▲ご注意下さい!▲
この話は、BLかつ性的表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さいませ。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)
それでもOK!な方 →コチラへどうぞ。
前略 黒尾様 赤葦様
先日は大変お世話になりました。
「『なりました』って、過去形かよ。」
「現在進行形で、お世話してますね。」
お二人のおかげで、僕と山口の二人は、
夏のアバンチュ~ル☆を思う存分満喫…
心の底から、御馳走様でした。
「月山組は、お膳立て係のはずだったよな?」
「俺達を餌に、オイシイ思いをしたんです。」
ところで、僭越ながらお二人の事を、
月島&山口家にて、お土産話をしたところ…
「お土産話?ネタにして笑っただけだろっ!」
「さぞかし盛り上がったことでしょうねっ!」
僕の父と兄、そして山口母が、遠い涙目。
きっと二人は『良い夢』を見ただろう…
心から御同情申し上げます、だそうです。
「月島父・月島兄・山口母は…俺と同じか。」
「笑い話にはならなかった…みたいですね。」
つきましては、月山家のα三人衆から、
同類の黒尾さん及び、つがいの赤葦さんへ…
少しばかりのエールを贈らせて欲しい、と。
今度こそ、目を開けて良い夢を…とのこと。
「っ!!?や、やっぱり、そうなのか…っ!」
「おかしいと思ってましたけど…やっぱり!」
それでは、この辺で失礼します。
今後も山口共々、お世話になります。
【追伸】
つがい確定、おめでとうございます。
「未来形で、世話かけるぜ予告しやがった…」
「追伸、ではなく…そちらが本題ですよね。」
夏が過ぎ、秋になり。
そろそろオリオン座流星群が降り注ぐ季節か…と、第三体育館で片付けをしていると、
お先ですと、手伝う素振りを微塵も見せぬ月島が、わざとらしい咳払いを残して出ていった。
疲れ切った表情で夜空を眺めていた黒尾と赤葦が、入口付近に視線だけを投げると、
そこには二人の名が書かれた封筒が置かれ…裏側には月島と山口の名前が小さく並んでいた。
顔を見合わせ、同じ方向に首を傾げ。
そのシンクロぶりに頬を緩めながら、黒尾が封筒を開け、赤葦は真横からそれを覗き込んだ。
中には、『しぶしぶ』といった音が文面から盛大に聞こえてくる、月島からの手紙…と、
何だかステキな色を放つチケットが、2枚×2組入っていた。
「オトナ♡プラネタリウム…?」
「もっと♡性いっぱい展…??」
黒尾と赤葦が『業務外』で逢う時の待ち合わせ場所は、乗換駅のあるイケブクロ・コロニー。
いつもは駅で集合した後、巨大な本屋へ立ち寄って、公園等でマッタリするのが、二人の常。
封筒のチケットは、同じイケブクロの『太陽が輝く街』にある、2つの教育的施設のもの…
存在することは当然知っていたし、子どもの頃に親と行き、物凄く楽しかったはずだが、
そこに二人で遊びに行くという発想は、チケットを見るまでオキアミほども浮かばなかった。
「サンシャインの、プラネタと…っ!」
「水族館で、おおっ、おデート…っ!」
月山α三人衆からの、涙に濡れた贈物。
その真意を察した二人は、くる~り…ぎこちなく互いに背を向け、電子音?を発声した。
「件名・おデート(仮)について。平素より以下略。もし宜しければっ、らっ、来週末に…っ」
「件名・Re: おデート(本番)について。たっ、大変申し訳ありませんが、らっ、来週は…っ」
「そっ、そうだよな~!とととっ、突然すぎるよな~!残念だが、また機会があれば…な。」
「ちっ、ちがいます!そうじゃなくて…チケットの日付、見て下さい!来週じゃダメです!」
すぐ傍にいるのに、必死に『いつも通り』を装うべく、打合せメッセージを口頭で送り合う。
エラーと文字化けを起こしそうな程の動揺も、背中越しに直接伝え合っているうちに、
降って湧いたおデート(本番)へ、どれだけ期待しまくっているかも素直に晒してしまい…
二人はそんな『似た者同士』っぷりすらも嬉しくなり、同時にぷっ!と吹き出した。
「イベントは来週末迄ですが、最終日付近は大変混み合いますし、そこまで…待てますか?」
「それなら明日、合宿から帰宅後、夕方までガッツリぐっすり睡眠。その後…行かねぇか?」
「万事了解、致しましたっ!『いけふくろう』前集合、時間は18時15分で…いかがですか?」
「18時15分…早く行こう、か。イき先は件名に明記してある、『本番』って捉えていいな?」
「ガッツリしっかり、寝て来て下さい…ね?」
「ガッツリしっぽり、『寝る』ために…な?」
ご連絡頂き、ありがとうございました!!
