αβΩ!研磨先生⑩~クロ赤と一緒~







5人で『酒屋談義』をしていた、2階の月島・山口宅。
研磨先生は月島と山口に「おやすみ」の挨拶をして、
黒尾達と共に3階へ上がり、のんびりと入浴を済ませた。

風呂から出ると、和室に布団が3組並べて敷いてあった。
別の部屋に寝るよりも、こちらの方が『安全』との判断だろうか。
研磨は更なる『安全策』のために、堂々と真ん中の布団に陣取った。

ほらよ、と黒尾がカルピスを出してくれ、それを啜っている間、
そのまま、じっとして…と、赤葦が濡れた髪を拭いてくれた。
この『至れり尽くせり』の甘やかしっぷりに、研磨先生はご満悦…
「じゃあ、シメの考察しとこうか。」と、先陣を切って話し始めた。


「どうやって『つがい』を確定させるのか…結論をスルーしてたよね。」
「創作者の好み次第…『よしコレだ!』って決めきれねぇよな。」
「とは言え、『御想像にお任せします』と…逃げられませんし。」

『αがΩのうなじを噛む』という設定を始めて見た時に、
「まんま『猫』じゃないですか。」と、少々笑ってしまったんですが…
いざ自分が創作しようと思うと、なかなか思い浮かびませんし、
『うなじを噛む』のも、実によくできた話だなぁと、今は感心しきりです。

これがもし、ファンタジーであれば、
『αには赤、Ωには黒で、体の同じ場所に同じ紋章が浮かび上がる』とか、
『生まれながらにして体に刻印されていた文様が、左右対称に存在』等、
分かり易い『設定』にできて…実に助かるんですけどね。

「想像力の乏しさ、痛感です。」と、赤葦は苦笑いし、
研究中に出していた資料を、枕元にパラリと広げた。


「結局のところ、『運命』と『契約』のバランスで決まる…だっけ?」
「『超未来酒屋談義』からすると、現代とほぼ変わんねぇ世界…」
「『本能と意思のバランス』を取る…運命の相手と契約型です。」

αΩの組み合わせなら相手は誰でもいい、というわけではなく、
ある程度のフェロモン・受容体合致率も必要…
『運命』の要素もありつつ、その相手と『契約』を結ぶか否か?という、
自由恋愛の要素…個人の意思も尊重される確定方法だ。

「正直、これが一番『創作しやすい』設定だよね。」
「科学的根拠もありつつの、自由意志による選択…納得しやすい。」
「現代との差ができるだけない方が、共感もしやすい…ですよね。」

創作しやすいとは、即ち『自由』ということだが、
あまりにも大き過ぎる自由は、大いなる不自由でしかない…
3人は顔を見合わせて、『お手上げ』のポーズを取った。


だが、ヒントが全くないわけではない。
世界中に残る『創世記』では、神々同士、又は神と巫女の結合が描かれる。
そして人々は、それを模して…自分達も結合していく。

オメガバース世界の創世では、神と巫女の役割を果たすのが、αとΩだ。
だとすると、人々はαΩの『つがい』を模して、婚姻するのではないか…?

「ゼロから創作するのは、かなり難易度が高いけど…」
「現存する婚姻システムを見ることで、『元々』がわかるかもな。」
「説得力という観点からも、実に合理的な考察方法だと思います。」

じゃあ、思い付く限り…『婚姻関連の儀式』を挙げてみるか。
黒尾はそう言うと、指を折りながら列挙していった。


①『申込』と『受諾』…当事者間で行う『婚約』の儀式
②両親や先祖、神様仏様へのご挨拶等、『誓い』の儀式
③婚約・結婚指環や結納品等、『贈答』の儀式
④三々九度や三日夜餅等、『食事』の儀式
⑤三夜連続で通ったり、ハネムーン等、『蜜月』の儀式


まずもって、①が大前提…『双方の合意』がなければ、
『つがい』になれない、というものだ。

「これは絶対…外せないよね。」
「『意思の尊重』には欠かせねぇイベントだしな。」
「『創作』の上でも、これがないと実に困ります。」

次に②は、現在と同様に…『自由』でいいだろう。
どんなスタイルでも構わないが、自分達以外の第三者に対し、
何かしらの『ご報告』は必ずしておくべきだろう。

「特に『つがい』は、結合度が高い分…相応の覚悟を示さないと。」
「まぁ、第三者に『駄目!』と言われにくい分、楽っちゃ楽だな。」
「これは『運命』ですから、他人様がどうこう言えないですよね。」

