恋慕夢中⑨







バレー馬鹿の俺達から、バレーを取ったら、『馬しか』残らねぇ…確かに俺はそう言った。
だから、俺の愛弟子のツッキー&つがいの山口にも、一緒に馬になってくれ!って頼んだよ。

「でも、だからって…ヤりすぎだろっ!!
   こんなに完璧に『お馬さん』をヤり遂げちまうとか…さすがは俺のデキすぎる愛弟子!」


*****



野球部2チーム分の夕食を平らげた面々は、弾けそうなお腹を抱え、再び浜辺に繰り出した。
夜の海と星空を眺めながら、しっとりとロマンチックにお散歩…なんてするわけもなく。

引率組があらかじめ発送しておいたダンボールを、ソースケ!コースケ!と神輿の如く掲げ…
赤葦が着火用のロウソク全てに火を点し、黒尾が鎮火用のバケツ全てに水を張るより前に、
神輿を砂浜に転がしまくって中身をぶちまけ、我先にと散らばった花火に飛びついた。

「おいおいおいっ!『みこしまくり』ごっこをヤってみたい気持ちは、十分わかるが…」
「水無(すいむ)神社の例大祭だからって、花火まで…スイムさせないで下さいよっ!?」


つまらぬことを、言ってしまった…

どうせ自分達のオコゴトなんて、誰も聞いていないはずだと思い(願い)つつも、
自らの墓穴を掘るように、砂をまき散らしながらロウソクを立てる穴を掘り進める赤葦に、
『つまらぬこと』を言わせるように水を向けた黒尾は近付き、共に砂を被りつつ声を上げた。

「あ~、水無神社と言えば、祭神は高照姫(たかてるひめ)…打上花火っぽい名前だよな~?」
「古事記ではその名前ですが、日本書紀だとなぜか下照姫(したてるひめ)…線香花火です。」

「天高い場所から照らしていたはずの姫が、なぜ地に落ちてしまったのか…?」
「そのことについて、線香花火しながら…あちらでゆっくり考察しましょう!」

考察と言っても、答えはもう『水無』という名前を見れば、一目瞭然なんですけどね。
水無(みなし)は元々『水主』…水が無いどころか、水を司る神という意味です。
水の主から水を無くしたと『みなし』た…高照姫が下照姫に落とされたのと、似てますよね。

「夜空を輝かせていた月の姫様が、地球へ…」
「かぐや姫が落とされた話にも…似てるな。」

「今宵は新月…海の下を、照らしています。」
「月の無い夜…だからこそ、花火が赫やく。」


結論を言えば、花火姫さんに火を点けた旦那様は、火明命(ほのあかり)…別名・饒速日尊。
つまり、奥様は瀬織津姫…まさに『水の主』たる存在で、『落とされ』続けたお姫様だ。
ちなみに、木曽・水無(すいむ)神社と深い繋がりのある、飛騨・水無(みなし)神社には、
元々いた神々が大集合…古代人の時代から、この国を守り続ける『水主』達の坐す場所だ。

「だから、二次大戦終結後のゴタゴタから『この国』を守るために、象徴たる存在を…」
「三種の神器の一つ『天叢雲剣』を、伊勢神宮から飛騨・水無神社に疎開させたんだ。」

「高照姫と火明命の孫が、まさに…天村雲。」
「じじばばの所に里帰りなら…安心だよな。」


あぁ、そうそう。これは余談ですけど…

「島崎藤村『夜明け前』の主人公モデル・藤村の父は、飛騨・水無神社の元宮司さんです。」
「夜明け前に起きたら、里帰りしてた天照…太陽が、水…海から天に戻る姿が見られるぜ?」

   独りでは 遠い明日を
   夜明けのままで 越えそうで…

「くくくっ、黒尾さん!!?たった今、自分で口ずさんで気付いたんですが…っ」
「『HEART OF SWORD』…『夜明け前』の主題が、『剣』に繋がったっ!!?」

これは…困りましたね。
俺達の得意な日本史もしくは国語の宿題をするはずでしたのに、まさか赤点の音楽ネタに!?
そこは回避する気満々でしたが…またまた日本史に里帰りしてくるなんて、革命的考察です!

   相性よりも 深いふたりは
   すれ違って かまわない…わけ、ねぇよな?


