隣之番哉⑥(後編)







磨き上げられた板張の廊下。
郷の雅楽隊が奏でる、竜が天に昇るような笙の音に導かれながら、
赤い毛氈の上を並んで歩き、本殿へと向かう…『参進(さんしん)』の儀。

先頭は、儀式を司る神職・青根さん。
初夏を思わせる爽やかな萌黄色の装束に身を包み、足音もなく前へ進む。
その後ろには、月島君と山口君の二人。
緋色の巫女衣装の山口君に合わせ、月島君は白の紋付袴…恐ろしく美形だとか。
花嫁の後ろに、控え目な巫女装束が美しさを引き立てている、介添の二口さん。

正真正銘の神職さん達と、人並み外れたイケメンの皆様方…大変見目麗しい。
きっとこの行列を傍から眺めていたら、神々しさに惹き込まれていただろう。

   (ぜひ、じっくり観たかった。)


だが俺は、この行列を『真後ろ』から見ながら、同じ速度で前に進んでいる。
全く現実感のない光景…雅楽の調べが、余計にその浮遊感を煽っているようだ。

俺の右手は、真横を歩く黒い紋付袴姿の黒尾さんに添えられている…はずだ。
左手の痺れが右手にも伝わり、かなり前から感覚が失われている。

   (重い…暑い…っ)


俺が着ている白無垢は、まるで極寒の地で使われている、極厚の…こたつ布団。
胴体をぎゅうぎゅうに締め上げられ、その上に重量級のこたつ布団を被せられ、
裾を引き摺らないように、それを左手一本で持ち上げながら歩いている。
これだけでも、相当な重労働なのだが、更なる重みが俺に圧し掛かっていた。

文金高島田という、花嫁さんの鬘。
最近は、半分ぐらい地毛を使う半鬘もあるそうだが、あいにく俺は短髪だから、
全鬘を着用せざるを得なかったのだが…これまた首がもげそうな程、重いのだ。

そして、その鬘をすっぽりと上から覆う純白…綿帽子。
こんなのを載せたら、いくら黒尾さんがツンツン昇天系ヘアで盛ったとしても、
俺の方が高くなってしまうじゃないか…という心配は、杞憂に終わった。
アタマもカラダも、重みに何とか耐えようと、自然と傾ぐ形になってしまい、
図らずも『しずしず』した、慎ましいお嫁さんスタイルで…縮こまっていた。

それに、この格好だと『真横』が完全に死角になってしまう。
だから、黒尾さんがどんな姿で、どんな表情をしているのか…全くわからない。

   (本当に、黒尾さん…ですよね?)


あ…でも。
『隣に居るのが誰だかわからない状態』なのは、むしろ黒尾さんの方かも。
この格好になってから、俺自身が『俺』という認識ができないレベルだったし、
花嫁&介添組と花婿組が会ったのは、さっきの親族顔合わせの場が初めてで、
既に綿帽子の中に居た俺は、花婿組の姿を…お互いの顔を未だ見ていないのだ。

山口君は、目元まで垂れ下がったキラキラした簪をしていたけど、顔は見える。
「ツッキーも黒尾さんも青根さんもカッコイイ~~~っ♪」と叫んでいたし、
「山口と二口さんと研磨先生…まるで天女の舞ですね。」と、月島君が感嘆。
俺だけが花婿組の姿をはっきり見ておらず、逆も然り…コメントも頂いてない。

   (見られない方が、良いかも。)


結婚式の出席者(もしくは設営スタッフ)としてこの郷を訪れた俺と黒尾さんは、
自分達が『祝う側』ではなく『祝われる側』になるなんて、思っていなかった。
だから、花婿・花嫁になる心の準備もできないまま、形だけが整ってしまい…
感覚のない繋いだ手からも、黒尾さんの戸惑いだけは、明確に伝わってきた。


初対面が白雪姫姿という、まるっきりハロウィンな出逢いだったとはいえ、
さすがの吸血鬼も、隣を歩く『つがい』の花嫁姿には、困惑するしかないはず。
きっと『怖いもの見たさ』に似た感情…俺自身が、同じように鏡を覗き込んだ。

山口君のように、巫女衣装を着るのが正統…家業であるのとは違って、
白雪姫だったのはただのイベントだし、白無垢も他に選択肢がなかっただけ。
素の俺は、地味で平凡な三十路の男…それの女装だなんて、ホラーじゃないか。

幸か不幸か、気味が悪い方のホラーではなく、とてもそう見えない系の方…
このまま時代劇『吉原炎上』とかに出演できそうなぐらいの、ハマりっぷり。
地味で平凡、即ち、化粧映えのする顔…母親譲りのパネマジ、まさにミラクル。
自分がどうしようもなく『遊女仕様』なことを、痛感させられてしまった。

   (純粋無垢と対極…歌舞伎町の女王。)

孤爪師匠が教えて下さった黒尾さんの好み…『穢れなき清純派』には、程遠い。
何だか、申し訳ない気持ちで…またまた顔が上げられなくなってくる。


そんなしょーもないことを漫然と考えていると、いつの間にか本殿に到着。
胡床(こしょう)という布張りの折畳椅子に、介助してもらいながら着席。

チラリ…前に視線を投げてみると、青根さんの腰から下部分が見える程度。
こちらに背を向け、祭壇の方にゆっくりと向かうと、雅楽の音が止み…

   (…えっ!?)

