※『愛玩同盟』の後日談。




    哀願同盟







   (ゃっ…も…ムリ…っ!!!)
   (あと…もうちょっと…だっ)

どうしてあの時は、「大丈夫!」だなんて思ったんだろうか。
どう考えたって、俺達に勝算はない…そんなこと、わかりきってるじゃないか。
本当に、どうかしていた…浮かれていたとしか言いようがない。


「ちょっと打合せしたいことがあるのですが…」と、始業早々月島が申し出た。
特に急ぎの用事もなかったから、黒尾は快諾…応接室のソファに座ろうとした。

だが、「ちょんちょん」と指先で背を突かれ、反射的に後ろを振り返り…
神々しいまでに美しい赤葦の笑顔に、全身が「ガチンガチン」に硬直した。
隣に居た山口も、全く同じ…呼吸すらできない状態で凝固していた。

「はい…正座。」
「当然…床に。」

はい!!という『良いお返事』もできないまま、黒尾と山口は即時正座。
赤葦と月島は、キラキラ目映い笑顔を絶やすことなく、ソファで長い脚を組み、
二人だけは熱い緑茶を美味そうに啜りながら、黒尾達に微笑みかけた。

「心当たり…ありますよね?」
「まさかとは思いますが、僕達が気付かないとでも…?」


応接テーブルの上には、お煎餅が入っていた銀色の缶が置かれていた。
給湯室の棚には、いくつも『いただきもの』の缶や箱が保管されており、
様々な備品の保存容器として、賢く再利用されている。

そのうちの一つ…一番数が多く、何の変哲もない銀色の『おやつ箱』だったが、
黒尾と山口はその箱を見ようとしない…もうそれだけで、バレバレである。

先日、黒尾と山口は二人で外回り。
その帰りに内緒で入手した『逸品』を、この中に隠していたのだ。
自宅よりも、ここの方が安全だと思っていたが…実に甘い認識だった。


「見たまんまですが、あえてお聞きしますね。これは…何ですか?」
「実に『美味しそう』ですが…どう見ても『おやつ』ではありませんよね?」

月島君、それは『おやつ』ではなく、むしろ『おかず』の部類に入るものです。
アレとかが動かせて、ココにギュン♪とクる系の『お人形さん』と、
独特の手触りが堪らない…確実に必携したくなる『ゴム製品』ですよね。

「コレをナニに使うのか?なんて、そんな無粋な愚問は致しませんが…」
「では、15文字以内で答えて下さい。これは…一体何ですか?」


「『欲しくてガマンできなかったもの』…です!!」
「『これがないと生きていけないもの』…です!!」

背筋をピンと伸ばし、キッチリ15文字で『模範解答』をした黒尾と山口。
その答えに、赤葦と月島は「大変よくできました。」と、頭を撫で撫でした。
一切笑顔を崩さない二人に、黒尾達は恐怖で震え上がり…
隠しておいた『おかず』について、自ら進んで洗いざらい白状した。


「成程ね。僕達が晩御飯の『おかず』を作って待っている間に…」
「おサムライ様コンビは、楽しくおデートして『おかず』を買っていた…と。」

俺が頼んでいた『おつかい』は「悪ぃ、なかった。」の一言で終わり。
代わりに『俺の部下が○○なんだが』とか、『隣のイケメン幼馴染』とか、
気を利かせて別のBL…『おみやげ』を買って帰るわけでもなく、
自分達の欲望を満たすためだけに、内緒で『ダッチワイフ京治君』と、
『アレを掘ってるツッキー』を、ねぇ…実にステキな『おかず』ですよね。

そのお店にあったと言う『ダッチワイフ忠君』を『おみやげ』に…
どうしてそういう『こころくばり』ができなかったのか、不思議ですよね。
研磨先生との協約を破ってまで『一番くじ』に挑戦したというのに、
2つとも黒尾さんに引かせないとか…ここにも『かしこさ』が足りませんし。
どうして優しいお二人が、この日に限って『思いやり』を忘れていたのか…
何よりもそのことが、僕は心から信じられないんですよ。

…等々、赤葦と月島は笑顔のままニコニコと語り合いながらも、
その「ニコニコ」と全くそぐわない破壊音を立てつつ、煎餅を噛み砕き続けた。


気を失いそうになる程の恐怖と、延々正座させて頂いたことによる痺れから、
山口は限界間近…さっさと泣いてワビ入れましょう!と涙目で真横を見たが、
黒尾はチラリと壁掛時計に視線を送り、もうちょっとだけ耐えろ!と指示した。

