※『物々交換』の続き。



    増々好感







「なーなー、この後みんなで甘いモンでも食いに行こうぜ!!」
「俺は遠慮します。では、お疲れ様でした。」


梟谷&音駒合同合宿終了後、監督の「解散!」号令が響いた直後に、
例によって木兎が「打ち上げするぞ!」と提案(という名の強制)…
いつもなら真っ先に会場を押さえたり、本物の提案をしたりする赤葦が、
一も二もなく「直帰します。」と宣言して歩き出し…全員が驚いた。

「お、おい、赤葦…」
「今日は無理です。木兎さんのお守…皆さんよろしくお願い致します。」

丁寧に頭を下げながらも、明らかに急いでいる様子…これは、アヤシイ。
スタスタと早歩きでこの場を去ろうとする赤葦の前に、木兎が立ち塞がった。


「どこ行くんだよっ!?」
「…どこだっていいでしょう?俺にも…プライベートな用事くらいあります。」

監督からは解散の号令も出ているんで、もう俺は職務『外』…自由のはずです。
いくら体育会系でも、常に『先輩方』の命令に絶対服従なんて…時代遅れです。
それに後輩だからと言って、全てのプライベートを曝す義務はありません。

赤葦は淡々と…いや、ペースも字数も多くタンタンタンっ!と出てくる台詞に、
偉大なる先輩方は、アヤシサ警戒レベルをMAXへ…全員が『木兎化』した。

「何だ何だ、その用事ってのは?」
「俺らには言えないとか…ヤマシさハンパねぇよなぁ~?」

すっかり周りを囲まれてしまい、赤葦は自分の失策に気付いたが…時既に遅し。
前後左右からガッチリと体をホールドされ、身動きが取れなくなってしまった。


「ちょっ、離して下さいっ!時間が…」
「ほほぅ~時間が気になるってことは、もしや…デートだなっ!?」

「ちっ、違います!ただ…人に会うだけですからっ!」
「人に会う…やっぱり『date』で合ってんじゃねぇか!」

クッ!さすが木兎さん…
記憶している英単語は全部『卑猥語』なだけあって、誤魔化しが効かない。
焦り始めた赤葦…だが、木兎の群れの方が、狼狽でバタつき始めた。

「あ…赤葦がデートだとっ!!?先輩より先に、恋人ができたってのかっ!?」
「絶対許せねぇ…断固阻止!!」
「相手はどこのどいつだよっ!?」

違うと言っても聞く耳は持たない…これぞ、体育会系の『ザ・理不尽』である。
あの「ぴょこ♪」っとした耳っぽいのはただの羽飾り…そもそも聞こえない。


「おかしいとは思ってたんだ…合宿中の猥談にも、絶対入って来ないし。」
「片付けの途中とか、ちょっと目を離した隙に、姿をくらましてたり…」
「部活終わりとか、真っ先にコソコソとスマホチェック…ここ最近だよなぁ?」
「何よりも、木兎の無茶振りにブチ切れるまでの時間が、ちょっと伸びた!
   これは、赤葦のココロに余裕がある証拠…満たされてんだろっ!?えっ!?」

オール木兎化した先輩方からの、まるで猛禽類の爪のような『鋭い指摘』に、
地べたに抑え込まれた赤葦は、離せとも話を聞けとも言えないまま絶句…
その沈黙を『図星』と捉えた木兎達は、今がチャンス!とばかりに、
獲物…赤葦のポケットからスマホを引き出し、『梟の山』の真ん中に置いた。


「さすがの俺も、スマホん中まで開けて見せろとまでは言わねぇ…
   後輩のぷらいばしーにもハイリョしてやる、優し~い先輩だからなっ!」

だから、ここにこうして置いておけば、約束の時間が来ても現れねぇ赤葦に、
こここっ、恋人から電話が掛かってくるはず…そしたら、着信名が出るだろ?

「ひっ…卑怯ですよっ!遅れたら…先様に失礼ですっ!」
「やっぱりデートじゃねぇか!よって…これから『審査』開始だ!!」

俺らの大事な赤葦が、どこの馬の骨ともわからん奴に、骨抜きにされたら…
一体誰が、木兎の面倒見るってんだ!?梟谷存続の危機だぞ!!
だから、お前に相応しい相手かどうか、俺ら全員で見極めることにする。
デキる後輩を心から可愛がる…先輩からの深~い『愛』だよ。


   そんな一方的な愛…超いりませんっ!