代わりに響いてきたのは、今まで聴いたことのないような、厳粛な…声。
大きく、太く、温かく。本殿だけでなく体の芯から震わせる、不思議な音色。
罪穢れを祓い心身を清めるために、祓詞(はらいことば)を奏上しているのだ。

元々、口数が極端に少ない人。でも、時折発せられる言葉は、とても穏やか。
そんな青根さんの『普段の声』とは似ても似つかない…『神様の声』だ。

   (す…凄、い…っ)

全身の毛穴が開き、ゾクゾク寒気が走るような感覚に、心身が震えてしまう。
自然と垂れたこうべの上に、白い紙垂の束…大麻(おおぬさ)が振るわれる。
紙垂と紙垂が擦れる音で、罪や穢れだけでなく、雑念も全て払われていく。


重量級の衣装に梱包され、最初は熱くてたまらなかったはずなのに、
今は鳥肌が立ち、脳味噌も何もかも、キンキンに冷えてクリアな感覚。
元々現実感が乏しかったけれど、さらに現実と切り離されていくのが、わかる。

   (これが…神事。)

未だ痺れが少し残っている両手で、ギュっと着物の袖を握り締めていると、
隣に座る黒尾さんの、更に奥側…山口君と月島君が立ち上がり、祭壇の前へ。
二組を代表して、月島君が神に供物を捧げる、『献饌(けんせ)』という儀式だ。

    (月島君…随分、変わりましたね。)

顔や全身は見えないけれど、ドキンチョーしたりテンパっている風ではなく、
凛とした涼やかな気配の中に、以前は存在しなかった穏やかさが伝わってくる。
儀式を終えて席に戻る際、そっと山口君の手を取るのが綿帽子の隙間から見え…

   (あったかい人に、なったんですね…)


よく知っているはずの月島君が、全く知らない人に変わった…その喜びに、
全身に感じていた冷たさが一転、喉の奥にだけ息詰まるような熱を感じ始めた。
その熱を煽るかのように、青根さんが祝詞奏上…二組の結婚を神に奉告し、
上手く呼吸できないぐらい胸に熱が籠ってきた頃、二口さんと孤爪師匠が前へ。

三つの緋色の盃に御神酒を注ぎ、三度に分けて盃を交わし、夫婦の契りを結ぶ、
『三献の儀(さんこんのぎ)』…これがいわゆる『三々九度』である。

俺はバーテンダーだから、御客様にお酒を振る舞うのが仕事だけど、
同じ『お酒を注ぐ』でも、目の前の二口さんがして下さるのは、全く違う…
二口さんの御心や霊力の全てを、俺達を寿ぐために盃へと注いで下さっていた。

   (こんな御酒…はじめて、だ。)

神秘的な美しさに魅入られるように、無意識の内に盃を飲み干しそうに…
だが、それを止めたのは、震える手を介助してくれた孤爪師匠だった。

「タンマ。唇を付けるだけでOK。」
「っ!?…は、はい。」
「花嫁が泥酔とか…笑えねぇだろ?」
「お残ししても良い…心配すんな。」

俺だけに聞こえるように、師匠と二口さんがこっそりと耳打ち。
見た目とは裏腹に、至っていつも通りの口調に、胸につかえていた熱が…

   (っ…うえに、あがって…っ)


現実感のない非日常の『ハレ』の場で、不意に触れた日常の『ケ』に、
何故だか心臓をギュっと掴まれ…籠っていた熱が、目の奥に集まってきた。
深呼吸して落ち着かせようにも、物理的に締め付けられてそれも叶わず、
さらには頭を傾げているせいで、余計に雫が零れ落ちてしまいそうだった。

   (うえを、向いて、ないと…っ)

結婚式で涙してしまうなんて、まるで…本物の花嫁さんみたいじゃないか。
間接的に多少は手伝ったものの、『自分達の』結婚式準備は、全くしていない。
苦労もせず、心の準備もできないまま、棚ぼた挙式をしているに過ぎない俺が、
こんな些細なことで、カンタンに涙してしまうなんて、何だか申し訳ないし、
何よりも、自分がそんなピュアなキャラだなんて…到底信じられなかった。

   (よし、今日は絶対…泣かない。)


綿帽子に隠れて眉間と喉に力を入れたところで、祭壇前へ出るように促された。
今度は黒尾さんが二組を代表し誓いを立てる、『誓詞(せいし)奏上』の儀だ。
四人並んで神前に進み出て、祭壇…その先の『山の神』に向かって奏上する。
この儀式の時には、下を向いているわけにはいかない…丁度いいことに。

