「あ、あのっ、お聞きしたいことが…」
「ん?急に改まって…どうしたんだ?」
本日の『レッドムーン』の営業も、つつがなく通常通り終了。
ウチの新人黒服こと黒尾さんは、新人には全く見えない『こなれ感』どころか、
どこぞの有名店で名を馳せていたとしか思えない、完璧な立ち居振る舞いだ。
業態は違えど、新宿の街でゲスト達に身を削らせ、貢がせてきた実績は十分…
『お昼のお店』から引っ張って来た方々にも、当店を御愛顧頂いている。
「献血後は飲酒を控えた方が良いと、おっしゃってましたよね…?」
「あぁ。だから、鉄分補給ができるノンアルを…作って貰えるか?」
400ml献血の場合には、水分と共に鉄分補給をした方が良いだろうけど、
成分献血の時には、鉄分よりもたんぱく質を摂取するべきでは…?
そう考えた俺は、前者にはココア、後者には豆乳ベースのドリンクを用意した。
それがなかなかの好評…経営的に粗利が美味しい、ノンアルの売上が急増中だ。
それにしても…だ。
『三丁目の王子様』という煌びやかな称号は、ホンモノだった。
吸血鬼云々ではなく、『黒尾鉄朗』という個人の魅力に、皆が惹かれるのだ。
本人は飾ることなく、至って自然体…それでいて、下心なく誠実で優しい。
それだけではなく、真っ直ぐで威厳があり、なおかつ情に篤いからこそ、
皆が口を揃えて『王子様』だと…上に立つに相応しい大器だと評すのだろう。
こんな人(人外含む)は、歌舞伎町どころか日本中探しても、そうそう居ない。
この人になら、今月分の給料もボーナスも、なけなしの貯蓄も貢いだっていい…
我が身に流れる血だって、喜んで捧げたいと思わせてしまう程の魅力だ。
惚れた弱み?恋は盲目?…勿論、それもあるのは間違いない。
でもこれは、俺に限った話じゃない…ほとんど『新宿共通認識』と言っていい。
そうでなければ、周囲と紛争を頻発する広大なEEZ…排他的経済水域もとい、
『排他的選り好み舌禍』を持つ客商売不適合者・月島君が懐くはずもないし、
『笑顔で依怙贔屓に絶句』な辛口魔女・山口君が、150年も従うはずがない。
あ!だとしたら、俺は…『エロさエンドレスに増量中』なEEZで、
黒尾さんは『延々と鴛鴦(えんおう)契る絶倫也』…一句できてしまった。
(何をしょーもないことを…)
まぁ要するに、経営者としては黒尾さんの『人タラシ』は非常に貴重で、
新旧問わずゲストをお接待してくれて、本当に有難いの一言なんだけども…
本人の自覚の有無に関わらず、自分が想いを寄せる相手がモテモテなのは、
心臓に悪いと言うか、面白くないというか…胃の辺りがカァ〜!!っと燃える。
(あーそうですよ。ヤキモチです!)
出逢って150日も経ってない俺は、150年連れ添った魔女には絶対に敵わない。
ヤキモチなんてレベルじゃない、圧倒的な差なのに…羨ましくて堪らないし、
無条件にヨシヨシして貰える、あぁ見えて意外と純粋で可愛い月島君にさえ…
冗談抜きで、黒尾さんや山口君にテレパシー能力がなくて…助かった。
俺のこんな醜い嫉妬心を知られたら…あの3人は、どんな顔をするだろうか。
大好きな月島君と山口君にさえ妬いている自分の狭量さが、ホントに情けない。
せめて、月島君達が正式にガッチリ結ばれてくれれば…安心できるのに。
山口君の解り易い嫉妬に気付かないなんて、月島君こそテレパシーが必要かも?
黒尾さんの超鈍感は改善の見込みゼロだし、山口君が素直になるのも難しそう…
だとしたら、月島君がテレパシーを持つぐらいしか、先に進めない気がする。
(山口君に一服盛ってみるのも…)
魔女に効くかどうかはわからないけど、媚薬効果があると言われるお酒を…
そんでもって、ぐでんぐでんに酔ったところを、月島君に介抱させて…
「どうした赤葦?さっきから一人で悶々と…何か悩みでもあんのか?」
「えっ!?いえいえ俺はただ、山口君に何かご馳走しようかなぁと…」
「やめとけ。それだけは…駄目だ。」
駄目っつーか、無駄っつーか…
悪いことは言わねぇから、山口にだけは酒を飲ませんじゃねぇぞ?いいなっ!?
