ご注意下さい!

この話は、BLかつ性的表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さいませ。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)




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    恋慕夢中⑬







「凄く…綺麗だよ。」
『………。。。』



俺とツッキーが泊まる部屋は、スペシャルVIPルームだよ!って、ツッキーは言ってたけど、
孤爪さんにホールから送り出された後、ツッキーが向かった先は、合宿所の上じゃなくて下…
誰がどう見ても従業員用スペース、しかも厨房の奥にある、冷たぁ~く薄暗ぁ~い物置部屋。
せめて蜃気楼が見えるシェルターにしてよ!と思いつつ、重たぁ~い扉を開けた…瞬間。

「えっ!!!?」
「---っ!!」

俺は驚愕の声を上げ、ツッキーは歓喜の声すら上げられないまま、部屋の奥に駆け込んだ。

「す…すごいすごいっ!!何これっ!!?」
「木葉家別荘の『生け簀』…海だよっ!!」

新鮮な魚料理がウリの当合宿所(別荘)は、海の一部をそのまま生け簀として利用していて、
海面下の地下物置部屋の壁面が、強化ガラスになっており、天然アクアリウムに…らしい。
(感極まって要領を得ないツッキーのダダモレより要約&抜粋)

地上や合宿所の表からは見えない部分に、木葉家の内包するポテンシャルを目にした俺達は、
まるっきり水族館なガラスにべったり貼り付いて、目の前を泳ぐ魚たちに魅入った…が。

   (一体、いつまで見てるつもり…?)

予想通り(いつも通り)、小一時間経っても、ツッキーはガラスから一歩も動こうとしない。
すぐ傍の岩場の隙間で、逆立ち泳ぎをしている黒い影に向かって、延々と…愛を囁いていた。


「この日を、どれだけ夢見たことか…っ!!」

はじめて君に出逢った時から、僕はずっと願っていたんだ。
いつの日か、君の傍に寄り添い、枕を並べて夜を越え、共に暁を眺められたら…って。
ウエノ・コロニーのサイエンス・ミュージアム。
当時5歳の僕は、君の傍を絶対に離れたくないと涙し、一生で一度きりのダダを捏ねた…
古代人だった前世の僕も、上野の科学博物館で全く同じことをしたに違いないよ。

あの日から、幾星霜。
20万年の時を越え、運命に導かれた僕達は、今宵、遂に結ばれる…

「月島蛍。シーラカンスと共にここに眠る。」


いそいそとダンボールを敷き、その上に寝袋を広げて、最愛のシーラカンスと添寝(もどき)。
俺はツッコミを入れる気力も湧かず、運命の恋人(?)とのアバンチュ~ル☆に興じる姿に、
そのままそこで、化石になるまで永遠に寝てればいいよ…と、本気八割で思いながらも、
ツッキーからもシーラカンスからも離れた場所に、ダンボールを贅沢二枚重ねで敷いた。

   (まったく、キラッキラな目をしちゃって…)

怒る気も失せるほど、純粋な愛に満ちた瞳。
20万年越しの夢が叶ってよかったね~と、心から祝福してあげたいキモチもあるけど、
やっぱり、俺としてはおもしろいわけもなく…二人に背を向けて寝袋の上に寝転がった。

   (シーラカンスにまで、ヤキモチ…か。)


思い返せば、今回の夏合宿。
『俺以外を見つめる』『キラッキラな瞳』に、モチを焼き続けていたような記憶ばっかりだ。
まず最初は、おデート中の蜃気楼をぶち破ってきた木兎さんに。
あの人の強烈な魅力には、誰も彼も惹き付けられてしまうけれど…それにしても、だ。
自分と真逆なタイプだからか、無条件に木兎さんには『降参です。』と、懐いちゃってるし。

梟谷のみなさん(赤葦さんを除く)とも、何だかやけに気が合うらしい。
あぁいう『わちゃわちゃ感』はツッキーの最も苦手とするとこっぽいのに、妙に馬が合う??
んで、明らかに自分よりも『一段上』な場所から俯瞰している、正体不明な孤爪さんには、
本能的に『感服です。』と、ひん曲がることもなくストレートにイエス・サー!の最敬礼。

そして何よりも、自分と似たタイプの…黒尾さんと赤葦さん。
この二人には、お互いに口先ではキッツイ毒を撒き合っているように見えるけれど、
↑↑→→↓↓←←ABABぐらい、ぐ~るり回った多角的な深度で…心の底からリスペクト。

   (ツッキーの、大好きな人達ばかりだ。)


