただの想像なんだが…と前置きし、静かに語り始めた。

「『髪』の字は、長髪の人の象形と、長く流れる豊かで艶やかな髪の象形…
   そして、『犬を磔(生贄)にし、災厄を取り除く』象形で構成されるんだ。」

そこから、長くなったら取り除かなければならない『かみ』という意味になり、
同じ音の『神』に通じるものとして、髪は生命力の象徴や、命の化身とされた。
だから髪を使った呪術も多く、髪を飾る簪や櫛も『化身』とされてきたのだ。

「神と繋がる髪…櫛と簪。災厄祓除の呪術を行う女性。もうお馴染みだな。」
「神に捧げられた…巫女ですね。最も簡単な『厄落とし』も、散髪でした。」


自らの大事なものを捨てて、災厄から逃れる…厄落とし。
男女問わず、髪が非常に大切なもの…自分の分身だという感覚は、よくわかる。
日向(現在の宮崎県都城市高城付近)を治めていた『元々いた神』も、
黒比売達と同じように、大切なものを差し出し、災厄を逃れたのではないか…?
深く考察するまでもなく、ごく簡単に想像できる話だろう。

「『かみ』は、長くなったら…力を持ったら、取り除かなければならない。
   『髪』の字が持つ意味こそが、為政者達の本音のような気がするんだ。」

製鉄技術という大きな力を持った『蛇』や『鳥』…神と繋がる女性達。
彼女達は、とても『和合』とは言えない結婚を強いられたからこそ、
『夫婦和合』と『子孫繁栄』を叶える存在となったのではないだろうか。

「仁徳天皇を祀った若宮八幡宮と、金山神社が同じ場所に鎮座していることが、
   逆に『和合』を印象付ける…あそこが『繋がりの場』になったのかもな。」


いつも通り、しんみりとした空気で考察が終わる。
それを吹き飛ばすように、黒尾は盛大にくしゃみ…月島の方へ手を伸ばしたが、
黒尾の『いつものパターン』を察した月島は、慌てて身を避けた。

「だ…ダメです!せっかくイイ具合にピッチリ纏まったんですから…
   それを台無しにするようなオチは、絶対やめて下さいっ!!」

大事な『かみ』が入った箱を、黒尾から必死に遠ざけた月島は、
このネタじゃあ、泥汚れも厄も考察も、全然オチませんから…ねっ!?と、
奥様方には聞こえないように、サイテーな『ウタマロ』オチを阻止した。




***************




川崎大師に戻り、気に入ったお煎餅や釜上げわらび餅を購入してから、
四人は車に乗って出発…道中のファミレスで早めのお昼ご飯をもりもり食べた。

朝早くから行動すると、昼過ぎには心地良い疲れと共に帰宅(昼寝)できる…
人の多いところや時間をとことん避けまくる、個人事業主の習性である。


ピンク、白、ピンク、白…
交互に車窓を流れる街路樹のハナミズキと、左右交互に流れ落ちるハナミズに、
後部座席の山口と月島がうつらうつらしはじめた頃…赤葦が小さく声を上げた。

「黒尾さん、ルートを外れていますよ?さっきの信号を右折…」
「いや、こっちでいい。もうすぐ目的地に…着くはずだから。」

   今日は『花まつり』だからな。
   『花園』に寄って帰らねぇか?

