※教育上大変問題アリな話です。ご注意下さいませ。



    晩秋贈物







「これは…っ!?」
「ナニ考えて…っ」


『屍累々』という言葉が相応しい、修羅場明けの黒尾法務事務所。
納品を終えた感激を喜ぶ気力さえなく、ただグッタリと机に伏せっていた。

それもそのはず…先月末にやっと抜けたと思ったのに、追加でもう1件。
人生で1、2を争う程の『ぬか喜び』っぷりを味わい、心的疲労三倍増だった。


ぼちぼち昼メシ…どうすっかな。
2階にも3階にも上がりたくないから、事務所の給湯室にあるものを…
って、買い置きのお菓子も昨夜(今朝?)全部食い切っちまったか。
あぁ…誰か食うモン持って来ねぇかな。腹に入るなら、この際何でもいいや。


事務所内には、黒尾の独り言だけが空虚に響き渡り、誰もそれに応えない。
それどころか、お前が持って来いよ…という気配すら漂ってくる。

殺伐とした空気が流れ始めた頃、軽やかな『ピンポ~ン』が鳴った。
4人は拳だけを天に挙げ、フェアにじゃんけん…いつも何故か黒尾が負ける。
あんなにくじ運はいいくせに、じゃんけんが激弱い…世の中、案外フェアだ。


やっぱり俺かよ…と、乾いた笑いを立てながら、
黒尾はまずインターホンまで這い出し、宅配業者さんだと確認。
急な依頼者ではなかったことに安堵しつつ、玄関へと受け取りに出て行った。

残りの3人は大して興味がわかず、そのまま机に頬を引っ付けていたが、
戻って来た黒尾の明るい声に、ガバッと起き上がって集合した。

「品名・緊急援助物資(お菓子他)。送り主…赤葦ぱぱ♡まま。」


「ぃやったぁ~~~♪さっすが♪」
「参謀の親は参謀!助かります!」

ダンボールを受け取った山口と月島は、「お菓子♪お菓子〜♪」と歌いながら、
ガムテープを仲良く箱の両端から引っ張り合って、「開けゴマ〜♪」の掛け声。

結婚してから気張らなくなった月島…反抗期も脱し、最近は実に素直だ。
幼馴染も脱したはずなのに、むしろおチビに戻った(やっとなれた?)ように、
山口と『仲良し幼馴染』っぷりを、屈託無く晒すようになっている。
特に修羅場明けの前後不覚状態の今は、ガード崩壊…デレデレ全開である。

可愛い二人にほっこり…黒尾は荷物の送り状を見ながら赤葦に尋ねた。


「お前、ご両親を『パパママ』って呼んでたっけ?」
「まさか。今まで一度も呼んだ覚えはないですね。」

ちょっと想像してみて下さいよ。
俺が「パパ♪」って呼んだら、全く『実の父親』には聞こえないでしょう?
何故だかわかりませんが、これはアウトだっていう自覚があります。

「多少は自覚…あったんだな。」
「もう認めざるを…得ません。」

潤んだ瞳で(徹夜明けだ)、上目遣いにチラリと視線を流しつつ、
ぽってりとした紅い唇で(寝不足故に)、「パパ…」と、試しに囁いてみた赤葦。
よ〜しっ!ナニが欲しいか…遠慮なく言ってみろ!と思わず言いかけて、
黒尾は慌ててかぶりを振り、邪念と妄想を追い払った。


「中身は食糧…ほうとう?」
「カボチャが丸々入ってますよ!あと、黒猫の…ぬいぐるみ?」

ダンボールからは、飴やチョコ、お煎餅缶等の様々なお菓子類の他に、
うどんにパスタ、ラーメンに蕎麦といった保存可能な乾麺シリーズと、
ご丁寧にマジックで顔が書かれた、大きなカボチャが入っていた。


   拝啓。みんな生きてますか〜?
   僕達は相変わらずラブラブです♪
   修羅場でゴブサタだろうけど、
   娑婆では『精霊祭』の季節だよ〜
   ホントはみんなと『伝統を守る会』
   (酒屋談義)したかったけど…我慢!

   せめて雰囲気だけでも…と思い、
   それっぽいのを選んで贈ります♪
   修羅場脱出の『元気!の源』に…
   秋の夜長をお楽しみくださいませ〜


「…だそうです。おそらく、ハロウィンをヤりたかったんですね。」
「ハロウィンに『ほうとう』を食う…って、聞いたことねぇよな。」

でもまあ、緊急援助物資…食糧は正直、めちゃくちゃありがたいよな。
ビタミンが豊富なカボチャは、まさしく『元気!の源』だろうしな。

あの赤葦夫妻が、俺達のためにいろいろ考えて、ハロウィンらしさを演出…
二人が大騒ぎしながら盛り上がっている姿が目に浮かび、黒尾は頬を緩めた。


「あ、まだ底に何か入ってるよ?俺達の名前が、それぞれ書いてあるけど…」

底に平らに敷いてあったように見えた、黒くテカテカしたビニール袋には、
ふわふわしたモノが入っているようで、自分用のを各々がチラリと覗き込んだ。

「あっ!!?これは…コスプレの衣装ですね。」
「ハロウィンの気分…仮装して楽しみなさいよ~ってことかな?」


山口がまず中身を引っ張り出すと、黒に近い濃紺のワンピースと…赤いリボン。
ハロウィンと言えば魔女。あの黒猫とセットの…宅配業を営む超有名魔女だ。

「『山口君へ。箒は入らなかったから、代わりに相棒の黒猫をどうぞ♪
   注意・箒代わりに《黒猫》にまたがると、京治に呪われるよ~』…だって。」
「それ以前に、僕が魔女に乗ろう…じゃなかった、呪うから。」

