ご注意下さい!


この話はBLかつ性的な表現を含んでおります。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、 閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、責任を負いかねます。)




    それでもOK!な方  →
コチラをどうぞ。



























































    引越見積⑩(後編)







   我儘だと、謗られてもいい。
   我慢なんて、できやしない。
   このワガママを、叶えたい…


エレベーターが1階へ降りてくる時間すら待てずに、非常階段を駆け上る。
どう考えたって、待っていた方が早く屋上に到着するのはわかっているのに、
じっとしていられない…なんていう、非合理な理由でそちらを選んでしまった。

3階までは2段飛ばしで快調に。
5階からは1段飛ばし、7階では1歩ずつ踏みしめながら判断ミスを悔やみ、
10階から屋上へのラスト数段は、ワンコのように4足歩行で這い上がる…
正常な判断力など、遥か下の階へ置いて来てしまった。

何とか壁伝いに立ち上がり、鉄扉の取っ手を掴む。
風通しも悪く、日がよく当たる屋上ペントハウスは、かなりの蒸し暑さ…
薄暗く埃っぽい非常階段の冷たい踏面よりも、握った取っ手はずっと熱く、
僕は酸欠でゼェゼェ喘ぐ喉を引き攣らせながら、驚きの声を上げて屋上へ出た。


「熱っ…っ…っ…。。。」

ここまでで、僕は…限界。
僕の登場とバタンキュ~に、山口が慌てて受水槽の上から音もなく飛び降り、
何やかんや言いながら日陰に引き摺り込んで、お水くれたり扇いでくれたり…
手厚い看病を受けているうちに、僕も山口も落ち着きを取り戻した。

「全くもう、10階分駆け上がるとか…ツッキーらしくないことしちゃって。」
「僕自身が一番ビックリしてるよ。明日以降の筋肉痛が、今から怖いね。」

「…明後日以降、じゃなくて?」
「かろうじてまだ20代だよ!明日中には、強烈なのがクるはずだよ…多分。」

何なら今すぐキて下さいお願いします!と、笑いながら足腰に声を掛けると、
足腰膝の方が僕よりもケラケラ大笑い…それを見た山口も明るい声を上げた。


「あ~ぁ、俺…恋愛映画とか少女漫画みたいなシーンを、期待してたのにな~」
「僕も当初は、そういうのを演出するつもりではあったんだけど…」

*****

「や、まぐ、ちっ!!!」
「っっ!!!??…ぁっ」

非常階段を駆け上がり、バン!!と屋上の扉を開く月島。
受水槽の上でぼんやり空を眺めていた山口は、その音に驚いてバランスを崩し…
すんでのところで間に合った月島が、腕の中に山口をしっかり抱き止めた。

「もしかして…泣いてたの?」
「違っ!落ちちゃうと、思ったから…」

「…魔女の、君が?」
「俺だって、怖いこと…あるもん。」

怖かったんだから…すっごく。
そう呟きながら、山口は月島にギュっとしがみ付き、胸に額を寄せた。

*****


「…みたいな、どこぞの王子様も蕩けそうなぐらい、恥かしいシーンをね。」
「前言撤回…イイ意味で期待を裏切ってくれて、ホントにありがとう~」

顔を見合わせ、大笑い。
笑うとお腹と背中が震え、それにつられて足腰膝もプルプル…呼吸がしんどい。
背を預けている大きなエアコン室外機の振動も、笑いのツボと節々を刺激し、
こちらもイイ意味で、二人から緊張感をヌいてくれた。


この場所…魔女の秘密基地に登頂したのは、これで3回目だ。
前回来た時は、演出するつもりなんて全くなかったけれど、まるで乙女ゲーム…
山口の期待通り?なサプライズ登場を果たし、ラブゲージを2つぐらいUP。

今回も実はコッソリ、二匹目のドジョウを狙ってみてはいたのだが、
山口に気付かれないよう、忍び足で上がって来るのとは、話がまるで違った。
元体育会系とは言え、運動不足気味の三十路前…高校時代のようにはいかない。

