ご注意下さい!


この話は、BLかつ性的な表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、 閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、責任を負いかねます。)



    それでもOK!な方  →
コチラをどうぞ。



























































    空室襲着⑥ (クロ赤編)







「俺達がアッサリと、ツッキー達に高級ホテルのペア宿泊券を譲った理由…」
「W喪失ならぬ、W獲得…こっちも『三等物語』という、大顰蹙事件です。」


ツッキーが酔って記憶を喪失し、山口の童貞を喪失させた事件(未遂)は、
4人中3人が10年越しの片想いを成就させ、4人全員が脱妖精化達成という、
これ以上ないぐらい幸運な結末を迎え…控え目に言って『幸せの絶頂』に居る。

このW喪失事件以来、絶頂続き…じゃなかった(本当は正解)、幸運続きだ。
近所の馬車道商店街の福引で、色んな人から券を譲って頂き1回だけガラリ…
何と三等の赤玉を引き当て、横浜の景色の一角を担う高級ホテルの宿泊券獲得。

さすがに申し訳なさすぎて、慌てて赤葦と本屋等で福引可能金額を消費し、
商店街活性化に貢献…参加賞の駄菓子狙いで、もう1回カランコロン。
だが、ここで俺の『幸運無駄遣い王』が発動してしまい…またまた赤玉ゲット。
2個しかない赤玉なのに、俺が2つとも当ててしまうなんて…大目玉だ。


これはまるで、『一番くじ』でB賞月山セットを2つとも引いてしまったり、
1つずつしかない目玉のJ賞赤葦&L賞赤葦をWで取ってしまったような、
我ながらドン引きな引きの強さ…さすがに2つ目はその場で辞退しようとした。

だが、商店会の会長さん(ウチの常連客)が、笑いを必死に堪えながら、
「黒尾のダンナは、よっぽど『赤』がお好きなんですね~?」と俺達に耳打ち。
その一言に気を良くした赤葦は、ぽぽぽっ!!!と頬を染めて俯くと、
役員さん達に散々囃し立てられながら、2つ目の三等をもじもじ受け取った。
(代わりにウチの20%割引券を、その場で手書きして贈答しておいた。)


「相棒の『猫』さん、このW宿泊チケット…有効な利用法を思い付きました。」
「さすがは相棒。近日中に飛び込んでくるだろう依頼…だよな、『梟』さん?」

そんなこんなで、猫&梟探偵の見込み通り、ほどなくツッキーからの再依頼。
俺達は恩やらプレッシャーやら、山のように着せてやりながら、作戦決行。
月山コンビの初おデート成功という依頼を(横浜中を走り回って)無事に見届け…

超重要案件を完遂させた俺達も、同じホテルにチェックイン。
わくわく『W宿泊』開始から…現在、無言のまま30分が経過したところだ。


勿論、最初は俺達も、分不相応なホテルの豪華さに大フィーバー…
一緒にひとしきり室内の設備をチェックし、窓に張り付いて景色を眺めはした。

だが、初のおデートを心から楽しむ、月山コンビに見つからないよう、
細心の注意を払いつつ尾行し続けた猫&梟の疲労は、ピークに達していた。
二人と同じルートを辿っても、こっちは仕事…観光も昼食もおやつもヌキで、
横浜三塔に願掛けする間もなく、さっきおにぎりを2つずつ食べただけだ。


あぁ…さっさと風呂に入って、足スッキリシートをふくらはぎと足裏に貼って、
この広~いベッドに四肢を伸ばし、チェックアウトまで延々寝続けたい…

…というのも、紛れもない本心。時間を贅沢に使い、惰眠を貪りたいのが3割。
残りの3割は、お金を贅沢に使い、ルームサービスを取って豪遊しまくる案。
そして残りが、睡眠欲でも食欲でもない『三大欲求』を贅沢に満たすコースだ。

このうちどれを選ぶべきか、赤葦と二人で悩み始め、すぐに2つ目が消えた。
(クラブサンドで3000円は…さすがに怯む。ちなみにコーヒーは1300円。)
残るは1つ目と3つ目の、どちらも『寝る』という選択肢だが、
この2つのどちらにも、避けて通れない大問題が、コース入口に存在していた。

