ご注意下さい!


この話は、ヌルヌル~っとしたBLかつ性的な表現を含んでおります。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、 閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、責任を負いかねます。)




    それでもOK!な方  →
コチラをどうぞ。



























































    下積厳禁⑥ (前編)







「俺…酔っちゃったかも、です。」


ピトリ…と、黒尾の二の腕に額を付け、頬を擦り寄せながら凭れ掛かる。
いくら隣に座っていたとしても、足の長いバーのカウンターチェアは不安定…
一口分だけ残っていたカクテルを、黒尾は一息で飲み干すと、
赤葦を抱きかかえて椅子から下ろし、肩口に頭を埋めさせるように引き寄せ、
ゆるゆると背を撫でながら、穏やかな声で耳元に囁いた。

「片付け…起きた後でいいよな?」

返事をする代わりに、赤葦は黒尾の手を背中から腰、更に下へと導き…
店と自宅の鍵が入った、尻ポケットにそっと触れさせた。
意を察した黒尾は、ポケットの上から掌を何往復かさせてカタチを確認し、
人差し指と中指を中に忍び込ませ、軽く引っ掻きながらズルリ…と引き出した。


「足元…気を付けろよ?」
「えぇ…大丈夫ですよ。」

今が一番心地良い…『ほろ酔い』加減ですから、心配ご無用です。
そう赤葦は微笑んだが、黒尾は鍵を引っ掛けた手をそのまま赤葦の腰に当て、
チャリ、チャリ…という微かな金属音を立てながら、丁寧にエスコートした。

店を出て、エレベーターホールへ。
一歩一歩進むごとに、腰に添えられた手に促されるように、
赤葦は少しずつ黒尾との距離を狭め、しっかりした足取りで寄り添った。
エレベーターが到着するまでのわずかな間に、黒尾の肩にしな垂れ掛かり…
誰も居ないエレベーターに乗った瞬間、お互いを抱き寄せ、口付けを交わした。

   地下1階から2階までの、数秒間。
   仕事と私事の境界…小さな密室で。
   ふわりとした浮遊感に、陶酔する。


チン…と、年代を感じさせる慎ましい音が、目的地到着を知らせる。
扉が開く一呼吸前に、唐突に浮遊感が失われ、ガクンと大きく下方向へ揺れる。
その勢いで堕ちてしまわないよう…赤葦は名残惜しげにギュっとしがみ付いた。

扉が開くスピードに合わせて、徐々に二人も距離を取る。
何もなかったような無表情で、エレベーターから降りると、2階の廊下は無人…
今度は扉が閉まるのとシンクロし、二人は再度距離を縮め、唇を閉じ合った。

「珍しく…大胆だな。」
「酔ってます…から。」

「誰か…ここに来るかもしれねぇぞ?」
「誰も来ないって…ご存知でしょう?」

このビルの2階には、赤葦の部屋の他には、月島の部屋しかない。
月島は現在、黒猫魔女の配達中か、ちょうど終わった頃だろう。
終業後は、営業所の宿直室(山口の部屋)で休むのが日課になっているから、
黒尾と赤葦の他には、誰も居ない…それはわかっている。

だが、自宅でも店でもない共用部…『公開された場所』で触れ合うと、
非公開かつ私的な空間では味わえない、スリルと高揚感をもたらし…
アルコール以上の酩酊感と、エレベーター以上の浮遊感に、浮足立ってしまう。


「こういうの…少し憧れてました。」
「恥ずかしいが…悪くねぇかもな。」

いくら快楽の街・歌舞伎町と言えども、街中で堂々とイチャつく酔客達の姿に、
呆れながら見て見ぬフリ…自分とは『無関係』だと、遠巻きにしていた。

だが、美味しいお酒に浸り、恋人と素敵な時間を愉しむ幸せそうな姿には、
その度胸を称賛すると共に、羨ましい気持ちだって…全くのゼロじゃなかった。

   (俺だって、相手さえいるなら…)
   (素直に甘え、甘やかされたい…)


