愛理我答(年始編)







年の瀬はあんなに街中が忙しなかったのに、
年が明けた途端、静謐な空気に入れ替わった気がする。
帰省している人もおり、純粋に人口が少ないことに加え、
残っている人もその多くが家の中…
街中を出歩く人の数も、普段よりは少ないのだろう。
それらの要因が相まって、お正月は『静かだな』と感じる。

そんな静かな街を、黒尾と赤葦はのんびり歩き、
近所の神社へと向かっていた。
自宅から徒歩10分程の場所にある、この辺りの氏神様は、
三が日も過ぎたこともあり、お正月の雰囲気は残しつつも、人影は疎ら…
二人以外には、厄祓いの準備を待つ数組と、家族連れが一組いるだけだった。

「小さいながらも…静かで素敵な神社ですよね。」
「新年の抱負を誓うには…相応しい場所だよな。」

二人は並んで鳥居の手前で頭を下げ、手水場で手を清めると、
参道の端を通って本殿へ向かい、ニ礼二拍一礼…氏神様に『ご挨拶』をした。

「そう言えば、ここに引越して来てから、初めての『ご挨拶』だな。」
「えぇ。『ご挨拶』が遅くなってしまい、大変申し訳なかったです。」

まあ、年末年始の『ご挨拶』行脚の大トリには、相応しい方かもしれませんね。
そう言いながら、赤葦は柔らかく微笑み、
「家族全員…どうぞよろしくお願い致します。」と、改めて手を合わせた。


昨年末、共に人生を歩むことを誓い合った二人。
この年末年始は、互いの実家へ揃って出向き、
それぞれの両親への『ご挨拶』を、何とか無事済ませてきた。
年末〆の大きな納品修羅場、その直後からの『ご挨拶』行脚…
こうして二人きりで散歩をしたのは、一体いつ以来だろうか。
いや、そもそも『二人きり』の時間を持てたのも、久しぶりだ。

やっと戻ってきた『のんびりタイム』に、二人はようやく肩から息をついた。
凛とした神社の空気が、溜まった疲れを慰めてくれたような気がした。

参拝を終えた二人は、本殿脇のベンチに腰を下ろし、
古いお札やお守りを『お焚き上げ』している火を、並んでぼんやり眺めた。
神社の澄んだ空気と、お焚き上げの火に浄化され、
いつもより素直に…謙虚な気持ちになってくる。

「何だか…感謝の気持ちが湧き上がってきました。」
「特に今年は…今までになく、それを感じるよな。」

去年までも、実家近くの神社には、毎年初詣はしていた。
だが、それはあくまでも『年中行事』の一環としてであり、
一応『新たな気持ち』的なものは感じるものの、それ以上でも以下でもなかった。
勿論、由緒書や神社縁起を見て、『なるほど。』とは思うが、
それ以上深く考察することもなく、暇つぶしの域を出ることはなかった。

「皆と『酒屋談義』するようになってから、
   社寺仏閣に来た時の『意識』…随分変わったよな。」
「この神様が、一体どんな経歴を持つのか、
   ちゃんと考えて…お参りするようになりましたね。」

どんな経緯から『神』になった…祀り上げられたのか。
どんな思いで…人々の願いを叶える存在となったのか。
それらを考えると、とてもじゃないが私利私欲にまみれた『お願い』など、
神仏の前では言い出せなくなってしまった。


「起業した…商売始めたってのも、意識変革に大きく寄与したな。」
一番信心深いのは商売人…と、昔から言われているのも、
彼らが繁盛を本気で願わざるを得ない立場だから…それも間違いないだろう。
だが、実際に事業を起こしてみて痛感したのは、自分がいかに周りに助けられ、
運や縁に恵まれていたかという、『自分以外』の存在の大きさだった。

様々な偶然の巡り合わせと、手助けしてくれる人達…それを得られた幸運は、
とても『自分の功績』とは思えず、冗談でも『人徳』だなんて言えなかった。
その分、導き合わせてくれた『何か』に対し、謙虚な気持ちを抱くようになった。
きっと商売人達は皆それを感じ…神仏に自然と頭を下げてしまうのだろう。

