接続不動④







月島&山口組と、及川&岩泉組。
ダブルヘッダー対談の数日後、両者それぞれに御礼メールを送りがてら、
俺は『とある質問』を、何気なく四人に投げかけてみた。

 『理想的だなぁと思うコンビがいますか?』

俺としては、次の対談相手を選ぶ参考程度のつもりで、軽〜く聞いてみただけだったのに、
返ってきた答えは、予想だにしないもの…四人全員が、同じコンビを名指ししたのだ。

 『多くを語らず通じ合う…羨ましいです。』
 『絶対的安心感…そういうの、憧れます〜』
 『阿吽具合は…俺達と良い勝負だよねっ☆』
 『仕事に対するプロ根性…尊敬してるぜ。』

四人の答えを見た俺は、すぐさま対談プロジェクトメンバーの黒赤コンビに連絡。
黒尾さん→愛弟子・月島弟→幼馴染・山口→飲み友・貫至君(黄金川選手)というツテを辿り、
仙台妖怪世代が口を揃えて『理想』と讃えるコンビに、対談のオファーを送った。


それが、本日のゲスト…このお二人だ。

「どーも。Vリーグにも入れない地方の社会人チーム・VC伊達所属の、二口堅治でーす。」
「同・青根高伸…宜しくお願いします。」

インターハイではベスト16まで残った、『伊達の鉄壁』コンビ。
パッと見は、チャラいイケメンホスト風チンピラ&弾除け用鉄筋コンクリート壁だけど、
宮城のバレー関係者で、鉄壁の恐ろしさを知らぬ者は居ない…俺自身、何度も羽を掴まれた。

「きょっ、今日は、わざわざお越し下さりっ、あああっ、ありがとう、ございますです…」

俺が現役時代には、この双璧じゃなかった。
その時は、壁に穴を開け、壁を越えて飛んで行けたけど…

   (この二人だったら…落ちた、かも。)

心身と記憶の奥底に、未だこびり付く『伊達の鉄壁』に対する恐怖に、思わず声が震える。
だがそんな俺を、二人は真正面から真っ直ぐ射貫き…まさかの握手を求めてきたのだ。


「お会いできて、光栄です…『小さな巨人』さん。」
「俺、ガキの頃、ピョンピョン飛び回るアナタの姿をTVで観て、それで…
 目障りな烏を叩き落としてやりてぇ!って、バレーはじめて…伊達工に入ったんですよー」

直接ヤり合えなかったのは残念ですけど、烏共の羽を捥ぎ取る快感…マジでサイコーでした!
センセーの漫画にも、伊達っぽい『壁!』なチームを出してくれてますよね?
なんか、鉄壁がセンセーにとってもトラウマっぽいのがバレバレなとことか、嬉しすぎです。

「あとで、サイン下さいね?『俺の大っっっキライな伊達の鉄壁最堅・二口様へ☆』って。」
「『たかのぶ君へ♡』で…お願いします。」


分厚く堅い壁に囲まれながら、半ベソ状態の俺を、黒尾さんも赤葦さんもニコニコ眺め…
いや、二口さんと三人揃って…ニヤニヤ。

今日、唯一俺の味方になってくれそうなのは、青根さんだけかもしれない…
そんな予感(本能?)に導かれるように、俺は青根さんの温かい手をギュっと握り返した。



*****



「ところで、何故、俺達を?」


対談の口火を切ったのは、まさかの青根さんだった。
例の四人からも、青根さんは『寡黙』だと聞いていたし、試合等で見た限りもそうだった。
無口こそが、壁の威圧感を重々と増している…音声的に『対談』できるか不安ではあった。

あまり喋ったことがないから余計に、この対談記事を通して彼の話を聞いてみたい。
四人は口々にそう言っていたが、聞き出す方の身にもなってくれよと、途方に暮れていたが…

「アンタら、どうせ『青根と対談できるか?』って、ビビってんだろ?」
「えっ!?そそそっ、それは…っ」

「確かにコイツは口数少ねぇけど、聞けばちゃんと答えるし、フツーに喋る。」
「二口のように、いらぬことまで言わないだけだ。」

「今のは『いらぬこと』…だろ。」
「そうか?」

「そうに決まってる。」
「…だ、そうだ。」


…ま、それはいいとして。
そもそも論として、青根はともかく、俺は今回の『対談』には乗り気じゃなかった。
だってそうだろ?『伊達の鉄壁』を知ってる奴なんざ、狭い宮城のバレー関係者を除けば、
よっぽどのバレーヲタク…カルトクイズかよ!ってレベルのマニアックさだ。

