後背好配







「黒尾さ~ん!ちょっと早いですけど、御歳暮が届きましたよ~♪」
「なんと、研磨先生から…しかもなかなかのサイズです。」


じわりじわりと、年末の足音が聞こえ始めた、今日この頃。
赤葦は事務所名義の年賀状の準備、月島は取引先への御歳暮を手配し、
山口は年内〆の仕事の調整、黒尾は忘年会&新年会のスケジューリング…

あぁ…こうやってあっという間に一年が過ぎていくんだな~と、
学生とは全く種類も速度も違う『一年』の流れに、4人は遠い目をしていた。


まだ『来年』のことは、できるだけ考えたくねぇ…早ぇよ!と思っている中、
その焦燥感を煽るかのように、研磨先生が『御歳暮』なるものを贈ってきた。
あの研磨もオトナになったなぁ~と、黒尾は感慨に耽りそうになったが、
デカさの割に軽い箱の中身が気になってしかたない部下達は、
「さっさと開けて下さい!」と黒尾を急かし、ワクワクと箱を覗き込んだ。

ダンボールの中には『HAIKYU!!2018』と書かれた、細身の四角柱の箱。
サイズと名称から、中を見るまでもなく正体がわかった。

「来年の…HQ!!カレンダーですね!」
「御歳暮…とは言い難いですけど、年末の御挨拶のド定番ですね。」
「カレンダーだとしても、箱はやけに大きいですし…軽いですよね。」
「どうやら一枚紙のポスタータイプみてぇだな…って、デカっ!!?」


箱から慎重にポスターを取り出し、ゆっくり広げてみると…
カレンダーはもとより、ポスターとしてもかなりデカいものが登場した。


左の建具(カーテン)  H≒145cm


「凄い!!73cm×180cmだって!!」
「横幅73cmの内、カレンダー部分は左端の5cm…面積にして7%弱だよ。」
「主要メンバー勢揃い…圧巻だな。」

烏野16名、青城9名、白鳥沢8名、伊達8名、梟谷7名、音駒9名…
総勢57名ものキャラクター(人物のみ/ヒナガラス等は除く)が描かれていた。

とりあえず黒尾のデスク脇の壁に貼り、ポカンと口を開けて眺めていると、
一人静かだった赤葦が、顔を覆ってうずくまり…潤んだ声を絞り出した。

「や…やった…俺、黒尾さんの…っ!」


左上の夜久君→一番くじの景品


「あっ!ホントだ…赤葦さん、ついにやりましたねっ!!」
「おめでとうございます!!念願の…黒尾さんのお隣ゲットですね。」

『ねこ&ふくろうカレー』の時もそうだったが、赤葦は『黒尾の隣』を熱望…
念願叶ったことに山口と月島は盛大に拍手し、赤葦は瞳を潤ませて歓喜した。
そのあまりの喜びっぷりに、黒尾は嬉し恥かし…ポスターから視線を逸らすと、
照れ隠しに引出しから電卓を取り出し、何やら計算し始めた。


「57名の中で、隣同士になる確率…」

単純に計算すると、1/3192…0.03%。
これは、『一番くじ』でJ賞&L賞赤葦をダブルで取るのと、ほぼ同じ確率だ。
ポスターの絵では、平均して一人の周りに上下左右4人描かれているから、
0.03×4=0.12%の確率で『すぐそば』(真上真下も含む)になる。
厳密に『お隣さん』だけで考えると、左右の0.06%にしかならない。

「全員がランダムに配置ならその確率ですが、実際はもう少し上がります。」
「チームごとにまとまってるから、まず梟谷と音駒が隣り合う確率が30%…」

この2チーム内で『お隣さん』になる確率は1/63=0.158%、左右で約0.3%…
やはり、かなり低い確率だと言わざるを得ないだろう。


「こうして数字で表してみると、俺と赤葦が隣り合うのは…奇跡的だな。」

照れ隠しで電卓を叩いたつもりだったのに、黒尾は余計にデレデレ…
『奇跡的』の言葉に感極まった赤葦は、黒尾の胸に顔を埋めて感涙した。


「俺、ずっと憧れてたんです…」

月島君と山口君みたいな、さりげなく信頼し合っているような雰囲気…




そんなに『仲良し♪』ってしてるわけじゃないのに、背中をしっかり預け合う。
月島君達にとっては、何てことはない『定番のポーズ』かもしれませんが、
この『背中を預け合う』信頼関係こそ、俺が求めてやまないもの…
それを今回、ようやく実現できました。しかも…『公式グッズ』としてです!




