的中!?研磨先生③







『オメガバース 巣作り』という言葉から、考察抜きで自由に設定を想像…
『酒屋談義』では珍しい手法に挑む、黒尾法務事務所の面々。

月島は『Ωの繭篭り』、山口は『αの巣篭り』という物語を紡ぎ出した。
次に披露するのは、黒尾である。


「俺が『巣作り』でまず思い浮かんだのは、その『作り手』についてだ。」

誰が、何を目的として営巣するのか?
俺は、生物界の『基本』に立ち返ってみたんだ。


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「わざわざこんな所まで…悪ぃな。」
「いぇ、そんな…お気になさらず。」


地味な作業を延々やり続けられる『持久力』が、必要不可欠な条件。
少し贅沢を言うならば、手先が器用だとなお良し。
もっと贅沢を言えば、会話がなくても、一緒に居て苦痛でないこと。

そういう堅実な仕事が得意な人を、探しているんだが…
お前しか該当者に心当たりがないんだ。
多忙なのは百も承知だが、ちょっと手を貸して貰えねぇか?

…という黒尾からのオファーを、赤葦は二つ返事で快諾した。
『お前しかいない』という殺し文句に、コロリとヤられる参謀気質に加え、
『一緒に居る』が如実に示す、『二人きり』の時間…願ってもない申し出だ。


コトを焦るとソッコーで『つがい確定』という、特殊事情を抱える二人…
αΩ(と、元々の性格)故に、なかなか関係を進展させることができないまま、
じわりじわりと、互いの距離を測りながら、未だ純愛を貫いていた。

慎重に慎重を重ねていたが、もうちょっとだけ、関係を深めたい…
その『きっかけ』が到来したことに、赤葦は頬の緩みを隠し切れなかった。


待ち合わせ場所に指定されたのは、黒尾の自宅の最寄駅。
またあの部屋に…?と、期待に胸を躍らせていたら、黒尾の自宅を通り過ぎ、
近くの鬱蒼とした杜…小さな神社の、社務所らしき建物に連れて行かれた。

「ここは、ウチが代々管理している神社なんだ。」

人並み外れた力を持つαは、古来より『神』として恐れ崇められてきた。
そして、その『神』と交わり、子孫繁栄を結実させる『巫女』…Ω。
黒尾家は、そうした神と巫女…αとΩが連なる者達の、子孫なのだろう。

通された建物は、社務所を一角に設けてはいるが、実質的には普通の住宅だ。
家に入った瞬間、赤葦はドクンと鼓動が跳ね…逆に呼吸はスローになった。
熱を感じるのに、全ての神経がリラックスするような…不思議な感覚だ。

「心から落ち着ける、とても素敵な場所ですね。」

意識せずに零れた言葉に、黒尾は柔らかく微笑むと、赤葦を和室へいざなった。


「これは、一体…?」
「菜種…菜の花だ。」

和室から中庭に続く縁側に、大量の茶色い…枯草?の山があった。
黒尾は窓を全て開け放つと、畳に新聞紙を広げ、その上で乾燥した『さや』を、
手で握ったり揉んだり…すると、パラパラと種が落ちてきた。

「手をお貸しするのは…これですね?」
「あぁ。面倒だろうが…宜しく頼む。」

赤葦も黒尾の隣に座り、同じようにニギニギと揉み、パラパラと種を取る…
ただそれだけの作業を、延々続けた。


「この神社の御利益は、恋愛成就と子孫繁栄…『αΩ』だからな。」
神社の裏手に、広い菜の花畑があり、
毎年その種を『繁栄』の象徴として、秋の例祭で配るそうだ。
そのために、5月下旬から6月初めに、神社で採種…黒尾家の年中行事だ。

「『αΩ』が血を繋ぐ神社に相応しい…御利益、ありそうですね。」

…あぁ、そうか。
ここはαΩの空気が『濃い』…だからこんなにも、居心地が良いのだろう。
おそらくその空気は、遺伝的に赤葦とは非常に相性が良いはずだ。
ずっとここに居たい…そう思わせる何かが、間違いなくここにはあった。

黙々としながらも、微睡むような快さを感じていると、
この空気感と同じ穏やかな声で、黒尾が静かに語り始めた。

「ウチでは、当代で一番強力なαが、この神社の管理を担うんだが…」
高校卒業したら、俺がここを継ぐことになったんだ。
神社の管理人をしながら、大学生…いわば『兼業宮司』だな。

少しずつ、蔵書やら生活用品やらを運びこんで、『俺専用』の空間を作りつつ、
ここで過ごす時間を増やし…宮司としての修業を始めてるんだ。

「後でお前にも地下室を見せてやるが…『本の虫』には、感涙モノだぞ?」
社伝をはじめとする、古文書の数々だけでなく、代々の宮司が集めた書籍の山。
そして、黒尾本人が持ち込んだ愛読書…小規模な図書館クラスの蔵書量を誇る。