一応俺らもインハイには出たけど、『インハイ出た』程度じゃあ、『フツー』の範囲内だ。
俺ら世代には、宮城に限定したって、烏野変人コンビに、白鳥沢の牛若…凄ぇな、おい。
Vリーガーなら、パッツン五色とかラッキョ金田一とか、テキトーに呼べばいいじゃねぇか。

「この対談、『次の方はコチラ!』って、前回ゲストが次回を指名する制度か?」
「いや、そういうわけでは…」

何だ、違うのかよ。
てっきり俺は、岩泉さんが御指名下さったと思ったから、ぶっ飛んで来たってのに…
あ、万が一クソ及川の指名だったら、100%断ってたからな!つーか、今からでも帰るし。

「岩泉さんは、お元気でしたか?」
「はっ、はははははいっ!!ものすごくっ!」


ものすごく…
そう、ものすごくキラッキラした『尊敬のまなざし』で、岩泉さんのことを尋ねられた。
どうやら、伊達工の面々にとっても、他校のパイセンたる岩泉さんは、特別な存在らしい。
今にも『岩泉のアニキ』と頭を下げそうな二人に、黒赤コンビが機転を利かせてくれた。

「あー、そうだ。岩泉がお前らに、宜しく言っといてくれって…」
「今日の対談にも、会いに来たかったと…仰っていましたから。」

「マジっすかっ!!?それなら安心…岩泉さんの顔を汚さないよう、対談頑張りますんで!」
「岩泉さんは、自分の憧れ…こちらこそ、どうか宜しくお伝え下さい。」

なるほど。
仙台妖怪世代の頂点に君臨…いや、一部から絶大なリスペクトを集めているのが、
仙台を制す漢・硬派一直線な岩泉一さんってことかもしれない。

その反作用?対比?のせいか、及川さんの方はリスペクトとは真逆の扱いみたいだけど…
二口さん本人にそれを聞くのは、絶対にアウトな気がする。
(大方、言動が軟派にチャラついているのがイラっとする…あたりじゃないだろうか。)
別に探ったわけじゃないけど、青根さんの方にチラリと視線を流すと…コクリ。

「同族嫌悪、というやつです。」
「おい。それ…『いらぬこと』だよな!?」

「そうだな。」
「そう…なのかよっ!!?」


ともかく!
俺らなんかの話を聞いたって、何のトクにもネタにもならねぇと思うけどな。
だって、俺と青根の付き合いなんて、高校入ってからの部活絡みだけ…
月島山口みてぇなベッタベタな幼馴染でもないし、日向影山な超ド級変人ライバルでもない。
勿論その両方を兼ね備えた阿吽なんて、次元が違う…つーか、そこと比べるのは色々マズい。

学校ではまぁまぁツルんでた部類に入るだろうけど、休日に遊びに行ったりはなかったな。
引退&卒業後は、バレー以外で会うことなんてない…プライベートな付き合いはゼロだぜ?

「俺は、バレー外のコイツを知らない。」
「同じく。必要性を感じたこともない。」

だから、せっかく呼んでくれたのに、センセーの記事に編集できて、読者は喜ぶのか?とか、
バレー協会とか、バレー界の発展に、何のプラスにもならねぇんじゃないか?…ってな。

「なんか…悪ぃな。」


しゅん…と、音を立てて項垂れる二口さん。
言葉遣いにはトゲが二口分キッチリあるけど、気遣いは口数以上に…たっぷりじゃないか!!

   (この人、真面目で…すっごい優しい!?)

岩泉さんの紹介(という思い込み)から、意気込んで来たはいいが、
その岩泉さんだけでなく、俺や赤葦さん、更には黒尾さんにまで気を回してくれるなんて。
ホスト系のチャラい見た目&チンピラ系のキツい口調と、隠れた本性とのギャップに、
俺達三人の心臓は、揃って『キュ~ン♪』という音を立てた。

「バレー『外』は知らなくても、バレー『中』のことは、熟知してるってことだろ?」
「ぜひ俺達に、バレーを通して見たお互いのことについて、教えて下さいませんか?」

黒尾さんと赤葦さんのフォローに、二口さんは少しだけホッと息を吐くと、
う~ん…と首を捻りながら、たどたどしく、だが丁寧に言葉を選んで語ってくれた。


「バレーを通して見た、青根…?」

社会人チームに入ったとは言え、第一線でバリバリ活躍するようなもんじゃない。
要は『元バレー部』の野郎共がシュミで集まっただけ…現役とは言い難いからな。
だから、プロみたいな派手派手しい入団とか、引退とかとも無縁な反面、
このままズルズル、ジジィになって飛べなくなるまでバレーする…緩い遊びだよ。

