ご注意下さい!

この話は、連休中も超過労働スレスレな、BLかつ性的表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さいませ。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)


    それでもOK!な方  →コチラへどうぞ。

























































※『業務日報』その後。



    共連残業







「あ…危なかった…」


食堂で赤葦と晩飯兼打ち合わせをしている最中、ちょっとしたアクシデント…
遅くまで狭い所に陣取っていたせいで、スタッフさんの邪魔をしてしまった。
運搬中の野菜の箱にぶつかった影響で、俺と赤葦の太腿が互い違いに交錯し、
更には膝で思いっきり腿の間…脚の付け根を押し合うカタチになったのだ。

ソコはまあ、言うまでもなく、男にとっては敏感かつ非常に大切なトコであり、
もっと勢いよく強めにガツン!とイっていれば、揃って逝っていたという、
『大事故』に繋がる恐れがあった…昇天の一歩手前、危機一髪の状況だった。

何が一番危ないって、物理的な痛みよりも、むしろ精神的なダメージの方だ。
もし『大事故』だった場合は、双方共倒れの『笑い話』で済んでいたはずだが…

   (本当に、ギリギリセーフだった…)


俺は現在、大絶賛片想い中…赤葦のことを、憎からず想っている。
どんなに早出でも深夜残業でも、赤葦との超過勤務は俺にとって楽しいばかり。
仕事の面倒さや疲れなんか全く感じず、むしろ『癒しタイム』になっている。

本来なら、残務処理は一秒でも早く片付けて、赤葦を休ませてやるべきだが、
たまにしか会えず、二人きりになれるのも、打合せや残業ぐらいだけだから、
一秒でも長く一緒に居たい気持ちの表れか…どうしても作業の手が進まない。


赤葦の業務量が膨大で、日々大変な思いをしていることは十分承知している。
合宿中の残業だって辛いはずなのに、そんなそぶりは一切見せることなく、
軽妙なトークと穏やかな笑顔で、連れ残業を楽しい時間にしてくれている。
その細やかな気配りと優しさが嬉しくて堪らず、余計にダラダラ…悪循環だ。

本当に大切な相手だから、無理は絶対にさせたくないのも、紛れもなく本心だ。
それでも、赤葦の朗らかな笑顔の中に、『作り物』や『演技』の気配はなく、
少なくとも嫌がっているようには見えないことを、自分に都合よく解釈し、
赤葦の優しさに甘え…それを申し訳なく感じるというジレンマに陥っている。

   (狡い男で…ゴメンな、赤葦。)


さっきの危機一髪アクシデントだって、俺の脳内にまず浮かんだ言葉は、
『ラッキー!!!!』の一言だった。

梟谷合宿所のスタッフさん達は、所属を問わず等しく親身に接して下さり、
何不自由ない合宿生活を陰から支え、俺達全員を可愛がってくれている。
どう考えても『業務』の範疇を超えた手厚いサポートに、頭が下がる思いだ。

特に俺は、食事も入浴も最後で、迷惑と手間をかけまくっているというのに、
オマケやおやつをくれたり、時間的な便宜をコッソリ図ってくれたり…
挙句の果てに、赤葦との不可抗力的な触れ合いまでガツン!と下さったのだ。

背中に当たった野菜箱の重さや硬さなんか、全く感じなかった。
ただただ、両脚の間に挟み込んだ赤葦の腿の、予想外の柔らかさと温もりに…

   (危うく、硬くなりかけた。。。)


俺だって、健康優良な高校男児だ。
好いた相手と不意に身体が触れ合えば、心臓が飛び出るほどドキッ!とするし、
体温や感触まで体感できる密着ともなれば、否応なくグンッ!とキてしまう。

あれがもう少しだけ強い『接触事故』だったら…膝で強く刺激されていたら、
互いに腿を挟み合うあの状況下では、俺の『変化』は誤魔化しようもなく、
赤葦との良好な関係を、修復不能なまでにぶち壊していたかもしれないのだ。

