引越見積⑧







「赤葦さ~ん、おじゃましま~す♪」
「おや山口君、いらっしゃいませ。」


一年で一番穏やかな、皐月下旬。
お客さんの数も落ち着く季節で、経営的にはあまりオイシイ時期ではないけど、
これだけゆったりしていても、赤を切らないでいられるのは…実に有り難い。
これもひとえに、黒尾さんが同伴してきた新規(今はすっかり常連)様のおかげ…
一時はそれにもヤキモキしていたけど、客商売だから!と割り切れた(多分)。

本日、黒尾さんは『三丁目の王子様』御出勤日のため、献血ルームでお仕事中。
月島君も所用でお出掛け…一人でのんびり、開店準備をしているところだ。

最近の月島君は、妙にアクティブにアッチコッチへ動き回っているようだけど…
『アクティブな月島君』という字面の時点で、違和感ありまくりだ。
元気溌剌、気力旺盛、闊達自在…月島君に似合わない言葉族を脳内列挙し、
一人で微笑みながらグラスを磨いていると、天真爛漫な魔女が飛び込んできた。


「今、一緒にマッタリおやつタイムしちゃっても…大丈夫ですか?」
「えぇ。丁度ヒマしてたところなんで、おやつもおしゃべりも大歓迎ですよ。」

どうやら、魔女急便の方も比較的余裕があるらしい…が、
一応は勤務中とのことで、いつも通りの濃紺ワンピース&赤リボンだった。
山口君のあどけない笑顔に、本当に良く似合う…見ているだけでホッコリする。

途中で美味しそうなイチゴを発見したんで、おやつに食べましょう~♪と、
箒の先にぶら下げていた、イチゴのパックが入ったビニールを渡してくれたが…
ぶんぶん振り回されてしまったのか、半分くらいが潰れている。
それには気付いていないあたりも、なんだか…ホッとさせてくれる。


最近、世間では妙齢の『美魔女』さん達が勢力を拡大しているそうだけど、
天然の魔女との違いは、こうした『あどけなさ』の有無かもしれない。
山口君がもっともっとオトナになって、「鏡よ鏡~」的な魔女に成長したら…

「おおおっお願いです。山口君は可愛い魔女っ子のままで…いて下さいね!!」
「はぃ???俺、まだ270歳のピチピチなジジィですけど…頑張りま~す♪」

何だか、赤い粒がイチゴじゃなくて、不老不死の妙薬・仙丹に見えてきた。
俺は受け取ったイチゴから、いつもより丁寧にヘタを取り、ミキサーへ入れた。


少量のレモン汁とハチミツを入れ、ミキサーのスイッチを押すと、
血のように真っ赤な液体に…魔女というより、吸血鬼向けかもしれない。
黒尾さん用にも、少しとっておいてあげようと、茫然と『赤』を眺めていると、
山口君の『赤』リボンが、いつもより何だか大きく見えて…蜃気楼か?

店の入口に箒を立て掛けている姿に、わずかな『?』を感じていると、
大きく見えていた赤リボンが分裂…山口君の後ろからもう一人現れた。

「ーーーっっっ!!?」

まままっ、まさか、これがウワサの…背後霊っ!!?
あぁ、そうか。幽霊さんも人類二元論的に言えば、『人外』の枠に収まるか…
ちょっぴり遠くへ逝きかけた意識を引き戻したのは、山口君の明るい声だった。

「そうそう、今日は赤葦さんにも紹介したい人を連れて来ました!
   俺と同じ家…別宅に住んでるんですけど、名前は『こづめんま師』…」
略して…『こけし』、です。
   いつもウチのパパとママが…鉄朗と忠が、お世話になって、ます。」

強烈な力で引き戻された意識は、ミキサーの超高速攪拌で遠心力を重加算…
さっきよりもはるか彼方へ、ゴガガガガガーーー!!!と、ぶっ飛んで逝った。


「おーーーーい、あかあしさーーーん!大丈夫ですかぁーーー?」
「もっ勿論、大丈夫…ですっ!俺は全っ然、大丈夫…客商売のプロですから!」

背後から現れた『こけし』さん?は、幽霊ではなく、ちゃんと足があった。
白いシャツ、朱に近い赤のワンピース…いや、ダボっとしたつなぎを着ていて、
母娘?らしく、お揃いの赤リボンを、おかっぱ?の金髪頭に付けていた。

