接続不動(番外) ~接続未満~







宮ブラザーズのグッジョブ(独断)により、次回の対談ゲストは木兎さん&孤爪さんに決定。
それを聞いた直後から、黒赤組は極端に口数が減り…
あからさまに『上の空』な状態で、どうにかこうにかツム&サムを送り出すと、
それぞれ「ちょっと所用で…」と、何処ぞへと部屋を抜けて行った。

表向きは、飲み会予定だったテイルズ♪と連絡を取ったり、すなリンの無事を確認したり。
でも実際は、動揺しまくる自分を落ち着かせ、次の策を練るための…悪足掻き(時間稼ぎ)だ。

   (さてさて、どう転ぶやら…)

物語はもう、動き始めている。
作者が自発的?独占的?に創作できるのは、せいぜい起承転結の『承』ぐらいまで。
あとは、登場人物達が勝手に動き出し、作者の意に因らずして、方々へ転がっていくだけ。
作者はそれを、第三者の視点から俯瞰しつつ、淡々と漫画や小説等の形で表現し続け…
往々にして、辿り着いた物語の『結』に、作者自身が一番驚いていたりするのだ。

   (宮兄弟なんて、出る予定なかったのに…)


木兎さんと、孤爪さん。
『黒赤物語』にとって欠かせない二人が登場もしくは、どこか・だれかと接続した時点で、
黒尾さんと赤葦さんは、望もうが望むまいが、動かざるを得ない…転がっていくしかない。

   (それだけ、二人は『特別』な存在。)

どの方向へ、どんな風に転がるのかを決定付けるのは、当事者達よりもむしろ外野。
『力点』となった木兎さん達でもなく、物語を脇から支える『サブキャラ』達だったりする。
月山組、阿吽組、鉄壁組、そして宮兄弟…彼らと今後どう関わっていくのかによって、
物語が進む道は様々に分岐し、黒赤組はそれに作用されて転がり、結末に向かうだけだ。

   (つまり、どんな策も、もう…手遅れだよ。)


黒赤という『作用点』を最終的に大きく動かすのは、『力点』たる木兎さんと孤爪さん。
『力点』を引き出し、力が加わる方向を決めたのは、物語を支えるサブキャラ達…『支点』。
そして、これら三つの力が繋がる『接続点』となったのが、この部屋…即ち『俺』だ。

   (俺が、この物語における…『作者』か。)

「『作者』の俺には、もう…どうにもできないってことになるよね~」

妖怪世代でもない俺は、当事者よりも傍観者もしくは『観察者』にピッタリじゃないか。
偶然が重なって妖怪世代と接続し、表現者たりうる職業に就いていたから、登場しただけ…
もしこれが『月山物語』だったら、作者のポジションは『月島明光』あたりが妥当だろう。


変化を拒む…おカタく往生際が悪い黒赤組が戻ってくるまで、まだしばらくかかるはず。
5つお揃いの湯呑セットを洗い終え、ヒマを持て余した俺は、
誰も居ないリビングのソファに寝転がり…『作者』として『暇つぶし』に興じることにした。

作用点・黒尾&赤葦。力点・木兎&孤爪。
この二つを固定したまま、支点(視点)を変えた別の『黒赤物語』を創るとすれば…

「舞台・高校現役時代。場面・部活(+合宿)中。タイトルは…『接続未満』あたりかな?」



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「研磨さぁぁぁぁ~ん、質問いいッスか?」
「ヤだ。めんどくさい。クロに訊きなよ。」

「本人には訊きづらいコトなんッスよ~っ!」
「よ~し!それなら、俺らが聞いてやろう!」


音駒高校バレー部・部活終了後。
監督に呼ばれた主将・黒尾が、体育館からいなくなったタイミングを狙って、
リエーフが研磨にコッソリ?耳打ち…それを聞き付けた夜久が、ヒッソリ?話に加わった。

「黒尾本人には訊きづらい…どうせ『黒尾さんって好きな人いるんスか?』的なやつだろ?」
「すすすっ、凄い夜久さん!!?何でいきなり当てちゃうんですかっ!!?」
「いや、そのぐらいしかネタないでしょ。」

驚きの声を上げるリエーフに、研磨と夜久は顔を見合わせ、含みの多い苦笑い。
ド定番過ぎて答える気にもならねぇよ…と嘆息しつつも、丁寧に後輩へ指導し始めた。

「高校入学直後から、何度その質問を受けたことか…思い返すのも腹立たしいぜ。」
「俺は、小学校の頃から…以下略。」
「うわぁ~、やっぱ黒尾さんって、わりかしモテる系なんッスね~!」


…そう。ホントにソレなんだよ。
何だかんだでアイツ、顔はまぁまぁだし、文句なく高身長で高成績の、隠れハイスペック。
面倒見が良くて頼りがいがある、優しい奴だから…老若男女問わず、隠れ人気が高ぇんだよ。

