ご注意下さい!

この話は、『R-18』すなわち、BLかつ性的な表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)

また、当シリーズは前話『全員留守』で完結しております。
こちらはただの『蛇足』…ちょっとしたオマケ(シリーズのネタ回収)です。

    それでもOK!な方  →
コチラをどうぞ。






















































※『全員留守』の直後。




    夢見心地







「ちょっと…タイム!」


俺から初めて、ツッキーにキスをした。

今まで何度か、チャレンジしてはいたけれど、
不測の事態(乱入)に見舞われたり、タイミングが合わなかったり。
『いってらっしゃい』『おかえりなさい』のキスをする機会も、
二人で『家族会議』以来…実は一度もなかったのだ。
学校と仕事で、意外と多忙なんだなぁ~と、今更気付いた。


そんな中、皆で旅行。
滅多にない『非日常』に、ようやく『俺からツッキーにキス』…達成だ。
出逢ってから10年余り、こういうカンケーになってから5年程、
同棲(お付き合い又は婚約)してから…実に2ヶ月以上かかった。

あんなに恥ずかしかったのに…実際してみれば、何ということもない。
むしろ新鮮な気持ちに包まれ、俺はもう一度唇を寄せようとした…のだが。

突然ツッキーから、タイムを要求された。


「何…?って、ツッキーどうしたのっ!?」

バッと身を離し、口元を手で覆いながら、顔を背けるツッキー。
居酒屋で結構飲んだし、屋台で食べまくったし…気分でも悪くなった?

心配になり、傾ぐツッキーの肩に手を添えると、ビクリとその背が跳ねた。
その拍子に見えた顔は…夜目にもはっきり『真っ赤』だと判った。

「え…?」
予想外の様子に一瞬驚くものの、その理由に思い当たり…
俺は頬の弛みを止められなかった。

「まさかツッキー…恥ずかしさに悶絶中?」

これは間違いなく、図星というやつだ。
ツッキーの表情を読むことに関しては、俺はかなり自信がある。
誤魔化すことは不可能…長年の付き合いでそれを熟知しているツッキーは、
俺の肩口に顔を埋め、ぼそぼそと『言い訳』した。

「キス『する』のと『される』のが、こんなに違うなんて…」
全く予想してなかったどころか、僕にはまだ早いかもしれない…
「こっ、こないだの『議決』も、しばらく保留で…」

『もじもじ』『わたわた』という音が聞こえる程、しどろもどろな姿。

    (なっ…何、この…可愛い生き物!)

初めて見るツッキーの可愛い姿に、今度は俺の方が悶絶してしまった。

先日、俺よりも『ちょっとだけ背が低い』ツッキーを体感した時、
生まれて初めてツッキーを「可愛い!」と思った…と同時に、
きっとこんなことは二度とないだろうなぁ~と、思い込んでいた。

それが今、また新たな『可愛いツッキー』を発見するとは。
今日お参りした全ての神様から、ご褒美を頂いたような気分だ。

堪らなくなり、身を捩って逃れようとするツッキーを抑え、キスをする。
触れる度に大きく背を震わせる…その姿が、俺の心を強く揺さぶる。

「山口…もう、いいでしょ…
   キスならいくらでも、僕から山口にしてあげるから…」
「俺がツッキーにキスしたい時は?」
もうツッキーに…遠慮しなくてもいいんだよね?

耳朶を甘噛みしながら囁くと、またピクリと肩が動く。
その初々しい反応に、俺の方も『反応』し始める。

「山口がしたいときは…そういう空気を、『むわっ』と醸してくれれば…」
「無茶言わないでよ。赤葦さんじゃあるまいに…」
あんな『薫り立つ色気』なんて…常人が出せるわけない。

