※『大失策!研磨先生』後日談



    大収穫!研磨先生







「ついに、この日が来たね。」


ひと月程前に、今日スタートの『フェスティバル』を知ってから、
どんなにこの日を待ち望んだだろうか…

コレがあったからこそ、毎週末訪れる連続修羅場を乗り越えられたし、
フェスティバルを楽しむ資格を得られたと、自信を持って断言できる。

「この日のために、3個ぐらい前の三徹修羅場明けにも関わらず…」
「あからさま過ぎるぐらい、『幸運無駄遣い王』を甘やかしましたからね…」


夏休み最終日、ジャンプショップで購入した『猫&梟カフェ』カレー。
一箱に1つ、黒尾・研磨・木兎・赤葦のうちいずれかのオマケが入っており、
『幸運無駄遣い王』こと黒尾は、そこでも一発で『クロ赤』を当ててみせ、
その名誉ある贅沢称号が『マグレ』ではないことを、ガッツリ証明していた。

この話を、黒尾法務事務所の面々及び、専属外注の研磨先生とした際に、
少なくとも9月末開催の『フェスティバル』が終わるまでは、
無駄王を大事に扱おうと、黒尾以外の4人は勝手に誓い合っていた。

   全ては『大収穫祭』のために。
   幸運を無駄遣いさせるために。

その目的のためだけに、延々続く苦しい修羅場を耐え抜いたし、
記憶を飛ばしながらも、ひたすら黒尾を甘やかす『ミニシアター』を創作した。


「ちょっと待て。あの怒涛の『記憶喪失考察&ミニシアター』は、まさか…」
「勿論、孤爪師匠の御指示…『クロをとことん甘やかしとく計画』ですよ。」

さすがの俺達も、タダで黒尾さんの貴重な幸運を我が物にしようなんて…
そこまで図々しい部下達じゃありませんから、まずは『先行投資』です。
修羅場明けかつ孤爪師匠の居ないトコなら、きっと巧くヤれるから…と、
記憶を消してしまいたい程の甘やかし…いわば『羞恥プレイ』を敢行しました。

「そうでもなきゃあ、あんなに黒尾さんにサービスしないよね~」
「いくら疲れてるからって、僕達があそこまでデレデレするわけないでしょ。」

まさかとは思いますが、僕達が本気…いや、100%純粋な気持ちのみで、
甘ったれたり、恥ずかしいことを言い続けてたなんて…思ってませんよね?
もしそうだとしたら、実に甘ちゃん…自惚れるにも程がありますから。


「世の中も運も、部下も幼馴染も…そうそうクロの思い通りにはいかないよ。」

ま、そういうわけだから、皆の努力と期待には、キッチリ応えて貰うから。
それが上司…兄貴分ってもんだよね?だから、さっさと財布と…幸運出して。


「お前ら…俺のこと、何だと思ってんだよっ!?」

あまりに酷い扱い(ネタばらし)に、黒尾はガックリ項垂れた。
3個前修羅場明けに、可愛い部下達に労わって貰えるという僥倖を授かり、
その悦びを糧に、あと2つ修羅場をこなしたというのに…あんまりだ。

もしも『大収穫祭』で『イイモノ♪』を当ててやらなかったら、
きっとボロクソに言われるだろうなぁ~とは思っていたが、
まさかあの『記憶喪失』の考察全部が、幸運吸収作戦にすぎなかっただなんて…
せめてその『内実』を黙っとくぐらいの優しさは、くれても良いじゃないか。


「どう思ってるかって…聞きたいの?」
「えっ、ホントに言っていいんです?」
「言わないでおいてあげるのが、僕達なりの『優しさ』ですよ?」

頼むから…言わないでくれ。
ちょっとでも「幸せな上司だな~」と、調子乗った俺が間違ってたんだよな。
ジメジメとイジけ始めた黒尾…その肩をそっと抱いたのは、赤葦だった。


「黒尾さん。皆は俺に遠慮して、ワザとキツく言ってるだけですよ?」

あまりに黒尾さんを褒め過ぎると、俺がヤキモチ焼いて暴走してしまう…
それを防止するために、あえて厳しいツッコミを下さってるんです。

三人がかりでツンツンしておかないと、俺のデレデレとバランス取れなくなる…
黒尾さんが俺のために、幸運を贅沢に無駄遣いしまくるのを見越して、
致し方なく、心を鬼にして、止むを得ず悪態をついてるだけ…

