帰省緩和⑨







「凄いっ!綺麗、ですね…」
「これを…見せたかった。」


歌舞伎町の街中を、青根さんに抱っこされたまま突き抜けた僕は、
恥ずかしさを誤魔化すため、病人を装って青根さんの胸に顔を埋めてグッタリ…
だがあまりの心地良さに、そのまま寝てしまうという大失態を犯してしまった。

気がついた時には、どこぞの高速インター…伊達工業のワゴン車の後部座席。
リクライニングにゴロリ、お腹にふわふわタオルケットまでかけて貰っていた。
枕にしていたのは、見覚えのある鞄…中には僕の『お泊りグッズ』一式が揃い、
今回の拉致が、初めから仕組まれていたもの…赤葦さんも共犯だと判明した。

そもそも『青根さんに』というだけで、僕自身は何の心配もしてないけれど、
場合によっては、身代金増減額交渉決裂とかで、歌舞伎町妖怪大戦だったかも?
まぁ、赤葦さんもグルなら、余計なゴタゴタに『月島家』は出てこないはず…
人外の皆様にご迷惑を掛けずに済んで、ホントに良かった。

僕が安堵のため息…気持ち良かった〜♪と、大あくびをしながら起き上がると、
ルームミラーの中から、運転中の青根さんが静かに声をかけてくれた。


「起きたか?」
「はい、おはよう…?ございます。」

「もうすぐ夕刻。あと少しで到着。」
「…どこへ、ですか?随分と山奥に向かっているみたいですけど…」

「お前に、見せたいものがある。」
「はぁ…それはそれは、正直言って物凄く…楽しみですね。」

これは内心、かなり心配していたことだけど…こちらから話し掛けなくても、
必要なことであれば、青根さんの側からもちゃんと話してくれるみたいだ。
二口さんが喋り過ぎるから(三人前)、研磨先生も青根さんも口数が少なくなる…
というだけではなく、やはり僕に気を遣ってくれているのだろう。

そんな青根さんの不器用な優しさに、僕は無意識のうちに頬を綻ばせ…
緩んだ口元から、自然と柔らかい言葉が滑り落ちてきた。


「黙ったままでも苦痛じゃない…僕はそういうタイプです。
   そして、そんな関係を構築できる人としか、長時間一緒には居られません。」
「………そうか。」

「車なんて、その最たる例…余程気が合う相手でないと、拉致でも無理です。
   ましてや、安心しきって寝てしまうなんて…自分でも驚いています。」
「………。」

「つまり…そういうこと、です。」
「………あぁ。」


何て…居心地が良いのだろう。
僕の周りには、何故かやたらめったら口達者なのばかりが集まる気がするけど、
本来は独り静かに読書したり、黙々と考察するのが好きな…客商売不適合者だ。

青根さんと僕は、そういう所が少しだけ似ているのかもしれない。
口数を尽くして、互いにわかり合う関係もあれば、黙して感じ合う関係もある…
ただ傍に寄り添って、静かに周囲と自分を鑑みる時間に、一緒に居たい人だ。

僕は口数の減らし方が、ド下手…それでいつも周りに火を付けてしまったり、
相手を怒らせたり、誤解されたり、こうして拉致されてしまう結果になる点が、
青根さんとは全く違う…と、冷静に分析(自省)できるのも、この人の傍だから。
きっと二口さんの『後ろ』のおクチが素直になったのも、同じ理由だろう。

   (青根さんと出会えて…良かった。)


そんな僕のストレートな好意が、黙っていても青根さんに伝わったのだろう。
少しだけ照れ臭そうに、同意を表す『ペコリ』…今度は言葉で尋ねられた。

「………忠とは?」
「ヘッドフォンで通信中に、10分以上お互い無言でも、問題ありません。」

「それは…良かった。」
「はい…僕も、心底そう思います。」

以上が、僕と青根さんが二人きりの車内(約3時間)で喋った、会話の全てだ。
これだけ喋れば、もう十分…暮れなずむ田園風景をのんびり眺めながら、
緩やかで和やかな時間を、二人で満喫…実に有意義で楽しいドライブだった。


高速インターを降り、1時間程山中を走っていると、辺りはもう真っ暗闇。
外灯もほとんど見当たらない…それどころか、民家すら何分前に見ただろうか。
山の奥深く、高い所へ蛇行しつつ向かっているのはわかるが…本当に大丈夫か?

