三路分岐







つつがなく、波風の立たない、穏やかな日々を…


定年後の老夫婦の如く、平穏無事な生活を願っていた二人。
だが、平均値を大幅に超える頻度での『フラグ』襲来により、
身の丈に合った目標である『ただの幼馴染』という現状を、
変更せざるを得ない事態が、次々と訪れていた。

予測不能かつ厳選されたアレやコレに翻弄され、二人は偶発的にキス…
お互いのことを『ただの幼馴染』以上に想っていたことを、
大変遅ればせながら自覚した。
(ここまでは『論文』シリーズ)


とは言え、まだ自分達はたまにキスする程度…
『多少仲の良い幼馴染』で、実に『清い関係』だと、二人は暢気に自認していた。

そんなある日、烏合の衆ならぬ『烏野会議』により、
『山口女性説』及び『月島の子妊娠疑惑』が議決されかけ、
他者から自分達がどんな風に見えているのかという、
『公認っぷり』を、ようやく知ることとなった。(第一話・危言危行)

さらには、『介護』や『看護』といった大義名分の下に、
自らの『下の方』で燃え盛るアレとかソレを、
慰めきれないほど自覚するに至った。(第二話・心悸亢進)

また、『秘密結社襲撃』という災害にも遭い、
『αΩのつがい』と『阿吽の呼吸』が、言語は違えど同じ意味…
『ぁん♪ぅん♪のカンケー』でもあることに、
無理矢理気付かされてしまった。(第三話・抵抗溶接)


そして今、『今日、ウチ、親いないの…』という実にオイシイ展開。
これを僥倖と言わずして、何を言わんや…とばかりに、
二人は『ちょっと大胆な』一歩を、ギリギリの限界まできて、
やっとのことで踏み出そうとしていた…(第四話・弾性限界)


<あらすじ説明・終わり>


***************



ねぇ、山口…


耳元にそっと囁かれる、甘い『誘惑』。

言葉数は少なく、ほとんどが吐息であるにも関わらず、
体のあちこちが発赤し、熱を持ち、腫れて痛みすら感じてしまう。
その熱に浮かされて、脳が機能不全に陥ってしまいそうだった。


この場の雰囲気と、誘いに流されてしまえば、
もう、『ただの幼馴染』には引き返せない。
この先へ進むたった一歩は、もう元に戻れない…
『限界』を超える力を持つ一歩なのだ。


耳元へ、再度『誘惑』のキス。

俺は意を決し、呟いた。




    α:「戸締り・ガス栓・給湯器の確認…しよ?」 (全年齢対象)

    β:「アタマで考えるの…もうムリ、かも。」 (R-15女性推奨)

    Ω:「ここじゃ…ヤだ。」 (R-18淑女専用)




*************************************

※最終話は、α・β・Ωの三路をご用意致しました。お好きなものをお選び下さいませ。
   ただし、βには若干ながら(R-15程度?)、ΩにはR-18相当の性表現が含まれます。
   閲覧に際しては十分お気を付け下さい。
   なお、『Ω』は当シリーズの完結には、ほぼ影響はありません。


















    十把一絡   
      
 ~指に触れる愛が5題『絡めた指が愛になる』~









「戸締り・ガス栓・給湯器の確認…しよ?」
「…ナイス山口。すっかり忘れていたよ。」


ちゃんと寝間着を着て、風呂場の換気扇を回し、ツッキーと俺は揃って脱衣所を出た。

「…くぅ~っ!」
「…染み渡る。」

手は腰に。足は肩幅に。
冷蔵庫の麦茶を、二人並んでグビグビ飲み干した。

もうすっかり『通常』…
先程の際どい雰囲気はどこへやら、いつもとほぼ変わらぬペースに戻っていた。


いつもと少しだけ違った点は、その後の戸締り・ガス栓・給湯器確認の任務を、
二人で手を繋いで…遂行したことだろう。

自宅の中を、ツッキーと手を繋いで歩き回るのは、新鮮というか…
手を繋いで歩くこと自体が、初めての経験だ。

「手を繋ぐって…なんか凄いドキドキするね。」
「確かに、意識レベルは極めて『通常』に近い分、余計に自己を客観視するから…」

要は、ツッキーも柄になく照れている…ということだ。
勢いに流されてアレコレするよりも、自分の意思で踏み出す方が、
実はずっと恥ずかしくて…勇気が必要かもしれない。


