αβΩ!研磨先生⑦







αとΩの発情システムに、特殊フェロモンの仕組み。
そして、その衝動を抑えるための薬について、じっくり考察した。
これらを踏まえて、次に考えるべきは…

「『つがい』について、だね。」

どのような形で『つがい』が確定するのか。
どうしてこのようなシステムが存在するのか。

この点は、おそらく『オメガバース』世界の核となる論点である。
しっかりと凹に凸を入れて…考察を続けていこう。


「『つがい』確定には、次のようなケースが考えられます。」

 ①運命の赤い糸型
 ②はじめての人型
 ③つがい契約型
 ④運命の相手と契約型


「もし、フェロモンと受容体の『合致度合』で決まるとすると、
   αやΩ個人の意思には全く関係ない…もう『運命』でしかないな。」
「初対面でビビビっ!!とキた相手…というケースですね。」
「別名・一目惚れ型とも言えて、創作には実にオイシイ設定だけど、
  『確定』までに時間がかかる可能性を考えると…しんどいよね。」

①の場合では、『運命』の要素が強すぎるという難点があり、
『運命の相手』に出逢えるまでは、ひたすら辛い発情期を耐え抜きながら、
その相手との出逢いを、文字通り運に任せて待ち続けるしかない。


「じゃあ、②の『はじめての人』ってのは…?」
「別名・初体験型…説明不要だな。」
「数多のαを惹き寄せるΩ。
   その中から、『この人!』という相手と『結合』するんですね。」

②は①に比べ、個人の意思が尊重されやすい部分はあるが、
我を失ったαに無理矢理…そしてつがいに、という悲劇も起こり易い。
非常に博打的要素の強いケースと言わざるを得ない。


「③の『つがい契約型』は…双方の合意によって成立、でしょうか?」
「『αがΩのうなじを噛むと成立』という設定もあるそうですよ。」
「別名・自由恋愛型…普通の婚姻関係と、あんまり変わらねぇな。」

『双方の合意』でつがい契約が成立するのであれば、
発情期というシステムの必要性が薄まってしまう。
『αがΩのうなじを噛む』というのだと、αとΩは『対等』とは言えず、
Ωにとっては②と同じ、無理矢理といったリスクが捨てきれない。


「最後に、④は…いわば複合型、ですね。」
「全てのα(Ω)と『つがい』になれるわけではない。
   ただしその『確定』には、何かしらの『契約』が必要となる…」
「αΩの組み合わせなら誰でもいい…という③よりは『運命』の要素があり、
   運命に縛られ過ぎない点で、①よりも自由度が高い。」

この『契約』がどういったものかによって、随分とイメージが変わってくる。
実に柔軟性のあるケース…ここをいかに設定するかが、創作の鍵となる。

「どれがいいか?っていうのは、一概には決められないよね。」
「この『つがい確定』の形態によって、『オメガバース』の世界が決まるんだ。」

ここはもう、本当に…『創り手の自由』と言う他ない。
どんな『オメガバース』の世界が良いのか…物語に応じて、千差万別なのだ。

とは言え、「こうなる可能性が高いのではないか?」という大枠は、
今までの考察等から、ある程度導けるはずである。

「それじゃあ、『生物・遺伝学』『発情システム』『フェロモンと受容体』
   …これらの視点を通して、『つがい』について考えていこう。」


研磨先生は赤葦に「例の表を。」と指示し、赤葦はそれを全員に提示した。
「こちらは、両親のαβΩ型の組み合わせで、どんな子が生まれるか…
そのパターンを網羅し、それぞれの確率を計算した表です。」


(クリックで拡大)

「全部で84パターン…ααとΩΩはそれぞれ13%程…意外とあるんだな。」
「表出型の割合で見ると、αは33.33%、βは53.57%、Ωが13.10%です。」
「全ての型が同じ確率で生まれるとすると…αは3割超えるんですね~」
「Ωだって10%超え…実はこれ、日本人のAB型の割合より多いんです。」

もしそれぞれの型の出生率がほぼ変わらないならば、
『大多数のβ・稀少種α・絶滅危惧種Ω』という設定とは食い違うことになる。
『大多数』『稀少』『絶滅危惧種』が実際にどのくらいの割合になるかは、
はっきりとした数値では表せないが、一般的な感覚としては…