闇よりも暗いトンネル。
この先は『異界』である…本能的にそう察した僕は、目と息を一瞬だけ止めた。
トンネル内を反響するエンジンとタイヤの音が、何かの咆哮にも聞こえ…
すぐにその唸り声は空に抜け、閉じた瞼の向こうに仄かな灯りを感じた。

   トンネルを抜けると、そこは…
   トトロ坐す『神の杜』だった。


山道…いや、『参道』の両脇に等間隔で並ぶ石灯籠に、蝋燭が点る。
坂道をしばらく上ると、灯籠よりも高い位置の樹に、燈色の光を湛えた提灯と、
白い稲妻…『紙垂』がぶら下がり、車が通った風に当たって揺れていた。

「もしかして、お祭り…なんですか?」
「あぁ。俺達の…鎮守の杜。」

「青根さん二口さん、それに山口の…」
「…故郷、だ。」

もし麓からこの山を見上げていれば…そんな人がいるとしたら、
天に向かって昇る、光り輝く大蛇の姿が見えているに違いない。

   (ここは…大蛇の体内だ。)

そう言えば、山道は参道であると同時に『産道』…母なる山の、胎内らしい。
だから、初めて来た場所のはずなのに、どこかへ『帰っている』気がするのか。

   (懐かしくて、あったかい…)


やがて、道が開け…薪で煌々と照らされた、大きな鳥居の前に出た。
境内からは、楽しそうな声と、美味しそうな香り…『お祭り』が伝わってくる。

車は鳥居の脇へ曲がり、境内をぐるりと回って裏手の通用門を入って停止した。
とりあえず、何も持たずこちらへ…という、青根さんの視線に従って歩くと、
注連縄が巻かれた、樹齢千年近いだろう巨木(御神木?)の前に到着した。

「………。」

両手を僕の方へ広げ、抱擁のポーズを取る青根さん。
まさか…と思いつつも、僕は抗うことなく『ぴと。』っと寄り添うと、
歌舞伎町で拉致された時と同じように、逞しい胸の中に抱っこされ、
そのまま『ふわり。』と、宙へ体が舞った…本当にそう感じた。

「っ!!!?」

縦方向にやや過剰気味に成長した僕は、少なめながら身長に見合う重量がある。
それを軽々と抱きかかえ、身長の倍くらいの高さの枝まで…ふわり。
もう『飛翔』か『浮遊』と言ってもいいぐらい、音もなく跳躍したのだ。

   (と…トトロが、飛んだっ!)

驚きの声を上げる間もなく、太い枝に座らされ…
真横に並んで腰掛けた青根さんが、太い指を真っ直ぐ正面に伸ばした。


「凄いっ!綺麗、ですね…」
「これを…見せたかった。」

指を辿った先には、光の海。
朱塗りの神社が、数多の提灯と薪で煌々と照らされ、山に浮かんでいた。
そして境内の真ん中には、そこそこの高さがある『舞台』が組まれており、
その周りに、意外な程にたくさんの人々が集まり、舞台に注目していた。

舞台奥には、橙色の直垂(ひたたれ)に烏帽子を被った雅楽の一団が並び、
その中の一人が立ち上がると、舞台の一番脇…大きな和太鼓の前に向かった。


ドン、ドン、ドン。
太鼓の音が夜を震わせ、人々の喧騒が消え去ると同時に、舞台袖から誰か…

「あれは…二口さん…?」

白衣(びゃくえ)に緋袴(ひばかま)、千早(ちはや)と呼ばれる無地の羽織り。
髪の長さを足す髢(かもじ)を付け、丈長(たけなが)という和紙で纏めて垂らす。
お供え物を乗せる三方(さんぽう)…木製の台を、両手で抱えて持っていた。