種類は少しずつ違えど、みなさんに対してツッキーが向ける視線は、どれもキラッキラ。
中学時代とは比べ物にならない程、ツッキーの世界…交友関係が広がったのは喜ばしいけど、
それまでは幼馴染だけに注がれていた視線が、それ以外にも向けられるようになったことに、
俺はヤキモチ…いや、正確には『ヤキモキ』しまくった夏合宿だった。

   (楽しかったけど、でも…っ)

それらのどんなヤキモキよりも俺の胸が鳴ったのは、やっぱり『ヤキモチ』の方だった。
鉄面皮&無表情でも全然隠し切れない、『お互いを見つめる』『キラッキラな瞳』…
真夏の太陽で焼かれるよりも、黒尾さんと赤葦さんがお互いに恋い焦がれる姿に、
身も心も刺激され、ジリジリ焼き尽くされ…せつなさで胸がキュンキュン鳴り続けていた。

本人達はものすご~っくツラそうだったけど、傍観者の俺にしてみれば、キラッキラの一言!
この夏で、一生分の恋を味わってるんじゃないかってぐらいの熱に、やけどしそうだった。

   I love you. I need you.
   I want you. Hold me tight...!!

どうして自分が放つ視線の色に…相手から注がれる視線の意味に、気付かないんだろう。
無理して気付かないフリ?それか、故意に恋から逃げてるんじゃないかってレベルの鈍感さ?
どっちでもいいけど、俺にしてみればただただ『羨ましい』の一言に尽きるっ!!

贅沢だってわかってる。
当事者はキツいだけなのも、十分わかってる。
わかってるけど、でもでも…っ!!
俺自身の脳には記憶にない、ジリジリと焼ける恋模様に、ヤキモチを止められなかった。


「俺も、もっと…恋、してみたかったな。」

「それ…どういう意味?」



  (あ…、マズった。)

冷たく暗い海よりも、冷え切った低い声。
俺のコトなんて全~然っ見てなかったくせに、そういうトコだけはちゃっかり聞いてたんだ…
じゃなくて、ついポロリしちゃった言葉が、何かしらの逆鱗に触れたのを察知した俺は、
ツッキーの逆立ちした鱗から注意を逸らすべく、直立した方の鱗の話題を強引に振った。

「『海』の『馬』と言えばシーホース…タツノオトシゴは、オスが妊娠&出産だよね!?」
「メスがオスの育児嚢に産卵。その中で孵化して大きくなり、出てくるから…そう見える。」

「海のお馬さんになる…これぞオメガバースっぽいオチだと思わない?」
「僕達ホモ・オメガバースは胎生。タツノオトシゴは似てるけど、卵生なんだよ。」


一見すると、タツノオトシゴはシーラカンスやサメ、メダカやグッピーと同じ卵胎生…
親が胎内で卵を孵化させて子を産む繁殖形態に見えるけど、実はそうじゃないんだ。
卵を産むのが『卵生』。胎盤や臍帯を通じて、親から子へ栄養供給があるものが『胎生』。
タツノオトシゴの育児嚢は『胎内』じゃなく、体外に位置する『腔所』で保護する、卵生…
ティラピアやイシモチ、テングダイ等、おクチの中で卵を孵化&保護するのと、同じだね。

「まぁ、卵胎生と胎生は、厳密に区別すべきじゃないって考えに、変わりつつあるけど。」
「へぇ~!腔所で保育…胎盤を新たに作るよりは、進化しやすそうな方法だね!」

「ちなみに、シーラカンスは卵胎生だけど、どうやって交尾してるのか…未だに不明。」
「卵胎生…つまり、オスがメスの胎内に精子をイれなきゃいけないってコトだよね?」
「そう。でも、シーラカンスのオスが、どんなブツを持ってるのか、わかってないんだ。」
「えっ!?それ…すっごい気になるっ!!あ、そっか!ツッキーはそれを観察するため…っ」
「一晩中、シーラカンスに添寝して…その瞬間をぜひとも目撃したいと思ってるんだ!!!」
「なるほど納得!万事りょーかい!そういうことなら、俺も喜んで付き合うよ~っ♪」


咄嗟に振りかぶったネタだったのに、好奇心を刺激してやまないタネが降りかえってきた。
ネタを振った『きっかけ』を一瞬で記憶からすっ飛ばし、ダンボールをガラス前にズルズル…
ツッキーよりも岩場に近い場所に陣取り、ゴロンと寝そべって逆さ鱗の群れをガン見した。

