教えて!研磨先生⑩







「『乙女ゲーム』の大枠…大体固まってきたか?」
「そうですね…ちょっとまとめてみましょうか。」

赤葦は新たな紙をテーブルに出すと、会議で決まったことを箇条書きにした。

〈メイン攻略対象〉
・モテ系王子様→及川徹
・ツンデレメガネ系→月島蛍
・頼れる兄貴系→黒尾鉄朗
・とにかく元気!系→木兎光太郎
・カワイイ系→日向翔陽
・隠しキャラ→影山飛雄

〈モード(性別)選択〉
・乙女モード(女性)
・攻モード(男性)
・受モード(男性)

〈次回作出演確定サブ〉
・岩泉一(及川サブ)
・赤葦京治(木兎サブ)
・孤爪研磨(黒尾・日向サブ)

〈主人公について〉
・主人公の人格は山口忠に準ずる


「この大枠を元にして、これからストーリーなんかを考えていくんですね!」
「ゲーム全体の流れと、各ルート個別のストーリー及び、各種ED…膨大な量だよね。」

これら全てのシナリオを書くとなると、一体どのくらいの労力がかかるだろうか。
いや、労力もだが…想像力の方が果たして追い付くのだろうか?

「実際に開発計画を立ててみて…改めて『乙女ゲーム』の凄さがわかるよ。」
研磨先生は感嘆のため息を漏らしながらも、『お手上げ』仕種を見せた。

「とてもじゃないけど、俺一人で全部のシナリオを書くのは無理。」
だから、皆も『こういうのがイイ!』って案を…
少なくとも『自分』のルートに関しては出してよね?
これはノルマと言うよりは…開発者『優遇措置』だから。

「つまり…自分がグっとクる話を、提案していいってことか!?」
「本人監修…これはとてつもなくリアルだし、ゲームのウリにもなる。」
っていうか、開発者すら楽しめないようなゲーム…そんなの、俺は嫌だし。
商業的価値も大事だけど、やっぱり第一は、俺達自身の満足でしょ。

「では孤爪師匠。個人の嗜好に偏りすぎない範囲なら…
   俺が『黒尾』ルートのネタを提案してもいいですか?」
「それは勿論、大歓迎。実録でも、願望でも…開発者なんだから。」
いわばこれは、金と時間と労力をかけた、壮大な『同人活動』みたいなもんだし。
普段はなかなか言い出せない相手への『要望』を、『シナリオ案』として出すも良し。

それに、自己満足でしかなかった『妄想』を具現化し、商業的支持を得るには、
ユーザーを納得させるストーリーや背景、根拠づけ…『想像』が必要になるんだ。
どこぞで誰かが言ってたけど、『妄想』と『想像』は違う。
ただ『悶々~♪』って妄想するだけじゃなくて、努力して想像し、創造する…
これって、実は物凄く大変だし、だからこそ…最高に面白いんだよ。

「あ…僕にもようやくわかりました。これが本当の…『想像力養成演習』ですね!」
「妄想を想像に変えて、現実化するには…ちゃんと話し合う努力が必要だね!」
これは『乙女ゲーム』のためだって思ったら、一人で『悶々~♪』ってしなくても、
堂々と皆の前で発表できる…実に建設的でイイよね。

月島と山口は、心の片隅にあった『引っかかり』が、これで解消できる…と、
実に晴れ晴れとした表情で、歓迎の意を示した。


「これから、特にクロと赤葦は…忙しくなるよ。」
ゲーム開発には、ストーリーなんかの『本体業務』以外のものも必要になる。
まずは、『出演者』達の許諾を得ること…これがないと、始まらないから。

「現在、出演確定しているのは10名…うち5名は、我々『開発者』ですね。」
「身内が半数…交渉も出演料も不要ってのは、かなり有り難い状況だよな。」
残る5名のうち、『木兎』『日向』あたりは、喜んで協力してくれるでしょう。
そして、『日向』が出るとなると、『影山』は黙ってても付いてくるはず…
(正確には、「日向だけ出るのは許さん!」と…叫びながら付いてくる。)

「残るは『阿吽』コンビ…目立ちたがりの『及川』は、意外とチョロそうだな。」
「では、慎重派の『岩泉』は…いっそのこと、『開発チーム』入りさせますか?」
聞くところによると、彼はメカニカル系が得意とのこと…
システム担当者としてスカウトし、『身内』に引き込んでしまうのも手です。

「開発者優遇措置として…『及川の好きにはさせない権』をチラつかせましょう。」
「コッチに来なければ、及川の出した提案通りの『岩泉』ルートにするぞ…?と。」
及川には、『岩泉でさえ唸る(悶絶する)提案を実演すれば即採用』と持ち掛ければ、
その『案』を出す段階から既にメリットがある…簡単にノってきそうです。

着々と策謀を巡らせ…ではなく、交渉計画を練る黒尾と赤葦。
その勢いに、研磨先生は呆れ、慣れている月島達は事も無げに笑った。
「何アレ…怖いぐらい『イキイキ』してんだけど。」
「あれが、当事務所の頭脳…『腹黒』コンビの本領発揮です。」
「『裏方業務』は、あの二人に任せておいたら大丈夫だよね~」

ちなみに、資金計画や商標登録等、各種申請業務もお任せ下さい!
研磨先生のご助力があれば、当事務所にはそれを現実化する力がありますから。


「君ら…凄いよ。同人活動はオトナになってからが本番…だね。」
若い頃のような、満ち溢れ迸る『妄想力』は落ち着いたかもしれない。
だが、オトナになったことで、視野の広さや知見といった『経験』が増え、
それらがあやふやだった妄想に確固たる『外枠』を与えることで、『想像』となり…
さらには、それを具現化し『創造』する余裕も出て来た。

『妄想を想像に。想像を創造へ。』

研磨がずっと願ってきた、『オトナのタシナミとタノシミ』…
それを実現できる場が、遂に整ったのだ。


「俺…すっごいワクワクしてきました!!」
「僕も、早くプレイしてみたいな…特に『黒尾』『赤葦』ルートを。」
「それは『Z』以上なんで、二作目以降…先は随分長いですよ?」
「しばらくはコレで楽しめる…そういう捉え方もできるよな~!」
これから研磨先生にはお世話になりますが…宜しくお願いします!

4人の『心からの笑顔』に、研磨はグっと喉を詰まらせた。
差し出された4つの手をおずおずと握り、頬を染めて俯いた。

「こっ、こちらこそ…ヨロシク。」
皆の仲間になれて、俺も…嬉しい、から。


研磨の超絶『らしくない』照れ照れっぷりに、4人は大赤面して硬直…
そして、声を揃えて手を叩いた。

「研磨先生、それ…『採用』!!!」




- 完 -


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※想像力養成演習 →『妄想習得
※『妄想』と『想像』の違い →『初恋終了

<研磨先生開発メモ>
ゲームのタイトル(案)

・『HQ!! Cross×Match』
・Cross→交わること。Match→縁組。

・公式発売のタイトル(Cross team match)に激似なのは、ただの偶然。
・そもそも、公式ゲームも『そういうやつ』だと思って買ったのに。
・ちょっと違ったから、自分で『そういうやつ』を作ることにしただけ。




2017/03/01    (2017/02/28分 MEMO小咄より移設)

 

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