あっ!!この衣装って…そうか!
気位の高そうな雰囲気とツリ目が、まさにソレっぽいじゃないか。

「こけしさんは、『猫娘』さんですね?宅配魔女と猫娘は、赤リボンが遺伝…」

そう言えば、こけしさんのお父様…黒尾さんの前髪が『片目隠し系』なのも、
実は本名が『吸血鬼太郎』さんだから…というオチですね!
あ、そもそも『黒猫』のお子さんなら、『猫娘』で間違いありませんよねっ!
万事了解しました…実にわかりやすい系譜?で、とっても助かります。


「申し遅れました。わたくし、歌舞伎町二丁目でバーを経営中の、赤葦京治…
   こちらこそ、ご両親には平素より大変お世話になっております。」

ささっ、どうぞこちらへお掛け下さい!
ホットコーヒーにお茶、アイスクリームはいかがですか~?
広島のもみじ饅頭、岡山のきび団子に、伊勢の赤福も、ございま~す♪


「…全然、大丈夫じゃなさそう。」
「途中から、山陽新幹線の車内販売になっちゃってるよ…」

なおも『客商売』に徹し、正気を保とうと(して、大失敗)している赤葦に、
「あははっ♪ちょっと『イタズラ』が過ぎちゃったかな~?」と、
悪魔のように屈託なく悪いながら、山口は「ゴメンなさ~い♪」と謝った。
そして、娘と一緒にペコリと頭を下げ…無邪気な笑顔で元気よく叫んだ。


「アイス2つ…お願いします!」
「できれば…バニラがいいな。」



*****



「…ま、そんなこんなで、こけしさんこと研磨先生とのホントのカンケーは、
   桃色繋がり…所得税法上のパパ&ママ&ムスメ的な存在だったんですよね~」
「真相は、ただの幼馴染…250年前からの腐れ縁なだけだし。
   山口とも150年前から…クロと山口が出会った頃からの、師弟関係。」
「それならそうと、早く言って下さい!全血液が遠心分離しかけましたよ…」

魔女っ子達の可愛い『イタズラ』は、破壊力が大きすぎます…
赤葦はゲッソリとした顔で、バニラアイスの上に潰さなかったイチゴを乗せ、
ミキサーしたジュースをソーダで割ったグラスにも、飾りのイチゴを浮かべた。


「お二人共、まだ勤務途中のご様子…ノンアルコールカクテルにしました。
   カクテル名は…そうですね、『けいじのうらみ』あたりでしょうか。」

よくお似合いですが、こけしさん…お師匠さんは普段、赤リボンなしですよね?
古くから黒猫魔女さんとお付き合いがあるという、伊達工業㈱の技術者さん…
恐らく、月島君も新システム構築時にお世話になった、外注業者の方ですね。

「月島君共々、末永く宜しくお願い致します…猫娘のこけし師匠様。」
「俺は猫娘でもこけしでもないから。付喪神の孤爪研磨…師匠。よろしく。」


結構なレア物らしい、薄桃色の『プレミアム名刺』を上程しながら、
研磨の素性をほぼ完璧に言い当てた赤葦に、山口は目を輝かせて感心した。

「赤葦さん、凄いっ!!何で研磨先生のこと…そこまでわかったんですかっ!?
   それに、『250年来の幼馴染』登場にも驚かない(妬かない)なんて…」
「心底驚きましたし、終業後に自宅でコッソリ猛烈に妬きまくる予定ですけど、
   『ムスメ登場』よりはずっとマシ…ショックの桁が全然違いますよ。」

赤つなぎの胸元に『DT』ロゴ…これは『童貞』や『田園都市線』ではなく、
『伊達』の頭文字…例の電マにも、同じマークがついていましたからね。
それに、山口君は「赤葦さん『にも』紹介したい人」と言ったので、
直接面識はあるかどうかはともかく、月島君は既に知っている人だろうな、と。

