恋慕夢中⑭







うつら、うつら。
柔らかな水面に浮かび、揺蕩う心地良さ。

   (…海?)

地球上のあらゆる生物がここから生まれ、全ての生命が還るべき場所。
その偉大なる温もりに抱かれ、意識も体も混ざり合い、溶け込んでいく。

   (ここが、俺の…居場所。)

大きく大きく、深呼吸。
海の中?だけど、溺れることはない。
俺を包み込む優しい匂いを、胸いっぱいに満たし、そしてまた…うつら、うつら。

   (気持ちよくて…眠たい…)


もっと、この優しさに満たされたい。
身体も心も、細胞のひとつひとつまで。全てが交ざり合うぐらい…もっと、もっと。

いっそ溺れるほどに取り込んでしまおうと、感覚の乏しい腕を伸ばし、精一杯引き寄せる。
あたたかくて、すべらかな感触の中に潜ると、身体の前面から溶け出し…意識が浮かぶ。

あまりの心地良さに、ふわり。頬を緩め、さらに深く潜ろうと腕に力を入れると、
今度は身体の背面から強い力に包まれ、温もりの中に沈んでしまいそうなのに…ふわり。
中も外も、全部周りを満たされながら、浮遊感を感じるなんて、海の中としか思えない。

   (隙間なく、ぜんぶ、ハマって…)


カチリ、カチリ。
何かがひとつずつハマりはじめ、満ちていく。
二度と外れることのない結合音が、穏やかなさざなみの中に響き渡る。

   (あと少し。もう少しで確定して…おわる。)

生命の『はじめ』と『おわり』が交ざり合う海の中で、
『はじめ』と『おわり』が…『α』と『Ω』がつがい合い、永遠となっていく。

   (あぁ、なんて、気持ちよくて…)



「すごく、眠たい…」
「お、起きた…か?」






*******************




    (ここ、は…?)

目を開けても、周りは見えない。
動かした瞼と頬に当たる、温かい…肌の感触。
少し身じろぎすると、身に覚えのある固さと、ある種の懐かしさを感じる古びた匂い。
そしてそれ以上に、『かえってきた』感を覚える、心地良い…

   (かえって、きたんだ…)

   合宿の度に、ここで一緒に過ごした。
   甘い甘い名の、蜃気楼が見える場所。
   仕事を終えた御褒美に…うつら、うつら。
   固いソファベッドで、この腕に抱かれて…

「イチゴのお部屋…つまり、夢オチですね。」
「まだ寝惚けてんのか?似てるけど…違う。」


…夢オチ、確定。
梟谷合宿所地下シェルター・通称『イチゴのお部屋』で、あなたと一緒に添寝?ははっ!
なるほど。今までの『アバンチュ~ル☆』は、全部俺の夢だった…もしくは、これだ。

「夏コミではオチてしまった、突発本…結局、冬にオフで発行することになったんですね。」
「は?夢の次は、創作の妄想オチか?寝る前に構想練ってたら、そのまま…苦しい夢だな。」

「本当に、苦しい夢でしたよ。夏だからって調子に乗った挙句…大失恋のバッド・エンド。」
「そりゃあ、夢か妄想で間違いねぇな。ハッピー・エンド目前…俺が、起こしてやるから。」

よっこいしょ…と、ジジ臭い掛声とは裏腹に、ひょいっと頭半分ぐらい軽々浮き上がった。
身体の前面を覆っていた温もりが離れ、俺は咄嗟にしがみついて元の位置に潜ろうとしたら、
大丈夫だ…と、背面を包んでいた手で優しく撫でられ、その温もりが今度は頬にやってきた。


「目…開けてみろ。俺は…誰だ?」
「…っ、く、黒尾、さん…です。」

「似たやりとり…赤葦も覚えてるよな?」
「シンジュク…合宿前の買い出しです。」

「今は、夏合宿中。ここは、イチゴのお部屋に似た…ショーナン・コロニーのシェルター。」
「夢でも妄想でもなく、現実だった…ですが、今の現状は、夢か妄想としか思えませんね。」

「ほほぅ。俺と抱き合って、おでことおでこをひっつけて寝るのが、お前の夢だった…と。」
「俺の夢見た王子様とはかけ離れた物言い…これが紛れもなく現実だと、目が覚めました。」