二人は『定型文』で送受信を締めくくると、互いの姿を視界に入れないまま、そろりそろり…
少しずつ距離を取ってから、体育館から脱兎の如く走り去った。
「明日は、制服と校名入ジャージ…厳禁な!」
「学割よりも、オトナ向け対応…了解です!」
*******************
「日曜でも、夕方を過ぎたら…」
「意外と人、少ないんですね…」
家路へ急ぐ人の波に逆らいながら、陽が落ちた街中を通り抜け、太陽が輝く場所へ。
『オトナ向け対応』の服装を予告していたはずだが、予想通りにいつも通りな格好…
シンジュクでの夏合宿の買い出し時と比べ、上半身が長袖+ジャンパーになった程度の差だ。
「色気皆無で…正直、助かるぜ。」
「派手なのは…苗字だけで十分。」
屋上のプラネタリウム&水族館直通エレベーターに乗る人は、二人以外に誰もいなかった。
中が広すぎて、どこに陣取っていいか…どのくらい距離を取ればいいのか、全くわからない。
とりあえず壁から一歩分前に、人ひとり分を開けて、横並びに立ってみたが…
(ちっ、沈黙が…重たいっ!)
(ふっ、不自然に…遠いっ!)
確か、60階建なのは隣のオフィスビルだけで、この商業ビルは10階程度だったはず。
それなのに、屋上までのたった数秒の沈黙が、こんなにも…って、やけに長いような?
「あ、行き先ボタン!」
「押して、なかった!」
いくら大きく広いエレベーターでも、長身の二人が一歩分だけ踏み出して手を伸ばせば、
端の操作盤にラクラク届いてしまう…それを同時に行えば、人ひとり分の距離もなくなる。
行き先を示す正方形の一指分手前で触れ合った指先を、真ん丸な目で見つめて…フリーズ。
まるでエレベーターのように、頸元からじわじわ赤みが上がってくる顔を見ていられなくて、
お互いに視線を天井付近まで浮かせ、横に流しながら周囲をチラチラと観察&確認…
(その流し目、お前のクセ…だよな?)
(ナニ考えてるか…バレバレですよ?)
