大失策!研磨先生②







「つい先日…夏休み最終日の話です。」


とことんまで赤葦に喋らせて、クロ赤コンビが醸す妙な雰囲気を払拭する…
状況的にこの手段しか取れなくなったため、研磨先生と弟子達は覚悟を決めた。

きっと超絶面倒な話…赤葦の惚気を聴き続けるターンになるだろうが、
これは赤葦が惚気を言う程、自分を晒せるようになったということでもある。
厳しくて狡猾な『参謀』という殻を、やっと脱ぎはじめた…
それだけ自分達にも心を開いてくれた証拠だと、強引に『前向き解釈』した。

そんな研磨先生&月島&山口の心情を汲み取った黒尾は、
赤葦の暴走をほんわりコントロールすべく、沈黙を破って説明を主導した。


「バカンスから帰って来た日…その足で俺らはプロ野球観戦に行ったんだよ。」
「東京駅で僕達と別れて…呆れる程のバイタリティですよね。」
「朝6時の引渡から帰るまで、ずっと寝てた…体力回復済とはいえ、ねぇ?」

取引先から頂いた接待用チケットは、対戦相手がご贔屓チームとあって、
前々から楽しみにしていたものだ。
東京ドームの一塁側、しかも年間指定席だから、敵チームのド真ん中だったが…
またとない生観戦(なかなかイイ席♪)の魅力には、どうしても勝てなかった。

「試合開始までに時間があったから、行って来たんだよ…」
「わくわくスポット…我らが『ジャンプショップ』です。」

夏休みの課題も無事完了…月島&山口家のドタバタも片付いた。
よく頑張った自分へのご褒美と、バカンスの余韻で…パ~っと買っちまえ!と。

「久々に行ったら、夏限定グッズが沢山ありましたよ。」
「烏野メンツには『浴衣バージョン』とかあったしな。」

さすがは主人公チーム…季節限定商品の量が違います。羨ましい限りですよ。
特に、『仲良しセット』的なモノ…浴衣の日向&影山とか、月島&山口とか…

「ちょっとタンマ!そっ、そんなのあるんですかっ!?お土産はっ!?」
「浴衣の僕と山口の、ラブラブグッズ…お土産ありがとうございます!」

「あるわけねぇだろ、そんなもん。」
「どうぞ、自分達で買って下さい。」

…そうだった。
この人達は、散々店で楽しむくせに、今まで買って帰ったことはない…
くじやガチャで遊ぶことはあっても、グッズ自体を買った経験がないのだ。


「ま、そんなこんなで…烏野以外にも、新しいグッズが増えてたんだよな。」
「様々なグッズのベース?となる、主要キャラのイラストが新しくなって…」

そのイラストが、ちょっとツボっちまって…遂にグッズを初購入♪だよ。
仕事にも使える、クリアファイルの2枚組セットなんだけどな…




「なかなかイイじゃないですか。全身像と顔のアップ…」
「ポップなカラーで、おしゃれです♪」
「うん…悪くない、ね。」

掛け値なしに、素直にデキの良さを褒めながら…視線がある点に集中した。


「あっ、赤葦さんが…笑ってる!?」
「ほんのりだけど…微笑んでる、ね。」
「え、これ…マジで赤葦?」

前回、自分達が実際に手にした赤葦グッズは、『一番くじ』のクリアファイル。
『全国への軌跡』というシリーズだけあって、ユニフォーム姿だった。
当然ながら、表情は猛禽類のような厳しさ…試合中の『セッター赤葦』風だ。

だが、今回の赤葦は、ジャージ着用とは言え、リラックスした雰囲気。
部活と言うよりも、おウチでのんびり…柔らかい微笑みを湛えているのだ。

「なんか…グッとクるだろ?」

あと数ミリ目を伏せるだけ、僅かに口角を上げるだけで…『卑猥な京治』風。
まさに、『そういう空気』を纏う直前…絶妙なギリギリ具合なのだ。

「これは、まあ…即買い確定だよね。」
「アダルトグッズ…じゃない、よね?」

何となくドギマギし、グッズの赤葦と目を合わせないよう…視線を彷徨わせる。
黒尾はそっとファイルを引き出しに仕舞いながら、苦笑いした。


「俺は今回、初めて『グッズ』の存在理由がわかったよ…」
「グ~~~ッ!と湧き上がるカンジ…『カきたいキモチ』が刺激されるね。」

この俺でさえ、クロと赤葦の『ミニシアター』をカきたい…創作意欲が湧く。
デキの良いグッズが放つ、ビジュアルの威力…視覚への刺激は絶大だ。

クロ、月島、山口の、ギリギリな『赤葦ミニシアター』を期待する目…
俺がその期待に応えようと、身を乗り出したところで、ご本人様が割り込んだ。


「俺本人には、全然ピンときませんね。むしろ、『母にソックリ』を自覚…
  自分が結構な『女顔』だと、目の前に突き付けられた気分です。」

そんなことは、どうでもイイんです。本題は、別の『クロ赤(他)』グッズです。
月島君達とは違い、俺と黒尾さんが『一緒に』というグッズは、ほとんどない…
黒尾さんはいつも孤爪師匠とセットですし、俺は木兎さん…仕方ないんですが。

