▲ご注意下さい!▲
この話は、BLかつ性的な表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)
いよいよ『春♪』ですね。
春らしい『↓方向』の話です。
それでもOK!な方 →コチラをどうぞ。
「もう…ひな祭りの季節か。」
「桃の花も咲いて…春です。」
黒尾法務事務所は、年度末修羅場の真っ只中である。
一月前の節分に、「明日の立春から…『春』になったら修羅場モード」と、
宣言した通りの日々…『食う・寝る』以外は仕事しかしていない毎日だ。
「自宅兼事務所ってのは、通勤がない分すっげぇ楽なんだが…」
「気分の切替え時間が、全くない…本当に仕事ばっかりです。」
お役所絡み、特に再開発や建築に関わる仕事の場合、仕方のないことではある。
だが、この一月は冗談抜きで休みナシ…ストレスと疲労のピークである。
「あぁ…皆でのんびり『酒屋談義』してぇよな。」
「久しく…料理すらままならない状態ですしね。」
今日はひな祭り…『上巳(じょうし)』である。
上巳とは『上旬の巳の日』…つまり、『蛇の日』ということだ。
今まで『酒屋談義』では、蛇を通して日本の歴史を考察してきたこともあり、
本来であれば、この上巳にこそ、じっくり蛇のことを語り合いたかった。
「蛇のことを知ってから…『ひな祭り』の見方も、かなり変わったな。」
「『これでもかっ!!』っていうぐらい、『蛇』のオンパレードです。」
『上巳の節句』の起源は平安時代よりも前と言われているが、
元々は本格的な農耕が始まる前に、健康と『厄除』を願ったお祭りだった。
雛人形に穢れを乗せ、水に流す…『流し雛』という風習が、今も各地に残っている。
「どこかで聞いたような話ですね。」
「あぁ。思いっきり『蛇』だよな。」
穢れを乗せて、水に流される…七夕のモデルとなった、饒速日尊・瀬織津姫だ。
瀬織津姫は、大晦日に奏上される『大祓祝詞』に出てくる、災厄抜除の女神で、
人々の罪や穢れを蛇のように『かか呑み』して、あの世へと流されていた。
「そう言えば、七夕に飲むのも、桃の節句と同じ…『甘酒』だな。」
「上巳は蛇の日ですから…蛇に力を与える『酒』はアウトですね。」
また古代中国では、上巳に『曲水の宴(きょくすいのうたげ)』を行う風習があった。
水の流れがある庭園で、流れに盃を流し、その盃が自分の前を通り過ぎるまでの間に、
詩歌を詠んで盃の酒を飲み干し、水に流すという…『禊』の儀式だ。
この様子を描いたのが、書道史上最も有名な書作品…王羲之の『蘭亭序』である。
「同じ古代中国には、上巳に『春遊踏青』という行事もあったそうです。」
「『踏青』…ピクニック、野遊びのことか。杜甫の『麗人行』だったか?」
『三月三日天気新 長安水辺多麗人』…天気の良い春の日に、水辺に男女が集まって、
詩歌を贈り合い、遊ぶ…つまり、野外乱交パーティである。
「思いっきり『歌垣(かがい)』のことですね。」
「蛇の交尾を模した、春の大切な行事だよな。」
現代の『ひな祭り』にも、『蛇』の痕跡が多く見られますが…その前に。
赤葦はそう言うと、「お内裏様とお雛様~」と、ひな祭りの歌を歌った。
「雛人形の男雛が『お内裏様』で、女雛が『お雛様』…間違いだそうです。」
「そうなのかっ!?歌でもそう言ってるし…てっきりそうだと思ってたぞ。」
天皇と皇后を表す『男女一対の雛人形』を、『内裏雛』と言う。
これは天皇の住居を『内裏』と呼ぶことに由来するらしい。
つまり、『お内裏様』でも『お雛様』でも、『男女一対の雛人形』を表すのだ。
『うれしいひなまつり』の歌から、この誤用が広まってしまい、
作詞家はこのことをずっと後悔していたそうだ。
「性別と言えば、『五人囃子』の皆さんは…全員男性だそうです。」
「『能』のお囃子を奏でる楽人かっ!能は…女人禁制だったよな。」
そして、『能舞台』が『お雛様御一行』にいるということが、ある事実を示唆する。
「『能』は、怨霊鎮魂のためのものです。」
「即ち、『蛇』を鎮めるためのものだな。」
『御一行様』に、三歌人や三賢女が入る場合もあるのだが、
三歌人の柿本人麻呂、小野小町、菅原道真に、
三賢女の紫式部、清少納言、小野小町…全員が、日本を代表する怨霊達である。
「和歌だって…『鎮魂』が主たる目的の一つでした。」
二人の随身…右大臣・左大臣を表す『右近の桜・左近の橘』だってそうだ。
元々右近は桜ではなく『梅』…梅は勿論、菅原道真で、
左近の橘は、橘諸兄(たちばなのもろえ)をはじめとする、橘氏であろう。
橘氏は藤原氏の宿敵…謀反の疑いをかけられ、一族は表舞台から姿を消した。
「徹底して『蛇』…『まつろわぬ者』が勢ぞろいか。」
だとすると、お雛様は『天皇・皇后』と言われているが、
もしかすると、そうではなく…例えば『饒速日尊・瀬織津姫』という可能性も…?