水面のような淡い光を放つ天井に、ふわふわ泳がせていた目を、ほんの少しだけ潜らせる。
するとすぐに視界に飛び込んで来たのは、ゆらゆら揺れる昆布…じゃなくて。
「グッスリ…眠れたみたいですね。」
「この通り…寝癖もバッチリだぜ。」
「安心しました。一徹ぐらい余裕…ですね?」
「凄ぇ字面の台詞だと…寝たから、タつぜ?」
買い出しおデートを再現するように、黒尾は赤葦を壁と腕の中に閉じ込め、額に額をつける。
操作盤の前で浮いたままだった赤葦の手を捕まえ、まずは『RF』を一緒に押す。
そして、その手をバッチリとタった髪に導いてから、自分の手は赤葦の耳元に沿わせた。
「ここ…寝癖、付いてるぞ?」
「それは…真っ赤な嘘です。」
「防犯カメラの位置…確認してただろ?」
「嘘の付けない腹黒…お互い様ですが。」
「ここは当然…アレしたい流れ、なんだろ?」
「コレが欲しくないと言えば…大嘘、です。」
7F。そっと瞳を閉じて。
8F。顔を僅かに傾ける。
9F。触れるだけのキス。
RF。寝癖?を直し合う。
「その可愛い顔…まだ、見慣れねぇな。」
「それは本当に…お互い様、ですよね。」
*****
オトナ♡プラネタリウム・ポスター (クリックで拡大)
オトナ♡プラネタリウムは、文字通りにオトナなネタ満載だった。
きっと、性教育を『見て見ぬ振り』していた古代人…ホモ・サピエンスの時代だったら、
『R18』と年齢制限を設け、高校生の俺達は入場不可だっただろう。
ホモ・サピエンス時代のオトナ♡プラネタリウム入口
(クリックで拡大)
ザックリとだけ言うと、満天の星空は全知全能の神ゼウスの…浮気の履歴簿だという話。
いつの時代も人間の本質は変わらない。人間よりも人間らしい神様も、変わらない。
そんな古代ギリシャの崇高な哲学みたいなまとめ(オチ)をつけつつ、腹の底から大笑いした。
「プラネタリウムって、暗闇の中で静かにイチャつく場所だと、想像してましたが…」
「イチャつく間もなく、笑い続けた…予想外にロマンチックのカケラもなかったな〜」
「あとは、ロクでもないギリシャ語をひとつ…覚えてしまいましたね。」
「『ディアメリゼイン』…響きだけは、カッコイイ魔法っぽいけどな。」
興奮?冷めやらぬ中、すぐお隣の水族館へ。
こちらは閉館時間近くだったこともあり、人影もまばら…のんびりじっくり鑑賞できた。
もっと♡性いっぱい展・ポスター (クリックで拡大)
『性いっぱい♡』と銘打ち、海のなかまたちの交尾に注目!がコンセプトの特別展だが、
どんなに注目していようとも、注目している最中に『最中』を見れるというわけではない。
見られると燃えるの♪的な特殊性癖を持っているのは、おそらく人間だけ…
桃色光に照らされても、(やや条件反射で)ムラムラすることもなく、穏やかに浮かんでいた。
水族館・大水槽 (クリックで拡大)
水族館・クラゲ水槽 (クリックで拡大)
「イメージしていたのとは違って、実に真面目な…オトナ向けでしたね。」
「オトナ向けってのが、実はそもそも真面目なもの…かもしれねぇよな。」
青?黒?紫?ピンク?それらが混じり合ったような…どう表現していいかわからないが、
何だかアレな雰囲気を醸す館内を一通り見て回り、同じ色調で浮かび上がる屋外へ出た。
いつの間にか雨が降っていたらしく、濡れた跡が余計にイヤン♪な湿り気を帯び、
建物内とは打って変わった冷ややかな風も相まって、曇天の下には誰も居なかった。
水族館・屋外 (クリックで拡大)
「ペンギンもコツメカワウソも…みんなオネンネしちまってるな。」