いつか自分に、そんな相手ができたら、人目も憚らず思う存分に酔いしれたい…
好きな時に、好きな人と、好きなことを好きなだけ…溺れてみたかった。

きっと大絶賛イチャイチャ中の、ぐでんぐでんな酔っ払いカップル達も、
普段は真面目に仕事をし、一生懸命毎日を生きている、ごくごく普通の人だ。
アルコールの力を借りて、ようやく自分の本音を曝け出せているだけ…
それを許してくれる数少ない場所が、この歌舞伎町という街である。


「職場兼自宅のビル内…公私の境界がはっきりしない場所なんだけどな。」
「これでも精一杯、勇気を出して…イチャついているつもりなんですよ?」

   ここならきっと、大丈夫だ。
   これぐらいなら、恐らくは。
   この人となら、間違いなく…

エレベーターのモーター音と、非常階段の足音に耳を澄ませながら、
一歩進むごとに、啄み合うキスを一回…リズミカルな音が、廊下にこだまする。
念のため月島宅前では息と足音を殺し、扉上の電気メーターで留守を確認…
ビビりながらイチャつく小心者の自分達に、笑いが込み上げてきた。

「何でこんなに小っせぇコトが…」
「楽しくて仕方ないんでしょう…」


緩んだ頬から零れる笑みを、密着する頬で感じ合い、くすぐったさで更に緩む。
たったそれだけで、自分は幸せ者だなぁと、理屈抜きで確信してしまう。

   (ただイチャついてるだけなのに…)
   (信じられないぐらい、幸せです…)

数歩先の赤葦宅前に到着すると、鍵を開けるのを邪魔するかのように、
赤葦は玄関扉に背を付け、こっちも開けろ…と、黒尾にキスをせがんだ。
黒尾は右手で鍵を錠前に差し込み、音を立てないように静かに回しながら、
左手では赤葦を玄関扉に押し付け、大きな音を立てて唇の間を舌で割り開いた。

   激しく絡み合うキスに、酔いしれる。
   理性の鍵を開いて、欲望を誘い出す。
   キスの音が、廊下と脳内を支配する。


まるでエレベーターのように、下の方に積み重なっていた熱い欲望が、
浮遊感と共にせり上がり…扉が開く直前に、ガクンと膝が堕ちそうになった。
黒尾はそんな赤葦を片腕で抱き留め、到着音代わりにチュっと音を立てた。

「おかえりなさい、黒尾さん…」
「ただいま赤葦…お疲れさん。」

   玄関を開ける前に、帰宅のご挨拶。
   キスしたまま自宅へ入った…瞬間。

二人はバっと身を離し、その場にへたり込んだ。

「な…何ヤってんだ、俺ら…っ!!」
「は…恥ずかしい、ことを…っ!!」


私的な空間…玄関に入った途端、イチャイチャを開始するのが普通なのに、
今日は真逆なコトをヤってしまい…家に帰ると同時に我にも返ってしまった。

かなり安全とは言え、公的な空間でイチャイチャしてしまった羞恥心と、
ついに念願果たしたり!という妙な達成感と幸福感で、二人は盛大に大赤面。
このまま正気に戻ったら、色んなイミでアウトだ!と、同じ結論に至り…


「おっ、俺も…相当酔ってるよな!?」
「勿論!もう…ぐでんぐでんですよ!」

酔っ払い同士が介抱し合うように、二人は真っ赤な顔で肩を組むと、
実にわざとらしい千鳥足で、部屋の中へよたりよたり~と入って行った。



*****



「あの、一つ疑問があるんですが…
   酔ってイチャついてるカップルは、一体どんな話をしてるんでしょうか?」


何となく肩を組んだまま、二人は柔らかめのソファにぐってりと身を沈め、
燈色の間接照明だけを点け、微睡みながら『酔い醒まし』をしていた。
部屋の暗さと互いの体温、そして何よりも『ここは大丈夫』という安心感から、
二人は徐々に『照れ照れタイム』から抜け出し、落ち着きを取り戻してきた。