黒尾さんが袂から取り出した紙を読み上げ、最後に黒尾さんの名前を言った後、
続けて俺も自分の名を神にお伝えし、結婚の誓いを立てるという手順だ。
間違いなく、これが『神前式』のメインとなる儀式…クライマックスだろう。

   (選手宣誓的な…武者震いします。)


きっと、青根さんがさっきまで捧げていた、意味不明のありがたい祝詞…
そういう類の、難しいけど荘厳な雰囲気の『専門用語』を述べるんだろう。
歴史ある神道の結婚式だし、主役と出席者の半数が歴史を重ねた方々だし、
俺は冷静に、粛々と、淡々と…場の空気に合わせていればいいだけのはず。

そんな風に斜に構えていると、俺が聴いたことのない朗々たる声が響き渡った。
それは本殿内だけでなく、山の神まで届きそうな程、威風堂々としたもので、
俺はその声に心底驚き、そして、誓いの言葉の意味を理解し…声を失った。


   誓詞

   今日の吉き日に 私達は御神前で、
   結婚式を挙げました。
   これからは相和して夫婦の道を守り、
   苦楽を共にして、平和な家庭を築き、
   終生、変わらぬ愛をお誓い致します。
   どうか、幾久しくお守り下さい。

「…黒尾、鉄朗。」


儀式の呪文でもなく、時代がかってもなく、ごく普通の…俺にもわかる言葉で、
俺達が夫婦の契りを交わしたことを、黒尾さんがはっきりと宣言したのだ。

   (本当に、俺達、夫婦に…っ)

猛烈に込み上げてくる熱を、必死に飲み込んでいると、つん…と袖を引かれた。
俺が、俺の名を奏上する番…震える唇を何とか動かし、精一杯の声を出す。
多分ちゃんと言えたはず…自分の声は、自分の呼吸音で聞こえなかった。
俺に続き、月島君と山口君も、それぞれ自分の名を…恐らく、言っただろう。

   (黒尾さんと、結婚式、して…っ)


熱に浮かされ、周りのこともよくわからなくなってきた。
孤爪師匠に導かれ、神前に紙垂の付いた榊の枝…玉串を奉奠(ほうてん)し、
四人揃って、二拝・二拍手・一拝…その場で横を向くように指示された。

「夫婦の誓い…『証拠』を。」

その言葉の直後、突然視界が開けた。
俺を包み隠していた白…綿帽子が外されたのだ。
驚いた俺は、咄嗟に目を瞑って下を向いたが、すぐに視線を引き上げられた。

   顎に添えられた、温かく大きな手。
   正面に、見慣れない姿の黒尾さん。
   一瞬目を見開き、そして…ふわり。

柔らかい微笑みに、無理矢理込めていた全身の力が、ほわりと解けてしまった。
それを指先で感じ取った黒尾さんは、ゆっくりと瞳を閉じながら頬を引き寄せ…
そよ風ぐらいの小さな小さなキスを俺の唇に落とし、すぐに首を傾けた。

「俺らは…こっちも、な。」


顎から頸筋へ下りてくる、指先。
どくどく脈打つ場所を確かめてから、俺の身体を少しだけ斜め後ろへ向けた。
すると、胸におとうさんを抱いた、黒尾さんのおかあさんと目が合い…
ご両親にはっきり見えるように、黒尾さんは俺の頸筋に長い長いキスをした。

   (本懐…遂げました。)


ふわふわのおとうさんの毛に顔を埋めたおかあさん…その瞳から、涙が零れた。
その瞬間、俺の視界も同じように滲み、あとは何も…見えなくなった。




********************




    (あーぁ、何だかもう…嫌になる。)


俺は今、物凄く後悔している。
待ちに待った、俺とツッキーの結婚式…その最中に、人生最大の『青』が発動。
もし箒を手にしていたら、そのままぶっ飛んで、逃亡していたかもしれない。

   (本当に、嫌でたまらない…俺、が。)

たとえ式から逃亡したとしても、俺自身からは逃げられないのは、わかってる。
それでも、この場から逃げたいと思う気持ちを、なかなか抑えきれなかった。
俺をこんなに深い『青』に染めたのは、ツッキーの…涙だ。

   (あの涙…見たく、なかったな。)



*****



俺達の結婚式の式次第は、二口さんと明光君が中心となって考えてくれた。
俺の母さんは『室町ニュースタイル』で結婚するのに戸惑ったらしいけど、
それは俺も同じ…『神前式』は、俺やこの郷にとって『ニュースタイル』だ。

神社で結婚式を挙げる『神前式』は、神社や神道の歴史が古いせいもあって、
日本古来から続く、伝統的な結婚式のスタイルだと思われがちだけど…違う。
明治33年、皇太子殿下(後の大正天皇)が日比谷大神宮(東京大神宮)で御成婚、
その婚儀に憧れる人が続出…モデルにした式が大流行したのがはじまりだとか。

