ご注意下さい!


この話は、夢か現か幻か…BLかつ性的な表現をそこはかとなく含んでおります。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、 閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、責任を負いかねます。)

※今回のEROはガッツリ月山です。



    それでもOK!な方  →
コチラをどうぞ。



























































    夜想愛夢④







大分傾いてきたとは言え、まだ陽射しはじりじりと音を立て、肌を焦がす。
何かを急き立てるかのように、蝉時雨もじわじわと辺りを包囲する。

暑さの余り、アスファルトからはゆらゆらと陽炎が立ち上り、
遠くへ続く青空…その下を覆う入道雲と混ざり合い、景色を白く滲ませる。

「ホントに今日は、暑い…ね。」

真横に並んで歩きながら、山口はほとんど独り言のように呟いた。
額から頬へ、そして顎を伝って落ちる汗が、ワイシャツの襟を小さく濡らす。

真横に居るとはいえ、止まっているわけでもないし、勿論密着してもいない。
しかも、互いの声だけでなく、思考すら遮る蝉時雨の中にいるというのに、
はぁ…はぁ…という山口の熱い吐息の音だけは、何故か耳元に直接響いてきた。

その山口の音が、じんじんと脳内を包み込み、僕を急き立て…焦らせてゆく。
汗に濡れ、ほんの少しだけ白いワイシャツを透かせて見える肌色…
もっと濡れてしまえば、もっとはっきり見えてしまいそうだ。

うだるような暑さ。
その熱を更に煽り立てる、山口の呼気。

それなのに…頬を撫でていったのは、ひんやりとした、冷たく強い風だった。
その違和感の理由を、考えようとする前に、グイっと強く手を引かれた。


「あ、雨…っ!ツッキー、こっち!!」

一歩走り出した途端、大粒の雨が落ち、雷が轟き始めた。
あんなに煩かった蝉達も、一斉に沈黙…激しい夕立と雷鳴に、世界が包まれた。

しっかりと僕の手を握り締め、土砂降りの雨から逃がれようとする山口。
僕は繋がれた手だけを、茫然と眺めながら、夕立の中を走って追い掛ける。
雨云々よりも、繋いだ手を離さないことだけに、意識を集中させていた。


「とりあえず…雨が落ち着くまで、ここで休ませてもらおっか?」

田んぼの畦道の傍にある、バス停。その裏の、朽ちかけた納屋の中。
電灯もなく、暗いはずなのに、稲光に照らされて、室内が白く霞んで見える。

「ツッ…、す…れ…った、ね…?」

雨の音と、雷の音で、山口の声が上手く聞き取れない。
だが僕は、山口が何を言っているのかには、あまり興味が湧かず、
何かを言っている山口自身の姿に、惹き寄せられてしまった。

「っ…ッキー、だ…、い?」

雨に濡れそぼり、白いワイシャツがぴたりと肌に張り付いている。
ぜぇ…ぜぇ…という荒い喘ぎに合わせ、上下する喉と、襟から覗く鎖骨。
薄いなりにも付いている筋肉…カラダのラインも、慎ましい胸の突起も、
濡れたワイシャツ越しに、くっきりと浮かび上がっていた。

雨の中、走って来たことじゃなく、山口の姿の方に…唾を嚥下し、喉が動く。
ようやく僕が声にしたのは、ただ一言…山口の名前だけだった。


「なぁに、ツッキー?」

白く光る世界の中で、唯一紅いモノ…
僕の名を呼ぶ山口の唇と、時折唇の隙間からチラチラ覗く、紅く滑る舌。

その紅に瞳を奪われて…僕は吸い寄せられるように、紅を奪っていた。


「んっ…ツ、ッキー…っ…」
「や…ま、ぐち…っ…」

額に掛かる長めの前髪を掻き上げ、露わになった額に額を付け、掻き抱く。
角度を変え、深さを変えながら、ただひたすらにその紅だけを求め、絡め取る。

   激しく屋根を叩きつける、豪雨。
   地までも揺るがすような、轟雷。

それらを全て掻き消す程の激しさで、くちゅり、くちゅり…
舌と唾液が絡むキスの音が、思考を白く混濁させながら、脳内に響き渡る。

唇から溢れ出した水滴が、雨の雫と共に大きくなり、頬から喉へ滑って行く。
先程よりもずっと早いペースで上下する鎖骨が、濡れたシャツを押し上げる。

滑り落ちて行く雫を追い掛けるように、頸筋に舌を這わせ、
一番上のボタンを歯と舌で押し開けて、シャツの上から胸に吸い付いた。
ボタンを開けたのと同じ仕種で歯を立てて、舌先で押し込むように刺激すると、
シャツから水分が、口からは甘い吐息が滲み出して来た。