ったく、俺のお姫様のおクチの悪さ…一体誰に似たんだか。
そう笑いながら、黒尾さんは両頬を親指と人差し指で摘み、ぷにゅぷにゅぷにゅ…
冷ややかな視線で抗議する俺を確認してから、温かい親指の腹でそっと唇の端に触れた。


「いつも通りの冷静さ…すっかり戻ってきたみてぇだな?」
「黒尾さんの手指からは…異常な冷たさが抜けましたね。」

「『冷たさ』の理由…もうわかってるだろ?」
「『薬』の…沈静効果が消えたから、です。」

さっきまで夢で見ていた、『海』のイメージ。そして、夢にまで見た…現実。
久々に『冷えた』アタマと、『温かさ』を取り戻したココロが、ひとつの答えを確定させる。

   (もう、ぜんぶ…わかった。)

わかったけど、やっぱり…夢としか思えない。
自分の中で確定した答えは、俺にとって都合が良過ぎる。妄想が糖尿に罹りそうな甘さだ。
ここはとりあえず、いつも通り冷静に…よし、手始めに石橋の欄干から、ぶん殴ってみよう。


「えーっと、まず叩くべきは…っ!?」
「ストーップ!!それは…必要ない。」

今度は人差し指を立てて、唇の真ん中に当て…シ~!っと、間近から息を吹きかけられた。
指一本を挟んだアッチとコッチで、唇と唇が向かい合い、呼気が唇を掠めていく。

互いの吐息の熱さに、失われたはずの想いが蘇り、否が応でも鼓動を高鳴らせる。
そんな俺に気付くこともなく、黒尾さんは真剣な表情で一度目を瞑ると、小さく息を吐き、
この『大前提』を、自らの口で宣言して確定させることだけは、必要不可欠だろうな…と、
再度瞳を閉じて、大きく大きく息を吸込んでから、静かに言葉を紡ぎ始めた。


「俺は、『α』だ。そしてお前は…」
「どうやら『Ω』…みたいですね。」

「信じられねぇけど…そうらしいな。」
「信じられなくとも…わかりました。」

「認めるしか、ねぇんだけどな。」
「これが俺達の、個性ですから。」

よし…それなら、これから俺にとって最も都合の良い解釈をして、現状の確認をするから、
お前も同じように、考えられないぐらい最高かつ最善の可能性だけを選択し、肯定してくれ。

「了解致しました。ただし、俺に都合が良い場合に限りますが。」
「相変わらずなへらず口を聞いて安心したぜ。じゃ、始めるぞ。」


俺が自分のことに気付いたのは、つい最近…夏合宿準備中の、『怪奇現象』に遭った日だ。
そして、お前が自分のことをちゃんと自覚し、納得して受け入れたのは、ほんのついさっき…

「俺達が出逢ってからそれまで、互いのことはおろか、自分のことも…全く知らなかった。」
「えぇ。全く以って、仰る通りです。」

「俺がお前に抱いていた想いも、逆にお前の方も…『遺伝的資質』とは無関係だ。」
「っ…、その通り、です…っ!」

なけなしの勇気を振り絞った俺の『肯定』に、黒尾さんは音が出るほど相好を崩し、
蚊の鳴くような声で「良かった…」と、盛大に安堵のため息を零した。
そして、緩む口元を抑えるかのように、唇に当てていた人差し指に、キュっと力を入れた。


「ゴミ捨て場で…お前とのキスが嫌だったわけじゃない。笛の薬を吸わせるためだった。」
「月山組のキスに触発され、覚醒しかけていた俺を、鎮静化させるため…ですね。」

「つまり、『大失恋』とやらは…誤解だ。」
「そう、だと…願って、ます。」

「間違いなく誤解だ。良いお返事は?」
「りょっ、了解…させて下さい。」

「俺も本当は…お前と、したかった…からっ」
「っ!!!あっ…りがとう、ございます…っ」

誤解を完全に消し去る言葉と、それに対する『良いお返事』に、二人同時に…大赤面。
そして、タイミングが完璧に揃った、長〜〜い安堵のため息をついてから、
息と気合を胸いっぱいに吸い込み、黒尾さんは話を再開した。