いわゆる『両親へのご挨拶』は、こっちの方がイイな…と黒尾は安堵したが、
その分、『本人の承諾』を得るのが大変ですからね…と、赤葦は釘を刺した。
結婚や『つがい』は、『双方の合意』のみでは成立不可…と、研磨は知った。


「『運命』の要素があるということは、
   ある程度は『意思とは別』の次元で、確定してるんだろうな。」
「それが、凸と凹という分子の次元で、
   αΩの『結合抗体』ができた場合、とかになるんでしょうね。」
「その『結合抗体』ができないうちは、
   そもそも『コイツとつがいになりたい』って思わないのかも。」

そうすると、③④⑤の儀式の内容は、自ずと定まってくる…
『αとΩ(凸と凹)の結合』を模したものになるのではないだろうか。

「③は、結合を示す何かを『贈り合う』…か。」
「もし俺がαだったとしたら、Ωに贈りたいのは…」

おそらく、『つがい』になった後も、Ωは発情期の衝動に悩まされるはず。
ならば、その衝動を最も効率的に抑えるものを、贈ってやりたい。

「オーダーメイド薬…俺自身のα抗体で、『アルファミン』を作る。」
「俺はお返しに、赤葦京治特製の『オメガミン』を…差し上げます。」

その特製薬…確実に『劇毒物につき取扱注意』じゃん。
という『正当な評価』もといツッコミを研磨先生は封印し、
その優しさ溢れる発想には「いいと思う。」と、素直に賛成票を投じた。

「今でも、結婚指環が『凹凸』になってるのがあるんでしょ?」
「えぇ。2つを重ねると、バチっと合って、模様が浮かび上がったり…」
「これは『αΩの結合』を模している風習…ってことにできそうだな。」

現代よりも科学技術の水準が高いなら、
αとΩの指環自体が、それぞれのフェロモン発生抑制装置になっている…
ホンモノの『防具』として機能する、なんていう設定も、アリかもしれない。


「④は『食事』…『食べる』ことは、結合や『新たな生』を表すらしいね。」
世界的に散見する、『魂の回帰』を表す神話類型…『赤ずきん』もそうだった。
また、結婚相手の家で作られた食べ物を口にすることで、
その家の人間になる…という意味を持つ儀式も、世界各国で見られる傾向だ。

では、オメガバースの『結合』を表すもので、『飲み食い』できるものは…?
確か今日の考察の中に、『つがい』に必須の『アレもコレも』含むモノが、
あったような気がするのだが…

「自家製『どぶろく』…だよな。」
「これで三々九度でも…します?」
「アンタら…また殴られたいの?」

研磨は両手で拳を作り、両サイドに寝そべる奴らの脇腹を、
グリグリと圧し…一瞬で黙らせた。

「最後の⑤は…『蜜月』だね。」
「『三日間家から出ない』って国も…あるらしいぜ。」
「『発情期システム』に相応しい…俺は大歓迎です。」

ひたすら子づくり(用の蜂蜜酒作製)に励む…『蜜月』だ。
古代から現代に至るまで、伝統的に残る風習…使わない手はない。


以上より、『つがい』を確定するために必要な儀式は、
次の様なものにしては…どうだろうか。

①申込と承諾(プロポーズ)。
②両親等へのご挨拶とご報告。
③婚約や結婚の『しるし』として、『結合』を表す指環等を贈り合う。
④『酒』を酌み交わす等。(要検討)
⑤三日三晩、二人きりで籠る。

「現代の婚姻儀式とも齟齬がなくて…いいんじゃない?」
「これなら、どんな組み合わせのカップルでも…同じ『儀式』が可能ですね。」
「あっ!『三日三晩』断続的にヤり続けたら、『結合抗体』ができるとか…?」