「ペリカンは業務外、海獣類も…今日も一日、お疲れ様でしたね。」
カフェもとっくに閉店。仕方なく自販機で緑茶を買い、奥のベンチの雨露を拭いて座る。
本来なら、綺麗な夜景とムーディなライトアップを楽しみ、肩を寄せ合うシチュだろうが、
二人は寒~~っ!と背を震わせ、ズズズ…と茶ぁをシバきつつ、灰色の空に白い息を吐いた。
「おでん、食いてぇ季節だな~」
「おこた、入りたいですよね~」
…いやいや、まてまて。
いくら本心から出た呟きとは言え、おデート中かつ『おピンク』な場所で吐く台詞じゃない。
とことんモテ要素皆無な自分達のジジ臭さに、慌ててネタを『それっぽい方面』に戻した。
「そう言えば、『ピンク』がエッチな色ってのは、日本特有…国によって違うらしいな。」
「確か、中国では桃色ではなく黄色…アダルトビデオを『黄色電影』というそうですね。」
中国語で黄色は、『堕落する』『猥褻』という意味があるそうだが、
その一方で、『皇帝』を表す色でもある…このあたりが、中国史の奥深さを表している。
「ほほう。どこぞの態度が皇帝級…『僕ですけど何か?』な黄色頭君は、相当エッチだな。」
「ついついエロいことを考えてしまう黄色頭です(中も外も)…略して『ツッキー』ですね。」
スペイン語の『Verde』は、緑色と『卑猥』…エロ本は『緑の本(Liblo Verde)』だとか。
『Film
Rosso』…赤い光の映画は、イタリアでのアダルト映画。赤は18禁マークを示す。
緑と赤に挟まれた、愛の国フランス…まさかの白が、セクシーさの象徴らしい。
「フランスの場合、セクシーなのは白だが、アダルトとかポルノは、日本と同じピンクだ。」
「とは言え、白を純粋とか清純の象徴にしている日本とは、真逆なカンジが漂ってますね。」
そして、『猥褻』な出版物を青色で検閲&チェックしていたのが、アメリカだ。
アダルト映画は勿論『Blue Film』…下ネタはブラックではなく『Blue
joke』と言う。
「今日はブルーな気分…これ、アメリカで言うと、とんでもなくアレな台詞になるんだな~」
「夏っぽい色だからと、夏企画で『青』を二年連続考察した同人作家は…猥褻の極致です。」
これらは、その国独自のものだが、世界共通でエッチなイメージをもつ色がある。
それが、中国では最も尊い色…『紫』だ。
「紫は、青と赤が交じった色。青と赤は、男女の違いを表す…トイレの標識もそうだよな。」
「つまり、男女の交わりを表す色…『色』という漢字が、そもそもソレな象形文字ですが。」
なっ…何故、なんだ。
青とピンクが交ざり合い、紫の光に包まれている中で、お色気ムンムンな話をしているのに、
色っぽい名を冠する俺達の間には、ムーディな雰囲気が全く漂わないのは…何故なんだろう?
「なぁ、どこで話のネタを…間違えたんだ?」
「さぁ…『寝た』がカタカナになった辺り?」
「青と赤、男と女の交わり…これ、『今』の俺達の感覚とは、ちょっと違うよな。」
「『今』…ホモ・オメガバースにとっては、世界基準の『別色』がありますから。」
Ωに安定をもたらすα…アルファミンは、黒。その対となるΩ…オメガミンは、赤い薬。
男女の交わりだけが人類を繋いでいた、ホモ・サピエンスの時代とは違い、
ホモ・オメガバース存続の鍵を握り、世界の基盤となるのが、αΩ…黒赤の『つがい』だ。
「多分俺のつがいになる相手は『赤葦京治』…親にそう言った時、どんな顔したと思う?」
「『多分じゃなくて、絶対でしょ。』って…大爆笑されたんですよね?ウチも同じです。」
