『愛理我答』(年末編)の続き



    同意足増(月山編)







「僕の予想では、今頃あの二人…『考察そっちのけ』だろうね。」
「新年早々、心底羨ましいよね~。こっちは修羅場ってんのに…」


昨年末、ツッキーと共に実家・仙台に帰省した。
年末年始は、基本的にはぞれぞれの家で『家族水入らず』で過ごし、
ツッキーと顔を合わせたのは、毎年恒例の『除夜の鐘』と、
三が日過ぎた頃にあった『烏野高校排球部OB会』の時だけだった。

去年までは、帰省しても毎日ツッキーと会ったり、バレーをやったりと、
『家のこと』などお構いなし…『地元に戻ってきた大学生』を満喫していた。
でも今回の帰省では、昨夏に婚約したこともあるせいか、
『自分の実家』や『家族』というものを強く意識するようになり、
年末年始は、率先して大掃除やらお正月の準備やら…お手伝い三昧だった。

特に俺は、仕送り終了を申し入れ、『自立』への第一歩を踏み出し、
ツッキーと正式に同棲…未熟とは言え『家庭』を築き始めていることもあり、
『家のこと』がいかに大変か、身を以って痛感していた。

だからこそ、仕事でヘロヘロになっていた両親のために、
炊事洗濯…できる限りのことは、俺がしてあげたいと…自然に体が動いた。
そんな俺の姿に、父さんは大げさにボロボロと感涙し、
鉄面皮の母さんまでもが、声を上擦らせて感謝してくれた。

あぁ…これが、『オトナになる』ってことなんだろうなぁ~と、
俺は自分自身の成長を、まるで他人事のように実感した。


そして、無事に年が明けると…待っていたのは『年相応の現実』だった。
早くも家庭を築いたとは言え、俺達の本業は『大学生』なのだ。
正月休みが明けたら、すぐに進級のかかった後期試験が始まるし、
その前に、単位に直結する『課題』が、文字通りに山積しているのだ。

仕事も抱えている分、本業たる学生で躓くことなど、到底許されない。
しかも、今年からは大きな国家試験を目指そうとしているのだから、
単位はできるだけ多く、そして早めにクリアしておかなければならない。
まさか取り落としなど…絶対にあってはならない。

「コレを落としたら、ツッキーとの結婚も遠のく…!」
呪文のように呟きながら、滲み出そうな涙を必死に堪え、
毎日机に噛り付く修羅場…それが、俺とツッキーの『お正月』だった。
のんびり会うヒマなんて、どこにも存在しなかったのだ。


あっという間に、年明けから一週間。親達はとっくに仕事始め。
俺とツッキーが東京に戻る前日(三連休の中日)に、
月島・山口両家による『二家族会議』…毎年恒例の新年会が開催された。

今までも仲の良かった両家だが、俺達の婚約を経て、更に仲良しに…
新年会は、例年以上に大盛り上がりのものとなった。
初代ウワバミ王の父さんと、二代目ウワバミ王の俺、
そして、課題がまだ残っているため飲まなかったツッキーの3人で、
グデグデに酔い潰れるオトナ達を布団に寝かせ、
(新年会の日は毎年、山口家全員で月島家にお泊りしている)
『てんやわんや』の会場を、綺麗にお片付けしてまわった。

「家事に始まり、家事に終わる…年末年始の主婦は、大変だよね。」
「僕達は明日朝に帰京するっていうのに…最後まで家事だったよ。」

どうやらツッキーも、年末年始は『家族』に振り回され…いや、
『愉快な月島家』を満喫したようだった。
実家に帰省した方が疲れる…まるっきり『家庭を持った娘』の顔だった。
あの『ヤりたい放題』のツッキーでさえ、所帯じみたことを言うように…
俺はツッキーの成長については、自分のことのように嬉しく思った。


オトナ達の面倒を父さんに任せ、俺達二人はツッキーの部屋へ上がった。
この部屋に来るのは、随分久しぶり…夏のゴタゴタ以来だ。
それよりも、ツッキーと『二人きり』なのも、かなり久々…
『除夜の鐘』から10日程、OB会から一週間近く会ってなかったのだ。