   そう…『お風呂』だ。
   入らねば…寝られない。


俺も赤葦も、お風呂が嫌いなわけじゃない。
むしろ、比較的大柄な俺達でも、しっかり脚を伸ばして入れるサイズの浴槽に、
今すぐの〜んびり肩まで浸かって、全身の疲れを癒したくてたまらない。
お風呂でサッパリすれば、そのままスッキリと寝てしまうもよし、
ズッポリと更なる癒しを求めるもよし…そのためにも、まずはお風呂だ。

だが、これこそが一番のネック…
俺達がお互いに身動きが取れず、無言の時間を過ごしている原因だ。

1カ月に渡る『喪失月間』を含め、現在に至るまで、
『寝る』のアレコレは、ミッチリとカラダに記憶が擦り込まれたにも関わらず、
こういうカンケーになって以降、まだ一度も…一緒にお風呂に入ってないのだ。

これは、どちらか又は双方が極度に恥かしがって…というわけではない。
『一緒に入る』ことに恥かしさを感じているのではなく、その逆…
『一緒に入らない』という点に、耐え難い羞恥心を覚えているのだ。


考えてもみて欲しい。
まさに『これからヤります!!』っていう、『事前準備』のための入浴…
逸る期待だとか、下手打たねぇようにとか、それはそれは色々と考えるわけだ。
場合によっては、『あらかじめ』という柔軟(硬化?)体操的な処理も必要で、
こうした『独りで入浴』の際の緊張感たるや、筆舌尽くし難いものがある。

それ以上に耐えがたいのが、お風呂から出る時と、出るのを待っている間だ。
先に入った時は、『準備完了っ!』と、ヤる気に漲る顔で出なきゃいけねぇし、
待つ側も『心よりお待ち申しておりましたっ!』と、こちらも結構な助平顔。
一体どんな格好&顔して、相手と対面すればいいのか…悩みに悩む超難題だ。

当然ながら、先か後かに関わらず、相手が入ってる間も緊張しっぱなしだ。
片想い歴10年で培った熟練の技…自主練と妄想力を如何なく発揮し、
今、お風呂の中で、アイツは一体どんな『準備』してんのかなぁ…とか、
無駄にリアルかつ細部に渡って、脳内シミュレーションしてしまいそうなのだ。

これはもう、拷問と言っていいレベルの『待て。』である。
期待と妄想で胸いっぱい…自業自得ながら、羞恥心の限界を突破してしまい、
シミュレーションにもモザイクをかけ、自主規制し続けているところだ。


もし高校時代のようなプチ遠恋中だったら、数少ないチャンスを逃さぬように、
合宿所の大浴場で…なんて危険な状況でも、若さと勢いでヤれたかもしれない。
また同棲していれば、待っている間に家事等で気を紛らわせることもできるし、
そもそも『一緒に入浴』を『習慣』にしてしまえば…色々と悩まなくて済む。

ついでに言うと、『ヤります!!』目的の場所…もしラブホに行く場合には、
『一緒にお風呂』が当たり前で、恥かしさのピークは『それ以前』に到来する。
『この後の俺達』を最も期待&妄想する時点、即ち部屋へ入る前がその頂上…
『一緒にラブホへ入る』なんていう偉業は、たとえ結婚しても無理だろう。


俺達の現状は、実家住まいでも遠恋でもなく、同じマンションの同じフロア…
同棲でもないが別の部屋暮らしという、実に曖昧な距離に住んでいる。

そのため、二人がそういう雰囲気になった時は、それとな~く、さりげな~く、
「洗濯物を入れてきます。」とか、「面白い本買ったから持って来る。」等、
アレコレ理由を付けて帰宅し、それぞれの部屋で入浴…『準備』を整えている。

別々の部屋で同時に入浴なんて、マヌケなように聞こえるかもしれないが、
妖精化一歩手前…10年以上の強烈な片想いの力を、侮るなかれ。
相手が好き過ぎて、今が幸せ過ぎて…とても正気を保っていられないのだ。
(想像妊娠しそうです…と、赤葦はボソりと独り言を言っていたぐらいだ。)


そして今…最大のピンチが訪れた。
こういうカンケーになって、初めての外泊…『一緒にお泊まり』だ。
自室に戻って準備することもできず、家事で誤魔化すこともできない上に、
『寝る』が主目的ではないホテル…どんな顔で、ナニして過ごせばいいんだ!?