未だ感覚が戻らず、ケタケタ笑い声を上げ続ける脚を擦りながら、
この爆笑が阿鼻叫喚に変わる明日へ、意識と視線を遠く飛ばしかけていたら、
隣に並んで座っていた山口が、妙に明るく上滑りする声で喋り始めた。


「ツッキー、俺のせいで無理させちゃって…ゴメンね~?」

さっきもさ、年甲斐もなく取り乱して…ビックリさせてゴメンね。
養子縁組なんてよくある話だし、対外的に二人で『月島蛍』を名乗ってるのも、
前から知ってたっていうのに…『月島京治』って響きに、ビビっちゃったよ。
きっと、契約…契りを約することを重んじる、『魔女の血』の成せる業かもね~

「待って!ぼ、僕と赤葦さんは、夫婦の誓いだとか、カラダの交わりとか、
   そういうイミで『契った』カンケーじゃないから…!!」
「わかってるってば。わかってても怯んだのは…俺が魔女だからってだけだし。
   ツッキーんちの事情で、そうせざるを得なかったって…わかってるから。」

ここまで『契約』と『名前』に反応するのは、法律家と魔女ぐらいだよね~
っていうか、俺自身もさっき初めて実感したぐらいだから…気にしないでね?


「…あ、でも、もうちょっとだけ早く、知っとけばよかった…
   いや、やっぱり知らなくてよかったかも!!」

こないだ研磨先生と一緒に、赤葦さんに可愛いイタズラ♪をしたんだけど…
かなりカッコつけて「『赤葦京治』という名に関する考察」をしちゃったんだ。
『黒尾鉄朗』にとって、『赤葦京治』ほど相応しい名は存在しない…みたいな。

赤葦さんをけしかけるための考察…我ながら上手くイった!って思ってたけど、
まさか既にその名前じゃなかっただなんて、すっごいマヌケなオチだよね~!
もしあの考察を黒尾さんが聞いてたら、一番ショック受けたのは…あの人だよ。

「気を付けて、ツッキー。あの吸血鬼、王子様ヅラしといて実は嫉妬心の塊…
   ドス黒い策謀で、月島家から『赤葦』京治を奪い返しちゃうかもよ~?」


それはそれで、外野から眺めて見たい…歌舞伎町っぽい任侠映画になりそう!
灼熱に赫く竜と漆黒を纏う吸血鬼が、夜の街を焼き尽くす…『赫竜が如く』!!
『黒猫魔女の宅Q便』レベルで、商標権侵害スレスレだけどね~

「実は黒尾さん…『龍が如く』シリーズで、歌舞伎町の地理を覚えたんだよ♪」
「おケイさんのキャバ風接客テクも、同じゲームで習得…極秘情報だけどね。」

「…どうするツッキー?悪徳不動産屋の跡継ぎとして、伝説の竜と戦うの?」
「僕は、負け戦はしない主義だからね。熨斗つけて…お姫様はお返しするよ。」


開戦前降伏だよ…と両手を上げた僕に、山口は楽しそうに笑った。
もしお姫様を返して貰えたら、吸血鬼も大喜びだろうね~と、微かに嘆息…
すぐにそれを隠すように、また明るい表情を無理矢理顔に貼り付け始めた。

「ま、そんなファンタジー的奇跡が、カンタンに起こせるわけない…
   あの二人のために、起こしてあげたいけど…さすがの魔女にも無理、かな。」

俺の代わりに、悪徳不動産屋の跡継ぎ君が…何とかしてあげてくれない?
吸血鬼の黒尾さんは、魔女ほど『名前』にこだわりはないかもしれないけど、
できれば『黒尾鉄朗』には『赤葦京治』を結んであげたい…なんてねっ♪


魔女らしい天真爛漫さを表す、明るい声と、明るい表情。
でもその笑顔に浮かんでいたのは、諦めの感情…『我慢』の顔だった。

僕はそんな山口の顔を、これ以上見たくなかった。
だから、なおも喋り続けようとする山口の頬を引き寄せ…封じた。


「っ!!?」

僕からの突然のキスに、山口は文字通り身体を浮かせて驚いた。
それでも、山口は拒むことはなく、黙って僕のキスを静かに受け入れてくれた。

何度も何度も、そっと二人の唇を重ね続けていると、
僕の足腰の震えが、唇を通じて山口の内側に伝わっていったのだろうか…
シャツを硬く握り締める山口の手が、ごくごく小さく震え始めた。


