αβΩ!研磨先生①







「本日の議題についての資料をお配りしますので、各自ご確認を。」

今日も特にやることがない、黒尾法務事務所。
年度が明けるとヒマだとは聞いていたが、まさかここまでとは…
大学の授業もまだ本格始動していないため、4人全員がひたすらヒマ。
というわけで、「年度明けたらやるか!」とお取り置きしておいたモノを、
ちょっとずつ片付けていこうと…ようやく動き出すことにしたのだ。


赤葦が配った資料のタイトルは、『新規事業について』だった。
当事務所の新規事業とは即ち…『HQ!乙女ゲーム』の開発である。

「おぉ~、そう言えば、そんな話してたな!すっかり忘れてたぜ。」
「ヒマな時期にこそ、コレのネタを練る…イイ案ですね。」
「どうします?まずはやっぱり、『王子様系・及川徹』のルートから…?」

どんなストーリーにするかな~と、3人がワクワクし始めたところで、
赤葦は「資料の2頁目をご覧ください。」と指示した。
そこには、『赤葦京治の調査結果(中間報告)』という項目があった。

「先月中旬から約一月、俺は新規事業に係る調査を、独自に遂行していました。」

乙女ゲーム制作の参考になるのではないか?との考えから、
俺は30冊ほどBLコミックを読破してみましたので、その結果をご報告致します。
調査対象の抽出には、黒尾さんにもご協力頂きましたが…
おそらく『初心者向け=王道』ではないかと思われるモノを中心に選びました。

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<キャラクターの職業による分類>
・学生(高校・大学)…9冊
・サラリーマン(一般企業)…8冊
・個人事業主(カフェ経営等)…3冊
・医師・警察官・駅員等…6冊
・教師・保育士…4冊

<カップルの人間関係による分類>
・同級生・同僚…7冊
・上司と部下…6冊
・店員と顧客…6冊
・先輩と後輩…4冊
・幼馴染…3冊

<その他属性による分類(重複有)>
・メガネ…15冊
・スーツ・白衣等…13冊
・最終話までEROなし…12冊
・初体験だった…8冊
・子どもが登場…7冊


**********

俺自身がBL初心者なので、できるだけ抵抗の少ないもの…
絵が綺麗で、キツくなさそうで、表紙がモロ!ではないものばかりです。
そういう基準で選択した30冊であるということを、念頭に置いて下さい。
その上で、この調査結果から読み取れることは…

「まずは…『王道!』と言えるものばかりですね。」
「EROの少なさから、『ほのぼの系』が大半です。」
「っつーか、赤葦の好みがモロ!にバレバレだな。」

『ほのぼの癒し系』に偏ったのは、初心者故に仕方がないが、
乙女ゲームの『王道』を考える上では、これで特に問題はないだろう。
だが、やたらと目に付くのは…スーツ(制服)とメガネ、そして上下関係だ。

「お硬い先輩や上司との、『ギリギリせめぎ合い系』恋愛…ですね。」
「最後の最後までEROなし…ストイックでピュアなのがお好き、と。」

へ~♪ほほぅ~♪ふ~ん♪…ニヤニヤとモノ言いたげにほくそ笑む3人に、
赤葦は頬を赤らめて反論した。

「こっ、これはあくまでも、初心者向けの研究ですからっ!」
どうせ「『放射性猥褻物』の赤葦さんとは思えないですね~」って、
失礼極まりない(ですが否定する根拠もない)ことを思ってるんでしょうけど…
べべべっ、別にこれが『俺の好み』を正確に表しているわけではありません!