「こんなにツッキーと『久しぶり』なのって…」
「もしかすると、『出会って始めて』かもしれないよね。」

子どもの頃は、冬休みはほぼ毎日、一緒に遊んでいた。
高校でも、休みなど皆無…練習三昧で、顔を見ない日はなかった。
引退後や受験中も、何やかんやと理由をつけて…逢いに来ていた。
そして上京後は、『なんちゃって』を経て、正式に同棲。
年を跨いで約2週間の間に、今日を含めて3回しか会わなかったなんて…

「ちょっと前の俺達だったら、耐えられなかったかも。」
少々離れていても(本当は至近距離だが)、揺るぎない…強固な繋がりがある。
それを確信しているからこそ、じっくりと『実家』を満喫できたのだろう。

「まぁ…『これ以上』はさすがに、禁断症状が出そうだけどね。」
ツッキーはそう言いながら、俺専用のお泊り布団(セミダブル)を広げ、
その上に座卓を置いて毛布を挟み、簡易な『こたつ』を作った。

「一時間だけ、お互いに『課題』を…頑張ろうか。」
「了解!一時間以上は…禁断症状が出るもんね?」
ヤりたいことは、ヤるべきことをヤってから…
ツッキーの言葉を頭の中で唱和し、集中モードに突入した。


…きっちり一時間後。
ツッキーは計ったように(間違いなく計っていた)深呼吸すると、
座卓の上の『課題』を除け、別の『課題』を開いて乗せた。

「山口、この写真…見て。」
「これは…土器?」

特徴的な縄目模様が装飾されたもの…
詳しい分類はわからないが、恐らく『縄文式土器』の一種だろう。

「これは、『甑(こしき)』と言う、調理用の土器だよ。」
『鬲(れき)』と呼ばれる、湯を沸かす沸騰器の上に乗せ、
蒸気で穀物を蒸し上げる…今で言う、せいろや蒸し器のような、
『おこわ』を作るための土器だ。

「この甑、ある『モノ』のカタチに、ソックリなんだ。」
「甕に似た…あ、俺から見ると逆さまだけど、お寺の梵鐘にも似てるね。」

俺の感想に、「そんな見方もあるのか…関係あるかもしれない。」と、
ツッキーは何やら一人で考え込む仕種を見せたが、
すぐに気を取り直し、今度は文庫本を座卓に置いた。

「これは、ある遺跡から出土した甑なんだけど…」
「土台の上に、器が二つ?実用には不向きっぽいから、祭祀用かな?」



『ぐい飲み』二つの根元をくっつけたような、不思議なカタチをしている。
逆さにすると、二つベルが付いた、教会の鐘みたいな…?
とりあえず、身近にあるモノに、似たようなカタチは見当たらない。
降参だよ、のポーズを取ると、ツッキーはスマホを取り出し、
不思議な画像をこちらに見せてくれた。



「あ、確かにその甑にソックリだけど…これ、一体…何の写真?」
座卓を挟み、向かい合わせに座っていることもあり、
ツッキーとの間には少し距離があった。
だが、スマホを受け取って間近に見ても、その正体が何か…わからなかった。

「実はこれ…ハブのメスの、生殖器なんだ。」
「えっ!?ハブって、あの…猛毒蛇?」

ハブについては、『酒屋談義』で何度も語り合ってきた。
ハブのオスには、アレが4本もある…という、↓方向のネタとして。
散々ネタにしてきたけども、メスについては全くノータッチ…
それどころか、オスのアレも、実際にどんなものか、写真すら見たことなかった。

「ハブは4本あるんだけど、他の蛇は2本…
   オスもメスも、『左右一対』の生殖器を持つんだ。」
だから、ほら…
ツッキーが次に見せてくれたのは、オスのアレの写真。
長い胴体の、真ん中よりも下の方に、白いブヨブヨした、二つの…

「…足?」
「そう見えるよね。」

コレを見たことがなかった人が、初めて見ると、『足』だと思ってしまい…
「蛇に足があった!」と、ペットショップに問い合わせが来ることもあるそうだ。

そうか…そういうコト、だったのか。
だから、『蛇足』と言われる話は、どうしても『↓方向』になってしまうのだ!!
ずっとずっと謎だったことが、今ようやく解明された。
…ではなくて。