偶然の積み重ねと、皆の助力で、今の俺がある…
自分を形作る全てに対し、黒尾は心から感謝した。


良縁と言えば…
赤葦はチラリと黒尾に視線を送り、言葉を継いだ。
「結婚したこと…できたことも、自分の意識を大きく変えました。」

本当はお互いに惹かれ合っていたのに、その気持ちを抑え続け、
ずっと『ない』ものだと思い込んでいた…不器用で鈍感だった自分達。
様々な人に助けられ、見守られながら、この程ようやく結ばれた。
この天文学的な奇跡とも言える『良縁成就』には、
天神地祇どころか、世界中の神仏に大声で感謝を絶叫したくなる。
この世に生を受け、『この人!』だと思う相手と出逢い、そして結ばれるなんて、
確率計算するまでもなく、『運命』や『奇跡』としか思えない。
自分達のようなレアケースの場合など、特にそうだ。
きっと神の気まぐれか悪戯だろうが…だとすれば余計に、頭を下げたくなる。

「四ヶ月程一緒に暮らしましたが、実の所…全くストレスがありません。」
「変な言い方だが、まるで自分と暮らしてるみてぇな…そんなカンジだ。」
異なる環境で育った『赤の他人』と生活をするのに、
これと言って違和感等を感じることもなく、自然体でいられる…
信じられないほどの幸運である。

「多少の『贔屓目』はあるが…俺は最高の相手と結婚したと思う。」
「しかもその目の上に、『色眼鏡』まで乗せて…最高に幸せです。」

新年早々、公然と惚気三昧である。
これが所謂、『新婚さん』というやつか。

火照った思考と頬は、『お焚き上げ』の熱のせい…
二人はそう結論付け、視線を神社の杜に彷徨わせながら、話題を切り替えた。


「新年に気持ちを引き締めるためも、初詣って伝統は大事かもな。」
凛とした声で、黒尾が表情と場の雰囲気を引き締めにかかったが、
赤葦がそれにすかさず『待った!』をかけた。

「年越からの初詣という風習は、実はごく最近始まったそうです。」
元々は、神社の氏子や寺の檀家が集まり、大晦日の晩から元日の朝まで、
夜通し籠って様々な祈願を行っていた『年籠り』という風習だったが、
いつしかそれが、『除夜詣』と『元日詣』の二つに分かれ…
『元日詣』が現在の『初詣』の原型となったそうだ。

『年籠り』をせず、『元日詣』だけを行うようになったのが、明治中期。
歳時記に『初詣』が俳句の季語として採用されたのは明治後期からで、
実際に使われ始めたのは、大正時代に入ってからだそうだ。

「当初は、自分が氏子や檀家になっている社寺に参拝していたそうですが…」
「今みたいに、『有名どころ』に大挙するようになったのは…ごく最近か。」
まさか、年の始めの大イベントが、そんなに『ごく最近』始まったとは…
ずっと大昔からあった風習だとばかり思っていた黒尾は、
ある点が気になり…赤葦に確認した。

「その風習、誰かが最近、やろうぜ!って言い出した…のか?」
「はい。実に明確な目的で…そう喧伝し始めた人々がいます。」」
赤葦は苦笑いしながら、杜の遥か先…
立ち並ぶマンションの狭間から見える、高架橋を指差した。

「御利益のある有名どころへ、『電車』でお参りに…」
「まさか…鉄道会社のプロモーションだったのか!?」
一般人にまで初詣の風習が根付いたのは、鉄道網が発達して以降。
皆で電車に乗って…そうだ、お参りに行こう!という訳らしい。

「深夜便増発…鉄道会社はさぞ、ウハウハでしょうね。」
「初詣が、バレンタインやハロウィンと同じ…とはな。」
当たり前のように行ってきた、伝統や風習に、
実はこんなに深い真意が…というのが、『酒屋談義』定番の流れだったのに。
今回は、蓋を開けてみたら、まさかの『商売人』というオチが待っていた。