「ですから、黒尾さんは心置きなく俺のためだけに…お願いします♪」
「あぁぁぁっ、赤葦っ!!やっぱり俺の味方は、お前だけなんだな…」


うっわ、この参謀…恐ろしく狡猾。
実は赤葦が一番厳しいことを言っているのだが…黒尾は全く気付いていない。
それか、気付かないフリをしているとすれば…冗談抜きで優しい王子様である。

まあ、赤葦がこうして『ネタ』にしてくれたおかげで、
自分達がデレデレしまくった恥ずかしい記憶を、笑いに変えることができた…
いくら作戦だったとしても、あのデレデレは…ぜひ忘れて欲しい痴態だ。
その辺りも含めて、赤葦は本当に恐ろしくデキる参謀である。


「そういうワケだから、クロは自分と…赤葦のために、幸運を使いなよ。」
「僕達は僕達で、自分のくじ運を楽しみたいですしね。」
「俺らには、ちょっとだけ…黒尾さんの幸運を『お裾分け』して下さいね~」

それじゃあ、秋の『大収穫祭』へ…いざ出陣!!

何だかんだ言いつつ、4人は笑顔で四方から黒尾に抱き付き、
研磨先生が当たりをつけておいたイベント会場…本屋さんへと向かった。



フェスティバルこと、『一番くじ〜秋の大収穫祭』バージョン発売。
前回とは別の場所…月山ライン(路線記号TY)沿線商店街の本屋さんへ入ると、
4人はくじを売っているレジが見える、階段付近で円陣を組んだ。

「前回同様、各家庭2回ずつ…実質は俺だけ2回で、君らは一人1回。」

このイベントの目的は…グッズを得ることじゃなくて、『くじ』を楽しむこと。
何が当たるか…そのドキドキ感を味わうことが、最重要だから。

「さすがのクロも、連続で赤葦狙いは無理だろうから…過剰な期待は御法度。」
「全54種…目玉商品の『ウインドアートボード』は、そのうち11種です。」
「目玉のA〜K賞のどれかが当たる確率は、20%程…何だ、意外と高いね〜」

とは言え、ピンポイントで『J賞赤葦』が当たる確率は1.8%…かなり厳しい。
これを当てなかったからと言って、とてもじゃないが黒尾を責められない。
むしろ、ドンピシャで当てた方が気持ち悪い…そのレベルの確率である。
実際に数字でちゃんと出してみると、純粋に『くじ』を楽しむ気持ちになれた。