「…点検確認、完了。」
「これで、安心して…」

…ナニをするというのだ。
自分のセリフの『続き』に脳内でツッコミを入れると、
全く同じ想像をしたらしいツッキーと目が合い、二人で笑ってしまった。

「…寝ようか。」
「…そうだね。」

柔らかく微笑むと、ツッキーは繋いだ手に少しだけ力を込め、
俺の手を引きながら、部屋へと上がった。



壁を背に、ベッドに並んで腰掛ける。
いつもは周りに、寝る前の『考察』用の本や雑誌が散らばるが、
今日は何もなく…ただ、二人で静かに手を繋いでいた。

繋がった手と、引っ付いた半身から、互いの温もりと鼓動が伝わってくる。
眠気すら誘う、穏やかで心地良い空気が、部屋中を包み込む。

「ツッキーと一緒に居ると…すごく落ち着くよ。」
「それには全面的に同感だね。若干…眠いくらいだ。」

戸締り確認をちゃんとした影響もあるかもしれないが、
こうして二人で居ると、絶対的な安心感がある。

「俺達、実はお互いに…『寝たい』相手じゃなくて…」
「『眠たい』相手だったんだね。」

『あうんのカンケー』が、『ぁん♪ぅん♪のカンケー』になったのと同じように、
『ねたいカンケー』と、『ねむたいカンケー』…たった一文字入るだけで、随分と違ったものになる。
クスクスと笑い、俺はツッキーの肩に頭を乗せた。
ツッキーも、その頭に頬を寄せてくれた。

何のストレスも感じない、まさに…リラックスの極地。
微睡むような心地好さに、改めてお互いの『相性』の良さを実感した。

「ツッキーからは、人をリラックスさせる…『α波』が出てるのかも。」
「毒を吐いてる自覚はあるけど…この僕から『α波』を感知するのは、
   この世で唯一…山口ぐらいだろうね。」
山口の方こそ、眠気を誘発する『α波』…出しまくりだよ。

暗に『一番(眠たい相手)』だと言われ、俺はそれだけで嬉しくなった。


「あのまま…流されなくて、正解だったかもね。」

ゆっくりとした口調で、ツッキーは話し始めた。

「お恥ずかしながら、あの後どうすれば良いのか…実践的な手順は、未調査なんだよ。」
「俺も…よく知らないよ。いつもツッキーに調査を任せきりで…ゴメン。」

つい先日まで、俺達は実に『清い関係』で、
一歩先に進む可能性に思い至ったのも、ごく最近。
手順を事前調査する時間すらないまま、『絶好の機会』が訪れただけだ。

「きっと僕と山口のことだから、あのまま流されたとしても、
   そこそこ『ステキな結末』にはなっていたと思う。」
根拠はないが、俺もそうだと思う。
繋いだ手を握り、同意を表した。

「でも、こうして一呼吸置いたことで、判明したこともある…」
「何もしなくても…こうして一緒に居るだけで、幸せを感じられる。」

間違いなく、ツッキーと俺は…『ただの幼馴染』じゃない。
この絶対的な安心感と信頼は、例えるならば、そう…

「昔話の…『おじいさんとおばあさん』みたいな境地だね。」
「僕達の人生目標通り…だよね。」

ツッキーと二人なら、『つつがなく穏やかな日々』を楽しむことができる…
それが、流されなかったことで、判明したのだ。


繋いだままだった手。
ツッキーはその手を少しずらし、指と指を絡めるように、しっかりと握り直した。

「…勿論、これから二人でじっくり『考察』しながら、
   アレやコレの『相性』も…確認していくつもりなんだけどね。」
「今後の『実践的な』考察も…二人で楽しめそうだね。」