明治33年は、西暦ちょうど1900年。
たった100年程度の歴史しかない、ごく最近できた流行りのニュースタイル。
この神社の創建は奈良時代…神社としては普通の、1200年程の歴史があるし、
平均よりかなり『御長寿』な郷で、ここ250年ぐらい結婚式もなかったから、
神社の記録にも記憶にも、神前式の経験やお作法は、当然存在していなかった。

かと言って、『魔女(巫女)の儀式』の子細な伝承が残っているわけでもない。
毎年行っている数々の祭祀だって、そのほとんどが惰性…詳しい由来は不明。
長老達の記憶だって、生存期間が長すぎて消滅寸前…思い出すのも至難の業だ。

ちなみに、前回の異類婚姻は江戸初期頃だったような…?とのこと。
これも余談だけど、俺がこの郷では一番ナウなヤング…ピチピチの最年少だ。


そんなこんなで、俺達にとって『近いけどちょっと違う』神前式に挑戦。
大事なのは、神の前で『契約』を交わすことだから、細部はまぁ…ドンマイ♪
それならば、絶対に外せないポイント以外は、自由に式次第を決めても良い…
俺達オリジナルの部分を、何か組み込んでみてはどうか?という話になった。

「『魔女の儀式』の兼ね合いで、式直後に披露宴はできないみたいだから…」
「現代風の感動儀式…『両親への手紙』とか、サービスでイれとくか?」
「パパツッキー…じゃなかった、月島父は、号泣溺死するかもしれねぇな。」

明光君と二口さんのド定番提案に、ツッキーはスン…とした表情で断固拒否。
その代わり、これだけは譲れない!という強い口調で、予想外の対案を出した。

「赤葦さんと、結婚式がしたいです。」
「………は?」


言葉足らず、ココに極まれり。
例によって、アタマん中で独り勝手に考察しまくった『結果』だけを口にして、
周りの俺達をキョトン?とかギョッ!とさせる、めっちゃタチの悪いクセだ。

コレに慣れていない二口さんは卒倒…泣きながらツッキーの胸倉を掴み上げ、
慣れ切っている明光君が、慌ててツッキーのドタマを掴んでゴメンナサイさせ、
そんな状況を見て、俺はツッキーの真意を完璧に悟り…すんなり快諾した。

「俺も、それは良い案だと思うよ~」
「え、た、忠!?何言って…っ!?」

「ツッキーと明光君が、最愛の兄弟の晴れ姿を見たいってのと同じで、
   俺達だって、あの堅物吸血鬼が幸せそうにデレデレする顔…見たいでしょ?」
「そっ、それはまぁ、物凄く…あっ!なんだ、そういうイミかよっ!!」
「忠を捨てて、赤葦と結婚式を挙げるのかと思っちまっただろ…バカっ!」

地味で堅実で鈍感な、俺達の『お兄ちゃん』…最後までほっとけないじゃんか。
誰よりも傍に居て、ずっと一緒に頑張ってきた、本当に本当に大切な人だから、
幸せな門出をお祝いしたいというツッキーの気持ちは、俺が一番よくわかる。

   (俺達自身の…『けじめ』のために。)

黒尾さんと赤葦さんの結婚式は、俺達に必要不可欠な『兄離れ』の儀式…
大好きな『お兄ちゃん』から、俺達も卒業しなきゃいけない時が来たのだ。

「俺も、黒尾さんと結婚式したい。
   誰よりも近い所で…見届けたい。」


こうして、説得や強制はまるで通じない頑固者共には、秘匿と詐欺しかないと、
本人以外の全関係者を巻き込み、『黒赤異類婚姻計画』を極秘裏に発動した。
これがもう、楽しくて楽しくて…多忙さに拍車をかけた一面はあるものの、
何も知らない隣のつがいを観察する面白さが、そのキツさを忘れさせてくれた。

「黒尾さんと赤葦さん、喜んでくれるといいね。」
「俺達からの、最後の『お兄ちゃん孝行』…号泣するに決まってるよ~」

「僕、赤葦さんが感涙に咽ぶ姿とか…これっぽっちも想像できないんだけど。」
「快感に涙を零し喘ぐ姿なら、アッサリ想像できそう…自主規制するけどね。」

涙を見せるかどうかはともかく、大好きなお兄ちゃん達の幸せそうな姿を、
この目に焼き付けたかった…(うん、やっぱ、涙も見てみたいしね~♪)
俺は、自分達の結婚式以上に、黒尾さん達の方にワクワク♪が止められず、
約百年振りに『遠足前症候群』を発症…帰省してから、あんまり眠れてない。


でも、その『ワクワク♪』は、結婚式当日…『真っ青』に180度転換した。
真っ白な花嫁衣装に身を包んだ、最愛のお兄ちゃん…赤葦さんの姿を見た瞬間、
声を失って立ち尽し、溢れ出るものを必死に抑えようと(して、大失敗)した、
熱く澄み切ったツッキーの涙…その美しい光が、俺を青く染め上げたのだ。

