同行四人(後編)~黒赤二人~







俺達二人には、「これだけはどうしてもムリだ!」というものがある。
それが、こうした特殊宿泊施設…ラブホに『同行二人』すること、だ。

男同士だから…とかいう問題以前に、とにかく「恥かしい!」の一言に尽きる。
ちゃんと『夫婦』だし、別にヤマシイことをするわけでもないけれど、
「これからヤラシイことします!」と、堂々宣言しているような気がして…
どんなプレイよりも、下手したら一番恥かしいんじゃないかと思っている。

お付き合いを始めた直後から同棲し、ほどなく結婚したからかもしれないが、
仕事でビジネスホテルに外泊するだけでも、『特別!』だと感じてしまうし、
二人共ちょっとしたお祭り気分に…わっしょ〜い♪と、盛り上がってしまう。


そんなわけだから、ビジネスだろうが温泉旅館だろうがラブホだろうが、
ナカに入ってヤることに大差ない…それでも、心情的にラブホは全然違うのだ。
この世に俺達二人だけが生き残り、誰かに見られる確率が0%だったとしても、
やっぱり俺達は二人時間差攻撃…ラブホに『同行二人』はできないと思う。
そのぐらい、二人一緒にラブホへ入ることは、羞恥心の限界の『向こう側』だ。

だから今、月島君と山口君がごくフツーにラブホへ『同行二人』したことに、
俺は腰を浮かせて驚き…二人が入る後ろ姿を見てしまったことを後悔した。

   (うっ…わぁぁぁーーーっ!!!)


アチラもれっきとした夫婦で、コチラとは比較にならないほどの長い付き合い…
当然ながら、そういうコトをして当たり前なのも、十分承知している。
考察を補完するカタチで、『月山ミニシアター』なんかも平気でヤってるし、
はばかることなくイチャつく姿も、高校時代から見慣れてしまっている。

   (でもでもっ、は…恥ずかしいっ!!)


アチラも愛し合ってる二人なんだから、コチラと同じコトをしてるだけ。
それを頭で理解しているのと、ラブホへ同行二人するのを実際に見るのとでは、
受ける衝撃の大きさが違いすぎる…生々しいことこの上ないじゃないか!
二人の情事をモロに目撃したり、やんごとなき事由により4P…とかよりも、
『これからの二人』を間接的に匂わせる後姿の方が、遥かにグっとクるのだ。

そう、この『モロじゃない』方がエロスを醸すという状況は、
一切隠し立てナシな『かなまら様』も同じ…神々しさや威厳を感じたけれど、
御神輿のエっちゃんやキャンディから、エロスを感じることはなかった。
(もっと解り易く言えば、無修正モノよりも適度なモザイクがあった方が…等)


ぶるり…と、一度だけ尻ポケットのスマホが慎ましく震える。
先に入った黒尾さんからのメッセージ…部屋番号が送られてきたはずだ。

   『1fa』

モロに「○○○号室に。」と指定するのだって、やっぱりまだまだ恥ずかしい…
だからいつも少し修正を加え、パッと見ではわからないように送ってくれる。
ちょっとしたひと手間だが…これこそが黒尾さんの優しさと照れの現れだ。

『1fa』は16進数による表記…10進数に換算すると、『506』になる。
おそらく「1×5」と「1+5」を合わせた部屋番号を選んでくれたんだろう。
たったこれだけのことでも、嬉しくなってしまうのだから…俺も実に単純だ。


俺もわずかばかりの抵抗…照れ隠しとして、説教じみた返信をする。

   『黒尾さん、盛り過ぎ…です。』

さっきはよくも、俺を『立体春画』かのように言ってくれましたね…と。
放射性猥褻物なのは、ただの『設定』…お笑いネタとしての『キャラ』です。
さすがに『ウタマロ』級エロスなんて、平凡な俺には醸せませんからね?
(まぁ、俺はそれ以上に黒尾さんのことを、盛り盛りに誇張しましたけど。)

…というようなことを暗に含め(カッコ内は除く)、一行だけ送信。
こういうやりとりが、本当に楽しくて仕方ない…これも前戯に含まれるかも?


