夜想愛夢⑩







「全く、暢気なもんですよ。」
「長旅でお疲れだろうしな。」


山口夫妻による迫真の演技で、あの世にイきかけた、黒尾と赤葦の二人。
『お茶を飲みながら歓談』ならぬ、真昼間から『酒を煽りながら考察』し、
涙の海に溺れグズり続ける赤葦と、大層ご陽気な大蛇夫妻を引き連れて、
黒尾は半ば3人を抱えながら、仙台へ向かう新幹線へ乗り込んだ。

夏休み中のため、グリーン車でもほぼ満席…座れただけ有難い。
3列斜め前に座った山口夫妻は、東京駅を出た直後から、仲良く爆睡し始めた。
すっかり忘れていたが、今朝スウェーデンから帰国したばかりの時差ボケと、
水浴びしてシャワー浴びて、ビールと最高級日本酒を浴び…眠いはずである。

肩を寄せ合って眠る大蛇達を、赤葦はまだ腫れた赤い目で見遣りながら、
ぷっくりと頬を膨らませて、ぼそぼそと大文句を口にした。


「しかもこれから、大蛇の城…『青い部屋』とやらで、百物語ですって?
  『マジで泣いちゃうよ~?』ってパパさんお墨付き…冗談じゃありません。」

あんな怖い思いした直後に、パパさんでも怯む程の、月島母の独演会だなんて…
別に俺、そんなに怖がりじゃありませんでしたが、タイミング悪すぎです。
今だって、ホントはお昼寝したいのに、山口先生の姿を思い出しちゃって…
悪夢を見てしまいそうで、目を閉じられないんですからね。悔しいことに。

「何が悔しいって、怖い話の後には、好奇心をそそる考察があること…
   それがわかっているから、『止めろ』って言えないとこですよっ!」

あぁ、もう…怖い話ヌキにして、考察だけにしてもらえませんかねぇ?
黒尾さん、俺がビビっ…じゃなくて、考察『だけ』をヤりたがってるって、
それとな~く月島母に進言して、何とか百物語を回避して下さいませんか?

「このままでは、月島君と山口君にも、みっともない所を曝してしまいます。
   俺の『年上としての威厳』を保つためにも…どうかお願いします。」


やや潤んだ瞳で、じっと黒尾を見上げる赤葦。
泣き疲れて眠いのに、悪夢が怖くて必死に睡魔と戦う姿…心臓鷲掴み系だ。
常に冷静でガードの固い赤葦が、ここまで自分を曝け出して懇願するなんて、
余程大蛇夫妻の『涼しいお土産』がキいたということだろうか。

いや…賢い赤葦のことだ。黒尾の『年上としての威厳』を保つために、
敢えて醜態を晒し、『赤葦のために』という口実を作ってくれているのだろう。

100%自分のために、土下座してでも百物語を回避するつもりだったが、
120%赤葦のために、二人の威厳を保ちつつ百物語を回避する策を練ろう。

「わかった。俺が何とか月島母と極秘会談して…怪談は断固拒否だ。」
「ありがとうございます!さすがは俺の黒尾さん…頼りにしてます♪」


ホッとした表情の中にも、素直に嬉しさを滲ませる赤葦…自然と頬が綻ぶ。
しかも、『俺の黒尾さん』だとか…綻ぶどころか、ユルッユルになっちまう。
こうやって俺は、上手いこと赤葦に操縦されていくんだろうなぁ…大歓迎だ。

とりあえず今は、少しの間でも赤葦を安心して寝かせてやりたい。
黒尾は赤葦の頭を引き寄せると、自分の肩に乗せ、目ぇ閉じろ…と囁いた。


「良い夢が見られるよう、『海水浴場ミニシアター』の続き…話してやるよ。」



*****



  『お前ら超遅いから、先に帰るな!』
  『ゆっくりご飯食べて、帰りなよ。』


想いを断ち切るように、赤葦は黒尾を置いて、大股で砂浜を歩き出した。
だが、たった数歩進んだところで、二人のスマホが同時に鳴り響いた。

突然の振動と音、そして皆に置いて行かれたことを知った二人は、
ポカンとした顔を見合わせ、脱力…赤葦は苦笑いしながら、黒尾の傍に戻った。

「ったく、薄情な奴らだよな…」
「誰のせいで、遅くなったと…」

口では大文句を言い、盛大にため息をつきながらも、
帰還引率を回避できたこと…もう少し二人で過ごす猶予を得られた幸運に、
二人は暗闇の中に隠しながらも、内心では浮かれていた。

   (きっとこれは…神様からのご褒美!)
   (今日一日、頑張ってよかった…っ!)