元々はαΩの『つがい』確定に必要だったシステムだった、
『結合抗体』を作るための『三日三晩』を模して、
婚姻儀式に組み込んだ…納得のいく説明である。

「日本の平安時代にもあったし、『ハネムーン』の由来にも近いよな!」
「堂々と『三日夜餅』のロマンに浸れるなんて、実にステキですよね!」

『三日夜餅』システムに並々ならぬ思いを持っていた赤葦は、
『つがい』確定及び婚姻儀式に、大満足の様子だったが…

「ちょっと待って。三日三晩断続的にヤり続けるって…
  『オメガバース』本体以上に、無茶な設定なんじゃない?」
αとΩは、それだけ『スゴい♪』って言うにしても、さすがにキツいよ。
研磨先生は『スゴい♪』を一瞬想像しかけたが、無理無理と却下した。
だが、考察のやり直しを提案する前に、あっけらかんとした声…

「別に『三日三晩突っ込みっぱなし』とは、言ってねぇだろ。」
「二人きりで家に籠って、『素敵タイム』を過ごすだけです。」
それに関しては、全然心配いらねぇぞ。
αΩじゃなくても、26時間連続ナニが可能な蛇じゃなくても、
体力に少々自信がある、元体育会系のホモ・サピエンスで…十分可能だ。

「実証例が4名分(実質2組分)あります。今、詳細データを…」
「超いらない。何も出さなくていいから。むしろ出し過ぎ。」

『考察』や『研究』の名の下に…おカタさでカモフラージュしつつ、
マジメに下を隠さずおカタくしてしまう奴らが、マジで存在することを、
研磨先生は改めて痛感した。


以上のように、αΩの『つがい』と、それ以外の婚姻儀式の形式を、
極めて近い(目に見える範囲では全く同じ)ものにすることで、
『できるだけαβΩ間の差がないように』という全員の『望み』を、
『幸せのカタチ』として、叶えることができるのではないだろうか。

研磨は少し思案顔…そして、一つ修正案を出した。
「④の食事…『全員がアルファミン・オメガミンを摂取』がいいかも。」

クロの『ミニシアター』にもあったけど、擬似的にαΩを体験できる…
αΩの結合を模した婚姻儀式こそ、一番相応しい『使いどころ』じゃない?

この儀式で、αΩの『つがい』を実感…
自分が結合する相手に『ゾッコン♪』っていう、ステキな体験を、
βも楽しむことができる…最高の三日三晩になること間違いナシだ。

「『βでも俺にゾッコン♪なツッキー』っていう、山口の望みも…叶う。
   なかなか素直になれない月島も、デレデレする『口実』ゲットだし。」

あんなに可愛いくて健気な二人…
俺は何としてでも、幸せにしてやりたいよ。

研磨の優しい微笑みに、黒尾と赤葦は息を飲み…尊敬の眼差しで仰ぎ見た。

「研磨…凄ぇカッコイイな!」
「孤爪師匠…素敵すぎます!」

真っ直ぐな『キラキラ視線』に居心地が悪くなったのか、
研磨はわざと『ニヤリ』と口の端を吊り上げ、二人にそっと囁いた。


「お前ら、チョロ過ぎ。」

俺が『最強ハンター』だってこと…忘れてない?
この状況、『安全』だと思ってたら、大間違いだからね。
クロと赤葦、二人同時に『狩猟』とか…全然余裕なんだけど。
何なら今から、『アメフラシ型結合』の体験会とか…試してみる?

「はぁっ!?」
「えぇっ!?」

素っ頓狂な声を上げ、飛び退く二人。
そしてすぐに、『危険な体験会』ができないように、
両サイドからガッチリ…研磨をホールドした。


二人の慌てっぷりがツボった研磨は、上機嫌…珍しく声を上げて笑った。

「そのまましっかり、俺を捕獲しときなよ。
   そんでもって、大人しく『ミニシアター』…聞いてなよ。」



   →『ミニシアター』へ



**************************************************

※蜜月について →『蜜月祈願
※『三日夜餅』について →『団形之空
※『三日三晩』の詳細データ →『無限之識

<研磨先生メモ>
※『三日三晩』…監禁して強引に、という犯罪を防ぐためには、
   本心から『気持ちイイ』と思わなければ、結合抗体ができにくい等の設定や、
   Ω監禁罪を重罰化するといった、法整備も必要かもしれない。
※結合抗体を作るためなら、別に唾液の交換でも…(考察終了)


2017/05/13   

 

NOVELS