絡め合った指に力を入れ、強く握り合う。
今後を約束するかのように、ゆっくりと口付けを交わした。



「もしも…」
先日からずっと、ツッキーに訊きたかったこと。
今なら、この場でなら…

勇気を振り絞って、俺は口を開いた。
「もしも俺が、ツッキーの子を妊娠したら…」

聞き取れるかどうかわからない程の、震えた声しか出なかった。


俺の微かな不安を感じ取ったのか、
ツッキーはそれを払拭するかのように、はっきりと答えてくれた。

「もしもそういう事態が生じたら…その時は、当然責任を負うよ。
   だけど、それを嬉しく思うかは…現時点の僕には、全くわからない。」

あぁ、勘違いしないでよ…と、ツッキーは即座に続けた。

「今は僕自身が子どもだから、未だ『子どもが欲しい』という感覚が、
   全く実感できないだけだから。
   ある程度の年齢になったら、欲しいと思うかもしれないけど…
   現段階では、何とも言えないよ。」

それは…俺も同じだ。
ツッキーらしい、素直で誠実な回答だ。


「それに、山口が男性か女性か、さらにはαかβかΩか…
   山口の『性別』と、『子ども』がいるかは、全く別の話だよ。」

子どもを作れるかと、子どもが欲しいか、そして、
実際に子どもができるか…これらは別問題、ということだろうか。

「互いの正確な性別や、子どもの有無によって、僕らの『関係』は様々なケースが考えられる。
   でも、そんな『カタチ』は…些細な事、でしょ?」
「大事なのは、『二人が幸せか?』ってコトだけ…」

あの日、烏野会議で決議された…大事なコト。
俺の不安に対する答えは、とっくに出ていたのだ。


「子どもがいても、いなくても、できなくても、
   そのケースに応じて、それなりに楽しい人生を送ればいい。
   どんな『カタチ』でも、二人が幸せなら…それで十分じゃないか。」
昔話の老夫婦…桃太郎もかぐや姫も、降ってわいた『養子』だしね。

わざと茶化すように言うツッキー。
それが、俺の胸につっかえていたものを、すっかり取り除いてくれた。

「やっぱり、今日は流されなくて…よかった。」
「もし万が一妊娠しても、僕なら大丈夫だと…わかったから?」

またしてもツッキーは茶化して言うが…その通りじゃないか。


少し前、ツッキーと『こういうカンケー』になったあの日。
たまには『アタマ』じゃなくて、『カラダ』に流されてみようと決めたけれど、
その時はまだ、ツッキーを『受け入れる』かどうかは…次のフラグが来るまで『保留』にした。

ここ数日で、想像以上…怒涛のように降り注いだ『フラグ』たち。
そして今、『この人なら大丈夫…』という、絶対的安心感を得た。

この安心感と信頼があれば、俺はツッキーに…身も心も委ねることができる。


繋いだ手はそのままに、俺はツッキーに向かって両腕を広げた。

「ツッキーとなら、どんな『カタチ』でも楽しめる。
   俺は、『流される』んじゃなくて…喜んで『受け入れる』よ。」


次の瞬間、俺は広げた以上に大きな腕と暖かさの中に、 すっぽりと包み込まれていた。



- 完 -


**************************************************

※十把一絡(じっぱひとからげ)→いろんなものを、区別せずに、全部ひとまとめにして扱うこと。
※α波→微睡み時等、リラックス時に出ていると言われる脳波の形状。

※指に触れる愛が5題『絡めた指が愛になる』

2016/05/09(P)  :  2016/09/08 加筆修正



 

NOVELS        選択肢へ戻る
















    試用制限   
       
~炎症の五大兆候『機能障害』~








「アタマで考えるの…もうムリ、かも。」
「じゃあ…『下』に流されてみようよ…」



ツッキーは、今出てきたばかりの浴室の扉を再度開け、 俺の手を引いて中へ誘った。
まだ熱が残る浴室…浴槽の蓋を半分だけ開けると、
浴室内はさらに温かい空気に包まれた。

