ご注意下さい!

この話は、BLかつ性的な表現を含みます。
18歳未満の方、性描写が苦手な方は、閲覧をお控え下さい。
(閲覧により不快感を抱かれた場合、当方は責任を負いかねます。)

※今回は月山オンリーです。
      


    それでもOK!な方  →コチラをどうぞ。



























































    福利厚生②









「本当に…黒尾さん達と一緒に居て、よかったよね~」
「人生って、何がどうなるかわかんないよね。」


東京から福井へ陸路で向かうには、大きく2つのルートがある。
一つは東海道新幹線で米原まで行き、そこから北陸線で北上する方法。
そしてもう一つは、北陸新幹線で金沢、北陸線で南下する方法だ。

せっかくだから、往路と復路でルートを変えよう…と、
月島と山口は一番目の東海道ルートを選択し、福井駅へと向かっていた。
太平洋側の東北出身者の二人にとって、日本海側の北陸は、
随分『遠~い!』イメージ…どのあたりかも少々あやふやだったが、
実際には東京から3時間程で福井に到着…意外と近い所だった。

とは言え、その3時間を無駄に過ごすのは勿体ない。
出張が決まってからあまり事前調査の時間もなかったから、
二人は車窓を眺めながら、雑談がてらプチ考察を始めた。


「ツッキー念願の福井だから、そりゃあもう、恐竜語りだよね?」
「いや…竜は竜でも、恐竜じゃない方にするよ。」

月島のセリフに、山口は目を見開いて驚いた。
せっかく福井に行くのに、恐竜の話をしないなんて…天変地異の前触れか。
山口はぶるりと身震いして、月島の額に手を当てるが、特に異変はない。

月島は「僕にだって、ちゃんと考えがある。」と苦笑いし、
額に当てられた手を下ろしながら、気を取り直して話を始めた。


「福井には、恐竜以外にも大きな『竜』がいるんだ。」
「県の形…東側がティラノサウルスの頭骨に似てる、とか?」
それも実にステキな視点ではあるんだけど…そうじゃない。

「福井と岐阜の県境から、日本海にそそぐ…『九頭竜川』だよ。」
「確か、九頭竜の神様…九頭竜大神は、長野・戸隠神社の主祭神…?」
アマテラスが、高天原の天岩戸に隠れた時、天手力男神が引き摺り出し…
放り投げた岩戸が、戸隠の地にまで飛んできたそうだ。
天手力男神は、二人で何度か行った、新宿・鬼王神社の祭神の一柱だ。

「今回の九頭竜は、戸隠のとは別の伝承だよ。」
5世紀…継体天皇が、暴れ川だった黒龍川(現在の九頭竜川)の治水のため、
黒龍大神と白龍大神の二神を祀った…

「この黒龍大神は高龗神(たかおかみのかみ)で、
   白龍大神は闇龗神(くらおかみ)だと言われているんだ。」
「名前からして、水を司る…龍神様だね。」
『龗(おかみ)』は『龍』の古語であり、『高』は山を、『闇』は谷を表す。
まさに山と谷の間に棲まう、水の神である。

火の神・カグツチを産んだことで、黄泉の国へと逝ったイザナミ。
それに怒った夫のイザナギが、カグツチを斬り殺し、
その死体から生まれたのが、高龗神…京都・貴船神社の主祭神だ。
また、カグツチを斬った際、その剣の柄に集まった血が、指の股から垂れ…
そこから闇龗神が生まれたそうだ。

高龗神と闇龗神は、対神とも同一神とも言われているが、
この龗神の娘は、素戔嗚尊の孫と結ばれ…その子孫が、出雲の大国主だ。
「名前を見ても、系譜を見ても…龍つまり『蛇』の神様だね。」
「高龗神…黒龍大神は、日本の国土を守る『四大明神』の一柱でもあるんだ。」

東の鹿島大明神、南の熊野大権現、西の厳島大明神、そして北の黒龍大明神。
天地の始まりから、国土の四方を守護してきた4柱の神々…
日本を代表する龍の一柱が、福井に居るのだ。
「フクイラプトルやフクイサウルスも、日本を代表する竜だけど…」
「こちらも同じく、『日本代表竜』なんだね。」

黒龍大神への信仰は厚く、九頭竜伝説が残る場所は、他にも存在している。
中でも有名なのが、箱根・芦ノ湖の九頭竜神社であろう。
こちらは水神であるとともに、商売繁盛や縁結びにもご利益があるそうだ。
「水の神様…龍神様…弁才天と繋がったね。」