待つ間の緊張が恐ろしくて、「先にお風呂どうぞ。」とも言えないし、
真顔で「一緒に入るか?」も、入室から時間が経ち過ぎて、言い出せない。

山口みたいなズバ抜けた記憶力や、ツッキーみたいな天性のセンスもない分、
俺と赤葦は瞬時の状況判断と、咄嗟の考察に長けているタイプ…
似た者同士故に、助平な期待&妄想をしまくってんのもお互いバレバレだ。

これからどうすべきか…?考え得るパターンを何十通りも考察する間に、
俺は宿泊約款熟読も3周目に突入、赤葦は部屋の平面図を設備含め書き終わり…
無言の悶々のまま、30分が経ってしまったというわけだ。


こうなったらもう、『最後の手段』しかない。
冷蔵庫にあった缶ビール(500円)を飲み干し、酔った勢いで…ではなく、
(350ml程度ではさすがに酔えないし、価格を見たら酔いも一気に醒める。)
羞恥心を感じない方法で、『一緒にお風呂』プランを提案する…これに尽きる。

いつかこんな日が来るんじゃないか…そう予測して(妄想しまくって)、
あらかじめシミュレーションしておいた『とっておき』の方法を、
約款ファイルに挟んであったメモ用紙に記載…丁寧に折り畳んで振り向いた。

全く同じタイミングで、赤葦もホテルの外観が写った絵葉書を差し出してきた。
裏側には、この部屋の平面図…お風呂の部分に、何やらメモが付記されていた。
お互いが提出した『お風呂プラン』をチラ見…二人同時に思いきり吹き出した。

「俺達本当に…似た者同士ですね。」
「いや、今回は…お前の圧勝だよ。」


俺が提案したのは、『入浴介助の手順とポイント』という、介護マニュアル…
これは介護(もしくは看護)だと言い訳しながら、助平を働く作戦だった。

「医学用語を使うと、余計にヤらしく感じる…ムッツリさん確定ですね。」
「介護に見せかけて~って話も、どっかで聞いたことある…笑えるよな。」

『転倒防止のため』と言いながら、これ以上ないぐらい密着できたり、
『リハビリのため』に陰部は『なるべく自分で』洗いましょう等の注意書きは、
ネタとしてかなりオイシイ状況だが…

「専属介護員の黒尾さんに『至れり尽くせり』して頂くコースは、
   かなり魅力的ではありますが…どちらかというと『月山向け』ですよね。」
「『御宅訪問!!~ツンデレ介護員★蛍シリーズ~』とかだよな。
   これはこれで、ちょっと見てみたい気もするが…俺達向きじゃねぇよな。」


となると、残るは赤葦のプラン一択…
俺にとっては、『願ったり叶ったり』と言う他ないものなのだが、
赤葦の負担が相当大きくなる…本当に、甘えてもいいのだろうか?

   チラリ…視線を送ると、
   コクリ…頬を染めながら頷く。
   ゴクリ…喉を鳴らすと、
   トロリ…色を湛えて瞬き返す。

「コチラの方が断然…『クロ赤向け』のネタだと思いませんか?」

赤葦は平面図の入口部分をトントンと爪先で弾き、俺は指示された場所に移動。
入口脇のクローゼットを開け、待合室と店の奥を仕切るカーテンに見立て、
その場でしばらく、『準備』が整うのを静かに待った。

ほどなく、準備完了のコール音がフロントに小さく響き渡ると、
店内(室内)側からカーテンが引かれ…指名した『姫』が笑顔と共に現れた。


「こんにちは、おケイです♪
   今日はよろしくお願いします。」

綺麗にお辞儀をした姫は、『恋人繋ぎ』をしながら顧客を自室へ案内…
部屋へ入ると、マニュアル通りに二人の靴を綺麗に揃えて並べ、
少し背伸びをしてハグ…「今日は来てくれてありがとう…頑張ります♪」と、
まずは来店&指名のお礼をきちんと言ってから、頬にちょっぴり…キス。
そして、内緒話をするように、耳元にこっそり囁いた。

「一緒にお風呂行きましょう♪服…脱がせていきますね。」


赤葦提案の『一緒にお風呂』プラン…
『高級ソープランドごっこ』の幕が、今チラリと開かれた。




********************




ベッドサイドの黄色?燈色?の常夜灯だけが点けられた、薄暗い室内。
窓際の椅子に案内された顧客…黒尾。その膝の間に正座した、おケイ姫…赤葦。
姫は籐の籠を傍に引き寄せると、黒尾の足を腿上に乗せて丁寧に靴下を脱がせ、
籠に入れてあった小タオルの間に、黒尾の靴下を挟んで入れた。