その結果、俺の片想いが無惨に散ることは、大したことじゃない…自業自得だ。
だが、それによって赤葦に嫌悪感を抱かれ、気まずい思いをさせてしまえば、
今後の業務に支障が出るだけでなく、合宿や部活そのものに響きかねない。

心から惚れ込んだ相手だからこそ、そんな思いはさせたくない。
だから絶対に、俺の想いは…赤葦に知られるわけにはいかないのだ。

   (忍耐力が高くて…助かったぜ。)


とにかく、今の友好な関係を維持し、心地良い片想いライフを継続するため、
赤葦に嫌われる恐れのある事態は、極力避けなければならない。
これ以上は近づかず、じれったい距離感をできるだけ長く保持したい…
そんな俺の我儘のせいで、スタッフさん達にも連れ残業を…本当にすみません。

せめてもの罪滅ぼしにと、俺は入口で赤葦と別れた後、食堂内へ一人逆戻りし、
大量の野菜箱を厨房等へ移動するのを、少しだけお手伝いさせて頂きながら、
赤葦への劣情(と、腿に残る感触)を、必死に脳内から追い払った。

…つもりだった。


手伝いを終えると、多大な感謝の言葉と共にオマケの冷え冷えドリンクを2本…
それと、見慣れた白いジャージをポンと手渡されてしまった。

今の今まで、赤葦君はリネン室で清掃班の手伝いをしてくれていたんだが、
しっかり者の赤葦君が、珍しく忘れ物…ドリンクと一緒に届けて欲しいんだ。
『清掃中』の札が出ているが、赤葦君は風呂に入っているはずだから、
黒尾君も我々が清掃を開始するまで…2時間ぐらい、のんびり浸かるといいよ。

…という依頼を、俺は快諾。
さすがにそこまでの長風呂はしないが、ありがたくのんびりさせて貰おう。
預かった赤葦のジャージを肩にかけ、大浴場へ向かう…途中で、
俺は浴場入口の扉ではなく、その向かいにあるトイレの個室へと駆け込んだ。

   (せっかく、忘れかけてたのに…っ)


   肩にふんわりとかかる、温もり。
   さらりとした、柔らかい手触り。
   鼻を掠めゆく、ほのかな残り香。

何気なく肩にかけていたジャージから漂ってきた、赤葦の気配。
まるで間近に居るような…赤葦に包まれ触れ合っている錯覚に陥った上に、
頭から消し去ったつもりだった腿の感触まで、触れた部分に蘇ってしまった。

触覚と嗅覚の威力は、強烈かつダイレクト…微々たる忍耐力など役に立たず、
赤葦の膝に強く押し上げられたかのように、ドクンと脈打ち熱を放ち始めた。
こうなってしまえば、抑えることなど不可能…適切に発散させるしかない。

   (悪ぃ、赤葦…本当に、すまねぇ…)


極力音を立てないよう、そろりそろりとズボンを下ろして腰掛ける。
暖房便座の温もりが、余分な力を程良く抜いてくれて…目を閉じて深呼吸。

大きく吐いた息で、肩に掛けたままだったジャージがふわりと揺れ…
同じ分だけ吸い込んだ空気の中に、はっきりと『赤葦』を感じ取ってしまった。
その瞬間、掌の中で自身が音を立てて膨張し…上下に動かす速度が上がる。

漏れそうになる声を抑えるべく、硬く目と唇を閉じて俯くほどに、
肩と頬に当たるジャージの感触と、鼻から入る香りを強く意識してしまう。
閉ざした口内で彷徨う舌の動きだけが、脳内に浮かぶ相手の名を呼び続ける。

「っ…ぁ…っ」


あっという間に…もう限界近く。
荒い呼吸と衣擦れ音を押し込めるため…そう自分に言い訳しながら、
ジャージのかかる肩の方に頭を倒し、その中に顔を埋め、歯を食いしばる。
すまない…と謝るフリをしつつ、唇の端で布を食み、触れ合いを想像し続ける。

