ご注意下さい!

この話は、BLかつ性的な表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)

いよいよ『春♪』ですね。
春らしい『↓方向』の話です。


   
それでもOK!な方  →コチラをどうぞ。


























































    上司絶句







「もう…ひな祭りの季節か。」
「桃の花も咲いて…春です。」


黒尾法務事務所は、年度末修羅場の真っ只中である。
一月前の節分に、「明日の立春から…『春』になったら修羅場モード」と、
宣言した通りの日々…『食う・寝る』以外は仕事しかしていない毎日だ。

「自宅兼事務所ってのは、通勤がない分すっげぇ楽なんだが…」
「気分の切替え時間が、全くない…本当に仕事ばっかりです。」

お役所絡み、特に再開発や建築に関わる仕事の場合、仕方のないことではある。
だが、この一月は冗談抜きで休みナシ…ストレスと疲労のピークである。


「あぁ…皆でのんびり『酒屋談義』してぇよな。」
「久しく…料理すらままならない状態ですしね。」

今日はひな祭り…『上巳(じょうし)』である。
上巳とは『上旬の巳の日』…つまり、『蛇の日』ということだ。
今まで『酒屋談義』では、蛇を通して日本の歴史を考察してきたこともあり、
本来であれば、この上巳にこそ、じっくり蛇のことを語り合いたかった。

「蛇のことを知ってから…『ひな祭り』の見方も、かなり変わったな。」
「『これでもかっ!!』っていうぐらい、『蛇』のオンパレードです。」


『上巳の節句』の起源は平安時代よりも前と言われているが、
元々は本格的な農耕が始まる前に、健康と『厄除』を願ったお祭りだった。
雛人形に穢れを乗せ、水に流す…『流し雛』という風習が、今も各地に残っている。

「どこかで聞いたような話ですね。」
「あぁ。思いっきり『蛇』だよな。」

穢れを乗せて、水に流される…七夕のモデルとなった、饒速日尊・瀬織津姫だ。
瀬織津姫は、大晦日に奏上される『大祓祝詞』に出てくる、災厄抜除の女神で、
人々の罪や穢れを蛇のように『かか呑み』して、あの世へと流されていた。

「そう言えば、七夕に飲むのも、桃の節句と同じ…『甘酒』だな。」
「上巳は蛇の日ですから…蛇に力を与える『酒』はアウトですね。」

また古代中国では、上巳に『曲水の宴(きょくすいのうたげ)』を行う風習があった。
水の流れがある庭園で、流れに盃を流し、その盃が自分の前を通り過ぎるまでの間に、
詩歌を詠んで盃の酒を飲み干し、水に流すという…『禊』の儀式だ。
この様子を描いたのが、書道史上最も有名な書作品…王羲之の『蘭亭序』である。

「同じ古代中国には、上巳に『春遊踏青』という行事もあったそうです。」
「『踏青』…ピクニック、野遊びのことか。杜甫の『麗人行』だったか?」
『三月三日天気新 長安水辺多麗人』…天気の良い春の日に、水辺に男女が集まって、
詩歌を贈り合い、遊ぶ…つまり、野外乱交パーティである。

「思いっきり『歌垣(かがい)』のことですね。」
「蛇の交尾を模した、春の大切な行事だよな。」


現代の『ひな祭り』にも、『蛇』の痕跡が多く見られますが…その前に。
赤葦はそう言うと、「お内裏様とお雛様~」と、ひな祭りの歌を歌った。

「雛人形の男雛が『お内裏様』で、女雛が『お雛様』…間違いだそうです。」
「そうなのかっ!?歌でもそう言ってるし…てっきりそうだと思ってたぞ。」
天皇と皇后を表す『男女一対の雛人形』を、『内裏雛』と言う。
これは天皇の住居を『内裏』と呼ぶことに由来するらしい。
つまり、『お内裏様』でも『お雛様』でも、『男女一対の雛人形』を表すのだ。
『うれしいひなまつり』の歌から、この誤用が広まってしまい、
作詞家はこのことをずっと後悔していたそうだ。

「性別と言えば、『五人囃子』の皆さんは…全員男性だそうです。」
「『能』のお囃子を奏でる楽人かっ!能は…女人禁制だったよな。」

そして、『能舞台』が『お雛様御一行』にいるということが、ある事実を示唆する。

「『能』は、怨霊鎮魂のためのものです。」
「即ち、『蛇』を鎮めるためのものだな。」

『御一行様』に、三歌人や三賢女が入る場合もあるのだが、
三歌人の柿本人麻呂、小野小町、菅原道真に、
三賢女の紫式部、清少納言、小野小町…全員が、日本を代表する怨霊達である。

「和歌だって…『鎮魂』が主たる目的の一つでした。」

二人の随身…右大臣・左大臣を表す『右近の桜・左近の橘』だってそうだ。
元々右近は桜ではなく『梅』…梅は勿論、菅原道真で、
左近の橘は、橘諸兄(たちばなのもろえ)をはじめとする、橘氏であろう。
橘氏は藤原氏の宿敵…謀反の疑いをかけられ、一族は表舞台から姿を消した。

「徹底して『蛇』…『まつろわぬ者』が勢ぞろいか。」
だとすると、お雛様は『天皇・皇后』と言われているが、
もしかすると、そうではなく…例えば『饒速日尊・瀬織津姫』という可能性も…?