「成程な。こうすると、靴下の水分が飛んで…臭いの発生を抑えるのか。」
「はい。ほんのちょっとしたテクニックですが…旅先でも有効ですよね。」

おズボン、失礼しますね。
赤葦は黒尾を上目遣いにじっと見つめながら、まずは静かにベルトを外し、
黒尾に腰を少しだけ浮かせて貰って、ゆっくりとズボンを脚から抜き取った。


一度立ち上がると、折り目を綺麗に付けて伸ばしてから、クローゼットへ掛け、
小走りで黒尾の傍に戻って来ると、離れたくなかったです…とばかりに、
両腕を黒尾の首に回し、間近で見つめ合いながら、唇を触れ合わせる。

常夜灯に照らされ壁に映る二人の影が、まるで蜜が滴っているように揺らめく。
互いに味わうキスでその蜂蜜を舐め…口内を甘く蕩けさせてくる。
濃厚で豊潤なのに、さっぱりした爽やかさを感じる赤葦とのキスは、
初夏の…そう、白く瑞々しい蜜柑の花からできた、薄黄色の蜂蜜みたいだ。


「キス…お上手なんですね。気持ちよくなってきちゃいました。」
「おケイは…不慣れで初々しいカンジなのが、凄ぇ可愛いよな。」

黒尾の言葉に、燈色の灯りに照らされた赤葦の白い頬が、桃色に染まる。
恥かしそうに俯きながらも、黒尾の腿上に乗り上げて、徐々にキスを深め…
舌で舌を絡め取る動きと同調し、指でネクタイを絡めて抜き取ると、
今度は舌をリズミカルに吸い上げて、ワイシャツのボタンを外していった。

「可愛らしいのに…エロい。」
「それは褒め過ぎ…ですよ。」


赤葦は再度クローゼットへ向かい、シャツとネクタイをぴっちり掛けた。
そして、嬉しそうに黒尾の上へ戻って来ると、こっそり耳打ちした。

「黒尾さんの匂いって、なんだかホッとしてきて…俺、好きですよ。」
(『即即』ってコースもありますけど…どうしましょうか?)

『即即』は『即尺・即ベッド』の略。
服を脱いで入浴する前に、『すぐにお口で&ソッコーで一回戦』という意味だ。
これは、性病検査等を徹底している、高級店ならではのサービスだったが、
現在は大衆店や格安店でも、オプションで『即即可能』な所もあるそうだ。

「おケイにそう言って貰えるだけで、俺は十分嬉しい…ありがとな。」
(おい、そこまで本格的に『ごっこ』する必要…ないだろ?)

『どんな仕事も完璧に。』がモットーの赤葦なら、本気でヤりかねない…
たとえ『ごっこ』でも、高級ソープ嬢マニュアルを徹底してヤりヌくだろう。
時折『オフレコ』で止めてやらないと…冗談抜きでヌけ出せなくなる。


「そろそろ、湯に…浸かりたいな。」

先を促すように、黒尾は赤葦の頭をぽんぽんと撫でると、
赤葦は膝を付いて黒尾の下着を脱がせ、それを新しい小タオルに包んだ。
そして、逞しい黒尾の胸に手を当てて、ピトリと頬を寄せて懇願した。

「俺のも、脱がせて…頂けますか?」

なんだ、その…可愛いオネダリは。
まだ風呂に入ってもいないのに、即即…『即落ち即飛び』してしまいそうだ。
頼むから、ちょっと手加減してくれよ…というリクエストを伝えるように、
黒尾は赤葦の背をゆるゆるとあやし、おでこや頬にだけ唇を落としながら、
バスローブの腰に止まる蝶々を引き、赤葦を包む純白をそっと摘んだ。



「こちらへどうぞ、おかけください。」

赤葦に手を引かれながら入った浴室は、予め温められていたようだった。
程良い蒸気に、柑橘系の香り…上品な薫香が『高級っぷり』を醸している。

赤葦は膝をついて温度を調整し、湯船に少しずつお湯を入れ始めると、
ミニタオルをヘッドに巻いたシャワーで、椅子にお湯をかけて座面を温め、
別のタオルで丁寧に湯切りをしてから、黒尾を椅子へと誘導した。