「二人とも、まだ病み上がりだから…冷えないように、ね。」

そう言って、ツッキーは湯気と同じぐらいすっぽりと、その腕で俺を包み込んだ。


また、キスを繰り返す。
覚えたての技を熟練させるかのように。
何度も何度も、角度や深度を変えながら、
自分達が『しっくり』くるような方法を探り続ける。

体が動く度に、互いの体の間で熱を放つ存在が触れ合い、さらにその熱を上げていく。

換気扇の音が、吐息とキスの音に交ざり、 それが脳の機能を鈍化していく。
足元を微かに涼しい風が掠めていくが、二人の熱を醒ますには、遠く及ばない。

大きく体の角度を変える振りをしながら、触れ合う部分を摩擦し、刺激を与える。
そろそろ限界を超えたい…と伝え合う。

舌を絡め、絡み合った下にも、指を絡める。
自身を慰めるかのように、ゆっくりと相手の熱を煽っていく。


自分で慰めているのと、ほとんど同じようで、少しだけ…違う動き。
まるで、自分の『ツボ』を熟知されている…そんな錯覚を抱く程、『的確』な動きだった。

「すっごい…気持ち、イイ…ツッキー、よく、ご存知で…」
「それは、こっちのセリフだし…実は当然の、結果だよ。
   僕達は同じ『流派』…いわば、『同門の徒』なんだから。」

ツッキーの言葉で、俺はようやく思い出した。
こうして一緒にするのは…これが2回目だということを。


「『ツッキー、俺…死んじゃうかも。』って、泣きながら来たよね。」
「あの時は…不治の病だと思ったんだよ。」

中学に上がった頃、初めて『寝起きの惨状』を経験した俺は、
パニックと絶望で…ツッキーに別れを告げに行った。
俺の話を聞いたツッキーは、「僕にもわからないから…」と、
縋るような思いで助けを求め…『隣』の部屋の戸を叩いた。

そこで俺達は、一緒に師匠の手解きを受け、『技』を伝授されたのだ。

「俺達は…同じ『明光流』の、門下生だったね。」
「あれから数年…山口もなかなか、腕を上げたみたい…だね。」

懐かしい思い出に、二人で笑い合う。
その微笑みは途中からキスに変わり、
自分の…自分と相手の『ツボ』を、ピンポイントで刺激し合う。

キスの相性が良かったのには驚いたが、こちらの方は、『当然の結果』…
二人でこうすることが、むしろ『自然の成り行き』であるようにすら感じた。


「山口はどうやら、僕との間に何かあると、
   『夢』に僕が出てきて…『反応』しちゃうみたいだね?」
産婦人科に駆け込んだあの日…どんな『夢』を見たの?

ツッキーは秘密の話をするように、吐息とともに耳元で囁いた。

通常であれば、『反応』してしまった『夢』の内容なんて、
とても言えるものじゃない…本人に対しては、特に。
だが、高まる熱に機能障害を起こしてしまった脳は、
考えることを放棄し…『下』に委ねろとだけ指示を出した。


「これが…今のこの状況が、『夢』だったんだ。ツッキーと、こうする…『正夢』だよ。」

就寝中に見た『夢』の話をしたはずなのに、
それが自分の『夢』…願望だったかのように聞こえた。

ツッキーにも、そう聞こえたらしい。
俺の答えに、これ以上ないくらい…嬉しそうに微笑んだ。
その歓びを、舌と下への刺激で、ストレートに伝えてきた。

本来なら、嫌がれて軽蔑されるかもしれないのに…
『下』に従って、素直に白状して、良かったな。
脳が働かない方が良いこともある…今回が、そのケースなんだろう。


「質問ついでに、もう一つ…どうして、あのお菓子…食べちゃったの?」

今日の帰り道。
危ないとわかっていながら、好奇心に負けて口にした、激辛スナック。
この時も、脳が機能不全を起こして、気付いたら…口に入れていた。

「俺、結構『弾性限界』は高い…気がしてた、から。」
「まあ、毎日僕の『すこぶる辛い』口撃に曝されても、ケロリとしてるぐらいだからねぇ…」
でも、それと『痛みに強い』は、別物でしょ。