「その親なんだが、そろそろウチのお嫁さんに会いたいんだけど…って、言ってたんだ。」
「きちんと二人が確定したら、また一緒に買い物行こうね~お婿さん♪…だそうですよ。」
あぁ、やっと…
オトナでピンクなシチュエーションに相応しい、黒と赤のネタになってきた。
黒尾は赤葦の手をそっと握ると、頬を赤々と染めながら、視線を黒々とした上空へ飛ばした。
「『ネタ』を、漢字に…してしまわねぇか?」
赤葦は黒尾の視線を追いかける…より早く、黒々とした髪の中に、赤々と艶めく唇を埋めた。
そして、その言葉を、今や遅しと待ち構えていました…と、吐息交じりに囁いた。
「二人で精一杯…寝ないように寝ましょう。」
*******************
エレベーターの扉が閉まった瞬間から、互いの背に腕を回し、唇を重ね合う。
昇ってきた時は結構長いと思ったのに、降りるのは息継ぎも必要ないぐらい、ほんの一瞬。
キスの終わりをお知らせするかのように、申し訳程度に『寝癖』をそっと直すと、
黒尾は再び赤葦の手をぎゅっと握って、1Fでエレベーターから出た。
「黒尾さん。『蜃気楼』は、地階ですよ…?」
「いや、今夜は…下じゃなくて、上なんだ。」
真昼のような光に照らされていても、商業ビル内のテナントは全てシャッターが閉まり、
ホールの噴水も音楽も止まり、エスカレーターのモーター音が聞こえる程の静寂だった。
自分達以外が消えてしまった白い通路を、黒尾はぐんぐん進み…出口ではない方へ曲がった。
「え?こっちは…まさか、黒尾さんっ!?」
「下着の替え…コンビニに、寄ってくか?」
「必要そうなものは、持って来てます。」
「さすがは助平参謀。ヤる気満々だな?」
「チェックイン済の貴方には、敵いません。」
「王子様のエスコートとしては、完璧だろ。」
多くの人が訪れる、この大規模商業施設にも、当然ながらシェルターが設置されている。
最深部にあるその場所で、二人で夜を過ごせれば万々歳♪だと思っていた赤葦は、
まさか隣のビル…王子様の名を戴くホテルに宿泊するなど、全く想定していなかった。
そのため、フロントも通らずに客室直通エレベーターに乗り込むと、途端に動揺…
「残念ながらイチゴ階は、ツインしかなくて…って、何で隅っこでちっさくなってんだよ?」
「ソツなく器用なモテ系王子様だとか…知ってるけど知らない黒尾さんで、大混乱中ですっ」
「っ!?お、お前っ、ここでド緊張モード突入とか、ホントに勘弁してくれ!こっちまで…」
「仕方ないでしょっ!こういう、お、おデートのお見本みたいな…誰の入れ知恵ですか!?」
「『俺が憧れるおデート設定集』…合宿の帰り際、『お見本』の片割れが押し付けたんだ!」
「やっ、山口君…っ。俺達で遊ぶヒマがあったら、それを冬コミ新刊で書いて下さいよっ!」
「えーっと、もし我に帰ったり、沈黙が耐えられなくなった時は…チュウしちゃえ♪!!?」
「万事了解です、恋愛お師匠様方!!さぁ俺の王子様、気合入れて…バッチコイですっ!!」
「そんな色気もムードもねぇ部活仕様で、できるわけねぇだろ!カメラに…映っちまうし。」
「確かに。この狭さと位置では、死角はできない…さすがは腹黒主将、冷静な御判断です。」
『よく知った』黒尾との、いつも通りのやりとりで、赤葦もようやく落ち着きを取り戻した。
ムーディさも大事だけど、自分達らしさはもっと大切。それに気付いた頃、イチゴ階に到着。
憧れやお見本のイメージ通りには、なかなかいかない…それが、恋愛なのかもしれない。
「月山組みたいな、自然なキスは…」
「俺達にはまだ…難易度高すぎだ。」