「新年一発目のネタが…現実的な話になっちまったな。」
「これもまた真理…緩急共に楽しむべし、でしょうね。」
時の権力者達にとって都合の良かったことが、そのまま風習になるように、
鉄道会社、製菓メーカー、遊園地にとってオイシイものが、いつしか風習に…


「結局のところ、皆イベントが大好きってことになるな。」
「皆から支持されたものが、やがて文化になるんですね。」

始まりが何であれ、こうして良い新年のスタートの契機となったのだから…
まあ、『結果オーライ』ということにしておこう。




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『お焚き上げ』の火でしっかり温もった二人は、
神社を後にし、来た時よりもゆっくり…街中を散策しながら帰路についた。

その道すがら、大きな家の門前に、立派な門松が飾られていた。
これぞまさに『お正月』…これなら『深い真意』に繋がりそうなネタだと、
二人は『初詣』考察のリベンジの如く、早速語り始めた。


「門松は、年の始めに各家庭にやって来る来訪神…」
「年神(歳神)様の依代となるもの…だったよな。」

恵方神や歳徳(とんど)神とも呼ばれる大年神(おおとしがみ)は、
素戔嗚尊(すさのおのみこと)と神大市比売(かむおおいちひめ)の子で、
その兄弟神に、宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)…お稲荷さんがいる。

ちなみに、神大市比売は素戔嗚尊にとって、二番目の奥様…
八岐大蛇の生贄だった、櫛名田比売(くしなだひめ)の、次の妻である。

「月島君によると、『歳』は稲を表す漢字だそうです。」
「お稲荷さんも素戔嗚尊も含め、穀物神一家出身だな。」
暦は『稲作スケージュール』のために作られたことから、
稲を表す『歳』も、『一年』という意味を持つようになったそうだ。
つまり年(歳)神様は、その年の豊穣をもたらす神様…ということだ。


黒尾は門松を横目に見ながら、少し声を落として呟いた。
「俺、昔から疑問だったんだが…
   そんな大事な神様を、家の『外』に出しといていいのか?」

黒尾の疑問に、赤葦は虚を突かれた。
そして幼い頃、先が尖った竹が危なくて怖いな…と思ったことを思い出した。
「本来なら、もっと丁重に扱う…
   神棚や床の間に飾るぐらい、大事にすべきものですよね。」
事実、年神様の『御神体』とされる『鏡餅』は、
神棚や床の間といった『神聖な場所』に、大切に飾られる。

「その竹も、『むしろ』で巻かれ…まるで『簀巻き』みてぇだし。」
「『簀巻き』にされ、屋外に晒され…ほとんど『処刑』ですよね。」

お正月の『おめでたい』お飾りに対して、散々な物言いである。
自分達の『口の悪さ』に、顔を見合わせて苦笑い…しようとしたが、
二人はすぐにその表情を曇らせ、真剣なものへと急変させた。

「確か、素戔嗚尊は…簀巻きにされて、水に流されたはずです!」
「年神様の御神体は鏡餅…つまり蛇だよな?『元々いた神』だ。」
今まで何度も、4人で話したじゃないか。
『おめでたい』と言われているものが、実はそうじゃないかもしれない…
『門松』も『宝船』と同じ構図を持つ可能性があるのだ。

「大年神は、『古事記』に登場する神の中でも、レアケースだそうです。」
天照大神やニニギといった皇統…天皇の祖先神でもなく、
素戔嗚尊や大国主のような、一国の支配神でもないのに、
神裔…大年神の子孫達のことが、きちんと記載されているのだ。

「逆に、母の神大市比売を祭神としている神社は、何故かほとんどない。」
日本最高神と言われる天照大神の兄弟神・『素戔嗚尊』の妻であり、
穀物と豊穣を司る『大年神』と『お稲荷さん』の母という、
超有名神一家の要であるのに…だ。
本来ならば、『穀物の母』として、大々的に祭られてもいい存在である。
そもそも、神大市比売がどんな存在なのかも、はっきりしていないのだ。

