絶叫禁止







「ん?あそこに居るのは…」
「烏野の…山口君ですね。」


梟谷グループ合同合宿。
全体練習が終わり、各々が方々へ散々とした、少し後。

その他の雑務を終えた黒尾と赤葦が、いつもの自主練場所へ向かっていると、
体育館脇からチラチラ中を窺ったかと思えば、悶々と座り込む…不審者発見。

これは、『正体不明』という意味ではない…烏野の山口だと、判明している。
ただ、『挙動不審』という意味で、山口はすこぶるアヤシイ存在だった。

山口がココにいる理由は、わかりきっている。というよりも、他にない。
幼馴染関連一択…特段の用があろうがなかろうが、ツッキーしか有り得ない。
だが、その場合は常に「ツッキィィィィィィィーーーー!!!」という絶叫付…
黙って隠れてコソコソ覗き見だなんて、『不審』以外の何物でもない。


チラリ…視線を交わし合う黒尾と赤葦。

(赤葦。『OSK』…いざ、発動だ。)
(了解。『OSK』…お節介ですね?)

(場合によっては…お説教だ。)
(万事了解…大差ありません。)

コクリ…頷き合ってから、黒尾は何でもないフリをして体育館へ向かい、
「どうしたんだ、そんなとこで?」と、山口に明るく声をかける。
それに驚いた山口が、叫び声を上げる直前…背後から近づいた赤葦が口を塞ぎ、
あっという間に二人は山口をその場から拉致し、植込みの奥に引き摺り込んだ。

「任務完了。チョロいですね。」
「相変わらず、見事な手際だ。」


ニヤリと腹黒い微笑みを湛えてハイタッチ…互いを称賛し合うクロ赤コンビ。
何が起こったのか、全く理解できない山口は、ただ呆然と口をポカン…
その口の中に、赤葦は大きめの飴玉をコロリと投げ入れ、大声と反論を封じた。

「驚かせてすみません。ですが、騒ぎを気付かれたくなかったのは…」
「俺達というよりも、むしろお前さんの方…なぁ、そうなんだろう?」

眩しい程のキラキラ笑顔で、『東京の強豪校のスゴい人達』に囲まれた山口は、
有も無も言えるわけがなく…コクコクと高速で頭を上下に振るしかなかった。
そんな従順な山口に、黒尾は満面の笑みで「イイ子だ…」と頭をナデナデし、
赤葦は声のトーンを一段落とし、内緒話モードで「…それで?」と話を促した。

山口はまんまる飴玉を片方のほっぺに寄せ、ぷっくりと膨らませながら、
「じ、実は…」と、ごくごく小さな声で『内緒話』を始めた。


「実は今日、ツッキーの…お誕生日なんです。」

「そうか。アイツも一つ、オトナに…」
「コドモの成長…あっという間です。」

なぜかしみじみと、天を仰ぐ二人…
やけに老成したジジ臭さに、山口はプッと飴玉を吹き出しそうになったが、
笑いと共に何とかそれを口の中に押し留め…代わりにフッと緊張を抜いた。

