御題初雪







「今回のお題…『初雪』だって。」
「えぇ~!?新緑爽やかな、GW明けに?」
「これは本当に、勘弁してほしいですね。」


大ピンチだから集合…と、研磨先生から黒尾法務事務所に緊急招集命令が入った。
今回もweb会議にて、各家庭から『新時代オンライン酒屋談義』に参集した面々に、
『サラっとだし茶漬的小咄』企画長・研磨先生は、第20回目のお題を告げて頭を抱えた。

「今やってんのは、『ドリーマーへ30題』ってやつを使わせてもらってんだよな?」
「02回目『浴衣』は、何とか季節感を消せましたが、『初雪』の方は難題ですね。」

今回のプロジェクトは『小鳥さん以上MEMO小咄以下』が(当初の)目安だったこともあり、
あえて30個のお題を全部通しで確認せず、サラっとチラ見だけにしておいたのだが…


「今回に限らず、ウチはお題に沿ってシリーズを構築していくスタイルだもんね~
   まずお題を決め、次に全体の構図を組んで事前調査。あとタイトルで…工程の8割終了。」
「一番最初に書いた『月山論文』から、黒猫魔女の『帰省緩和&隣之番哉』に至るまで、
   ありとあらゆるシリーズを、『確かに恋だった』さんのお題をお借りして書いてるんだ。」

このやり方は、構想&調査をじ~~~っくり楽しめる分、毎日サラっと更新には向かない。
だからこそ、あえて『お題の先は見ない』『構築して遊ばない』『ほどほどに調査』を旨に、
01~10回目までは、割とこの基準に則して10日連続UPを達成できた…はずだった。

「単発の連発は、すぐに飽きてしまいました。ただの作業に陥り…つまらないんですよね。」
「んで、11~13は『赤葦と呑もう』シリーズ、14~18は『研磨先生&ミニシアター』だ。」
「困った時に、すぐ俺に頼る…悪い癖だね。」

こんなに悩むなら、『創作のきっかけ』でしかないお題なんて、途中で無視すれば良い…
という開き直りをしても、『基準じゃなくて目安』『募集ではなく募った』よりはマシだし、
『37.5度以上が4日続く』を誤解と言い放つ様な、命に関わる責任転嫁には絶対ならない。
ましてやお題挑戦期間を延長しても、三権分立を無視した検察官定年延長程の越権ではない…

な〜んていう話は、とりあえず置いといて。


「そもそも論として、いっつも他所様が作って下さった『お題』に頼るのも…どうなの?」
「どうもこうもないよ。一定のルールや目安がないと、創作なんてそうそう続けられない。」
「タイトルを四字熟語にしてんのも、ルールがあった方が楽だから、だし。」

それに、『他人様が作って下さった』という点が、実はかなり重要なファクターなのだ。
自分の想像力や興味の湧くネタ、萌えポイントには、ある一定のガチガチな固定枠が存在し、
自分独りで『自分の殻』から抜け出すのには、相当な熱量・力量・技量が必要となる。

「通信教育や資格試験と同じで、独りだとソッコーで限界が来るんだよな。
   某法律系大学でも、通信教育課程を卒業できるのは、一割程度…国家資格より難関だ。」
「独りでどん詰まっている時に、スクーリング等で先生の講義を受けると、
   たちどころに理解できたりする…飲み会出席率と卒業率が正比例するのが、通教課程。」

それと似た状況なのが、創作だ。
独りでコツコツやってるだけだと、すぐにネタもヤる気も枯渇し、行き詰ってしまうのに、
ポンと誰かに背中やいいねを押して貰ったり、こういうの読みたい!とリクエスト頂けると、
「そんな発想(妄想)もあったのかーーーっ!」と、激しく膝と拳をボンボン打ち鳴らし、
目の前に『ぱぁぁぁぁ~~♪』っと、書きたいものの姿が浮かび上がってきたりするのだ。