重要な役割を担ったのに、封印され、無視され続けてきた神々…
大祓詞に出てきた瀬織津姫に通じるものが、じわじわと漂っている。

「この一家については…考察しがいがありそうだな。」
「えぇ。『歴史の闇』が、チラチラ透けて見えます。」

このネタは、散歩がてら…ではなく、本腰を据えて、
『酒屋談義』でじっくり考察すべきものだろう。

散歩中に発見した、新たな課題。
きっと、壮絶な結論になるだろうという、確信めいた予感があったが、
それでも気付いたのであれば、もう…見て見ぬフリはできなかった。


「黒尾さん…ちょっと寄って行きませんか?」

卵が切れたのと、お餅も追加で欲しいので…と、
赤葦は気分転換がてら、行きつけのスーパーに立ち寄ることを提案した。
黒尾は笑顔で『了解!』と答え、カートにカゴを乗せた。

二人で暮らすようになって、スーパーでお買い物という『日常業務』…
ほんの些細なことだが、二人にとっては『イベント』となっていた。

「なあ、小さい方のラップ…そろそろ切れそうだったぞ。」
「確か、洗濯洗剤もです…ついでに買って帰りましょう。」

デートや宅飲みの『買い出し』ではありえない、生活感溢れる『日用品』が、
『一緒に暮らしている』ことを、一番はっきりと感じさせてくれるのだ。
それらがカゴの中に入っていくだけで、何だか頬が緩んでくる。

また、自炊経験のなかった二人にとって、スーパーは考察ネタの宝庫。
主婦にとっては何でもない『当たり前』のモノも、目新しい『発見』なのだ。
月島や山口には、呆れを通り越して怒られてしまうことも多々あるが、
この『お買い物考察』が、黒尾と赤葦の『ちょっとした楽しみ』になっていた。


「餅、餅…お、珍しいな。『丸餅』も売ってるぞ。」
「最近、関東でも…見掛けるようになりましたね。」

東京生まれ・東京育ちの黒尾と赤葦にとって、餅は四角いのが当たり前だった。
だが、西日本では『丸餅』が当たり前…四角いのは見たことがない人も多い。

東日本の親戚から、「お餅を送ります。」と言われて喜んだのに、
箱を開けても何も入っとらん…と、困惑(苦情)の電話を掛けた、西の人間。
話を聞いてみてやっと、箱の『底』だと思っていた白い板状のモノが、
切る前の『のし餅』だった…という、カルチャーショックな話もある。
…結局それも、「これ、魚屋の巨大まな板にしか見えんのんじゃけど。」と、
納得いかない様子で、慣れない『餅を切る』作業をした…とのことだ。

「餅をついたら、皆で一つずつ『丸める』…らしいぜ。」
「それはまた、楽しそうな…『大イベント』ですよね。」
こうした古くからの『伝統行事』こそ、地域の特色が出て…面白い。


黒尾は丸餅をカゴに入れながら、その丸餅に関する話を続けた。
「正月の餅…元々はこっちの『丸餅』だったらしいんだ。」
「まぁ、お正月の『鏡餅』も丸いですから…納得ですね。」

『のし餅』は、大量生産と効率性から…と、赤葦はどこかで聞いた覚えがあった。
元々は年神様の御神体である『鏡餅』を、手間暇掛けて模して作っていたはずだ。
だが黒尾は、「それだけじゃない。」と首を横に振った。

「『鏡餅』は『かか(蛇)+み(身)』…蛇がとぐろを巻いた姿だったろ?」
昨年末…クリスマス会で語り合った話である。
蛇は穀物神。大年神も、同じく穀物神…豊穣をもたらす神だ。
豊穣とは即ち…『子孫繁栄』ではなかったか。

「あ…『丸餅』は、蛇の子孫…蛇の『卵』を象っているんですね!!?」
蛇の卵は、石灰質が少なく、ぶよぶよとした白い…大福にソックリである。
ソックリなのは、こちらもそうだ。