「仰る通り、ツッキーは一つオトナに…だから、オトナになったお祝いを…」

「ちょっとお待ちなさい!おっ、オトナというのは、言葉のアヤですから…っ」
「まっ、まだお前らは、コドモ…オトナのお祝いは、はははっ早すぎるぞっ!」

山口の代わりに、今度はガッチガチに古風な二人が途端に慌て始め…
ココはスルーが最適解だと本能で察した山口は、淡々と話を続けた。


「もう俺達も高校生だし、いつまでもコドモのままじゃ、いられない…」

『内面』の成長はまだこれから…焦る必要はないって思ってるんですけど、
せめて『外面』だけは、ちょっとぐらいオトナに向けて成長したいなぁ~って。

とりあえず、カラダの方は必要以上に成長しちゃったんで、もういいとして…
それ以外の『外面』で成長するなら、もうこれしかない気がするんですよ。

「立ち居振る舞い…特に話し方だな。」
「つまり…小学生のままの会話禁止。」

黒尾と赤葦の導いた答えに、山口は深く頷いた。
小さくなった飴玉を、ガリガリ音を立てて噛み砕き…踏ん切りをつけた。


「俺、もう…『ツッキィィィィィー』って叫ぶの、やめようと思うんです。」

ツッキーは小学校の時からカッコよかったけど、高校生になって超美形に成長!
アタマもイイしスタイルも抜群だし、バレーも上手いし、アレも意外と巧い方?
根性とクチと虫の居所と、間とか要領ぐらいしか…悪いトコなんてないですし。

そんな外面だけはハイスペックなツッキーが、やや残念な存在になってるのは、
俺が「ツッキィィィィィィーーーー!」って絶叫して飛び込んじゃってるせい…
それに対してツッキーが怒る姿が、ツンデレ野郎って印象を与えてると思うし、
「うるさい山口」「ごめんツッキー」の定型句が、新喜劇っぽいんですよね~

「おやおや、自覚があったんですか。」
「セリフがセットで、ギャグだよな。」

というわけで、今日から自主的に絶叫禁止…したのはいいんですけど、
どうやってツッキーをお迎えに行けばいいのか、わかんなくなっちゃって…
声を掛けたくても、どう声を掛けたらいいのやら、途方に暮れてしまい、
アソコで固まってるうちに、お二人に拉致られちゃったというわけです。

「何かいい方法…ないでしょうか?」


山口の相談?に、途中で若干ドン引きする場面が多々ありながらも、
最後まできっちりと聞き届けた、黒尾と赤葦のOSKお節介コンビ。
まずは…と、山口の頭に手を伸ばし、わしゃわしゃと掻き回した。

「まったくもう…可愛い相談ですっ!」
「ツッキーは…物凄ぇ果報者だなっ!」

健気で可愛い山口には、ゴホウビにもう一個…飴ちゃんをやるぞっ!
俺と黒尾さんが知恵を絞って鞭撻を振るいますから…ご安心下さい!


盛大に山口をもみくちゃにした二人は、その直後、キュっと表情を引き締めた。
まるで試合の最中のような、真剣な瞳…智将と参謀が『本気』を出し始めた。

「感極まっても、月島君を絶叫しなくなる方法…割と簡単ですよね。」
「『ツッキー』という、叫びやすいファンキーなネームを…封じる。」

「『ツッキー』を、封じる…?」

赤葦が『簡単』だといった方法に、黒尾は首を縦に振り、山口は横に傾げた。
言っている意味が、全くわからない…心底そう思っているキョトン顔の山口に、
OSKコンビは懇切丁寧に、封印方法について解説をした。


「要するに、絶叫に向かないネームで…『ツッキー』以外で呼べばいいんだ。」
「月島君のフルネームは、確か、『月島蛍』…そちらにすればいいだけです。」

苗字+名前+敬称の組み合わせで、そんなに多くない数パターンができあがる。
そのうちのいずれかで、ちょっぴりオトナかつシックリくるものを選択…
そうすることで、自ずと絶叫で呼びかけることはなくなるのではないだろうか。

「なるほど!呼び方一つ変えるだけで…かなり雰囲気が変わりますよね~」
「雰囲気だけじゃなくて、距離感や関係性も…オトナに近付けるかもな。」
「『ツッキー』に『さん』を付けるだけでも…妙にしおらしく感じます。」

三人は「ツッキーさん♪」と呼ばれた時の月島のゲンナリ顔を同時に想像…
どういうリアクションを取ったらいいか困惑する姿に、ブブッ!と吹き出した。

「『ツッキーさん、お風呂&晩御飯…お迎えにきました♪』…とか?」
「そう言われたら、『うるさい山口!』とは…返事できねぇよな~!」
「一回ヤってみたいですけど…まだ漫才の域から出てないですよね~」


