※ごく近未来酒屋談義(月島&山口各々独り暮らし中) 



    獅子之牙







「では、こちらを…どうぞ。」
「わぁ~♪キレイな黄色…いただきます!」


明日は、酒屋談義の日。
上京独り暮らし×2の態を装っているが、実態は山口宅での『なんちゃって同棲』中…
そんな月島と山口に加え、高校時代から何となくズルズルな縁が続いている、黒尾と赤葦は、
月に2回ぐらいのペースで月島宅に集まり、雑学考察を肴に様々な美酒を傾けていた。

毎回お酒を用意するのは、バーテンになるのが(人生を賭けた)宿願だという赤葦だったが、
心から愛してやまないお酒からは、愛を返して貰えない…壮絶な片想い中(超絶下戸)のため、
酒屋談義開催の前日、八岐大蛇も平伏すウワバミ王・山口に、予行演習(試飲)を頼んでいた。

「今回のカクテルは、日本酒ベースですか?この甘酸っぱい味は、もしかして…」
「日本酒と…オレンジ味のカルピスです。発酵飲料同士で、実は相性がいいんですよ。」

カルピスは初戀の味…恋愛成就に最も縁の深いと思われる、七夕が誕生日なんだとか。
そして、このカクテルは偶然ながら、恋の行方を占う花の名前を冠しているんです。

「花言葉は『愛の神託』…タンポポです。」
「好き、嫌い、好き、嫌い…
   一息で綿毛を全部飛ばせたら、情熱的に愛されてる証拠っていう説もあるそうですよ~」

そう言いながら、山口はタンポポを一息で飲み干し、えへへ~♪と顔を綻ばせた。
「お酒に溺愛され…心から羨ましいです。」と呆れつつ、赤葦は山口にお代わりを作った。


「ところで、タンポポにまつわるこんな物語…山口君はご存知ですか?」

怠け者の南風は、いつもゴロゴロ寝そべり、野原を眺めていました。
ある春の日、南風は野原で黄色い髪の少女を見つけ、一目惚れ…恋におちました。
その少女はタンポポでしたが、南風はそれに気付かず、毎日夢中で彼女を見つめ続けました。
しかし、いつの間にか少女は、真っ白な髪の老婆になってしまいました。
南風は哀しみのあまり大きなため息…すると、白髪の老婆もいなくなってしまいました。


「タンポポの『綿毛』の花言葉は、『別離』…この物語からきているのかもしれませんね。」
「見ているだけだと、行きつく先は…別れ?」

神託に導かれたかのようにずっと傍に居るというのに、ただ情熱的に見つめているだけ…
自分の意思や想いを明言せず、ふわふわと現状に甘んじている、タンポポ色頭の春風君に、
「そろそろ初戀を成就してはいかがですかコノヤロー!」と…叱咤激励のため息をば。


赤葦の言葉に、山口は春風に吹かれた綿毛のように、視線を虚空にふわふわと漂わせたが、
タンポポによく似ているけど、少し違う色合いの『三杯目』に、浮いた視線を引き戻した。

「こっちもキレイな…タンポポ色ですね~」
「えぇ。これもタンポポ…『ダンデライオン』というカクテルです。」

歴史的な恋愛成就物語『シンデレラ』のモデルと言われている、世界三大美女・楊貴妃。
彼女が愛したライチのリキュールを使った、もうひとつのタンポポです。

カクテルの説明を聞きながら、山口の視線は目の前のライチリキュールではなく、
赤葦の背にそっと隠された2本の瓶にじっと注がれ…再び視線をそよがせながら問い掛けた。


「カクテルベースは…ウィスキーですか?」
「………はい。アイリッシュウィスキーを、二種類ブレンドしています。」

「銘柄…教えて貰っていいですよね?」
「………こちら、です。」

赤葦は瓶を山口の方に押し出すと、自分は流し台へ向い、鼻歌を歌いながら洗い物を始めた。
銘柄は2本とも『HYDE』という名で、その黒ラベルと赤ラベルを混ぜたようだった。

「虹色に揺らめく何かを、必死に隠している…タンポポに託した初戀みたいですね。」
「『虹色に輝く素敵な瞬間だから 風吹かれている 君をみていたい』…
   『風にきえないで』の歌詞は、まるで南風とタンポポの物語にも聞こえますよね。」


ふわふわと話をはぐらかそうとする赤葦に、山口は同じ歌の一節を歌い直した。

「『虹色に輝く素敵な瞬間だから この風にきえないように 君をつかまえた』…
    見ているだけじゃ…つかまえておかないと、風にきえてっちゃうかもしれませんよ?」

   ゴロ寝して…眺めてるだけでいいんですか?
   歳取れば、黒猫にも白い綿毛が生えてくる…
   虹の向こうに飛び去り、隠れてしまうかも。


山口の言葉に、赤葦は遠くを見つめ…わずかに微笑みながら、声を風に揺らせた。

「ゴロ寝中の黒猫と思いきや、本当は鋭くとがった牙を隠し持つ、黄金の獅子かもしれない…
   この眠れる獅子を本当に起こしてしまってもいいのか、俺にはまだ…わかりません。」

タンポポの英名『Dandelion(ダンディライオン)』は、
仏語の『dent-de-lion(ライオンの歯)』に由来…ギザギザの葉が獅子の牙に似ているから。
好き?嫌い?花?綿毛?ギザギザ葉?と、春風に揺れ動く心を、ひっそりと隠し続ける姿は…


「タンポポって、少し似てますね…俺達に。」
「行きつく先は、神のみぞ知る…ですよね。」




- 終 -




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※カルピスは初戀の味 →『
撚線伝線(後編)
※シンデレラのカクテル →『白馬王子
※『風にきえないで』 →L'Arc〜en〜Ciel


ドリーマーへ30題 『11.タンポポ』

お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。


2020/04/12

 

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