ご注意下さい!


この話は、BLかつ性的な表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、 閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、責任を負いかねます。)




    それでもOK!な方  →
コチラをどうぞ。



























































    月王子息⑥ (月山編)







部屋に飛び込んだ直後、極力音を立てないように息を潜める。
そして、入口扉に張り付いてピッタリ耳を付け、廊下の声に傾注…
するとすぐに、隣室の鍵がガチャリと開き、扉が静かに閉まるのがわかった。

「…よしっ!」
「よかったぁ~♪」

小さく囁きながら、音を立てずにハイタッチ。
咄嗟の判断で山口が赤葦に隣室の鍵を持たせ、月島は山口を連れてもう一室へ。
ごく僅かに扉を開けて廊下を見渡してみても、付近には誰も居ない…
コッチの思惑通り、アッチはちゃんと隣の部屋へ入ってくれたようだ。


「ナイスアシストだよ、山口!」
「全く、世話が焼けるよね~♪」

あとはもう、放っておいても大丈夫だろう。
部屋をザっと眺めると、どこからどう見ても『元ラブホーーー!!』な造りだ。
こんな場所に、二人っきりで一緒に居れば…そういうコトにイきつくはずだ。
(いや、そうじゃなきゃかなりマズい。)

はぁ~やれやれ。
二人は苦笑いしながら大仰にため息を吐くと、とりあえず風呂に向かった。


「凄いね~!俺とツッキーが横に並んで座れて、しかも足を伸ばせちゃうよ~」
「さすが元ラブホ…これは正直、物凄くありがたい『贅沢設備』だよね。」

月島家の風呂も、敷地&建物&住人のサイズに見合った大きさではあるが、
さすがに180超の大男が、二人並んで座れる程の横幅はない。
旅館や高級ホテルでもない限り、都内のシティホテルはユニットバスが基本…
建具どころか、天井に頭が当たる寸前だし、手を上げて髪なんて洗えない。
(ちなみにトイレの便座に座ると、膝が建具にガンガンぶつかってしまう。)

その点、ラブホは『二人でゆっくり』できなければ意味がないから、
風呂とベッドが広々なのがデフォルト…大柄には非常に快適な宿泊施設だ。


「ふわぁぁぁぁぁ~、気持ちイイね~」
「外国人観光客にも、オススメだね。」

合宿&観光(考察)疲れを癒すには、ココは最高の宿かもしれない。
のんびりゆったり、しかも好奇心やらも満たしてくれるなんて…堪らない。

「僕達みたいな長身には、ビジネスよりもラブホ造りの方が居心地良いよね。」
「しかも、元はともかく『現』フツーのホテル…俺達でも気兼ねなく入れる!」

いやはや、『景色の一部』になっているような、有名高級ホテルにも憧れるが、
観光地に埋もれた『盲点』ともいうべき場所にも、極楽が存在していたなんて。
浅草に大挙する観光客増加に伴って改装したのだろうが…大当たりの判断だ。


ただ一つ、問題があるとすれば…

「ホントに…ゴクラク、だよね…」
「うん…そう、だね…」

いくら旅先とはいえ、あまりに『気兼ねなさすぎ』なカンケーの二人にとって、
『二人きりでのんびりゆったり』な時間は、ただの『日常』の延長でしかない。
『一緒にお風呂』だっていつも通り…居心地良いイコール、ただ眠いだけだ。

「俺らいつも『自宅で隠れてコッソリ』系…今日は絶好のチャンスなんだよね~
   それは十分、わかってるんだけど…いまいちテンション上がんないよね~」
「『二人きり』ってだけで、アッチは相当盛り上がる…若干羨ましいかも。」

アッチは過剰に盛り上がった挙句、テンパり過ぎて未だ身動き取れない…とか、
明日未明ごろに身動き取れなく程、過度に盛りまくってしまう恐れもあるけど…
どちらにせよ、プチ遠恋中の『二回目』なんて…オイシイばっかりじゃないか。
若干どころじゃなくて、心の底からめちゃくちゃ羨ましい話だ。

「唇に残った記憶…キスから始まったカンケーだなんて、ステキだよね~♪
   こう言っちゃアレだけど、超体育会系とは思えないロマンチックさ!」
「人体の中でも特に敏感な感覚器…口と舌に残った、甘酸っぱい触覚&味覚。
   脳に近い分、本能ダイレクト…意識とは違う部分で、記憶されちゃうんだ。」

コッチも何か、唇に新たな記憶を残してみようか…
そう二人が言いかけた瞬間、どこからともなく大声が響き渡って来た。


「えっ!?な、なにっ!!?」
「ちょっと山口、黙って!!」

突然の声に驚き、ザバン!と湯船から立ち上がりかけた山口の口を、
月島は後ろから抱えるようにして抑え、聞こえてくる声に耳を澄ませた。
何を喋っているのかはわからないのに、やけに響いてくる声…一体どこからだ?