では、お笑いコンビにならず、オトナの雰囲気を醸す呼び方は…?
再び真剣モードに戻った腹黒赤コンビの二人は、実行が安易な方策を探った。

「親密さを深める、一番簡単な方法は…『呼び捨て』だろうな。」
「逆に、オトナなシットリ感演出には…『敬称』を付けること。」

例えば、俺は既に呼び捨てで『赤葦』、赤葦は俺を『黒尾さん』と敬称付…
歳の差があるから、これを逆転させることは、赤葦にはかなり難易度が高い。
だとすると、『別の場所』を逆転させれば、親密&オトナを両立可能となる。

んじゃ、ちょっと試しにヤってみるか…
黒尾と赤葦はお互いの方を向き直り、やや戸惑いながら呼び方変更を試行した。

「今日はそろそろ上がるか…京治…?」
「晩御飯にしましょう…鉄朗さん…?」
「ーーーーーーっっっっっ!!!??」

お試ししてみた瞬間、三人はボン!!と顔を真っ赤に噴火させ…
お互いに顔を隠すように、その場にヘロヘロと崩れ落ちた。

「今のは…破壊力が、デカすぎる…っ」
「今のところ、封印…しましょう…っ」
「今はまだ、お二人には…早すぎ…っ」


ドッキン!ドッキン!と挙動不審な絶叫を放つ心臓を、深呼吸で無理矢理抑え、
俺達の『練習』は不要…山口の『本番』を考えるぞ!と、黒尾は号令をかけ、
三人はガップリと肩を組んで円陣…ヒソヒソと『内緒話』を再開した。

「山口も、ツッキーを『月島』の方で呼ぶのは、何かシックリ来ねぇんだろ?」
「はい。家族ぐるみの付き合いなんで…『?』しか、浮かんでこないですね~」

「ですが、二文字の名前は余計に絶叫しやすいので、呼び捨ても却下ですね。」
「あ、ペットを二文字にするのも、叱ったり呼び寄せやすいから…ですよね~」

   『月島』も使えない。
   呼び捨ては何か違う。
   ならば、残る方法は…



「こんなとこで…ナニやってんの。」

突き合わせていたアタマの上から、冷ぁ~~~く、低ぅ~~~い…声。
三人はヒィッ!!?と小さく呻き声を上げ、お互いにしがみ付いてヘタリ…

突然の闖入者・月島は、密談三人組から山口だけをベリっと引き離すと、
憤怒と不機嫌と苛立ちが全部混ざったような形相で、仁王立ち…
今まさに『大噴火直前』だと、全身から怒気!怒気!と熱を放っていた。

「ツッ…っ!!」

思わずいつも通り、月島を絶叫で呼びそうになった山口だったが、
咄嗟に両手で口を塞ぎ、それを飲み込んでから…月島にしがみ付いて抑えた。


「山口。ナニしてたの?」
「えーっと、その…あのね、それは…」

絶叫禁止で、『ツッキー』も封印で、苗字も呼び捨てもダメ、だから…
えーっと、だから…あ、そうかっ!!


   月島の腕を、グイっと引き寄せる。
   少し背伸びし、耳元に手を当てて。
   こっそりひっそりと…『内緒話』。

「俺達も、そろそろ…お風呂入って、上がって、ご飯食べて、それから…
   親密で、オトナなシットリを、感じ…ねぇ、そうしよ?…蛍、さん♪」


山口の『本番』に、黒尾と赤葦は唖然…今のはまだ早いっ!と絶叫する前に、
月島が山口を肩に抱え上げ、その場から全力でダッシュ…数歩先でピタリ停止。

「くくくっ黒尾さんっ!赤葦さんっ!!
   最高の誕生日プレゼント…本当にありがとうございますーーーっっ!」


学校中に響き渡るような大絶叫を残し、月島&山口は、どこかへ消えていった。




- 終 -




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黒:『OSK』…お前ら、新婚さんかよっ!?
赤:『OSK』…おめでとう、素敵な恋人達。

※後日談 →『中間作出


2018/09/27 月島誕生日

 

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