ここ最近、一段と『綺麗』になったのは…やはり恋をしているからか。
自分達でさえ、時折『妖気』にも似た艶っぽさに、ゾクッとしてしまう。

「アレに四六時中曝されてる黒尾さん…ちょっと気の毒だね。」
「もしかすると、あの色気こそ…黒尾さんが鈍感になった原因かもね。」

なかなか酷い『猥褻物扱い』に、顔を見合わせて吹き出してしまった。

その一瞬の隙に、ツッキーは体勢を取り直し…
おもむろに俺の『反応』しはじめていた部分を掴み、上下に扱き出した。



「っ!?ち、ちょっとタイム…っ!」
「今日は『タイム』…認められないみたいだよ。」
さっき僕の申請も却下されたしね。

瞬く間に形勢逆転。
遠慮なく山口のズボンに手を突っ込み、直に包み込む。
さっきまでの威勢はどこへやら…
動かす度に、山口の体から力が抜け、その抜けた力が一点に集まってくる。


「さっきも言ったけど…こんな、トコで…」
「こんなトコ、だからこそ…でしょ?」
後ろから抱え込み、山口の手を道祖神の目の前…土台につかせる。
天を突く陽茎を直視させながら、山口のソレを煽り立てる。

道祖神は、和合の神。
さっき山口自身も、「見守ってて下さい。」と…願っていたはずだ。

それだけではない。
「『祭り』と『和合』は深いカンケー…どころか、
   祭りこそ和合に相応しい場かもしれないよ?」

川崎の『かなまら祭』や、愛知・田縣(たがた)神社の『豊年祭』、
静岡の『どんつく祭』、そして新潟の『ほだれ祭』…
巨大な男根のカタチしたお神輿が練り歩く、豊作祈願のお祭りだ。

それと同時に、この神輿に跨った女性は、子宝に恵まれる…等、
子孫繁栄と和合を象徴する、非常に大切なお祭りである。

「『どんつく』なんて、音として『モロ』だと思わない?」
「『ほだれ』も…、『穂垂れ』でっ、豊作の意味…だよ、ね。」
ネーミングからして、『豊作』の祭と『和合』は、セットである。

息を詰めながらも、しっかりと『考察』する山口…さすがだ。
ジャージと下着を少しずり下ろすと、ひんやりした外気で身を震わせる。
山口が冷えてしまわないように、できるだけ後ろから密着し、
温度を更に上げるよう…後孔の熱も高めていく。


「昔から、『祭り』は『実り』のための、貴重な機会だった。
   せまいムラの中に、ソトの血を入れるためにも…必要だった。」
非日常の祭りには、その地域以外からも多くの人が訪れる。
閉鎖社会の共同体の中に、来訪者の血を混ぜることで、
新たな『実り』を期待するという、重要な機能があるのだ。

「この日だけは、大々的に『和合』が許される…
   それこそが、祭りの大きな役割の一つだったんだね。」
「そう、いえば…祭りの、『巫女』だって…
   神様に、捧げられる…『一夜妻』、だったよね。」

玉依姫等の巫女は、神と結ばれて、子孫繁栄をもたらした。
祭りの頃にできた子どもは、『神から授かった子』として、
ムラ全体で大切に育てられたのだ。

「『お祭りデート』の後、恋人達がこういうコトしちゃうの…
   今なら僕も、『大正解!』だって、声を大にして言えるよ。」
ちょっと前は、罰当たりな…って思ってたけど、
『祭り』の持つ意味を知ると、むしろ推奨すべきかもしれないね。
コレも含めて、山口は僕と『お祭りデート』したかった…
そう受け取っても、問題ないよね?

僕の質問の返答は、必死に飲み込んだ嬌声。
声と共に、僕の指も、その中に飲み込んでいく。
目の前の道祖神が、『和合』を誘い掛けてくる…


「『お祭りデートには浴衣!』って、方々で指南されてる理由…
   それも今、ようやく納得したよ。」
こうやって祭りの後で和合するには…浴衣が最適だろうね。
芋掘り用に着て来たジャージも、動きやすくはあるけどね。

「お祭り、デートは…譲って、もらったんだから…
   浴衣の方は、黒尾さん達に…お裾分け、かな。」
僕の『道祖神』に手を添え、ゆっくりと『道案内』しながら、
山口はトロンとした表情でこちらを振り返り、そう微笑んだ。


