的中!?研磨先生①







「最近の赤葦…なんか機嫌良すぎて、怖いんだけど。」
「確かに、浮足立ってるというか…」
「あ、俺…理由知ってるよ~!」


本日、黒尾と赤葦は外回り業務のため、外出中。
その隙を突くように、経費請求等の事務処理のため、研磨先生が来訪…
月島&山口と雑談を楽しんでいた。

『HQ!!乙女ゲーム』開発会議のため、ちょこちょこ顔を合わせる機会も増え…
研磨先生・月島・山口も、今ではすっかり仲良しになっていた。

3人の目下の楽しみと言えば、目の前に転がる美味しい素材…
意外とピュアなクロ赤の二人をネタにして、遊び倒すことだ。
「乙女ゲーム開発のためだし。」という免罪符の下に、ヤりたい放題である。


「研磨先生は、『一番くじ』ってご存知ですか?」
「うん。コンビニとか本屋で、時々見かけるね。」
「僕も見たことあるよ。買ったことはないけど。」

『一番くじ』とは、玩具・景品メーカーが販売しているもので、
アニメ等のキャラクターグッズが当たる、『ハズレなし』のくじである。
1回500円~800円と、ちょっと価格はお高めではあるが、
このくじでしか入手できないグッズも多く、ファンには堪らないらしい。

「この『一番くじ』に、我らがHQ!!が新たに登場したんですよ。」
原作が全国大会に突入したことから、『繋げ!全国への軌跡』と銘打ち、
人気キャラの限定グッズが、盛り沢山…とのことだ。
中でも目玉となる景品が、『ビジュアルクロス』と言われるものだ。

「ビジュアル…クロス?黒系バンドっぽい衣装?十字架のアクセ?」
「直訳すると、視覚に訴える…壁紙?」
「ほぼ等身大のキャラ全身図が描かれた、大きな布?みたいだよ。」
日向、影山、及川、岩泉、黒尾、孤爪、木兎、赤葦、牛島の全9種類…
『目の保養となる等身大キャラの描かれた布』が当たる、とのことだ。

「待って。9人のうち3人…33%以上は『全国』行ってないじゃん。」
「全国『への軌跡』というネーミングですから、問題ありません。」
「その辺りが、巧いよね~!」
俺達が何か命名する時の、参考になりそうだよね~と、山口は笑った。


「それにしても、このメンツ…」
「僕達が鋭意製作中の『乙女ゲーム』の出演者と、90%近い一致率です。」
「俺らの考察が、間違ってなかったっていう証拠だよね。」

次回作含め、出演予定者は10名。
うち1名は『主人公(プレイヤー)』人格のモデル・山口だから、除外。
牛島はあえて『お取り置き』している…3作目以降の『出演確定』キャラだ。
それ以外の8名はパーフェクトに一致、プラス月島というラインナップ…
実に見事な考察だったと言えるだろう。

…自画自賛はこの辺りにしておいて。
この『一番くじ』がどうしたの?と、月島は山口に尋ねた。


「こないだ赤葦さんと、出先で現物を見たんだけど…」

くじが隅に付いたボードに、キャラや景品が描いてあったのだが、
そのメインとなるイラストを見て、赤葦が歓喜の笑みを見せたのだ。

イラストは、例の9名の全身図が並べられたものだったのだが、
たまたま『黒尾』と『赤葦』が、隣合って描かれていたのだ。

「え…それだけ?」
「そんな些細なことで…?」
「そうだよ。それが、ここ最近の『超~ご機嫌♪』の理由だよ。」

これ…実に面白い企画ですね!
ウチのゲームのパッケージの参考に、写真撮っときましょう♪
これも参考がてら…黒尾さんのと俺のを買って来ます。あくまでも参考に。

…え?『くじ』で当たらないと、貰えないんですか!?
買占めたら…620円×55種類=34100円(税込)ですか。結構なお値段ですね。
それに、経費では難しそうですし…

「…って、超マジに悩んじゃって、結局買わずじまいでした。」
「自分でBL漫画買えないのと同じで、めちゃくちゃ赤葦っぽい。」
「意外と…シャイなんですよね。」

平然と↓方向の考察をぶち込んだり、猥褻オーラだだ漏れのくせに、
外では至って大人しい…完全なる内弁慶(もとい、ムッツリ)なのだ。


「この後は、予想通り…ですよ。」

近々、黒尾さんに引いて貰いましょう!
あの人、いつも貧乏くじ引きまくってますけど、意外とアタリが強いんですよ。
第三体育館のメンツが当たるガチャで、『黒尾』『赤葦』『月島』が欲しい…
って言ったら、1つもダブることなく、その順に当てちゃいましたからね!
もうホント、幸運を贅沢に無駄使いするあたりが、黒尾さんっぽいですよね。