「もう一つ、千葉の鬼泪山(きなだやま)も…聞いたことある話だよ?」
鬼泪山に棲み付いた、九つの頭を持つ竜を、日本武尊が草薙剣で倒す話だ。
これにソックリな話…草薙剣で倒される竜の話は、何度も語り合ってきた。

「素戔嗚尊の…八岐大蛇伝説だね。」
「頭が九つなら、その首の間は八…八股(ヤマタ)になるからね。」

福井には、古生代の恐竜に会いに来たはずだった。
でも、それよりはかなり『新しい』…まだ化石になっていない、
実にみずみずしい竜にも、どうやら会えるらしい。


「『酒屋談義』をしてなかったら、こっちの『竜』には…気付けなかったね。」
「この意味でも、黒尾さん達と一緒で良かったなぁって、僕は思うよ。」

今までは、『福井=恐竜』しか見えていなかった。
この旅行では、それ以外の福井も…『知らなかった一面』にも出会えるはず。
これはきっと、福井に限らず、別のナニかも…そんな予感がする。





***************





福井駅に着いた時には、もうすっかり辺りは暗くなっていた。
駅前のビジネスホテルにチェックインした後、近くの居酒屋に繰り出した。

「本当は、今日中に勝山まで行きたかったけど…」
「しょうがないよ、突然決まった旅…出張なんだから。」
恐竜博物館の近くに、スキーリゾートがあるのだが、
春休みであり、まだ雪も残っていることから、満室で泊まれなかった。
ゴールデンウイークが終わり、夏のキャンプシーズンが始まるまでの間…
5月末辺りが、気候も良くほぼ貸切状態とのことだから、
新婚旅行の『本番』は、この時期を狙って来た方が良さそうである。


赤葦さん、お先にすみません…と心の中で謝罪しながら、
山口は福井の地酒『黒龍』をぐいぐいとあおり、『九頭龍』を追加注文した。
旅先では地酒を美味しく頂くべし…これぞ旅の醍醐味である。

店員さんに頼んで、飲んだお酒のラベルを譲って貰った月島は、
瓶から丁寧にラベルを採取し、クリアファイルに挟んで保管した。
一足先に頂いた代わりに、赤葦へのお土産…ノルマである。
その様子を見ていた山口は、『九頭龍』のおかわりを頼み、月島に話を振った。


「そう言えば、ツッキーと二人だけで居酒屋で飲むの…初めてだね。」
「『酒屋談義』以外では、あんまり飲まないし…それも宅飲みだからね。」
付き合いは長いくせに、こうして二人で『サシ飲み』は、未経験だった。
それに気付いたせいか、何となく『余所行き』な気分…
旅先ということも相まって、『普段の生活』とは全然違う沈黙に包まれた。

「ねぇツッキー、何か…話してよ。」
「いや、何かと言われても…いきなりは難しいよ。」
あれだけ電車内で語りまくって、普段も言いたい放題なくせに…
自分で言うのもおかしな話だけどね、とツッキーは微笑んだ。

ちょっと照れたようなその表情に、何だかくすぐったくなってきた。
俺だって、この場でツッキーと何を話せばいいのか…全然思い浮かばない。
幼い頃や、高校時代には考えられなかった、旅先の居酒屋でのサシ飲み。
俺達もオトナになったなぁ~と、しみじみ思ってしまう。

隣で猪口にちまちま口を付けるツッキーの顔を、チラリと盗み見る。
昔から綺麗な顔だったけど、青年になるに連れ、精悍さも加わってきた。
それだけでなく、随分雰囲気も柔らかくなり…頬にもほんのり朱が入った。

少し距離を置いて。でも、手が届く『間近』から観察して。
外の『お酒の場』でしか見られないツッキーの表情に、何だかそわそわする。
妙な落ち着かなさを誤魔化すように、俺はツッキーから視線を外し、
ツッキーが絶対に語り始めるであろうネタを、おもむろに振ってみた。


「せっかくの福井なんだし、思う存分『恐竜語り』…してもいいよ?」
出会ってから今まで、俺自身が『恐竜博士』になれそうなぐらい、
ツッキーの『恐竜愛』を聞き続けてきた。
その教育のせいか、俺も恐竜の話は好きだし、興味もある。
ちなみに、マニアックすぎる話には、『適度にスルー』という術も習得済…
福井に居る間中、延々『恐竜語り』をされたとしても、どうってことはない。

その旨を、当たり障りなく直球で伝えると、ツッキーは驚いたような顔…
そして、全く予想していなかった答えが、笑顔と共に返ってきた。

「やっぱり、僕は山口と結婚するしかないみたいだね。」
「…えっ!?」


い…いきなり、何を言い出すんだろうか。
動揺のあまり(酔いのせいにはできない)、猪口を持つ手が震えてしまった。
確かに、今回はコッソリ『新婚旅行』の予行演習ではあるけども…