ほどなく返って来たのも、一行だけ。

   『それ…どっちの『読み』だ?』

どっちの『読み』…どういう意味だ?
俺が送ったのは、黒尾さんが話を『もりすぎ』だという意味だけど…あっ!?
今まで全く意識したことがなかったが、『盛り過ぎ』はこう読むこともできる…

   黒尾さん、『さかりすぎ』…です。

こんな些細な大発見すら、楽しくて楽しくて…頬が自然と綻んでしまう。
一緒にナカに入らなくても、同行するのと同じくらい、二人でイチャイチャ…
やっぱり、紛れもなくこれも前戯だと、俺は自信を持って断言できる。

   (凄く…恥ずかしい、ですね。)


   『1fa』…一発ファッ…、いや違う。
   一生二人で、あなたと…これがいい。

ナカでアチラと鉢合わせしないよう、しょーもない語呂合わせで時間を潰す。
そして最初のメッセージ着信からきっかり5分後、俺はこそこそと車から降り、
鍵が閉まる「ガチャ!」の音にもビクつきながら、『花園』へ足を踏み入れた。




***************




ラブホに限らず、外泊先の部屋に入ったら、まず一番にすること。
それは、クルリと振り返り…内扉に貼られた緊急時避難通路を確認すること。
その後、窓や建具等、部屋の作りをザッと見回し頭の中に平面図を描きながら、
風呂やトイレ等の設備関係を、順番にチェック…完全に職業病だ。

こうすることで、いざという時にパッと身体も動くし、何よりも落ち着くし、
逸るキモチを抑え冷静さを保てる…要するに『照れ隠し』である。

ちなみに、俺が『現地調査』をしている間、黒尾さんは『宿泊約款』を熟読。
こちらも俺と全く同じ、職業病プラス照れ隠し…本当に、似た者同士だ。


お互いに黙ったまま、それぞれが設備&規約の確認をあらかた終えたところで、
俺は内壁が鏡張りのクローゼットに薄手の上着を掛けて、洗面脱衣室へ戻る。
外から帰ったら、うがい手洗い。ゴロゴロ音に気付いた黒尾さんが、
「忘れてた。」と言いながら隣に立ち、俺は半歩横へずれ洗面台をシェアした。

黒尾さんのうがいが済んでから、ほどよい温度のお湯を出して手を濡らし、
ハンドソープを付けて泡立てると…ほんのり立ち上る、上品な香り。

「清楚で…いい匂いだな。」
「蓮の香り…だそうです。」

横から洗面台を覗き込みながら、大きく息を吸って深呼吸すると、
黒尾さんは俺の真後ろに移動し、俺を腕の中に閉じ込めるように両手を前へ…
驚いて顔を上げると、真正面の鏡に映った黒尾さんと目が合った。

カッ…と、自分の頬が染まるのが見え、慌ててそこから視線を外してしまった。
石鹸を泡立てる手に集中した隙に、黒尾さんの手が俺の手をすっぽり包み込み…
一緒に手指を重ねて泡を作り、俺の指にしっかり塗り込めながら、
長く器用な指を滑らせ、俺の手指を揉み解し始めた。


「さっき大師公園で、おチビさんとお母さんが…同じように洗ってましたね。」
「あわあわ~なんとか~って、可愛い歌を歌いながら…楽しそうだったよな。」

『恋人繋ぎ』をするように指を絡ませ、洗うというよりもマッサージの動きで、
指の付け根から指先へ、血を送り込みながら上下に擦り上げたり、
まぁるく掬う形にした掌の中で指先をくるくる回し、爪の中までキレイに洗う。
擽ったくもあり、気持ちよくもあり…何だかふわふわする、不思議な感触だ。

洗いっこの間、後ろをすっぽり黒尾さんの体温に包まれ、肩に顎を乗せられて。
鏡を盗み見ると、長い前髪の隙間から、優しく温かい瞳がチラリと見え…
ドキリと跳ねた心臓の動きが、密着した背を通して黒尾さんに伝わってしまい、
鏡の中で黒尾さんの片目が、柔らかく細められるのがわかった。

一緒に手を洗っているだけなのに、無性に恥かしくなってしまった俺は、
何とか発熱を抑えようと、あわてて…あわ…あわ…えーっと、あ、そうだ!