「普通のクエスト報酬で出る素材が70~80%、ややレアが15~20%。
   部位破壊報酬でしか出ない激レア素材だと、2~5%だね。」
キラリ~ンとした『○○玉』系の素材…38匹倒して1個だし。
これなんてモロに2%じゃん。そのくらいの激レアっぷりだってことだよ。

絶滅危惧種に詳しい(?)、本職『ハンター』の研磨先生は、
「ΩΩの確率はせいぜい5%以下だね。」と断言した。

だとすると、『全ての型が同じ確率で生まれる』わけではなく、
Ωの出生率は、他に比べて非常に低いのではないだろうか。


また、Ωだけでなく、αも『稀少』であることも、
αの出生率が低いことを証明しているのではないだろうか。
(33.33%は、打率でいえば3割3分3厘…『安打製造機』クラスだ。)

オメガバースの世界を、現代と同程度の医学水準だと仮定する。
そして、『優秀なオスに惹かれる』という生物学の基本も同じとすると…

「精子(卵子)バンクで一番人気は…何だと思う?」
「考えるまでもなく、『α』の圧勝でしょうね。」

αの優秀さがケタ違いなら、αの子が欲しいと願うのは自然だ。
生殖医療の技術が進めば進むほど、『α』需要は高まるだろう。

「弁護士や医師といった『ハイスペック』男性との合コンや婚活サイトは、
   女性側が高額な会費を支払うようですしね。」
「『αがアナタを求めている!』なんて、シンデレラを謳われちゃったら、
   ほいほ~い♪と、喜んで王子様候補に『有益な投資』をしちゃうかも。」

αというだけでモテモテ…絶対的アドバンテージを持つのだ。
『機会均等』でないにも関わらず、αも『稀少』なのは、
やはりαもΩと同様に、出生率が低いと考えられるだろう。


この『α・Ωは出生率がごく低い』という生物・遺伝学的事実から、
『発情システム』がなぜ必要だったのかが、見えてくる。

「もし猫と同じだとすると、Ωは『発情してから排卵』でしょうか。」
「出生率、つまり受精率を上げるには、それが一番効率が良いよな。」

ホモ・サピエンス…ヒトは、発情期のない動物である。
これは、『年中発情期♪』とも言えるが、実際は『わからない』という意味…
メスが受精可能か(排卵しているか)がわからない、超レア動物なのだ。

多くの動物は、チンパンジーのメスのように、お尻が赤くなったりと、
「交尾OKです!」のサイン…発情のサインが外からはっきりわかる。
だがヒトのメスは、自分が排卵したかも、あやふや…
基礎体温を記録し続け、体温がガクっと下がって、その後で上がったら、
ようやく「下がった日が排卵日だった」と、振り返ってわかる程度だ。

人類存続のためには、αとΩの出生率を上げなければならなかった。
そのためには、Ωの受精可能日を知ることが、必要不可欠となる。

「年4回の発情期が、αΩ間にのみ存在する理由…」
「発情期のみ、出生率が上がるのかもしれないね。」


では、『出生率を上げるための発情期』だとすると、
次のようなことも、考察対象になり得る。

「『発情→交尾→排卵』を、発情期の期間中に繰り返すのなら…」
「猫と同じように、多胎児の可能性がありますね。」
白猫の母親から、虎猫・三毛猫・黒猫が一度に生まれることも、
全く珍しくない…全て父親が違う、多卵性多胎児である。

「あっ!じゃあ、もしかすると…『6卵性6つ子』なんてのも…」
「父親は同じでも6卵性…オメガバースならあり得るかもね。」

実際には、多胎児は母体にとってリスクが大きくなるし、
ヒト特有の『ある事情』から、その可能性は低いと思われる。


これは余談ですが…と前置きし、赤葦は無表情で問い掛けた。
「何故ヒトのオスのアレは、キノコ型か…ご存知ですか?」

文字で表すと『↑』…矢印の『傘』部分がある理由、です。
他の動物のオスは、ただの棒状が基本形なのに…不思議でしょう?
(ただし、猫や蛇には、『抜け』を防ぐためにトゲトゲが付いている)

