夜想愛夢 ~愛玩之月~






「『インキュバス忠くん』でっ!」
「了解!明るいトコでじっくり観察コース…タイトルは『愛玩之月』だよ~♪」


えっ、な、何その、危険な香りがするタイトル…おかしくないっ!?
明るいトコで、穴が開くほど『僕が』山口の裸体を観察するコース…だよね?
『愛』はともかく、『玩』って言葉と、山口のやけにキラキラな笑顔が…怖い。

「あ、のさ、山口…」
「ちょっと待っててね。イロイロと準備があるから。」

山口から発表されたドキドキのタイトルに、月島は大混乱に陥った。
そんな月島を尻目に、山口は物置からブルーシートを引っ張り出してくると、
係留してあった小舟の奥に敷き、さらに白いバスタオルを畳んで置いた。

「はい。コレを枕にして、仰向けに寝転がってね。」

言われるがまま、粛々と…高さのあるタオルに頭を乗せると、
砂浜の傾斜もあり、足元で作業する山口の姿も、無理なく観察できた。


…おっ♪
いつの間にか、山口はずっと羽織っていたパーカーを脱いで…♪
下は(水着は)少々野暮ったい、ごくごくフツーのサーファータイプだけど、
一般的には丈が長いデザインの割には、腿の半分以上が見えている…

…あ、そうか。
山口だって180cmを超える長身。スラリとした手足の長さと、
薄いながらも『元体育会系』の、綺麗な筋肉が付いているんだ。

   (なかなかの…プロポーション♪)

男でもウットリな黒尾ボディ、男でもウッカリ…な赤葦ボディ、
それに、超モデル体系の僕の影に隠れてしまい、あまり目立たないけれど、
山口も世間一般からすれば、かなりレベルの高い…しなやかボディじゃないか!

   (いやはや…絶景かな。)

しかも、そのカラダの上には、人畜無害で人の良さそうな、穏やかな笑顔。
『手が届きそうな高スペック』という絶妙なバランスが、実にオイシイ存在…
僕達4人の中では、山口が一番…リアルにモテるのだ。

   (早くから独占しといて…大正解!)

山口の裸体を、明るいトコでマジマジと観察したいから、海水浴場へ…という、
僕の夢がアッサリ叶ったことと、『僕の山口』のステキっぷりを再確認し、
一人でコッソリ、自分の慧眼(と、徹底した独占の歴史)に大感激していると、
山口が律儀に「お邪魔します~」と言いながら、シートに乗っかって来た。


「『わ〜いっ!』ってバンザイして…それから、手と手をキュっと握って、
  『夢を叶えて!』っていう…神様オネガイ!のポーズ、してみてくれる?」
「こうかな?」

『わ~いっ!』なんて、僕の心情そのままだよ…と心の中で思いながら、
指示通りに両手を上げて目を閉じ、その手を額の前でキュっと握ると、
合わせた両手首に、何やらふんわりとしたモノが巻き付けられた。

「何、コレ…?カラフルな…布?紐?」

僕の両手首には、青・赤・白・黒・黄の五色の糸で編まれた、柔らかい紐。
このカラーリングの紐について、最近どこかで聞いたような…

思い出そうとして思考を宙に彷徨わせた瞬間、山口はその紐をギュっと締め、
頭の上あたりまで、縛った両腕を引き上げて、紐の先を小舟に結わえ付けた。

「えっ、ちょっ、ナニやって…」
「ナニって…俺、インキュバスだし。」

そう言えば…そうだった。
山口の裸体観賞に浸るあまり、そのテーマをすっかり忘れていた。

   (インキュバスが…何で、縛る…)

その疑問の答えは、僕の腹に跨り、勢いよく乗り上げてきた山口…
突然の重さと息苦しさ、全身でホールドしてくる仕種で、解ってしまった。

西洋では、何の正体がインキュバスとされていたのか?
五色の紐が、元々何に使われるもので、何の語源になったものか?
ごく最近、僕はよく似た体験を、夢うつつに味わったんじゃなかったか?