「山口は…どうしたい?
   黒尾さんや赤葦さんのためじゃなく、山口自身は…どうしたいの?」
「っ!!?そ、んな、ワガママ…言えるわけ、ないじゃん。
   ワガママは、ツッキーの専売特許。俺の方が、ずっと年上なんだし…んっ」

は?何ソレ。
「私が我慢すれば…」っていう、姐さん女房みたいな発言…意味不明だし。
今は僕が山口よりずっと年下で下積だから、立場的にワガママ言いやすいけど…
逆に僕が300歳年上だったり、500年来の同い年の幼馴染だったとしても、
僕は堂々とワガママを言ったはず…それこそ、専売特許だと言わんばかりに。

でも、だとしたら。
僕達がどんなカンケーだったとしても、山口は常に我慢するばっかり…
僕に対して、ずっとワガママを言えないことになってしまうじゃないか。

   (そんなの…絶対、ダメ。)


「山口がワガママをちゃんと言うまで…ここで延々キスし続けるから。」
「それ、ツッキーが単にシたいだけ…ツッキーのワガママじゃ…んっ、ちょっ」

「僕はすぐにチューしたがる…大型ワンコだからね。元々こういう習性だよ。」
「ごっご主人様は…俺だよっ!?何でワンコの方が、ワガママ言って…っっ」

まるで本物のワンコのように、山口に圧し掛かりながら顔中にキスを続ける。
セリフを最後まで言わせず、宣言通り延々キスしまくる僕に、
山口も途中から徐々に力を抜き…くすぐったさに身を捩らせて笑い始めた。


ひとしきり笑い終え、強張りも震えも、そして諦めの表情も消えてから、
僕は山口の唇を解放し…今一度、さっきと同じことを訊ねた。

「山口は…どうしたいの?」

ワガママを言えとは、もう言わない。
山口は僕のパイセンだし、桁違いの姐さん女房だし、しかも飼主だっていうし…
だから、『下積』で『飼犬』な僕に対する『命令』でいいから…言って。

「僕はどうすれば…山口から『100点満点』を貰える?」

ズボンのポケットから、山口の赤いリボンを取り出す。
それを僕は、首輪のように自分の首元に結び…ご主人様の命令を静かに待った。


僕の質問と行動に、山口は…ポカン。
そして、顔をぐしゃぐしゃにしながら、僕のシャツにしがみ付き…

「赤葦さんが『月島京治』だなんて…嫌だっ!こんなの、我慢できないよっ!
   魔法よりある意味卑怯な、『七光りボンボンパワー』で…なんとかしてっ!」


耳をつんざくような、大絶叫。
溜まりに溜まっていた鬱憤もといワガママを、山口はようやく言い切った。

キーーーンと割れそうな耳と、未だ力の入らないカラダで、
僕はワガママを含む山口の全てを受け止め、ゆっくりと背中を撫でた。

「揃いも揃って、僕の上司は…ホントに手がかかるんだから。」


腕の中から、「…80点。実現できたら追加で20点ね。」という、潤んだ声。
僕の上司は、どいつもこいつもやたら厳しく…そして、可愛い人ばっかりだ。



*****



「…で?ドス黒い金だか策だかで、何とかなるもんなの?」

僕がやります!って、口ばっかりでヤる気空回りの『意識高い系』みたいな…
そんなショボい部下も、こっ、恋人も…俺はお断り、だからねっ!?
大風呂敷広げたんだから、ちゃんと実現可能だっていうプレゼン…はい、始め!