「そんなに山口君が…心配ですか。」
物凄い剣幕で、必死に俺を止めようとする黒尾さん。
俺のやましい気持ちを、テレパシーで知られてしまったような気がした俺は、
黒尾さんから目を逸らし、黙って洗い物に集中した。
(月島君、さっさと…くっついて!)
あーもう!ホントに自分が、嫌になる。
こんな想いをするぐらいなら、お客さんが減っても、廃業しても構わないから、
黒尾さんに接客させたくない…俺以外にそんな笑顔を、見せないで欲しい。
『お昼のお店』から、お客さんを連れて同伴出勤なんて…見たくない。
「もう、昼の客をここに紹介するの…控えた方がいいか?」
黒尾さんの言葉に、ドキリと鼓動が跳ね上がった。
まるで俺の思考をテレパシーで読み取ったかのような…そんな、まさか。
俺は手が滑ったフリをして、水栓を大きく上げてバシャ!と水を勢いよく出し、
その音で聞こえなかったフリ…話題を無理矢理転換させた。
「あ、あのっ、お聞きしたいことが…」
「ん?急に改まって…どうしたんだ?」
*****
今日はこちらを…どうぞ。
そう言って赤葦が出したのは、マティーニとよく似たカクテルだった。
「こちらは『ギブソン』…マティーニとレシピは同じなんですが、
オリーブではなく、パールオニオンをデコレーションします。」
パールオニオンは玉葱の酢漬け…透明な海に、真珠が浮いているように見える。
ジンとベルモットをシェイクした、かなり強めのカクテルである。
業務後、片付けがあらかた終わってから酌み交わす、『お疲れ様』の一杯…
赤葦は色々なお酒を黒尾に振る舞い、憩いのひとときを過ごすのが日課だ。
業務中の赤葦…おケイは、余程のことがない限りは、酒を一滴も口にしない。
(姫様を酔わせて…と謀る不届者を防ぐためだと、元黒服から引継いだ。)
そのため、世間的には雲上人と言われる人からのどうしても断れない誘いや、
100万クラスのボトルを入れて頂いた時にだけ、『おケイ専用』を飲んでいる。
高級ボトルが並ぶ棚の一番隅に、隠すように置いてあるおケイ専用のボトルは、
見るからに質の高さが窺える、真っ赤な江戸切子の瓶だった。
その中身がどんな酒なのか…おケイの本名と並ぶ『レッドムーン』の謎だ。
ちなみにこの酒をおケイに捧げる時は、『お気持ち』というチップを添える…
ある意味、この店で最も高価なお酒が、この『おケイ専用』なのだ。
その超高級専用ボトルを出し、ビールジョッキになみなみと注いだ赤葦は、
「お隣…失礼します。」と言いながら腰掛け、景気良くジョッキをあおった。
「おいおい、珍しいな…ピッチ早すぎねぇか?」
「今日はとことん…飲みたい気分なんですよ。」
いつもは急須で熱〜いほうじ茶を入れ、のんびりシバいている赤葦だが、
今日は珍しく…いや、初めて業務外でガッツリ飲んでいる。
その酒、俺にも一口味見させてくれ…と言いかけた黒尾だったが、
先日コレを捧げた太客が、さりげなく小切手を置いていったことを思い出し、
「俺に聞きたいことって?」と、慌てて本題を促した。
赤葦は一瞬、躊躇うように喉を詰まらせたが、振り切るように杯を傾け、
歯切れの悪いボソボソした小声で、黒尾に質問を投げかけた。
「山口君のこと、なんですが…」
月島君は山口君と衝撃的な出逢いを果たし…その瞬間から彼にゾッコンです。
身内を除けば、俺以外の他人を一切寄せ付けなかった、排他的な月島君…
山口君はそんな月島君の高い敷居を、箒で楽々と乗り越えてしまいました。
最初は、魔女の魔法だか黒魔術だかに誑かされたんじゃないかと…
あの月島君が、出逢ったばかりの相手に落ちるなんて、信じられませんでした。
ですが、山口君は信頼できる人だと俺にもすぐにわかったので、
山口君も月島君のことを『特別』に想ってくれてるんだろうなぁ、と…
「でも最近、本当に大丈夫なのか…不安になってきたんです。」