「ん…あっ…」

ビクリとカラダが跳ね、カチャリとベルトのバックル同士が当たる、金属音。
その音を更に大きく響かせながらベルトを外し、濡れたシャツを引き出した。
僅かに触れた素肌は、汗と雨でシットリ潤い、予想外に冷たく…心地良い。


夕立が運んできた冷たい空気と、汗が冷いだ肌に触れたというのに、
カラダの奥からは、逆に熱がどんどん迫り上がってくる。

猛然と駆け回る雨脚と、ガクガク震え始めた山口の脚に急かされて、
外の雷鳴と同じぐらいの轟音で、僕の鼓動も激しく鳴り響き始めた。

「やまぐち…やまっ、ぐち…」

背に回していた手を緩め、今度は山口のカラダを回し、壁に手を付けさせる。
背の方から覆い被さりながら、うわ言のように、山口の名だけを繰り返し呼ぶ。

張り付く白いワイシャツが、カラダを支える腕と肩甲骨の動きに沿って揺れ、
弓なりに反った脊椎と、引き締まった腰のカーブが、裸以上にはっきり表れる。
裸とも、着衣とも違う、濡れたシャツに透ける肌…とてつもなく煽情的だ。


「う…あっ…ふ…ん、つ、っき…」

漏れ出る嬌声と、僕の名を呼ぶ山口の声が、壁に当たって跳ね返る。
反響する声に呼応するかのように、濡れた髪が水滴を跳ね上げ、項を覗かせる。
艶やかな黒髪に隠されているとは言え、どうして白いシャツよりも、
隙間から覗き見える項の方が、白く輝いて見えるのか…本当に不思議だ。

その理由を探るように、舌で襟足の髪を掻き分け、強く口付ける。
自分が落とした、ごく小さな紅い痕が、項の白さをさらに強調していた。
濡羽色の髪と、白磁に輝く肌、繋がりを示す紅…その光景に満たされた僕は、
歓喜を山口に伝えるべく、シャツの裾を捲り、背後から突き上げた。


「ぅ…っあ…あぁぁっ!!」

山口の内壁に滑り込む、湿った音。
納屋の外壁を流れ落ちる雨の音が、それを増幅しながら、辺りを支配していく。
稲妻の瞬きと同じリズムで、山口の中を激しく抉っていると、
眼前もチカチカと白く光り、弾けそうになってきた。
あぁ、もうすぐ…落ちる。


「ツッ、キー、も、もう…あぁっ!!」
「や、まっ、ぐ、ち…っ!」

ドン…と、近くに雷が落ちた瞬間、二人の中も激しい衝撃に貫かれた。
そして、目の前が真っ白に…僕の頭の中も、真っ白に落ちていった。




**************************




次に目が覚めた時、いつの間にか周りは真っ暗だった。
蝉の声も、雨の音も、もう聞こえない…どうやら雷雲は去ったようだ。

暗い部屋の隅に、ぼんやりした黒い人影が、陽炎の如く揺らめくのが見えた。
どうやら、僕より少し先に目が覚めたらしい山口が、こちらに背を向け…

「---っ!!」


突如、身震いするほどの恐怖が、カラダの中を突き抜けていった。
だが、身は震えるどころか、縛り付けられたように、ピクリとも動かない…
声を出そうにも、何かに喉と胸元を圧迫され、声はおろか呼吸もままならない。

   誰か、助けて…っ!
   怖い、怖い…怖い!

恐怖に慄く僕には全く気付かないまま、山口の暗い背は、一歩、また一歩…
這うようにゆっくりと僕から遠ざかり、扉の外へ出て行こうとする。

   嫌だ…行かないで…っ!
   僕を置いて…行くなっ!

蜃気楼に溶ける、蝉達の叫びのように、身を削ってでも山口の名を叫びたい…
だが、僕の掠れた声は届かず、その背を追い掛けることもできないまま、
山口の暗い影は、闇に溶けるように、ぼんやりと滲んでいった。

   待って、待って山口…っ!
   僕を…独りにしないでっ!