日本バレー界の発展に寄与するような、立派な選手にはなれなかったけどさ、
今後の長い人生、どんなカタチでもバレーを延々楽しみ続ける『バレー人』のままだろうよ。
こんな俺らでも、バレー界の端っこを構成する一部…ってことでいいなら、ちょい嬉しいな。

そんな風に自分の『この先』を考えた時、ひとつだけはっきり言えることがある。
それが…

「俺がバレーしてる間は、青根と一緒に『壁』を築いてるんだろうな~って。」

今後どうなるかなんて、誰にもわかんねぇ。
いつまでバレーしてるかとか、仕事とか家族とか友達とか、何もかもが未知数だ。
でも、バレーを通して俺の人生を見たら、ずっと青根が横に居る絵面しか、想像できねぇ。
こんなに安定感があって、居心地の良い奴なんて…そうそういねぇだろ。

「端的に言えば…『バレー=青根』かもな。」


あっけらかんとした、二口さんの言葉。
本人は無自覚だろう言葉の『意味』の重さと深さに、俺達は二の句を継げないでいると、
青根さんもさっきと同じ力強さで「同じく。」と言い切ってから、言葉を続けた。

「この先もずっと、二口だけはネットの『こっち側』で…俺の隣に居る。」

   バレーと言えば、鉄壁。
   鉄壁には、二口が必要。
   今後もそれは、不変だ。

「『バレー=二口』…以上だ。」


バレーの『中』だけの話でいい。
そう言って聞いたはずなのに…バレー『外』は全く語っていないはずなのに。
それでも俺達は、今まで対談したどのコンビよりも、繋がりの『確固たる強さ』を感じた。

   (伊達の…鉄壁。)

バレー『中』だけの話?いや、違う。
一緒にバレーすることを通して、二人は『この先』もずっと強く繋がり続けると確信し、
それを当然のことだと受け止めている…バレーなんて、ただの『きっかけ』にすぎない。

どんなカタチであれ、ジジィになってもバレーをし、バレーのない人生はないと言っていた。
つまりそれは、『バレー=人生=鉄壁コンビ』と言っているに等しいのだ。

   (これぞ、理想的な…コンビ。)

バレー『中』と同じかそれ以上、バレー『外』の濃く長い付き合いのある、月山&阿吽組が、
バレー『中』しか付き合いのない鉄壁組を、コンビの理想だと揃って即答したのは、
二人の間に築かれた、強く安定した『この先』を、敏感に感じ取ったから…だろう。

   (でもさっ、この安定感って、むしろ…っ)


全く同じ感想を抱いたのだろう。
黒尾さんと赤葦さんは、戸惑いを巧みに濁しつつ、それとな~く核心を突く質問を放った。

「いつまでもずっと、一緒にバレーし続けるなんて…バレー協会が泣いて喜ぶ話だぜ?
   そんな居心地の良い相棒を、バレーの『中』だけにしとくのは…かなり勿体なくねぇか?」
「これからも一生、隣で楽しんでいる絵面が、何の違和感もなく浮かんでくるなんて…
   バレー『外』に、『中』と同じぐらい安定した『別の誰か』を得られる確率…皆無では?」

   よく考えてみてくれ。
   お互い以上の相棒の存在…想像できるか?
   バレー以外のことを、一緒に楽しむ姿が…
   見えてはきませんか?

「壁以外のものを共に築く、『この先』は…」


俺達の問い掛けに、二口さんと青根さんは不思議そうに顔を見合わせ、首を捻った。
さっぱりわかんねぇ???と、盛大に『?』を飛ばしながらも、二人は一生懸命に考え…
「わからないです…今は、まだ。」と、正直に答えてくれた。

「俺も同じく…今は、わかんねぇ。」

でも、今はまだ、『青根=バレー』だけど、これが今後変わる可能性だって、ゼロじゃない。
もしかしたら、いつの日か…いつの間にか『青根=バレー(+外)』になるかもしれない。
仮にそんな『この先』が来た時は、そうだな…いや、きっと俺らはこうするはずだ。

「『壁』と同じ、安定感と居心地の良さを…」
「隣で一緒に、築き上げる…それだけだな。」


う…うわぁ~~~~~~っっっ!!!
な、なんだろこれ、ものすごい…っっっ!!!

   (((全身が、熱いっっっ!!!???)))