「そう言えば、イケブクロの水族館で、オトナ向けのイベントがあるって聞いたような…?」
「その記憶は正解。海のいきもの達の『性いっぱい』に注目した、大人気の特別展だよ。」

『もっと♪』と性いっぱい励む姿を、水槽に貼り付きながら眺め、生命への理解を深める…
今まさに僕達がしてるのと同じように、大勢の人も知りたい&見たいって思ってるんだね。

「人もお魚も、みんな一生懸命、恋してる…」
「それが、『生きる』ってこと…かもね。」

「っ…!?」

いつの間にか真後ろにきていたツッキーが、背後から俺を抱き込み…耳元で囁いた。
その吐息の熱さとくすぐったさに、ゾクリと背中の鱗…毛が逆さに立ち上がる。

   (吐息よりも、その…声っ!!!?)

俺の記憶には全くないほどに、蕩けるような…甘い甘い声。
一体どこの腔所から、そんな甘ったるい声が生まれ出てきたのか?
振り返ってそれを確かめようとしたけれど、更に強く抱き込まれ、また耳元に…甘々な声。

   (ツッキー、こんな声、してたっけ…?)


「『海』の『馬』と言えば、もう一つ…」

僕達のナカにも、タツノオトシゴの『つがい』が居る。それが、脳内の…『海馬』だよ。
大脳の側頭葉の深部に、左右一対に存在する海馬は、『記憶』を司る場所。
今しがた見たり聞いたりした短期記憶を、ずっと覚えておく長期記憶にすべきかを選別し、
重要な記憶は海馬から大脳に送り、大事に保存…記憶宅配便の、配送センター的な存在。

「かつて、脳では新しい神経細胞は生まれないって、言われてたよね?」
「んっ…、生まれた時から細胞の数は増えないから、アタマ叩いたら細胞死んでバカに…っ」
「実は、脳内でもごく例外的に、神経細胞が生まれ続けている場所があるとわかったんだ。」
「もしかして、それが…海馬?」

その通り…と、ツッキーは脳の深部、海馬まで届くように、うなじに唇をつけて語り続ける。
唇から伝わる振動が甘さで増幅され、俺の背はゾクゾクと大きく波打ってしまう。

「新しく生まれる神経細胞は、周りの環境のささいな変化に、敏感に反応するんだって。」

例えば朝、駐車場のどこに車を停めたのか。いつもと少し違っても、その違いを認識・記憶。
ランチに食べた、豚骨ラーメン。先週食べた醤油味とは…あ、麺の細さと種類も違ったのか。
晩酌で飲み比べ。コッチよりアッチの方がコクとキレがあって、フルーツみたいな香りだな。

「夜、添寝して…、後ろから響く声が、いつもより、ずっと甘くて…なんか、違う、とか?」
「そういった『わずかな違い』を探知し、それを楽しめるのも…『つがいの馬』のおかげ。」


顎に添えられた手が、後ろへ反らされる。
長期記憶にガッチリ書き込まれている、見た目や態度とは裏腹の、優しいキス…っん!?

「ちょっ、まっ、んんんっ…っ!」

突然押し寄せてきた、息継ぎをする暇もないほどの、強引なキスの大波。
ツッキーの方を向き、しがみつこうと伸ばした手も、束ねて掴まれ、頭上にホールド。
いつもより甘い声で、いつもより激しいキス…『ささい』や『わずか』とは言えない、違い。

   新しい神経細胞が生まれる、繊細な場所。
   だから、海馬は、栄養がたっぷり必要で…
   溺れたりして、酸欠…栄養が無くなると、
   一番最初に、ダメージを、くらうトコ…っ

目の前は、海。その中で、キスに溺れて。
蜃気楼がかかったように、曖昧になり始めた俺のお馬さんに、荒い息が吹きかけられた。


「山口は、恋…した記憶、ないの?」
「っ!!?」

返事は、いらないよ。
きっと、そうなんじゃないかって…僕も思ってたから。
今はこういうカンケー…恋人同士になってるけど、ココに至るまでの『すったもんだ』は、
とても『恋』と言える代物じゃなかった…少なくとも、山口にとってはね。

経過はどうあれ、結果的に恋が実って恋人同士になれたんだから、僕としてはそれでいい。
僕が山口の分も合わせて、二倍以上に恋したんだから、トータルすればちょうどいい…
僕の方も、そう思っていたぐらいだし。