ツッキーは呆れ顔をしながらも、限界に近い『だんせい』を、優しく撫で続けた。

もうそろそろ…本当に、限界だ。


俺は懇願するように、ツッキーを強く速く促した。

「何かあっても、俺にはツッキーがついてるから…大丈夫。
   何があっても、俺は『ツッキー耐性』が異常に高いから…」

ツッキーの口撃も、辛さも痛みも…俺は、大丈夫。


俺の言葉に、ツッキーの脳も制御不能に陥ったみたいだ。
限界を超える強さと速さで…漸く熱を解放させてくれた。



「今回は、僕らの知識と経験がある範囲内までの、 いわば『お試し』だったけど…」
「さっきの言葉に、二言はないよ。」

風呂から出て、部屋に戻った俺達は、ベッドで向かい合い、ゆったりとキスをしていた。
熱さと快感に浸った後の心地好い疲れに、半ば微睡みながら…

「お試し版…『β版』は、『製品版』よりは機能を制限されてても、
   それはそれで、充分楽しめる試用品だよね。」

今回は、完全な『製品版』…二人で『最後まで』…には、至らなかった。
いきなり『製品版』を使いこなす、知識も経験もなかったのだけれども、
その一歩手前…『β版』を試した『ユーザーの感想』としては…

「『製品版の購入を真剣に考慮する』…これが、僕の正直な感想だよ。」
ツッキーは言葉通り、真剣な表情で試用感想を述べた。

俺も同じように、『β版』の感想を正直に話した。

「『β版』って、製品版よりは劣る…ってイメージあるけど、
   『β版』は改良を重ね続けることで…進化するんだよね。」


しばらくの間『β版』を、もっと改良して…二人で『進化』させるか、
それとも、さらに上の『製品版』へと、『深化』させるか…

どっちでも、俺は…大歓迎、かな。


- 完 -



**************************************************

※明光流の門下生→『技能伝承


2016/05/09(P)  :  2016/09/08 加筆修正




 

NOVELS        選択肢へ戻る









    ▲ご注意下さい!

この話は、『R-18』すなわち、BLかつ性的な表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)

    それでもOK!な方  →
コチラをどうぞ。



































    愛米模糊   
       
~ラブコメ20題『あくまでラブコメしませんか』~








「ここじゃ…ヤだ。」
「抵抗…できるの?」


ここまで来て、今さら抵抗するつもりはない。
ツッキーの言う通り、抵抗なんて…もう、できない。

ただ、このままこの場所でイタしてしまうのは、いかがなものか。

そもそも…どうやってコトをイタすのか。
その詳細を、俺は…よく知らないのだ。

「ツッキーは…知ってる?」
「その件については…上で『作戦会議』だ。」

とりあえずバスタオルを腰に巻き、二人で俺の部屋へと移動した。



ベッドの上に向かい合って座る。
神妙な面持ちで…なぜか正座をして。

表情と仕草は真剣そのものだが、
腰にバスタオルを巻き、その一部が『上』を向いているのは…
二人の飽くなき『向上心』の表れ、ということにしておこう。


「山口は、どこまで知ってる?」
「アレをナニに突っ込む…ぐらいかな。」

身も蓋もない言い方に、ツッキーは苦笑いを溢した。

「色気も何も、あったもんじゃないけど…その通りだ。
   問題は、僕もその詳細な手順について…未調査だってことなんだよ。」

申し訳ない…と頭を下げるツッキー。
これに関しては、いつもの『無駄に博識なツッキー』でなくて、むしろ俺は、ちょっとホッとした。

「もうちょっと、二人で『考察』してから…『実践』する?」
「それは無理だね。もう『限界寸前』だから。
   とは言え、こないだみたいに『手順書』を確認しながらイタす…なんてのは論外だし。」

冷静に分析すればするほど、発熱する『現実』との…ギャップ。
さっきまでのイイ雰囲気な『ドキドキ』よりも、
これからどうなるのか?という、『わくわく』が勝ってきた。