「『泡』繋がりの話…『ウタマロ』の蛇足考察をするんでしたよね?」


美術や絵の素養はほとんどないんですけど、歴史書に出てくる挿絵とか、
絵巻物や浮世絵を見るのは、俺も結構好きなんですよ。
その時代の文化とか流行とか…は、いまいちよくわからないものの、
建物の構造や間取り、設備や造作を観察するのが凄く楽しくて…職業病ですね。

勿論、ウタマロ…春画も時折見ます。
これはこれで、実に興味深いと言いますか…正直、笑っちゃいますよね。

「あのデフォルメっぷり…『笑い絵』って言われるのもわかるよな。」

とても人間とは思えない、まるでエっちゃんクラスの『かなまら様』だとか、
モザイクなしでモロに結合部分を仔細に描いていたりして、逆に笑える…
『かなまら祭』と同じで、エロスというよりも、ユーモアを感じるものが多い。
だから俺は、春画はエロではなくラフ…笑いのためのものだと思っていた。

だが、海外や研究者達から『春画の最高傑作』と賞賛されているもの見た時に、
とてつもないエロスを感じた…それが、喜多川歌麿の『歌満くら』だった。



喜多川歌麿『歌満くら』(クリックで拡大)


茶屋の…2階だろうか。欄干と簾の向こうに、バラ科?の樹木の葉が見える。
お店のシンボル的な、背の高い桜か…梅の樹かもしれない。
花の季節ではない時に、秘めやかに寄り添う、睦まじい二人が描かれた春画だ。

お互いの肩と顎にそっと添えられた手。
赤い腰布から伸びた真っ白な脚が、透け感のある羽織の中へと入り込む。
そして何よりも、結われた髪越しからチラリと覗く、優しい瞳…

「露出も高くないですし、モロには何も見えていないのに、漂う濃艶な色気…」
「後姿と片目だけから、二人の感情や表情が伝わってくる…凄ぇエロいよな。」


さっきと変わらない温度のはずなのに、ややぬるくなったように感じる流水で、
湯温とは対照的に熱くなった…手についた泡を、一緒に洗い落としていく。
キレイに流し終わったら、今度は一緒にタオルで水気を丁寧に拭き取り、
黒尾さんは俺の肩口に温かい呼気を当てながら、ウタマロ話を続けた。

「俺も同じで、春画の中ではその絵が一番エロいと思ったよ。」

俺は挿絵を見る時、その中の看板や貼紙等の文字が気になって仕方ないんだ。
何が書いてあるのかを、つい調べてしまう…これもきっと、職業病だな。
この浮世絵の男性…パッと見で男性とわかる、奥の人物が持っている扇子には、
有名な狂歌…洒落や風刺がきいた、滑稽な和歌が記されているんだ。

   『蛤に 嘴をしつかと はさまれて
      鴫たちかぬる 秋の夕くれ』

蛤(はまぐり)に、嘴(はし・くちばし)を挟まれ、飛べなくなった鴫(しぎ)…
これは、ことわざの『漁夫の利』の語源にもなった情景を詠ったものなのだが、
『嘴』と『蛤』が、それぞれナニを指しているのか…言わずもがな、だ。

直接的ではない表現を用いて、情事をほんのり匂わせる和歌の挿入…
上品な『ウタマロ』と実に相性の良い、風雅な組み合わせであろう。


洗い終わり、拭き終わっても、まだ『恋人繋ぎ』したままだった俺の指を、
黒尾さんは嘴で啄むようにつつき、俺はそれを掌の中にしっかり挟み込んだ。
鏡の中ではにかみ合うと、黒尾さんが「このウタマロが…」と話を継いだ。