「だけど山口は、恋してみたかった…と。」
「そ、れは…っ」

わかってる。わかってるから…言わないで。
別に山口は、恋せずに恋人になったことを悔やんでいたり、僕以外と新たに恋をしたいとか、
シーラカンスにウツツをヌかす僕に対する、ヤツアタリ的なボヤきをしたんじゃなくて、
お盛んでいいわね~♪と、結婚十年超の夫婦の如く…ただ黒赤組が羨ましいって呟きだよね。

「確かに幼馴染って…結婚十年感あるよね~」
「仲良しだけど、波風立たない感じが…ね。」

僕だって、アタマの中だけは饒舌で、ソトからは何考えてんだかわからない赤葦さんから、
実は脳内で熱烈に想われてるだとか…妄想しただけで昇天しそうなぐらい悶えてしまうし、
腹黒なのは全て愛情と優しさのカモフラージュで、包容力抜群の黒尾さんに庇護されるとか…
身も心も全部預けて、甘えちらかしたくなる衝動を、妄想の中でも抑えきれないからね。

「ちょい待ちツッキー。その妄想…どういう意味か、長期記憶できるぐらい詳細説明して。」
「いっ、いや、ただただ、ふっ、二人共が羨ましくて堪らないっていう…たとえだからっ!」


とっ、とにかくっ、そういうワケだから!
僕は最愛なる師匠・木兎さんの言葉で、この夏は山口と恋しよう!って…決意したんだ。

   恋人になってから、恋してもいいだろ。
   恋人って、恋する人ってイミだからな!
   恋する人と、夏を『真っ盛り♪』する…
   それが『アバンチュ~ル☆』…だろっ?

「夏を、真っ盛り♪する…ちょっと意味不明だけど、めっちゃ木兎さんっぽいね~」
「意味不明なんかじゃないよ。夏は真っ盛りで大正解…夏だからアバンチュ~ル☆なんだ。」

そもそも『夏』が、そのまんま『盛ん』という意味を持つ漢字だからね。
冠やお面をつけて両手両足を動かし、雅やかに舞う…先祖崇拝の夏祭りを表している字だよ。
地獄での受苦を免れた亡者達が、喜んで躍る様を模したと言われているそうなんだ。

「それって…夏の、盆踊りっ!!」
「海に入る前に、準備体操がてらウェ~イ!と踊ったアレが、まさに…『夏』だってこと。」

そんなこんなで、決意したはいいけどキャラ的に自分から『夏♪』できない僕は、
『黒赤組をαΩにする計画』に便乗する態を装うことで、精一杯『夏♪』を演出したんだ。

「へぇ~!なるほどね~!…とでも、俺が言うと思った?」
「いや、全部バレてるだろうなぁと…僕らしくなさが、自分でも痛々しかったし。」

「そういう『わずかな違い』に気付けるぐらいには…長くて身近な付き合いだからね~」
「それなら山口は当然、この部屋に入る前に、僕が『薬』を飲んだことも…知ってるね?」


知ってる。知ってたから…言わなかったのに。
いつもと違う甘い声、いつもと違うキス。いつもより堂々と肌を撫で、服を脱がし始める手…
その全てが、ツッキーらしからぬお盛んさを伝え、それに俺は敏感に反応しているのだから。

薬の効果から、もうそろそろ限界だろうと、性急に擦りつけてくる腰の動きで察する。
でも、もうちょっとだけガマンして…ちゃんと知っておきたいことがある。


「『わずかな違い』に気付く付き合い…木兎さん達も、『知ってた』んじゃないの?」
「おそらく…ね。『知ってるよ。』って断言してたからね。」

なぜだかよくわからないけれど、何となく僕と気が合う、梟谷のみなさん。
強烈な個性を放つ面々…僕と同じ『βα』が集まってるんだって、磯遊び中に聞いたんだ。
そもそも、バレー強豪校の梟谷は、一部例外を除き『α因子を持つこと』が入部資格らしく、
入部時に身体測定と共に血液(遺伝子)検査がある…監督は全員の素養を把握してるって。

なんだかんだで、器用貧乏…マルチな才能で財を成した木葉家も、月島家と同じαの家系。
木兎さんのムチャ振りにビクともしない…どころか、一緒に遊び倒す部員も『類友』だよね。

「でも、赤葦さんだけは、違う。ムチャを忍耐強く受け入れる、常軌を逸したドMっぷり…」
「『ホンモノ』のΩぐらいじゃなきゃ、あのわちゃわちゃはまとめられないってことだね。」

