※『絶叫禁止』『中間作出』後日談



    自己贈答







「OSKの方々、ちょっと僕に手を貸して下さい。」
「月島君。俺達を便利屋と勘違いしてません?人にモノを頼む時は、もっと…」

「…緊急事態発生!OSKブラック&レッド、大至急出動を願うっ!!」
「っ!!?ラジャーっ!!少々お待ち下さい…えーっと、短縮番号960…
   …あ、もしもしお疲れ様です。OSKブラック、コード8895151…OK!?」


8895151…早く来い来い、か。
冗談半分&ヤケクソで言ってみたのに、全く予想外だった…異常なノリの良さ。
ノリは良いのに、出動要請を電話でしてしまったせいで『普段』も混ざり合い、
それが『普段』のデキる参謀とのギャップを生み…僕の頬はピクピク痙攣。

律儀に白ジャージの上着を脱いで畳み、黒いTシャツだけにレッドはチェンジ。
すぐに、どこからともなく全力疾走の足音…赤ジャージのブラックが到着した。
ぜぇぜぇと肩呼吸するブラックの背中を、レッドは甲斐甲斐しくトントンし、
落ち着いたところで、二人は何だか中途半端なキメポーズ?的な敬礼をした。

「よう!待たせたな!お節介洗体・OSKブラック参上だっ!」
「ちょっとお待ちを!『せんたい』の字を間違えてますっ!」
「丁度風呂に入ろうとしてたから…お節介洗体だと、ソープ嬢みてぇだよな。」
「秘技『一緒に入っていい?』…OSK・オネダリすりすり子猫ちゃん、です。」

「それ、日曜早朝のお子様向けには、絶対に放送できねぇ…深夜枠確定だな。」
「高校男子達が、汗とかアレとかダしてトぶ○○根アニメも…深夜枠ですよ?」
「それ、主人公がイった目で『…ヤんねーの?』って、挑発してるヤツだろ?」
「○○○のウエの、女王様だとか?そんなカンジの称号を持つヤツも居たり…」

「なぁ、そもそも論なんだが…俺ら、どっちがブラックでどっちがレッドだ?」
「そうなんですよね。というわけで、今日の議題は…イエロー、どうします?」


かなーり遠巻きに観察していたのに、二人の視線がこちらに向いて…
僕は何気なく後ろを振り返り、今度は左右もしっかり確認し、真っ青になった。

「ちょっ…ま、まさかとは思いますが、ぼっ、僕のことを、呼んだんじゃ…」
「何言ってんですか。イエローの方が、俺達を呼んだんでしょう?」
「そうだったのか!じゃ、今日はイエローの悩み相談が議題だな。」

ま…マズい。
正義の戦隊ヒーローよりも、怪盗団っぽい黒赤コンビで遊んだのは、僕の方…
梟谷グループのカタブツランキングで、ワンツーフィニッシュを飾る二人が、
まさかこんなに…やめて下さい、そんなキラキラした目でコッチ見ないでっ!

僕の判断ミスと断定するには、コレは責が重すぎる。
どう見たって、この二人は『やみのそしき』の悪役キャラじゃないか。
策謀巡らし嵌めハメしまくる…あっ!だからこんなに、イキイキとしてるのか!
まぁ、僕の悩み相談を快く引き受けてくれそうだから、ここは目を瞑って…


「はっ!?俺…イエローにピッタリなキメ台詞に、心当たりがありますっ!
   確か、『月に代わって…お仕置きデショ。』という、ドSなものでした!」
「いや待て。むしろ『ツッキーに代わって…お仕置きしちゃうぞっ★』を、
   脱ぐ前はクリーンな、グリーンに言わせた方が…ギャップ萌えしねぇか?」
「んなっ!!?だ…ダメですっ!!今日グリーンは…シフト入ってませんから!
   それに、グリーンが脱いだら女王様気質なの…何故知ってるんですかっ!?」


あぁ…

世の中に、こんなにも眩しく神々しい笑顔が存在するなんて、知らなかった。
嵌めハメ作戦大成功…ドス黒さを背負うキラキラなブラック&レッドの二人に、
僕は「…完敗です。」と白旗を上げ、前回と同じ戦場…洗場へと連行された。




*******************




「本日の相談者・イエローさん(仮名)…話を聞こうか?」
「では、スポンジにしっかり泡を含ませて…右向け右!」


合宿所の大浴場にはもう誰も居らず、僕達3人は洗場に椅子を並べて座った。
真ん中に陣取ったブラックが僕に話を促すと、左端のレッドが号令を掛けて、
全員がクルリと右を向き、正面…右隣の人の背中を、ごしごし擦り始めた。
これは正直…物凄く気持ち良い。流石はお節介洗体リーダー、力加減が絶妙だ。