沈みきった太陽に向かって、「ありがとーーーーっ!!」と叫びたいのを堪え、
二人は晩御飯を食べようと、足取り軽く『海の家』へ向かった…が、既に閉店。
海岸に残っているのは、夜通し踊り続ける賑やかな若者達だけだった。

「駅前にコンビニが…あったよな?」
「食糧が残っているといいですが…」

足元、気を付けろよ?
黒尾は先に堤防を乗り越え、赤葦に手を貸して引き上げた。
そんなに高さもなく、手助けなんか本当は全然必要なかったけれども、
黒尾のさりげない優しさが、赤葦は嬉しくてたまらず…
何となく触れた手をそのままに、暗い夜道を二人で歩いて行った。


予想通り、コンビニにも目ぼしい食糧はほとんど残っていなかった。
だが、『二人でショッピング』というだけで、気分は妙に高揚…
普段は絶対食べないような、甘いチョコレート菓子なんかも買ってしまった。

コンビニから海岸へ戻る時も、「一人じゃ重たいだろ?」と言い訳しながら、
ビニール袋を一緒に持ち、ほんの少しだけ、互いの手に触れ続けていた。

喧騒を避け、海岸の一番端…テトラポットに隠れるように、並んで座る。
時折響いてくる笑い声と、消波ブロックに当たる波音、電車が通る音以外は、
バリバリとスナックを咀嚼し、他愛ないお喋りをする二人の声しか聞こえない。

買って来たものを全て食べ終え、部活や学校の話を一通り話してしまうと、
訪れたのは静寂…意識しないようにしていた鼓動が、聞こえてきそうだった。


「ここでのんびり二人でお話…できちゃいましたね。」
「夜中まで二人で海を眺める…これも叶っちまった。」

いくら街中から離れているとはいえ、首都圏近郊…あいにく星は見えないが、
沈む夕日に願った淡い夢が、こうもあっさり実現してしまった。

「想像以上に…いいものですね。」
「すっげぇ落ち着く…いい夜だ。」

今ならば、胸に抱き続けた儚い夢も、叶うんじゃないか…?
そんな幻想すら抱いてしまいそうな程、穏やかで心地良い時間だった。


こういう時間ほど、無情に過ぎていく。
電車の音も、間隔が徐々に広くなり、頬を撫でる風も、少し冷たくなってきた。

今、何時だろうか…?
チラリとスマホを見ると、終電まであと1時間半ぐらいしかなかった。
予想よりずっと遅い時間。疲れも溜まっているし、そろそろ帰らなければ…

黒尾は何かを振り絞るように、やや掠れた声で「もうすぐ…」と言いかけた。
だが、同じように掠れ、震える声で、赤葦に遮られてしまった。

「もう少し、帰らない…」

黒尾は黙ったまま頷くと、スマホをポケットに入れ直し、
その手をさっきよりも遠くへ…赤葦の手に触れそうな、ギリギリの所へ置いた。


電車が、通り過ぎて行く。
あと何回、この音をここで一緒に聞けるのだろうか。

「今度は、いつでしょうか…」

二人で会える日?それとも、こんなにのんびりした時間が取れる日?
曖昧な赤葦の質問に、黒尾も曖昧な…わかりきった答えだけを返した。

「再来週…音駒で二泊三日。」

本当は、こんな答えを望んでいるわけじゃないし、返したいわけでもない。
また二人で会いたい。二人でのんびり過ごしたい。

   ((ずっと一緒に…居たいのに。))

夕陽と共に、海に沈めた、儚い想い。
再び湧き上がり、溢れそうになるものを堪えようと、同時に砂を握り締める。

その動きが完全に一致し…動かした指先が、互いの指先に触れてしまった。

   ((駄目だ…もう、抑えきれないっ))


赤葦は黒尾の手を強く握り、
黒尾はその腕を引き寄せて。

「赤葦…好きだ。」
「俺も、貴方が…」


鼻先と前髪を掠め、電車の灯りを映す瞳を覗き込みながら、
波音よりも小さな声…だが、しっかり相手に届く声で、想いを伝え合った。

初めて重ね合う、熱く柔らかい唇。
その瞬間、自分の中で何かが壊れる音…絶え間なく押し寄せる波のように、
何度も何度も想いを言葉にし、その唇を重ね…キスを続ける。

   こんなに誰かを好きになるなんて。
   愛しくて、愛しくて…たまらない。

もうすぐ24時…終電が来る。
次に逢えるのは再来週…逢えない時間が長い程、寂しさと愛しさが募るだろう。
想いを伝えられなかった辛さと、逢えない寂しさ…
結局どちらも、相手を更に強く想い、好きになる一方じゃないか。