黒猫のぬいぐるみも可愛いし、あの映画は俺も大好きだし…嬉しいな♪
純粋な雰囲気が、山口にピッタリ…さすがは赤葦さんのぱぱ&ままですね。

異性装(女装)もハロウィン仮装の定番ではあるものの、
アッサリと可愛いワンピースを受け入れた山口に(二日連続徹夜だ)、
当事務所のボス黒猫&飼主は呆気に取られつつも、山口の柔軟な心に感服した。


「ツッキーのは…ニューヨークの警察官かな?カッコイイ~超似合いそうっ!」
「『月島君へ。ハロウィンには電動マイクを持ったDJが出演するらしいよ。
   というわけで、略して電マイク→《電マ(で)イク》をイれてね♪』…っ!?」

確かに、DJポリスは渋谷のハロウィンでは定番の存在となってきたが、
あれはコスプレでも出演者でもないし、電マは電動マイクの略じゃない…
ギャグにしては問題アリだし、マジだったら余計に大問題なセレクトである。

「確かに、カタチは似てるけどな…」
「マイクは電動に決まってます…っ」


あぁ…だんだん読めてきた。
コレはあの浴衣に引き続き、赤葦夫妻からの…(下)心のこもったプレゼントだ。

「電マを息子の友人夫婦に贈るなんて…一体ナニ考えてんでしょうかっ!」

息子は羞恥とやり場のない怒りで、みるみる顔を赤く染めて顔を覆ったが、
貰った月島と山口は「さっすが赤葦家!ウマいコト言うよね~!!」と、
無邪気に大喜び…それがむしろ、赤葦を居たたまれない気持ちにさせていった。


黒尾は備品棚から『電動』用の乾電池を出しながら、赤葦を励ますように、
「俺のは何だろうな~?赤葦好みだと嬉しいよなっ!?」と明るい声を上げた。

「黒尾さんのは…吸血鬼ですね♪黒い燕尾服…めちゃくちゃ素敵です!!」
「『ウチの可愛い京治の純潔を奪った』っていう意味…だったりして?」

月島の辛辣なツッコミに、黒尾はグっと喉を詰まらせたが、
一緒に入っていたのが、折り畳み傘…吸血鬼の配下・こうもり傘だったことに、
一瞬だけホッとしたが…ブツを握った感じが、どうも折り畳み傘ではなく、
ちょっと『手に馴染む』というか…同封の手紙を読んで思い切り吹き出した。

「えーっと…『黒尾君へ。吸血鬼と言えばこうもり。こうもりと言えば傘。
   傘の部分が張ったコレで、トばしちゃってね(傘だけに完全防水♪)』…!?」
「コレが防水なのも、当たり前です!濡れまくるトコにさすんですからっ!!」

「成程っ!!『黒のこうもり』は…『黒(尾さん)のバット』ってコトだよ!」
「黒々として伸縮自在!『穴』のナカが定位置…まさにこうもりだよね~」

絶句して固まる黒尾。机に隠れる赤葦。他人事の月島と山口は拍手喝采…
『電マイク』と似た用途の、電動グッズ(完全防水)用にも、乾電池を用意した。

「息子の旦那様に、『ムスコ』っぽいブツ…親のすることですかっ!?
   しかも黒っていかにも『玄人♪』…まさか『くろお(黒尾)と♪』っ!?」

こんなトコまでこだわって…!と、ガックリ項垂れながら、
せめて素人向きなピンクにしてくれれば…と、赤葦はやや的外れに慟哭した。


「最後は赤葦さんのですね~楽しみ!」
「僭越ながら、僕達が開けますね。」

机の下に隠れて出てこない赤葦の代わりに、月島と山口が袋を開けた。
中からは青と黄色の鮮やかなドレス…超有名『お姫様』の衣装が現れた。

「これはっ、おしぼ…白○姫っ!!」
「ハロウィンコスプレの定番…っ!」
「『京治へ。りんご型容器に入ったローションは、かなりトロリ~ン系だから、
   使った後はまず《あつしぼ》で拭き取るとイイよ~♪』…だと!」

ほんの数日前に、白○姫とおしぼりの話をしたばかり…タイムリーすぎる。
月島・山口・黒尾の3人は、あまりにドンピシャな衣装に大爆笑…

赤葦は机の下から飛び出すと、おしぼり姫衣装とりんごを掻っ攫い、
りんごのように赤く染まった頬&うるうると潤んだ瞳で、その場に泣き崩れた。


「せっかく俺が、面白いおしぼりネタでカッコつけたのに…台無しです!」

こんなの贈ってきて…赤葦家が『ごっこ遊び』が大好きだと思われちゃいます!
特殊おしぼりテクも、赤葦家伝統の技だとみなされてしまいそうですし…
この贈り物を堂々と『元気!の源』だなんて…あからさますぎます。

「何よりも、黒尾さんに吸血鬼コス…ツボすぎです!
   赤葦家の血と、恐ろしく大正解なセレクト…呪うに呪えませんっ!」


黒尾にしがみ付き、悔し涙を流す赤葦…
遺伝子レベルでエロいくせに、実は意外と純情な本性に、
世の中案外、バランス取れててフェアだなぁ~と、3人は微笑み合った。




- 終 -




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※浴衣プレゼント →『菊花盛祭
※白○姫とおしぼり →『冷熱乾絞


2017/11/05    (2017/11/01分 MEMO小咄より移設)

 

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