「そんなとこに『虫』の俺が入ったら…そこで一生を過ごしちゃいます。」
今すぐそこにイきたい…冗談抜きで、ここに棲み付いてしまいたい。
何という、魅力的な場所。羨ましくてしょうがない…頻繁に遊びに来よう。

早く地下へ…と、高速で菜種をニギニギしていると、
空になった『さや』を集めていた黒尾が、遠くを見ながらポソリと呟いた。

「春先の、一面に広がる菜の花畑も…お前に見せてやりてぇな。」
「それは実に美味しそう…じゃなくて、美しい景色でしょうね。」

もしここに住んだら、この種と同じぐらい…『菜の花』が食べ放題では!?
毎日毎日、菜の花の芥子和え…文字通りに『垂涎』な場所である。

「建物も古いし、市街地から大分離れてるし、何もないとこだが…」
「街の喧騒とは無縁の静謐さ…落ち着いて読書するには最適です。」

むしろ俺には、『いいことだらけ』にしか感じませんよ?と赤葦が言うと、
黒尾はこれ以上ないぐらい、嬉しそうな笑顔を見せた。
その表情に、落ち着いていたはずの赤葦の心拍と体温が、急上昇した。


今はまだ手を付けてないが、順次二階の部屋も綺麗に片付けるし、
水回りの設備とかも、夏までにはリフォーム予定…快適性は各段に向上する。
ただ、問題があるとすれば…


「俺一人には…広すぎ、かな?」


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「人里離れた杜の奥…一人じゃ寂しいですよね~?」
「学生兼業宮司は、何かと大変そうですし…ねぇ?」
「それなら、『住み込みのバイト』を募集すれば?」

月島・山口・研磨先生の言葉に促され…るまでもなく、
赤葦は「はいっ!」と勢いよく挙手し、黒尾に紙を差し出した。

「履歴書…持って来ましたっ!」

全力で『俺が応募します!』と叫ぶ赤葦に、黒尾は顔を真っ赤に染め、
「…当確だよ。」と小さく呟いた。


結局、二人のデレデレにあてられてしまった研磨先生達は、遠い目…
本題から外れかけた話題を、やや強引に元に戻した。

「クロの説は、結局『αの巣作り』ってだけでしょ。」
「どこかで見たような設定を、上手くリサイクル…さすがは腹黒策士ですね。」
「Ωに選んで貰えるような巣を、αが準備する…ホントに『基本』だよね。」

じっくり丁寧な『ミニシアター』にして誤魔化してるけど、
その内実は、何の捻りもない、地味なネタ…求愛の舞台としての『巣』だ。

「『基本に忠実』という点だけは、評価するけど…地味だね、地味。」
「せめて、『求愛ダンス』ぐらい踊って頂かないと、物足りません。」
「全然『ERO』でも『H』でもない…ハズレずしも当たらず、だよね。」

どうせ『ミニシアター』するなら、『夏祭り編』とかにしてよ。
神社に代々伝わる秘密の『神事舞』で…神憑り状態っぽくαΩが結合、とか?
それか、普通に『盆踊り』を、手取り足取り腰取り教える、とか!

「深謀遠慮なクロらしい話だけど…まどろっこしい。
   罰当たり覚悟ぐらいで、体当たりなネタ…そういうの希望なんだけど。」
「ご自分が『ERO要員』だという自覚…ちゃんと持って下さい。
   誠実な王子様なんて、αΩ関係じゃ拷問…何度言えばわかるんですか?」
「たまにはほら、『αっぽさ』を前面に出して下さいよ~もうガッツリと!
   せめて『タネの詰まったコッチのさやもニギニギ』ぐらいのネタを…」

容赦なく手厳しいダメ出しに、黒尾はガックリと項垂れた。
その黒尾をかばうように、赤葦はもう一度「はいっ!」と両手を上げた。


「それなら、俺が…お望み通りの展開をお見せ致しますから!」
とは言え、俺が考えたのは黒尾さんとは真逆…『Ωの巣作り』ですけどね。
それでは、天然Ω・放射性猥褻物本人監修の物語…開演(怪演又は快艶)です!

「ま、待て赤葦!早まるな…!!」

赤葦にそれを語らせたら、マズい…!
全員が慌てて赤葦の『だだ漏れ』を止めようとしたが、
赤葦はそのまま『ミニシアター』を始めてしまった。





- ④へGO! -





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※どっかで見たような設定(黒尾家管理の神社) →『黒魔術』シリーズ
※神事舞 →神社の祭礼で奉納される舞。神楽や田楽、舞楽等。


2017/06/05    (2017/06/02分 MEMO小咄より移設)

 

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