的中!?研磨先生⑤







「というわけで、自由に想像して貰ったワケだけど…」
「見事に四者四様…全然違う話になりましたね。」
「どれもこれも、個性というか、特徴のある話だったよね~!」


『オメガバース 巣作り』というワードから、事前考察することなく、
各自が好きなように想像してみた、今回のイレギュラーな『酒屋談義』…

巣の利用方法に着目した月島は、『Ωの繭篭り』という物語を紡ぎ、
山口は月島とは真逆の視点から、『αの巣篭り』を描き出した。
また、『相手を誘引』するという、巣作りの目的は同じだが、
黒尾はΩのための『αの巣作り』を、赤葦は捕食のための『Ωの罠作り』…
こちらも真逆な物語を展開した。

「『巣』っていう、たった一つのモノでも…こんなに捉え方が違うんだな。」
「多種多様な見方と、想像の方向性の違い…個性が出て、実に面白いです。」

同じ漫画やアニメを元ネタにしているはずなのに、書き手によって全く違う話…
多彩な二次創作が出来上がり、そのバリエーションを楽しめるのも、
モノの見方が違うたくさんの人が、色々な想像をするからだろう。

「創作って、面白いね!」
「人それぞれ…だから、楽しい。」

たまには『考察』じゃなくて、四者四様の個性を楽しむ『酒屋談義』も、
悪くないかもしれない…と、顔を見合わせて笑い合った。


「じゃあ、最後に『答え合わせ』しとこうか。」

まあ、何が『正解』とか『答え』だとかは、あってないようなもんだけど…
『オメガバース 巣作り』で検索したら出てくる内容を、一応説明しとくよ。

研磨先生はゆっくりと全員を見渡し、フッと頬を緩めた。
「一言で言うと、全員不正解…でも、全員一部は正解だよ。」

俺がざっと調べたところによると、フィギュアスケートを題材にした作品の、
二次創作で流行ってる設定…らしいんだよね。
どういう話の内容?だとか、何でそのアニメで?だとかは、不明なんだけど…

発情期前、Ωは巣を作るかのように、つがいのαのモノを自室(ベッド)に集め、
その中に篭って発情期を過ごす…って話らしいよ。


『Ωの好きなものを集め(黒尾)』て、その中に『すっぽり包まれ(月島)』、
発情期は『ずっと引き篭った(山口)』まま、『αにどっぷり溺れる(赤葦)』。

「それぞれが想像した要素を、全てひっくるめたような、オイシイ設定だね。」
「『マシマシ全部のせ』みたいな贅沢さだよね~」
「今回の『総括』に相応しい…よな。」
「では、師匠の『ミニシアター』は…」

期待に輝く4人の目に、研磨先生はコクリと頷いた。
そして、準備はイイ?という静かな声…4人は目を閉じ、黙って開演を待った。


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「これ、少しですが…先日頂いた『抗Ω剤(黒尾鉄朗由来)』の御礼です。」

黒尾が赤葦に贈った抗Ω剤のおかげで、第2回発情期は実に快適だった。
日中は普段とほぼ変わらないぐらい、穏やかな日常生活を送ることができたし、
夜、焼け付くような情欲に溺れそうになっても、服薬すればスーっと熱が引き、
落ち着いて睡眠を取ることができた。

また、いつも以上に誰かに絡まれたりすることもなかったから、
きっと特殊フェロモンの発生も、上手く抑えられていたのだろう。

一般的な抗Ω剤とは、効果が天地の差…
その劇的な違いに、赤葦は黒尾に心から感謝したかった。
その気持ちは、赤葦の両親も同じ…息子のツラさを何とか緩和しようと、
『特別な薬』を用意してくれた『運命の相手』に、どうしても御礼がしたい…
そう言って、息子に『御礼の品』を持たせ、黒尾宅へと向かわせたのだ。


「大したものじゃありませんが…受け取って頂けますか?」
「いやいや!気ぃ使わせちまって…逆に申し訳ねぇだろ!」

赤葦のためだけじゃなく、下心もマシマシで薬を渡した黒尾は、
『御礼』なんて絶対受け取れない…と、頑なに受け取りを固辞した。
だが、それで引き下がる赤葦ではない。
キレイにラッピングされた、やや大きめの『ふわふわ』した塊を、
ぐいぐいと黒尾に押し付け、押し返し…『ふわふわ』越しに膠着状態となった。

「遠慮とかいらないですから、気持ちヨく受領して下さい!」
「俺の『気持ち』の問題で、受領をヨしとしねぇんだよっ!」

「誠実通り越して、クソ真面目な頑固者ですねっ!」
「その言葉、ラッピング付でそっくりお返しだっ!」

意外と強情な、似た者同士の二人。
互いに譲らず押し付け合っていると、ラッピングが音を立てて破れてしまった。

「あっ、悪ぃっ!」
「すみませんっ!」

慌てて手を離すと、包みの中身が落ちそうになり、
二人は同時に『ふわふわ』と…相手の腕をギュっと握り締めた。
その柔らかくあったかい感触に、尖った空気もふわっと緩み、
互いに表情を和ませ、はにかみ合った。


赤葦は一旦『ふわふわ』を自分の横に置くと、躊躇いがちに話しはじめた。

「これは、黒尾さんへの『贈り物』…とみせかけた、俺の下心です。」
「そりゃあ、どっかの誰かが贈った薬…それと全く同じってことか?」

茶化しながら黒尾が訊くと、赤葦はキョトンと目を開き、ニッコリ笑った。
実は、そうなんです…と言うと、黒尾のベッドに手を伸ばし、
枕元に山積みになっているクッションの一つを、ムギュッと抱き締めた。