俺は客商売のプロ…二丁目の姫かつ、歌舞伎町の女王ですよ?
この程度の推理は、造作もないこと…多少のショックには靡きませんから。


「今日のイタズラの慰謝料代わりに、俺専用の『こけし(電動)』でも頂ければ…
   俺も無駄なヤキモチを妬き過ぎず、心から『師匠』とお慕いできそうです。」
「俺史上最高傑作の電動こけし…改良版『黒鉄魔羅様』に、
   非売品の赤ケース(棺)も付けて、赤葦にプレゼントしてあげる。」

ガッチリと、硬く握手を交わす二人…見事に取引成立だ。
大方の予想とは真逆…歴史的な『友好関係』を結んだ赤葦と研磨の姿に、
何故だか、とてつもない寒気を感じ…山口は『ぶるり』と背を震わせた。



「ところで、『赤葦京治』って名前…歌舞伎町の女王に相応しいよね。」
「あ、研磨先生もそう思いますっ!?もう、なるべくしてなったというか…」

真っ赤な血潮『けいじのうらみ』を啜りながら、研磨と山口は頷き合った。
そんなこと、今まで一度も言われたことがなかった赤葦は、目をパチクリ…
どういうことですか?と、アイスのスプーンを咥えたまま、二人に問い掛けた。

「今の若い人には、ピンとこないかもしれないけど…」
「俺らが『赤』から一番に連想するものは、やっぱり『赤線』…色街だし。」

GHQの公娼廃止令(1946年)から、売春防止法施行(1958年)までの間、
ほとんど政府公認の下で、売春が行われていた地域が『赤線』である。
地図上で区域内を赤い線で囲っていたことから、赤線=色街の代名詞となった。


「ウチは健康医療器具メーカーだけど、部門別に担当者のつなぎの色が違う。」

厚労省のお墨付な『医薬品』とかは、伊達工業㈱メインカラーの緑色、
やや↓方向の『医薬部外品』は桃色、その他の『ジョークグッズ』…
いわゆる『オトナのオモチャ』専門は、『赤線地帯』扱いなんだ。

ちなみに日本では『オトナのオモチャ』を『性具』と認めていないため、
『人体に接触して使用する』という表現は、できるだけ避けている。

「もし人体に接触する用具(性具)となると、薬事法の適用を受けるし、
   『性具』や『避妊具』は、厚労省の医療品『販売』許可が必要になるんだ。」
「加えて『製造』許可も必要…『医療用具第1919号』とか番号を付けた上で、
   医師や薬剤師、医薬品販売店だけで販売可能になっちゃうんですよね~」
「だから、バイブを『電動こけし』だと言い張ってたんですね。
   これは新しい『動く民芸品』…どこぞへ挿れろとは言ってませんよ、と。」


こういう議論をクソ真面目にヤり続けている、風俗業界と法律家…面白すぎる。
同様に、「ストレスですね。では…処置室でバイブ治療して下さい。」等、
医師の診断&治療として性具が使われるケースを妄想…楽しいAVの世界だ。

「赤葦には、『DT』の赤刺繍入りの白衣も…オマケでプレゼント。」
「ーーーっ!!!さ、最高です、孤爪師匠っ!一生ついて行きますっ!!」
「やったね、赤葦さん!念願の『お医者さんごっこ』ができちゃいますね~♪」

法律と医療…↓方向の考察ネタ満載で、酒屋での歓談にモッテコイ♪だ。
研磨と赤葦は、新たな師弟関係誕生を祝うべく、赤い盃を高々と掲げて乾杯…
『けいじのうらみ』を綺麗サッパリ飲み干し、横道にそれた話を元に戻した。


「まぁ、『赤』だけだったら、そこまで『↓方向』じゃないんですけど、
   その次に来るのが『葦』とくれば、もう…ガッツリ色街確定ですよね〜♪」
「赤葦は、『葦』という字から何をイメージする?」