「ブラックさん。俺、どう…ですっ?」
「凄ぇっ、気持ち、イイぜ…レッドっ」

後ろの方から聞こえてくる、泡泡あわわな睦言をかき消すように、
僕は慌てて「実はですねっ!!」と、浴場に声を響かせた。

「例の絶叫禁止騒動から44日、無理矢理作出した『真ん中』から22日…
   今日は遂に、グリーン(仮名)こと…山口の誕生日なんですよ。」

きっと、僕が改めて言わなくても…この二人ならとっくに知っていたはずだ。
その証拠に、何ら返事を寄越さず、先を促すようにゴシゴシ…嫌らしい奴らだ。
僕の方も、もう茶番はお腹いっぱいだったから、ごく淡々と要件を述べた。


「ご存知の通り、僕達は幼馴染…互いの誕生日を祝うのは、年中行事です。」

例年ならば、ケーキ頂上のイチゴをあげたり、ポテトをチンしてふやかしたり、
寝る前に好きな本を3冊も読んであげたり…身の丈にあったプレゼントでした。

ですが、僕達も高校生…そこそこオトナなんで、さすがにショボいかなぁと。
とは言え、まだ高校生…そこまでオトナじゃないんで、資金はおこずかい枠内。
たとえ気の利いたモノを見つけても、それを購入して贈るのは、難易度が高い…

「月島君が『気の利いたモノ』を見つけられるかどうかが、最大の難関では?」
「そこはツッキーにも自覚あるみてぇだぞ?『たとえ』って前置きしてるし。」
「あーそうですよ!山口の喜びそうなモノなんて、僕にはサッパリですから!」


…はい、今度は時計回りに180度!
号令に合わせてターンし、前方からアレな声が聞こえる前に素早く話を続ける。

「『贈答する側が贈るモノを考える』という流れは、回避したいんです。」

今回は、先に山口からサプライズをかまされてしまったので、返すしかない…
でも、先の長い人生、毎年恒例行事として、何を贈るかを悶々悩みたくないし、
芸人じゃないんだから、毎年毎年サプライズなんて演出できませんからね。
何年も同じジャンルやカプで遊んでる同人作家なんて、痛々しい限りですし…

ごくごく穏便に、二十四節気の1つぐらいの、慎ましいイベントに留めたいっ!
山口へのサプライズプレゼントで悩むのは、今年が最初で最後にしたいんです。

「つまり来年以降は『何が欲しい?』と尋ね、それを贈る…合理的ですね。」
「確実に喜んでもらえるし、無駄に悩まずに済む…俺もその策に大賛成だ。」
「でしょう?お二人には絶対、ご賛同頂けると…僕は信じていましたから。」


44日前OSKが首を突っ込まなければ、こんな厄介なことにはならなかった…
まぁ、山口からサプライズなセリフを貰えたことだけは、心から大感謝ですが、
ならば責任を持って、相応のサプライズ返しも手伝って頂けないと…困ります。

「というわけで、山口が喜びそうなモノで、30分以内に合宿所内で準備でき、
   金も手間もかからない、サプライズプレゼントを、考えて下さ…うわっ!?」

「月島君。さっきも言いましたが…それが人にモノを頼む態度ですか?」
「全ての戦隊ヒーローが、無償だと思うなよ…来いっ!お仕置きだっ!」

頭からシャワーでお湯を掛けられ、強引に泡を流されたかと思うと、
そのままガッチリ両脇からホールド…浴場に来た時と同じように、湯船に連行。
黒赤に挟まれて座り、更には逃亡阻止用にと、赤い手拭いで両手首を縛られた。


「『山口への誕生日サプライズのため、僕に知恵を貸して下さい!』と…」
「なんでこのクチは、素直にオネガイができないんだろうな…えぇっ!?」

折角可愛いコトをしようとしてんのに…俺達を頼ってくれたっていうのに、
そのクッソ生意気な物言いで台無しに…と思いきや、一周回って可愛いだろっ!
よ~し!新人イエローに、初期メンのブラック&レッドが猫の手を貸してやる!