「お題配布サイトさんってのは、そういう『外からのポン!』をお借りできる場所。」
「独学も創作も、意欲や熱意だけじゃどうにもならない…情けないけど、それが現実だよ~」
「リアルでも、この酒屋談義っぽく『共著』できれば良かったな…と、しみじみ思うよ。」

二次創作の主体が『サークル』なのも、プロ作家さんには編集者が付いていることも、
きっと同じ理由…独りよがりだと、すぐに先が見えなくなってしまうからだろう。


「…というわけで、ウチではできるだけ『色んな視点』から考えてみよう!って心掛けて、
   脳内酒屋談義を敢行…月島は?山口なら?黒尾と赤葦はどうする?と、常に考えてる。」

それでも難しい時には、この俺…HQ界のラスボスこと、研磨先生に頼っちゃうんだね。
苦境を打破できるのは、『神の視点』に立てるラスボスか…神をも打ち砕く木兎さんぐらい。
(※ただし、木兎さんはあまりに破壊力が甚大すぎて諸刃の剣なため、厳重注意の上で使用。)

「木兎さんのような、『理を超越せし者』を描く能力なんて、ウチにはない…
   理詰めでしか考察できないタイプには、あの人は眩しすぎるんだよね。」

木兎さんを活き活きと描ける作家さん方を、俺は心の底からリスペクトしてるんだ。
ほぼ同じ理由で、ノヤっさんを輝かせる人も…ノヤっさんと同じぐらい、素敵だと思う。


「…さて。もうそろそろ、いいでしょ?」

俺の役目…時間稼ぎは、もうおしまい。
ナニ喋っていいのかわかんない、web会議の場をもたせるのって、結構ツラいんだけど。
俺がテレワークの『定時連絡』的な会議を進行させてる間に、各々…考えたよね?

「爽やかな五月に、季節外れの『初雪』をお題にして…それぞれ何を描くか、発表して。」

今回は、そうだね…まずは、クロから。
お題から考察を始める時の『スタート』が、どんな風なのか…軽く説明して。


研磨から指名を受けた黒尾は、ちょっと待ってろ…と画面から一旦消え、
ほんの数秒後、すぐ傍に常備してあるらしい分厚い辞書を、数冊抱えて画面内に戻って来た。

「初っ端に始めるのは、お題の『言葉の意味』を、数々の辞書で調べることだな。」

必ず使うのが、国語辞典と語源由来辞典。横文字の場合は、英和・和英辞典も適宜。
似ているのに使い分けられる言葉がある時は、類語辞典や公文書用字用語例集も参考にする。
例えば、『初っ端に始める』にある『初め』と『始め』の違い…なぜ『初』雪なのか?等を、
お天気関係のサイトから『初雪』の定義を学びつつ、『始雪』じゃない理由を考えるんだ。

そして今度は『雪』…雪にも語源があったなんて、お題に触れるまで考えたことなかったぜ。
神聖であること、いみ清めること…『斎(ゆ)』に『潔白(きよき)』の『き』で、
潔斎を意味する『斎潔(ゆきよし)』から、大地を白く清める『ゆき』になったらしいぜ。
濯ぐ(洗い清める)って意味を持つ『雪辱』って言葉なんか、まさにそうだよな。

「言葉の語源をみた後は、さらに細分する。」
「次は、『漢字の成り立ち』を調べますね。」


黒尾からバトンを引継いだ赤葦は、虚空に向かって『初』と『雪』の文字を離して書いた。

「まず『初』は、『衣+刀』。布に刃を入れて裁断することから、お裁縫のスタートです。」

赤ちゃんの初着(産着)を作る、手始めの作業を表していたそうですが…
おやおや、手『始』めが『初』なのは、これ如何に?使い分けは一体どうなってるんです?
そう言えば、『初(うぶ・うい)』は『産む・生み』が語源という説もありますし、
世間に染まってない、純情な『初々しい』方を『うぶ』と呼ぶのは…『雪』の語源に通じる?