「実は俺…黒尾さんが欲しくて、たまらないんです。」

これは、Ωの習性らしいんですが…とにかく『黒尾さん』を集めたいんです。
それこそ、確率は低いとわかってても、黒尾さんグッズ欲しさに、
『一番くじ』にチャレンジしたり、ガチャを回してみたり…
先日は、ほぼ等身大の黒尾さんが描かれた布が当たるくじを、
一家総出で探し回り、皆でくじ引きして楽しんじゃったくらいです。

「でも、所詮は『グッズ』…黒尾さんの気配は、そこから感じられません。」

でも、ここへ来ると、黒尾さんだらけ…あれもこれも全部『お宝』に見えます。
このままだと、俺…黒尾さんがダメだって言っても、
このクッションとか、抱き締めたまま持って帰っちゃうかもしれません。

いくら魅力的な『垂涎モノ』でも、さすがに泥棒なんてしたくないです。
だから…

「この新しいクッションを差し上げますから、黒尾さんの『お古』を…
   俺に『おさがり』として、頂けませんでしょうか?」

赤葦は『お古』から手を離さずに、横に置いていた『贈り物』を、
ススス…と黒尾の方に寄せ、「コレと交換して下さい。」と、小声で頼んだ。


黒尾は何も言えないまま、少し震える手で『贈り物』を開くと、
中からふわふわ柔らかい、ペンギン型抱き枕が出てきた。

「凄ぇ可愛いな。それに…抱き心地も極上だ。」
「ですよね!俺も一目?一抱?で気に入って…」
この子より一回り小さい子を、お揃いで買っちゃいました。

そして、包みの中には、もう一つ。
「これ…パジャマ?」
「できれば、その…」

こちらも、もしよろしければ、黒尾さんの『おさがり』を頂ければ…
黒尾さんにすっぽり包まれて、寝られればいいなぁっていう…下心です。

「ダメ…でしょうか?」
不安そうな目で、クッションに隠れながらチラリと見上げてくる。

「もう…ダメだろっ!」
黒尾はそう叫ぶと、受け取ったペンギンに顔を埋め、盛大にため息をついた。

「なんもかんも、俺の全部を、お前に持ってかれちまった気分だよ…」

顔を隠したまま、黒尾は勢いよく立ち上がり、クローゼットを開くと、
そこからキレイに畳まれたパジャマを取り出し、赤葦に差し出した。


「他に欲しいものがあれば…持ってっていいぞ。」
「えっ!?そ、それは…泥棒はイヤですからっ。」

貰った『おさがり』を大事そうに抱きながら、赤葦はぶんぶんと首を横った。
黒尾はその首の動きを止めるように、赤葦の頬を両手でラッピングした。

「もし、何か欲しいものがあったら…」

そうやってムギュ~ッとして、『泥棒しますよ?』って宣言してくれ。
そしたら俺は、その泥棒ごと…ムギュ~ッと捕まえてやるから。

その言葉通りに、黒尾は両腕で赤葦を抱き締め、背中を優しく撫でた。


「ちょっと…泥棒したくなりました。」

コレごと、持って帰りたい気分です。
赤葦はそう呟くと、同じように黒尾の背にしがみつき、ゆっくり撫で返した。


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「か…可愛いっ!すっごい可愛い!」
「こっちの抱き心地も…極上~っ!」

巣作り万歳~!と、諸手を上げて喜ぶ、月島と山口の二人。
その横で、黒尾は肩を震わせて悶絶し、赤葦は茫然自失…
感激がオーバーヒートしたようだ。


「ねぇ赤葦…機嫌、直った?」
「え…は、はいっ!」

くじを引けなかった悔しさもわかる。
『E』で『H』なんて素敵ネタを放置できないことも、
『ドERO要員』としての期待に応えようとしたプロ根性も…わかるよ。

でも、オメガバースでも、必ずしも『子作り』に言及しなくてもいいように、
放射性猥褻物な赤葦が、必ずしも『↓方向』をヤらなくてもいいんだ。

「『クロ赤』っていう激ウマ素材…安易にエロに走る必要は、ないよ。」
「師匠…っ!」

それにね、エロは単体じゃあ、ただのヌキヌキ…情緒もナニもないでしょ?
月島の紡ぐ美しい話や、山口の切なさ、それにクロのガチガチなアレとか…
そういうのがコミコミじゃないと、赤葦の『↓方向』は際立たないんだ。

おカタい考察あっての、しょーもない↓方向…それが『酒屋談義』だよね?
だから、赤葦は無理しないで…自然体で好きなように想像すればいいから。

「そんなことしなくても、赤葦は…居るだけで、十分エロいんだから。」
「…はぃ?」


そういうわけだから…皆、イくよ。

研磨先生はポカンと口を開けて固まる赤葦の腕を引き、シャキっと起たせた。
そして、顔を覆って笑いを堪える3人にも、「起立!」と号令を掛けた。

「俺も欲しくなっちゃったから…今から全員で『一番くじ』を捜索する。」
ありそうなトコには、アタリをつけてあるから…

「持てる運は全て使って、クロ赤を落としにいく…いいねっ!?」

研磨先生の鬨の声に、全員は一斉に拳を振り上げて応えた。





- ⑥へGO! -





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ギャグちっく20題
『03.泥棒つかまえました』
お題は『確かに恋だった』様よりお借り致しました。


2017/06/11    (2017/06/07分 MEMO小咄より移設)

 

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