…と、二人はまぁるく握ったおててで、秘技・猫パンチ!…僕の頬をグリグリ。
『可愛がり』という名の『お説教(お仕置き)』に、僕は抗議の声を上げた。


「ぼ…暴力反対!仮にもOSKは…正義のヒーローなんでしょっ!?」
「お子様向けの自称正義のヒーロー様方も、殴る蹴るの暴行三昧ですよね?」
「俺達は一度たりとも、自分達が正義のヒーローだと名乗ってないからな。」

た…確かにっ!
手術のために身体にメスを入れたり、注射針を刺すのだって、本来は傷害罪…
医師等の免許があり、かつ同意ある医療目的だから、許されているだけなのに、
一体どんな特別立法で、ヒーロー御一行様の殺人や傷害が起訴対象外なのか?
ロクに捜査や裁判を経ずに、問答無用で死刑…法治国家とは到底思えない。

「『正義』って、何なんでしょうね?しかもそれを『自称』するだなんて…」
「数多の戦争が、『平和のため』だと正義を主張し…始まっていますよね。」
「その辺に気付くのが、ちゃんと俺らがオトナになった証拠…なのかもな。」

おそらく、そういう余計なことを考えない『素直』な存在だからこそ、
中高生等の子ども達に、地球の平和を守らせている…明確に児童福祉法違反だ。
ある程度のオトナだと、対立する正義に挟まれ葛藤…末は労災認定との闘いだ。
雇用体系は?保険加入可能?等、正義だけではケリのつかない問題山積である。


「ちなみに正義の『義』は、よい、正しい、他人のために尽くす等の意味の他、
   義手や義母等、本物ではないが同じようにみなす…というのもありますね。」
「『義』って字は、『羊の首』+『ギザギザの刃がついたノコギリ』の象形で、
   羊を生贄として刃物で殺すこと…厳粛な作法やふるまいを表す文字なんだ。」

   ホンモノではない…義。
   何かを犠牲にする…義。
   僕にとって、正義とは?

しょーもないヒーローごっこから始まったのに、哲学的な話になってしまった。
3人はそれぞれ天井を見上げて思案…容易に出ない答えに、ため息を吐いた。
そして、「洗体にとっての性技とは…」と、作為的誤変換をするレッドを窘め、
ブラックは「素直に考えようぜ。」と、無邪気な声で場の空気を転換した。


「正義とは『正しい義』…他人即ち『ただし』のために尽くすこと、かもな。」
「そのためには、月島君は多少の犠牲を厭ってはいけない…ということです。」
「今までの考察の流れや、僕の心情からも、それは正しい結論だと思います。」

だから、その目的を達成する知恵をさっさと出せと、最初から言っているのに…
そう文句を垂れようとすると、ブラックとレッドは寒気のする笑顔を見せた。

「だから、最初から俺達はその答えを…ココに用意してるじゃないですか。」
「赤い手拭い…いや、リボンで可愛くラッピングされた『贈答品』をなっ!」

「…は?」

何をわけのわからないことを…
そう切り捨てたいのに、考察の流れからその意味はもうはっきりわかっていた。
恐る恐る両手を上げ、縛られた手首の裏を見てみると…可憐な蝶々結びだった。


「ま、まさか…二次創作でも絶滅危惧種の、『プレゼントは僕♪』なんじゃ…」
「絶滅危惧種…つまり、レッドリスト。『赤い手首』に帰結しましたね。」
「あ…赤葦さんっ、あなた実は…英語、赤点なんじゃないですか!?」
「失敬な。赤点よりも1点だけ多く…最高のコスパを維持してますよっ!」

「何だツッキー、リボンじゃなくて水引の方が…良かったか?」
「そんなわけないでしょ!ついでに言うと、熨斗も不要ですから!」
「遠慮すんな!『御祝・黒尾&赤葦』って書いた、熨斗風バスタオルも用意…」
「それ、僕からじゃなくて…アンタ達からの贈答品に変わってますよっ!」

じょっ…冗談じゃない!!
『プレゼントは僕♪』なんて、究極の羞恥プレイ…犠牲としては大き過ぎる。
そんな恥かしいネタをヤらされるぐらいなら、イエローになった方が百倍マシ!
それに、この自己贈答策には、とんでもなく致命的な欠陥…弱点があるのだ。


「贈られる側が喜ぶモノじゃないと、プレゼントの意味がないんですよっ!?
   クチの減らないエラそうな緊縛羊を、山口が貰って喜ぶと思いますかっ!?」
「おや、そういうのこそ、脱いだら女王様な山口君はお求めかもしれませんよ。
   何なら、そのおクチを減らすため…水引で猿轡もかませてあげましょうか?」