過剰な愛に押し潰されかけた赤葦が、思わずそう叫びそうになった瞬間、
梟がモコモコ集積した山に、呆れ返った声が降ってきた。


「お前ら…何ヤってんだ?」

声の主は、梟谷解散の前に撤収し、既に帰還したはずの…音駒主将だった。



「ヘイヘイヘ~イ!!黒尾、ちょうどイイとこに来たなっ!!
   今から、超~面白いモノが見れるとこなんだ…ナイスタイミングだぞっ!」
「面白いモノって…とてもそんな風には見えねぇけどな。」

赤葦の上に木兎達が密集して…毛玉のカタマリにしか見えねぇぞ?
お前らが『仲良し』だって知らねぇ奴が見たら、集団暴行だと思うかもな。
とりあえず、下で苦しそうに呻いている赤葦を…解放してやれよ。

ほら、皆こっち来い…と、黒尾は一羽ずつ梟を抱き上げて脇に並べ、
最後に赤葦を助け起こして毛繕い…服に付いた汚れを掃い、髪を整えてやると、
赤葦は再び先輩方に囚われないよう、そのまま黒尾の後ろに隠れてしまった。


「…で?お前らはいつも以上に赤葦に乗っかって、一体何してたんだ?」

よくぞ聞いてくれました!!と、梟達は赤葦のスマホを一斉に指差し、
口々に『ナイスタイミング』の理由を鳴き立てた。

「今からココに、赤葦の恋人から電話が掛かってくるんだよ!」
「クソ生意気なことに、これからデートの約束してるらしくて…」
「遅刻した赤葦に、激怒の電話…着信名で恋人が誰かわかるって算段なんだ。」

黒尾も、ウチの可愛い赤葦をモノにしたのが、どんな奴か…気になるだろ?
ちなみに、最近の赤葦は超~ご機嫌で、今日もあからさまに浮足立ってたしな!

「…って、赤葦を溺愛しまくりな先輩方は、疑ってるみてぇだが?」
「誤解ですっ!でででっ、デートの約束なんて、俺は、そんな…っ」


フェアなことに、背後を振り返って赤葦本人にもきちんと確認を取った黒尾。
だがその黒尾に対し、赤葦は盛大に『しどろもどろ』と、これ以上になく動揺…
真っ青な顔で「違いますからっ!」「そんなんじゃ…」と、必死に弁解した。

「あっそうだ!赤葦は何故か黒尾の言うことだけは、反抗せず素直に聞くから…
   黒尾から赤葦の恋人がどんな奴か、聞き出してくれよっ!」

ナイス木兎!そりゃ名案だ!
他校の先輩…黒尾の『頼み』だったら、赤葦も絶対無下には断れねぇよな~?

『たのむ!』と『やめて!』の、両方の期待が込められた視線を浴びた黒尾は、
困ったような表情で頬を掻くと、赤葦のスマホを手にとり、柔らかく微笑んだ。

「おそらく、ここに赤葦の恋人から、激怒の電話は…来ねぇだろうよ。」


この赤葦が惚れ込んだ相手だぞ?多少遅刻したぐらいで怒るはずがねぇよ。
しっかり者の赤葦が、連絡なしに遅刻するなんて、余程のことが起こった場合…
例えば、偉大な先輩方からの緊急任務を遂行中で、手が離せねぇ…とかな。

そういうのもコミコミで、赤葦のことを理解してくれてる恋人だろうから、
そりゃあ心配はするにしても、『激怒』の電話なんか、絶対寄越さねぇだろ。
それに、待ち合わせ時間はまだ先…遅刻すらしてねぇ現時点では、尚更な。

「言われてみれば…そうだな。」
「木兎の無茶に振り回されてんのも、恋人なら当然熟知してるだろうしな…」

さすがは黒尾…ごもっともな意見だ。
梟達が納得したのを確認して、黒尾は赤葦のポケットにスマホを戻してやった。


赤葦も急いでるみたいだし、気を付けて帰れよ?お前らも、もう遅いし…な?
そう黒尾に促された赤葦は、ペコリと頭を下げて駆け出そうとした。
それじゃあ俺も帰るか…また会おうぜ!と、黒尾も梟達に手を振り…

そんな赤葦の肩と黒尾の手を、木兎がガッチリ掴んで引き止めた。

「ちょっと待て黒尾。何でお前が…赤葦の待ち合わせ時間を知ってんだ?」
「た…確かにっ!」

黒尾に笑顔で手を振り返し、同じく帰ろうとし始めていた梟達も、
木兎の冷静な一言で我に返り…再びわらわらと集まって来た。
納得のいく説明をしろ!と、じりじり黒尾と赤葦の周りを包囲し始める前に、
黒尾は柔らかい表情を1ミリも崩すことなく、的確に答えた。


「合宿中の赤葦は超多忙…様々な『不測の事態』を、当然考慮するはずだ。
   だから、待ち合わせ時間を設定する時には、余裕を持つに決まってんだろ?」

現に、解散の挨拶が済んで小一時間も経ってんのに、お前らに捕まってる…
そういうのも全て見越した上で、あらかじめ遅い時間に約束しているはずだ。
梟谷自慢の参謀は、そのぐらい賢くて気が利く…そういう奴だろう?