「もう一度だけ…言ってくれないか。」
「もう一度だけ…キス、して下さい。」

伝え合えた喜びと、離れてしまう悲しみを、精一杯込めながら、
二人はもう一度だけ愛を囁き、静かに唇を重ねた。



*****



「黒尾さん…余計、寝られなくなっちゃいました。」
「そうか…それは、大変申し訳ないことをしたな。」

でも、やっぱり今は寝たい気分なんで…このまま、肩…お借りしますね?


赤葦はそう呟くと、深紅に染まった頬を隠すように、黒尾の肩口に顔を埋めた。
黒尾はその顔見ないように…自分の顔を見られないように、
窓に肩肘を付き、掌で頬を覆いながら、俺も寝とこうかな…と呟いた。





*************************





「なるほどね~、ラブソングで反省だなんて、黒尾さんらしいね!」
「は?何言ってんの?…って最初は思ったけど、なかなか悪くなかったよ。」


デパートのトイレ前で、バッタリ再会を果たした月島と山口。
月島の両親達も、エスカレーターの上り&下りですれ違いバッタリしたらしく、
このまま先に帰るわね~と、先ほど連絡があった。

置いていかれた二人は、駅裏にあるお気に入りの喫茶店に向かい、
山口が家を出てから、再会するまでの間にあったことを、情報交換し合った。


「反省が主たる目的とは言え、せっかく自由な『ミニシアター』ぐらい、
   そんな焦ったくて苦しい話なんて…黒尾さんぽいっちゃ、ぽいけどさ~」
「っていうか、僕に説教すると見せかけて、結局は赤葦さんを甘やかすだけ…
   今頃きっと新幹線で、『続き』とか言っちゃって…デレデレしてるよ。」

ここ最近、黒尾さんの赤葦さん甘やかしっぷりといったら、目に余るレベル。
そのくせ、未だに夢物語の『ミニシアター』では、お硬いままだっりして…
潔いまでに『美味しいトコ総取り』なクロ赤コンビが、正直羨ましいぐらいだ。

とは言え、やはり実害もあるわけで…

「聞いてよ山口。あの黒赤なのに色ボケなコンビ…僕が真横で寝てるのに、
  『ソフレミニシアターver.赤葦*』を実践したっぽいんだよ!」
「えぇ~っ!?あの卑猥なヤツをっ!?ひゃぁぁぁぁぁ~っ!!
   ツッキー、よく無事だったね~?イヤン♪な夢とか…見たりしなかった?」

山口の質問に、月島は思わずビクリッと背を跳ねさせてしまった。
すぐに『何でもない風』を装い、輝くような笑顔を貼り付けて、
「ステキな夢をご馳走になったよ。」と言ったが…山口には通用しない。

キラキラと好奇心に瞳を輝かせながら、「ねぇねぇ、どんな夢だった?」と、
山口は視線だけで訴え…月島が観念するまで、わくわく光線を放ち続けた。


「ゆっ、夢の話だから、整合性もオチもないし…」
「俺は…出てきた?」
「うん。そりゃあ…僕にとって『ステキな夢』だったから、ね。」
「…えへへ♪」

自分が出てきた夢が、『ステキ』だったと断言され、
山口は嬉しそうに照れ笑い…そして、誰に習ったのか知らないが、
有無を言わせぬ強制力を持つ『上目遣い』で、「聞かせて?」と催促した。

月島はグッと喉を詰まらせたが、ここで山口とまた喧嘩するわけにもいかない。
珍しくズズズ…と音を立てて、アイスコーヒーを啜り上げると、
ふぅっ、と大きく息を吐き出し、しょうがないねと降参した。


「細部は覚えてないから、勝手に補足しちゃうけど…
  『ミニシアター』風にするなら、こんなカンジの夢だったよ。」



*****



「あ、雨…?」

部活帰りの午後。いつもの帰り道。
蝉時雨の中で、他愛ないお喋りをしながらゆっくり歩いていると…突然の雨。
一時的な通り雨というよりも、かなりまとまった激しい雨量と冷たい風に、
走って帰ろうとした山口を月島は止め、鞄からやや大きめの折畳み傘を出した。