こんなトコで、こんなコトに、赤葦の所有物を使ってしまう自分が、
情けなくもあり、申し訳なくもあり…背徳感が、手の動きを余計に加速させる。


「ゴメ、ンっ、あ、かあ、し…っ」

ペーパーを巻き取るカタカタ音と、激しい流水音に掻き消して貰いながら、
俺はジャージの中にそっと、想い人への懺悔を包み込んだ。




***************




「ん…んんんっ…」


濡れた髪と額から滴り落ちる雫の音、喉の奥でくぐもり途切れ途切れの声、
そして、水気の混じる手の動きと、それに連れて湿ったタオルが擦れる音。

たった一人で独占する広い大浴場では、それらの卑猥な音が大きく反響し、
羞恥心と遣る瀬無さと、手の中の自身を文字通りに増長させていく。
誰も居ない、誰も来ないからと言って、こんなトコで、こんなコトを、堂々と…

マズい…とは、十分わかっている。
それでも、事故的に触れ合った部分に伸びる手を、止めることはできなかった。

「ん…ぉ、さ…んっ」



俺は、黒尾さんのことが…好きだ。
勿論これは、俺の一方的な片想いで、気持ちを伝えるつもりは毛頭ないし、
絶対に外に出してはならない、胸の内に秘め続けるべきものだとわかっている。

似たような役職、似たような性格。
爽やか好青年の笑顔の下で策謀を巡らせる腹黒さが、そもそもツボなのだが、
本心を悟られないよう毒を吐いているのに、優しさを隠しきれていなかったり。
そんな照れ屋で不器用で優しい黒尾さんに…惹かれて当然じゃないか。

   (本心読めないトコが…最高にイイ。)


自分でもどうかしてると思うぐらい、黒尾さんのことが好きで好きで堪らない。
普段はクソ面倒な雑務も、黒尾さんと一緒なら全てが御褒美に感じてしまうし、
一秒でも長く傍に居たくて、わざと間違えたり捗らないフリをしてみたり。

更には、トマト&きのこアレルギーだと勝手に自己診断&申告しているのに、
食堂のスタッフさんがウッカリ間違え、俺のお皿に山盛りによそってくれても、
黒尾さんに「あ~ん♪」する口実ができたと狂喜する程…惚れ込んでいる。

   (もっとずっと、一緒に居られれば…)


今日なんて、スタッフさんのナイスアシストのおかげで、思いがけず大接近。
(いろんな意味で)たつにたてない状況に陥ったが、それでも俺は嬉しかった。
本当は触れたくて、近づきたくて堪らない人の体温と感触をこの身に感じて、
喜ばない人間は、この世に居ないはず…不愛想で激辛口な俺だって、そうだ。

あまりの嬉しさに、浮かれ回って飛んでしまいそうな自分を抑えるためにも、
リネン室前で作業中だったスタッフさんに声を掛け、感謝を込めてお手伝い。
そして、たまにはゆっくり浸かりなよ〜と、『清掃中』の札を渡された。

こっちは大部分が下心だったのに、2時間も大浴場を独占させてくれるなんて、
申し訳ないやら有難いやらだが、一言で言うなら…『ラッキー!!!!』だ。


意気揚々と大浴場へ向かい、指示通りに『湯』と書かれたのれんを外すと、
代わりに『清掃中』の札を掛け、脱衣所の電気を最低限まで落とした。
こうしておけば邪魔は入らない…スタッフさんの『休憩テク』だそうだ。

お借りした大判バスタオルを重ねて脱衣所の床に広げて敷き、準備完了。
風呂上がりにココでゴロゴロ寝そべり、扇風機を独占する計画…贅沢の極みだ。

タオルと共に頂いたボディケアセット?の試供品を手に、いざ!お風呂場へ。
誰も居ない洗い場の真ん中に陣取って、隅々までスッキリと全身を清めていく。
そして『本日の出来事』を反芻する中、腿に触れた感触を思い出し…今に到る。