鉄壁コンビの断言を聞いた俺達は、何とも言えない(何も言っちゃいけない)気分に飲まれ、
火照る顔と上擦る声を何とか誤魔化すべく、お菓子を追加したりお茶を入れ直したり…
結果、黒赤コンビは(やや涙目で)、この空気を何とかしろ!と、俺にガンを飛ばしてきた。
(酷すぎでしょアンタらっ!)

仕方なく、本棚から『壁!』の二人が表紙になっている、俺の漫画を二冊取り出し、
二人へ贈るサインをそれぞれ書きながら…わざとおどけた口調で尋ねてみた。



「二人に『変化』が訪れそうな時…それを自覚するのって、難しそうですよね~?」

それだけ安定していたら、変化に気付くのって実はすっごい…難しいんじゃないのか?
これは鉄壁コンビだけの問題じゃなく、月山組や阿吽組なんかの、幼馴染にも言えること。
今のカンケーが強ければ強いほど、変化を自覚し、それに対応するのが困難になってくるが…

「あー、それな。いい方法、知ってるんだ。」

二口さんは忌々しそうに舌打ちすると、これはどこぞの軟派野郎が言ってたんだが…と、
二口さんの湯呑にお茶を注ぎ終わった赤葦さんを、突然ギュッと抱き締めた。


「ぅ、わぁっ…!!?」
「な、何を…っ!!?」

声を上げて驚く赤葦さんと、黒尾さん。
そんな二人に目もくれず、二口さんは赤葦さんのおでこにおでこをピッタリ付けると、
しばらくの間、そのままじーーーっと…至近距離から赤葦さんの瞳を覗き込んだ。
赤葦さんは徐々に、驚きから困惑の顔へ…そして、大人しく二口さんの出方を待った。

「赤葦。今、お前は…何を思ってる?」
「二口さんって…美人さんですよね。」

「俺の顔、結構好きだろ?」
「顔だけは、文句なしに好みですね。」

「そのまま、目ぇ閉じて…」
「閉じればいいんですか?はい…」


…ってなカンジのヤリトリを、アッサリできてるうちは、『脈ナシ』なんだとよ!
『何を思ってるか』を言い淀んだり、『好き』って言葉をちゃんと返さなかったり、
『目を閉じる』のを躊躇ったりしたら…『変化の兆しアリ♪だよね~っ☆』らしいぜ。

「成程。二口さんはそれで遊ばれた時…メンチ切って頭突きをお見舞いしたのでは?」
「大正解だ。目ぇ逸らせたら、その時点でアウト…これが、岩泉さんの尊い教えだ。」

ま、直接これを相手にヤらなくてもいいんだ。
ヤろうとしてもヤれなかったら…その時点で、もう自分の『変化』を自覚するだろうし、
他の奴にヤってみて、それを見た相手が必要以上に動揺したら、『確定』サインだからな。


お互いに抱き着いたまま、二口さんと赤葦さんは、じーーーっ…青根さんを観察。
だが青根さんは、まるで気にした様子もなく、俺の手渡したサイン本に見入ったままだった。

「まだまだ先は遠い…みたいですね。」
「な?すっげぇわかりやすい方法…だろ。」

ところで、見れば見る程…二口さんって美人ですよね。まつ毛、キュルっと長いですし。
赤葦も、何かいい匂いする…それに、しっとりモチ肌だし、抱き心地サイコーだろっ!!

「なぁ、赤葦。俺ら…仲良くなれそうだと、思わねぇか?」
「…というテクを、どこぞの軟派野郎に習ったんですね?」

「お前、面白ぇ奴だな!連絡先、教えろよ。」
「喜んで。今後とも宜しくお願いしますね。」


何だかよくわからないうちに、すっかり意気投合してしまった。
俺は呆然と二口さんと赤葦さんを眺めながら、『もう一人』の動きを見逃さなかった。

   呆れ返ったような表情…を、作り損ねて。
   歪に引き攣る頬に、おかきの海苔が付き。
   口元で彷徨う指先が、何度も空を切って…

   (『変化』に…気付いた、ね。)


二人が本能的に避けて通ろうとした、仲良しな月山組でも夫婦漫才な阿吽組でもなく。
『壁』を築き続けた鉄壁組が、黒と赤の間にある『壁』に、ヒビを入れてくれるなんて。


「思いもよらない、まさかの収穫がある…」
「対談って、ものすごく…面白いですね。」

俺は目の合った青根さんと微笑み、温かい手をもう一度…ギュギュっと握り交わした。




- ⑤へGO! -




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2021/02/04 

 

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