「狭いのに…俺も入れてくれるの?」
「無いよりは、マシでしょ。」

肩に掛けていた鞄を、ギュっと抱え込みながら、できるだけ小さくなり、
山口は遠慮げに半歩ほど近づき、月島の傘に入った。

いつもより…長年親しんできた『二人の距離』よりも、ほんの少しだけ近い。
でも、この『ほんの少し』が、いつもとの違いを強く感じさせ、
僅かに触れる肩の感触に、お互い妙に緊張…言葉数が徐々に減っていった。


「雨…止まないね。」

沈黙に耐え兼ねたのか、山口は俯きながら囁いた。

鞄を抱くふりをして、微笑みながら腕を抱き…冷えで震えたのを誤魔化した。
できるだけ向こう側の肩が濡れないように、月島は山口の方に傘を傾けると、
山口は驚いた表情で月島を見上げ…再び俯きながら、もう半歩、寄り添った。

照れ臭さと、それとは別の感情との間で揺れ動く、その慎ましい仕種に、
雨で冷えてきたにも関わらず、月島のココロはじんわりと温もりを感じていた。

   (やっぱり、僕は…)


長年一緒に居るせいか、互いの感情変化が、自分のこと以上に分ってしまう。
自分を見る相手の眼差しが、『幼馴染以上』のモノを含み始めたことで、
逆に自分自身の感情変化を…相手への想いを自覚したぐらいだ。

恐らく近いうちに、『幼馴染以上』の関係になる…その予感もあったし、
もうそろそろ、いいかな…という、『タイミング待ち』な部分もあった。

   (相合傘…絶好の機会、だよね。)


今日こそ…相合傘をしている今こそ、この想いを伝え合うべきタイミングだ。
傘の中に篭る、二人分の想いが、外に溢れそうになっているのだから。

それでも、なかなか踏ん切りがつかず、素直に伝えられないまま…続く沈黙。
このまま終わってもいいのか?と、傘を叩く激しい雨音が、二人を急かす。

   (わかってる…わかってるけど…)

わかりきっている、自分達の想い。
さっさと言ってしまえばいいだけなのに…その『ひと言』が、出てこない。


二人の家の分かれ道。
月島は自然と足を山口家の方に向け、送っていくよ…と、さり気なく示した。

わざわざありがとう、ツッキー。
本来言うべき…いつもなら絶対に言っている言葉を、山口は口に出せず、
その代わりに、雨音に紛れそうなか細い声で、違う『ひと言』を零した。

「もうすぐ…家、だね。」

そんなことわざわざ言わなくても、わかっているのに。
何かを振り絞ろうとするかのように、ギュっと目を閉じ、鞄を抱き締める。
その健気な山口に、こっちの胸まで鷲掴みされ…ギュっとココロが鳴く。

   (言おう…今こそ、言うからっ!)


「あああっ、あのさ、山口…っ!?」
「つっ、ツッキー、あのねっ…!?」

俯いていた顔を思い切り上げ、お互いの名前を同時に呼び、目を合わせ…
そのタイミングが完璧に合い過ぎてしまい、また何も言えなくなってしまった。

   (言わなきゃ…今、言わないと。)

傘を打ち鳴らす雨に勢いを借りて、月島はようやく『ひと言』を絞り出した。

「明日も…雨だといいね。」


自分から出た言葉に月島は驚き、キョトンとした表情。
その顔を照らす、雨上がりの…光。

眩しく輝きはじめた世界の中で、山口は月島に笑顔で答えた。


「もし明日も雨だったら…今度は俺が傘を持って、ツッキーを迎えに行くね。」



*****



「…とまあ、こんな雰囲気の夢だよ。黒尾さんの御指導の通り、付き合う前…
   もどかしさ120%なカンジの、甘酸っぱ~い夢だった。」

以前考察したように、タッパのある僕達が、折畳み傘で相合傘はギャグのはず…
それが、ちゃんと山口念願の『嬉し恥ずかし♪』な物語になってるあたりが、
紛れもなく夢物語っていう証明だし…初心に帰れたのも、事実かな。