   (あ…凄い、キレイ。)

大切な人の幸せな姿に、心から歓喜し流れ落ちる涙…何て美しいんだろう。
勿論、凛々しい羽織袴姿も、元々のイケメンぶりを引き立ててカッコイイけど、
ほろりと頬を滑る雫もさることながら、それを流したココロが、とてもキレイ。
自分の伴侶となる人の優しさと温もりに触れ、誇らしさと深い喜びを感じた…

…それなのに。


   (いやいや、ちょっと待ってよ。)

赤葦さんは真っ白な白無垢に包まれて、中がどうなっているのか、全く不明。
特に花婿組は、赤葦さんが変身する経過も激変した結果も、未だ知らない…
花嫁組は、「…誰?」っていう予定調和な定番リアクションを期待してたのに、
顔も見ずに、ただ白いムクムクした姿だけで感極まっちゃうとか…涙腺弱すぎ!

っていうかさ、介添の二口さんと研磨先生は、浮いた言葉で褒めちぎったのに、
ツッキーの隣に立つ、つがいの俺に対しての感想と言えば…

「当代巫女…山口のお父さんに、驚くほどソックリだね。」

そりゃそうでしょ。
山口家伝統の巫女衣装…夏の例大祭の時に、父さんが着てたやつなんだもん。
あの時ツッキーは、巫女舞を奉納する父さんを、俺と見間違えてしまったけど、
俺達みたいな御長寿は、数百年単位で『遅くにできた子』とかじゃないと、
親子の違いなんて、ホンット~に、ぜ~んぜん、わかんない…似てて当然だよ!

そんなわけだから、俺がいくら歌舞伎町の元女王様に魔法をかけて貰っても、
純朴な村娘(巫女バイト中)が関の山…最高値で『父さんのコピー』程度で、
『驚くほどソックリ』という、まるで驚きのない出来栄えにしかならないのだ。

ツッキーの感想は正当。でも、もうちょっと何か他のコメント、できなかった?
それじゃあ、父さんと結婚したって大差ない…ま、しょうがないんだけどさ。

   (俺、予想の範囲内で…ゴメンね。)


人の短く速い時間の流れで見ても、俺達は出逢ってからそんなに経ってない。
付き合いも浅く、人生で一番の晴れ舞台も、全てが『範囲内』の俺とは違って、
人生の大半を共に過ごし、兄弟までになった人に対する驚愕や思い入れは、
人と人外の寿命ぐらいケタ違い…俺がツッキーの立場なら、大号泣で溺死確定。

最近知り合ったばかりの俺ですら、赤葦さんの変身過程を見ていただけで、
驚きと感動でグズグズに…(何度もアイメイクをやり直して貰っちゃった。)
こんなに素敵な人と結婚できるなんて、黒尾さんが本気で羨ましくなったし、
赤葦さんの兄弟…ツッキーや明光君の喜びの大きさが、痛いほど理解できた。
でも、同時に…

   (それに比べて、俺は…っ)


俺だって、ツッキー達がドン引きするぐらい、黒尾さんの晴れ姿に泣いたし、
黒尾さんと赤葦さんの結婚が嬉し過ぎ、二人が並んでいるだけで、またジワリ。
二人のためにサプライズできて本当に良かったぁ〜!と、全力で大絶叫できる。

それでも、どうしようもなく感じてしまう、劣等感と…嫉妬心。
本職魔女も敵わない魔性のお嫁さんが、鬼王と結ばれるなんて、世紀の大事件…
本人達に全く自覚はないけど、人外から見れば途方もなく恐れ多い話なのだ。
隣のつがいは、俺達みたいな一般人(外)カップルとは、本当は棲む世界が違う。
それ以前に、あんな素敵な人と結婚できる、黒尾さん赤葦さん両方が羨ましい!

   (俺は、この場に…相応しくない。)

俺の横に立つツッキーのキレイな涙が、奥底に隠した醜い部分を照らし出す。
お隣の結婚式は、ぜひとも『外から』じっくりと眺めたかった…

   (一緒に結婚式…しなきゃよかった。)


通常祭祀の時よりも、数段強い魔力…神々しさを纏う、青根さんと二口さん。
俺達のために、研磨先生まで巫女修業をコッソリしてくれたみたいだし、
雅楽隊の演奏等、郷の皆からも惜しみない協力と多大なる祝辞を貰っている。
そのどれもが心から嬉しくて、感謝してもしきれない…俺は本当に、幸せ者だ。

それなのに、式が進めば進むほど、俺の中には欝々とした青が広がっていき、
『本日の主役』のダメダメな姿に、強烈な自己嫌悪に陥っていた。

   (みんな…本当に、ゴメンね。)

申し訳なさと情けなさで、感涙とは対極にある、醜い涙がせり上がってきて、
予想通りとは言え、ツッキーの輝くイケメンぶりを、じわじわ滲ませていった。

   (俺のせいで…ツッキー、ゴメンっ)


