一揃二式







「赤葦、あれを見ろ…!」
「あれって、まさか…!」


仕事終わりの新宿。
鬱憤やら何やらをスカ~っ!とぶっ飛ばしたくなった黒尾と赤葦の二人は、
三丁目の本屋から、二丁目のバッテイングセンターに向かおうとしたところで、
ほんのちょっとした偶然から、意外なお店を二つも発見した。

「本屋のコミック館が向かいの別棟だったことも…全然知らなかったな。」
「しかもそれが、行きつけのスポーツショップと同じビルだったなんて…」

新宿レベルの巨大な都市になると、自分の『行きつけ』や『目的地』以外は、
ほとんど未知の世界…同じビルの別階や隣に何があるかも、よくわかってない。
同じ本屋の中ですら、自分が好きな分野以外はどこにあるかはっきりしない。

今日は本屋を出た瞬間、黒尾に仕事の電話…隣のビル脇に避けて待っている間、
目の前にズラ〜っと並ぶガチャを見つけて、漫然とそれらを眺めていた赤葦は、
お客さんが提げていた袋で、そこがアニメのグッズショップだと気付いた。


「ここが噂に聞く…『わくわくグッズショップ』だったのか!」
「凄い人の数…我らがHQ!!グッズも、あるかもしれません!」

偶然の大発見…これは何かに導かれたとみなし、入ってみるしかない。
少しばかり『おっかなびっくり』ではあったが、人の多さが逆に安心材料に…
スーツ姿の大柄な男二人でも、誰も気に留めないし目立たないことに安堵し、
物珍しいものだらけの店内を、二人はキョロキョロ観察しまくった。

「東京ドームのジャンプショップより、ずっと大きいですね。」
「ジャンプ以外のもあるからだろうが、物凄ぇ種類豊富だな。」

知っている作品自体が、そもそもあまりない二人は、ただ圧倒されるばかり…
これらの作品ごと、キャラごとに魅力があり、それらを愛す人々がいることに、
ちょっとした感慨というか、ちょっぴり感動すら覚えてしまった。

「グッズの量もさることながら…」
「溢れんばかりの愛…感服です。」


この膨大な愛の中で、果たして目的のHQコーナーに無事イけるのだろうか…
黒尾が若干不安を感じ始めた頃、少し前を歩いていた赤葦が急停止した。

「あっ!ありました、けど…」

あぁ、これはご幼少のみぎりの、月島蛍君と山口忠君でしょうか。
この小生意気な所が何とも愛らしい…良くも悪くも、全然変わってないですね。
他にもお年始の和服姿月山コンビも…二人はいつでも『仲良し』です。

「季節限定商品までも『セット』扱いだなんて、幼馴染様様でしょうね。」

黒尾さんも俺も、一応『人気キャラ』の枠に入れて頂いているみたいですから、
そこそこグッズはあっても、お互い地味なんで…『単体』では、ねぇ?

それは十分わかっていますし、未だ黒髪の『お子様孤爪師匠』も可愛いですし、
俺なんて所詮、輝かしいエースを際立たせるための『影』でしかないですから、
『単体ではない』『誰かのオマケ』という扱いも、商業的には致し方ない…
今まで通り予想通りで、俺は全〜然っ、これっぽっちも気にしてませんけどね。

「はい、調査終了。それでは二丁目へ…ボコボコに打ちにイきましょうか?」


あー、これはマズい。
公式グッズショップなんかに行ったら、こうなることは予測できたはずなのに、
赤葦はすこぶる『ご機嫌ナナメ』で、頬をぷっくり膨らませてしまった。
これは紛れもなく俺への愛情の裏返し…俺自身は頬の緩みが抑えきれないが、
そうデレデレしてもいられないぐらい、赤葦のヤキモチは実害甚だしい。

このままだと、腕も腰も使いモノにならなくなるまでバットを振り回しまくり、
歌舞伎町の夜空に快音を響かせ続ける…実に健全な夜を過ごしかねない。
仕事終わりの新宿歌舞伎町で、久しぶりの『チャンス到来♪』なんだから、
俺としては是非、別のバットを振り回して、赤葦の快音を聞きたいのだが…

何とか赤葦の気を『公式セット』から逸らせ、ご機嫌等を直立させなければ。
できるだけ平静を装いながら、目玉だけを周囲に巡らせ始め…
すぐに俺はその平静を引っ込め、声を上げて赤葦の頭上を指差した。


「赤葦、あれを見ろ…!」
「あれって、まさか…!」

赤葦の後頭部を掠めるように、天井からぶら下がっていた一枚のポスターは、
来るべき『季節のフェスティバル』を告げる、心躍るお知らせだった。

   『福を招け!豆は俺が持っていく!』

「一番くじ…節分バージョンが出るみたいだな!」
「出るみたいというか…何と今日から発売です!」

偶然発見したアニメグッズショップで、まさか今日から一番くじ発売とは…
これはもう、確実にアレとかに導かれたとしか思えないじゃないか。
赤葦のご機嫌も一気に元通り…キラキラした目でポスターを一緒に熟読した。

今回のは人気キャラ単体…ではなく、よりによって仲良し『セット』だった。
隣から聞こえてきた「チッ!」という舌打ちを、聞こえなかったフリをして、
毎度ながら面白いネタをぶち込んで来るよな~と、無難に笑って誤魔化した。