「えーっと、アレがあると、引っ掛かりがあって…気持ちイイでしょ?」
「あのデカい『傘』がなければ、もっとラクに入るのに…って思うけど?」

月島は月島なりの、山口は山口なりの、誠実な回答。
黒尾はその『誠実さ』に酒を吹き出し、研磨先生はゲンナリ顔…
やはり赤葦だけが、淡々と説明を続けた。

「引っ掛かり…それが正解です。」
あの部分で引っ掛けて、外に掻き出してしまうんですよ。
…自分より先に入った、別のオスの分身を。

「ちょっと待て。それじゃあ、『2回戦』の時には、自分の分身も…」
「だからこその『賢者タイム』…その間にイけるトコまでイきます。」
卵管到達まで約15分、卵管膨大部までそこから30分。
1時間弱あれば、受精可能な場所に到達できる計算ですから。

『↑』のカタチから、『賢者タイム』の理由まで導くとは…
さすがは放射性猥褻物・赤葦である。


「というわけで、母体保護の観点から推察すると、多胎児は少ない…
   そして、『優秀なα』を残すために、競争も激化するはずです。」
つまり、ホモ・オメガバース(α)の『↑』は、ホモ・サピエンスに比べ、
『アレ自体もデカけりゃ先もデカい』可能性が高いですね。

「うわぁ…キッツイですね~αの相手は…ムリかも。」
「俺は大歓迎ですよ?…『トゲトゲ』よりはずっと。」

これも余談ついでですが…
「収入が高い相手との結合だと、オーガズムに達しやすいそうです。」

この人なら将来を任せても大丈夫!という安心感から…ということだが、
これはヒトだけでなく、ニホンザルにも見られる傾向らしい。

「α相手は…すっごい気持ちイイ…?」
「モテモテの理由は、ここにもあるかもしれませんね。」


『余談』で盛り上がる山口と赤葦。
このまま続けさせるのは非常にマズいと判断した黒尾は、
強引に話を裏スジから『本筋』に戻した。

「最後に、『フェロモンと受容体』の話だったよな!?
   なぜ『つがい』になると、発生が止まるのか…?」

この質問に答えたのも、やはり赤葦だった。
「ヒントになるのは、『抗α・Ω剤』の成分です。」


先程例示した、オキシトシンやセロトニン…
様々な『気持ちイイ』系の物質を全て含むものが、ごく身近にあります。
俺達が毎日継続的に生産(やや無駄遣い)している…あの液体です。

「精漿…精液から精子を除いたものには、50種類以上もの特別な成分が、
   ガッツリと含まれているそうなんです。」

「それでは、精液は天然の抗鬱剤…ですか!」
「飲んでウットリ…あながち間違ってねぇんだな。」

精液はコラーゲンたっぷり→『お肌にイイ』という俗説よりは、
(コラーゲンは経口摂取しても、全てアミノ酸に分解されるだけ。)
各種ホルモンにより、『脳とココロにイイ』という説の方が、
科学的にはずっと正しいのだ。

行為時にゴム製品を使わない人は、使う人に比べて、
鬱病等の精神疾患の割合が、少ないという研究結果がある。
粘膜を通してそれらの成分を体内に吸収することで、
精神安定効果を得られるのではないか?…とのことらしい。

「確かに、『なし』の方が気持ちイイ…満足感が大きいですよね。」
「『繋がってる感』が全然違う…ちゃんと科学的根拠があるんだ!」

ちなみに、男性ホルモンのテストステロンは、
口腔内の粘膜を確実に通り抜けるそうなので、
『おクチで♪』というケースにも、おそらく当てはまるだろう。

ただし、ゴム製品には避妊や感染症予防といった、
非常に大切な役割もあることを…どうかお忘れなく。


非常に大切な『但し書き』をきちんと述べた上で、
また裏側に逸れ始めたスジを、赤葦は表側に擦り戻した。

「この精漿には、実に奇妙なモノも入っているんです。」
それが、FSHとLH…卵胞刺激ホルモンと、黄体形成ホルモンです。

「えっ!?それって…いわゆる『女性ホルモン』ですよね!?」
「何でそんなモノが、男性の精液に…?」

ここで思い出して欲しいのが、『ヒトには発情期がない』という事実だ。
受精率を上げるためには、排卵のタイミングを合わせる必要がある。
だが、排卵時期は不明…そのための対抗措置として、
精漿内に女性ホルモンが含まれているのではないか?という考えだ。

卵胞刺激ホルモンは、未成熟の卵子の成熟を促し、
黄体形成ホルモンは、排卵を誘導する。

「精液によって、排卵のタイミングを操作…!?」
「その可能性は、十分考えられますよ。特にオメガバースなら尚更。」

オメガバースでは、αも雌雄同体…卵子も作ることができる個体だ。
ホモ・サピエンスのオスに比べ、ホモ・オメガバースのαは、
必然的に女性ホルモンの割合が高くなるはずである。