なぁ、赤葦。
やるだけ損、努力したって結果は散々。そんなことは、俺にだって十分わかってる。でも…
熱くてつらいモノを隠して、独りで生きていくなんて…すれ違いだなんて、もう御免だろ?
だから、独りでは遠いのなら、俺は赤葦と共に時を過ごしながら…ん?

「赤葦と過ごす時…あかとき、つまり『暁』。今は『夜明け』を表す言葉だよな?」
「ですが、元々は夜明けよりもずっと『前』…夜深い刻限をさしていた言葉です!」

暁には、通暁…『はっきりわかる・悟る』という意味や、
優勝した暁には…等、『待ち望んでいたことが実現する』という意味もある。

「何かをはっきり悟ったり、願いが叶うのは…夜のうちなのか?明けてからなのか?」
「なぜ『暁』は、夜明けを越えたのか…日があるのと無いのとでは、大違いですよ。」


大違いと言えば、この点も非常に気になる。
夏の風物詩・神輿を担ぐ時の掛声…地域や祭によって、大きく違うのだ。

先程の『ソースケ!コースケ!』は、例外中の例外と言っていいレアケースだろうが、
『ワッショイ!』『セイヤ!』『ソイヤ!』ではない場所も、たくさんある。

「例えば瀬戸内では『チョイサジャー!』…語尾の『ジャ』は広島弁ではなさそうだ。」
「ド定番の『ワッショイ!』も、語源不明…宗助幸助の方が、由来が『暁』なんです。」

そして、『暁』という漢字。
『日(太陽)』と、『人の上に横線(高い・平ら)』その上に『土を高く盛った』ものの象形だ。
『土を高く盛った』ものとは、地祇…元々いた神。それを人の上に『平らかに乗せた』姿は…

「まるで…まるっきり、御神輿です!」
「祭は本来…夜に執り行われるもの!」


あぁ、どうしましょう黒尾さん…っ
今年の夏こそは、考察とかヌきにして、ただひたすらヌキヌキしようと心に剣を宿し、
ぶっ飛び系のアバンチュ~ル☆かつバブリ~な歌ばかりを、選びに選びヌいてきたのに、
しょーもなくスベったオヤジギャグを照れ隠しするだけのネタが、巨大謎に繋がった…っ!?
そんなガクガクとワクワクに震えが止まらない同人作家と、俺は今…全く同じ気持ちです。

「オネダリを越えた『たかってる姫』よりも、『したってる姫』の方がイイ♪ってオチも…」
「『照れ隠し』な名前と共にネタも落とすどころか、おちおち寝られねぇ…オチ着かねぇ!」

さっき言いそびれたことを、改めて言う。
俺達の中に宿った剣を落ち着かせ、このドキドキとソワソワの理由を『暁』にするため…


「俺と共に…『暁』を過ごしてくれないか?」
「是非っ!二人で夜明けを…迎えましょう!」



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「ねぇツッキー。『あかつき』って…
   『あからさまにイチャつき』の略だっけ?」
「『あかん、ツッキーもお手上げやで』かも。
   …って、黒赤組に聞こえちゃうでしょっ!」


赤葦が握り締めている線香花火以外は、とっくに全部打ち尽してもなお、
花火準備中のまま墓穴を掘り続け、聞くに堪えない話を延々垂れ流す鈍感コンビに、
聞こえてないフリをしつつ、ずっと辛抱強く聞き耳を立てていた面々は、砂浜に撃沈した。

「セリフを字面だけで見たら、ひと夏のアバンチュ~ル☆っぽい流れなのに…」
「スイム神社ネタだから、酔夢&寝た~とか、ロマンティック一直線だろ、フツーはよっ!」
「このまま二人で『夜明け』を越えても、ちゃんと『暁』になるのか…わかんねぇよ。」
「黒&赤はずっと『夜明け前』のまま…『下心の剣』はヌかねぇってオチかもな~」

風呂場では、あんなに暁…『あからさまにイチャるツッキー』を聞かせてやったはずなのに。
栄誉ある『一番乗り』達成の賢者・木兎が号泣するほど、『ヤりすぎ』だったというのに。