「地味と言えば、地味なんだけどさ。」
「良く言えば、堅実…手堅い好物件。」

センスもないし、色気も皆無。ロマンチックでキラキラした恋愛とは無縁な、ザ・体育会系。
劇的な恋をする相手としては、正直物足りない奴なんだけど…その反面、安定感だけは抜群。

「いざとなったら、クロに養って貰えばいい…って、俺はガキの頃から考えてた。」
「黒尾を恋人にするのは嫌だけど、もし結婚するなら…悪くない選択だと思うぜ。」
「確かに!『俺と付き合ってくれ』って言われたら、ソッコーで『ノーサンキュー』だけど、
   もし『俺の扶養家族になってくれ』とか言われちゃったら…喜んで『イエッサー』です!」

珍しく三人のロクでもない意見が一致し、プププッ!と吹き出す。
俺ら、結構ヒデェこと言ってんな~とひとしきり笑ってから、表情をやや引き締めた。


「 まぁ、これはあくまでも、黒尾『じゃない方』の、勝手な意見だ。」

黒尾の方がどういう恋愛観?結婚願望?を持ってるかは、俺らには…マジでわかんねぇよ。
だってアイツ、『好みのタイプ』は(Y談交じり込で)フツーにハッキリ暴露するけど、
じゃあ具体的に『好きな人』がいるか?は、全く顔にも態度にも出さねぇ…鉄壁なんだよな~

「つーか、今の黒尾の頭&心を占めてんのは…『バレー』がほとんどだしな。」
「今は、バレーで精一杯みたい…って、質問にはありのままを答え続けてる。」
「なるほど~ナットク!ですけど、シメとしては全っっっ然、面白くないッスね…」

リエーフはさっきの研磨&夜久と同じような、苦笑い&嘆息を零した。
だがそれに、先輩達は『気を落とすな!』と慰めるように、肩をポンポン叩いた。


「俺の観察眼でも、夜久さんの探りでも、リエーフのセンスでも、きっと…わからないよ。」
「腐れ縁の幼馴染。部活の同期。手のかかる後輩…『内野』の俺らには、見えねぇと思う。」

でもな、俺らにはない『視点』を持つ奴…
『外野』に居て、『常人』を超えたナニかを持つ存在なら、見えなくても『察する』かもな。

「リエーフ。おそらくお前がしっかり『見る』べき相手ってのは…」
「クロ本人でも、クロの意中の人でもない…リエーフの『師匠』になりそうな人、かな?」
「は、はぁ…」


なんだかよくわからない話で、テキトーに誤魔化された気がする…でも、
研磨さんと夜久さんは、これ以上絶対に教えてくれないことだけは、俺にだってわかった。
俺にとっては、黒尾さんも研磨さんも夜久さんも、みんな『師匠』って言える存在だけど、
それ以外に『外野』の『常人超え』な『師匠』なんて…他にいたっけ???

「わっかんね~っ」

研磨さん達にも無理なのに、俺なんかが黒尾さんの『意中』に触れることなんて、不可能。
そう諦めて、このネタは忘れることにした…すぐ後で、アッサリ答えが見つかった。

梟谷グループの合同練習。第三体育館での放課後個人レッスン。
黒尾さんにミッッッッッッッッッッチリしごかれ、床に撃沈していた俺の横で、
俺の三十倍ぐらい動き回っていても、まだピンピンしていた…常人超越確定・木兎さんだ。



「なぁなぁ黒尾!もっかいヤろうぜ!」
「はぁ~?冗談じゃねぇぞ!いつまでもお前と遊んでやれるほど、俺もヒマじゃねぇよ。」

「何だよ、ツレねぇなぁ~!俺のこと、すっっっっっっげぇ、見つめてくるくせに~!」
「っ…、意味不明なこと言ってねぇで、片付けを手伝え!」

   (黒尾さんが、木兎さんを、見つめる…?)

聞き捨てならない『ステキワード』に、俺は耳だけをピン!!と立てて、
そういえばめっちゃ仲良しな二人の会話に、寝たフリしながらじっっっっくり聞き入った。


「黒尾って、俺の事…だ~い好き♪、だろ?」
「あーはいはい。だ~い好き♪だから…重ぇっつーの。背中からどけよ。」

「いいだろ、おんぶぐらい!どうせお前、俺の事…見てねぇんだし。」
「木兎クンだ~い好き♪な俺は、お前を見つめてる…って、真逆なこと言ってなかったか?」

「言った!でも、真逆じゃないぞ?お前は俺のこと見つめてるけど、俺を見てねぇだろ。」
「何…、だと?」


   (見つめてるけど、見ていない…???)