「そりゃまぁ、黒尾の言う通りだけど…でも、まだ俺は納得してねぇからな!
   何で絶対に相手から連絡が来ねぇことが…わかるってんだよっ!?」

それについては、さっき説明してくれたじゃねぇか…と、梟達も呆れていたが、
黒尾は「構わねぇよ。」と笑い、木兎でもちゃんと納得できるように、
もう一度だけ…わかりやすい言葉でキッパリと説明しなおした。


「理由はごく簡単。赤葦がこれから逢う相手が…この俺だからだよ。」

目の前に居るのに、スマホに連絡とか…有り得ねぇだろ。
木兎達に凄ぇ可愛がられて、なかなか帰り辛いだろうな~ってわかってたから、
赤葦に連絡する前に、こっちから迎えに来た…ただそれだけの話だよ。

「な~んだ、そういうコトだったのか!相手が黒尾なら…俺も安心だ!」

恋人とのデートじゃなかったのはザンネンだけど…俺はホっとしたぜ!
赤葦も黒尾も、イロイロと疑って悪かったな!!
謎はぜ~んぶ解けたし…これにて一件落着ってヤツだよな~♪


「それじゃあ黒尾、赤葦のこと…宜しく頼むな~!」
「ちょっ、ちょっと木兎さんっ!?」
「あぁ、俺に任せとけ。じゃあな。」
「えっ!くっ、黒尾さんまでっ!?」

戸惑いながらも寄り添う赤葦をエスコートしながら、悠然と歩き去る黒尾に、
バイバーーーーイ!!と、木兎は全身で送り出し…一人だけ大満足気だった。


そんな様子を呆然と眺めていた梟達は、二人の姿が見えなくなってから、
慌てて木兎(本物)に対し、総ツッコミを開始した。

「おいおいおい!『大謎』が未解決で残ったまんまだろうがっ!」
「赤葦の恋人が誰か、結局わからずじまいっつーか、情況的には…だよな?」
「アイツら、『デートじゃない』って…はっきり否定もしてないぞ!?」

ということは、だ。
これはもしかすると…もしかするのではないだろうか。

「ぼぼぼっ、木兎っ!まさか、赤葦の恋人って…黒尾、だったりしねぇ?」


梟達の言葉に、超~~~ご機嫌顔だった木兎は、目をまんまるにして唖然…
その可能性には全く気付いてなかったようで、パクパク口を開閉して凝固した。
そして、町内全域に響き渡る大音量で、「えぇぇぇぇーーー!?」と絶叫した。

   (ウルサっ!!じゃなくて…マズい!)
   (木兎を…抑えるぞっ!!)

このままでは、木兎は真相を確かめようと、二人の元へ飛んで行きかねない…
その危機を察知した梟達は、今度は木兎の四方を固めて閉じ籠めた…が、
意外なことに木兎は落ち着いていて、スッキリした表情をしていた。


「お、おい、木兎…?」
「ふぅ~、これでゼーンブの謎が、キレーイに解けたな~♪」

ミョーなヤツに赤葦を持ってかれたら、どうしようかと思ってたけどさ、
その相手が黒尾なら…俺らの『審査』結果はどうなるよ?

「えっ!?そりゃぁ…なぁ?」
「合格以外…出せねぇよな。」

俺もそう思う!だから…安心した!お前らもそうだよな?
俺らの大事な赤葦…シッカリ者すぎてイかず後家になりそうだったけど、
ちゃ~んと貰い手が見つかって…兄貴分としては、マジでホッとしたよな~


木兎の温かい言葉に、梟達もふわっと力を抜いた。
可愛い赤葦が、ついに巣立った…木兎も兄貴分らしい懐の深さを見せたし、
これで俺らも一安心…一件落着だ。

…と思った瞬間、木兎が梟包囲網から飛び出し、ビシ!!と天に指を上げた。

「だからって、俺らを差し置いて赤葦だけが黒尾とデートするのは…許せん!
   俺だって黒尾と遊びてぇ…アイツらだけがラブラブするなんて、認めねぇ!」

っつーわけで、アイツらを追跡するぞ!
ウチの可愛い後輩が、黒猫に泣かされねぇように…
俺らより先に『オトナの世界』にイかねぇように、『パトロール』しようぜっ!


「馬鹿っ!やめとけって!」
「バレたら…赤葦に殺されるぞっ!」

梟達は必死に木兎の手足にしがみ付き、『パトロール』出動を阻止…
大暴れする木兎を何とか宥めすかし、暴走を食い止めた。

「せっかく俺らも、理解あるカッコイイ兄貴分っぽくなってんだから…」
「ここはほら、見苦しくバタつくのは止めとこうぜ…な?」

だから、俺らは超カッコイイ『キング・オブ・猛禽類』らしく…
アイツらに絶対バレねぇように、隠密行動…『闇討ち』しようぜ?

「極秘パトロール…開始だ!」


仲間達のナイス提案に、木兎は「お前ら賢すぎだろっ!」とガッツポーズ…
ニンマリほくそ笑みながら、梟達は闇夜に羽ばたいていった。





- 終 -





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※この話の続き →『甘々交歓

※「ぴょこ♪」っとしたもの…→羽角。
   これがあるものがミミズク、ないものをフクロウと呼び分けているそうです。


2017/10/21    (2017/10/14分 MEMO小咄より移設)

 

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