「では『雪』の字は、どういう構成なのか?」

『雪』は『雨+彗』。天の雲から水滴が滴り落ちる象形…『雨』の意味と、
先端を揃えた箒を手にする象形…『箒で掃き清める』の意味で、雨で洗い清める=『雪』に。
確かに『彗』は、天をスススーっと清めて走る彗星…『ほうきぼし』のことでしたね。
雪という言葉に『潔斎』の意味があるのは、『箒』ゆえ…スススーっと論理が流れました。
ちなみに、箒と赤ちゃん…出産には深い関係があることは、今まで何度か語りましたね。

「このあたりが、事前調査の前段です。」
「ここからは、『初雪』の言葉が使われる場面や、『初雪』がつく別の言葉を探します。」


はい、次は月島君。任せましたよ。
赤葦から指名を受けた月島は、手にしたスマホに写した画像を、webカメラに近付けた。

「実は、この五月に旬を迎える『初雪』が、存在するんです。」

その名も『ハツユキカズラ(初雪葛)』…寄せ植えやハンギングによく利用されるもので、
新芽の時はピンクだった葉に、まるで初雪が積もるように、徐々に白い斑が入ってきて、
その後、葉は緑になり、秋から冬にかけては紅葉も楽しめるという、素敵な蔓性植物です。
こうした美しい変化から、ハツユキカズラの花言葉は『化粧』『素敵になって』だそうです。

キョウチクトウ科テイカカズラ属…『テイカカズラ(定家葛)』の園芸品種です。
定家とは勿論、日本を代表する大歌人…小倉百人一首の撰者『藤原定家』のことです。
死後も愛する式子内親王が忘れられず、定家葛に生まれ変わり彼女の墓に絡み付いたという、
能の『定家』の伝説に基づいて…この美しい和名が付けられたそうですよ。


ハツユキカズラ他・寄せ植え(クリックで拡大)


式子内親王と言えば、新三十六歌仙にも数えられる『悲恋の歌人』で、賀茂斎院だった人…
賀茂御祖神社(下鴨神社)と、賀茂別雷神社(上賀茂神社)に奉仕した皇女で、
長きにわたる潔斎を経て、賀茂祭(葵祭)の祭祀を執り行う、神に捧げられたウブな乙女です。
定家を中心に、初雪と斎院が絡まり合った…書くべきシーンへ、ようやく繋がってきました。

「定家が編纂した百人一首には、式子内親王の歌も撰ばれています。」

   玉の緒よ 絶えなば耐えね ながらへば
   忍ぶることの よわりもぞする

我が命よ、絶えるなら絶えてしまえ。
このまま生き長らえていると、堪え忍ぶ心が弱ってしまうから…

「もう抑えきれない、あの人への想い。でも、このキモチを知られるわけにはいかない。」

道ならぬ関係、恋の激情。
どうすることもできない、どうしようもないけれど…
そんなある日、あの人とたまたま出逢った場所に、ちらほら舞う…今年初めての雪。
不意に触れ合った指先に、喜びよりも驚きと戸惑いがまさり…慌てて手を引き雪を見上げる。

「…といった、僕の大好きなウブウブ物語が、ようやく葛が伸び…黒赤編に絡まるんだよ!」
「そして、定家から伸びる葛を辿ると、今度は別の清い物語…月山編にも繋げられるよね♪」


山口は隣の月島をキラキラした瞳で仰ぎ見ながら、定家といえばコレだよ!と声高に叫んだ。

「つい先日も、科学ニュースを賑わせた赤気…オーロラ観察等、天文学の記録としても逸品!
   定家の日記『明月記』…月マニアとしては、ゼ~ッタイに外せないネタなんだよね~♪」

明月記には、普段見ない客星…『彗』星の記録もたくさんあるから、
ここにも絡めつつ、『赤』気から赤葦さんネタにまでスススーっと伸ばすものアリだよね。
ちなみに、定家のいた西暦1200年頃、地軸の傾きで日本からもオーロラ観測可能だってさ。

借りてきた猫(黒尾さん登場?)みたいなお客さんっぽい『明るいツッキー』観察日記を、
俺目線で書いちゃうっていうのが、月山編ミニシアターの一案かな。
その際には、『定家と月』に関する、もうひとつの大きな繋がりを使う手もあると思う。