僕と山口の『和合』が完成してから、
目の前の道祖神に、静かに頭を垂れた。
「ココに…この場所に導いて下さり、ありがとうございます。」

道祖神への『お礼』…その続きを言うように、
遠くから聞こえる祭囃子に合わせ、後ろからどんつく…と山口を促す。

「あっ…ん…
   ツッキーと、ずっと『仲良く』いられるよう…頑張り…ます…っ」
その『誓い』通り、山口は全身全霊で僕を受け止める。
僕も、精一杯頑張らせて頂きます…と、心の中で誓った。


山口は体を捻りながら僕の手を取ると、一緒に道祖神に触れた。
そして、改めて上体を起こし…再び深く頭を下げた。

「こんな俺達を…俺とツッキーの『和合』を、
   これからもっ、温かく見守ってて…下さい…っ」


きっちりと神様に『お願い』を終えた山口。
それから僕にも遠慮なく『オネガイ』をし…僕はそれを叶えた。



- 月山編・完 -




***************






「俺達も、お祭りに行けばよかったですね。」
「それなら、雰囲気だけでも味わっとくか。」

部屋の灯りを消し、窓際に赤葦を手招きする。
少しだけカーテンを開けると、遥か眼下の杜に連なる提灯が見えた。

「仄かな灯りが…すごく綺麗ですね。」
「浴衣だし…祭りに行った気分だろ?」

窓に両手を着き、静かに灯りを見下ろす赤葦。
真後ろから抱き込むように腕を回し、しばらく一緒に眺めた。


「旅先のお祭り…その喧騒を離れると、
   一層『浮世離れ』した感じがしますね。」
何だか現実感がないというか…
ふわふわしたような、まさに『夢見心地』といった気分ですね。

赤葦はそう言うと、全身の力を抜き、体を預けてきた。

そのまま数歩下がり、ベッドの縁に腰掛け、
両脚の間で挟むように、全身で赤葦を包み込んだ。
そしてまた、不思議な浮遊感の中、二人で祭りの灯りを望む。

右手は赤葦の肩を抱き込んだまま、左手を前に伸ばす。
全身を柔らかくほぐすかのように、
肩から腕、手の甲から指先へ…丁寧に撫でていく。

肩を抱く俺の右腕に、しがみつくように右手を添えながら、
赤葦も左手で、浴衣の裾から出た俺の膝から腿に、
ゆるゆると…手を這わせてきた。
その手が少しずつ温かくなってくるのに合わせ、
赤葦の浴衣の胸元に手を差し込み、滑らかな素肌の感触を愉しむ。

    足下にチラチラと瞬く、提灯の灯り。
    お互いの肌を撫で合う、衣擦れの音。

ぼんやりした窓の光に、意識も惚け、微睡んでくる。
ただただ、微温湯に浸かったような心地よさに、酔いしれる。
互いを労わるような、優しい触れ合いに、
じわじわと満たされ…張り詰めたものが、解けてくる。

「きっと今…オキシトシンが分泌されてますね。」
「ホッとリラックス…恋愛ホルモンだったよな。」
スキンシップやキスで分泌されるオキシトシンは、
相手との信頼関係を深める…『ホッとする』効果があった。
これが、『一緒にお風呂』の心理的効果とされているのだ。

「オキシトシンの効果…『リラックス』だけだったか?」
「性的興奮を高める…『愛情』ホルモン、でしたよね。」

うなじから首筋を、マッサージするように、
上下の唇で優しく食み、キスを落とす。
唇が肌に触れるタイミングに合わせ、胸を撫でる指先で、
わずかに突起を掠めると…その刺激に応えるかのように、
肩を掴む俺の右手を、赤葦は柔らかい唇で食んできた。
リラックスから、愛情へ…互いを徐々に、高めていく。

肩から右手を離し、唇へそっと触れると、
赤葦はまるでキスしているように…指に吸い付き舌を絡めてきた。
俺もいつも唇でしているように、指で唇を挟み、舌と指を絡ませた。