イロイロ出し切った山口は、すっかり…いや、更にパワーアップして復活。
それ、絶対…パワハラでしょ!?と訴えたくなるような無茶を振りかざし、
僕に「具体案を提示!」と、箒の柄を突き付けながら『命令』を下した。

勢い余って『ゴツン♪』と、記憶やら何やら消されてしまわないように、
僕は物騒な箒をそっと脇へ避けて…上司の命令(と期待)に応えることにした。

「世の中は等価交換が原則…何かを得るには、同等の何かを差し出すべし。」


父が月島家に赤葦さんを入れた最大の目的は、相続税を減らすため。
相続人が多ければ多いほど、控除額が増えるから…赤葦さんを養子にしたんだ。
もし『月島京治』を養子から外し、『赤葦京治』に戻したいと願うのなら、
当然、赤葦さんの代わりとなる養子を、父に差し出すのが道理ってもんでしょ。

「だから、山口を月島家に迎え入れるよう…交渉すればいいだけだよね。」
「…は?え、ちょっ、ちょっと…」

「勿論、養子縁組に先立って、山口のご両親には了解を頂きに行くよ。
   忠さんを『月島忠』にさせて下さい…って、ちゃんとご挨拶するから。」
「ごっ、ごあいさつっ!!?そ、それって、えーっと、その…
   待って待って!つつつっ、ツッキー!言ってる意味、わかってるっ!!?」

「当然、わかってるよ。養子縁組という『契約』が持つ、もう一つの意味…
   別にこれは、魔女だけが特別じゃなくて、人同士でも全く同じだからね。」
「じゃっ、じゃあ、わかるよね!?まだまだそれは早過ぎるって…
   あああっ、焦っちゃダメ!俺らの間でも、まだちゃんと…だよねっ!?」


りっ、理想論を語るのはいいけど、じっ実現可能な具体的行動を、示さなきゃ…
ツッキーのお父さんも、俺の両親も、俺自身だって、納得しないからねっ?

落ち着いて…とにかく一旦、落ち着こうよ!と、山口の方が焦りながら、
僕に「待った!」をかけようとするが、ここが『機』だと…僕は察していた。

小脇に置いていた箒の柄を握り締め、山口の目の前に掲げ…
僕は『実現可能な具体的行動』を、上司にキッチリ提示してみせた。

「僕達の間で結ばれている『仮契約』…これを、『本契約』に変えればいい。」
「んなっ!!!?」


山口と知り合ってから、魔女について僕なりに色々と調べてみたんだ。
人と神…人外がサバトで契約すると、魔女になること。
人と神を繋ぐ儀式が、世界各地に残る冬至祭…クリスマスやバレンタイン、
そして歌垣といった、『蛇が交わる』カタチを模した祭として残っていること。
それと同時に、世界共通して『箒』がやけに大切にされている理由…

「共に『箒に跨る』ことで、結婚が成立する…世界中に見られる儀式だってね。
   だからこそ、安易な箒の『二人乗り』は厳禁されてるんじゃないの?」


多少危なくても物理的に可能ならば、便利だからちょいちょい使ってるはず…
現に、かなり嵩張って重い荷物を、毎日のように配達しまくってるんだから、
高度な技術が必要なんだとしても、『二人乗り』は物理的に十分可能だよね。
それでも頑なに『同乗拒否』なのは、物理以外の理由があるからに他ならない…

「僕とは今のところ『仮契約』だって言ってたのも、
   以前『レッドムーン』の店内で、僕を箒に乗せてくれたから…」

飛ぶというには程遠く、たった1cm床から浮いただけではあるけれども、
紛れもなく僕と山口は、同じ魔女箒に、二人で一緒に跨った…
『仮契約』したと言っても過言じゃない行為を、既にヤっているんだ。


あの時は、山口が僕にこう訊いたよね…「ツッキーは…嫌?」って。
僕はその時、「嫌、じゃ…ない。」って答えた…当然、覚えてるよね?
今回は僕の方から、山口に訊くから。

「僕と『本契約』するの…嫌?」



「デキすぎる部下も…困りモンだね。」

山口は僕の問いには答えずに、ほんのり苦笑い?照れ笑い?を見せた。
そして、「ツッキーの考察通りだよ。」と両手を上げて降参のポーズをし、
そのままコテン…と、僕の胸に額を預けてポソポソ喋り始めた。