服を脱がせてくれた時と同じように、黒尾の膝前にちょこんと正座し、
ニコニコと穏やかな微笑みを湛えて、じっと黒尾を見上げながら、
洗面器に用意しておいたスポンジで、モコモコときめ細やかな泡を立てた。
泡の準備ができたら、シャワーを手に当てて湯温を確認。


「では、お身体お流し致しますね。」
「よっよろしく、お願いしますっ!」

ほとんど反射的に、ピシッと背筋を伸ばして、ペコリ…頭を下げてしまった。
『はじめてのフーゾク』なのがバレバレな、初々しいお客さんの姿に、
ふふふ♪と姫は艶っぽく笑みを含ませ、リラックスしてね?とウィンク…
全身を適温のお湯で濡らし、モコモコ泡を黒尾の身体に塗り始めた。

触れるか、触れないか…泡を介して微妙な距離感を保ちながら、
胸、背中、手の甲、掌に泡を乗せ、今度は太腿から下へ、足先まで泡で覆った。
部分的に泡のない中途半端な状態で終えると、今度は自身の身体に泡を塗り、
「ボディ洗い…始めます。」と、赤葦は黒尾にそっと抱き着き…


「ぅわぁっ!?」
「ひゃぁっ!?」

二人は同時に1オクターブ高い声を上げ、慌てて身体を離し飛び退った。
両手を直角に当て『タイム!!!』を要求し、浴室の壁に背を付けて直立…
互いの身体が触れない距離を保ち、ひそひそ小声でオフレコトークを開始した。

(な、なぁ…泡って…なんか凄ぇな。)
(お、俺も…全くの予想外でしたよ…)

自分で身体を洗う時は、大抵スポンジや垢すりタオル越しだし、
手などで足腰を擦る?揉む?ことはあっても、筋肉を解すことが目的。
特に元体育会系かつ、立ち仕事のバーテンダー&座り仕事の法律家にとっては、
『風呂で素肌を触る』イコール、治療行為の『マッサージ』でしかなかった。

自分以外の人肌が、泡を介して触れる感触など、カラダの記憶に全くない…
ヌルヌル滑って気持ちイイのかな~?程度の想像しか、したことがなかった。
まだそんなに回数は多くないとはいえ、二人で幾夜も肌を重ね合っていて、
お互いの『素肌が触れ合う』感覚は、ちゃんとカラダに記憶されてはいるが…

(ぜ…全然、違うんだな…)
(み…未知の、感覚です…)


明け透けに言ってしまえば、「気持ちヨすぎだろコレ!」である。
ヘリウムガス入りのシャボン玉が、猛スピードで天へ昇り、即弾けてしまう…
そのぐらい高度も硬度も高いのが、ソープランド…まさに風俗の頂点である。

(参考までに聞くが…何分コースだ?)
(高級店ですから…120分~ですね。)

(ちなみに、この後の手順は…?)
(ざっと簡単に、列挙しますと…)

・胸、手の甲、掌を、手や胸で円を描くように洗う。
・立ち上がり、『片足たわし』で両腕を洗う。
・背中、太腿を胸で洗う。
・洗ってない状態の股間に、グリンスを5プッシュする。
・全身の泡をシャワーで洗い流す。
・おクチで…
・ある程度勃ってきたら、湯船へ。

※『片足たわし』→顧客の腕を掴み、自分の股(毛)で顧客の腕を洗うこと。
※グリンス→殺菌消毒薬用せっけん液。ボディソープと混ぜて使わないこと。


(以上が『ボディ洗い』の、ごくごく基本的な手順ですね。)
(店によっては、ここにいろんなオプションがつくんだな。)

例えば、マットの上でのローションプレイだったり、
断面が『凹』になっている特殊な椅子…通称『スケベ椅子』を使ったプレイだ。

(この二つは、ココにはお道具がありませんから…今回は割愛ですね。)
(スケベ椅子プレイは、俺の出したプランでも可能…またの機会だな。)

スケベ椅子は、ソープランドでは絶滅危惧種と言われているが、
現在、別の生息地で大繁栄…黒尾プランだった『介護』の現場である。
横から見ると『凹』型になっている、新種名称『介護椅子』の利点は、
『洗いにくい場所も楽に洗える』こと…転用した人に盛大な拍手を贈りたい。