「二口さん…綺麗、ですね…」

口を開かなければ美形…というレベルではない。
ツンではなく、凛とした清廉な空気そのもののような…息を飲む程の美しさだ。
巫女を見守る観客達が、唾を飲み込む音すら聞こえてきそうな静寂の中、
二口さんは舞台の端に音もなく跪き、三方を天へ掲げてから深々と傾いだ。


しばらくして、舞台袖からもう一人の巫女が現れた。
いつの間にか現れた…いや、『舞い降りた』としか言いようのない登場に、
観客達だけでなく、僕自身の呼吸が止まる音も、山中にこだましそうだった。

今度の巫女は、二口さんとは全く違う衣装…明らかに『主役』はこちらだ。
緋袴が隠れてしまう長さ…まるでウェディングドレスの『ズルズル』のように、
白砂青松が描かれた、裳(も)という長い装束を後方に棚引かせていた。

額には、目元まで垂れ下がった銀色の簪が、キラキラと松明の光を乱反射。
その光のヴェールに隠されてはっきりとは見えないが、あの顔はおそらく…

「もしかして、や…ま、ぐち…?」
「あれが、山口家の…家業。」


目を閉じたまま舞台中央で傾ぐ巫女に、脇にいた二口さんが粛々と拝謁…
三方を恭しく捧げると、巫女は鈴の付いた剣…『矛先舞鈴』を手に取った。

柄の下についた、長い五色の垂布…鈴緒が、矛を動かす度に滑らかに揺れる。
それなのに、巫女が手首をくるりと捻らないと、鈴の音は全く鳴らない。
シャン…と、鈴の音が響く時には、むしろ鈴緒は動きを止めてしまうような…

   (綺麗…以外の言葉が、出てこない…)


毒ならばおクチを閉じていても、じゃばじゃばと漏れてくるぐらいなのに、
感激を表すセリフは、月並みなものしか浮かんで来ない…言葉にすらならない。

天に昇る雅楽の音色や、周りの景色、巫女が宙に舞い踊る姿や表情…
それらが僕の心を震わせたのに、夢か幻のようでもあり…よく憶えていない。





   シャン…シャン…

ただただ、鈴緒が闇を裂く軌跡と、夜空を清める鈴の音だけが、
僕の脳内に、はっきりと焼き付いた。




*******************




巫女舞の神秘に触れ、陶酔したままの僕を、青根さんは御神木から降ろすと、
ふわふわと覚束無い歩みを支えてくれながら、神社の建物に向かった。

拝殿前では、多くの参拝者が神様をお呼びする本坪鈴(ほんつぼすず)を鳴らし、
二礼二拍手一礼…それぞれの願いを込めて、真剣に祈りを捧げていた。
僕達はその脇を抜け、拝殿の奥…閉ざされた『本殿』の通用口を抜け、
鈍い光を湛える『鏡』を、チラリと横目に見ながら…建物内に入った。

   (あの鏡って…まさか。)


よく神社にお参りすると、ガラスの扉の中に、お祓いのスペースがあり、
その一番奥に、神様の依代となる『鏡』が置かれた神棚が見える。
つまり僕は今、その鏡の更に『奥の間』に、上がらせて頂いたことになる。

   (ここは、神様の場所なんじゃ…)

現実とは隔離された『神域』に、僕は足を踏み入れてしまった…
恐れ多い事実に気付き、浮ついていた意識は、一気に現実へ引き戻された。


ゆっくり深呼吸…辺りを見回してみる。
何の変哲もない、六畳の和室。遠くから微かに、鈴と柏手を打つ音。
拝殿とは違う方向からも、人々の気配…おそらく、社務所があるのだろう。
それらの場所から、物理的な距離はそんなに離れていないはずなのに、
ここは全くの別世界…神社内でも、かなり特殊な場所だと察した。

   (何で僕は、こんなとこに…)


「んぁっ!?なっなななっ何でお前が、ここにいるんだよっ!?」
「ビビビっびっくりしたーーー!なんか『出た』かと思ったっ!」

突然の乱入と大声に、僕の意識は冗談抜きで『神域』に飛んで逝きかけた。
完全に腰を抜かしていると、乱入者…二口さんは大文句を垂れながらも、
優しく僕の背中に手を回して支え、そっと引き起こしてくれた。

