大失策!研磨先生①







夏休みに、4人でちょっとしたバカンスへ行って来たんですが…
お土産があるんで、お暇な時にでも寄って下さいね~♪

…という、律儀な連絡を山口から貰ったのが、3日前。
学校もまだ始まらないし、たまたま近くに行く用事もあるし、ヒマだし…
バカンスとやらで浮かれまわってるアイツらを、おちょくって遊ぶのも、
『ヒマ潰し』程度にはなるかなと思い、俺は久々に黒尾法務事務所へ向かった。

既に『勝手知ったる』場所だから、手土産も持たず(俺が貰う側だし)、
「今から行く。」と最寄駅から直前に連絡すると、玄関先で月島と山口が歓待。
突然だったのに、妙~に大歓迎!なトコに、ヤな予感がして、
「やっぱ帰る。」と言いかけたが…二人の必死な笑顔に引き摺り込まれた。


「孤爪師匠…いらっしゃいませ。」
「何だ、研磨か…久しぶりだな。」

ヤな予感、的中だ。
バカンスから帰って来たばかりだというのに、クロと赤葦の様子が…オカシイ。
表面上は、落ち着き払った態度と、爽やかな笑顔を振りまいているが、
その目が全然笑ってない…腹に溜まった黒々としたモノが、滲み出ている。

   (俺を…ハメたね。)

クルリと振り返り、月島達に恨みがましい視線を送ったけど、
二人の「研磨先生助けて!」という涙目に、怒る気力が失せた。

あぁ…わかる。
この空気感、二人には荷が重いハズ。俺だってゲンナリだし。
クソ面倒なのは目に見えてるけど、この空気感は…放っとけない。
応接テーブルの上に、仙台で有名だという絶品アップルパイを出され、
俺は渋々、可愛い弟分達を助けてやることにした。


「ねぇ…『スパダリ』って知ってる?」

この空気感を打破したかったのは、本人達も同じだったみたいだ。
俺が好奇心を刺激するワードを出した瞬間に、我先にと集まって来た。

「あ、俺は知ってますよ~」
「僕も。最近よく聞きますね。」

人並みに時事を知っている月島達は、当然!という顔をしたが、
スポーツと海外ニュースぐらいしか見ない地味コンビは、真横に首を傾げた。

「スパダリ…『スーパー(広い)ダイニングリビング』ですか?羨ましいです。」
「『スパ・ダーリン』…個室付特殊浴場(ソープランド)の店舗名っぽいよな。」

色気皆無な建築&法律系の回答に、研磨先生は「アンタらっぽい。」とボソリ。
そして、「半分ずつ正解だけど、二人とも大間違い。」と…山口に視線を送る。


「『スパダリ』は『スーパーダーリン』の略だそうですよ~」
「高身長・高学歴・高収入…昔で言う、『三高』みたいなものですね。」
「んでもって…『受を心から愛する、包容力のあるイケメン攻』への称賛。」

俺が最後に付け足したのは、まぁごく一部の界隈で言われてるもの。
あと最近は、『料理上手』ってスキルもあれば、スパダリ認定されやすい…
よく言えば『理想の夫』、悪く言えば『都合のイイ男』というヤツだ。

「こんな人、実在するのかな?」
「居るとしても、それに相応しいスーパーなお相手も、当然付いてくるね。」
「BLでは『ド定番』なんだよ。今日はその辺りについて、考察を…」

…と、俺が『ヒマ潰し』ネタを振ろうとしたら、正面から真顔で遮られた。

「居るじゃないですか、ココに。」


身長187.7cm、法学では日本トップクラスの某大卒(しかも成績優秀者表彰)、
在学中からサムライ業として起業し、初年度より消費税課税事業者な収入。
受…伴侶をこれでもか!というぐらい溺愛する、包容力抜群の超優良物件…

「黒尾さん専用の称号ですよね?」

確かに、100冊程読破したBL漫画では、『ド定番』な人物設定ですが、
リアルにスパダリな方が身近に居ると、「あぁそうですか。」という程度…
俺の黒尾さんに比べたら、まだまだ甘いですね…と、思わざるを得ませんね。

「まさかとは思いますけど、俺の黒尾さんが『スパダリ』ではないという、
   意味不明な言いがかりをつける…そんなお馬鹿さんがここに居るんですか?」


まるで『万有引力の法則』…不変の『定理』を語るような口ぶり…
あまりに堂々としすぎて、さすがの研磨先生も『目がテン』になってしまった。

「あ、あの、黒尾さんは…不細工ではないけど、ツッキー程のイケメンじゃ…」
「整ってればいい…そんな単純なものじゃありませんから。
   嫌味じゃない程度の精悍さ。二人きりの時の緩んだ表情…加減が絶妙です。」

「りょ、料理が得意なんて、聞いたことない…山口より、下手ですよね?」
「別に得意でなくていい…『そこそこ』できれば十分ですし、
  『一人で上手』よりも、『二人で一緒に料理してくれる』方がいいですね。」

そもそも論ですけど、自分のお相手に『スーパー』を求めるって考え自体が、
俺は全く以って、気に入らないんですよね。
二人で生きていくのなら、二人で『スーパー』を達成すればいいだけの話…
身長はともかく、学歴や収入、家事スキル等、足りない所を補い合うべきです。
相手にだけそれを求めるなんて、失礼にも程があります。

誤解のないように言っておきますが…
俺は『スパダリ』だから、黒尾さんを選んだわけじゃありません。
俺が惚れ込んだ黒尾さんが、たまたまそうだった…スパダリは『オマケ』です。

「そうそう、『オマケ』と言えば…」


あ、これ…ダメなパターンだ。

妙な雰囲気を漂わせてる二人…多分どーでもいい痴話喧嘩だろうから、
テキトーに『やっぱり黒尾さん素敵♪』と思わせて、仲直りさせればいい…
そう思って『スパダリ』ネタを振ったのに、まさかの戦略ミス…大失策だ。
妙な雰囲気の原因は、痴話喧嘩じゃなかった…もっと超絶面倒臭いやつだ。

この事態、どうしてくれるんですか!?と、詰るような月島&山口の視線。
気持ちはわかるけど…ここまで赤葦が『クロ馬鹿』だったなんて、
さすがの俺も読めない…っつーか、俺だけを責めるなんて、酷すぎだし。

これはもう…連帯責任でしょ。
こんなトコに俺を引き摺り込んだ二人にも、逃げ場はない…
覚悟を決めて、二人のクソ面倒臭い話を聞き続けてやるしかないのだ。


必死に「何でもないフリ」…書類で赤く緩む顔を隠しながら、
赤葦を止めようとしないクロの足を、思いっきり踏みつける。
そして俺は、悟りを開いた遠~~~い目で…赤葦に話の続きを促した。


「で、何?その『オマケ』ってのは?」




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※夏のバカンス →『夜想愛夢』シリーズ


2017/09/05    (2017/09/03分 MEMO小咄より移設)

 

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