「そんなカンジで、まぁ語る語る…
   電車に乗るまで、延々ノロケを聞かされたんですよ。」

隣に描いてあった程度で、そんなに浮かれるとは…意外と言えば意外だ。
そして、『言い訳』すらただのノロケになってしまうとは…想像以上だ。

研磨先生と月島は、赤葦のほわほわ具合に、若干引き気味になっていたが、
山口から話の続きを聞いて、その認識を改めた。


「電車の中で、赤葦さん…撮った写真をトリミングしてたんですよ。
   黒尾さんとの『ツーショット』に見えるようにね。」



なんかもう、その一途で健気な姿が、いじらしいやら可愛いやら…
『キュン♪』ってなっちゃいましたよ。

俺はいつもツッキーと『セット』扱い…
幼馴染でチームメイトだから、『隣に立つ』ことは当たり前でした。
でも、黒尾さんと赤葦さんは、ライバル校同士…言うなれば遠恋状態です。
『隣に立つ』なんてのは、夢のまた夢…だったんでしょうね。

「まあ、クロ赤なんて…HQ!!界ではマイナーな部類だからね。」
「赤葦さんが浮かれるのも、仕方ないですよね。」

ここはクロが、なけなしの運を使い果してでも、『黒尾』と『赤葦』を当てて、
『目の保養ツーショット』を実現してあげて欲しいよね。

赤葦に訪れた、小さくても大きな幸せ。
慎ましくも愛らしい赤葦に、3人は頬を緩ませてほっこりした。


「ちなみに、黒尾さんが『E』賞で、赤葦さんが『H』賞でした♪」
「EROい黒尾に、Hな赤葦…お見事!」
「おいしいネタは『ハズレなし』なとこは…さすがだね。」

キレイなオチがついた話を、3人で笑っていると、玄関が開く音…
どうやら、ウワサの2人が帰って来たらしい。

漏れる笑いを封じながら、「お帰りなさい!」と言い…3人は驚いた。
上機嫌だったはずの赤葦が、目に見えてどんより落ち込んでいたのだ。


「赤葦…どうしちゃったの?」

ぐったり項垂れる赤葦に、月島が冷たいお茶を差し出し、山口が背を撫でる。
研磨先生は、非難がましい視線で、黒尾に説明を求めた。

「いや、実はな…」

俺らのグッズが当たる『くじ』があるらしいんだが、
「実物とグッズ、どちらが『ビジュアル』なのか、確認してみましょう。」
…って、赤葦が『乙女ゲーム初回特典の参考』に、ヤろうって言い出したんだ。
ホント、研究熱心というか…勿論俺は快諾して、仕事帰りに寄って来たんだ。

絶対にありそうな場所…東京ドームのジャンプショップに行ったんだが…

「…完売、だったんだ。」

「えっ!?発売開始から一週間で!?」
「それはそれは…お気の毒に。」

赤葦のためなら…新規事業のためなら、俺は買占めてやるのもアリかな~と、
内心思ってたんだが…まさか完売とは。

まぁ、俺らみたいな『不純な動機』で買占めて、HQ!!を愛してくれる皆様の、
ちょっとした楽しみを奪ってしまうよりは…よかったかもしれねぇけどな。

苦笑いしながら事情を説明する黒尾。
その話を聞きながら、赤葦はじんわりと目元を潤ませ、歯を食いしばった。


「何で…何でこの間見た時に、買わなかったのか…」
あの時、勇気を持って買っていればよかったと…悔しくてたまりません。

黒尾には見えないように隠れながら、涙を堪える赤葦の姿に、
不憫に思う反面、月島と山口は『キュ~ン♪』となってしまった。

「場所が悪かったんですよ!東新宿の、スクエニ本社直下のコンビニで、
   先着100名様にスライムのキャップがつく『からあげ君』を探すような…」
「ジャンプショップに行ったことが、間違いだったんです。
  きっと、都心から離れた本屋さんとかには、まだ残ってますよっ!」

俺達も、手分けして探してきますから…元気出して下さい!
絶対に『EとH』を当てて…本物の方がカッコイイことを、確認しましょう!

本屋さんで買って、領収書を『書籍代として』で貰ってしまえば、
僕は何食わぬ顔で、経費で落としますから…ね?

月島と山口の懸命なフォローに、赤葦はコクコクと頷いた。
「俺のワガママにお手を煩わせてしまい…本当にすみません。」


「赤葦はワガママなんかじゃない。」

研磨先生は赤葦に駆け寄ると、『ムギュ~♪』っと抱き締め、頭を撫でた。

「別に景品がどうのこうのじゃなくて、『くじ引きヤりたい』って好奇心…
  それが叶わなかったら、誰だって悔しいよ。」
ハズレ引くより、ハズレすら引くチャンスがなかったなんて、
俺だったら耐えられない…俺ですら、探し回っちゃうよ。
ちなみに、スライムのは20件近く回っても、全滅だった…マジ泣きそうだよ。

「もし『くじ』がなかったとしても…欲しいものが当たらなかったとしても、
   俺が赤葦のために、『EとH』なネタ…『大当たり』を用意してるから。」
「大当たりのネタ…?孤爪師匠、物凄く気になりますっ!」


みんなもちょっと、集まって。
研磨先生が集合をかけると、もしかして例のアレか…?と、
期待に満ちたキラキラの目で、先生のそばに全員が寄って来た。




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2017/05/29    (2017/05/27分 MEMO小咄より移設)

 

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