「僕の夢の中だけど、山口の夢が叶って良かったね。」


月島は満足そうに語り終えたが、聞いていた山口は…不満タラタラな顔だった。

「ツッキーの…ウソつき。」
「えっ!?ぼっ、僕はウソなんて…」

「明らかに大ウソじゃん。」
「な、何を根拠に…」

わたっわたっ…と慌てふためく『らしくない姿』が、根拠と言えば根拠だが、
山口はキッパリと、月島の『ミニシアター』が大ウソだという論拠を明示した。

「だって、真横で赤葦さんの『卑猥オーラ(しかも最中!)』を喰らっといて、
   そんなピュアピュアな夢とか…どう考えても、ありえないでしょ。」
「た…確かにっ!」

思わず膝をポン!と叩き、納得した月島に、山口はポンポン!と畳み掛けた。


「ただそこに居るだけでエロいのに、マジでエロいコトしてたんでしょ?
   そんなの…放射性猥褻物どころか、一瞬でイっちゃうレベルの劇毒物だよ!」

布団+黒尾さん+クッション+睡眠中無意識ってガードがあったとしても、
『キュート』よりは『セクシー』な夢になるのは、確実じゃん。

例えば、そうだね…
土砂降りの雷雨。雨宿りがてら入った納屋だか倉庫だかで、
雨音と雷鳴に紛れつつ、背後からそのまま、落雷の如くガンガン打ち付けて、
「ゃんっ、ツッキー…痺れちゃう♪」…ぐらいの激しさは、
状況としては最低限アリでしょ。むしろなきゃ絶対におかしいよ。

どうせ夢なんだから、ぜ~んぶ赤葦さん達のせいにしちゃって、
ツッキーの隠れたる欲望大爆発!な夢を見れば…いや、ホントは見たんでしょ?


それに、ツッキーの『相合傘ミニシアター』だけど…却下だから。
勿論、『お付き合い未満』のギリギリ感っていうのは、物語的にはオイシイよ?
でもその夢だと、俺はまたツッキーに肝心な『ひと言』を出して貰えてない…
結局俺は、現実と同じように、ツッキーに『待たされる』って話じゃん!

「たとえ夢でも、俺はもう…ツッキーに待たされるの、イヤだから。
   夢の中ぐらい、ソッコーで欲しい…トコロテンみたいに、直ぐ出してよ。」
「と、トコロテンっ!?そ、それは…どどどっ、どういうイミ…」
「あ、夢だとしても、ツッキーはそこまで…『心は太く』なかった?」
「それも、間違ってないけど…って、ちょっ、ちょっとタイム!」


山口からの怒涛の口撃に、僕は思わずタイムを要求してしまった。
いつから山口は、こんなにも強く…?いや、元から僕よりはずっと強いけど、
ここ最近、眠れる大蛇が覚醒しつつあるような気がするのだが…

山口と言えば、あの大蛇夫妻の子で、月島母の後継者で、クロ赤コンビの部下…
オマケに、超絶面倒臭い僕の側に長年居て、その毒舌を浴び続けている。

…たった今、気付いた。
山口は、とんでもない血を引き継ぐ上、過激な『英才教育』を受けているのだ。
元々生まれ持った素養に、刺激過多の環境…心身共に強靭に成長するはずだ。

これでは、僕に勝ち目など、霧雨一滴分すら有り得ない。
山口の手練手管に、じわじわ絡められ…離れ(逃げ)られなくなっているのだ。


「…タイムアップだよ、ツッキー。
   ホントに見た夢の内容を、今すぐ正直に暴露するか、それとも…」
「それとも…な、何っ!?」

蛇に睨まれたかのように、タジタジと怯みまくる月島に、
山口は白蛇のようなストローの袋を指に絡め取りながら、艶っぽく囁いた。

「実践で教えてくれても…イイよ?」


もし僕が、今の山口のセリフ『だけ』を聞いていたならば、
らしくなく『攻め攻め』な山口に、完全降伏していたと思う。

でも、そのセリフを言った山口の顔は、真っ赤に染まり…
白蛇を指に絡める仕種も、『もじもじ』という音を立てていたのだ。

   (セクシーかつキュートとか…狡い!)


僕は頬を緩めながら、心底困った風の顔を作り、両手を上げた。

「僕の…完敗だよ。」





- ⑪へGO! -





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※海水浴場ミニシアター →『夜想愛夢②
※ソフレミニシアターver.赤葦*
   →『同床!?研磨先生⑤
※相合傘についての考察 →『相合最愛
※月島が見たホントの夢 →『夜想愛夢④*

※黒尾のミニシアター続き(ラブソング)
   →松浦亜弥 『初めて唇を重ねた夜』

※月島の大ウソ夢(ラブソング)
   → テゴマス 『アイアイ傘』



2017/08/13

 

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