この場から逃げ出したい衝動と嗚咽を必死に堪えていると、目の前がキラキラ…
頬付近まで垂れ下がった額飾り・前天冠(まえてんがん)の、銀色のピラピラを、
「今日やってる?」と、おでん屋の縄のれんの如く、ツッキーが開いたのだ。

   (え、やだ!顔…見ないでよっ)

っていうか、神前式に『誓いのキス』なんて式次第…あったっけ!?
そそそっ、そんな新時代のニュースタイルなんて、全然知らなかったんだけど!
子どもじみたヤキモチ&ダダ捏ね捲り中な花嫁の顔なんて…見せたくないっ!
咄嗟に目を閉じ、顔を背けようとしたけれど、澄み切った声がそれを止めた。


「終生、変わらぬ愛を…誓います。」

俺にだけ聴こえる声で、誓詞の一部を復唱し、ツッキーは俺の頬に手を添え…
その優しい瞳と温かい指先に、俺の中の『青』が大暴発してしまった。

隣の黒赤コンビや、周りのみんなが見ないよう、袴の襟元をギュっと引き寄せ、
ツッキーの視界を、俺だけでいっぱいにしてから…無意識の内に懇願していた。

「終生、俺だけに…キスしてっ!!」


こんなとこで、まさかの…ワガママ。
自分でも呆れかえってしまう程の、独占欲丸出しなセリフ。
あまりの恥かしさに『青』も吹っ飛び…冗談抜きで飛んで逃げたくなった。

   (なっ…ナニ言ってんの、俺っ!?)

羞恥とパニックで零れ落ちる涙を、ツッキーは柔らかく微笑みながら掬い取り、
俺にも聞こえないような小さな小さな声で、返事をしてくれたみたいだった。

   (えっ…ナニ言ったの、ツッキー?)


声としては、聞こえなかった。
でも、触れ合った唇から伝わって来た、これ以上にない明確な答えに、
俺の瞳からもようやく、キレイな涙が溢れ落ちてきた。







********************




昼過ぎに始まった一連の婚儀も、そろそろ終わりに近付いていた。
外の光にも少しずつ燈色が混じりだし、じきに深い青を帯びてくるはずだ。

古来より、婚儀は夕刻より始まり、夜が更けるに従い両家の仲も深まっていく。
様々な儀式は闇よりも濃い青…夜の帳と同時に一旦その厚い幕を下ろし、
翌朝、明るき青に包まれた時、共に暗き青を過ごして結ばれた新郎新婦が、
親族達にその姿を披露…これが本来の『マリッヂ・ブルー』かもしれない。

月島・山口家及び黒尾・赤葦家の合同結婚式は、習わしよりも早く開始したが、
挙式会場側の都合や、別途二次会等の、『ニュースタイル』なわけではない。
空が青に沈む前に、どうしてもしなければならない…物理的な制約による。


「それじゃあ、ここからは別行動…それぞれが別の儀式に出発だよ。」

挙式会場の神社本殿から、親族顔合わせ会をした広間に全員で戻って来ると、
半ば放心状態で座る面々に、明光と研磨が熱いお茶とお菓子を配って回った。
ホッと一息ついたあたりで、明光は『結婚式のしおり(文責・二口)』を出し、
これからの流れについて、丁寧に説明を始めた。

「ここは神の郷。そして、異類婚姻。」

一般的な結婚式だと、この後は披露宴…飲み食い三昧の宴会になるんだけど、
夏の例大祭と同じく、ここから『神事』の本番がスタートするんだって。
人と魔女、そして吸血鬼と人っていう、全然違う『つがい』のカタチだから、
必要となる儀式も違う…至近距離のお隣さんだけど、二組は別々の夫婦だしね。


「まずは、黒尾君と京治君。二人はすぐに隣の控えの間でお着替えをしてね~」
「お前らは、既に『人』じゃない領域に居る…『神域』で儀式をするんだよ。」
「要するに、これから山登り…ちょい軽めの衣装で、陽が落ちる前に登頂だ。」

「…は?じょっ、冗談だろ!?」
「神座の先にて、青根・二口家の当代が待機。後はそちらの指示に従え。」

青根・二口家の当代と言えば、高伸と堅治の御両親…本物の神職さん達だ。
特に青根父は、この郷の『神そのもの』に等しい存在でもあり、
そんな神様御本人に婚儀を執り行って頂くなんて、恐れ多いにも程がある。

「一緒に俺達の式をして挙げてもらっただけでも、凄ぇ有難いのに…」
「まさか、青根さんと二口さんにまで…申し訳なさすぎます…っ!」

あまりにも『大きな話』に、さすがの黒尾と黒尾母も大慌てで辞そうとしたが、
青根は「これは、郷の総意です。」と、穏やかな口調で頑として譲らなかった。
同じ『人外』でも、この郷には無関係の異種である吸血鬼に対してまでも、
最大級の敬意を以って執り成して下さったことに、母子は深々と頭を下げた。