合宿所の大浴場には驚くほど不釣り合いな、明らかに高級そうなボディソープ。
もうすっかり泡は落としたのに、脳髄をトロリと融かす上品な香りが、
蒸気と共に広い浴場内を対流し…自分のカラダをすっぽり包み込んでいく。

   (何か、この香り…ぽわ~っとする…)

女子力高そうな…おセレブな雰囲気の嗅ぎ慣れない甘さが、妙に響く。
夢見心地でぽわぽわ…不思議な空気に包まれていると、熱がせり上がってくる。

   (媚薬って…こんなカンジ、かな?)


洗い終わった後も椅子に腰掛けたまま、両脚をギュっと閉じてから、
軽く乗せていたタオルの下で熱を放ち始めた部分を、右手でそっと包み込む。
ゆるゆると上下に扱くと、すぐに全身と浴場の熱がそこに集まってきて…
右手はいつも通り一定の速度を保ったまま、左手はいつもと違う動きを始めた。

   いつもより滑らかでしっとりした肌。
   膝頭を掌の真ん中でクルクル撫でる。
   その手を閉じた両脚の間に沿わせて、
   割り込ませながら…強く撫で上げる。

頭に想い描くのは、食堂での出来事。
ちょっとしたアクシデントで、好きな人と触れ合えた…ラッキーな事故だった。

   (逞しくて…あったかかった…っ)


そう…こんなカンジで、この場所に、あの人の脚が挿し込んできて。
ココに膝が当たって、キュっと圧され…

「ん…ぁっ」

あの人の体温と、擦れ合った感触を思い出すだけで、全身が痺れてくる。
右手のリズムに合わせて漏れ出てくる吐息が、ソープの甘い香りと混ざり合い、
その甘美さに誘われるように、唇はあの人の名を延々と形作り続ける。

「くっ…ぉ、さ…っ」

最初は形だけだったはずが、徐々に音になって漏れ出てくる。
その卑猥な声が浴室中に反響し、いけないコトをシていると自覚…背が震える。
このギリギリなドキドキ感が、痺れるほど…キモチイイを煽り立てていく。

   (あっ、もぅ…イき、そう…っ)

   最後に一度だけ、あの人の名を。
   ちゃんと声で呼んで…イきたい。

右手の速度を上げ、左手を強く挟み、唇をすぼめて一文字目の音を…


   「赤葦…居るか?」

トントン…控えめなノックの音。
脱衣所との間のガラス戸越しに人影が見え…遠慮気味にカラカラと開き始めた。

扉が全て開き、ずっと呼び続けていた人が浴場に入って来るより一瞬だけ早く、
俺は湯船に飛び込み…頭からタオルを被って、中でちんまり体育座りをした。




***************




「独占のんびり中…邪魔して悪ぃな。」
「くっ、黒尾さん…お疲れ様です!!」


確かに俺は、さっきからずーっと、黒尾さんを呼び続けてはいたし、
できればもーーっとずーーーっと一緒に居たいなぁ~とも、思い続けてもいた。
でも神様、今まさにこのタイミングじゃなくてもいいですからっ!!!

   (は…早く、出て行って…っ!)


「えーっと、何のご用でしょう…!?」
「ご用って、風呂に入りに…そうだ!」

お前がリネン室にジャージを忘れてたから、届けて欲しいって頼まれたんだ。
お礼のジュースも一緒に脱衣所に置いといたから…風呂上がりに頂くといいぞ。
スタッフさん凄ぇ喜んでたし、優しくて良い子だね~って、ベタ褒めしてたよ。
何故か俺まで嬉しくなったっつーか、俺が代わりに褒めておいてくれって…

「赤葦、お手伝い…エラかったな!」
「あ…ありがとうっ、ございます!」

黒尾さんに手放しで褒められ…嬉しさのあまり、顔がデレデレ緩んでしまう。
背を向けて、タオルで顔を隠しといて、ホントーによかった!!!
…じゃなくて、今ココで俺を褒めるのも勘弁して下さいっ!!
嬉しすぎて『きゅん♪』&『ギュン!』ってなっちゃいますからっ!!