「蛇は穀物の神。祭の本質的な目的は、五穀豊穣…子孫繁栄の祈願。」
「その祭祀に使う、『穀物』のための土器…『甑』のカタチが、
   蛇の生殖器を模してるってことだね!」
これは実に合理的な発想ではなかろうか。
穀物を生み出すモノとして、これ以上に相応しいカタチなど、そうそうない。

「蛇の飾りが付いた土器も、たくさん出土してるだって。」
蛇を頭に乗せた人物像や、蛇がたくさん巻き付いた壺…
むしろ、動物紋様の中では、蛇が一番多いみたいだよ。

「そもそも、『縄文』って…蛇の紋様ってことだよね?」
何故古代人達は、余計な手間暇をかけて、わざわざ『縄目模様』を付けたのか。
どうして『縄目』でなければならなかったのか。

「全ては、穀物の神…蛇を真似るため。蛇のような繁栄を、願っていたから…」
「今まで、何でこんな簡単なことに気付かなかったのか…本当に情けないよ。」
土器は歴史の授業の初っ端に習う…『日本の歴史』のスタートに位置するものだ。
一番最初に暗記する『モノの名称』が、縄文式土器かもしれないのに。

「農耕民族の日本人…その歴史のスタートから、蛇を特別視してきてたんだね。」
蛇が神だった…その答えは、こんなにわかりやすいカタチであったのだ。
いかに自分達が『考察』せず、ただ漫然と『知識』のみを入れ、
知ったような気になっていたか…痛感させられる。

「ハブのアレだって、実際に写真で確認したのは…実は、年末だったんだ。
   ネット環境だってあるし、検索すればすぐに調べられるのに…」
「去年の初夏から、あれだけ語っておきながら…
   俺達の『考察』も、すっごい薄っぺらい『知識』だけだったね。」

これからは、ちゃんと自分の目で確認したり、やってみたり、
『知識』と『経験』の両方から、『考察』していかなきゃね。

ツッキーの感嘆と決意に、俺は心から同意した。




***************





ツッキーから文庫本を借りると、「んん~」と伸びをし、
そのまま後ろにパタンと寝転んだ。

即席『こたつ』の中で、組んでいた胡座を緩め、軽く伸ばすと、
同じように胡座を組んでいた、向こう側…ツッキーの脚に当たってしまった。

「あ、ごめん、ツッキー…」
「いや…大丈夫だから。」
特に気にした様子もなく、座卓に広げた資料(遺跡の考古学調査書?)を、
真剣な表情で読み込んでいるようだ。
どうやら、さっきの土器が気になるみたい…
俺はツッキーの邪魔にならないよう、脚を肩幅ぐらいに開き、
膝を少し曲げ…寝転がったまま、文庫を読み始めた。

『一時間だけ頑張る』の時は、あんなに苦痛だったのに、
趣味の『雑学考察』に関するものなら、論文もスラスラ読めてしまう。
同じ学術文庫だったのに…人間の脳、特に『ヤる気』は、欲望に忠実だ。


しばらく夢中で読み進めていると、こたつの中でツッキーが脚を崩し、
こちら側に伸ばしてくるのがわかった。
小さく狭いこたつ…ツッキーの長~い脚は、俺の体のあちこちに当たりながら、
曲げた膝下を通すように、やや強引に俺の方へとやって来た。

ツッキーのために、スペースを…と思い、本を読みながら腰を浮かせ、
こたつから少し出ようとすると、その浮かせた腰回りを、両足で挟まれた。

「…?」
きっとこれは、『そのままでいろ』ということだろうけど…
ツッキーは何も言わないどころか、こちらに一切視線すら寄こさず、
時折ノートにメモを取りながら、黙って資料を捲り続けていた。

まあ…ツッキーがいいなら、いいか。
俺は再び腰を下ろし、本の続きに目を走らせようとした。
だが次の瞬間、頭上に掲げた文庫を、自分の顔にバサリと落としてしまった。

「っ…!?」

腰の横辺りにあったはずの、ツッキーの右足。
それがいつのまにか、スルリと腿の裏をなぞるように動き…
肩幅に開いていた俺の脚の『付け根』付近に、そっと当てられたのだ。

突然ソコに触れられた俺は驚き、こたつから飛び出ようとしたが、
その部分を軽く押さえられ、身動きが取れなくなってしまった。

    (つ、ツッキー、どういう…?)