相変わらず、木兎さんの言ってることは意味不明…何でそんな、自信満々なの?
でも、俺にはちんぷんかんぷんな発言でも、仲良しの黒尾さんには伝わった???らしく、
俺にもわかるぐらい、わかりやすく…話を逸らせようとした。


「…っ。えーっと、来週の練習試合の件なんだが…」
「それだよそれ!それが、真逆なんだよ!」

そういうダイジなギョームレンラクは、俺に言ったってムダなの、わかりきってんじゃん。
いつもなら、ウチの『ジムカタのトップ』とヤリトリしてんだろ。
アイツが副主将になってから、俺よりもアイツとばっかりオシャベリして、つまんねー!
…じゃなくて、俺とオシャベリする時と、アイツとの時、真逆なんだよな~

「黒尾は、赤葦のこと…全然見ねぇ。」
「…っ、それは、連絡事項の書かれた紙を、読み上げてることが、多いから…」

「赤葦を『見つめて』はいねぇけど、しっかり『見て』るんだ。」
「何、言ってん、だ…?」

今日だってさ、黒尾は俺のことをじーーーーっと見つめるだけで、
ホントに言いたいこととか、聞きたいことは、全然言わねぇ。
俺を見つめながら、俺じゃない誰かを見て、勝手にモンモンとしてやがる!

「『今日は珍しくお前だけか?赤葦はどうしたんだ?』って、何で聞かねぇの。」
「っ!?め、珍しいが、いつでも一緒なわけもねぇだろ?それに、大した用もない…」

「来週の合宿について。大事な業務連絡があるじゃねぇか。」
「…この紙、事務方トップに渡してくれ。」

「や~なこった!黒尾が直接、赤葦に連絡すればいいだろ。
   『もしもし、オカゲンいかがですか?』…ってな!」
「っ!?アイツ、どっか悪ぃのか!?」


そういえば赤葦さん、どうしたんだろ?あ、こないだLINEで言ってた…アレだっけ。
あとで、メッセージ入れとこ~っと。ついでに物理の宿題も、教えて貰おっかな~って…

「うわわわわっ!!?」

突然カラダが宙に浮き、盛大にビックリ。
まるっきり猫みたいに、黒尾さんの小脇に抱えられて、体育館の外へ。
ずっと背中に貼り付いていたキョトン顔の木兎さんも、俺の横にストンと降ろされると、
黒尾さんは俺達の頭を両手でナデナデ…笑顔で『おつかれさん』と言ってくれた。

「お前ら、今日もよく頑張ったな。片付けは俺がやっとくから…先に上がっていいぞ。」

   イイ子なお前らが、俺はだ~い好き♪だ。
   おやすみ…良い夢を。

そう言うと、柔らかく微笑みながら木兎さんのポケットに連絡事項の紙を突っ込み、
最後にポンポンと俺達の背中を押し出して、静かに体育館のドアを閉めた。



「ウムを言わせぬ笑顔、ってヤツですね。」
「だよな~。ホント、ズリィよな!」

体育館から合宿所へ戻る途中、自販機コーナーで紙パックを2つ買った木兎さんは、
ほらよ!と俺に1つ投げて、横のベンチに視線を落とした。

「木兎さんあざっす!何か…部活のパイセンみたいッスね!」
「おいおいおい~?俺だってこう見えて、梟谷の主将…リッパにカシラだからな!?」

いつも傍に、ウルセェ小姑…じゃなかった、気が利きまくりな世話焼きがいるから、
俺がダメダメみたいに見えるかもだけど、別にアイツがいなくても、フツーにやれるぜ?

「…たぶん、な!」
「あははははっ!」

堂々とダメダメな自分を認め、ニカっと明るく口を開けた木兎さんは、
ひとしきり笑ってからジュースを一気飲みし、ぷっはぁ~♪と…大きくため息を吐いた。

「ダメダメなのは、俺の方じゃねぇだろ。」
「…そッスね。」


なぁ、リエーフ…
赤葦も黒尾も、俺のことがだ~い好き♪ってのは、絶対に間違いないんだよ。
俺もアイツらが同じくらいだ~い好き♪だし、アイツらの目にウソはねぇからな。
だから、何でも自分で抱え込んで、自分のキモチを表に出さねぇ似た者同士が、歯がゆくて!
ちょっとは俺らを…周りの誰かを頼れよ!って、叫びたくなる時があるんだよな~

「…ま、片付けとか仕事は手伝わねぇけど!」
「いや、そこは誰かに手伝わせましょうよ!」

ともかく、だ!
同じ匂いのするアイツらは、梟谷グループの業務連絡をきっかけにして、
誰かに頼ったり、仕事を分担してもいい…一緒に頑張っていいってことに、やっと気付いた。
独りでグループ全体のコトをさばくのは、さすがのアイツらでもムリムリ!だからな。