「正月には欠かせない『注連縄』も、蛇のアレを表すらしいぜ?」
「頭から尾まで、『縄のように』絡み合う…蛇の交尾、ですね。」
天照大神が天岩戸から出てきた後、そこに再び籠ってしまわないようにと、
天岩戸に掛けられた『シメクリ縄』が、『注連縄(しめなわ)』の由来だそうだ。
そして、尾を激しく絡ませるトンボの交尾を…『シリクミ』と言う。
これも同じく、『シメクリ縄』を語源とする言葉である。
また、 地域によっては、注連縄と丸餅は『同じ日に作らなければならない』という、
二つの『繋がり』をはっきり示す『きまり』が、残っている場所もある。

    一年の初めに、実りをもたらす年神様をお迎えする。
    その御神体は、『鏡餅』…穀物神である蛇の姿。
    蛇の『子孫繁栄』を掲げ、その『卵』たる丸餅を作る。

「日本人はとことん、『擬き(もどき)』が大好きだな。」
「『~に似ている』といったネーミングも、大好きです。」

事務所に飾った、プラスチック製の鏡餅。
その中には、一つずつパッケージされた丸餅がいくつか入っていたのだが、
実に『正しい』…『元々』の理由に合致したカタチかもしれない。


レジを済ませ、スーパーから出る。
餅や牛乳が入った『重たいモノ』の袋は、いつも黒尾が率先して持ってくれる。
それをごく自然に、スっとやってのける辺りが…『王子様』である。
赤葦は卵だけが入った袋を大事に抱え、黒尾の真横に並んで帰路に着いた。

日常に溢れる『ちょっとした幸せ』…それにデレデレし始めた頬を隠すべく、
赤葦は「さっきの『擬き』と言えば…」と、話を振った。

「動植物の和名にも、『モドキ』系がやたら多いですよね。」
ウメモドキは、梅に葉や花が似ている…モチノキ。
アカノガンモドキに、クロムクドリモドキ。
アユモドキは鮎ではなくドジョウの一種で、
ミドリカラスモドキは烏ではなく、ムクドリ…わけがわからない。

「『~に似ている』系だと、『イヌ』や『ヒメ』が付くな。」
大変失礼なネーミングではあるが、『~より劣る』という意味の『イヌ』…
イヌマキやイヌシデ、イヌツゲにイヌザクラ…特に植物名に多く存在する。
そして、『~より小さい』という意味の『ヒメ』には、
ヒメリンゴ(植物)、ヒメアカボシテントウ(昆虫)、ヒメクロアジサシ(鳥)等。
『ヒメ』カマキリ『モドキ』…なんていう、混乱必至な名前もある。

モノの名前や、漢字…その『元々の意味』や由来を知るのは、本当に面白い。
そこから、意外な所へ話が繋がって行ったり…考察ネタは尽きない。
こういうネタがあるうちは、黒尾さんとずっと楽しい会話ができそうだ…と、
またしても赤葦がデレっとしかけた時、自宅へと到着した。


冷蔵庫の専用ケースに、買ってきた卵を綺麗に並べ終わると、
横にいた黒尾がその扉を閉め、冷蔵庫と自分の間に赤葦を閉じ込めた。

「なぁ赤葦、正月…年始に欠かせない『ヒメ』と言えば?」

耳元にそっと囁く、『愛』を誘う問い掛け。
注連縄、鏡餅、丸餅…年始に祈願すべき、『理想』は?

「その『ヒメ』は、蛇の生態を擬いたもの…でしたっけ?」
そうかもしれないし…そうじゃないかもしれない。


「その『考察』をこれから…どうだ?」
「それは『考察モドキ』…ですよね?」

まぁ、『擬き』じゃなくて…『ヒメオモイッキリ交錯ハジメ』ですよね。
赤葦は頭の中で勝手にネーミングしながら、黒尾の頬を引き寄せ、
黒尾の求める『理想的な答え』を、微笑みと共に返した。




- 完 -






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※『歳』の字について →『歳月不待
※櫛名田比売について →『忘年呆然
※『宝船』について →『蜜月祈願
※ヒメカマキリモドキ →上半身はカマキリ激似、下半身はススメバチ風のカゲロウ。



2017/01/06

 

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