   (何とか、話を…変えないとっ!)


「あ、あの、そこに置いてある小さなボトル…よかったら黒尾さんもどうぞ!
   お手伝いの御褒美に頂いたんですが…一人で使い切れなかったので、ぜひ!」
「お、これか?風呂中に凄ぇイイにおいが漂ってるのは…これだったんだな。
   備え付けのとは、全然違う高級感…お言葉に甘えて、俺も使わせて貰おう。」

ちょうど真後ろ辺りに座ったらしい黒尾さん…シャワーで全身を流す音。
そしてすぐに、上品な香りが新たにふわりと立ち昇り始めた。

   (に…似合わないっ!!ふふふっ)

超体育会系の無骨な野郎には、この香りが似合わないことこの上ない。
他人事のように俺はちょっと笑ってしまい…慌てて頬を引き締めた。

よしっ、今の内に…
静まれ…落ち着くんだ、俺。
↓に集中してた血を、↑に…脳に回すんだ!!…って、何か音駒っぽい。


これからお風呂ということは、まだしばらくの間は黒尾さんもココに居るのだ。
背を向けている以上、出す…じゃなかった、出るタイミングを計り辛いから、
アタマやカラダを洗っている時にそっと脇から抜け出すのは、位置的に不可能。

それに、お世話になってる先輩に、挨拶もなしに出るなんてのは絶対にダメ。
でも、挨拶したらコッチを向かれてしまい、コレを見られてしまう恐れがある。
となれば、チャンスは一度きり…黒尾さんが湯船に浸かるその瞬間に、
反対側をクルリと向きながら湯船から出て、脱衣所そして…向かいのトイレ!

このタイミングを逃せば、次は黒尾さんよりも長風呂し、後に出るしかない。
でもこれはかなり危険…そこまで俺が耐えられるとは、到底思えない。

   (早く、出した…出たいっ!)

とりあえず今は、他愛ない話で場を持たせて…気を逸らせるべし!!


「くっ、黒尾さんも、お風呂…まだだったんですね。
   こんなに遅くまで、一体どこで何をしていらっしゃったんですか?」
「えっ!!?どどどっ、どこで、ナニって、それは…
   あーあれだ、しょっ、食堂へ戻って、俺もスタッフさんの手伝い!」

「えっ!?黒尾さんも、ですか?それじゃあ、えーっと…エラいです、よっ!」
「っ!?お、おう!あ、ありがと、な。何か、めちゃくちゃ…照れ臭いなっ!」

急にわたわた焦り始めた黒尾さん。
ちょっと様子がおかしい気もするが…まぁ、そんなことは今はどうでもいい。
「結局俺ら、似た者同士なんだよな!」という『一緒♪』を表す言葉や、
話の流れで黒尾さんを褒めたら、予想外にテレテレ~とか、なんかもう…っ!!

    (俺をこれ以上、悦ばせないで…っ)


他愛ない話でお茶を濁そうとしていたのに、全くの逆効果。
こんな状況じゃなければ、最高にデレデレで幸せな『癒しタイム』だったのに…
むせ返るほどに濃厚な香りと、浴場中に反響する大好きな人の声に包まれ、
クラクラしそうなぐらい、カラダ中に熱が回り…痛いぐらいに、熱い。

このまま二人で、もっとずっと楽しくお喋りし続けたい気持ちは山々だけど、
普段は穏やかで大人しい俺の『山』が、今は噴火寸前…もうホント、限界。。。


「このソープ、スベスベなのはいいが…流し切れてないカンジもするな。」
「そ、そうなんですよね!それでいて、シットリ吸い付くカンジもして…」

肌と肌が触れ合う感触なんて、自分の腿の間ですらゾクっとするんですよね~
…と、余計なコメントをすんでのところで飲み込み、一人で焦りまくる。

深~~~い呼吸で、何とか落ち着きを取り戻そうとしていると、
黒尾さんが立ち上がって隅へ向かい、洗面器と椅子を山に積む音がした。

   (もうすぐ…入ってくるっ!)