黒尾は両手を『く』の字に合わせてパっと開き、『ひし形』を作った。
『ひし形』は、ひな祭りに出てくる『菱餅』だ。
「正月に、『鏡餅』と…丸餅の話をしただろ?」
「鏡餅は『かか身』…とぐろを巻く蛇でした。」
お正月の餅は、関西では『丸餅』が基本であり、丸餅は蛇の『卵』を表していた。
「関東では、『のし餅』だが…こちらも元々は『ひし形』に切ってたらしい。」
「『ひし形』ですか?あっ!もしかして…蛇の『鱗』を模していたんですか!」
菱紋は『縄文式土器』に多く描かれた文様が由来とされている。
その文様は紛れもなく、蛇の鱗を描いたものである。
見事なまでの『蛇』づくしに、二人は絶句した。
ひな祭りは、文字通りに『巳の日』…『蛇の絶句』である。
「やっぱり、皆で『ひな祭り談義』したかったな。」
「この時期でなければと、心から悔しく思います。」
二人は顔を見合わせて、苦笑いしながらため息をついた。
ところで、黒尾さん。
『酒屋談義』も久しくしていませんが…
「こうして『二人で入浴』も…実に久しぶりですよね?」
「確かにな。前回一緒に入ったのは…まさか節分か!?」
節分翌日から修羅場に突入したせいで、日課だった『二人で入浴』もままならず、
こうして互いの素肌に触れ合うのも、その時以来…一か月ぶりだ。
そんなに長いこと、仕事しかしてなかったという事実に、黒尾は再度絶句…
黒尾がその事実に気付いてなかったことに、赤葦は絶句した。
「だから、ツッキー達が…強引に『半休』にしたんだな。」
「大ボケな上司を持つと…我々部下は、本当に大変です。」
2月末〆の納品も、無事に終わりました。まだ修羅場とはいえ…少し休みましょう!
もう僕らも限界です。今日は…『上巳の節句』ぐらいは、『それらしい日』に…!!
…と、午前中に部下達から泣き付かれ、今日は午後半休になった。
その結果、こうして久しぶりに『二人で入浴』タイムを満喫できたのだ。
「『上巳らしい日』…どういう意味か、わかりますよね?」
甘酒のように白濁し、桃の香りが漂う湯の中で、
赤葦は伸ばした足で黒尾の腿をスルリと撫で…その刺激に黒尾はまたもや絶句。
そして、「今日は…上司が、腿で絶句の日か。」と、しょーもない一言を口走った。
赤葦は憮然とした表情で、黒尾の腿を撫で続ける。
ストレスも疲れも、アレもコレも…溜まりに溜まった一か月。
両腿の間に足を這わせると、そこには既にしっかりと鎌首をもたげた…『蛇』。
黒尾は赤葦の腕を掴んでグっと引き寄せ、腿上に乗せた。
久々の『再会』…二匹の『蛇』が、その頭を擦り寄せ合い、歓喜に震える。
「一月も『御無沙汰』しちまって…悪かった。」
「そんな『謝罪の言葉』なんて…要りません。」
年度末の個人事業主なんて、どこも似たような状況のはず…仕方ないですよ。
ですが、毎年この状態が続くとなると、さすがの俺も…イロイロと辛いです。
家族と従業員、そしてご自身のためにも、ちゃんと『息抜き』して下さい。
きっとその方が、仕事も家庭も…スムースにいくに違いありません。
ですから、謝罪の『言葉』じゃなくて…
「きっちり『行動』で…謝罪をお願いします。」
「わかった。桃の節句らしく、桃色のセック…」
黒尾の『しょーもない二言目』は、途中で赤葦に呑み込まれた。
次の句を絶たれる程…蛇のように絡み合う、濃密なキス。
たったこれだけでも、触れ合う蛇が『生殺し状態』だと絶叫し始める。
その突き上げるような情動に、言葉にならない声しか出てこない。
黒尾は赤葦の『お願い』通り、『上巳らしい行動』を開始した。
入浴剤で滑る黒尾の指は、抵抗らしい抵抗もなく、中へと吸い込まれていく。
キスをしながらその指を蠢かすだけで、赤葦からは桃のような甘い声が立ち上る。
「ちょっ、と、待っ…も、もう…っ」
「悪ぃ、俺も…っ、持たねぇ、わ…」
蛇は寄り添っているだけなのに、『準備』だけで、もう限界間近だった。
それは黒尾の方も全く同じ…指を絞められているだけなのに、息が上がる。
そして程なく…蛇は同時に歓声を上げた。
「うっ嘘だろ…たったこれだけで…スマンっ」
「それだけ…溜まってたって、ことですね…」
どれだけ過酷な一月を送っていたのか…これ以上ない『証拠』を、カラダが示した。
黒尾は赤葦を強く抱き締めると、心の底からもう一度「悪かった。」と謝ると、
入れたままだった指を、再び動かし始めた。
「きっちり一か月分…ご奉仕させて頂くぜ?」
「いっ一か月分!?本気…みたい、ですね。」
蠱惑的な上司の囁きに、赤葦は頬を桃色に染めて絶句した。
- 完
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※七夕と饒速日尊・瀬織津姫について →『予定調和』
※歌垣について →『雲霞之交』
※鏡餅と丸餅について →『愛理我答(年始編)』
※縄文式土器について →『同意足増(月山編)』
※前回の『二人で入浴』 →『翌日来春』
2017/03/02