「ってことは、俺達が持ってる知識を応用するなりして、とりあえず…やるだけやってみようか!」
「相変わらず、軟体動物並の適応能力…若干恐ろしくもあり、物凄く頼もしく感じるよ。」

それじゃあ…お手合わせ願います。
ツッキーと俺は、まるで歌合戦かのように、深々と頭を下げた。



「まず、なすべきことは…」

ツッキーはベッドの縁に座り直し、その隣をポンポンと叩いた。
俺がその指示通り真横に座ると、ツッキーはすぐに俺の背を抱いた。

ゆっくりと、啄むようなキスを繰り返す。
ツッキーの首に腕を回すと、ツッキーは両手で頭、髪、頬…と、順番に優しく撫でてくれた。

キスを続けながら、頬から首へ、そして肩へ。
ツッキーに回した腕から、肩甲骨にかけて。
体の形を確認するかのように、揉みながら撫でていく。

らせんを描くように、マッサージをするように…
丁寧に丁寧に、温かい手を滑らせていく感触。
この動きは、ごく最近…『身に覚え』がある。

「…気持ち良い。」
「それは…よかった。」

あの時と同じセリフを、二人でやり取りする。
タオル越しではなく、素肌で体を撫でられる感触は、 触れた後に『爽快感』ではなく、
逆に『発熱』しそうな感じで、あの時よりもずっと…気持ち良い。


俺を腕に抱いたまま、ツッキーはベッドに横たわった。
背を撫でていた手は、今度は臀部へ…清拭の『手順』通りだ。
円を描くように揉まれ…これもまた、熱が籠ってくる。

背面が終わると、俺は手順通り、仰向けになった。
両膝を軽く立てると、ツッキーはその間に圧し掛かりながら、
足の指、甲、踵、ふくらはぎ…心臓の方に向かって撫で上げる。

あの時とほとんど変わらない動きなのに、
『介護』じゃないものは、こんなにも…熱い。


腹部に『の』の字を書きながら、キスを続ける。

「山口は、『トロっとしたもの』って…何を想像する?」

手塩にかけて、大事に大事に…
ようやく最後まで取って置かれた部分に触れながら、 ツッキーが質問をしてきた。

快感と熱に耐えながら、必死に頭で考える。
最近触れた、『トロっとしたもの』と言えば…

「あ…『お粥』とか、『糊』かな…?まだ食べに行ってないけど、『天津飯』のあんかけも…」
「山口が『お米大好き!』なのはわかったけど、それはちょっと…
   デンプン質だと、乾いたら…パリッパリに貼り付いちゃうよ。」

そういう面では、コレも大差ないか…と、
少し零れて始めていた『トロっとしたもの』を指に取ると、ツッキーは俺の後ろに擦りつけた。

「あ…っ、それは…タンパク質?」
「大正解だけど…僕が探している答えは、それじゃないよ。
   『できるだけ抵抗を減らすもの』…わかるよね?」

電気抵抗を表す…『Ω』。
Ωと言えば、ギリシャ語の最後、24番目の文字。
24と言えば、24K…純金。
純金は、熱と電気の伝導率が高い…抵抗が非常に小さい物質だ。

Ωなのに、抵抗が少なく、熱をよく通す…

男性限界を超え、『トロっとしたもの』が放出されるのを耐えようと、
脳内で必死に、その快感に抵抗してみる。
抵抗すればするほど、熱を生じると…誰かに教わったのも、つい最近だけど。


「山口…忠。」
「え…っ!?」

一瞬、空耳かと思った。ツッキーが、俺の名前を…?
その瞬間、熱を抑えきれなくなり…ドクンと動悸が走った。


荒れた呼吸を、何とか落ち着けようとする。
放出したことよりも、名前を呼ばれたことで、脈が上がった気がする。

…そんな俺の細やかな『ドキドキ』には、全く気が付く様子もなく、
手に付いた『トロっとしたもの』を、ティッシュで拭きながら、
ツッキーは遠い目をしつつ、ひとり自問自答していた。