「まず最初は、めでたくメインキャラ入りを果たした…月島と山口から。」

一番手に指名された二人は、ゴクリと喉を鳴らして頷いた。
健闘を祈る…と、残りの三人も頷き返すと、山口は黒尾の手を取って握手した。

「ちょっとだけ、黒尾さんの幸運…お借りします!」
「ぼっ、僕も贅沢な幸運の一部…『お裾分け』を、頂きます!」
「おう、行って来い!!」

右手で山口、左手で月島の手をギュっと握り締め、黒尾は二人を送り出した。
研磨先生と赤葦も、その儀式を手に汗握って見守った。


レジへ赴いた月島達は、握手した方の手を『くじ』の箱に突っ込んで引き…
それぞれ緑と赤の小箱を受け取り、引き上げて来た。

「僕は『O賞』の、3年ラバーストラップで、山口は『N賞』…2年です。」
「今回は同じ賞じゃなかったけど…せーので開けようよっ!」

5人はまるでブロックの壁を作るかのように、声を揃えてせーの!と掛け声…
中から出てきたのは、実に可愛らしいコンビだった。





「音駒の夜久さんと、烏野の西谷さん…チビっ子リベロのコンビです!」
「元から可愛い人が、デフォルメされると…破壊力抜群の可愛さですね~♪」

やったぁ…ツッキーと『可愛いリベロ』のお揃い♪と、山口は嬉しそうに笑い、
年長組と月島は「山口も可愛い。」と、4人でわしゃわしゃ髪を撫で回した。


「じゃあ次は、俺が行って来る。」

研磨先生は真剣な表情でレジへ…一歩進んで、すぐに黒尾の前に戻って来た。
そして「気休めだけど…」と一瞬抱き着き、幸運の『お裾分け』を受けた。

「うわぁ〜、見てるだけでもキンチョーするねっ!」
「くじをめくって…あっ!?」

4人が見守る中、くじを引いた研磨先生は…目を大きく見開いた。
そして、珍しく力一杯『ガッツポーズ』をキメて、こちらにピースしてみせた。

「店員さんが、デカいボードを…研磨先生、目玉をゲットですよっ!!」
「しかも今チラっと…『黒髪短髪』が、果物を持ってるのが見えたよっ!?」
「もしかして…赤葦かっ!?」
「確かに俺は…梨のはず!!」


クリーニング屋でもらうのよりも大きなビニール袋を抱え、意気揚々と帰還…
激レアな満面の笑みを湛え、研磨先生は4人の前にその袋を掲げて見せた。

「『一番くじ』との勝負…勝った!」

先生は厳かな表情で、袋からゆっくりとボードを引き上げ始め…
ボードのウインド部分から、紛れもなく『黒髪短髪』がチラリと見えた。

「俺がゲットした『黒髪短髪』の人気キャラは…この人だよ。」





「せっ、青城の…岩泉さんっ!!」
「前回に引き続き、またしても…ニアピンですね~♪」

前回の『全国への軌跡』でも、研磨先生は赤葦…と思いきや、岩泉だった。
実に惜しいっ!!が…ついに目玉商品ゲットに、5人はハイタッチし合った。

「赤葦さんを怒らせる覚悟で、黒尾さんに抱き着いた…研磨先生の勝利です!」
「本当に…先生、お見事です!」

万雷の拍手を受けた先生…いつもなら不機嫌そうに「やめてよ。」なのだが、
今回は嬉しそうに「アリガト♪」と、笑顔で全員と握手を交わした。


「もう一つ、俺が当てたのは…『M賞』の1年ラバーストラップ。中身は…」




「翔陽だね。これで、各学年の可愛いおチビさん…コンプリート。」
「やった!先生もお揃いですね~♪」
「僕か山口じゃないのは残念ですが…3人でお揃いは、嬉しいですね。」

研磨先生と弟子二人は、輪になって手を繋ぎ、ご機嫌で「バンザ~イ♪」…
実に微笑ましい姿に、黒尾と赤葦もほっこり頬を緩めた。


「研磨が目玉を当てたし、残る俺達は…ま、気楽に楽しもうぜ?」
「えぇ。ニアピンでも大当たりが出ましたから…大満足ですね。」

でもまぁ、とりあえず俺も…
と、目を閉じて両腕を広げかけた赤葦と黒尾を、研磨先生達は慌てて引き離し、
いってらっしゃい!!と強引に背中を押してレジへと追い立てた。

「あ、危なかった…あれは絶対に、『抱擁』以上の『吸引行動』する構え…」
「『お裾分け』じゃなくて、ガッツリと幸運を『絡め取る』つもりでしたね。」
「月島、山口…赤葦の動きから、目を離しちゃダメだからね。」


三人が別の意味で緊張しながら、レジの方を注視していると、
まずは赤葦が『くじ』を引き…店員さんがDVDぐらいの箱の山を持って来た。

「あれは、おそらく『L賞』のアクリルスタンドですね。」
「あ~っ、赤葦さん狡…賢いっ!山の中から、黒尾さんに選ばせてますよ!」
「その手があったか…さすがは赤葦、狡猾参謀だね。」

幸運の『お裾分け』ではなく、直接ソレを使える…伴侶ならではの特権だ。
『くじ』自体を引いたのは赤葦だから、この黒尾利用法は…セーフだろう。

そして、最後は大本命・黒尾の番。
何のためらいもなく、ズボっと手を突っ込んでスポっと取り出した。
一切の迷いがない、全く無駄のない動きが、実に男らしく…少しカッコイイ。