「分かり易い発情期に、排卵を誘発する女性ホルモンを含む精液…」
「これならば、受精率のUPが見込めますね。」

また黄体形成ホルモンは、妊娠継続には不可欠のホルモン…
受精卵を着床しやすくする成分でもある。
不妊治療には、排卵日の数日後、黄体形成ホルモン分泌を促す、
『hcg』という注射を打ち、『妊娠したかも』と思わせる治療法もある。

「αとΩが結合…Ωの体内に、αの精液を通して、
   雌雄同体ならではの、多めの黄体形成ホルモンが抽入される。」
「その結果、Ωは『妊娠したかも』と思い、
   さらに黄体形成ホルモンを分泌するようになる。」
「これにより、他のαを惹き寄せる特殊フェロモンの発生が…止まる。」


『生物・遺伝学』『発情システム』そして『フェロモンと受容体』。
今まで考察してきたことから、何故『つがい』というシステムが必要なのか、
おおよそ見えてきたのではないだろうか。

研磨先生は指を折りながら、『つがい』システムについてまとめた。

・αおよびΩの出生率(受精率)は、βに比べて各段に低い。
・受精率を上げるために、排卵サインである『発情期』がある。
・精液の成分こそが、特殊フェロモン発生を抑える役割を果たす。

「ここから導ける『つがい』のパターンは…こんなカンジかな。」

絶滅寸前だった人類は、少しでも数を増やす必要があった。
そのためには、『産めよ増やせよ』とばかりに、強力な発情システム…
なかなか『つがい』を確定させず、とりあえず産むことを優先しただろう。

「絶滅危機後しばらくの間は、『①運命の相手型』に近いもの…
   相手が現れるまで、ひたすら発情して産むのが得策だな。」
「人口が増えてきたら、更なる飛躍を目指し、優秀な遺伝子を選択…
  『③つがい契約型』で、取捨選択を促すといいですね。」
「人口が増えすぎちゃった場合には、『②はじめての人型』で、
   受精率をそこまで上げないようにすればいいんだね。」
「そして、人口や文明が安定してくると、本能と意思のバランスを取り、
  『④運命の相手と契約型』に移行…でしょうか。」

つまり、人口や文明といった『社会の状態』の変化に合わせて、
『つがい』システムも、柔軟に適応してきたのではないだろうか。

「だからこそ、創作者の『設定』によって…
   社会の状況によって、『つがい』のパターンが変わるんだ。」

無駄とも思えた考察が、『オメガバース』世界の礎を作り上げた。
ここまでくると、「ただの妄想。」と切り捨てるわけにはいかず、
しっかりした枠組み…確固たる『設定』のある創作ではないだろうか。

「これらの礎を基にして、様々な『つがい』…契約の方法等を、
   自由に創作していけるってことだね!」
「これは実に面白い…創作しがいがあるね。」


研磨先生は、赤葦の提示した表を裏返し、そこに大きく『番』と書いた。

「つがい…漢字で書くと『番』だよね。」
『番う』は、固く契ること。『番い合う』は、交尾すること。
交尾+契約というシステムには、『ピッタリ』な言葉達だ。

「そしてこの『番』って漢字の構成は、『田んぼ+種をまく』だ。」
『番』が雌雄一対・ペアを表す理由…実に『そのまんま』だ。

更に、『番』が付く熟語には、順番、当番、輪番等がある。
これは『代わる代わる』という意味である。
雌雄同体…精子使ったり卵子使ったり、まさに『代わる代わる』だ。


「αΩの関係を『つがい』っていう理由…納得したよ。」

研磨先生のまとめに、4人も深く頷き、同意を示した。



- へGO! -



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<研磨師匠(の弟子・赤葦)メモ>

※日本人の血液型割合→ A…38%、B…22%、O…31%、AB…9%
※『↑』の『傘』がデカい程、たくさん掻き出せることについて、
   及び、高収入の相手程、達しやすいことについては、
   きちんとした学術研究の結果として、論文発表されている。
※色んな雑学を持ち出して、『なし』や『おクチ』を強要する奴には、
   十分ご注意下さい。全て『但し書き』付の説であることをお忘れなく。

2017/05/09    (2017/05/03分 MEMO小咄より移設)

 

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