えーと、その…続けるぞ。
とは言え、場のステキな雰囲気に流されて、キスしてもいいってわけじゃない。
むしろ、カラダを重ねるよりも、キスの方がはるかに危ない…俺達にとっては、な。
αとΩの抗体は、体液やフェロモンに直接触れることで、徐々に結合し…『つがい』となる。
精液はコンドーム等で防げるが、深いキスによる唾液の交わりを防ぐ方法は…ない。

「相性の良過ぎる俺達がキスしちまうと、ソッコーで『確定』するおそれがあるから…」
「あの場では、まだ…できなかった。」

「あぁするしかなかったとは言え、お前を悲しませちまって…悪かった。」
「っ…は、い。」

あの時に見た絶望と、今まさに見え始めた希望が混ざり合い、少し目眩を感じた。
込み上げてくる何かを飲み込もうと、無意識の内に口元に力を込めて息を詰めると、
黒尾さんはそれを解すように、唇を抑えていた指を半分だけ下げ、優しく撫でてくれた。


「赤葦が、何と返事しようと…」

お前がどこに居ても、笑顔でいられるように。どこに居ても、そばに駆けつけられるように。
俺は全身全霊で努力し続け、お前のことを永遠に想い続けると…今ここで、誓う。

   たとえ俺達が『αとΩ』じゃなくても、
   この想いは変わらない。
   勿論、運良く『確定』したとしても、
   決して変わりはしない。

   この先、長いことずっと。
   死ぬまでずっと、そばに居て…
   二人で一緒に、笑い合っていきたい。

   こんな俺でもよかったら、
   俺と、キスして…
   俺と、つ、つ…っ
   つきあって、く…っっっ!?


「いっ…痛ぇぇぇぇぇぇっ!?なっ、何しやがる!?」
「聞こえなかったので、『つ』の続き…やり直しっ!」

「こっちは死ぬような思いで、一世一代のセリフを囁いてんのに…頭突きは酷ぇだろっ!?」
「酷いのはそっちでしょ!?今のは誰がどう聞いたって、交際申込レベルじゃないですっ!」

「そんなことは、俺もわかってるよ!でも、そう簡単に『つ…』とは、言えねぇだろうが!」
「そこをサラっとキメるのが、俺が夢見る王子様です!俺を泣かす勢いで、ほら…再挑戦!」

「よぉーし、わかった!今から言い直すから、お前は絶対…肯定の返事をしてくれよっ!?」
「流石は腹黒!成功の確約を得てから求愛するとは…悪魔の如き策、心から恐れ入りますっ」

「別に、お前が先に言ったって、全然構わねぇんだぞ?俺は肯定の返事を…確約してやる!」
「っ!?そ、それは…おっ、俺達の間では、俺が『後攻』だって、決まってましたよね!?」

「くっ…わ、わかったよ。絶対…泣くなよ?」
「そっ…それは、確約…できません、けどっ」

「赤葦。そこは…大見栄を張っとけよ。」
「黒尾さんこそ…往生際が悪過ぎます。」

照れ隠しのしょーもないやりとりに、自然と笑みが溢れてくる。
とことんシリアスが似合わない、キメきれないモテないカタブツ…『似た者同士』を再確認。

遅ればせながら膨らみきった期待と、先取りした歓喜で震える頬を、互いに両手で包み合う。
ココロの奥底まで見透すように、真正面から見つめ、互いにしか聞こえない声で…再挑戦。


「ずっと前から、赤葦を…愛しく想ってた。」
「俺も黒尾さんのこと…お慕いしてました。」

「俺と『つがい』となる、キスをし…っ!?」

やり直した『一世一代のセリフ』を、赤葦は最後まで聞かなかった…言わせなかった。
瞳を閉じて、黒尾の頬を強く強く引き寄せて…

「俺が先に、もう…キス、しちゃいました。」

ネックレスを付け合った時と同じように、赤葦は先攻を取って『確約』した。
涙を煌めかせながらも、歓びに満ち溢れた太陽のような笑顔に、黒尾も同じ輝きを返し、
熱く潤んだ唇に、永遠の誓いを込めたキスを落とした。