「この身に余る…栄誉に存じます。」
「息子達を…宜しくお願い致します。」


その様子を隣で見ていた、赤葦親子。
人である彼らは、事の重大さの詳細はいまいちよくわからなかったけれども、
自分達のために『大きな事』が行われようとしていることは、敏感に察した。


戸惑いの混じった表情で、黒尾母子と同じように青根に頭を下げていると、
介添の研磨が前に進み出て、赤葦家に向けて丁寧にお辞儀をした。

「俺は本物の神職じゃないから、神域の手前までしか一緒に行けないけど…
   神の名を戴く者として、責任持って鉄朗と京治の二人を送り届けて来ます。」

そう言うと、付喪神・研磨は新郎新婦の背を強めに押し、控えの間へと促した。
しん…と静けさに包まれた場に、力の抜けた小さな呟きが、部屋中に響いた。


「鉄朗君と本懐を遂げた京治は…
   僕達の手の届かないところへ、行っちゃうんだね。」

赤葦父の言葉に、申し訳なさやら喜びやら、形容し難い複雑な想いが込み上げ…
黒尾母は父を強く抱き締め、嗚咽を漏らしながら赤葦父母に縋り付いた。
そんな黒尾母の背を、赤葦母はポンポンと優しく撫で…明るい声で微笑んだ。

「我が子が巣立つ親の気持ちは、婿だろうと嫁だろうと、全く同じですよね~」

嫁入りだとか、婿入りだとか、何スタイルだとかは、本当に些細なこと。
神様からの授かりもの…いえ、『預かりもの』だった我が子が、親元を離れ、
神様の元へ戻って一人の人間となり、そして、愛する人とつがいになる…

「これが嬉しくて寂しいのは、人も吸血鬼も宇宙人も、親ならばみんな同じ。
   両親とは違うつがいを成し、違う家庭を築くことに、変わりないんだもの。」


その新しい家庭が、両親よりかなり御長寿だろうが、子がいようがいまいが、
雲の上とか山の中とか、はたまた田園調布や歌舞伎町に棲もうが、関係ないわ。
お腹を痛めて産み育てた我が子でも、別の人間…別の人生を歩んで当然よね~?

「我が子は自分の手の中に居続ける…そう勘違いする方が、おこがましいわ。」

それに、たとえ我が子を養子に出して、お月様まで行ったとしても、
はたまた両親が離れたとしても、親子の縁だけは決して切れないのよ。
私達があの子達の親であることは、この先も永遠に変わらない…我が子のまま。

「どこに行こうが、誰と居ようが、あの子達はずっと、私達の可愛い息子よ♪」

今日という日は…我が子の結婚式は、私達親にとって、『子離れ』の日。
ようやく、子育てから卒業できる…本当におめでたい、ハレの日だわっ!

「30~300年のロング子育て、皆様ホンット~にお疲れ様でしたっ!
   さぁ、ダーリン!今夜はオールで、アゲてイくわよ~っ♪」
「ハニーの言う通り、今宵は宴…『親族固めの盃』を交わさなきゃね~!
   子育て卒業おめでとう会…親メンツでパ~っとイっちゃいましょうっ♪」

黒尾・赤葦家ウェ~~~イ♪
顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、黒尾父をわっしょ~いと頭上に仰ぐ両親達。
暗い青に沈みかけた場を、一気に華やかで幸せな空気に逆転させた赤葦母…
歌舞伎町元女王のかけた素敵な魔法で、全員の顔に晴れやかな青が広がった。


「我々本職の魔女よりも、はるかに強力な魔法を使う…感服だ、先代女王。」

では、我々月島・山口家の方も、キッチリと儀式をシメようじゃないか。
明光君。今度はコチラ側の…『魔女の儀式』について、説明を頼む。

「はい!了解です、山口先生。」

穏やかな微笑みを湛えた山口先生から指名を受けた明光も、笑顔でそれに応え、
チラリと横目で合図を送ると、青根が封筒2通、二口が小箱2つを差し出した。


「蛍と忠は、さっき式を挙げた本殿の先にある、『奥の間』へ向かうんだ。」

奥の間は、この神社内の『神域』ではあるけど、山全体からすると『入口』の、
いわば神と人の『境界』にあたる場所…そこで『魔女の儀式』を執り行うんだ。
青根君と二口君…忠の随神の導きで、この『黒』と『赤』のどちらを選ぶのか、
二人でじっくり考えて、『人』と『神』の境界を二人で一緒に越える…

   『黒』を忠が飲んで『人』になるか、
   『赤』で蛍が『人外』になるのか…?