「赤葦さんの代わりに魔女…人外を養子にだなんて、お父さん許してくれる?」
「『歌舞伎町の女王』も、平凡な一市民の僕から見たら、魔女と大差ないよ。」

むしろ、父さんは大喜びする…
相続人が『ご長寿』だと、相続税を払う回数がグググっと減るんだからね。
もし僕が正式に人外と交わる…魔女と契約したら、人外×2ってことになって、
月島家歌舞伎町征服計画が、より現実に近づく…万々歳だと思うよ。

それだけじゃなくて、僕と父、それに兄には、「血は争えない」トコがあって、
間違いなく山口のことを気に入るはず…僕は逆に、これが一番怖いんだけどね。
山口がドン引きするぐらい、大歓待されるはずだから…全く心配はいらないよ。


「そっか、それなら安心…じゃなくて!
   いっ、いきなりビル改装&同棲&養子縁組&その他諸々…大混乱でしょ!」
「交渉は論点を複数提示せよ…
   その方が成功確率が上がるって、尊敬する腹黒上司が言ってたよね。」

「それはっ、そうだけど…いくら引越っていう機会でも、話が早過ぎない!?」
「旬のうちに予冷すべし…早いこと人外化した方が、『長持ち』するんだよ?」

いつも山口、僕に言ってるよね?「もうちょっと…まだ…もっと!」って。
今はまだ若いから、魔女様のリクエストに何とかお応えできてるけれど、
このまま30超えてくると、僕の方が足やら腰やらアレやら、たたなくなる…
仕事以上に僕が『役立たず』になっちゃっても、山口はいいの?

「それは正直…本気で嫌なんだけど。」
「その断言に…本気で泣きそうだよ。」

…とまぁ、今のは半分だけ冗談として。
さっきと同じことを、もう一回訊く…いや、僕のワガママを聞いて欲しい。


「山口が嫌じゃなかったら、僕と『本契約』を…一緒に箒に跨って下さい。」

手にしていた箒を、再度山口に捧げる。
深々と傾げた首から、赤いリボンがはらり…と外れ、箒の柄に引っかかった。

その赤の上に、ぽろり…
コクリと頷いた拍子に頬を伝って零れた涙が、山口の代わりに返事をした。



*****



「ただの引越話から、まさか『本契約』の約束をしちゃうだなんて…」

魔女すら驚く程の、順序やら何やらすっ飛ばし…あぁ、そうだった。
考察の途中経過を言わず、いつも結論だけをズバっと言ってしまう、
実にツッキーらしいやり方…魔女並のショートカットぶりじゃないか。

「困難は分割せよ…
   目の前の問題を一つずつ片付けていこう!が、聞いて呆れちゃうよね〜」
「別に、提出期限がある課題というわけじゃないんだから、
   最終目標を達成してから、後ろに残った課題を片付けたっていいでしょ。」


とは言え、残念ながらここで今すぐ『本契約』は、状況として非常に難しいね。
意外とまだ若かった僕のカラダは、さっきから強烈な筋肉痛で阿鼻叫喚を開始…
箒に跨るどころか、『たちあがる』のもかなり無理そうだからね。

「はぁ!?こっ、この状況で…!?ホンットーに、使えないんだからっ!!」

『本契約』の約束…つまり将来を誓い合い、熱烈な抱擁&キスを交わし合って、
ココロもカラダも↑↑と、盛り上がってきたトコだというのに…あんまりだ。

そういうグイグイ系の薬…マカとかすっぽんとか、入ってないかな!?…と、
淡い期待と遣る瀬無さをごちゃ混ぜにしながら、山口はカバンに手を突っ込み…
指先に当たった箱状の物体と、『後ろ』『課題』『提出』という言葉に、
ずっと忘れていたモノを思い出し、慌ててその箱を取り出した。

「まっマズい!研磨先生の課題…レポート提出を忘れてたよっ!」
「レポート?…って、なっ、なななっナニ、それ…っ!!?」

山口が出したのは、よく見かける細長い二段型のお弁当箱。
だが、その中に入っていたのは、赤いソーセージ…ではなく、
ケバケバしいピンクのフランクフルト…っぽい、オトナのオモチャだった。