*****
シェルターではない『寝る』ための場所で、二人っきり…
その慣れないシチュエーションと、これから二人で『寝る』ことへの期待と不安から、
15階よりもずっと高いところに、視線も足も心拍も、ふわふわ浮き立ってしまう。
「とりあえず、熱を上げ過ぎねぇように…」
「順番に、お湯を頂いて…お先にどうぞ。」
「眠たくなって、ねぇよな?」
「今のところ、大丈夫です。」
本当は、部屋に入った瞬間から…とか、一緒にお風呂に入って…の方が、スムースだろう。
余計な緊張や思考を巡らせる余裕を与えず、勢いに任せて寝られるならば、どんなに楽か。
(イメージとは、違い過ぎて…)
(世の中そんなに、甘くねぇ…)
互いが滝行をしている間、ベッドから離れた窓辺に佇み暗い夜空を見上げながら、
プラネタリウムで購入した紫色本を、読むとはなしにぺらぺら捲り、準備が整うのを待った。
「お待たせ…致しました。」
「おう…月、見に来いよ。」
見に来いと言ったくせに、黒尾は窓辺に近づいてきた赤葦を抱き寄せ、カーテンを閉めた。
何か、お月さんに見られてるみてぇで、落ちつかねぇ…と頬を掻き、赤葦の髪に手を添えた。
「寝癖は、まだ…付いてないはずですが?」
「今夜は、つかない…その予定なんだろ?」
穏やかに微笑み合いながら、手櫛を互いの髪に差し込み、同じシャンプーの香りを…ふわり。
温もりを分け合うように。だが、熱を高めない程度に。掠め擽るだけの触れ合いを続ける。
「正直…じれったいな。」
「でも…心地良いです。」
「そりゃあ、マズいな。」
「加減、難しいですね。」
それなら、もう少しだけ…
『心地良い』と、『気持ちイイ』の中間を目指して、胸から下を密着させて抱き合う。
互いの肩に顎を載せ、労るというよりは励ますような、やや強めの力で背中をトントン。
とはいえ、少しずつ色気も出していかないと、後々困るから…オトナな話を、してみようか。
「今日二人で見た中で、一番『オトナ向け』だったポイント…赤葦は、どこだった?」
「おそらく、黒尾さんも同じだと思いますが…『恋愛対象』について、でしょうか。」
「合宿の時、古代ギリシャやローマは、俺達に近いって感想を持ったが…」
「それは表面上のイメージ…ホモ・オメガバースとは程遠かったですね。」
美女どころか美少年まで、夜空に浮気相手を輝かせた古代ギリシャのゼウスや、
魅力的な人には惹かれて当然!と、同性愛も自然な性行為だと浴場で欲情したローマ人は、
見た目のボディタイプが同じ相手とも恋愛・結婚が自然な、ホモ・オメガバースに近いかも?
…と、バスで滝行しながら夏合宿で辿り着いた答えは、『大間違い』だったと学んだのだ。
「同性愛が赦されている、自由な世界…?」
「それはただのイメージ…現実は、真逆。」
なぜ同性愛が『普通』とされていたのか?
その当時の『普通の恋愛』のカタチとは?
どういう相手なら『恋愛』の対象となる?
「古代ギリシャ等では、『普通の恋愛対象』となりうるのが…男性同士しかなかった。」
「女性は、『恋愛』の対象外…男女間恋愛の方が、イレギュラーだと考えられていた。」
「恋愛は『対等な相手』と育むもの…つまり、女性は対等な人間とみなされていなかった。」
「だからゼウスは、牡牛や白鳥に変身し、女性を攫いに行った…動物的交尾をするために。」
夜空を彩るロマンチックな神話…それも、ただの『都合の良いイメージ』だった。
本当の姿は、お隣の『性いっぱい』な方…子孫繁栄のために、交わっていただけの話だ。
本当の『恋愛』とは何か?
オトナのお付き合いとは、どういうことか?