「僕達は代わりに、先日頂いた『緊急援助物資』で遊んでみましょうか?」

勿論、僕は山口に『元気の源!』の電動グッズを思う存分試してみるコースで、
赤葦さんの方は、電動グッズ『のみ』を使って黒尾さんを一切使わないコース…

「月島君、それは大変な名案ですね。では早速…持って来ましょうね。」

とんでもない『おしおき』を決定され、山口と黒尾は喉を引き攣らせた。
もうダメだと、ギブアップを宣言しようとした瞬間…『ピンポ~ン♪』の音。


「良いとこで…邪魔が入りました。」
「仕方ない…僕が行って来ますよ。」

月島がしぶしぶ玄関へ向かうと、「お荷物です~」という元気の良い声。
赤葦は戸棚から印鑑を出し、黒尾達に一瞥をくれてから玄関へ…

「宛先・赤葦京治様&月島蛍様…?」
「品名・緊急援助物資(おかず)…?」

困惑する二人の声が玄関から聞こえ、黒尾と山口は安堵のため息…
音を立てずに、こっそりハイタッチを交わした。

   (て…天の助けっ!!)
   (よし…間に合った!)


届いたのは文字通り『緊急援助物資』…黒尾と山口の窮地を救う『逸品』だ。
送り主は『黒尾&山口』…ご本人様からだった。

不審そうな目でこちらを睨みながら、月島と赤葦は黙々と箱を開け…
出てきたモノに、「あっ!!?」と大きな声を上げた。

「これは…『ダッチワイフ鉄朗君』!」
「同じく『忠君』と…『蛍君』も!?」
「えっ!!?ツッキーのもあるのっ!?やったぁぁぁぁ~!黒尾さん大好き!」

中に入っていたのは、ダッチワイフ…もとい、『ねんどろいど』シリーズだ。
自分達だけが『愛玩』するという後ろめたさに耐えきれず、
また、『いざという時』の保険として、黒尾と山口はそれぞれの人形を購入…
黒尾は山口に内緒で、山口用に『蛍君』も追加で入れておいたのだ。

「やっぱ、これも4人で…『酒屋談義』してぇかな~って。」


「『おしおき』タイム…終了です!!」
「ここからは…『ごほうび』ですよ!」

思いがけない『贈物』に、赤葦と月島は歓喜…足が痺れて動けない二人を抱え、
密着するようにソファに座らせると、いそいそと『愛玩グッズ』を開けた。

「これは…想像を絶する可愛さです!俺の可愛い黒尾さん…最高ですっ♪」
「ツッキーかっこいい…!イヤらしい嘲笑顔も…なんかキュンとクるっ!」
「いや、待ってよ…この山口の可愛さ、卑怯なレベル…ズルいよ、これ!」

下半身にグっとクる系のダッチワイフ…ではなく、心臓鷲掴み系のキュートさ。
4人は夢中になって、手足や顔の表情パーツを『自分好み』に組み合わせた。


「キャラによって、いろんなおまけパーツが入ってるんですね~」

『蛍君』にはゴーグルやヘッドフォン、『忠君』にはふにゃふにゃポテト。
『鉄朗君』にはジャージの上着に三毛猫(研磨先生…?)だったり。
謎が多いのは、『京治君』の顔パーツ…明らかに『違う人』が入っている。

「『京治君』は…表情にほとんど変化がないですからね。」
「表情豊かな奴の『しょぼくれ顔』か…これは封印だな。」

黒尾は『京治君』セットから『違う人』を外すと、別のパーツをセットした。


「赤葦、寒いから…これ着とけよ。」
「あっ…ありがとう、ございます。」




「………!!!」
「………♪♪♪」

『鉄朗君』と『京治君』のやりとりに、黒尾と赤葦は悶絶&感涙…
それを見ていた月島達も、負けじとセッティングした。


「ツッキィィィ!カッコイイ~っ!」
「ウルサイ山口…けど、ありがと。」




「『忠君』の応援があれば…修羅場なんて実にチョロいよ。」
「俺も…ツラい時は『蛍君』見てたら、頑張れそうだよ~♪」


こんな小さな『オモチャ』が、机の上にあるだけで…心(と顔)が緩んでくる。
「これは絶対に必要な『備品』…当然経費になります。」と月島は断言し、
『忠君』を大事に掌に包み込んで席に戻り、早速仕事に取り掛かった。
残る3人も、「よっしゃ!ヤるか!」と気合十分…猛然と仕事を片付け始めた。


次の修羅場からは、今までよりもストレスも少なく、もっと頑張れそうだ…
4人は時折デレデレと緊張を緩めつつ、各段に能率がUPしたことを実感した。



黒尾法務事務所、集合!!




- 終 -




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※緊急援助物資 →『晩秋贈物

ギャグちっく20題
『06.15文字以内で』
お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。

2017/11/21    (2017/11/14分 MEMO小咄より移設)

 

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