黒尾はハンドルを握る左手人差し指を上げ、前方のとある看板を示した。
それは、お釈迦様が座ってそうな花の名が付いた『お昼寝』スポットのもの…
赤葦は「ぁっ♪」と小さな声を零し、頬を染めてコクリと頷いた。


「…って、ちょっと待って下さい!そこにイくのは大賛成なんですけど…」
「まままっ、まさか黒尾さん、ホントに『同行四人』する気じゃ…っ!?」
「イく時は四人一緒とか…さっ、さすがに僕も、それはちょっと…っ!!」

後部座席でふわふわ〜っと、一足先に意識をトばしかけていた月島達も、
黒尾が『蓮の花園』に車をイれたのに気付き、慌てて飛び起きてわたわた…
いくら四人が仲良しで、死出の旅も一緒にイってもイイな〜と思っていても、
ゴクラクの方へ『同行四人』…4Pなんてのは、たとえお祭りでも無理がある。


「ばっ…馬鹿っ!よよよっ4Pなんて、するわけねぇだろうがっ!」

いくら本日の主役…ウタマロが『不埒茎』だからって、それは不埒過ぎるし、
これが先週の『かなまら祭』直後でも…『4月1日ネタ』でも多分アウトだし、
泥汚れもキレイにオチるからって、春らしくお外で…ってのも、法的にダメ!

先週も結局、ウチに帰ったらワレにも返って、かなまら飴で…なんてできずに、
未だ『縁起物』として飾ってるだけで、全然『フェスティバル』してなくても…
だからって『春の4P花まつり~かなまら様と一緒』は、明らかにヤりすぎだ!


それに、ウタマロ…春画が具現化したような艶を放つ、赤葦の姿を見たら最後、
仮に二人に『黒かなまら様』と『鉄かなまら様』がそれぞれ降臨したとしても、
一瞬でゴクラクに昇天…『ピンクのエっちゃん』以上のインパクトだからな!?

何があっても、『春爛漫♪』な赤葦の姿を俺以外に見せるわけにはいかねぇ。
しっとりした汗に濡れ、ぴっとり額に張り付いた髪の毛一本たりとも…
たとえ『かなまら様』相手であっても、絶対に見せないからな。

「俺は、大切なお前達を…俺の独占欲や嫉妬心で破壊したくねぇんだ。
   だから、頼む。俺の中で眠る『黒&鉄かなまら様』を…起こさないでくれ。」


じゃ、まぁ、そういうわけだから…3時間後に車で集合ってことでいいよな?
その間、それぞれの夫婦で、考察しきれなかった部分の蛇足をヤっておこう。
そうだな…ウチが『ウタマロ』で、ツッキーの方が『猿田彦』関連になるか?

四人が一斉にナカに同行するのも、ちょっとアレだから…俺からまず入るな。
その後一人ずつ順次『四人時間差攻撃』で…出てくる時も同じ作戦でな。

「素敵な『花まつり』を…お互い楽しもうな!」

黒尾は晴れやかな笑顔でそう言うと、颯爽と車を降りて、花園へ入って行った。



「もっ、もしかして…赤葦さんよりもずっと、黒尾さんの方がヤキモチ妬き…」
「花も恥じらう…恥じらいを感じる隙もなく、堂々と独占宣言しちゃったよ…」

知らなかった黒尾の『真の姿』に、月島と山口が呆然と固まっていると、
やや困ったような、嬉しそうな…まさに『花も恥じらい中』な赤葦が呟いた。


「だから言ったでしょう?
   黒尾さんと『黒&鉄かなまら様』のツーショットはシャレにならない、と…」

黒尾さんは、俺を…『ウタマロ(VR)』を満たしているという事実の重さを…
『エっちゃん以上』な俺の方が、ベタ惚れだということを…忘れないで下さい。

ぽぽぽっ♪と頬を染め、俯く赤葦。
ココに居たら…『同行四人』は冗談抜きでマズいと本能で悟った月島と山口は、
同時に車から飛び降り、「お先にイかせて頂きます!」と、花園へ駆け込んだ。




- 後編(花園)へGO! -




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※新宿の花園神社 →『新年唖然』『年年自然
※笹に雀 →『鳥酉之宴
※飯豊青皇女について →『夜想愛夢⑪
※桃太郎と吉備について →『既往疾速④
※ラプンツェルと髪長姫 →『大胆不適
※櫛について →『忘年呆然




2018/04/12

 

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