「二人で、ひとつに…『つがい』になろう。」




*******************




「ん…、朝?」
「ん…はよ?」


摺りガラスから滲む燈色の陽の眩しさに、夢うつつで目を擦りながら、大あくび。
どうやらいつの間にか、二人そろって大爆睡していたらしいが…

「…って、今はいつの『朝』ですかっ!!?」
「いや、これ、朝日じゃなくて…夕陽だろ。」

いやいや、どっちにしても大問題だ。
仮に最短の夕方でも、合宿撤収時間の正午をはるかに突破…大遅刻じゃないか。
赤葦は慌てて起き上がり、ソファベッドから飛び降りかけたが、それを黒尾が抱き止めた。

「引率!その前に、連絡しないと…わっ!?」
「心配するなって。もうちょいここに…な。」

あったかくて、ややしっとりした胸の中に、逆戻り。反射的に抱き付いて、頬をすり寄せる。
肌と肌が触れ合う感触に、思わずほわ~♪の、直後…赤葦はタオルケットの下に潜り込んだ。


「なっ、なんで…何も着てないんですか!?」
「そりゃお前、やんごとなきアレコレ故に…」

…ってのは、半分だけ冗談だ。
俺は、ここに来る途中に雨&海でずぶ濡れになったから、ソッチに…全部干してある。
んで、お前は俺がここに来た時には既に、ほぼ全裸…アレやコレでヌレヌレになってたから、
何とか宥めて剥がして脱がせて、洗って拭いて掛けて…ほら、アッチに。

「お前はただひたすら、俺の名を呼び続け…」
「記憶にありません!お洗濯…感謝します!」

俺にも責任があるが、せっかく持ってきたお前のホイッスルを吸わせようとしたら、
それはイヤです!もうそんなので誤魔化さないで下さい!の一点張りで、えらい往生したぞ~
延々ダダこね続けるから…『コレは京治がマジでピンチな時にね♪』を、急遽飲ませたんだ。

そんな詳細説明は不要です!と、黒尾の鳩尾あたりまで潜り込んで耳を塞いでいた赤葦だが、
黒尾らしくない声色…しかし、確実に耳慣れた口調に、ずるずると胸まで這い上がって来た。


「今のモノマネ、もしかして…っ!」
「心配いらねぇって…言っただろ?」

お前を発見し(中略)、寝かし付けた後…
俺はすぐに研磨に連絡して赤葦の無事を伝え、俺達を置いて先に帰るように、諸々手配した。
それから、万一の事態に備えて待機してくれていた方々に、荷物回収&お迎えを頼んだんだ。

「ショーナンの海を楽しんで、観光してから行くから、夕方まで二人で待っててね♪…と。」
「『京治がマジでピンチな時』に、の~んびりアバンチュ~ル☆…全く、あの人達らしい!」

ま、そういうことだから、そろそろ服も乾いただろうし、身支度して待ってようぜ。
そうだな、何なら…黒幕ことスポンサーが来るまで、『幕の内側』でも捲ってやろうか?

「えぇ、ぜひ。俺に服を着せながら、洗い浚い曝け出して下さいませ…ウチのお婿さん?」
「あー、それ…すっげぇ『遺伝!』を感じるパワーワードだよな。初対面で言われたぜ。」


古代ギリシャ彫刻のような、完璧な肉体美(お背中)を堂々と曝しながら、
黒尾はソッチの方へゆっくりと歩いて行き、すっかり乾いた自分の服を着終えると、
タオルケットから目元だけ出した赤葦の前を通り、アッチから赤葦分の服を取って戻った。

「ほら、俺のお嫁さん…オミアシをどうぞ。」
「っ!?ぱっ、ぱんつは、自分で履きます…」

ストレートに返って来た服…ではなくパワーワードに、赤葦はタオルケットの中にリターン。
言うのと言われるのとじゃ、破壊力のケタが違うよな~と、黒尾は遠い目でタオルを捲り、
ひとつずつ丁寧に赤葦に服を着せながら、内幕を語り始めた。


「イチゴのお部屋で『怪奇現象』に遭った、すぐ後…」

俺はまず、親に連絡。自分が『α』でほぼ間違いないことを、遺伝的に確認した。
それから、梟谷の闇路監督を叩き起こし、お前のことについてそれとな~く問い尋ねると、
個人情報だから俺からは言えない…と、どこぞの連絡先が書かれたメモを、落として行った。