俺は慣れない(未経験の)『酔った振り』…聞いてるようで聞いてない振りをし、
黙ってツッキーの話の続きを待った。

「『成田離婚』って、聞いたことあるでしょ?」
「新婚旅行先の海外で、あまりに不甲斐ない旦那様に、嫌気がさして…」
旅行から帰ってきた成田空港で、離婚してしまうという…ありがちな話だ。
離婚相談を受けていても、「ここで熱が冷めた」という話は、割と頻繁に聞く。

「僕は、新婚旅行で福井に行くって決めてたけど…」
誰かと結婚して、もし本当に福井へ新婚旅行へ来ていたとしたら…
僕は旅行中ずーーーっと、『恐竜語り』をし続けたはずだよね。
黙っている時間は、恐竜博物館をじっくり観覧している間のみ…
かなりの高確率で、真冬の日本海のような冷たい夫婦仲になってただろうね。
離婚ならまだマシな方で、下手をすると勝山の山中に捨てられたかもしれない。

「だから、できるだけ『恐竜語り』をしないよう、僕なりに遠慮を…」

成程…だから電車の中で、『恐竜じゃない竜』の話をしたってことか。
ツッキーはツッキーなりに、新婚旅行について考えて、
他人にも、ちゃんとそこまで気を使うようになったなんて。
本当にツッキーは成長した…いや、進化したと言っていいかもしれない。

ツッキーが『別の誰か』と…なら、それは素晴らしい心掛けだと思う。
でも、俺に遠慮するツッキーなんて…あまり見たくない。
俺にだけは、遠慮しなくてもいいのに。

「もし勝山に捨てられたら…念願のツッキーサウルスの化石になれたかもね?」
できるだけ茶化して言うと、ツッキーは珍しく声を上げて笑い、
やっぱり…ね。と、俺の頭を優しく撫でた。

「この僕の『恐竜語り』を、黙って聞き続けてくれるのは…山口だけだよ。」
そもそも、『新婚旅行に福井恐竜博物館』を受け入れてくれるのも、
おそらく山口だけ…そう思わない?


少しトロリとした、ツッキーの瞳。
これはちょっと…振りではなく、本当に酔っぱらってきたサインだ。
俺はツッキーの暴走を押し止めるように、もう一度茶化してみた。
「ツッキーの『恐竜語り』…俺にも半分ぐらい、責任があるからね。」

小さい頃から、ツッキーは物知りで、ツッキーの話は純粋に面白かった。
でも、それだけじゃなく…二人でもっと話がしたかったから、
「ツッキー、凄い!」「ツッキー、もっと!」と、俺は言い続けてきた。

煽てられ、褒められると、ツッキーは満更でもない様子…
むしろ喜んで『更なる調査を期待しててよ!』と、深く追究を続けていく。
ツッキーの考察好き・語り好きは、俺の『もっと!』の産物かもしれないのだ。

「だから俺は…ずっとツッキーの話に、付き合ってあげなきゃね!」
今回も、今まで聞いたことのない話…『もっと』教えてくれるんでしょ?
だからそろそろ…ホテルに戻ろうよ。


ツッキーがこの場で暴走しないように。
その瞳に、別の熱が籠り始める前に。

俺は酔っ払いを介助する振りをして、ツッキーの腕に自分から腕を絡め、
しな垂れ掛かる様に、ゆっくり歩いて店から出た。





***************





ホテルの部屋へ戻ると、酔ったツッキーは俺の腕を掴んだまま、
ベッドにダイブ…巻き込まれた俺は、顔からベッドに突っ伏した。

「うわっ!ツッキー、な…えっ!?」
突っ伏したことに対する驚きの声は、すぐに別のものに変わった。
伏した俺の背面から、ツッキーがそのまま圧し掛かってきたのだ。
さっきまでの、草食恐竜のような『のんびり散歩』はどこへやら。
まるで、いや、まるっきり飢えた肉食恐竜のような…


「ちょっと、重い…」
そう言うと、ツッキーは少し体を上げてくれた。
下から這い出そうと肘を付き、膝を立てたら…浮いた部分にツッキーの腕。
左腕でしっかり俺を抱き締めながら、右手はシャツを捲り上げ、
ズボンのボタンと、チャックを開けていく…

「あっ、待って、い、いきなり…」
「とっておきの『恐竜語り』があるんだ。」

後ろから耳元へ、熱い呼気と共に囁かれる。
カラダの中までじん…と響く声に、ゾクリとしたものが駆け上がる。
その隙を見逃さず、寛げた部分から右手を差し入れ、刺激を与えられる。
抑えきれない俺の嬌声に、食欲をそそられたのだろうか…
耳朶を吸われる湿った音が、盛大な舌なめずりに聞こえてきた。