「ホントにお前と…キスしてるみてぇだ。」

指と同じ動きで、赤葦の耳朶に舌を這わせ、音を立てて吸い上げる。
赤葦も同じように、俺の指を吸い、湿った音を響かせた。

「普通にキスするより…ゾクゾクします。」

舌よりも敏感な指先が、赤葦の口内と舌の感触を、如実に伝える。
唇よりも繊細な動きをする指先が、奥から熱を、引き上げてくる。


気崩れた胸元から左手をそっと抜き、
今度は帯の下の隙間に、その手を滑らせる。
俺の腿を撫でていた赤葦の左手と同じペースで、
赤葦の腿の内側を、行ったり来たり…指先だけでなぞっていく。

しばらくそれを繰り返していると、焦れたように赤葦は身を捩った。
こうして下さい…と伝えるように、口内を弄る俺の人差し指を、
下から上へと舐め上げ、爪を舌先でつついてきた。

下着の裾を軽く引くと、すぐに腰を上げ、自分で下ろした。
俺も早々に脱ぎ捨てると、浮いた赤葦の腰を引き寄せ、
浴衣を捲り上げながら、今度は俺の腿上に座らせた。

上から見ると、普通に浴衣を着ているように見えるが、
互いに密着する部分は、素肌と素肌…
ようやく直接触れ合った温もりに、どちらからともなく吐息が漏れる。


さっきまでと同じように、左手を合わせ目から滑り込ませる。
腿に跨る赤葦…その腿を外側に少しずつ向け、両脚を開かせる。
浴衣の隙間から、チラチラと見え始める、白い内腿…
隙間をさらに広げようと、浴衣を押し上げる中心には触れず、
そのギリギリのところを、さらにゆっくりと指先を這わせ続ける。
全く同じ動きで、右指を赤葦の唇の端に沿わせる。

そのじわじわとした動きに耐えかね、赤葦は俺の左手を捕まえた。
捕まえる振りをしながら、ほんの少し、その手を体の中央に近づける。
右手では俺の右指を口内に入れ直し、根元から咥え込み…
線を撚るように、指にしっかりと舌を絡ませ、頭ごと上下させる。
これはキスではなく…口で愛撫する、そのままの仕種だ。

ここまで必死の懇願…これ以上焦らすわけにもいかない。
俺自身も、ここまでされて…じっとしてはいられない。


「まだ触ってねぇのに…」
すげぇコトになってんな?と、左の爪先でつんっ…と弾く。
たったそれだけで、赤葦は大きく全身を震わせた。

「ずっと…触ってます。」
下から、黒尾さんのが…ドクドク脈打って、俺を煽ってるから…
こんな『すげぇコト』に、ならざるをえないでしょう?

「むしろ、ほとんど触れてないのに、黒尾さんの方が…」
俺はただ、黒尾さんの指を、控えめに食んでただけです。
それなのに、こんな…随分とヤらしいんですねぇ?


勝ち誇ったように、艶っぽく笑みを溢す赤葦。
俺も同じように喉の奥で笑い、耳元にそっと囁いた。

「本当に、お前が俺を煽ってないと…思うか?」
ほら…窓、見てみろよ。

「え…?あ…っ!!?」

祭りの灯りを反射し、仄かに光る窓ガラス。
鏡ほどではないものの、十分表情が読み取れるぐらいには、
二人の姿がしっかりと…そこに映り込んでいた。

突如目の前に現れた、あられもない自分達の姿態。
直接見えなかった『浴衣の下』が、まざまざと曝されている。
朧げに映っている分、余計に淫猥さを増し…艶さえ感じてしまう。
とてつもない羞恥に、赤葦は浴衣の裾を引き、膝を閉じようとする。

「これをずっと見てたら…『すげぇコト』になって然り、だろ?」
そのセリフにすら身を震わせてしまう赤葦。
その『反応』さえ、目の前に映り…更にビクリと体を攣らせる。

「自分がどれだけヤらしいか…わかっただろ?」
再び裾を開き、脚を開かせ…結合部を指で優しく撫でる。
これから、ココと繋がるんだ…と、見せ付けるように、ゆっくりと。