「浮世絵が海外で大人気な理由…西洋画との違いから、赤葦はどう考える?」

俺も美術史やらには詳しくない…ごく一般的な感覚で構わない。
赤葦は浮世絵のどこが『美しい』と感じるか…考えてみてくれ。


黒尾さんの質問に、俺は言われた通り…深い考察ではなく『見たまんま』を、
センスのカケラもない拙い表現で、何とか答えてみることにした。

「まずは…色がカラフルです。特に、お着物の柄や色合いが美しいですね。」

美人画は勿論のこと、春画でもそれは同じ…どの人も見事なお召し物だ。
季節感のある着物の柄と、露わな白い肌やら巨大ウタマロとの対比が鮮明で、
それがただの『笑い絵』ではなく、『美術品』としての価値を高めている。

もし、この艶やかな着物すらなく、本当にモロに『裸婦』の絵だったとしたら…
品性のカケラもなく、ラフすら起こらない、失笑の対象となってしまうだろう。
そう、春画が美しくエロく感じるのは、この対比あってこそ…あっ!!


「わかりました!春画はエロスの神髄たる…『チラリズム』ばかりです!!」

『歌満くら』が最高傑作たる所以は、モロじゃないこと…『チラリ』です!!
西洋画のエロ絵?は、基本的に裸婦ばかりのような気がしますけど、
浮世絵や春画は、モロだろうとなかろうと、ほぼ全てが『着エロ』ですよね!?
全裸よりも着エロの方がクる…チラリズムこそ、理想的かつ最上級のエロス!

「古今東西問わず、人類遍く『着エロ』大好き…これが答えですね。」

春画エロスの核心、遂に見たり。
ウタマロさんも、わかってますねぇ~♪と、発見に一人で大満足していると、
チラリズムこそ赤葦の理想…徹底してるよな~と、黒尾さんは肩を震わせた。


「別に俺がキワモノ趣味ではなかったこと…ウタマロが証明してくれました。」
「いや、俺もどっちかっつーとソッチ派だから…キモノ趣味でもねぇけどな。」

…とか言いつつ、黒尾さんは『お着物』が実は大~好き♪ですよね?
史上最高に黒尾さんが燃えたのは、浴衣での着エロ(未遂)…覚えてますからね。

ツンツン…と脇腹を肘で刺激し、黒尾さんの趣味をおどけながら暴露すると、
黒尾さんは笑いながら身を捩って避け…腕の中で俺をクルリと反転させた。


久しぶりに、直接視線を合わせ…唇を静かに合わせていく。
まるでお着物を着ている時みたいに、慎ましく清楚に、少し嗜む程度だけ。

モロに情事を思わせる、激しく吸い合うキスも、勿論悪くはないけれど、
情事に繋がるかどうか…その可能性を匂わせるだけの優しいキスを続ける方が、
その『期待感』も加算され、ナカから滲み出る熱量が、大きくなる気がする。

   抱き締め合う程の密着じゃない。
   でも、隙間なく寄り添い合って。
   袖擦り合うぐらいに、口付けて。


衣擦れ音もしない程、ほんの少しだけ黒尾さんのシャツをジーンズから引くと、
黒尾さんも同じように俺のジーンズからシャツを引き出し、ボタンを緩め…
お互いに必要最低限だけを『チラリ』させ、擽るようなキスを続けていく。
シャツのナカ…素肌をそっと指先で撫でながら、黒尾さんは話を引き戻した。


「さっきの質問の答え…『人類皆着エロ好き』ってのは、違うらしいんだ。」

いや、絶対違うとは言い切れないし、本質的には大正解なんだろうが…
別に『チラリズム追求』のために、お着物を着せていたわけじゃないんだ。
真相としては、着せるしかなかった…脱がせたくても脱がせられなかった。
これは法的な規制というよりも、もっとリアルに差し迫った要求のためだ。

「『着エロ』は壮大な目的ではなく…ただの『結果』だということですか?」

目的は(着)エロでも、チラリズムでもないとすれば…まさか『逆』なのか。
色気皆無な『逆の可能性』に思い当り、俺はゲンナリしてしまった。

「目的は『お着物』の方…ですね?」
「絵師達のスポンサーが…呉服屋。」


浮世絵からは、当時の文化や『流行スタイル』がわかる…これも『逆』だ。
呉服屋がお着物の美しさや、流行を宣伝するための『販促ツール』として、
人目を惹き付ける春画を使った結果…副次的に『文化的資料』となったのだ。