ピリピリと『くじ』をめくり…黒尾は何故かほんのり苦笑いを見せた。
横から『くじ』を覗き込んだ赤葦は、ビクリと完全に凝固し、ふらり…

「月島っ、山口っ!!」
「赤葦さん、回収っ!」
「ラジャりましたっ!」


研磨先生の号令に、月島と山口は猛然とレジへと飛び出し、
崩れ落ちる寸前の赤葦を抱え、無事に回収して戻って来た。
そして、急いでレジの方を振り向くと、店員さんがまたしても大きなボードを…

「ちょっ、また…目玉ゲットっ!?」
「しかもっ、く、黒髪短髪だった…」
「ジャージも、白っぽく見えたし…」

悠然と4人の前に戻って来た黒尾。
黙ったままおもむろに袋をずり下げ、中身を披露した。





「う、うそ…」
「じょっ、冗談でしょ…」
「あ、赤葦っ!しっかりっ!!」

目の前に広げられた『目玉』に、意識をトばしかけた赤葦…
研磨先生は赤葦が当てた『L賞』の方を握らせて、何とか意識を引き戻した。

「ほらっ、赤葦はこっち…開けて?」

震える手で、箱を開ける赤葦。
チラリとその中を覗き…今度は涙を堪えきれず、黒尾にしがみ付いた。





「こっ、こっちも…赤葦さんです…」
「1.8%×1.8%=0.03%ですよ…っ」

ここまでくると、凄いというよりも…寒気がする程の無駄遣いっぷりだ。
いや、贅沢だとか無駄だとかも超越し、恐怖すら感じてしまう。


   声を押し殺して咽び泣く赤葦。
   声を失って身震いする、三人。

だが黒尾だけは腕に赤葦を抱いたまま、淡々とスマホを操作していた。
しばらくすると、赤葦の頭をポンポンと撫で…静かに謝罪した。

「俺自身が欲しくてたまらなかった…赤葦ばっかり当てちまって、ゴメンな?」

赤葦ご所望の俺グッズは、お前にプレゼントしてやれなかったけど、
代わりにコレを…お前のスマホに送ってやるから、赦してくれねぇか?





「これは…っ!!?俺が欲しくてたまらなかった、黒尾さんですっ!」
「『ダブルチャンスキャンペーン』ってやつ…俺が当たったんだよ。」

『一番くじ』を引いたあとの『お持ち帰り用』の半券から応募できる、
ダブルチャンスキャンペーン…50名様に抽選でグッズが当たるそうだが、
それに外れた場合、メインキャラ11名の画像が、ランダムで一つ貰える。
11分の1(約9%)の確率ではあるが、見事に黒尾は黒尾をゲットしてみせた。


ピロリ~ンという音と共に、黒尾画像を受け取った赤葦は、
ソッコーでそれを待受画面に設定し、潤んだ瞳で黒尾(本体)と見つめ合った。

「黒尾さんがどれだけ俺を愛してくれているか…よくわかりました。」
「赤葦への愛は、この程度じゃねぇ…帰ったらそれを証明するから。」


場所もわきまえず、熱烈抱擁『等』でデレデレを振り撒く…黒尾と赤葦。
研磨先生と弟子達は、それを制止することも、正視することもできないまま、
『大目玉ボード』でイチャつく二人を覆い隠しながら…呆然と呟いた。

「照れ隠しなんてせずに、素直に黒尾さんへの愛を、伝えておけばよかった…」
「何なら、一回ぐらい抱かれといたら、もっとイけたかもしれないね…」
「クロの『赤葦LOVE』度合を、軽く見積もり過ぎた…大失策だよ。」


HQ!!『一番くじ』…秋の大収穫祭。
『ミニシアター』にもできないような、想像の範囲を大きく逸脱する結果に、
4人は心の中で、「黒尾さん(クロ)に一生ついて行こう。」と、深く誓った。




- 終 -





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※夏休み最終日『猫&梟カフェカレー』の件 →『大失策!研磨先生
※『クロをとことん甘やかしとく計画』 →『億劫組織
※前回の『一番くじ』 →『的中!?研磨先生⑥

※赤葦ボードを広げると、こんなカンジになります。



※黒尾以外の敗者復活画像は、日向・影山・岩泉・木兎・牛島でした。


2017/10/06    (2017/10/03分 MEMO小咄より移設)

 

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