理由を聞こうとするも、ツッキーは『何事もない』風に、『勉強』に集中。
どうしたものかと俺が迷っていると、その右足がそわそわと…
ジーンズの縫い目を辿るように、上下に動き始めた。

    (ちょ、ちょっとツッキー…!)

な、ナニ、ヤって…
慌てて脚を閉じようとしたけど、その前に左脚を入れ込まれ、
ぐいっと開かされ…更に自由に、右足を動かされてしまう。
下から上に、明確な意図を持って…擦り上げられる。

抗議の声を上げて、理由を問い質したい。
でも、この家には月島家どころか、山口家のみんなも居る。
もし誰かに、俺達の『際どい会話』を、聞かれてしまったら…

結局俺は、『当たり障りのない会話』で、ツッキーの真意を問うことにした。


「み、みんなもう…寝ちゃったかな?」
「多分ね。でも…月島家の『お家芸』は、油断ならないよね。」
お家芸…即ち、『乱入』だ。
おばさん、明光君、そしておじさん…
幾度となく乱入され、その都度肝を冷やし、やり場の無い怒りを飲み込んできた。
特に、隣の部屋で爆睡しているはずの明光君は、要注意だ。
俺達だけでなく、黒尾さん達も、その『お家芸』の被害に遭っているのだから。

「まあ、さすがのあの人も、『勉強』の邪魔は…しないでしょ。」
たとえ今、この場に乱入されたとしても、パッと見は『勉強中』だ。
『普通』にしていれば、まさかこたつの中で…など、思わないだろう。

でも、だからと言って…
このまま『普通』を装い続ける自信は、正直…あまりない。

本来なら、直ぐにこたつに手を入れ、ツッキーの足を止めるべきなんだろう。
それなのに、まるで蛇に睨まれたかのように…抵抗できないのだ。

    (いや、そうじゃない…わかってる。)

ヤる気は、欲望に忠実。
さっき脳内で自分で言った言葉…それが『正解』だ。

人が周りにたくさん居た『除夜の鐘』のお寺。
みんなと大騒ぎした『排球部OB会』に、今日の『二家族会議』。
帰省中に会った、たった3回…そのいずれも、ツッキーとの接触がなかった。
お互いに触れたのは、仙台へ向かう新幹線の中…
コートの下で、こっそり手を繋いだ時以来になる。

約二週間ぶりに触れた…触れられたのが、ココなんて。
そんなの、抵抗できるわけ…ないじゃないか。


「蛇の『脱皮』の所…読んだ?」
「うん…斜め読み程度、だけど。」

ツッキーは俺の腰下に足先を突っ込むと、そこにつま先部分を引っ掛けて、
クルリと裏返しながら靴下を脱いだ…蛇の脱皮みたいに。
更に自由が利くようになった素足が、『脱皮したい』と主張し始めた部分を、
煽り促すように…そわそわと這い回る。

手や指、口や舌とは全然違う…焦ったさばかりが募る動き。
こたつの『中』と、部屋の『外』へ向ける意識のギャップ…スリルが、
益々昂奮を高め、蛇の鎌首を持ち上げてしまう。

右手でペンを回しながら、左手は『中』で俺の靴下を引き抜く。
今度は逆の手で、クルクルとペンを回し…
足先でジーンズのホックを、とんとんとノックされる。

それを外せ…という、ツッキーの指示に従うのを、俺が躊躇っていると、
ツッキーは身を捩りながら、背後の本棚に手を伸ばして辞書を取り…
その間に、『中』でさらに『脱皮』してみせた。

自分の素足に触れる、滑らかな素肌の感触。
俺はゴクリと唾を飲み込むのを誤魔化すように、くしゅんとクシャミをし、
こたつ布団(代わりの毛布)を肩まで掛けようと、カラダを少し『中』に入れた。