煽られ続け、焦らされ続け。自分の痴態を見せ付けられ。
限界まで高められた赤葦の体は熱く、汗でしっとり潤んでいた。
体と同じくらい潤んだ瞳で俺を見上げ、甘く掠れた声で囁いた。

「わかりました、からっ…もう…っ」

赤葦は俺の拘束から逃れると、急いでカーテンを閉め、
顔を隠すように、ベッドへ飛び込んだ。



**********



少しの間、寝ていたようだ。
朝まではまだ時間がありそうだが、すっきりした覚醒だ。

あぁ…これは所謂、『その後』にくる深い睡眠…の後の、
超クリアタイム、という時間帯なんだろう。


睫毛に、温かい呼気がかかった。
それに少し驚いて顔を上げると…すぐ目の前に、黒尾さんの顔。
俺が動いたことで、こちらも目を覚ましたようだった。

    (これは…惜しいことをしました。)

珍しく『うつ伏せ寝』ではなく、俺を抱きかかえての横向き寝…
もう少し早く目覚めていれば、激レアな(天使の)寝顔を、
間近でじっくり、心ゆくまで堪能できたのに…実に勿体無い。

「悪ぃ…起こしちまったか?」
「いえいえ、大丈夫ですよ…」

そうか…ならよかった。
柔らかく微笑み、額にキスをくれる。
そう言えば、黒尾さんの顔を見たのも…久しぶりな気がする。

「何か、久々に赤葦の顔を見た…あぁ、そうか。」
同じことを口にしながら、黒尾さんはニヤリと笑った。
それ以上は、言わなくていいですから…と、俺は胸元に顔を埋めた。

昨夜は、恥ずかしさでどうしても顔を上げられず…
そのまま後ろから、黒尾さんと繋がったのだ。
普段はあまりやらないスタイルだったこともあり、
さらに『いつもと違う』…非日常な『夢見心地』を体感した。
まぁ要するに、『いつも以上』だった…ということだ。


「カラダ…大丈夫か?」
「えぇ…思ったより。」

これは本当だ。
四つん這いになり、腰を反り、高く上げる…
いつも以上に負担がかかる体位には違いない。
だが、意外と平気…体重を受け止め続けた膝も、痛くない。

「黒尾さんの方が、中腰キープで堪えたんじゃ…」
「いや、ベッドの外から、ほとんど立った状態…」

成程、そういうことか。
自宅は和室に布団、ここはスプリングのきいたベッド。
床面からの高低差と、ベッド表面の柔らかさのお蔭で、
実にスムースに…『後ろから』という体位を愉しめたのだろう。
日中の芋掘りで、少々腰を痛めていた黒尾さん…
更に傷めなくて、本当に良かったですよね。

…と、こんなコトまで『考察』してしまう自分達に、
お互い顔を見合わせ、微笑み合った。
「相変わらず、俺達…色気がこれっぽっちもないですね。」
「『ある』時と『ない』時の差が、激しいだけかも…な?」
そうですね、という同意をすんでのところで飲み込み、
俺はもう一度、黒尾さんの胸元に額を合わせた。


「赤葦には、いろいろ謝らなきゃいけないことがある…」
俺の髪を撫でながら、黒尾さんは静かに語り始めた。
俺は黙ったまま小さく頷き、先を促した。

「例の指環…最初は『山口に片方やる』って言ってたこと…
   きちんと謝っときたかったんだ。その…悪かった。」

仕事上、『それなりの人生経験』を創出する道具として、
また、余計なトラブル防止のため、結婚指環の装備を検討していた。
その際黒尾は、単品購入不可の指環…余ってしまう『片方』を、
単純に『仕事上必要な備品(経費計上可)』とだけ認識し、
自分の補助者である山口にやろうとした…という珍事だ。

いくら恋愛経験の乏しい赤葦と言えども、
さすがに『結婚指環』が持つ本来の意味を無視することはできず、
あまりに『大ボケ』な黒尾に、呆れるやら絶望するやら…
ごちゃ混ぜの感情を腹に抱え、階下の月島宅へと飛び込んだのだ。