「目的を伝える…省略。氏名…只今確認。投与するものは…僕のコレ。
   その容量は…『普通のケーシング』ぐらい、かな。」
「な…何の、話?」

俺にわかったのは、ツッキーが『何かしらの手順』を確認し、
残念ながらその手順の『一環』として、俺の名前を呼んだこと。
そして、『普通のケーシング』が…『フランクフルト』だということだ。
あぁよかった…特大の『ボロニア』ソーセージじゃなくて…

「痛みを与えないよう、早めに室内に…入浴時から出しっぱなし。
   不必要な露出は避け…全露出が必要なため、割愛。
   側臥位か、膝を屈曲した仰臥位…まさに今、この体勢…『正常位』だ。」

ツッキーに看病してもらった翌日。
このベッドの脇に落ちていた…銀色の薬の包。
ツッキーが確認しているのが、『ナニの手順』か…さすがの俺にもわかった。


「潤滑剤を塗布し、挿入…今回も、代用品は…」
「あるから!『トロっとしたもの』…ここにあるから!」

指を舐め、唾液で濡らそうとするツッキーを、俺は慌てて止め、
ティッシュ箱の真横に置いてあった、『身だしなみセット』の籠…
その中にあった、数本のチューブの一つを、ツッキーに手渡した。

「…整髪料?これもまた、お粥っぽいというか、まさに『糊』だよね。
   さすがにコレは、粘膜に塗布するには…難アリでしょ。」
「ソレ、実は…潤滑剤なんだ。
   嶋田マートの棚卸手伝いの報酬で、『特薦集』と一緒に貰って…」

木を隠すなら森の中。
ツッキーも気付かない程、上手く隠せていたことに、俺はちょっとだけ、嬉しくなった。

「相変わらず、難アリの品揃えだね…ま、いいけど。」

不機嫌そうに呟くと、ツッキーは中身を手に取り、
冷たさに眉間を寄せながら、『投与するもの』に塗り付けた。


「尖っている方から、静かに4cm以上挿入する…
   だいたい、先の…『首』のあたりまで、かな。」

ある程度奥に入れないと、筋力で外に出されてしまうのだろう。
だから、そういう『思い切って…』的な注意書が、ゴテイネイに書いてあるのかな。

手順を正確に覚えているツッキーの記憶力に感心していると、
熱くて硬いものが、後孔にいきなり押し当てられた。

「山口…さっきみたいに、口呼吸して…力を抜いて…」

「わかった…じゃなくて、ちょっと待ってツッキー!
   その『手順』だけじゃあ、今回は…さすがにムリがあるでしょ!
   せめて…コッチにも、トロっと…応用しようよ!」

俺の指摘に、ツッキーは「成程…」と、納得顔で頷いた。
手順に正確なのはいいが…正確すぎるのは、大問題だ。

「今回の場合は、投与物の大きさも、投与時間もはるかに長い…
   事前にもっと、括約筋を弛緩させる必要があるだろうね。」

…危うく、『抵抗値Ω / 限界MAX状態』で投与されるところだった。
帰路に頂戴した、『好奇心が強すぎて痛い思いを…』という、
年長者の『ありがたい言葉』を思い出し、俺は身震いした。


「できるだけ、『Ω』は小さく…お願いします。」
「任務…了解。」


任務に忠実なツッキーは、俺の願望を完璧に聞き入れてくれた。
抵抗はないが、溶けそうなぐらいの熱にさらされ、
ようやくツッキーと俺は、最後まで…『溶接』し合った。

曖昧模糊とする、俺の意識と記憶…


最後に覚えているのは、マスクに包まれてないツッキーの笑顔と、
二人で天津飯が食べたいな…という、些細な願望だった。



- 完 -



**************************************************

※愛米模糊(あいまいもこ)→造語。やっぱり米が好き。
   やっぱり、愛米(ラブコメ)が好き…

※ラブコメ20題『20.あくまでラブコメしませんか』

2016/05/09(P)  :  2016/09/08 加筆修正

 

NOVELS        選択肢へ戻る