「もし『黒』を選ぶなら、明日の日の出と共に奥の間から本殿に戻り、
   『赤』の場合は、奥の間から山へ…神域へ向かって欲しい。」
「黒い薬を選び、本殿で『人』として婚儀のシメを受けるか…」
「赤い薬と共に神域へ登り、黒尾達と同じく当代神職の神威を授かるか…」
「好きな方を、選ぶと良い。」


明光は黒い小箱と、『黒』と印字されたDTペンギンのロゴ入り封筒を忠へ、
赤を蛍の方に置いて、全員に見えるように中身を開けて広げた。

「山口先生の最高傑作・人になるための黒い薬に対応するのは、黒い封筒。
   薬の売買契約書及び連帯保証契約書等の、必要書類諸々が入ってるよ。」

錬金術は等価交換が大原則。
人魚姫は人になる代わりに、海一番の美しい声と長い髪を失ったが、
蛍&忠の場合、日本中の繁華街の家賃収入約百年分相当の天文学的代金支払と、
それを担保する連帯保証人に、月島家と鉄朗&京治を立てる予定だった…が。


「えっ!?ちょっ、ちょっと待って兄ちゃん!この契約書…全然違うよっ!?」

昨夏、山口家に『御挨拶』に来た際に提示された契約書と、目の前のそれは、
明らかに別物…蛍はすぐさまそれに気付き、思わず大声を上げてしまった。
記された金額が、信じられないぐらい大幅に増額されたものになっており、
同時に、末尾の『但書』にも、以前はなかった条項が多々追加されていたのだ。

曰く、月島家が伊達工業㈱の新社屋ビル建設&家賃減免分を、代金より減額。
月島家所有ビルの空調メンテに、山口パパと専属契約を結ぶと、一気に3割引。
忠が魔女急便退職後、月島グループに再就職する場合は、更に2割引!等々、
結果的に歌舞伎町50年分程度の大幅値引となり、蛍&忠だけでも支払可能…

「僕が言うのもアレですけど…息子達に甘過ぎじゃありませんか、コレは!」
「違うな、蛍よ。可愛い忠君のために…パパ、頑張っちゃうだけだから。」

全く答えになってない父の回答に、蛍はゲンナリ…念のために赤い封筒も確認。
そちらには、伊達工業㈱の新株発行時は月島家が優先的に購入する等々、
どう転んでも、月島・山口(伊達工業)双方がボロ儲けする仕組みになっていた。

「これが、月島・山口家の異類婚姻譚…めでたしめでたし、だわよね~♪」
「ホンット、結婚って…家族がまるごと全部結ばれること、なんだね~♪」


あまりに無茶苦茶な話…win-winなカンケーに、蛍と忠は唖然。
主役たる息子達そっちのけで、親つがい達が、新たな繋がりに大フィーバー!!

「こんなの…もう、『黒』とか『赤』とか、どうでもいいカンジじゃんか。」
「その通りだよ。いずれを選んでも、忠君は月島家の養子に入ってくれる…
   忠君が私をパパと呼んでくれるならば、黒でも赤でもどちらでも良しっ!」

「え、息子の寿命が、自分達よりはるかに短くなっても…良いんですか!?」
「長さは関係ない。忠と蛍君が幸せならば、それ以外は考察対象外だ。」

「私達は私達で、それぞれのつがいで、思いっきり残りの人生を愉しむし…」
「黒尾・赤葦家も含め、隣り合うつがい同士で、仲良くヤってくからね~♪」


   蛍と忠の奇跡的かつ運命的な出逢い。
   それが、隣にも新たなつがいを生み、
   さらに隣り合うつがい達をも結んだ…
   数々の異類婚姻譚を成功させたんだ。

「我々は最愛の息子達の激運を、心から誇りに思っているのだよ。」
「どのような道を選んでも、我々は君達を祝福し続ける…終生な。」

「二人の新しい明日に向かって…」
「元気よく…いってらっしゃい!」

両親達に勢いよく背を押され、蛍と忠は奥の間へと一歩飛び出した。
その後ろに二人の随神…青根と二口も静かに従い、深々と一礼して襖を閉めた。

「い…いってきますっ!」
「お…おやすみなさい!」


我が子達の気配が、部屋の前から去って数秒後、両親達はその場にヘタリ…
全てが抜け切ったように、一斉に顔を覆い、声を震わせた。

隣でずっと見守っていた、黒尾・赤葦家の両親達は、そんな四人に寄り添うと、
「みなさん、よく頑張りました!」と優しく肩を抱き締め、互いに労い合った。

「息子達の巣立ち…おめでとう!」
「二組の新しいつがいに…乾杯!」


嬉しさと寂しさが交ざり合った、親達の眩しい笑顔と、温かい涙。

   (何て晴れやかで、キレイな…青。)

結婚式って、本当に…素晴らしいな。
頬を伝う青を拭いながら、明光も笑顔で皆の盃に幸せを満たしていった。





- ⑦へGO! -




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※言葉足らずのツッキー →『下積厳禁②
※夏の例大祭、『奥の間』 →『
帰省緩和⑨

※以前の契約書 →『
隣之番哉①


おねがいキスして10題(1)
『10.わたしだけにキスして』

2019/05/31 MEMO小咄より移設
(2019/05/19,27,30分) 


 

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