アタマに被っていたタオルを、そろりそろりと湯船の中に沈める。
マナー違反してゴメンなさい!と謝りながら、タオルで『山』を隠し…

   (…今だっ!!)

「横、お邪魔するぜ。」
「どうぞごゆっくり!」


一人分の間を開けて、黒尾さんが湯船に片足を入れ始めたタイミングで、
俺は計画通り、黒尾さんに背を向けるようにして、勢いよく立ち上がり…

   (…えっ、な、なに…?)


   グラリと傾ぐカラダ。
   白く靄がかかる視界。
   水音と、俺を呼ぶ声。
   背中を包む、温かさ…



********************




「………???」
「気付いたか…」

よかった…体、ちょっと起こせるか?
支えててやるから、これ…もし飲めるなら、しっかり飲んでくれ。


言われるがまま上体を起こすと、冷え冷えのボトル…蓋を開け、手渡された。
ゴクゴクと音を立てて飲む…あぁ、美味しい。物凄く喉が渇いていたみたいだ。

冷たい水でアタマもスッキリ。少しずつ周りの状況が見えてきた。
ここは…薄暗い脱衣所。床に敷いたバスタオルの上、扇風機の涼やかな風…

「少しは…落ち着いたか?」
「っ!?くろお、さん…?」


立てた片膝と腕で俺を支え、心配そうにこちらを覗き込んでいる…黒尾さん。
見慣れないオールバックから、水滴がポタリ…と、肩を伝って滑り落ちて行く。

「水も滴る…イイ男、ですね。」
「お、もう…大丈夫そうだな。」

緊張していた頬をホッと緩めると、髪から垂れた水滴が俺の頬に当たった。
驚いて目をパチクリさせると、柔らかく微笑みながら親指で拭ってくれた。

   (ちょっ…か、カッコいい…っ)

ぽぽぽっ♪と紅く染まりかけた顔を隠そうと、横に目を逸らし…
そこでようやく、自分達の状況が目に飛び込んできた。

   (は…ハダカっ!!?)


そ、そうだ。思い出した!
俺は大浴場で大欲情し…(中略)…黒尾さんがナカに入ってきて…
もう出るっ!ってトコでふわり…意識をトばしてしまったんだ。
略し方が若干アレな気もするが、結論としては、黒尾さんに多大なご迷惑を…!

「す、すみませんっ!」
「赤葦、悪かったな。」

俺が謝るのと同時に、何故か黒尾さんの方も俺に対して謝ってきた。
意味がわからずキョトンとしていると、俺の濡れた髪をタオルで包み、
顔がお互いに見えないようにしてから、軽く撫でつつ水気を拭い始めてくれた。


「俺のせいで…しんどかっただろ?」

赤葦がどのくらい前から湯船に浸かってたのか、確認もしないままに、
俺がアレコレ話し掛けて、それに律儀に応えてくれて…途中で出られねぇよな。
お前と会話するのが楽しいあまり、長々とそれに付き合わせてしまって、
赤葦は浸かり過ぎてのぼせ上がり…本当に申し訳なかった。

「これはっ、黒尾さんのせいじゃ…」

黒尾さんがいらっしゃる前から、自分一人で大盛り上がりだったんですよ〜
…とは言えないが、これは黒尾さんが直接的な原因ではない(遠因ではあるが。)
どうか責任を感じたりしないで欲しい…が、それを上手く伝えられない。
言葉を探している内にタオル越しにアタマをぽんぽんされ、小声で囁かれた。