「もしかして、お隣…アッチの二人?」
「まさか。ここは元ラブホなんだよ?」

壁の薄いビジネスなら、壁越しにスマホのアラームや大いびきだけでなく、
話し声や睦み声、リズミカルな『ギシ♪ギシ♪』が聞こえてきたりするけれど、
ラブホでそれは御法度…各部屋の間取りも、単純に左右対称にはなっておらず、
また入口には前室もあり、隣室や廊下からはワンクッションある造りのはずだ。

つまり、たとえ「元ラブホ♪」と、合宿中の高校生が廊下等で大冒険をしたり、
おカタいフリしてやっぱり健全な高校生達が、隣室でアレコレしたとしても、
部屋の中に居れば、そうそうそれらのモロモロが聞こえてくるはずはないのだ。


「でも、お風呂の壁だけは別で、薄かったりして…?」
「ただでさえ、広くて音が反響しやすいから…細心の注意を払ってあるよ。」

中腰のままキョロキョロと辺りを見回してみると、ある一点に目が留まった。
天井にほど近い壁面についた、四角い…

「まさかあの換気扇が、隣に繋がって…音もあの辺から聞こえてきてない!?」
「違うでしょ。風呂の換気扇は隣じゃなくて、『外』に繋がってるんだから…」

換気口や換気扇ダクトを通じて、外や隣の様子を窺うだなんて、
文字通りの『壁に耳アリ』…まるでミステリのトリックじゃないか。
そんな面白い状況があれば喜んで愉しむところだが、実際はもっと単純な話で、
音が聞こえてくるのは、換気扇ではなくその下…外壁に面した『窓』からだ。
(きっと、元はここにも防音パネル…もしくはTV内蔵スペースだったかも。)


月島は山口を抱えたまま立ち上がると、クレセント錠を回して窓を少し開けた。
眼鏡を掛けて、壁と窓の隙間から『閒』の字の如く周囲を注意深く窺うと、
ここからはるか下に、周りをみっちりビルに挟まれた木造二階建の民家があり、
その民家から出た声が周囲のビルに反響して、上方まで大音量で伝わっていた。

「なるほど~!『外』からの声は、駅前でもない限り、計算外だったろうね~」
「おそらく、こんな『計算外』になったのは…つい最近なんじゃないかな。」

今日、浅草周辺…隅田川沿いを歩いていると、雑居ビルやマンションの入口に、
似たような『貼紙』が掲げてあるのがやたら目につき、黒尾に尋ねていた。

   『当ビルは民泊禁止です。』


五輪開催が決まり、競技会場と同時に宿泊場所も当然ながら整備すべきなのに、
まずもって建設し始めたのが、投資用マンション…及び、各所の駅前再開発。
すぐにボロ儲けできないものは、本当に必要なものでも後回しにされたのだ。

現状でさえ、首都圏の超高層マンションも空室がチラホラ…それならば!と、
起死回生の策とされたのが、民泊…民間の家庭や空室を宿泊所にする方法だ。
これは一見、マイナス同士をプラスにする、奇跡的な妙案かと思いきや、
人を宿泊させるプロ…旅館業法等の適用外という、シロウトさん宿が増大した。

「その結果、旅客業界であれば当然守るべきルールやマナーを知らないまま、
   軽い気持ちで小銭稼ぎ…安易に他人を宿泊させてしまう人が出てきた。」
「旅の恥は掻き捨て…とも言うし、狭いTOKYOの事情を知らない観光客は、
   浮かれて大騒ぎ…そして、近隣の人と揉め事が多発しちゃってるんだね~」