「あいつら、愛弟子達のナマAV…聞いてなかったのか!?勿体無いことしやがって…っ!」
「月山ブースから一番遠かったから、もしかしたらあんまり聞こえてなかったのかも…?」
「まさか、耳栓でもしてたのか?まぁ、要するに…作戦失敗ってことになるんだろうな。」
「あ、黒尾さんがしてんのは、耳栓じゃなくて鼻栓…シダ花粉?とか言ってたッスよ。」
「リエーフ…それ、騙されたんだよ。シダが飛ばすのは花粉じゃなくて、胞子だろ。」
「クロのあれは『水無』のため…溺れないためのお守り的な、防具みたいなもんだから。」

せっかく『一緒にお風呂&剣をヌキヌキ』させてやろうと、自爆覚悟でタてた作戦が、
結局空振りだったなんて…エロ曝した月山組だけじゃなくて、全員が報われないじゃないか。


嗚呼…どうしてこんなに、鈍感なんだろう。
まぁ、その並外れた鈍感さのおかげで、アレもコレもソレも押し付けてラクさせて貰えてる。
だから、出逢った瞬間に一目惚れして1年以上経つってのに、全く進展しない二人のために、
日頃の感謝を込めて、月山までブチ込んで、アバンチュ~ル☆を仕組んでやったというのに…

「周りの俺らが…我慢の限界だっつーのっ!」
「『赤葦つきっきり』な暁をされてんのに…」
「『赤葦つきあって』って暁…言わねぇの?」

ウチの可愛い赤葦は、そりゃぁ可愛げなんてないけど、そこまで色気がない…か!?
ウチの黒尾がここまで猫被り…紳士で清廉潔白な王子様だったとか、計算外だしっ!

「もう、我慢とかしなくていいから…っ!!」
「二人で夜明けを…暁を迎えてくれよっ!!」

少し離れた場所で、延々考察を続ける二人には聞こえないような囁きで…
いや、ちょっとぐらい聞こえても構わないという心持ちで、海に向かって小声で慟哭する。
あまりにも愛情深い猫&梟の面々に、月島と山口は感涙…暗い水平線に向かって語り始めた。


「お日様が水平線を越えて昇ってくるのを、黙って待っているだけで…夜は明けます。」
「でも、水平が保たれた人と人の関係は、そう簡単に越えられない…暁は訪れません。」

僕達には、ほんの少しだけ…
あの二人が現状からなかなか動けない理由が、なんとなくわかります。
今の関係が居心地良すぎて…相性が良すぎるあまり、平衡を壊したくないんでしょうね。

「『友人』『同志』そして『幼馴染』…関係が安定しているほど、水平線を越えられない。」
「ひょんなことがきっかけで、それを越える可能性がある…ホモ・オメガバースは、特に。」


見た目のボディタイプとは無関係に、相手の内面に惹かれ合い、つがいとなっていく…
部活や仕事、サークルの『仲間』とは、連帯感や親愛の情を抱きやすいのが人の常だから、
『身近な相手』と『そういうカンケー』のラインを越えるケースが、圧倒的に多くなる。

「ホモ・オメガバースは、遍くαΩの子孫…深い繋がりを求める遺伝子を持ってます。」
「だから、たとえ今の表出型はβでも、誰しもがαとΩの『恋愛特性』を引き継いでいる…」

相性が良い相手とは、どうしようもなく惹かれ合い、繋がりたいと本能で求めてしまう。
でも、安易に繋がってしまうと…『つがい』として確定し、死ぬまで離れられなくなる。

「もちろん、離れたいわけじゃない。でも…」
「永遠に離れたくないほど好きな人だから…」
「自分が相手を一生縛りつけるのが…怖い。」

   『好き』が大きければ大きいほど。
   『愛』が深ければ深いほど、越えられない。
   恋愛に臆病…慎重にならざるをえないのだ。

「これさ、αΩだとか…カンケーないよな。」
「部活仲間が、恋人に…踏み出せねぇよ。」
「幼馴染なんて、両家を巻き込んじまうと…」
「仲良しご近所同士が、家庭崩壊するかも。」
「上司と部下とか、敬意が敬愛に変わると…」
「やんごとなき不祥事…つらいだろうな。」

誰とでも恋愛でき、つがいになれるからこそ、誰と恋愛しても、リスクを背負ってしまう。
それが、ホモ・オメガバースの宿命…ピュアなラブに全力で生きる、αΩの子孫達なのだ。