これだけ人数がいて、キャラごとに大きさがまちまちであるにも関わらず、
黒尾さんと俺はほぼ同じ倍率で描かれ、音駒と梟谷のライバル関係を表す形に…
それでいて、敵対のようなギスギス感はなく、友好関係を漂わせています。

「俺はずっと、黒尾さんとこういう関係でありたいと…願い続けていました。」

57名もいる大きなポスターの中の、ほんの一部分だけの話なんですけど、
憧れ続けた月山っぽいカンジで、俺と黒尾さんを描いて頂けたことが、
俺は本当に嬉しくてたまらない…たったこれだけでも、幸せいっぱいです。


しっとりと、しみじみと。
自分に訪れた、小さくとも奇跡的な幸せに、赤葦は綺麗な涙を零した。
その一途で純粋な愛に、月島と山口は言葉を飲み込んで目を潤ませ、
黒尾は何も言わず、その腕にしっかりと赤葦を抱き締めた。

この一年、一番くじ等の様々な『HQ!!グッズ』購入デビューを果たしたが、
いつも赤葦大暴走系の話でオチがつき、グダグダの大騒ぎに終始していた。
今年最後に、4人揃って幸せの涙…グッズの素晴らしさを確かめ合えた。


だが、次の瞬間…赤葦は盛大にため息を吐き、違う意味で号泣した。

「こんなに美味しいシチュエーションなのに、何で俺はおにぎり食って…!?」

普段の俺が、表情に乏しいのは自覚してますけど…57名中一人だけメシ!?
俺の表情のバリエーションって、『無表情』か『美味そう』だけですか!!?
そう言えば、あのダッチワイフ…『ねんどろいど京治君』にも、
『梅干しおにぎり』と『もぐもぐ口元シール』『米粒シール』が入ってました…




確かに、無表情の俺だと『穏やかな雰囲気』や『友好関係』は醸せない…
ですが、だからと言って『美味しそう』で空気を和らげる必要はないでしょう?

「俺も、山口君みたいなシリアス顔で、黒尾さんと背中合わせしたかった…」
それか、少々らしくなくても、あの大判タオルみたいな笑顔が良かったです。
メシ食ってるよりも、その方がずっとカッコ良かったはずですよ…

「こんな超レアなチャンス…素直に大喜びしとけばいいのに、
   ワガママと贅沢を言って…本当にスミマセン。」

黒尾の胸の中で、もごもごと小さな声で『ごめんなさい』を言う赤葦に、
3人はキュ~ン♪と音を立てながら、ムギュ~!!と三方向から抱擁した。


「赤葦さんは…これがベストです!」
人間の三大欲求の一つこそ食欲!黒尾さんに背中を預けてそれを満たす姿…
これぞ究極の安心感!たった一つのおにぎりで、深い信頼関係を表現してます!
無理しない範囲で『自然なリラックス』な表情は、これしかありませんよ~♪

「それによく考えてみて下さい。もし赤葦さんが山口と同じ格好だったら…?」
確かにシリアスでカッコいいですけど、チラリと覗く…『腿裏♪』ですよ!?
基本生足の競技ですけど、このチラリ感は別物…生唾ゴックン系です。
そんな『卑猥な京治』に流し目な黒尾さん…揃って『ド変態』扱いですよ。

「例の大判タオルみたいな『アダルトグッズ』風笑顔じゃなくて…良かった。」
もしあの『笑顔赤葦』がここに描かれてたら、全体とのバランスが取れねぇよ。
見る人全てがお前に惹かれ…別の意味で『オイシソウ♪』に見えちまうだろ?
マジで俺とお前の空間だけが、『モザイク対象』になりかねない…危険すぎる。
おにぎり食って『LOVE米』ならぬ『ラブコメ』ぐらいにしとかねぇと、
俺ら以外の皆に迷惑かけちまう…『可愛い』で『エロい』を隠すしかないんだ。


「赤葦の『オイシイ表情』を一年も晒すなんて…俺は絶対に認めない。
   お前の『特別な顔』を見ていいのは、この世で俺だけ…そうだよな?」
「くっ…黒尾さんっ!!!全く以って、黒尾さんの仰る通りです!!
   早速今から上で、『黒尾さん限定』な俺を、お魅せしますから…ね?」

それじゃ、ちょっと早ぇが…今日はもうオシマイな!お前らもオツカレさん!
…と、昼前にも関わらず、黒尾と赤葦はデレデレ~っと帰宅してしまった。



「研磨先生がこれをわざわざ『発送』した理由…色ボケ回避だよね?」
「僕達から『お礼』と『恨み言』の電話を…するしかなさそうだね。」

心底迷惑そうな口ぶりだったが、月島は『生唾ゴックン系』の絵をパシャリ…
山口に背を向けたまま、シリアスな表情で囁いた。


「この『腿裏♪』が…『ツッキー限定』じゃないのが、悔しくて堪らない。」
「それなら、真の意味で『限定♪』なトコ…俺もお魅せするしかないよね?」

山口も背を向けたまま、誰にも見えない所で…そっと月島の腕を引いた。




- 終 -




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※『ねこ&ふくろうカレー』 →『大失策!研磨先生②
※『一番くじ』でダブル赤葦 →『大収穫!研磨先生

2017/11/26    (2017/11/21分 MEMO小咄より移設)

 

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