マンションであれば、管理規約に『居住用以外の用途で使用禁止』と定めたり、
管理会社や組合から、先程の貼紙や直接の通達という形で、苦情が届くだろう。
だが、これが個人所有の一軒家になると話は別…規約などにも縛られないため、
近所の人は対応に苦慮するどころか、泣き寝入りするしかないこともある。


「民泊は『アットホームさ』が最大のウリなんだろうけど、
   だからといって、自分のウチと同じように過ごしていいわけじゃないよね~」
「そもそも、旅館業法外…食品衛生や防火防災対策は大丈夫なのかな?
   その辺の法整備や補償制度が間に合ってるとは、とても思えないけどね。」

「それに、お客さん側から家主さんが受けた、破損や盗難の被害なんかは…」
「もし事故が起きて裁判沙汰になったりしたら、どうカバーするんだろうね。」

五輪開催を機に、駅や公共機関、周辺の街並みなどが綺麗になったり、
ラブホがシティホテルへ変わるなど、プラスの面も沢山あることは間違いない。
だが、目先の利益ばかりを追求し、マイナス面を補う準備をしていなかったら、
後に残るのは膨大な負債と、埋め難い禍根だけになってしまいかねない。


眼下には、このホテルのフロントさんが木造住宅の玄関をピンポンする姿…
ホテルの宿泊客からの苦情が出て、その旨をお伝えしに行ったようだ。
家主さんも「いつもすみません」と平謝り…二人のため息も聞こえてきそうだ。

「これもまた、ボロ儲け必至だったはずの観光地の…『盲点』だろうね。」
「今回の浅草観光…色んな意味で凄く勉強になったね~」

「黒尾さんは、五輪期間中に予想される超絶ラッシュに、戦々恐々していたよ。
   地震でも台風でも大雪でも会社を休まない東京…自営業するかな~って。」
「灼熱のコンクリートジャングル酷暑の中、開催するのもどうかと思うけど、
   観客の移動手段が過密ラッシュ…人権侵害で世界中から訴えられちゃうよ。」

せめて元体育の日…前回の東京五輪があった10月10日ぐらいの日程にしたり、
一定区域内の企業には、休業補償を出して移動制限を考慮すべきだと思うが…

「数万人のボランティアさんも、移動手段&宿泊場所は自分で確保らしいよ。」
「主要駅のトイレ、今の男子便所ですら大行列なのに…女性には厳しいよね。」

どんなものにも、プラスとマイナスの両面があるが…
なかなか報道されず、見えてこない観光地の姿に、二人は再度ため息を吐いた。
東京五輪では、せめて『差し引きゼロ』ぐらいになってくれればと、切に願う。


遠く古くなり、見たくてもなかなか見え辛くなった『歴史』だけじゃなく、
すぐ近くて新しい『現在』にも、見ようとしなければ見えてこないものがある…
むしろ、近すぎるから見えない、見ようとしないことが多いのかもしれない。

   (僕だって、そうだった…)

山口の世界から、僕という存在が失われてようやく、
ずっと間近に居た山口が、僕にとって『盲点』になっていたことに気付いた。
そして同時に、山口の視界に入っていても、僕を特別視しなくなった…
山口の『盲点』になったことで、今度は僕自身の世界の方が失われかけた。

たとえ 歴史的大事件でも、すぐに風化して見えなくなってしまうのと同じで、
時間が経てば、山口記憶喪失騒動の辛さも薄れ、いずれは忘れてしまうだろう。

僕の『傷を癒す』という面では、それはプラスに働くかもしれないけれど、
日常生活に埋もれる中、山口がいかに大切な存在かを忘れがちになってしまい、
その結果、山口を『傷付ける』という、マイナス面が出てくるかもしれない。

   (それだけは…したくない。)


山口は窓を閉めると、さっきまでと同じように、僕の隣に座ろうとした。
僕は山口の腰に腕を回して押し留め、狛犬のように正面から山口を見つめた。

「プラスもマイナスも、目を逸らさずにしっかり見続けること。
   そして、頭で忘れがちなことは、別の場所でしっかり補い…覚えること。」
「ほへ??ど、どしたの…ツッキー?」

キョトンと僕を見つめ返す瞳と、僕を『ツッキー』と呼んでくれる唇。
この唇が「ツッキーーー!」と、キャンキャン真横で叫び続けてくれる幸せを、
僕は絶対に失いたくない…そのキモチをずっと、忘れないようにしなければ。

   (ならば、徹底的に…覚えさせる。)