「おい、しゃんとしやがれっ!」
「おどかしちまって…悪ぃな。」

僕は、二口さんにお礼を言おうと、間近に迫る顔を…あ、メイクしてる。
さっきは遠目でよく見えなかったが、目元と唇に、ほんのりと朱を差していた。


「二口さん…お綺麗ですね。」
「開口一番がソレかよ。こんなトコでナンパ…流石は歌舞伎町のホストだな。」
「『ありがとう』の代わりに、そんなセリフをサラリ…イケメン恐るべしっ!」

今度は、頬が紅に染まる。
その恥じらいが、巫女装束と相まって、妙にしおらしくて…可愛く見える。

「よく…お似合いです。」
「ほっ、褒めても…ナニも出ねぇよ!」
「えーっと、さっき貰った、饅頭は…」

わざとらしく裾を直しながら二口さんは離れ、部屋の外に体半分だけ出た。
そして、廊下に置いていたらしいお膳を持って、静々と僕の前に戻って来た。


「ここに来客だからって青根が…ほら、お前にも『お裾分け』だよ。」
「正式なやり方じゃねぇけど…一応、カタチだけでもやってやるよ。」

これは、直会(なおらい)…神様にお供えした神饌を、一緒に頂く儀式だ。
俺が跪いたら、柏手を一回打ってから、盃を持って…御神酒を受けるんだ。

指示された通りにすると、二口さんは雰囲気と表情をガラリと変えて跪き、
紅白の水引が飾られた長柄の銚子で、三度に分けて御神酒を注いでくれた。

「これは…サービス。」
「二口家の…一口目。」

そういうと、二口さんは僕の手を引き寄せてそのまま盃に口を付けてペロリ…
その行為で二口家が代々どんな『家業』を担ってきたのか、朧げに理解した。


僕の指先に触れそうな所まで近付いた二口さんの紅に、ドキリと心臓が跳ねる。
思わず目を逸らし、盃を一気に煽り…なぜか二口さんの方も、目を逸らした。

「何なら例大祭バージョンで、お食事の方も…毒味&あ〜ん♪してやろうか?」
「なに照れてんだよ、バカっ!イケメンツンデレがデレた瞬間…心臓に悪い!」
「けっ結構です!べべべっ別料金を加算されそうだし…オプション不要です!」

クソっ!顔だけは歌舞伎町ナンバーワンホスト級の、ツンデレイケメン野郎が、
二人きりの時に、いきなりデレをかましてくるとは…卑怯だぞコノヤローっ!

そっちこそ、元・イケメンの、現・美女巫女…ギャップ萌えで即死寸前ですよ!
しかもツンとデレの同時多発攻撃とか、卑劣極まりないじゃないですかっ!!


「忠のメンクイは…俺譲りだバーカ!」
「顔は…顔だけは、モロ好みだよっ!」
「ナイス教育…心から感謝しますっ!」

お互いに気まずさを誤魔化すため、わたわたと罵詈雑言のツンツン合戦を、
自分達はしていたつもりだったのだが…どう考えても、デレデレ優勢だ。
その自覚もあったから、余計にテレテレしてしまうというドツボに嵌っていた。



「楽しそう…だな。」
「へぇ~。いつの間に、そんな仲良しになったの?ふ~~~~ん。あっそ。」


「ひぃっ!!!?」
「っっっ!!!?」
「うわっ!!!?」


またしても、突然の乱入。
今度は二口さんも一緒に腰を抜かし、仲良く抱き合いながら呼吸を止めた。

酸素を求めてただ口をパクパクしている僕達に、青根さんと山口は冷たい視線。
いつの間にか、青根さんは狩衣(かりぎぬ)に浅葱色の差袴(さしこ)という、
ザ☆神職さん!な装束に着替えていたのだが…これまた痺れるほどカッコイイ。