「プラネタと水族館。両方を見て、考える…」
「それが、オトナの恋愛…教育的施設です。」
バスローブの帯を解き、足元に落とす。
肌けた前合わせの隙間から、何も身に付けていない素肌を摩り、再び背中に手を回す。
今度は、背骨を辿るように、指先だけを滑らせて…その擽ったさに、互いにしがみつく。
「この世界、この時代に生まれて…」
「本当に、物凄ぇ幸運だったよな…」
大多数のβとは遺伝的に大きな差があり、特に繁殖に関してはイレギュラー扱いの…αとΩ。
もしホモ・サピエンス時代の失敗に学ばず、多様な違いを差別の対象とする世界だったら、
きっとαもΩも、『対等な相手』とはみなされず、『恋愛』はできなかっただろう。
中でもαΩの『つがい』は、完全に『人外』のものとして、タブー視された可能性が高い。
「好きな人やことを、好きだと言っていい…」
「それが本当の意味で…『自由』だろうな。」
「黒尾さん。貴方が…大好きです。」
「赤葦と恋愛できて…俺は幸せだ。」
*****
穏やかに、緩やかに。
笑顔を形作るかのように、唇を押し上げるキスを続ける。
黒尾は赤葦の背から中指を静かに下ろし、繋がる部分にそっと当てると、そのまま停止。
キスが深くなるにつれて、触れ合う腰が自然と跳ね…
その動きに連動して赤葦の奥が小さく収縮し、黒尾の中指をキュ、キュ…と、包み込む。
「ん…っ。」
「あ…っ。」
愛撫にも前戯にも至らない、ごくごく細やかな変化を感じ合うだけの、優しい仕種。
傍目には、ただ立ったままじっと抱き合っているだけにしか見えない、静かな時間。
キスから伝わる熱と、触れた指先からの温もりだけで、そこが解れてくるのを…待ち続ける。
「痛かったり、キツかったりしねぇか?」
「全く。暖かくて、気持ちイイですよ。」
「だろうな。前の方が…そう絶叫してるぜ。」
「黒尾さんこそ、快感の声が…漏れてます。」
熱には直接手指で触れず、抱き合うカラダとカラダの間に挟むだけ。
ただ腰が動く度に、蜜で濡れそぼった敏感な部分が滑り合う、その僅かな刺激だけで…充分。
俺の指…濡らして下さい。
赤葦は視線だけで黒尾に伝えると、キスの間に中指を割り込ませ、二人で一緒に舌を絡めた。
二人分の露で滴る程に濡れた中指を、赤葦は自らの後孔に沿わせると、
先攻してその場を温めていた黒尾の中指を連れて、ナカに沈んで行った。
「あったけぇ…気持ち、イイ、な。」
「俺も、自分で…そう、思いますっ」
ナカには入ったものの、止まったまま動かない赤葦の指。
黒尾はナカでその指を揉み、つやつや滑る爪を撫でながら、ナカをゆるゆると広げていく。
「ここで、これから、二人が繋がり合って…」
「一生の『つがい』として、確定するんだ…」
その喜びを噛み締めるように、ナカでじっくり指を絡め合い、キスでゆっくり舌を求め合う。
凪いだ水面で揺蕩うような気持ちヨさに、キスの途中で…二人揃って大あくび。
「これが、つがいの『本当の姿』だなんて…」
「イメージとは、真逆…信じられねぇよな。」
Ωは発情期に入ると、つがいのいないαを誘引するフェロモンを周囲に振り撒き、
それに曝されたαは抗うことができず、強制的に発情してしまう…ホモ・オメガバース。
この特性だけを見ると、発情したαΩの交わりは、さぞ激しく燃え上がるように思われる。
それは勿論、間違いではない。
発情期のαΩは、可愛い顔してガンガン高速ピストン…コツメカワウソタイプのプレイ。
だが、この『発情期の特性』だけが、αΩの性生活の全てというわけではないのだ。
「つがいのいる、αΩは…」
「発情期以外の、αΩは…」
つがいのいるΩは、発情期になっても、数多のαを誘引しまくるフェロモンを発さなくなる。
これは、つがい…相性の良いαΩの抗体が結合し、やたらめったらな発生を抑制するためで、