「こう見えて『あかつき』な僕達だって…ここに至るまで、なんやかんやありましたから。」
「『みこしまくり』のごとく、すったもんだ。周りに転がされまくって、ようやく…です。」

仮に僕達がホモ・サピエンスだったとしても、幼馴染からの脱却は困難だったはずです。
凪いだ水平線のような、どこまでも続く安定的な関係…家族ぐるみの繋がりは、壊せません。
きっと、今の僕達と同じように、散々迷って悩んで泣かせて殴られて…今と大差ないかと。

「僕達だけでは、水平線を越えられなかった。日も月も勝手に…高く上がらないんですよ。」
「周りの人達に担がれ、どつき回されないと…『暁』を望むことなんて、できないんです。」


今回、木兎さんと孤爪さんから『作戦』のお話を頂いた時、僕は一も二もなく快諾しました。
海生恐竜やシーラカンスにつられた部分も、若干ながら(八割ぐらい?)ありますけど、
何よりも、あの黒&赤コンビを陥れる罠だという点に、引かれてしまったからです。

合宿では多少お世話になってますし、腹黒&狡猾をダしヌくとか、最高に気分がいいですし、
付き合いの浅い僕達でさえ、あの鈍感&鈍足には、とっくに我慢の限界です。
もう見てられないというか、目を離せないというか…

「言葉では言い表せない、強烈な魅力…あの二人には、どうしても惹かれてしまうんです。」
「なんかもう、ほっとけない!大好きな人達だから…なんとかしてあげたいんですよね〜?」

   『好き』で堪らない、可愛い人だから。
   『愛』してやまない、大切な人だから。
   二人の幸せのために、愛を注ぎたい…!


「初めて黒尾と赤葦が、顔を合わせた日…」
「去年の春合宿な。あの時のビビビ感!!」
「『あ、ハマった。』って、直感キたな〜」
「理由とか、俺らも全然わかんねぇけど…」
「あの感覚こそ、『暁』かもしれないね。」

   愛に生き、愛を捧ぐ。
   全ては、大好きなもののために。
   それが、俺達…ホモ・オメガバース!

ウェ〜イ!と、全員で円陣&ハグ。
そのまま肩を組み、おでこを突き合わせると、珍しくハキハキした声で研磨が宣言した。


「俺達の作戦は、まだ…失敗してない。」

さっきのお風呂も、知らん顔してたけど、絶対に月山のナマAV…二人で一緒に聞いてたよ。
俺は風呂向かいのトイレから見張ってたから、赤葦が腹下して籠もってなんかいないことも、
二人が揃って風呂に入り、最後に揃って出てきたとこも、ちゃんとこの目で確認済だし。

本当は聞いてて、あの狭いブースの中で一緒に時を過ごしたのに、下手な芝居で誤魔化した…
そんなの、ヤマシイこと…ヤラシイことしましたって、バレバレじゃんか。目的は達したよ。

「でも、アレだけじゃ…まだ、足りない。」

月山組はこれからも、俺達が担いだ神輿を先導する『お馬さん』の役を、頑張って欲しい。
『聞かせる』だけじゃ足りないなら、一緒に風呂よりも凄いコトを…『見せて』やればいい。
否応なく『繋がりたい』って感じる、本能?官能?間脳?を刺激するコトを…ガツン♪とね。

   君らがお馬さん…『当て馬』として、
   あいつらを、どつき回してやってよ。
   その上で、念には念を入れて、あいつらに…


「可愛いイタズラを…プレゼントしない?」




- ⑩へGO! -




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※引率組があらかじめ発送しておいたダンボール…
   →現行法では、花火等の宅配・郵送は不可です。

※ソースケ!コースケ!  →
   木曽・水無神社『みこしまくり』独自の掛け声。
   神社創建に関わった、宗助&幸助兄弟の名だとか。

※延々考察を続ける二人 →
「兄弟が創建に関わった神社が、ありましたよね…」
「浅草神社。こっちも水主…繋がりが気になるな。」
   → 『奥嫉窺測(11)

※『HEART OF SWORD ~夜明け前~』
   T.M.Revolution


小悪魔なきみに恋をする7題
『05.本当は聞こえていたくせに』

お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。



2020/09/01

 

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