及川と岩泉







「ねぇ岩ちゃん。俺と岩ちゃんは『ぁん♪ぅん♪』のカンケーだけど…」
「何度も言うが、『ん』が多いわっ!その『ん』で、天地の差だろ!」

及川の話はいつも『いきなり』だが、今日のは特に酷い。
言うこと成すこと、大抵『余計なこと』が多いやつではあるが、
この『ん』の一文字だけは…許容範囲外だ。
ソッコーで訂正を入れたが、このやり取りも、恐らく3桁は軽く突破している。
何度言っても直そうとしない…が、俺も何度でも訂正し続けてやるつもりだ。

「それでね岩ちゃん、今更ながらの疑問なんだけど…どっち?」
「どっち?何の話だ?」
「決まってるじゃん。俺が右か左か、もしくは上か下…っい、痛ぁっ!!」
世の中、口に出していいことと、そうでないことがある…そうだよな?
それを視線と拳で俺は語り、及川は両手を口に当ててコクコクと頷いた。

痛みで少し潤んだ目尻を拭うと、すぐにケロリとした表情…タフな奴だ。
性懲りもなく、さっきの『続き』を話し出した。

「俺と岩ちゃん、それぞれどっちが『あ』で、どっちが『うん』なの?」
「はぁ?そりゃ、お前…」
言われてみれば…今まで考えたこともなかった。

『阿(あ)』は口を開き、息を吐くこと。『吽(うん)』は口を閉じ、息を吸う…
両者が息を合わせることを、『阿吽の呼吸』という。
また、梵語の最初と最後の文字で、宇宙の始まりと終わりを表し、
密教で『阿』は『万物の根源』を象徴し、『吽』は『一切が帰着する知徳』だった。

「相変わらず、岩ちゃんは妙なことに詳しいよね~」
「あれだけ周りから『阿吽コンビ』ってディスられたら、普通は調べるだろ。」
「えっ!?ディスってないでしょ。ラブラブだね~っていう褒め言葉じゃん。」

このアホな発言は、いつも通り『完全無視』だ。
頼むから口を閉じて黙っとけ…という面では、及川には『吽』であって欲しい。
だが…

「『ポカ~ン』って馬鹿みてぇに口開けてる方が、お前らしいな。」
「いっつも不機嫌そうに『むん!』ってしてるのが、岩ちゃんっぽい!」
「万物の『根源』…全ての『元凶』は及川にあり、だな。」
「え~っと、一切?帰着?知徳?…どういう意味?」
「『全部俺がケリつけてやるって…お前、知っとけよ?』って意味だな。」
「なるほどね~。すぐケリ入れるあたりが、すっごい岩ちゃんっぽいね。」

あーぁ、大ウソを信じてやがる。ヘラヘラ笑って…ったく、しょうがねぇ奴。
でもまぁ、コイツには『しんがり』は向いてない。
誰よりも『真っ先』に先陣を切り、周りを引っ張っていく姿が…似合ってる。

「じゃぁさ、『せ~の』でどっちがいいか、言い合って決めようよ。」
「いいぜ。お前と同じものは絶対に選ばない自信があるからな。」
えぇ~、それ、なんか…『仲良し♪』に聞こえないんだけど。
まぁいいや。それじゃあいくよ…せ~の…っ!


「「阿(吽)!!」」


「…ほらな!お前と俺は、絶対に『合わねぇ』だろ?」
「何言ってんの。まさにピッタリ…『阿吽の呼吸』だったじゃん♪」




- 終 -


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2017/02/23    (2017/01/31分 MEMO小咄より移設)

 

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