赤葦さん本人は、自分だけが違うことに気付かない…苦労人属性が強すぎるからね。
未だΩ性徴をしていなかったら、Ω本人には自分がΩだとわからないのも、理由の一つだけど、
『無茶苦茶な先輩方&お目付け役の後輩』という『役割』に、素養が隠れてしまったんだ。

「四六時中一緒の、仲良しさんな梟谷だったから…『わずかな違い』に気付いてたんだね。」
「赤葦は、俺達と違う。だからこそ、ウチは上手くいってるんだぜ~♪…と、喜んでたよ。」


へ~!なるほどね~!
今度は心から、感嘆の声を上げ…いろいろ全部、納得だよ~!と、腰でそっと押し返した。
そして今度は逆に、俺が砂遊びの最中に聞いたことを、ゆっくりとツッキーに話した。

「音駒さんは、梟谷さんと逆…『βΩ』のネコ集団らしいよ。」

別に集合をかけたわけじゃないけど、どこからともなくネコが集まって来る…結果、
打たれても打たれても、しなやかに辛抱強くボールを拾い続けるチームカラーが完成だって。

「そのネコ集団が、数年おきに全国行きの切符を手にする、強豪校になる…」
「ネコを束ねる『ボス』…毛色の違う『α』が入った時、だね?」

「ボスに甘えるのは、当たり前だし。面倒事は全部ボス任せ。それが、ネコの流儀…って。」
「そっ、それを抱えられるだけの包容力…『ホンモノ』のα以外、到底無理でしょ。」

こっちの方も、『兄貴属性』が強すぎて…α云々は全くカンケーないっぽいよね。
今年のチームは何か強ぇから、多分ボスがα因子持ってんだろうな~ま、どうでもいいけど。
…って、ネコらしく興味なさそうな顔で言いつつ、ボス大好き♪って背後で尻尾振ってたよ。


「付き合いの長い仲間の『違い』は、何とな~く、それとな~くわかる。だけど…」
「さすがにお互いの『お相手様』までは、わかりっこない…口外するネタでもないから。」

   俺らの可愛い黒尾(赤葦)は、多分ホンモノ。
   でも、赤葦(黒尾)まで、そうだったなんて…
   知らなかったけど、これだけは知ってたぜ?
   アイツらが『お似合い』だってことは…な♪
   もうそれで…それ以外、どうでもよくない?

「…という、仲良し猫梟の大合唱が、聞こえてくるよね~」
「『知ってたけど知らなかった』×2が、冗談じゃ済まされないイタズラに…結果オーライ?」


ガラスに映った視線同士を合わせ、クスクスと穏やかに微笑み…息を奪い合う深いキス。
俺の手の封印を解き、その手で俺のポケットをまさぐって目的のモノを取り出すと、
ツッキーはそれを俺の唇に当てて…今度は僕の『知らないこと』を教えて欲しいと囁いた。

「赤葦さんのおにぎりの中に盛り、今から山口のナカにも盛る、この抗α剤は…」

αの発情衝動を抑える『抗α剤』の成分は、オメガミン…Ωそのものといえる。
これは、孤爪さんに頼まれて、僕が兄ちゃんの薬を(予備含め2錠)くすねてきたものなんだ。
それに対し、今回のゴホウビとして頂き、僕がさっき飲んだ方…抗Ω剤は、その逆。
Ωが強烈な発情に苛まれた時に服用する、この薬の主成分は、アルファミン…αそのまんま。

この『ゴホウビ』はオトナのオモチャ…緩やかなセックスドラッグとは、明らかに違う。
僕が持って来た、兄ちゃんの『ホンモノのα専用』と同じ、医師が処方したものだった。
つまり、どこかに赤葦さん以外の『ホンモノのΩ』が居るっていう、紛れもない証拠だよ。

「ねぇ、山口。この薬の出処は…あっ!?」


「そんなこと、もう…どうでもよくない?」


*****



月島の台詞を遮るように、山口は唇に当てられていた薬を舌で絡め取り、ゴクリ。
その直後、山口から立ち昇り始めた『知らない山口』の気配に、月島は突如、過激に呼応…
さっきまで大人しかった体中を炙りはじめた、『知らない自分』の熱に戸惑っている間に、
山口は荒い呼吸で自らの寝袋を引き寄せると、月島のものとピッタリ並べて敷いた。

「黒赤の、ホイッスルほどじゃ、ないけど…これも、恋人用…『ペア』なんだ、よ…っ」

チャックを互いのものに噛ませると、二つが一つに繋がって、『二人用』の寝袋に変わる。
山口は巣穴に帰るかのようにその中に頭の先までスッポリ潜り込むと、ゴソゴソ…
しばらくすると、山口が着ていたTシャツや短パン等が、入口から外に投げ出された。