だが、これ以上マッタリしてしまうと、心地良さで寝落ちしまいそう…
せっかく訪れた『イチャイチャモード』の機会が、消えてしまう恐れがあった。
そこで赤葦は、再度黒尾の肩に頭を乗せて、他愛ない話を振った。


「イチャつきながらする会話、か…
   きっと、大して重要な話じゃないと見せかけた、本音の探り合いだよな。」

これは別に、酔った勢いでしか訊けなかったり、答え辛いようなことを、
根掘り葉掘り不躾に詮索する…っていうおどろおどろしい意味じゃなくて、
ちょっとした雑談から、相手の感性やら自分との相性を見抜く?見極める?
まぁ要するに、甘えながらちょいちょい本音を小出しにしつつのスキンシップ…
お戯れ兼前戯みてぇなもんだろうから、『大した話』は逆に御法度だろうな。

「っつーか、この状況だと…しょーもない話でも幸せしか感じねぇだろ。」
「おっしゃる通りです。何を話しても…楽しいばっかりのターンですね。」

確か、イチャは漢字で『淫戯』だ。
話の内容なんかよりも、『ひっついて話をする』こと自体に意味があるのだ。
だって、ほら…今のこの会話だって、笑みが零れてくるぐらいだし。

黒尾は赤葦を更に引き寄せて髪を撫で、赤葦はそれにウットリと身を預け、
空いた方の手は、互いに指を絡めてしっかり繋ぎ、指間を刺激し合う。
その動きが『お戯れ』から『前戯』に変わる前に、今度は黒尾が話を振った。

   (もうちょっと、イチャイチャを…)
   (じっくり味わいたい…ですよね。)

お互いの意見の一致…相性の良さを感じ取り、二人はそれだけでニヤけてきた。
もきゅもきゅっ♪と、指の動きをマッサージ系可愛さに変え…イチャを続行。


「そう言えば、今日話題になった『テレパシー』だけど…
   どう考えても使ってるとしか思えねぇ知り合いが、一人だけ居るんだよな。」

『他愛ない話』の代表とも言える、『知人の話』だが、
興味をそそられた赤葦は、ピクっ!!と好奇心で身体を浮かせ、先を促した。
その小さいけれど素直な反応が嬉しく、それだけで黒尾は楽しくなってきた。

「俺達を繋いだ『電マ』の発送元…」

伊達工業㈱さんとは、ずっと仲良くさせてもらってるんだけど、
そこの技術部長が人外…『青坊主』っていう『ぬりかべ』の一種なんだ。
150年以上の付き合いだが、奴が喋ってるのを聞いた記憶がほとんどない…
どんな声をしてんのかも、全然思い出せねぇレベルの無口さなんだよ。

「その方が、テレパシー能力者…?」

黒尾さんとテレパシーで会話している人が居た…しかも俺と同じ『色系』で。
まだ見ぬ『青いぬりかべ』さんに、ちょっとモヤっとしかけた赤葦だったが、
黒・青・赤の3人が集まったら、色的に『ナマコ』だと思い当たってしまい、
赤葦は一人でニタニタ…それを隠すように、黒尾の胸に頬を埋めた。


「テレパシーがあるらしいのは、そいつじゃなくて…そこの営業部長だ。」

こいつも人外…後頭部にも口がある妖怪『二口女』の野郎なんだ。
俺が言うのも何だが、どうしてこいつに営業させるんだよ!?ってぐらい、
文字通りに『口の減らない』奴…ツッキー以上に『客商売不適格』なんだよな。