「山口…好きだよ。」
「はぁっ!?え、なななっ、何っ!?」

「だから、僕は山口が…だ・い・す・き!だよ、って…」
「うわーっ!うわぁぁぁぁぁーーっ!!ちょっ、ちょっと、待って!!?」

山口はお湯をばしゃばしゃ跳ね飛ばしながら、僕の口を両手で必死に塞ぎ、
再度腰を浮かせて手を伸ばし、窓の鍵を掛け直して「しーっ!」のポーズ。
いやいや、窓さえ閉めていれば、コッチの声はおいそれと外には出ないでしょ…

わたわた慌てふためく山口が妙に面白くて、何度も『だいすき』を繰り返す。
それを言う度に、山口の頬が徐々に赤みを増し、うるうると涙目になってきた。

   (なかなか…悪くない顔じゃん。)


もっと間近でその表情を記憶したくなった僕は、山口の頬に触れようとしたが、
その前に山口は両掌で自分の顔を覆い、へにょへにょと浴槽の縁に腰掛けた。

「これ…何の、羞恥プレイ?」
「僕はただ、自分の唇に…『だいすき』の形を記憶させようとしただけだよ?」

ほら、アッチの二人が…『唇に残った記憶』が羨ましいって言ってたでしょ?
だから僕も、唇に『やまぐちだいすき』をしっかりと覚えさせておくことで、
もしも僕が記憶喪失になった時も、『やまぐち』の名前を口にしただけで、
自動的に唇が、続きの『だいすき』を形作るようになれば…と考えたんだ。

「山口の唇が『ツッキーーーー!!』を形作るのと同じくらいの勢いと頻度で、
   僕も『やまぐちだいすき』を…自らに刻みつけておこうかな、と。」
「さすがツッキー!賢いっ!…じゃなくて!やっぱり、羞恥プレイじゃんか…」

山口は「イヤイヤ」をするように、真っ赤な顔を隠して頭を横に振り続ける。
濡れた髪から雫がぴゅんぴゅん飛んできて…僕は頬を緩めながら話を続けた。


山口が記憶を喪失して、山口の世界から僕が消えてしまった時には、
僕自身の世界すら、全てなくなってしまったようにすら感じたけど…
たとえあれから記憶が戻らなかったとしても、今なら『良かった』と言えるよ。

「え…っ!?お、俺はともかく、ツッキーはすっごい苦しかったんじゃ…」
「あんな思いは、二度と御免だよ。それでも…『良かった』と断言できる。」

どんなコトやモノにも、プラスとマイナスの両面がある。
今回のマイナスは、僕が少しばかり寂し…物足りない思いをしたことと、
カラダの記憶に正直な山口が、とんでもなく欲求不満になったことぐらい。
それに対して、プラスには特筆すべき大きな点があったよね?

「モチロンそれは、アッチのお二人さんと思いがけず仲良くなれたことだよね~
   かぐや姫と親指姫のこと、それに幇間とか鎮魂について…いっぱい考えた!」
「ただの腹黒ムッツリ堅物苦労人ズかと思いきや、想像を絶する偏屈講釈垂れ…
   記憶喪失級の大事件でもなければ、お近付きになるはずがない人達だよね。」

あの二人とは、何となく今後も妙なご縁が続きそうな予感がするし、
あとは、月島家と山口家の家族に対する評価を、やや上方修正できたかな。
これはオマケみたいなもの…覚えてたら老後にでも、コッソリ感謝しておくよ。


「最大のプラスは、僕達が真正面から向き合えるようになったこと、だよ。」

好奇心に流されるまま、ほぼ成り行きでアレコレする仲になってたけど、
『成り行き』が通用しなくなったおかげで、お互いが『盲点』じゃなくなった…

「一般的な羞恥心と可愛らしい天邪鬼を持つ、皮肉系言葉遊びを愛する僕が、
   『やまぐちだいすき』という祝詞を、参道向かいの相棒へ言えるように…」

この騒動がなかったら、きっと僕はズルズルとこのカンケーを延々続けたはず。
それこそ、超絶お節介な人達や両家にゴリ押しされないと、前進できない…
『だいすき』を言えないまま、何年も宙ぶらりんで山口を待たせたと思うんだ。