後輩だからって、月島君を散々『下僕』扱いしてきた俺が言うのもアレですが、
山口君は『下積』の月島君を、体育会系上下関係として指導中…
それに関しては、俺も「どうぞ厳しく躾けて下さい!」と心底思ってますが、
業務後のプライベートな時間も、どうやらそのまま下積扱いのようなんです。
「月島君がドMで、魔女王様に喜んで尽くしているんなら良いですが…」
「『二丁目のお姫様』こと『歌舞伎町の女王』の下僕歴も、長いしな…」
俺に対しては、文字通りに体育会系上下関係の延長ですみますけど、
山口君とは『↓のお世話』もコミコミなカンケー…『女王』の質が違います。
月島君にとって山口君は、親愛や尊敬の対象ではなく、もっと純粋なもの…
おそらく初めて恋愛感情を持った、特別な相手なんです。
他所のカップルの在り方に口出しするのは、過保護というより超絶お節介…
それは十分承知していますけど、どうしてもあの二人が心配なんです。
「月島君は『対等な恋人』として…山口君に大切にして貰えるでしょうか?」
赤葦はグっとジョッキを両手で握り締めると、残り半分を一気に飲み干した。
そして、空になったジョッキを握ったまま、カウンターにそっと置いた。
赤葦の話を聞き終えた黒尾は、ふぅ…と小さく深呼吸すると、
静かな店内に響き渡る朗らかな声で、「何だ、そんなことか!」と笑った。
「大丈夫…全然心配いらねぇよ。ちゃんと山口はツッキーを可愛がってる。」
あいつ、昔から常々言ってたんだよ。
「暖炉の前で俺より大きなワンコに包まれて寝てみたい~♪」…ってな!
今まさに100年越しの夢が叶った状態…あぁ見えて浮かれまくってるんだぜ?
山口だって結構タッパあんのに、無茶苦茶言うよな~と思ってたんだが、
まさか本当にあんなデカくて従順なワンコを拾って来るとは…凄ぇビビったぞ。
「安心しろ。山口はツッキーを『溺愛』ってぐらいのレベルで、愛玩してる。」
…っていうのは半分冗談で。
俺らから見れば、不愛想で反抗的なツッキーは、ただひたすら可愛いだけ…
あいつらは丁度1ケタぐらい離れた、やや度を越した『年の差カップル』…
つまり山口は、『スーパー姉さん女房』状態なんだ。
これは全世界古今東西、人も人外も共通した『普遍の真理』だと思うが、
長女や年上に貰われ、守られる側は、安定した家庭生活を送ることができる…
しっかり者の姉さん女房に、家と自分をすっぽり包み込んで貰えるんだよな。
だが逆に長女や年上の側は、庇護対象である伴侶に甘えることができないんだ。
「あぁ…よく聞く『私は貴方のお母さんじゃないのよ!』というやつですね。」
「しっかり者過ぎる弊害…『旦那が子どもに見えてしまうの。』ってやつだ。」
本当は山口だって、大好きなツッキーにもふもふ埋もれて甘えたい…
目一杯デレデレに甘やかされたり、時には頼り切ってしまいたいはずなんだ。
「俺がしっかりしなきゃ!」って気張らない方が楽だって、十分わかってる。
「だが、途方もない年の差という壁…」
「それに、今は仕事上でもパイセン…」
この状況では、『対等な恋人』として甘えるのは、そう簡単ではないだろう。
山口が素直になれない事情に、赤葦は深い理解と…同情を禁じえなかった。
自分自身も本来は『尽くしたがり・構いたがり』の参謀気質だから、
『途轍もない年上』が相手でなければ、同じようになっていたはずなのだ。
ウチは逆でよかった…赤葦がコッソリ安堵していたら、
先程までの明るさとは一転、黒尾は静寂をまとった声で小さく呟いた。
「度を越した年の差…これにはもっと大きな『壁』があるんだ。
俺達はいつだって…『喪う』側なんだよ。」
どんなに愛し合っていても、人と人外は生きる時間…寿命のケタが違う。
ほぼ確実に、俺達は心から愛する者との別れを経験しなきゃいけないんだ。
ごく一部の例外を除き、『異類婚姻譚』が離別で終わるのも、そのため…