「下半身は使いものにならなくても、手指とかおクチは使えるよね!?
   目の前にあるけど『後ろ』の『課題』を『提出』するの…手伝って!」


とんでもないお道具の、あまりにシュールな登場に、月島が絶句していると、
耳を疑うような命令を下した上司が、筋肉痛で痺れる腿上に乗り上げ…
驚きと痛みから、ひっ!と飲み込みそうになった息ごと、山口が吸い取った。

「ん…つ、っきー」

さっき月島ワンコがしたぐらいの、軽い触れ合いのキス。
それなのに、さっきとは全然違う、固い『契り』を要求する…熱い唇。
山口からのキスを通して、筋肉痛を忘れさせるような、甘い痺れに支配される。


「ツッキーは、動かなくていいから。このまま俺を…気持ちヨくさせてて。」

そう言うと山口は、キスを続けたまま一旦腰を浮かせて中腰の姿勢を取ると、
スカートの中からスルリと下着を下ろして、器用に片脚ずつ抜いて取り去った。

「こんなの使うとこ、ツッキーに見られるのは、ホントに恥ずかしいし、
   ツッキーも、ヤらしい俺の姿に、ドン引きしちゃうかもしれないけど…」

でも研磨先生との約束だし、コレのおかげで魔女の本能を150年抑えられた…
『飛びたい』『乗りたい』欲求をとりあえず満たして、フリーでいられたんだ。
だから、コレに嫌悪感を抱いたりしないでくれると…助かる、かな。


あんま、見えないようにするから…と、山口はスカートで全てを覆い隠すと、
弁当箱から小分けのローションを取り出し、封を切ろうとした。
だが、それを月島が山口の手から横取りすると、
スカートをくるくる背中側にたくし上げて、赤いリボンでキュっと結んだ。

「僕が手伝うから…ちゃんと見せて。」

山口は…前を、気持ちヨくしてて。
耳元にそう囁くと、月島はローションを自分の手指にしっかりと垂らし、
少し体温で暖めてから山口の後ろに手を伸ばし、『お手伝い』を開始した。


「ん…、きもち、イイ…上手、だね。」
「それは…よかった。もうちょっと、解すね。」

魔女にとっての『正常位』は、おそらく『乗る』というスタイルなんだろう。
二人でこうして繋がる時は、大抵山口が月島の上に跨り、飛行準備を行う。
そのため、この体位時の『準備』は、ほぼ毎回、魔女姐さんの主導…
濃紺のスカートに隠された中で、極秘のうちに完了しているのだ。

勿論、人にとっての『正常位』の時は、前戯を含む事前準備は月島主体…
魔女を見下ろした姿は、既にしっかりとこの目に焼き付いているが、
魔女を見上げながら、魔女自身が準備を行う姿を見たのは、これが初めてだ。


「凄い…そそる光景、だよね…っ」
「ヤ…そんな、見ないでって…っ」

山口は頬を真っ赤に染めながら、月島の首を引き寄せて、強めにキス。
こうしていれば、カラダはそんなに見えないはず…という作戦だろうけども、
キスで興奮がさらに高まって、月島の指を呑み込む音も、一段と高くなり…
よけいに『そそる』情景が、脳内にはっきり見えてくる。

「そろそろ、コレ…イれてみても、大丈夫そうだね。」

弁当箱から電動BOT…バイブを取り出して、指先に付いた滑りを塗り込む。
それをおもむろに、山口の後ろに押し当てると…慌てて山口がカラダを離した。


「ちょっ、ツッキー…ナニやって…」
「ナニって、コレをイれて試用したレポートを提出するのが、課題でしょ?」

「それはそうだけど…ツッキー、コレの正しい使い方、知らないよね?」
「っ!それは、まぁ…」

知ってる…わけがない。
歌舞伎町の住人だから、コレを見たことはあるし、贈答されたこともあるが、
実際にこの手に取ったり、ましてや使ったり使われたことなど、一度もない。