「ふ…不動明王の、金縛り術!?」
「大~正~解~♪」


山口はパチパチと拍手をすると、体重を僕にしっかりとかけたまま、
ズルズルと下の方へ移動…脚をガッチリ固定して(力も意外と強い!?)
おもむろに僕の水着を抜き去り、素っ裸にしてしまった。

「ーーーっ!!?」
「ひゃぁぁぁぁぁ~絶景、だね♪」

『インキュバス忠くん』コースは、明るいトコで金縛り状態のツッキーを、
『俺が』思う存分、愛でて玩ぶコース…
青空の下で、ツッキーの裸体をマジマジと観察…これぞ『青観』だよね~♪


「こうして見ると、ツッキーってホントに…超キレイ。」

ブルーシートの上だし、お日様の光も当たって、余計に肌の白さが際立つね。
どうしてこんなにキレイな顔とカラダから、ドス黒い言葉が出てくるのか…
そのギャップすら、何だか愛おしく感じちゃうのが、不思議でたまんないよ。

…あ、ほんのりカラダが赤くなってきたかな?顔は…すっごい真っ赤じゃん!
日焼け…するにはまだ早いから、これは『超恥かしい♪』ってサイン…だよね?

「ぅ…ぁ…っ」
「何?何か言った?
   コレは本当の『金縛り』じゃないんだから…喋ってもいいんだよ?」

あまりに予想外の出来事に、僕は本当に『金縛り』に遭ったかのように凝固…
ロクに声も出せず、ただただ、猛烈な羞恥に身悶え…すらできず、
『インキュバス忠くん』の観察報告(言葉攻め)を、聞き続けるしかなかった。


「このコース…実はツッキーへの『お仕置き』も、一部含んでるんだ。」

一年前、俺達が正式に同棲を始めた時にヤった『引越イベント』…覚えてる?
その時も、ツッキーは『初心が大事』とか講釈垂れながら、
俺を見たいって…一人でシてるとこを見せてって、俺を観察したよね。

あの時は、もう二度とそんなコトを言わせないように、俺も頑張ったのに…
一年経って油断が出たのか、性懲りもなく同じようなコトを言い出しちゃった。
だから、『同棲一周年記念』に、もう一度『初心』とやらを思い出して貰って、
更に、酷いコト言って俺を泣かせたオトシマエ…つけて貰っとこうかな~って。


「というわけで、月島蛍くん。俺に言うべきことを…はい、どうぞ♪」
「ひっ…酷いコト言って、山口を泣かせてゴメンっ!!
   調子乗って…明るいトコで裸を見たいとか言って、ゴメンナサイ!」

月島は半泣き状態で『もうしません!』を絶叫…山口は満足気に頷くと、
「よくできました~♪」と月島に抱き着き、『イイ子イイ子』と頭を撫でた。

おイタをしたら、きっちりオトシマエ…これが、月島家の伝統である。
母から嫁へと、脈々と受け継がれる『技能伝承』を目の当たりにした月島は、
名実ともに山口が『月島家の子』になったことを、身を以って思い知った。


「どうしよう…なんかツッキーが、めちゃくちゃ可愛く見えてきた…」

ふふふ…と、妙な艶っぽさのある微笑みで、月島の肩口に頬を寄せる山口。
いつもの『えへへ~♪』とは違う雰囲気と危機感を、敏感に感じ取った月島は、
慌ててカラダを揺らし、掠れる声を絞り出して懇願した。

「もっ、もう『お仕置き』は終わったんだよね!?コレ…外してよっ!」
「それはダメ。『お仕置き』はこのコースの『一部』だって言ったでしょ。」

俺からツッキーへの『お詫び』を、まだしていない…よね?
ここからは、ボーナスステージ…真夏の海っぽいトロピカ~ル☆の時間だよ。
「俺が見せてしまった悪夢…その怖いイメージを、なくしてあげなきゃね。」