そんな中、唯一俺達が一緒に描かれていたグッズが…コチラです。




『ねこま&ふくろうだに・カフェカレー(甘口)』という、オモシロ商品。
『カフェカレー』とは何か?について、風営法の『カフェー』の定義とか、
レトルトカレーなのに『カフェ』カレーを名乗っていいのか?等、
色気も食い気もない考察を、お店で黒尾さんとしたことは割愛しますが…

「『ねこカフェ』も『ふくろうカフェ』も、巷で流行ってますもんね~♪」
「しかも、使われてるイラストは、例の(イヤラシ系一歩手前の)癒し系です。」

『全員集合図』のような、確実に一緒に枠内に入るグッズではなく、
ネタモノとは言え、厳選された少人数のグッズに、一緒に入っている…
それでも赤葦は、少し不満そうな顔をしていた。

「たった4人なのに…やっぱり俺は、黒尾さんの隣じゃないんですね。」

ポロリと零れる、寂しそうな言葉。
それを聞いた研磨先生は、黒尾の書類を引ったくり、裏側に走り書きした。

「よく見て、赤葦。正面から見ると、クロと赤葦は離れて見えるけど…
   真上から見た鳥瞰図(配置図)にしてみると、こうなるはずだよ。」



「あっ!赤葦さんと黒尾さん…お隣ですよ!やりましたね~♪」
「『パッケージ用写真』という特殊事情で…離れて見えるだけですからっ!」
「っ!!?た…確かにっ!!俺…黒尾さんの、お隣ですっ♪」

研磨の咄嗟の機転により、赤葦の表情が『ぱぁぁぁぁぁ~♪』っと晴れた。
その顔をグッズにしたら、絶対買う…という言葉を飲み込んだ面々は、
このキラキラした無垢な笑顔なら、惚気を喜んで聞いてやりたい気分になった。
黒尾ほどではないにせよ、全員が赤葦に対して…甘いのだ。


「実はこのカレー、1つが700円(税抜)もするんですよ。」
「税込756円…た、高っ!!?全然『和む(756)』値段じゃないですっ!」
「まさか、猫肉とか、梟肉入り…?」
「それか、特別な『オマケ』付…あっ」

赤葦が言っていた「『オマケ』と言えば…」というのは、コレのことだろう。
研磨先生が黒尾に確認の視線を送ると、思った通りの反応があった。

「箱の中に、4人のうちいずれかが描かれた『ミニクリアファイル』が…」
「俺達が大好きな『くじ』…ウチのお昼ご飯用に、2つだけ買うことに。」

俺の希望は当然、『黒尾と赤葦』です。
たった4人とは言え、一発でソレを当てる確率は、1/4×1/4…約6%です。
ココは勿論、幸運を贅沢に無駄遣いする…俺の黒尾さんの出番です!
「…お願いします。」と黒尾さんを促すと、商品棚からひょいひょいと…

「その結果が…コチラです♪」





「ま、また当てたの、黒尾さんっ!?」
「うっわ、マジで…贅沢な無駄遣い!」
「クロ…どんだけ赤葦が好きなの!?」

前回の『一番くじ』騒動の時もそうだったが、黒尾の引きの強さは…異常だ。
凄いを通り越し、気味が悪い。本当に幸運を使い果たしてないか、心配になる。

「黒尾さん…ステキです。」
「この程度で…いいのか?」

   ウットリと見つめ合う2人。
   その姿を茫然と眺める3人。

「話はこれだけでは終わりません。」


翌日の昼、仕事から戻ると、このカレーを黒尾さんが作って下さってて…
ゴロゴロとしっかりジャガイモも入ってるし、深みのある味わいでした。
『オマケ』がメインのレトルトの割に、なかなか美味しい…と思っていたら、
ジャガイモもスパイスも、黒尾さんのアレンジだったんですよ!

冷凍しといたハムカツと、帆立クリームコロッケもトッピングされてますし、
レタスのサラダと、冷た~い麦茶、お口直しの醤油煎餅まで…完璧です。

「これを『スパダリ』と言わず、何を言わんや…俺にはわかりません。」
「大げさだよ。ウスターとオタフクと…あと胡椒を足したぐらいだぞ?」

たった756円×2つで、こんなに俺を幸せな気分にして下さるなんて…
小さなコトかもしれませんが、黒尾さんと結婚して…ホントに良かったです♪


「「「ゴチソウサマでした。。。」」」

色んな意味で『お腹いっぱい』になってしまった研磨先生達は、
両手を合わせて『もう結構です。』と、目を逸らした。

激甘口なカレーの話…まぁ、赤葦が幸せならそれでいいや。
めでたし、めでたし…いや、違う。

胸焼けがする程のラブラブ具合なのに、どうして二人は『妙な空気感』に…?
正直な所、もうデザートもいらない気分だったが…放置はできない。

研磨先生は「ぱん!」と手を叩くと、デレデレする二人の気を引き締めた。


「何でアンタらは、『ラブラブ激甘カレー』を食べて…ギクシャクしてんの?」




- ③へGO! -





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※前回の『一番くじ』 →『的中!?研磨先生⑥


2017/09/05    (2017/09/04分 MEMO小咄より移設)

 

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