人外が人と恋に落ちるのを躊躇い、臆病になってしまうのも、無理からぬ話だ。
「本当に好きな相手だからこそ、本気で恋に落ち、愛し合いたくない…
山口がそう思っているだろうことも、俺には手に取るようにわかっちまう。」
だから150年間フリーだったし、『ガツン♪』と記憶を消し続けてきたんだ。
俺達だって、人と同じ。愛する人を喪う辛さなんて、できれば味わいたくない…
そんな想いをするぐらいなら、人外同士で相手を探した方がマシだよな〜って。
「その結果、人外は俺みたいな血統書付の『純血種』が多く、
人と結ばれた人外の最期は…自死が少なくないんだよ。」
とは言え、好いた惚れたは理性なんかでどうにかなるもんでもねぇし、
いずれは肚を括り、最期までとことん愛し尽す道を選んじまうんだろうけどな。
「だって、好きになっちまったもんは…しょうがねぇだろ。」
ホンット、人外なら人と違う感情を持てればよかったのに…
愛だの恋だのといった感情とは無縁で居られたら、どんなに楽だったろうな。
でも、良くも悪くも、人と人外は変わらない…同じ感情を持ってしまった。
無駄に長生きなだけで、精神的に成長してるわけでもないから、
ちょっとしたことに悩み、他人を嫉んだり、ヤキモチ妬いてしまったりする。
人と同じように、恋愛だって上手くいかないことの方が多い…
一生を通して『大成功!』の相手に出逢える確率だって、人と変わらない。
「全てを失ってもいいから、この人と一緒に居たい…
そんな相手に出逢えるのは、一生にたった一人ぐらいだろうな。」
まぁ、そんなわけだから…
山口が覚悟を決めるまで、もうちょっと待ってやって欲しいんだ。
本能で「この人だ!」って悟ってしまったからこそ、記憶を消せなかった…
そのことの意味を一番わかってるのは、山口自身だろうからな。
それに、ツッキーなら…あの二人なら、『異類婚姻譚』のレアケースになれる…
諦めでも離別でもなく、種を飛び越えて『大成功!』できるような気がする。
根拠もない、ただの『何となく』だが、俺はそう感じてるんだ。
「あいつらなら、きっと『壁』を越えられると、俺は信じてる。
山口は、俺なんかよりずっと強い。だから、心配しなくても…大丈夫だ。」
黒尾は自らに言い聞かせるように、力強くそう断言した。
そして、店内に滞ったモノを吹き飛ばすように、パチリと片目を瞬かせた。
「安心しろ。あいつらには…この『三丁目の王子様』が付いている!」
山口には絶対に幸せになって貰いたいから、上手くイくように徹底サポート…
たとえ『超絶お節介!』とウザがられても、俺は構い倒す気満々だからな!
「俺は死ぬまで…山口忠の『面倒臭い上司』で居続けるつもりだ。」
「山口君の『そういうの結構です』という顔が…目に浮かびます。」
そろそろ『部下離れ』しないと、上司も浮かばれませんよ?
『お前が言うな。』って…生意気な部下は目で反抗してきますからね。
「本当に可愛げがなくて…『二丁目のお姫様』も目が離せませんよ。」
赤葦は微かに口の端を緩め、静かに目を閉じて囁いた。
今はこれ以上深く考えたくない…『上司同士のグチ』で終わらせたかった。
黒尾も同じように、力を抜いた微笑みを湛えながらグラスを飲み干し…
「俺も、お前に訊きたいことがある。」と、話題をそこから切り離した。
「赤葦、お前…テレパシー能力があるんじゃねぇのか?」
*****
「…は?何を、言って…?」
「いや…だから、お前が…」
ド真面目な顔をしながら、突拍子もない発言を繰り出した黒尾さんに、
俺は文字通り『目がテン』に…間抜けな声を上げ、ポカンと口を開いた。
テレパシー?そんなモノがあったら、ここまでフリーを貫いてるわけないし、
この店の売上だって、今よりケタ1つもしくは2つ多いはずじゃないか。
テレパシーがないからこそ、こうしてヤキモチ妬きまくってるというのに…!