「そ、そんな『とっておき』なら…4人揃った、時に…っ」
「『二人きり』の時間…そんなにないんだよ?」

今回は『新婚旅行』の予行演習だが、明後日からは黒尾さん達も一緒だ。
実際に『予行演習』っぽいことができる時間は、限られている。
それはわかっているけれど…ちょっと性急すぎる気がする。
これから一生の愛を語り合う、『新婚旅行』の営みというよりは…

「あ…ん…っ!」
「それじゃあ、遠慮なく語らせてもらうね?」

アルコールが入って、普段よりもずっと熱い、ツッキーのカラダ。
それに抱き込まれ、手に包まれ…更に『語り』を聞き続ける自信は、ない。
自分のカラダが、言葉以外での『語り愛』を切実に望み始め、
語られる内容じゃなくて、その音や熱に、反応してくるのだから。

自分自身の声と、脳に直接吹きかけられるような甘いツッキーの吐息…
アタマは酔えないくせいに、カラダはアルコールで敏感になる俺は、
圧し掛かる体温と重さ、耳元の呼吸と手の刺激だけで、蕩けそうになる。

俺とは逆に、アタマはすっかり酔いがまわっているくせに、
舌の回転は衰えないツッキーは、頸筋や耳朶に唇を寄せながら、
とっておきの『恐竜語り』を始めてしまった。


「どうやって恐竜が交尾していたか…知ってる?」
「恐竜の、交尾…?」

これまで何冊も恐竜図鑑を一緒に見てきたが、そんな絵は…見覚えがない。
と言うよりも、今ツッキーに言われて初めて、恐竜だって交尾したはずだと、
ようやく思い当ったぐらい…考えたこともなかった。

骨格から考えると、一般的な四足歩行動物と同じか、
小型恐竜であれば、現代の鳥類に近いポーズだっただろう。

ツッキーは左腕を俺の下から抜くと、肩にその手を置き、
片方の脚を俺の腰に乗せながら、再度背中から密着してきた。
これはいわゆる、後背位…生物の基本的な交尾スタイルだ。
繋がる部分に自身を押し当てながら、『答え』を実演してみせたのだろう。
これ以上なく分かり易い、的確な『解答編』だ。

「きょ、恐竜サイズ、だと…重くて、大変そう、だね…」
「だから、水の中で交尾していた…っていう説もあるよ。」
まるで水の中か、何かに溺れているような潤った音が、
俺の中で蠢くツッキーの指先と、自分の口から…溢れ出してくる。

「ティラノサウルスのアレのサイズ…推定3.7mなんだって。」
「さ、さぞ、ダイナミックで…凄い、交尾だった、だろうね…んっ」
全身骨格で有名な、ティラノサウルスの『スー』にも、
交尾の最中に負ったと思われる傷が、化石に残っているそうなんだ。
他の恐竜でも、『交尾中の骨折が治った痕』がある化石も、出土しているよ。


あぁ…興味深い話だけど、もう…ほとんどアタマに入ってこない。
酔ってないのに、酔ったように…反響するだけの『語り』は、
冷静なアタマじゃなくて、カラダの方の熱を、ぐんぐんと上げていくばかり。

茫然と快感に溺れる中、睦言の様に何かしらツッキーが語っている…
きっと俺は、最中の『アタマに入ってこない』語りを、幾度となく経験したから、
ツッキー語りを『適度にスルー』という技を、身に着けたのだろう。
これが生命の神秘…進化の驚異、かもしれない。

恐竜よりはずっと進化したツッキーは、俺を絶対に傷付けないようにと、
器用な指先で念入りに『準備』してから…
巨大草食恐竜のように、ゆっくりと俺の中に歩を進めた。
速度はないが、ずっしりと重みのあるその動きに、
恐竜も驚く程の大きな声が、顔を埋めた枕を震わせる。

「ツッキーサウルスも…ダイナミック、だね…っ」

ツッキーサウルスは、大きくて緩やかな『草食』恐竜。
じゃあ、ツッキーラプトル…迅速な『肉食』恐竜は、どんな動きをする…?

脳内に浮かんだ『好奇心』に抗えず、俺は後ろを振り返りながら、
つい『いつものセリフ』を言ってしまった。


「ねっ、ツッキー…『もっと』…っ」



- 続 -



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※天手力男神と鬼王神社について →『新年唖然
※カグツチについて →『全員留守



2017/03/25

 

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