「月岡芳年の『月百姿』…52番の『住吉の名月』が、定家をモチーフにしてるんだ。」


月岡芳年『月百姿』・住吉の名月(クリックで拡大)


「夢の中で、住吉明神から神託を受ける定家…住吉さんと言えば、『海』の守り神代表。
   海の表面・中ほど・底で清める、住吉三神の総称…最近語ったアマビエに繋がったよ。」

俺ぐらいのツッキーマニアになってくると、芳年リスペクト系な『ツッキー百姿』を編纂し、
この考察を、新たなる月山シリーズの『初』にしちゃうかも…あれ、『始』の方だっけ?


「それは、お前独りで…絵日記にでも書いてくれや。」
「自己満足の極致…山口君以外の需要はありません。」
「山口…それ晒されるのは、僕自身が断固拒否だよ。」
「むしろ、フツーに『月百姿』をじっくり見たいし。」

全員からの予定調和なツッコミに、山口は「えへへ~♪」と嬉しそうに笑うと、
こんなカンジで、事前調査やら構築やらは終わりですね~と、研磨先生にバトンを戻した。


「だいたい4人で分担…ネタを4分割ぐらいして調査すると、『起承転結」に組み上がる。」

   何について問われているものか?
   どういった『論点』があるのか?
   今回の事例にあてはめてみると?
   結論(ミニシアター)はどうなる?

「この流れに沿って書くのが、論文のルール…あ、論文って言っちゃったよ。」

お題に応じたものを書くって意味では、論文もお題拝借二次創作も、ほぼほぼ同じ。
だから毎回ワンパターン…もとい、そこそこのペースで量産できるというわけだね。

今回ここに創作手順を思いっきり晒しちゃったから、今後はこれ以外の道を探るも良し、
この道をずっと突き詰めて行くも良し…どっちの道も、どん詰まりかもしれないけどね。


「そんなわけで、今日の会議は終了。おつかれさん。」

研磨先生は閉会宣言をし、ポチっとな~と言いながら退室ボタンを押そうとした。
だが弟子達は「待ったぁぁぁぁっ!」と、目を閉じたまま抗議の四重奏を上げた。

「冗談だろ!?ここからが本番…だよなっ?」
「今までのは前フリ…という流れですよね?」
「前回の自己満足な会議では、そうでした…」
「先生のミニシアター…目を瞑って待機中!」

早くミニシアター…カモン!と、当然のように言い放つ面々に、研磨先生は深いため息。
アンタら、全然わかってない…と、久々のキメ台詞をお見舞いし、背を向けた。


「工程の8割は、完成したでしょ。」

あとは、自分の好きなように脳内妄想…自己満足できるミニシアターを2割分、創ればいい。
つーかさ、さっきアンタらが例示したウブウブ黒赤編も、ツッキー観察日記的な月山編も、
今まで何度かヤったネタ…『いつも通り』過ぎて、もう飽きちゃった。却下だよ、却下っ!

せめて『黒雪』『赤雪』『月雪』『山雪』…全員が初雪と同じ『α+雪』系熟語ができるとか、
そのぐらいの変化球にしとかないと、全然おもしろくならないでしょ。

今回『初』めて、いつもは見えない『8割』の方を洗い清め、自分自身を潔斎…
シュミの創作でも、以湯沃雪…湯で『雪』を融かすほど簡単にはできないって、素直に暴露。
それにさ、思い付いたネタをぜ~んぶ創作しようなんて思ったら、『雪達磨式』に…


「あ、ここにも『α+雪』…俺もいるじゃん。」




- つかれたから、ポチっと閉会 -




  →って思ったけど、やっぱ黒赤ヤっとく。




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※箒と出産の関係 →『
既往疾速③
※最近語ったアマビエ →『
無防備考
※前回の自己満足な会議 →『
自己満足


ドリーマーへ30題 『20.初雪』

お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。


2020/05/11

 

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