「…で?赤葦さんが一番お気に入りだったのは?」
「出逢って2秒で誘われて…って話でしたね。」
サラリーマン同士が、通勤途中の駅で…っていう、
せめぎ合いともピュアさとも縁遠い、実に爽やかスポ根系のEROでしたよ!
俺自身の恋愛経歴とは、全く異なる…

「通勤途中のサラリーマン…当然『スーツ』ですよね。」
「駅…多分、駅の『トイレ』で、ほとんど着たまま・立ったままだよね。」
「成程!どうりであの時…」

赤葦の『超お気に入り』に心当たりがあったのか、
黒尾はポン!と小気味よく拳を鳴らし…直後、その手で朱に染まる顔を覆った。
赤葦はそれを見なかったフリ…強引に話を『本日の議題』に戻した。


「この結果で、注目して頂きたいのは…ココなんです。」
赤葦が指し示したのは、<その他属性による分類>の一番下…
『子どもが登場…7冊』の部分だった。

「BLコミックに、子どもなんて出てくるんですか?」
「『教師・保育士』って職業分類より…多いね。」
「『学生』とは別枠ってことは、小学生以下だよな。」
法的に言えば、中高生は『生徒』…『学生』ではないが、
赤葦の分類では高校生は『学生』の枠に入ってるため、幼児~中学生か。
初心者向けのものばかりならば、その『子ども』は恋愛対象ではない…
『重要なサブ』として、小さな子どもが登場するということだろう。

「小さな子どもが出てくると、確かに『ほのぼの』しますよね~」
「学生だと、年の離れた兄弟とか…でしょうか。」
「あとは、シングルファザーだな。」

3人の指摘は正解だったらしく、赤葦は「その通り。」と頷いた。
そして、「この点が俺には…疑問なんですよ。」と真剣な声で続けた。

「BLにとって、『子ども』とは一体どういう存在なのか?」

赤葦の疑問提示に、3人は息を飲んだ。
この場に相応しくない程、重厚で哲学的なテーマ…笑い話ではない。
本心を言ってしまえば、できれば触れたくない問題でもある。
誰もが沈黙する中、沈黙を作りだした赤葦自身が、それをアッサリ破った。

「…なんてのを考察したって、全然面白くないので…本題はコッチです。」
赤葦は資料の3頁目をペラリと捲り、ニッコリと微笑んだ。

「今日は皆さんで、『オメガバース』ルートについて考えましょう。」


「『オメガバース』…俺、あんまり詳しく知らねぇんだよな。」
「俺も実は見たことなくて…でもルート案がありましたよね?」
『オメガバース』は読んでいなくとも、初心者向け30冊の研究から、
BLにおいても『子ども』が重要な位置を占めることは解りました。
ですからこの機会に、『ちょっとしたネタ』として、考察してみませんか?

これは赤葦の、軽~い『暇つぶしネタ』の提供…黒尾はホッと息をついたが、
意外にも強い「No!」が上がった。
「そっ、そのネタは…できればスルーでお願いしますっ!」
「山口の…いや、僕達の『黒歴史』なんで…触れないで下さい!」

じゃ、今日の会議はこの辺で…と、席を立ちかけた二人に、
黒尾は肩を抑え、赤葦は扉を開けるという行動で『却下!』を示した。
扉の向こうには、人の気配…月島と山口は「ひぃっ!」と喉をヒクつかせた。

「まっ、まさか、αΩの…『阿吽な人達』が、今回のゲスト…っ!?」
「阿吽?あぁ、確か『ぁん♪ぅん♪』の…テーマにピッタリだな。」
「そっ、それは…会議の収拾、付きませんよっ!危険すぎますっ!!」

半泣き状態の月島達に、赤葦はご安心ください、と笑った。
さすがに俺も、あの人達と渡り合う気はありませんから…


「というわけで、頼れるのはやはり、この方です!」
「…どうも。オメガバース研究家・孤爪です。」




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※赤葦の『超お気に入り』 →『福利厚生③
※僕達の『黒歴史』 →『危言危行
※αΩ(ギリシャ語の最初と最後の文字)=阿吽(梵字の最初と最後)
  →『及川と岩泉

2017/04/27    (2017/04/17分 MEMO小咄より移設)

 

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