くじの内容としてはA~F賞が目玉で、G、H、I賞が毎度お馴染みの、
1年、2年、3年生のラバーストラップがそれぞれ当たるというものだった。
今回は『一番くじ愛好会』のメンツがあと3人居ないが…どうしたもんか。
改めて後日挑戦にすると、あっという間に売り切れのおそれもあるのだが…

「このフェスティバルは、前回『大収穫祭』でネタ的には美しく完結だよな?」
「完全勝利で無事に閉幕しましたから、今回は俺達だけで楽しみましょうか。」

俺は赤葦の理想的な提案を快諾し、多くの人が列をなすレジへと赤葦を誘った。


「これはただの独り言だが…何を当てれば赤葦はご機嫌になるんだろうな~?」

レジ待ちの列に並びながら、天に向かって黒尾さんがポソリと呟いた。
黒尾さんの度を越した『幸運無駄遣い』は、既に(必要以上に)証明済みで、
もうそのターンはネタ的に終わったし、今回は『今年の運試し』程度のノリだ。
それなのに、独り言だと言いつつも俺を喜ばせようとしてくれる優しさ…
それだけで俺は、すっかり『ご機嫌♪』になってしまった。

別にもう、『黒尾&赤葦』を当てろなんて言わない(言えない)し、
何が当たっても楽しいだけ…むしろ幸運の御利用は適度に止めておいてほしい。
とは言え、やはり勝負事には勝ちたいという気持ちも、少なからずあるわけで…

「俺と黒尾さんが『仲良し』だとわかるだけで十分…ただの独り言ですよ~?」

同じ賞…同学年のラバーストラップが当たるぐらいが、荷物量的にも丁度良い。
周りの人には見えないように、小さく指先だけ絡めて幸運のお裾分けを受け、
お次にお待ちの方〜と手を挙げた、爽やかな男性店員さんの所へ向かった。


「じゃあ、まずは俺が…」

くじの箱に手を入れて、ぐるぐる掻き回し…一枚だけ引いてレジ台へ。
それを確認してから、黒尾さんも真似してぐるぐる…同じようにレジへ置いた。
店員さんに促されてくじをピリピリ捲ると…何と、目玉商品ゲットだった。

「やりました!B賞の『月島&山口』セット…一番欲しいのが当たりました!」

俺自身は初となる一番くじの目玉商品獲得に、思わず小さくガッツポーズ。
これなら、月島君達も大喜び…お土産にプレゼントしてあげよう。

今年の俺は間違いなくツイている!もしや黒尾さんの幸運が俺に移ったかも…?
わくわくしながら黒尾さんを見ると、目を見開いて困惑の表情を浮かべていた。
そして、苦笑いしながら開いたくじをそっとレジに置き直し…
それを見た俺と店員さんは、同時に目と口をポカンと開けて声を上げた。

「なっ!?お…同じ、B賞っ!!?」
「えっ!?お…おめでとうございます…です、よね…っ!!!」


店員さん曰く、今回の一番くじは全部で70本で、うち目玉商品は8本…
何故だかB賞とF賞(木兎&赤葦)のみ、2本ずつ入っているそうなのだ。
目玉が当たる確率は8/70…11%で、いつもより少し低いぐらいなのだが、
目玉を2つ当てるだけで、1/70×1/69の0.02%だし、同じB賞ともなると…

「相変わらず…気味が悪いですね。」
「俺もこれは…かなりビビったな。」
「こんなの…私も初めて見ました!」

同じ『セット』を当てるなんて、途方もなく『仲良しさん』ですね~♪…と、
店員さんは必死に笑いを堪えながら、震える手でグッズを手渡してくれた。

おめでとうございます~♪と、店員さん達に満面の笑みで丁寧に送り出され、
俺達は妙な気恥ずかしさも一緒に抱えながら、二丁目のホテル街を駆け抜けた。


いやはや…今年も贅沢極まりない、幸運の無駄遣いっぷりだ。
同じモノは当たらないのが、一番くじの『普通』であるはずなのに、
イレギュラーな『同賞』を当ててしまうなんて…本当に信じられない。
どんな『公式セット』よりも、非常識で非科学的な『非公式セット』だ。

同じグッズがダブったことよりも、天文学的なセットぶりに大感激…
俺は上機嫌で、バッティングセンターに入りかけた黒尾さんの腕を引っ張り、
アニメショップに入る前と同じように、隣のビル脇に避けて立ち止まった。


「『月山セット』を2つ当てたから…あの二人が喧嘩にならずに済みました。」
「ドン引きされるだろうが…二人の『仲良し』に貢献できれば、俺も本望だ。」

「それ以上に、俺達の『セットぶり』もドン引きなレベル…最高ですよね?」
「間違いなく、今年の俺達も『仲良し』だと確定…それを証明できたよな?」

本当に、黒尾さんは俺が喜ぶツボを、ドンピシャ!!で当てて下さいますね。
今度はそれを、黒尾さんのバットでスカ~っ!とぶっ飛ばしながら証明…
俺達がいかに『セット』で『仲良し』かを、もっと体感させて貰えませんか?


「おや、あんなところに…偶然発見♪」
「仲良し専用宿泊等施設…奇遇だな♪」








- 終 -





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※前回の一番くじ(完全勝利完結版) →『大収穫!研磨先生


2018/01/25    (2018/01/22分 MEMO小咄より移設)

 

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