そんな青根さんに、二口さんと同じザ☆巫女さん!な白衣&緋袴姿の山口が、
目を潤ませながらしがみ付き…お馴染みの『抱っこ』でグズりはじめた。


「二口さんは喋んなきゃ神秘的な美女だし、喋ったら喋ったで可愛いばっかり…
   しかもツッキーの大好きな巫女コスだもん…よろめいて当然だよね。。。」
「忠も…可愛い。」

「ありがと、青根さん。俺のことを褒めてくれるのは、青根さんだけ…」
「たたたっ、忠が世界一可愛いに決まってる…それは断言できるぞっ!」
「何ボケっとしてんだよ!お前も言葉の限りを尽くして…褒め称えろ!」

二口さんにどつかれながら、未だにパニック状態から回復しきれていない頭で、
僕は慌てて脳内辞書を必死に捲り…できる限りの『賛辞』を捻り出した。


「さっきの…凄く、綺麗だったよ。」

青根さんと一緒に、巫女舞を見たよ。
まるで本物の天女みたい…あまりに神々しくて、現実感がなかった。
細部まで観察して、どこがどういう風にって、具体的に褒めたいんだけど…
ぼんやりとした浮遊感?に陶酔してしまって、上手く言葉にできないんだ。
ただただ、綺麗だった…そうとしか言えない。

晴れ舞台の…『特別神々しい巫女さん』装束も、それはそれは美しかったけど、
何だか本当に神様の所に行ってしまいそうな…手の届かない遠い存在に感じた。
だから僕は、今の『フツーで清楚な巫女さん』装束の方が、イイ…かな。

「上手く褒めてあげられなくて…ホントにゴメン。」

あっ!そう言えば僕は、山口に謝らなきゃいけないことが、もう一つあった…
そのためにココに来たんだったと、頭を下げながらぼんやり思い出していると、
部屋中を震わせる大音量で、三人が爆笑し始めた。


「あっははははっはははっっ!!!」
「お前っ、何言って…ぶっははっ!」
「は…腹痛ぇ!コイツ…可愛いっ!」
「---っ!!!っっっつっつっ!」

山口と二口さんは、腹を抱えて転げまわり、青根さんも畳みに伏してピクピク。
僕は誠心誠意を込めて謝ったのに、こんなに笑われしまうとは…ちょっと酷い。

憮然と抗議の声を上げようとすると、笑い過ぎてゼェゼェ喘ぐ二口さんを抱え、
青根さんは「…じゃぁな。」と、目尻を拭いながら部屋から遁走した。

「あっ!逃げないで…っ、うわぁっ!」
「ツッキーってば…もうっ!もうっ!」


二人を追いかけようとしたら、後ろから山口が笑いながら飛びついて来た。
僕は顔面から畳みに突っ伏し…山口は僕に抱きつきながらゴロゴロ転がり、
その内に僕の上に乗り上げ…無邪気に笑いながら楽しそうにキスをしてきた。

「なっ、なに、やま、ぐち…んっ??」
「ツッキー!ツッキー…えへへ~っ♪」

ちゅっ、ちゅっ…と、『嬉しい!』を全身で表すような、可愛らしいキスの雨。
その一つ一つを、零さないように受け止めるので、僕は精一杯だった。
何が起こっているのかさっぱりだけど、とりあえず喜んでくれてる…の、かな?


ひとしきり笑い、思う存分キスを降らせてから、むぎゅ~~~っとしがみ付き…
山口は本当に晴れやかな笑顔で、腕の中から僕をキラキラと見上げてきた。

「あのさ、ツッキー…褒めてくれて、すっごい嬉しいよっ!ありがとね~♪」

青根さんに聞いたと思うけど、あれが山口家の『家業』…年に一度の晴れ舞台。
あの舞台で舞うのは、代々山口家の人間にとって、最大の誇りだからね。
その栄誉に与ることができるのは、山口家の家長…『当代』の巫女だけなんだ。
まだ300歳足らずの若造…ペーペーの俺なんか、例大祭では『雑用係』だし。

そんなわけだから、あの舞台の巫女は…


「俺の、父さんだよ~♪」




- ⑩へGO! -




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※巫女装束(白衣&緋袴)





おねがいキスして10題(1)
『05.無邪気にキスして』


2018/08/31

 

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