「それを『偶然』拾ったあなたは…ウチの親と会った。」

お前が『Ω』だと気付いた俺が、守ってやらねぇと!!と、決意したまではよかったが、
俺独りでどうこうできるほど、話は簡単じゃねぇ…『大事故』のリスクが極めて高いからな。
だから、お前のことを知っていて、確実にお前を守ってくれる人達に、協力と援助を要請…
『京治の幸せなΩ人生を応援する会(仮)』の一員として、様々な策を講じていたんだよ。

「便利機能盛りだくさんな、例のホイッスル…高校生に買える値段じゃありませんよね。」
「スポンサー様方の援助なしではキツい…が、もっとキッツイお叱りを受けまくったぜ。」

   どうせなら薬が一番効くグッズを…だって?
   何言ってんの黒尾さん!そんなの…ダメっ!
   一番なのは、指環…黒尾君、京治に渡せる?
   っていうか、京治と一緒に買いにくるべき!

「ロマンのわからないお婿さんなんて、僕達はゼ~ッタイ、認めないからねっ!!…とな。」
「アウェーな宝飾店で、ロマン万歳な万年新婚夫婦に泣きつかれた…心からご愁傷様です。」

そんなわけだから、コレは俺が黒尾・赤葦家の両親と3年ローンを組んで買ったもの…
海に落としたり、失くしたりしないように、しっかり首からかけといてくれないか?

「ネックレスって、先に金具を止めてから首に通せばいい…ついさっき、気付きました。」
「あ~、それな!マヌケな自分達に、脱力しそうになっちまった…って、話を逸らすな。」

「どうせ、『つがいになれたら、ローンは免除してあげるわ♪』という、特約付でしょう?」
「『指環購入時には、別途御相談承ります♪』って、ウチの親からお嫁さんへの伝言だよ。」

「俺の義親は…悪魔ですか?」
「多分、俺の義親も…だろ?」

「この子にして…その親あり、ですね。」
「これぞ、遺伝の妙…ってことだよな。」


パーカーのチャックを上げ、手櫛で乱れた髪を整えて。
最後の仕上げに、黒尾が赤葦にペアネックレスをかけようとすると、
赤葦は首を振ってそれを拒み、驚く黒尾から奪い取ると、後ろ手に隠してそっぽを向いた。

「黒尾さんのネックレスは…どこですか?」
「俺のか?あぁ、それなら研磨に預けて…」

「へぇ~、孤爪に。そうですかそうですか…」
「何をむくれてんだ?いいからそれを首に…」

「小姑から取り返すまで、絶対着けません!」
「まさかのジェラシーか!可愛いな、おい!」

降参だよ…と、黒尾は両手を高く上げ、その手で赤葦の頬を包んで正面を向かせた。
少しずつ顔を近付け、赤葦が目を閉じ、鼻先同士が触れ合ったところで、黒尾は動きを止め…
小さく、だがはっきりと、赤葦に対してゴメンを言った。


「赤葦が与り知らぬうちに、たくさんの策を弄して…悪かった。」

   もう二度と、赤葦の知らないところで、
   お前に罠を張ったりしないと…約束する。
   (ただし、バレーに関することは除く。)


「但書含め、誠実で優しい謝罪と誓い…ありがとうございます。」

赤葦は嬉しそうに微笑むと、黒尾の首に腕を回して抱き付き、頬に頬をピタリと寄せた。
そして、もう一度ありがとうを言うと、内緒話をするように、黒尾の耳元にそっと囁いた。

   俺の与り知らぬうち…本当にそう思います?
   どんなツラして宝飾店に行き、買ったのか…
   全部バレバレですと、俺は言いましたよね?
   悪魔の子は、小悪魔…これぞ、遺伝の摂理。


「俺達、やっぱり…似た者同士でしょう?」
「お前には一生敵わないと…確定したよ。」

黒尾は再度、降参だ…と笑うと、赤葦をしっかりと腕に抱き返し、
夏の夕焼けのような熱を込めた視線を絡めながら、二人でキスを共鳴させ続けた。




   - クロ赤編・完 -




   →⑮クロ赤編蛇足へGO!



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『暁の海』(瀬戸内海某所)
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※BGM →ONE OK ROCK 『Wherever you are』


小悪魔なきみに恋をする7題
『07.(きみは永遠の小悪魔)』

お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。



2020/10/18

 

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