ちょっとずつ、ちょっとずつ…警戒心の強ぇ野生動物同士が、
『俺』を間に挟んで、歩み寄り始めてはいるんだけど、まだまだソーゴリカイには程遠い!
アイツら、大事な連絡し合う時、だ~い好き♪な俺の方ばっかりじ~っと見つめて…

「お互いのこと、全っっっ然…見ねぇんだ!」
「…は?え、それって、もしかして…っ!?」

「俺に対するキモチ…『だ~い好き♪』とは、真逆かも、しれねぇんだ。。。」
「っっっ!!!???」


二人共、ホンットーにだ~い好き♪だし、同じ匂いのする似た者同士だし、
一緒に仕事するのがすっげぇ楽しそうだから、できれば仲良くして欲しいんだけどさ、
俺を挟んで、探り合い?ガンの飛ばし合い?ばっかしてて、全然仲良くなろうとしねぇ!

「何か俺…泣きそう。」

でも、それなのに、間に挟まれた俺は…
アイツらが俺じゃなくて、お互いばっかり見てるのが、悔しいっつーか、寂しいっつーか。

「仲良くないのに、仲良さそうに感じて、めっちゃジェラシ~~~!!わけわかんねぇよ!」

だ~い好き♪な奴らが、だ~い好き♪とは真逆な態度を取り合ってる姿に、
何で俺が、ヤキモチ妬かなきゃいけねぇんだ?アイツらのも、俺のキモチも、意味不明だよ!

「リエェェフゥゥ~、お前には…わかるか?」


いやいや、ムリムリムリ。わかるわけ、ない。
大して関わったことのない赤葦さんは当然、お世話になってる黒尾さんも、腹の中真っ黒。
木兎さんに至っては、わかろうってする気すらおこらないし。

でも、何となくだけど。
コレだけは、間違いないんじゃないかって…何となく、俺は『感じ』た。

「真逆じゃなくて、同じかも…たぶん!」
「堂々たぶん!って、カッコ悪ぃ~っ!」

「えぇ~っ!?木兎さんと同じなのに~!?」
「俺は何ヤってもカッコイイの!わははっ!」

それは、認めるしかない…じゃなくて。
強引に俺の肩を組んで、楽しそうに笑う木兎さんに、俺の方からも同じように肩を組み、
内緒話をするように、俺はコッソリ…俺の感じたことをスナオに打ち明けてみた。


「その人のキモチ…意中の『意』は、意識してるか無意識かは、カンケーないのかも?」

ホントのキモチは、態度や言葉に出して、相手に伝えた方がいいかもしれないけど、
そのキモチに、自分自身が気付いてないことだって、あるんじゃないかな~って。
だから、あの似た者同士には、木兎さんの言動が『意味不明』に見えちゃうのかも…たぶん。

俺もアホだから、わけわかんないし、何となく感じたことを、上手く言葉では言えないです。
でもでも、これだけはハッキリ感じた…『たぶん』じゃなくて、堂々と言えます。

「俺は、木兎さんが…だ~い好き♪ですっ!」
「俺も、リエーフのこと、だ~い好き♪だ!」

…って、ちょっと待て。
俺『も』アホだって言ったけど、お前以外の誰が、『同じ』なんだ?もし俺だったら…

「俺達も似た者同士!大歓迎だぞ…たぶん♪」
「はいっ!俺も、凄い嬉しいッス…たぶん♪」


ウェ~イ!とハイタッチしてから、もう一度肩を組み合って、合宿所へ一緒に歩き出す。
今日からリエーフも、俺の愛弟子に決定!と、師弟の契りをガッツリ結んでから、
今度は木兎さんが、俺にコッソリ…耳打ち。

「ったく、アイツらも俺らの弟子にして…スナオさを見習わせるべきだと思わねぇ?」

今日の黒尾とのヤリトリと、ほとんど同じことを、昨日は赤葦とヤリトリ…リプレイかよ!
『明日は法事のため一時帰宅致します。連絡事項等は木兎さんにお渡し下さい。』ぐらい、
直接黒尾にポチっと連絡すればいいだろ…笑顔でおやすみなさいませ、までお揃いだったぜ。

「な~んで、揃いも揃って、直接繋がろうとしねぇんだろうな???」

暗い夜道に光る、俺と木兎さんのスマホ。
ポチポチっと俺のスマホに『スター木兎師匠』と、勝手に連絡先を入れ込む眩しさに、
俺はふと、『ある可能性』を感じ…師匠の耳元に、もう一回ポソポソっと呟いた。


「あの、これも、『たぶん』なんですけど…」




- 番外・接続不良へGO! -




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2021/03/05 

 

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