葦と言えば…と、考えている姿が、まず『人間は考える葦である』そのものだ。
その他に『葦』の字が付く、日本史上で一番有名なモノと言えば…

「『葦原中国』…ですね。」

葦原中国(あしはらのなかつくに)は、神々の住まう天上…高天原と、
死後の世界である黄泉(根の国)の間にある、地上の世界…日本のことだ。

粗暴を働いた素戔嗚尊に心を痛め、天岩戸に閉じ籠った天照大神。
この事件により、素戔嗚尊は神逐(かんやらい)…高天原を追放されてしまう。
素戔嗚尊の子・大国主は、少彦名と協力して『国造り』…これが葦原中国で、
別名・豊葦原千五百秋瑞穂國(とよあしはらのちいおあきのみずほのくに)だ。

「葦や稲(瑞穂)が生い茂る、水が豊富な国…そこを造ったのが、国津神だね。」
「元々いた国津神…蛇の国は、水辺だった。蛇(竜)が水神な理由も納得です。」


葦原


「この『葦(あし)』だけど、『よし』とも呼ばれているよね。
   葦を束ねて作った簾(すだれ)のことを、『よしず』って言うでしょ?」

8世紀、律令制度が布かれた頃に、人名や地名に縁起の良い漢字を使う…
『好字』という習慣が一般化し、悪いイメージを持つ言葉も転換されていった。

「『あし』は『悪し』に通ずる…反対の『よし』に変えられたんだって。
   そして、葦が生い茂る水辺…『葦原』という地名は『吉原』になったんだ。」
「日本史上最大の遊郭!売春防止法で消滅後は…一大ソープランド街です。」

江戸の吉原遊郭を知ってる俺達にとっては、『葦=吉原=赤線』直結なんだよ。
『泡』を扱うバーテンの名前が『赤葦』で、しかも『京治』だなんて…
色街という京(みやこ)を治める『歌舞伎町の女王』に、マッチしすぎでしょ。
最初に赤葦の名前を聞いた時に、『月島蛍』以上の源氏名!って思ったしね。

「赤葦京治なら、泡姫おケイとしても頂上を取れた…俺はそう断言できる。」
「まさに、名は体を表す!魔女の俺ですら、赤葦さんの色気には完敗です♪」
「お…お褒めに与り、光栄です…??」

生まれながらの色街女王だと、バイブ付喪神と魔女から大絶賛された赤葦は、
喜んでいいのやら、もう諦めた方がいいのやら…複雑な表情で客商売スマイル。
真っ赤なカクテルのおかわりを入れ、今度は上にドラゴンフルーツを添えた。
そのせいか、今度は同じカクテルが、ドラゴンの血を集めたように見えてきた。


「赤い竜の実…話は『赤』に戻るけど、『こけし』は『赤物』と言われてる。」
「赤い色の玩具や土産物…飛騨の『さるぼぼ』とか、会津の『あかべこ』等、
   赤は魔除けの色…疱瘡(天然痘)から身を守る『お守り』だそうですね。」

なぜ赤が『魔除け』なのか…この点については、深い考察が必要になるだろう。
現時点ではっきりしているのは、古来より人々は『赤』を特別視してきたこと…
疱瘡すら除ける大きな力を持つ色だと考え、大切にしてきたという事実である。

「古墳の内壁や、埋葬者の顔にも赤が塗られてる…権力の象徴でもあるよね。」
「この赤は『丹』…つまり辰砂。そして辰砂の別名が…『竜血』だよ。」



辰砂


「貴重な鉱石…竜(蛇)の力の証。葦だけじゃなくて、赤も…蛇に繋がる。」
「赤は血を表す色でもあるんだね〜」

『赤葦』と一文字しか違わないニアピン苗字に、『赤星(あかぼし)』がある。
敵の返り血を浴びた白い衣が、まるで赤い星が散っているようだった…と、
元寇の頃に肥後の菊池氏が帝から賜った姓が、赤星氏の苗字の由来だそうだ。
この苗字の『赤』は、まるっきり血を表す明確な例であるし、
北極星の別名が北辰である等、『辰』には星という意味もあることから、
赤葦と赤星は『竜の血』繋がりの名前と言えるだろう。


「そもそもなんだけどさ、辰砂の『辰』って、十二支で言うと…竜だよね~
   んでもって、『辰』は『二枚貝が殻からアシを出している』象形文字…」
「『辰』は『はまぐり』…蜃気楼を作り出すと言われている、伝説上の生物。
   『蛤女房』って人外がいるけど、『赤い血の奥様』とも言い換え可能だね。」
「っ!!!?」