スポンサーの御意向に左右されるのは、江戸時代も現代も全く変わらない。
新ユニフォームのモデルとなった選手を代表から外し、スポンサーが大激怒…
それが、本番直前に監督解任の一因になっているかも…等、よくある話だ。

「真の目的や事情がどうあれ…」
「結果オーライを望む…だな。」

呉服屋達も、きっと面白半分で作らせた『笑い絵』なんかが、
後世、美術品や民俗学等の研究材料になるとは、思いもよらなかっただろうな。
まぁ、目的がなんであれ、結果として春画の美しさは変わらねぇし、
『歌満くら』が醸す濃密なエロスは、全く薄まることがないからな。


   ほら、後ろ…見てみろよ。
   立体ウタマロ…顕在だろ?

黒尾さんに促されるまま、首だけを後ろに捻り…俺は息を飲んだ。
俺の後ろ…鏡の中に、まるっきり『歌満くら』な、俺達の姿が写っていたのだ。

「やっ、これっ、恥かし…っっ!?」
「凄ぇエロい…『同行四人』だろ?」

着衣のまま、寄り添う二人。
シャツの裾からチラリと覗く、白く柔らかそうな『ふくらみ』の一部。
そして、俺の肩越しに前髪の隙間からこちらを見つめる、熱い…視線。

たったこれだけなのに、眩暈がする程の色気を感じ、ビクり!とカラダが跳ね、
絵には描かれない…鏡には映っていない部分で、お互いの熱同士が擦れ合った。
少し触れただけでも、黒尾さんの『黒&鉄かなまら様』の様子が伝わって…
御姿が見えない分、余計にその熱さと脈動を大きくカンジとってしまった。

   (見えない方が…断然、エロい…っ)


俺の背を撫で下ろし、シャツと肌の隙間を一旦その手で隠してから、ナカへ…
素肌を撫で回す動きが、盛り上がり変化するシャツの柄を通して見え、
動きに合わせ上下するシャツの裾から、チラチラとふくらみが見え隠れする。

モロに二人が絡み合う姿でもない。自分の後姿と、黒尾さんの片目だけなのに、
鏡の中の二人は濃厚な色に包まれ、『この後』の可能性を如実に匂わせている。
勿論、二人がお互いのことをどれだけ想い合っているかも…全部、わかる。

   (とんでもなく…ウタマロの、世界…)


背を撫でていた両手が、見え隠れしていたふくらみをふわりと覆い隠す。
素肌は見えなくなったのに、揺れ動くシャツと両手…跳ねる腰の動きから、
ふくらみを柔らかく揉み解しながら左右へ開き、溝を指で辿るのが…見える。
鏡の中で絡め合ったままの瞳が、トロリと色に蕩け始めるのも…全部。

「後姿だけで、凄ぇ…濃艶な色気だ。」
「黒尾さんも、凄く…盛ってますよ。」

シャツをほんの少しだけ捲りながら、黒尾さんの片手が洗面台の横へ伸ばされ、
蓮の香りを放つ白濁する乳液を、滴るほどたっぷり指先に垂らす姿が見え…
俺は慌てて前を向き、目の前の黒尾さんしがみ付き、胸元に顔を埋めた。

「もう、これ以上は…見て、いられません…っ」
「俺も…っ。これは、刺激が、強すぎる…な。」


ウタマロの世界から目を逸らし、直接お互いの瞳をじっと見つめ合ってから、
同時に目を閉じ…今度はしっかり、カラダと唇を重ね合わせた。

鏡の姿はもう見えなくなったのに、二人がどんなウタマロを描いていたのか…
重なり合う間中ずっと、俺達の脳内には鮮明に映し出されていた。




- 完 -




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チラリズムこそ赤葦の理想 →『夜想愛夢(想望之海)
※浴衣での… →『菊花盛祭(後夜祭)




2018/04/15

 

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