黒尾は両手を『く』の字に合わせてパっと開き、『ひし形』を作った。
『ひし形』は、ひな祭りに出てくる『菱餅』だ。

「正月に、『鏡餅』と…丸餅の話をしただろ?」
「鏡餅は『かか身』…とぐろを巻く蛇でした。」
お正月の餅は、関西では『丸餅』が基本であり、丸餅は蛇の『卵』を表していた。

「関東では、『のし餅』だが…こちらも元々は『ひし形』に切ってたらしい。」
「『ひし形』ですか?あっ!もしかして…蛇の『鱗』を模していたんですか!」
菱紋は『縄文式土器』に多く描かれた文様が由来とされている。
その文様は紛れもなく、蛇の鱗を描いたものである。

見事なまでの『蛇』づくしに、二人は絶句した。
ひな祭りは、文字通りに『巳の日』…『蛇の絶句』である。

「やっぱり、皆で『ひな祭り談義』したかったな。」
「この時期でなければと、心から悔しく思います。」
二人は顔を見合わせて、苦笑いしながらため息をついた。


ところで、黒尾さん。
『酒屋談義』も久しくしていませんが…

「こうして『二人で入浴』も…実に久しぶりですよね?」
「確かにな。前回一緒に入ったのは…まさか節分か!?」

節分翌日から修羅場に突入したせいで、日課だった『二人で入浴』もままならず、
こうして互いの素肌に触れ合うのも、その時以来…一か月ぶりだ。

そんなに長いこと、仕事しかしてなかったという事実に、黒尾は再度絶句…
黒尾がその事実に気付いてなかったことに、赤葦は絶句した。

「だから、ツッキー達が…強引に『半休』にしたんだな。」
「大ボケな上司を持つと…我々部下は、本当に大変です。」

2月末〆の納品も、無事に終わりました。まだ修羅場とはいえ…少し休みましょう!
もう僕らも限界です。今日は…『上巳の節句』ぐらいは、『それらしい日』に…!!

…と、午前中に部下達から泣き付かれ、今日は午後半休になった。
その結果、こうして久しぶりに『二人で入浴』タイムを満喫できたのだ。


「『上巳らしい日』…どういう意味か、わかりますよね?」
甘酒のように白濁し、桃の香りが漂う湯の中で、
赤葦は伸ばした足で黒尾の腿をスルリと撫で…その刺激に黒尾はまたもや絶句。
そして、「今日は…上司が、腿で絶句の日か。」と、しょーもない一言を口走った。

赤葦は憮然とした表情で、黒尾の腿を撫で続ける。
ストレスも疲れも、アレもコレも…溜まりに溜まった一か月。
両腿の間に足を這わせると、そこには既にしっかりと鎌首をもたげた…『蛇』。

黒尾は赤葦の腕を掴んでグっと引き寄せ、腿上に乗せた。
久々の『再会』…二匹の『蛇』が、その頭を擦り寄せ合い、歓喜に震える。

「一月も『御無沙汰』しちまって…悪かった。」
「そんな『謝罪の言葉』なんて…要りません。」

年度末の個人事業主なんて、どこも似たような状況のはず…仕方ないですよ。
ですが、毎年この状態が続くとなると、さすがの俺も…イロイロと辛いです。
家族と従業員、そしてご自身のためにも、ちゃんと『息抜き』して下さい。
きっとその方が、仕事も家庭も…スムースにいくに違いありません。

ですから、謝罪の『言葉』じゃなくて…
「きっちり『行動』で…謝罪をお願いします。」

「わかった。桃の節句らしく、桃色のセック…」
黒尾の『しょーもない二言目』は、途中で赤葦に呑み込まれた。
次の句を絶たれる程…蛇のように絡み合う、濃密なキス。

たったこれだけでも、触れ合う蛇が『生殺し状態』だと絶叫し始める。
その突き上げるような情動に、言葉にならない声しか出てこない。


黒尾は赤葦の『お願い』通り、『上巳らしい行動』を開始した。

入浴剤で滑る黒尾の指は、抵抗らしい抵抗もなく、中へと吸い込まれていく。
キスをしながらその指を蠢かすだけで、赤葦からは桃のような甘い声が立ち上る。

「ちょっ、と、待っ…も、もう…っ」
「悪ぃ、俺も…っ、持たねぇ、わ…」
蛇は寄り添っているだけなのに、『準備』だけで、もう限界間近だった。
それは黒尾の方も全く同じ…指を絞められているだけなのに、息が上がる。
そして程なく…蛇は同時に歓声を上げた。

「うっ嘘だろ…たったこれだけで…スマンっ」
「それだけ…溜まってたって、ことですね…」

どれだけ過酷な一月を送っていたのか…これ以上ない『証拠』を、カラダが示した。
黒尾は赤葦を強く抱き締めると、心の底からもう一度「悪かった。」と謝ると、
入れたままだった指を、再び動かし始めた。


「きっちり一か月分…ご奉仕させて頂くぜ?」
「いっ一か月分!?本気…みたい、ですね。」
蠱惑的な上司の囁きに、赤葦は頬を桃色に染めて絶句した。



- 完 -




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※七夕と饒速日尊・瀬織津姫について →『予定調和
※歌垣について →『雲霞之交
※鏡餅と丸餅について →『愛理我答(年始編)
※縄文式土器について →『同意足増(月山編)
※前回の『二人で入浴』 →『翌日来春


2017/03/02

 

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