瞼の向こう側に、歪んで消える、山口の淡い残像。
それが完全に消え失せたのと同時に、僕の意識も暗闇に沈んでいった。




*************************




「ん…ここは…?」


うっすらと瞼を開けると、見慣れない四角い天井に、見慣れない四角い電灯。
四角に区切られた障子からは、既に眩しい程の日差しと、賑やかな蝉の声。

そして、鼻をくすぐる、味噌汁の香り…腹の中から、雷鳴が轟いてきた。

「お、ツッキー、起きたか?」
「ちょうど出来た所ですよ。」

とりあえず、顔だけでもサっと洗って来いよ…という声に促され、
条件反射的に「おはようございます。」と言いながら、
僕は寝ぼけ眼を擦りつつ、まだ上手く動かない重い足で、洗面所へ向かった。


座卓に並ぶ、ご飯に味噌汁、数種類の糠漬に、沢庵、梅干、シラスに明太子。
季節を問わず、朝は急須で入れた熱い緑茶…ほかほかと湯気を立てている。

黒尾&赤葦家では、毎朝決まって一汁一菜の、純和風の朝食である。
あとは海苔と、時折生卵が付くぐらい…シンプルだが絶対に飽きることはない。

月島&山口家は、パンとインスタントのポタージュが、朝の定番メニューだ。
食パンではなく、固めの田舎パンかバケットに、バターもしくは苺ジャム…
シメの一口は、メープルシロップをたっぷり染みこませて頂いている。
漬物代わりに、山口母直伝の自家製ピクルス…こちらも一汁一菜だ。

先日の結納事件合宿の際、初めてこの家の朝ごはんをご馳走になった。
月島の実家も洋食…黒尾さんが出してくれた『日本の朝ごはん』に、
父と兄も揃ってほっこり…妙な懐かしさに浸り、昔話をしてしまうほどだった。


「月島君も一緒に朝ごはんなら…鮭でも焼けばよかったですね。」
「今更、そんな見栄張らなくてもいいだろ…味付海苔、出すか?」

新聞を読みながら、どっかりと座卓に腰掛け、茶をしばく御主人。
その脇でいそいそとご飯を装う、白い割烹着が眩しい、奥様…
という『昭和ノスタルジー』な光景が、一瞬目に浮かんできたが、
こちらの御主人は、奥様と一緒に台所に立ち、仲睦まじく家事に精を出す。

   (これが、新婚家庭の…朝か。)

酒と肴がメインの『酒屋談義』や、4人集まって食べる週末の晩御飯…
それらとは全然違う、生活感溢れる『普段の黒尾&赤葦家』の姿に、
何とも言えない気恥ずかしさと、湯呑に入った緑茶ような温かさを感じた。

   (『普段の二人』…初めて見た。)

同じ家に棲み、共に仕事をするようになってから、一年近く経つが、
こんなにリラックスした『素の状態』の二人を見たのは、初めてだ。

   (凄く…あったかい。)

主将や副主将、所長や参謀といった『外の姿』を着ていない二人の姿。
それを見られたのは、物凄く幸せで、ラッキーなことだと、僕には思えた。
強張っていたカラダとココロを、その温もりが和らげ、解してくれた気がする。


「どうしたツッキー?ボケ~として…」
「もしかして、まだ…寝ぼけてます?」

湯呑を掌で包んだまま、茫然としていた僕を、二人が心配そうに覗き込む。
柔らかい口調や仕種が、長年連れ添った老夫婦のような雰囲気を醸し…
その穏やかさと、程好いお茶の温度に、自然と頬が緩んでいた。

「いえ、幸せそうだなぁって…」

思ったことを、思ったまま口にした。
地味で質素かもしれないが、この『朝ごはん』のような穏やかな温もり…
これこそが、二人の『本当の姿』だと気付き、僕は嬉しくてたまらなかった。

僕の言葉を聞いた二人は、良く似たキョトンとした表情をしたかと思うと、
同時に頬を染め…無理矢理顔を引き締めると、気まずそうに視線を逸らした。


「とっ、ところで…昨夜はよく寝られましたかっ!?」
「おっ、俺らが見た感じだと…熟睡してたよなっ!?」

柄にもなく照れちゃって…意外と可愛いトコ、あるじゃないですか。

緩んだ頬を隠すように、僕は「いただきます。」と両手を合わせた。
そして、緊張が完全に抜けたところで、二人に昨夜のことを話し始めた。


「実は昨夜…僕は生まれて初めて、『金縛り』に遭いました。」




- ⑤へGO! -




**************************************************

※月山のラブソング(情事詩)
   →スキマスイッチ 『雨待ち風』


2017/07/25  

 

NOVELS