「構造上、やはり『二枚舌』ですか?」
「いや、むしろ本音しか出て来ねぇ。」

せめて『後ろのおクチ』ぐらいは慎ましく、営業トークをすればいいのに、
潔いぐらい包み隠さずド直球…嘘がないから逆に安心で、俺は嫌いじゃねぇ。

その二口女は、無言で突っ立ってる青坊主とフツーに意思疎通してるんだよ。
俺達には、『後ろのおクチ』から青坊主の声が聞こえてくるように感じる…
前後の口で同時通訳&ボケ&ツッコミまでこなす、凄ぇ能力者に見えちまう。


「まさか、『後ろのおクチ』は、青坊主さん専用…なんでしょうか?」
「それだと、青坊主が二口女を良い具合に懐柔してることになるが…」

俺もその点が気になって、技術部開発課の奴にコッソリ聞いてみたんだが、
「前の口はツン、後ろはデレ専用。あの人こそツンデレの最終進化形。」って、
多分最大級の賛辞?でリスペクト…どうやら青坊主が操ってるわけじゃなく、
二口女が超限定的に…対青坊主にのみ、テレパシー能力を発揮してるらしい。

「ぜひとも、俺も伊達工業㈱さんとお会いしてみたいですね。」
「あぁ。近いうちに必ず、お前をアイツらに紹介させてくれ。」

どいつもこいつもクセがある人外だが、見た目ほど悪くも怖くもねぇから、
赤葦も仲良くしてもらえると、凄ぇ嬉しいな~っていう気持ちの反面、
古くから付き合いがある奴らに、お前を紹介するって…かなり照れ臭い、な。


今度は黒尾の方がヘラヘラ…それを誤魔化すように、赤葦の髪を掻き回した。
お前にも『後ろのおクチ』がねぇか、チェックしとこう…と、半分言いかけて、
二人は同時にぶはっ!っと吹き出した。

「『後ろのおクチ』は青坊主専用って…なかなかキワドイ表現だな!」
「二口女を良い具合に懐柔…こちらも字面的に、ドキドキしますね!」

どうしましょう…伊達工業㈱さんと顔を合わせた瞬間、笑っちゃうかもです。
そしたら、場を取り繕うために、余計なことを口走っちゃいそうです…

「『青ナマコ』は二口女さんの専用ですか?って…ド直球で訊ねそうです。」
「『黒ナマコ』の巣は俺の『後ろのおクチ』です…って言うんじゃねぇぞ?」


なるほど…そういうことか。
酔ってイチャつくカップルは、どんな話をしたとしても、イきつく先は同じ…

「全ての会話は、前戯に通ず…だな!」
「イチャ=淫戯な理由も…納得です!」

他所様の他愛ない話で、ここまで勝手にフィーバーして楽しめるだけでなく、
それすらも全て、自分達がイチャつくための、ただのネタになってしまう…
これこそが、ラブラブカップルのイチャイチャ…デレデレの極致である。

「傍から見たら、単なる…ですよね。」
「だが、当事者は…凄ぇ幸せだよな。」

緩み切った笑顔で見つめ合い、『前のおクチ』を塞ぎ合う。
溶けるほどに甘く、優しい表情…それだけで酔いが回ってしまいそうだった。


「こんなデレデレの姿…お外では到底お見せできませんよね。」
「誰にも見せたくない…俺以外には、絶対に見せないでくれ。」

やっぱりイチャイチャは、二人っきりの私的な場所だけにしとこうぜ?
お酒…『ギブソン』もヤキモチも、『ほろ酔い』が最適…そうだろ?

パチリ…と、片目を瞑ってお茶目に本音をポロリした黒尾。
赤葦はそのセリフと仕種にクラリ…頬を更に赤く染め、黒尾にピトリした。


「やっぱり俺…酔っちゃいました。」




- 後編へGO! -




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※イチャに関する考察 →『三畳趣味
※黒・青・赤 →『王子不在
※ナマコについて →『昏睡王子


2018/02/27    (2018/02/23分 MEMO小咄より移設)  

 

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