「それはもしかして、鈍感王の黒尾さんを基準として…ですか?
だとしたら、俺は黒尾さんより…1ケタ以上多く持ってますね。」
「いや、違うって。フツーにピピピってバレてんのかなぁ~と…
じゃないと、こんな酒…『ギブソン』なんて出すわけねぇだろ?」
前任者からの引継書…『黒服の手帖』を見るまでもなく、
『ギブソン』が示すカクテル言葉は、あまりにも有名…俺だって知ってるぞ。
元からこの店の客だった人だけじゃなくて、俺が新たに連れて来た昼の客も、
おケイの魅力にどっぷり憑りつかれ、ズブズブとハマっていく…
そんな姿をもう見たくねぇから、「昼の客を紹介しない」って言ったのを、
赤葦はテレパシーで察知したから、この酒を出したとしか思えねぇよ。
客だけならまだしも、お前が愛玩しまくってるツッキーだけじゃなく、
山口のことまで大事に想ってくれて…それが嬉しい反面、その…
「俺があいつらにも『嫉妬』したこと…ピピピ察知したんじゃねぇのか?」
あーもう、ホント情けねぇよな。
いい年こいたオトナが、こんな小っせぇことにヤキモチ妬くとか…
無駄に年喰ってるだけで、全然余裕ねぇっつーか、要領悪いっつーか…
人外だって、こういう感情はままならねぇ…巧いこといかねぇっていう例だな!
赤葦は、こんな俺のダセェ所に気付いたからこそ、『ギブソン』を出し…
本当に『俺に聞きたかったこと』とは、全く別の話に切り替えたんだろ?
テレパシーがあろうがなかろうが、ヤキモチ妬いたのが自爆してバレた時点で、
恥かしくて堪んねぇ…穴があったら棺ごと埋もれちまいたい気分だよ。
「だから、その…テレパシー云々っていうさっきの質問も、忘れてくれ!」
そう言うと、黒尾さんはガバっ!とカウンターに伏せて顔を隠し、
「俺、凄ぇカッコ悪ぃ…」と、腕の中でもごもご呟き、大きくため息を吐いた。
その姿に、俺もガバっ!と両掌で顔を覆い…ニヤけが止まらない面を隠した。
黒尾さんが言っていることは、つまり、その…そういうコトじゃないか!
(黒尾さんが、嫉妬してくれたっ!?)
『ギブソン』は『嫉妬』…でもそれは、俺自身の気持ちを表しただけだった。
それなのに、鈍感王の黒尾さんは、黒尾さんのことだと誤解した挙句、
俺へのストレートな想いと、こんなに可愛らしい姿を曝してくれた…
更には、俺が咄嗟に話を逸らせたことまで察した辺りが、実に黒尾さんっぽい。
鈍感なくせに真相を見抜くなんて…そっちの方が余程テレパシーじゃないか!
(どうしよう…凄い、嬉しい…っ!)
赤く染まり、緩み切った顔を黒尾さんに見られないように、
カウンターに伏したままだった黒尾さんの二の腕に、額を付けて身を寄せた。
ビクリッ!と大きく跳ねるカラダ。
それにつられ、俺の鼓動も跳ねる。
ピタリと寄り添ったはいいが、この先どうしていいかわからなくなった俺は、
さっきボツったはずの策を、ポロリと口に出してしまった。
「俺…酔っちゃったかも、です。」
-
④へGO! -
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※EEZ →排他的経済水域(Exclusive
Economic Zone)
※鴛鴦の契り →鴛鴦=オシドリ。夫婦の仲睦まじい様子。
2018/02/14 (2018/02/10分 MEMO小咄より移設)