「しんどかったよな…ソレ。」

俺が風呂に来るタイミング…『最悪』だったんじゃねぇのか?
同じ男だから、その状態で『待った!』をかけられるツラさは、よくわかるよ。
合宿中でストレスやらアレやら溜まっちまって…そうなって当然だよな。

誰も居ない、来るはずのない大浴場を独り占め…俺もきっと同じコトをする。
だから、恥ずかしがることはないし、やっぱり俺が…悪かった。
お前が気を失ってたのは、ほんの5分。ココは元気なままで、安心したよ。

「ーーーーーっっっ!!!!」


最初は何の話をしているのか、いまいちピンとこなかったが…
素っ裸で倒れ、運んで貰ったのなら、ココが『お元気!』なのもバレバレだ。
あぁ…コレを見られたことよりも、熱源だった人に介抱されたことが、
情けなくて申し訳なくて…羞恥を感じるよりも、罪悪感に包まれてしまった。

あまりの居た堪れなさで、じわり…と、涙が浮かんできた。
タオルで顔を隠しててくれて、ホントに助かった。
「ごめんなさい」と、タオルの下で口を動かそうとした…その瞬間。
降ってきた言葉と自身に感じた熱で、口から謝罪ではないものが出てしまった。

「今…楽にしてやるから。」
「え?あっ!?…ぁっ!!」


腰付近に置かれたタオルの上から、硬さを保ったままだった部分を撫でられ…
俺は驚きのあまり息を声を失い、ストンと全身から力が抜けてしまった。

抵抗らしい抵抗など全くできず、支えてくれていた黒尾さんにしがみ付くと、
大丈夫だから…な?と、あやしながら俺をバスタオルの上にそっと横たえ、
背後からすっぽり包み込むように黒尾さんも添寝…今度は直に触れられた。

「んっ!!あ…あぁ…っっっっ」
「赤葦の肌…スベスベだな…っ」

腿と腿がジャージ越しに触れ合っただけで、あんなに気持ち良かったのに、
素肌と素肌が触れ、後ろ全部を覆われたら…もうこれだけで意識がトびそうだ。
更には、大きくて温かい手で、熱を握り込まれ刺激されるなんて…

「ゃ…、ダ、メ…っ、そんな、のっ」
「恥ずかしがらなくて…いいから…」


恥かしい…?そんなコト、もう考える余裕なんて残っていない。
先走りの蜜が絡み、クチュクチュと淫靡な音を立てているのも、どうでもいい。
俺が気にしているのは、そんな些細なことじゃなくて…

背後から伸びる黒尾さんの腕を、震える手で掴んで抑え、動きを止めさせる。
荒い呼吸で喘ぎながら、「お願い、待って…っ」と懇願する。

「好きな人に、こんな風にされたら…すぐ、イっちゃいます、から…
   もっと、じっくりと…キモチイイを、味わいたい…っ」


半ば朦朧としながら思ったままを口に出すと、黒尾さんの動きがピタリと停止。
そしてすぐに、隙間なくぎゅーーーっと強く抱き締められ…

「好きな人の、こんな姿を見てたら…そんなコト言われちまったら…
   嬉しすぎて、俺の方が…先にイっちまいそうだった…」

グイっと腰に当てられた…熱。
自分が何を言い、黒尾さんに何を言われたのか…それを理解するよりも前に、
俺はクルリとカラダを反転させ、黒尾さんに思い切り抱き着いていた。


   貪るように唇を食み合い。
   腿と腿を交互に挟み込み。
   互いの熱もしっかり重ね。
   共に包んだ手で刺激する。

いつイったのか、何度イったのか。それすら朧気で、ほとんど覚えていない。
ただひたすら気持ちヨくて、幸せで…無我夢中にお互いを求め合った。


自分達がナニをして、二人の関係性がどう変化したのか。
それをはっきり自覚したのは、呆然としたまま朝食を食べた後…
「二人共…よかったね。」と、スタッフさんから耳打ちされた後だった。




- 完 -




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※半年後の二人 →『暗中夢中


2018/05/03

 

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