つい先日、月島と語り合った話に…繋がった。
はまぐりのように口を閉ざし、声を失って凝固する赤葦に、
研磨と山口は、思考を蜃気楼で閉じ籠めるように、怒涛の勢いで畳み掛けた。


「丹…辰砂は、硫化水銀のこと。水銀は薬にもなり、鏡を磨くのにも必要。」

鏡こそ権力の象徴…辰砂からできた赤い顔料で、権力者達の墳墓や骨が飾られ、
竜血の塊である『仙丹』が、不老不死の妙薬だと権力者に珍重されたのだろう。

そして、水銀は常圧で凝固しない唯一の金属…水のような金属だから、
大和言葉で『みづかね(水鉄)』と呼ばれていたそうだ。
この水銀は各種金属と混和し、アマルガムという合金を作るが、
『鉄と混和しない』という特徴こそが、人類にとっては最重要だった。

「鉄の精製には、水銀が必要不可欠…」
「鉄を作るのは、赤の血…ってこと。」


長いこと一緒に居ても…所得税法上ではパパ&ママ&ムスメだったとしても、
付喪神も魔女も、吸血鬼とは別種…『本懐』が何なのか、よくわからない。
でも、そんな俺達にも、はっきりわかっていることだってあるんだ。

「『赤葦京治』という名が、稀に見る強力な『血』を表すものだということ。」
「そして、『鉄』を作り上げるために、これほど相応しい『赤』は…ない。」

この俺ですら、『赤葦京治』が『鉄』にとって欠かせない存在だと、
ちょっとした考察…『理屈』だけで、もう十分に納得しちゃったぐらいだし、
今、直接本人と話して、あーなるほど…って、腑に落ちたカンジなんだよね。

あの堅物吸血鬼は、きっと『理屈抜き』な部分で赤葦に惹かれたんだろうけど…
これ以上はない血に出逢ってもなお、アイツが『本懐』を遂げずにいることが、
どれだけ赤葦のことを大切に想ってるのかっていう…紛れも無い証拠だよ。

「もし赤葦が『性具』だったら、確実に九十九年後、付喪神になれそう。
   そのぐらい、クロは赤葦のことを…大事にしてると思う。」
「それに、水銀…『赤』を包み込み受け止めるのは、『鉄』製の器なんだって。
   ここまで証拠が出揃っちゃうと、『運命』なんだなぁ〜って感じるよね?」

研磨と山口は、ふわふわとお揃いの赤リボンを揺らしながら、
母娘同時に深々と頭を下げ…静かに澄み切った声で、赤葦に懇願した。

「黒尾さんのこと…お願いします。」
「クロを…幸せにしてやって下さい。」



それじゃあ、俺達はそろそろお暇しますね〜ご馳走さまでした!…と、
山口は音もなく椅子から降りると、箒を掴んであっという間に出て行った。

「じゃ、俺も帰るから。」

研磨は赤リボンを外し、猫背を伸ばしながら椅子から降り立つと、
今だに動くことも、声を出すこともできない赤葦の首をグイっと引き寄せ…
驚いて息の塊を飲み込む赤葦の耳元に、ごく小さな声で囁いた。


「最後にもう一つ…赤葦にオマケで教えてあげる。
   クロが一番好きなカクテルは『ジュ・ダムール』…ご馳走してやってよ。」




- ⑨へGO! -




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※田園都市線→ 月山ラインこと東急東横線(TY)と同じ、東急電鉄の路線。略号DT。
※天岩戸事件 →『夜想愛夢③
※大国主と少彦名 →『空室襲着③
※素戔嗚尊=朱砂の王 →『半月之風
※泡姫おケイ →『空室襲着⑥(クロ赤編)

※『赤』に関する考察 →『運命赤糸
※赤星氏の由来 →氏を下賜したのは亀山帝説や木曽義仲説等、諸説ありますが、
   『返り血の赤が星のようだった』という点では一致しているようです。


2018/05/29    (2018/05/26分 MEMO小咄より移設)

 

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