こたつの向こうから、ツッキーの手が伸びてくる。
ホックを外すと、足側から『脱皮』させられ…素肌同士が触れ合った。

    ツッキーの脚に挟まり、腿上に軽く腰を乗せるような格好の…『中』。
    真剣な表情でノートにペンを走らせ、夢中で読書をし続ける…『外』。

この倒錯した状況に、ゾクゾクと背が震えてくる。
それを絶対に『外』には出さないよう、『世間話』で誤魔化した。


「こないだ、赤葦さんが言ってたんだけど…
   黒尾さんって、六法全書を読むのと全く同じ顔で、官能小説を読むらしいよ。」
「あの人なら、右手で離婚協議書を書きながら、
   左手で『R指定』の二次創作…平然とやってのけるだろうね。」
ホント、『外』には爽やか好青年のツラ下げといて、腹の『中』は真っ黒…
あぁ、頭の『中』はピンク色かもしれないよね。
とてもじゃないけど、僕にはそんな芸当…できやしないよ。

「ツッキーは器用だから…ヤれるんじゃない?」
「さあ…どうだろうね?今度試してみようかな。」

…さすがツッキー。
脳内どころか、こたつ内で…『R指定』をヤってのけてるよ。
もしかすると、論文を書いてるようにしか見えないけど…

    こたつの中で月島は、山口の秘孔を掘り当てた。
    山口が手を添えていた『二つ』の噴出口からは、
    熱い源泉が、沸々と湧き出しそうになっていた。

…みたいな、二次創作(実録?)小説を執筆しているかもしれない。

それにしても、この状況…自分を題材にした『二次創作』を見ているような気分だ。
こたつの『外』の冷静な目で、見えないこたつの『中』を妄想している…
こたつの『向こう』のツッキーが、いつもより遠い場所にいることが、
余計にツッキーと『こういうコト』をしているという現実感を希薄にさせ、
ヤってるような、ヤってないような…乖離した状況を生み出している。

だからこそ、このギャップに…どうしようもなく、滾ってしまう。
ツッキーと自分が、『こういうコト』をしている『R指定』二次創作を読みながら、
あまりのリアルさに、ちょっとムラムラしてしまう…そんなカンジだ。


何か…懐かしいな。
ツッキーとは、高校時代から何度も、こうしてこの部屋で…
みんなにバレないように、布団に籠って、声を殺してきた。
だから、こうして『何でもないフリ』は、割と慣れている…はずだったんだけど。

一緒に暮らすようになって(しかも戸建!)、声も乱入も気にする必要がない生活。
こうして『じっと我慢』系は…本当に久しぶりだ(但し、屋内に限る)。

懐かしさに浸っていると、後孔に押し当てられる、身に覚えのあるモノ。
その熱が、じわじわと…

    (ま、まさか、このまま…!?)

「あっ、つ、ツッキー!明日はっ、朝早い新幹線…だったよ、ねっ?」
だから、これ以上の『勉強』は、無理せず…
『続き』は、明日…『家に帰ってから』に、しとかない?

いくら何でも、これ以上は…『普通の顔』を押し通す自信は、ない。
むしろ問題は、狭い空間で、動くこともできず、声も出せず…
声を出さないでいられるほどの動きしかできないことに、耐える自信が…

    (これこそまさに、蛇の…生殺し、だよ!)

無理無理…と、文庫を持つ指で小さく『×』を作ってみせたけど、
ツッキーはノートに、同じ『×』を書いてこちらに見せる…
同じ文字だけど、これは俺の意見に対する『同意』じゃない。
その『×』の下に、蛇の落書き…その蛇には、『足』が書き足されているのだ。


「山口は、先に寝ててもいいよ?
   僕は…『キリがイイとこ』まで、ヤってしまいたいから。」
あぁ、眩しくて寝れないなら…顔にコレを掛けておく?

こたつの向こうから、ツッキーが羽織っていたカーディガンを渡される。
顔は隠せたけど、今度はツッキーの香りに包まれてしまい…

    (ダメだ、もう…蛇に、呑まれてしまう…)

「俺が、風邪引かないように…」
後でちゃんと、布団に…入れて、ね?


ツッキーにそうお願いしてから、
俺はできるだけ奥まで、こたつの中にカラダを潜り込ませた。




- 月山編・完 -





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※夏の『二家族会議』 →『掌中之珠
※月島家のお家芸 →『黄色反則』『方形之地』『家族計画
※こたつの中で… →雅なネーミングで『こたつ隠れ』

※添付写真は、『蛇 -日本の蛇信仰-』吉野裕子著 講談社学術文庫  よりお借りしました。


2017/01/10

 

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