その仕組みをを利用して作られたのが、黒赤薬こと抗α(Ω)剤…
擬似的に『つがいがいる』と体に誤認させることで、発情衝動をソフトに抑えるものだ。
「つまりαとΩが結合すると…鎮静化する。」
「αΩのつがいは…『賢者』が通常モード。」
おかしいとは、ずっと思っていたのだ。
自他共に認める石橋クラッシャーズこと、警戒心が強くガードがガチガチに硬い慎重派が、
二人きりで過ごす残業の度に、無防備にうつらうつら…いつの間にか寝てしまうなんて。
「傍に居る機会が増える中…相性が良過ぎた俺達の抗体は、少しずつ結合していたんだな。」
「一緒に居ると、究極に落ち着く。だから夏合宿の晩も、キスで結合しまくって…寝落ち。」
「夏のアバンチュ〜ル☆に相応しいシチュエーションで、情熱的なプロポーズをしといて…」
「幸せの極地で、まさかの大爆睡…月山三人衆の方々は、それを察して下さったんですね。」
おそらくこれが、『発情期』の存在理由。
通常モードのαΩは、静かに寄り添い延々カラダを絡め合う、ウツボやヘビのようなプレイ。
発情期でも作っておかなければ、幸せな安眠快眠惰眠…これでは、子孫繁栄するわけがない。
安寧をもたらすαΩのつがいが、唯一『賢者の眠り』に落ちない期間、それが発情期だ。
「αとΩの人口が少ない一因も…これです。」
「αΩのつがいは出生率が低い…納得だな。」
人生の4分の1にあたる、貴重な休息時間である睡眠が、最高級の癒しタイムになる、αΩ。
生物として、快眠ほど幸せな『体質』は存在しえない。贅沢な健康が確約されるのは僥倖だ。
充分な睡眠のおかげで、精神状態もド安定。地味で波風立たない穏やかな日々…だがしかし!
「たまには、ハメを外してハメまくりたい!」
「人類滅亡回避のため、性いっぱい頑張る!」
繋がる部分を一緒に解しながらも、気持ちヨさに蕩けつつあった自分達に今一度カツを入れ、
上では結合し過ぎない程度のキスに止め、赤葦は下での結合をナカから黒尾に促した。
「そろそろ…『つがい確定』させませんか?」
「これが最後かつ最大の、結合ピース…だ。」
ナカで繋いでいた指を、絡め合ったままゆっくり引き抜くと、
赤葦はくるりと身を反転させ、壁に手をついて脚を広げ、腰をやや上向きに反らせた。
黒尾は背後から赤葦に覆い被さり、うなじにキス…そして、自身の熱をそっとあてがった。
「立ったままで…寝なくて、ツラくねぇか?」
「立ったままじゃないと…寝ちゃいますよ?」
水着のデザインや、風呂のスタイル。
世界が変われば、『常識』も変わる。
繋がるカタチ…『正常位』も、然り。
古代ギリシャやローマと、αΩ。
この『普通』も、遠いけれど…近い。
まずは通常モード…立ちバックから。
「これから死ぬまでずっと、二人で一緒に…」
「色んなカタチで…楽しくつがい合おうな。」
- クロ赤編蛇足・完 -
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※中国では黄色 →『黄色反則』
※夏企画で『青』 →『夜想愛夢』『帰省緩和』
※『色』という漢字について →『福利厚生⑤』
※ディアメリゼイン →素股。
男性同士の恋愛が『普通』ではあったものの、
ナカにイれるのは不道徳…素股が性交の基本形。
テメェにディアメリゼインしてやろうか!的な、
人間味あふれる落書きが、多数発見されています。
※古代ギリシャ・ローマの正常位 →立ちバック。
これを描いた絵画や彫刻、落書きが…(以下略)
赤:ちなみに、ライカゼイン(フェ○)、
デプゼイン(オ○ニー)だそうですよ。
黒:ロクでもない言葉だけは、ソッコー記憶…
海馬を贅沢に使っちまったな~♪
2020/10/31