「そんな僕をもらって悦ぶ山口…イメージがた崩れの姿、見たくないでしょ!?
   少なくとも、僕はそんな山口は…これっぽっちも見たいとは思いませんっ!」
「それは山口が決めることだろ。しょうがねぇな…目隠しもサービスしてやる。
   っつーか、単に『え、いらないんですけど』って言われるのが怖いんだろ?」

そう、それこそが最大の弱点。
羞恥を振りきって『プレゼントは僕♪』をヤった(ヤらされた)挙句、
水が引くようにドン引きされるならまだしも、『受取拒否』なんてされたら…
ふわふわな今治タオルよりソフトな僕のメンタルは、涙も衝撃も吸収しきれず、
『昨日の敵は今日の味方』的に、対極側へとキモチがイってしまいかねない。

   (それだけは、何があっても…嫌だ!)


「山口を嫌いにならないために…僕のメンタルと、地球の平和を守るために、
   どうか…どうか助けて下さい!!お願いしますっ!!」

心の底から、大宇宙へ救助要請を叫ぶ。
僕の素直なオネガイを聞き届けたブラックとレッドは、爽やかな微笑みを見せ、
「任せろ!」と、力強く断言し…僕の背中を優しく撫でてくれた。

「44日前、月島君は山口君から何を貰ったか…思い出して下さい。」
「モノよりもずーっと心に響く、サプライズなアレ…だったよな?」

   44日前の、僕の誕生日。
   ひとつオトナになったからと、
   いつもの…を、封印して…


   「それの真逆を…サプライズ返し、しましょう?」
   「今すぐに用意できる、素直な『言葉』を…な?」
   「嫌いになりたくない、だとしたら…」
   「その反対の、貰って嬉しい言葉は…」



あの時の山口と同じように、右と左の耳元に、コッソリ…内緒話。
これが秘技・悪魔の囁きか…と、脳内の片隅でイエローが点滅していたが、
「さぁ…思いっきりイけっ!」と強烈に背中を叩かれた勢いで、封印が解けた。


「大好きだよっ!!!
   だから、僕を貰ってよ…忠!」



僕の(人生初の)大絶叫が、大浴場というコスモにブッ放された。
その反響が収まると、大宇宙は静寂に包まれ…僕は羞恥にラッピングされた。
予行演習とは言え、ブラック&レッドの前で、僕は何てことを…っ!!!
きっとさっきの囁きが、敵を混乱させるメンタル直撃系奥義だったに違いない。

瀕死の重傷を負ったフリをして、このまま失神…宇宙のチリになってしまおう。
そう決めて目を閉じようとした瞬間、ザバン!と大きな音を立てて水が引いた。
両サイドを固めていた二人が、僕の肩をポン!と叩きながら立ち上がり…

黙ったまま湯船を出た数秒後、背後で誰かの肩をポン!と叩く二重音と、
「おめでとう」「ごゆっくり」と囁く秘技が再び放たれ…浴場の扉が閉まる音。
ブラックとレッドは退場したのに、浴場内には別の『色』の気配が、まだ…

   (う、そ…でしょ…っ)


   背後に感じるのは、よく知った色。
   僕を包み込む、優しい…グリーン。

さっきの『予行演習』を聞かれてしまったという、羞恥心なんかよりも、
何も反応を返してくれないことに対する恐怖で、僕は身動きができなかった。

もしここで、いつもと逆の反応…「うるさい、月島。」とか言われたら…?
僕はそれを想像しかけただけで、心がスターダストになりかけた。
これからは、山口の絶叫呼びにも、できるだけ誠意を持って返事するから!と、
大宇宙と八百万の神々に誓っていると、か細く震える…潤む声が聞こえてきた。


「うれ、しい…っ」


それを聞いた瞬間、羞恥ラッピングを破り捨て、グリーンの許へ駆けていた。
リボンだけが残った腕の中に、歓喜に咽ぶ山口をしっかりと包み込んでから、
さっきのセリフの『本番』を…今度は絶叫せずに、耳元にそっと囁いた。

艶やかな黒い瞳から零れた涙が、赤く色めく唇に向かって一直線に落ち…
涙が辿った頬を、鮮やかに染め上げた。


最後に登場したのは…ピンクだった。




- 終 -




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黒:『OSK』…お節介戦隊☆カマウンジャー!!
赤:『OSK』…お仕置洗体☆コスルンジャー!!


2018/11/10 山口誕生日

 

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