「自分がどれだけ『お馬鹿さん』なことを言ったか…
   いつ自覚なさったんですか?」
わざと恨みがましい声を出し、低く体内に響かせる。
正直に白状しないと許さない…と、言外に匂わせておく。

黒尾さんは、うっ…と息を詰まらせながら、
バツが悪そうに、ぼそぼそと言葉を絞り出した。


「木兎が来て…俺のジャージを着た時、だな。」
「は?そんな些細な…どうでもいいこと、で?」

雨の中、傘もささずにやって来た木兎さん。
そのままだと、事務所のソファーが濡れてしまう…と、
急遽黒尾さんのジャージを借り、着替えさせたのだが。

「あのジャージ、部屋着代わりにお前と色違いで買ったやつ…」
「確か上下セットで3980円…の、3割引のお買い得でしたね。」
フットサルメーカーのものだけあり、値段の割にオシャレだった。
本当は『外着』にしてもいいなと、密かに思っていたものだ。

とは言え、3008円(税込)…木兎さんが着て帰っても惜しくないよう、
黒尾さんの衣装の中では、一番お安いものを選んだつもりだった。
だが、それが黒尾さんには…我慢ならなかったようだ。

「色違いの、揃いのジャージ…俺以外が着るのは、嫌だった。」
お前と俺は、今までずっと『別チーム』のジャージ…
『同じ』のを着たのは、あれが初めてだったんだ。
値段云々じゃなくて、俺にとっては『特別』なジャージだった。

それを、よりによって元チームメイト…木兎が着てるのを見て、
それだけは勘弁してくれっ!…って、絶叫寸前だったんだ。
「そこでようやく、自分が犯したミスに気付いた…ってわけだ。」

ジャージですら、赤葦が俺以外と『お揃い』なのは耐えられないのに、
俺は結婚指環を、そうしようとした…とんでもない大失態だ。
例によってお前が激怒→俺を思いっきり床にドンっ!!
…気付いたら病院の天井(もしくはお花畑)にならなくて、
本当によかったというか…あの時よく我慢してくれたなぁって。

っつーか、結局昨日も、『気付いたら天井』コースだったよな…
運よく下が柔らかいベッドで、命拾いしたぜ。

「俺はお前を、怒らせるようなことばっかりしてるよな…」
ははは…と乾いた笑いを溢しながら、至ってド真面目な顔で、
今後の(俺の後頭部の)安全のためにも、ウチもベッドにするか?
…と、黒尾さんは真剣に対策を考え始めた。

「対策を練るべきなのは、ソコじゃない…そうですよね?」
相変わらずの大ボケに、俺は脇腹を拳でぐりぐり圧した。

怒った振りはしたが、胸につけた俺の顔は、緩んでいた。
自分の失態に気付き、きちんと謝罪してくれたこともそうだが、
何よりも、ほんの些細なことに思いっきり嫉妬し、
俺と一緒が良いと…はっきりそう言ってくれたのだから。


俺は黒尾さんにさらに近づき、頬を擦り寄せた。
一瞬だけビクついたが、黒尾さんも俺の背に腕を回してくれた。

「俺は『和室に布団』…気に入ってるんですよ。」
「現実問題として、ベッド置く場所…ないよな。」

我が家にベッドは置けない。それならば、考えうる方法は…
再度考察を開始する黒尾さんを遮り、俺はすぐに答えを言った。

「『ベッド』のオタノシミは…
   『ウチ』ではなく『ソト』に取っておきましょう。」
出張等で、どこか遠出をするような『非日常』…
その時の『特別なお楽しみ』として、残しておきませんか?
ですから…出張にはできるだけ、俺と一緒に行きましょう。

「それから、また…旅行に連れてって下さいね?」
チラリと顔を窺いながら、小さなワガママを言ってみた。


返ってきたのは、優しい微笑みと…熱いキスだった。



- クロ赤編・完 -



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※夢見心地 →木天蓼(マタタビ)の花言葉
   (音駒OB会・黒尾母からのお祝い)
※玉依姫・一夜妻について →『運命赤糸』『予定調和
※『気付いたら天井』コース →『朔月有無


2016/11/02

 

NOVELS