一度覚えた恐怖は、なかなか消せない…
それならせめて、『金縛り』に楽しいイメージを『上書き』してあげたいんだ。
せっかく俺が出てきたのに、怖い夢だったなんて…俺も、そんなのは嫌だし。

「それに、今日の俺は…『インキュバス』だから。」

そう言うと山口は、踏ん切りをつけるかのように、激しく絡むキス…
月島が驚き戸惑っているうちに、山口は再びカラダを下へとずらしていった。


「え…う、そ…っ」

目の前の光景が、にわかには信じられなかった。
山口は僕の腿上で腹這いになると、おもむろに僕の中心を…口に含んだのだ。
最初は軽く先だけを覆い、時折紅い舌を覗かせながら、チロチロと舐めるだけ。
そのうち、少しずつ顔を沈めるように、奥の方まで飲み込んでいく…

「ま、待っ…」
「ひぁ…?(嫌…?)」

   嫌なわけ…ない。
   ただ…待ってほしい。

山口におクチでシて貰うのは、勿論初めてというわけじゃない。
そんなに頻繁に…じゃないけど、長い付き合いの中では、何度か経験がある。

でもそれは、100%の確率で暗い部屋の中で、90%山口は頭から布団に籠り、
そして80%、僕は眼鏡を掛けていない状態でのこと…
こんなに明るい場所で、布団に隠れず、はっきりした視界の下は…初めてだ。


山口がどんな表情で、どんな仕種で、どんな音を立てながら、僕のモノを…
今までは暗闇と布団、歪む視界に籠められ、見たことのなかった刺激的な姿に、
熱が一気に全身を貫き…山口の喉を圧迫させてしまう。

「んんっ…!」

少し苦しそうに眉を寄せながらも、山口はそこから唇を離さない。
鼻から抜ける甘い吐息に、口から漏れ出る雫と、水気を含んだ淫靡な音…
感触だけでも気持ちイイのに、視覚と聴覚がその快感を強烈に増幅させていく。

「ひもち、ひぃ…?(気持ちイイ?)」
「よ、すぎ、だよ…っ」

   咥えたままで、喋るなんて。
   目を…合わせてくるなんて。

「だ、め…っ!」
「ん…ぁっ!!」

堪えきれない情動…白い印が、山口の紅い頬を濡らす。
その姿にも、ゾクリと背が震え…それが収まらないうちに、再び息を飲んだ。


山口は一度僕からカラダを浮かせると、まだ着ていた水着を静かに脱ぎ、
頬に付いた白と、中心に残る白を、指先で掬い取り…その手を後ろへ沿わせた。

「…っん!」

腹の上に跨りながら、僕が零した白で、繋がる部分を解していく。
羞恥と快感で、上体が傾いてはくるものの、山口の姿態はしっかりと見える…
時折ビクリと腰が跳ね、カラダを支える腿がガクガクと震え、
天を仰ぐ部分からじわりと溢れる露が、後ろを解す手を伝い滴る様子も…全て。

『見たい』と夢に願ったのは僕なのに、自分達が現実にシているコトを見て…
そのあまりにも濃厚で、魅惑的な山口の姿に、熱を抑えられなくなっていた。


「今日の、俺は…夢魔、だからっ…」

自らに言い聞かせるように呟くと、山口は月島の中心に手を添え、
最初はゆっくり…途中から一気に腰を落とし、声にならない声を上げた。

五感の全てを快感に…山口に支配された月島は、直ぐに現から意識を飛ばした。
こんな夢みたいなコトを、僕と山口はいつもシていたなんて…


夢としか思えない現の中で、月島がぼんやりと覚えていることは、
青い空に、白い雲、黄色く輝く太陽に…揺れる黒髪と、赤い唇。

いつの間にか解けていた、五色の紐。
その紐が絡み付いた腕で、五色の熱を強く抱き締めている…そんな光景だった。





- 完 -





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※一年前の『引越イベント』 →『無限之識


2017/08/29

 

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