   ひょこり、ひょこひょこ。
   巣穴から顔を出す、黒い…触覚?
   その動きに惑わされるように近付くと、
   中から出てきた二本の指が…ちょんちょん。

「せっ、せまいけど…いらっしゃい、ませ…」

シーラカンスの交尾を観察して、それを真似してみよう…なんて『長期戦』は無理だから、
今回は別の、海の仲間…シオマネキ風の巣穴内交尾ごっこに、挑戦してみない?
『潮招(望)』…潮は海の朝。暁を共に見たいと望むつがい達を、俺達も巣穴の中から応援…

「これなら、シーラカンスにも、見られない、から…っ」


恥かしそうに指先のハサミ…『ピース』を揺らして、月島を招く山口の熱烈な求愛行動に、
営巣してつがいを招くのは、オスの方なんだけど…と、上擦った声を空回りさせながら、
月島は自らを覆う殻を全て脱ぎ去り、巣穴の中に体を滑り込ませた。

カラダ全てが触れ合う狭い巣穴の中で、素肌を密着させるだけで、心拍と息が上がる。
いつもとは比べ物にならない、甘く蕩ける呼気が当たった場所から、今度は熱が上がる。
『甘さ』の発生源に誘引され、触れ合う唇…だがそのキスも、全く知らない甘さだった。

「これ、が…っ!?」
「αと、Ωの、キス…っ!?」

ただ触れ合っただけで、全身から力が抜けて。舌を絡め合ったら、もっともっと甘くなって。
キスだけで意識がトびそうなぐらい、『繋がった感』に満たされるだなんて…

「黒尾さんが、キスを、避けてた、理由…っ」
「僕達にも、今なら、わかる…っ」


甘さを全て吸い付くさんばかりに、貪り合うようなキスを続ける。
その甘さが集まり、熱となり。抱き合う二人の中心で、蜜を滴らせ始める。

「一つの寝袋に、二人で、潜りこんで…っ」
「しかも、裸で…っ、凄く、夏っぽい、ね…」

あぁ…熱い。暑くて、たまらない。
まるで海で泳いだかのように、互いの雫で潤み滑る、肌と肌。
会話のために唇が離れた一瞬で、山口は月島の腕の中でくるりとカラダをくゆらせ、
巣穴の外でしていたのと同じ、背中を月島のお腹につける『添寝スタイル』に戻ると、
後ろ手に回した『ピース』で月島の熱を優しく挟み、自らの『巣穴』にすんなり招き入れた。

「ん…っ、住み慣れた、我が家…?」
「あ…っ、な、んか、違う…?」

つい数時間前、お風呂場で『一時帰宅』し、玄関付近だけを何度か出入りしてはいたし、
間違いなく住み慣れた『我が家』だと、カタチではわかるのに…何かが、違う。
ココにコレがハマるのが、自然。そう錯覚してしまうほど、ハマり方のレベルが…違う?

「αと、Ωの、結合って…っ」
「きっと、こういう…あっ、あぁっ…」

その『違い』を細部までしっかり確認するために、月島は何度も何度も出入りを繰り返し、
山口はそんな月島を全身で出迎え、奥深くまで招き続けた。

「模様替え、したみたい…っんあ、ぁっ!」
「新鮮な、カンジ…だねっ…っ!」

「つっ、き…おく、激し…すご、い…っ」
「やまぐち、が…、盛んに、動く…からっ」


   唯一無二の、いつもの『つがい』。
   だけど、いつもとちょっとだけ、違う。
   つがいの馬が、敏感に『違い』に反応し…
   それが『快楽』だと、記憶に深く刻み込む。

「ずっと、記憶、してたい、のに…っ!」
「記憶、もう、トんじゃい、そう…っ!」

真夏の蜃気楼のようにおぼろげなのに、全身で確かに感じる熱に惑わされながら、
海が朝日に照らされ、幻が暁に溶けて消えるまでずっと…二人は夏の恋に溺れ続けた。


「ツッキー、もっと、一緒に…!」
「夢中で、恋…し続けよう、ね。」




- 月山編・完 -




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BGM →TUBE『恋してムーチョ』

※タツノオトシゴについて →『
αβΩ!研磨先生④
※記憶について →『
億劫組織③



小悪魔なきみに恋をする7題
『07.そして再び惑わされた』

お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。



2020/10/11

 

NOVELS