「黒尾さんは電マ担当で、俺はバイブ…
   これを機に『バイブの正しい使い方』を、ツッキーも覚えて…ね?」

イれる側の準備は、もうできてるから…それを真っ直ぐ立てて持ってて。
それから、ゴムを開けて…先っぽ、俺のクチのとこに、ちょうだい。


言われた通りに、ぴょこっと飛び出した部分を恐る恐る山口に近付けると、
まるでおしゃぶりを吸うように、唇を尖らせてゴムを軽く挟んだ。
そして、月島が手に握っていたピンクのバイブに、そのままキス…
すっぽりとおクチに咥え込みながら、唇と舌だけで、器用にゴムを被せた。

「俺、そこそこ上手…でしょ?」
「今の仕種だけで…危なかったよ。」

「バイブ使う時は、必ずゴムを付けること。その方がイれやすいし、衛生的。
   もういっこローション出して…特にバイブの先っぽにも、しっかり付けて。」

準備できたら電源をイれて、一番弱~い振動にしてから…入口の周りを解すの。
電マの時と同じように、いきなり突っ込んだりしないで、振動に慣らしてね。
これからココに、コレをイれるよって、期待させるように…そう、上手…んっ


「そろそろ、いい、かな…
   それじゃあ、先っぽのとこだけをゆっくりイれて、そのまま…待って。」

ナカが、振動に、慣れて…んんっ、緩んできたら…ぁっ、
ゆ~っっっくり、奥に…解しながらっ、イロイロ優しく、探索して…っっ

「…こんな、カンジ?」
「んっ!!そ、ぅ…浅く、深く、回したり、擦ったりして…
   俺の、イイトコを…ツッキーが、見つけて…あぁっ、んっ!」

教わった『正しい使い方』通りに、丁寧に丁寧にイイトコを刺激していく。
十分にナカが緩んでから、バイブのパワーを操作し、振動に強弱を加えていく。

その度に、山口はカラダを大きく痙攣させ、掠れた嬌声を上げて快感に没頭…
貴腐ワインのようにトロリとした、甘みを含んだ艶をじわりと醸し出してくる。


「あ…コレ、歴代最高に、気持ちイイ…物凄い、傑作、だよ…っ」

でも、ホントにこのバイブがイイのか、よくわかんない、かも…
誰かに、バイブを使われるのは…独りじゃないのは、初めて、だから…っ

「ツッキーと、だからっ…イイ、の、かも、しれない…んんんっっっ!!?」

目の前でこんな艶姿を魅せられ、そんな嬉しいことを言われて、
黙って見ているだけなんて…我慢なんてできるはずないじゃないか。

ゆるゆると上下させていたバイブを、強く下へ…外までズルリと引き出す。
その強めの刺激にカラダを跳ね上げながら、突然ヌかれたことに戸惑う山口を、
抱きかかえて向こう側へ押し倒し…上から圧し掛かって、入口へ自身を当てた。


「ゴメン、山口。課題の途中で、本当に申し訳ないんだけど…
   ここからは、コッチを使わせて貰っても…いいかな?」
「もっ、もちろん、大歓迎、だけど…大丈夫、なの?
   筋肉痛だからって、いい加減な動きしたら…マイナス1919点するよ?」

クチでは厳しいコトを言いながらも、両手はそそくさと早業でゴムを装着。
その手際の良さに惚れ惚れ…絶対に期待に応えてみせると、深いキスで伝えた。


「間違いなく、『事後』は使い物にならない…足腰立たなくなるだろうけど、
   そうなった時は…僕を箒に乗せて、おウチへ連れて帰ってくれるよね?」

ワンコのオネダリに、飼主はキョトン。
そして、「ホンットーに手がかかるんだから…」と、優しく髪を撫でた。




- 完 -




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※第2回秘密基地登頂 →『下積厳禁⑤
※『龍が如く』シリーズ →歌舞伎町に酷似した街を舞台とする、超名作極道ゲーム。
※チューしたがるワンコ →『喧犬強噛
※クリスマスやバレンタインについて →『雲霞之交
※『箒』と結婚について →『既往疾速③

※レッドムーンの店内で… →『再配希望⑨
※黒尾さんは電マ担当 →『下積厳禁②



2018/06/16    (2018/06/15分 MEMO小咄より移設)  

 

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