「うっわぁ…それ、凄いキツいね~!フツーにツッキー、サイテーじゃん。
   そんなロクでもないコースにならなくて、ツッキー良かったね!」


うっ…さすがは山口。僕に対して1ミリも容赦がない。
どんな世界であっても、僕は山口に絶対勝てないのは、確定事項なんだろう。

   (どんな形でも、二人が幸せなら…)

今よりも至近距離に居ても、たとえ離れてしまうようなことがあっても、
山口のことをしっかり見つめ続けていきたい…素直にそう思えるようになった。

「ツッキー…ホントに、ありがとね。」
「こちらこそ…これからもよろしく。」

僕の想いが伝わったのか、山口は恥かしさとは違う理由で瞳を潤ませていた。
さっきは山口が両掌で隠していた紅い頬を、今度は僕の両掌で包み込み、
唇をそっと触れ合わせたまま…『だいすき』と、二人で一緒に形作った。




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   瞳を閉じないで
   真正面から見つめ合ったまま
   唇の感触を唇に覚え込ませていく


そう言えば、目を開けたままキスをするのは、初めてかもしれない。
全く記憶にないお互いの『キス顔』に、恥ずかしさと嬉しさが混ざり合う。
そのくすぐったさに二人とも耐えられなくなり、山口はふにゃりと頬を緩め…
ぷっ!と噴き出す寸前に、月島は唇を一旦離し、少しだけ顔を下ろした。

二人は最初、元ラブホが誇るお風呂に、夫婦狛犬のように並んで浸かっていた。
窓の外を上から観察した後は、月島は湯船に戻って膝立ちになっていたが、
山口は月島と向かい合うように湯船の縁に腰掛けた、半身浴風の体勢だった。

「山口、寒くない?」
「大丈夫、熱いくらい…んっ!!?」


立てていた上体を徐々に湯の中へと沈めながら、月島は山口にキスを落とす。
まるで、山口のカラダを自分の唇でトレースしていくかのように、
一つ一つ丁寧に、キスでカラダの線を辿って降りていく。

「ねぇツッキー、くすぐったいよ…」

身を僅かに捩り、月島を抑えるフリをしながら、跳ねる腰を誤魔化す山口。
月島はその動きを抑えるフリをしつつ、山口の腰を腕に抱き込んで密着する。
ピクリ、と腰が揺れる度に水面が揺れ、熱を持ち始めた部分が顔を出す。
それが恥かしくて隠すフリ…山口は月島の髪を撫で、熱へとキスを導いていく。

月島はそれに気付かないフリをすることもなく、おもむろに熱にキス…
形を確かめるかのように、唇と舌で熱を挟み、ゆるゆると包み込んだ。


「ぅ…ぁっ…!!」
「山口を…もっと見せて。」

これがいわゆる『潜望鏡』…羨望の的たる、泡姫様の特殊技能だね。
たとえ遠くに居ても、山口のことをじっくり観察できる…
しかも僕の唇に、山口の細部まで記憶させられる、素晴らしい方法だよね。

「や…ツッ、キー、やめ…っ!」
「やめないで、だよね。わかってる。」

ずぶずぶと潤った音を風呂に響かせ、山口を『観察』し続ける月島は、
唇に伝わってくる感触から、山口の本心を捉え…更に深く熱を咥え込んだ。

「ダメ、ツッキー…もっ…ぅっ!」
「もっと、でしょ?了解だよ。」

正確に真意を言い当てる月島に、山口はちょっとだけ悔しそうなフリを見せ、
ピクつく腰と脚を大きく動かして、湯船に潜む月島の熱を両足裏で挟んだ。

「…んっ!!!?」
「それ、ビックリしたフリ…俺にもツッキーのこと、ミエミエなんだからね~」


唇とカラダで、お互いを刺激し合う。
このままお湯に溶けてしまいそうなほどの快感に、声を抑えきれなくなり、
ツッキー、ツッキー…と、山口の唇は無意識に『ツッキー』を延々と形作った。

月島は山口の『無意識のツッキー』に、熱いモノを抑えきれなくなり…
お湯とは違うもので潤った声を震わせながら、山口にしがみ付いた。


「うるさい、やまぐち…
   だいすき、だよっ!!!」



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※景色の一部になっているホテル… →『空室襲着⑥(月山編)
※『潜望鏡』について →『空室襲着⑥(クロ赤編)


2018/12/27  

 

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