(「介護用ですから。」と、堂々と通販でポチリできるなんて…最高ですね。)
(介護椅子に進化したはずなのに、旧種のままの黄金色はどうかと思うがな…)

病院にお見舞いに行った時、たまたまスタッフさんが部屋付の風呂を掃除中…
黄金色の『凹』を抱えて出てきて、思わず吹き出しそうになってしまった。
ソコにソレがある理由を聞いて、心底感心&納得したのだが、
せめてカラーリングはソープ時代とは別のにしろよ…と、老婆心から思った。


…と、黒尾が他愛ないことを思い出し、落ち着きを取り戻そうとしていたら、
俺は自分用に買おうかな~と、本気で迷ってるんですよ…と、赤葦がボソリ。
聞き捨てならない大胆なセリフに、落ち着きかけていた心拍がドクンと跳ねた。

(な、な、何に、使う、つもり…だ!?)
(な、何って、その、えーっとですね…)

本職の泡姫様ほどじゃありませんが、俺のような立場も『事前準備』が必要で…
普通のお風呂椅子では、一部非常に『洗いにくい場所』がありまして、
ソコを『準備』するためには、若干おマヌケな格好をせざるを得ないんですよ。

しかも、大抵洗い場の正面には鏡が…ウッカリ途中で目を開けてしまえば、
恥かしい自分の姿を直視してしまって、その…以下略なんですよっ!!

(だから、その椅子があればなぁ…と、)
「是非…俺にプレゼントさせてくれ!」

やや被せ気味に、力いっぱい絶叫してしまった。
浴室中に、俺の助平っぷりが大反響…その勢いと久々の大声に自分でも驚き、
顔を見合わせてキョトン…そして、二人同時に吹き出し、大笑いし合った。


「おや黒尾さん。俺のヤらしい姿…ムラムラ~と妄想しちゃったんですか?」
「そんなもん、するに決まってんだろ!…っておい、ドコに聞いてんだよ。」

「あ、聞かなくてもわかるトコでした。見た目通り…ムッツリさんでしたね。」
「お前こそ、ここまで綿密にシミュレーション…さすが放射性猥褻物だよな。」

さっきまでの『本格派』なムードはどこへやら…
色気は泡と消えてしまったが、同時に緊張も全て消し飛んでいった。
残念ながら、『高級ソープごっこ』は終了するしかない(した方が助かる)が、
その分、二人の間にお風呂本来の『リラックスタイム』がようやく訪れた。


横に並んで髪と全身をそれぞれ自分で洗い、大きな湯船に向かい合って浸かる。
さすが高級ホテル…180超の大男二人でも、ゆったり足を伸ばせるサイズに、
今日一日歩き回った疲れと、さっきまでの緊張がどんどん溶け出してくる。

「いやぁ~、デカい風呂っていいな~」
「湯船で触れる人肌も、イイですね~」

つい先日まで童貞だった自分達には、泡プレイは(色んな意味で)早すぎる。
一緒に湯船に浸かるところから、徐々に慣れて…感触をカラダで覚えていこう。
泡プレイほどではないにせよ、湯船の中で触れ合う素肌だって…

お互いの脇腹を挟み合い、肘を置かせてもらっている相手の肌の感触を、
しっかり満喫&記憶したい反面、ほどほどに意識を逸らせなければ…と、
二人はとりあえず視線と話題を、アサッテに飛ばすことにした。


「んで、『ボディ洗い』の後は…湯船でのプレイになるんだよな?」
「はい。せっかくですので、必死に覚えた手順を暗唱致しますと…」

・顧客だけを湯船に入れる。
・お湯にしますか?お水にしますか?と確認した上、イソジンを置く。
・二人で歯磨き&イソジンでうがい。
・その後、自分の身体を洗う。

「『一緒に入ってもいいですか?』と確認し、股間を隠しながら入ります。」
「さすが高級店…『確認』と『秘匿』があると、余計に期待が高まるよな。」

・入ったらすかさずハグ&キス。
・潜望鏡。
・再度ハグ&キス。

「潜望鏡…秀逸なネーミングだよな!」
「名付けた方のセンス…最敬礼です♪」

潜望鏡とは、主に潜航中の潜水艦が海上の様子を観察するために用いるもので、
縦に長い望遠鏡で視点の位置を上げ、遠くを見渡す装置である。
顧客の身体を湯船に浮かせて、姫がおクチで…というソープ伝統の技が、
潜望鏡で海上を覗いている姿に似ていることから、この名を採ったそうだ。


潜望鏡(使用中の艦内の姿が命名の由来)


「ソープのテク…最初から全部いっぺんにヤっちまうのは、勿体ねぇよな。」
「もったいないというより、もつわけない…ですよね。少しずつ、ですね。」

様々なテクを分割して…これからゆっくり、二人で慣れていきましょうね。
何だか、黒尾さんと一緒にお風呂に入るのが…楽しみになってきました。

(今後とも、ご指名…お願いします。)

タオルで赤く染まる顔を隠しながら、姫はごく小さな声で懇願した。
それを聞いた顧客は、姫の腕をグッと引き寄せ…強く抱き締めて耳元に囁いた。

(今ので…完全におケイに落ちたよ。)


湯船の中で赤葦を抱き、髪をゆるゆると撫でながら、黒尾は大きく息を吐くと、
浴室と自分達のココロにも響き渡るように、朗々とした声で語り始めた。

「まさか赤葦と…10年片想いし続けた相手と、こんなことができるなんて…」
「好きな人と、触れ合える幸せ…10年間諦めなくて、本当に良かったです…」

10年間すぐ傍に居たが、お互いに見ていた姿は、ただの『思い込み』…
自分が勝手に妄想し、片想いし続けた姿を、都合よく記憶していただけだった。

その姿だって、学生時代はライバルチーム…『ネット越し』のものだったし、
一緒にコンビを組み仕事をし始めてからも、『カウンター越し』の姿だけだ。
お互いの全体像が見えないほど…『思い込み』が入り込む余地もないほど、
真横や間近から自分を見つめてくる姿なんて、全く記憶にない『未知の姿』だ。

「俺の妄想なんかより遥かに、赤葦は淫猥で濃艶で…物凄ぇ可愛いかった。」
「黒尾さんがこんなにムッツリで、ベタ甘かったとは…嬉しい誤算でした。」


積りに積もった10年分の片想い。
だがそれよりも、両想いになって数ヶ月間に記憶した『そのままの姿』の方が、
ずっと大きくて、温かくて…ココロとカラダの大部分を満たしていた。

「もっと黒尾さんのこと…知りたい。」
「未知の赤葦の姿…たくさん見たい。」

愛しい人と触れ合う感触に、快感よりも歓喜がせり上がり…
溢れ出そうになる想いを留めるように、互いにギュっとしがみつきながら、
二人は軽やかに微笑み、暴走してしまいそうな自分達に「待った!」をかけた。


「黒尾さん、ソープでは不可欠な言葉…ご存知ですよね?」
「絶対に相手に伝えなきゃいけない、大切な言葉…だな。」

日本では売春が禁止されているはずなのに、ソープでは『本番』が可能…
法律に抵触しないためのロジック(屁理屈)としてまかり通っているのが、
『お店とは関係ない個人的なこと』という…都合のいい『思い込み』である。

顧客はただ、『入浴』に来ただけであり(料金も『入浴料』となっている)、
一緒に入浴している間に、姫と顧客が個人的に『恋に落ちて』しまった…
その結果、恋人達が互いを慈しみ愛し合う行為に及んだ、という『設定』だ。

このロジックを成立させるために、必要不可欠な言葉。
それは、『恋人達』にとっても、なくてはならない大切な言葉と…同じだ。


おでことおでこを合わせ、一寸に満たない距離から見つめ合う。

10年もの間、ずっと言いたくて言えなかった、この言葉…
二人は喜びで声を震わせながら、込み上げる想いを伝え合った。


「黒尾さんに…ずっと恋しています。」
「俺も赤葦のこと…恋愛継続中だよ。」




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※B賞月山セット×2 →『一揃二式
※J賞&L賞赤葦 →『大収穫!研磨先生
※先に入るか、後に入るか… →『姫様豹変
※合宿所の大浴場で… →『共連残業
※同棲中の入浴習慣… →『家族計画』『翌日来春』『上司絶句』『菊花盛祭(後夜祭)
※一緒にラブホへ入る… →『同行四人(黒赤二人)
※介護に見せかけて… →『心悸亢進』『三路分岐(Ω)
※甘夏の花↓





2018/05/22  

 

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