教えて!研磨先生⑦







「次に決めるべきなのは…『とにかく元気!系』か。」
もう『兎に角』って書くぐらいだし…『木兎』でよくねぇか?

どこかへ走り去った黒尾は、研磨先生好みのカルピス(完璧な濃さ)と、
近所の洋菓子店で購入してきたらしい、高級ケーキをテーブルに並べながら、
研磨先生に『それとな~く』進言した。

「雑学ではぐらかしつつ、モノで釣る…実に黒尾さんっぽいですね~!」
「これが、『腹黒尾』のヤり方だね。実に参考になるよね。」
「クロ…素直に『赤葦攻略したいから木兎出して下さい。』って言いなよ。」

安直な買収作戦をアッサリ見破られ、それを容赦なく突っ込まれ…
黒尾が『ぐうの音』すら出せずに項垂れていると、赤葦がフォローに入った。


「自分で言うのも何ですけど、『赤葦京治』がゲームに登場できるとしたら…」
もう、『木兎光太郎のオマケ』というカタチしか有り得ないんですよね。
実際に、『赤葦』はそういうキャラとして確立しちゃってますし、
『単体』で『メイン』を張れる程のアレもない…『企画モノ』専属っぽいです。

「『単体』だの『企画モノ』だの…別の『ステキ映像作品』みたいな…」
「あ!俺…『素人モノ』とか、結構イイと思うんだけど…♪」
「そうだね…純情そうに見えて、実は…なんて、僕も最高にイイと思う♪」
「甘いね。クロの好みは…『貞淑な人妻が乱れる~昼下がりの和室~』だよ。」

自分で言い出したのに、結局自分のストライクゾーンをバラされてしまい、
黒尾はまたしても頭を抱え…小さく鼻を啜る音がした。


ま、クロの好きなAVのジャンルなんてのは、今はどうでもよくて…
「『元気系』には『木兎』っていうのは、俺も確定だと思ってる。」
その理由は、主に次の3つ。

・『モード』のギャップが大きく、ストーリーのテンポが良い。
・裏表なく、実に爽快…ゲーム全体の中で『箸休め』になる。
・人気チームである『梟谷』に触れるには、避けて通れない。

「『モード』のギャップ…通常の『無駄に元気!』と『しょぼくれ』の差?」
「それもそうだけど、もう一つあるよ…『シリアス』っていうのが。」
「『木兎』のシリアス?それはもう…『ギャグ』じゃねぇのか??」
黒尾はそう言って笑ったが、研磨先生は「クロは全然、わかってない…」と嘆息。
全員、ちょっと目を閉じて…と、指示を出した。


今まで『出演確定』したメンツは、『及川』『月島』『黒尾』だけど、
乙女ゲーム最大のイベント…それぞれの『告白シーン』を想像してみてよ。

・『及川』→壁ドン、そして耳元にそっと…甘く囁く。
・『月島』→盛大に照れながら…半ばヤケクソ気味に。
・『黒尾』→何も言わずに肩を抱きよせ、頭を撫でる…

「わわわっ…ど、どれも…キュン♪ってしちゃいますね~」
「それぞれ個性があって、悪くない…かも。」
「黒尾さんっ!ちょっと今の…ちゃんとメモっといてください!あとで実践…」

その上で、『木兎』のシーンをやってみるから…
研磨先生の言葉に、全員は期待に胸を躍らせながら、しっかりと目を閉じ直した。


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「なぁ…」

さっきまで、大声で楽しそうに笑い、飛び回っていたのに。
急に立ち止まったかと思うと、ごく真剣な表情で…静かに振り返った。

あまりに『らしくない』雰囲気に、息をするのも忘れ、立ち竦む。
裏も表もない澄んだ瞳が、真っ直ぐ、ただ真っ直ぐに…こちらを見つめている。

「俺、お前が好きだ。」

その瞳と同じぐらい、澄み渡った声。
飾り気もないけれど、嘘も偽りもない…本当に真っ直ぐな言葉が、
何にも遮られることなく、直接心に届いた。


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「こんなにストレートに、愛の言葉を伝えられる人なんて…居ないでしょ?」

現実でも、妄想でも…『真っ直ぐ』ほど人の心を掴むものはないんだ。
それができる唯一の存在が『木兎』…これほど稀有なキャラは、そうそういない。
『木兎』には、複雑で奥深いストーリーは不要…『真っ直ぐ』が最大の強みだ。
明るく・楽しく・ド直球…実に爽快なプレイになると思わない?

「…って、説明するまでもなく、実感してもらえたみたいだね。」
『木兎』のシリアスモードに、魂を鷲掴みにされた4人は、暫し茫然。
じわじわと込み上げる感激と恥ずかしさに、赤く染まる顔をそれぞれ隠した。



「『木兎』が確定なのは、本人の資質だけじゃない…」
人気の高い『梟谷』ということもあるけど、何と言っても…
研磨先生は、『真っ直ぐ』正面に、持っていたペンを向けた。

「『赤葦』が次回作に登場可能…実は、これこそが最大のポイントなんだ。」
出演者確定条件…『第④の要素』は、まさに『赤葦』用と言っても過言じゃない。

「第④は…『次回作への広がり』でしたよね?」
「『赤葦』が魅力的なサブであることは、人気投票等からも間違いないです。」
「次回作以降で『赤葦』が攻略可能…これこそ、俺が切に願うものだ!!」

勘違いしないで。別にクロのためにってワケじゃないし。
商業ベースで見た時、『顧客誘引力』と『広がり』の双方を兼ね備えるのは、
『赤葦京治』が断トツ…他キャラを頭一個分、リードしているんだよ。


思いもよらない研磨からの高評価に、赤葦は非常に複雑な表情をしたが、
至極冷静に『赤葦京治』について分析をし始めた。

「孤爪師匠、『赤葦』の次回作出演には…『難題』をクリアする必要がありますね。」

・強烈な『メイン』とは、不可分な存在。
・ぶっ飛んだ『メイン』のブレーキ役ゆえに、少々辛辣な性格。
・黒髪短髪、鋭い視線、冷静沈着…『メイン』と対になる属性。

「これらが『赤葦』と共通する人物…『岩泉一』との共存です。」

この二人は、『立ち位置』だけでなく、ビジュアルも少々…似た部分があります。
誰とは言いませんが、某コンビニでの『HQ!キャンペーン』において、
キャラクターのイラストが入った、キャンペーン対象商品のPOP(値段表)…
「俺はやっぱり…『赤葦』のを買うか♪」って言っていたくせに、
間違えて『岩泉』のをレジに持って行った人もいたぐらいですから。

「確かに…小さな画像だと特に、二人の区別は難しいですね。」
「それに、『岩泉』も次回作の出演は『当確』だから…」
「『岩泉』と『赤葦』を、いかに『違うモノ』として確立させるか…『難題』だな。」


『岩泉』が次回作に出演する際、強調される属性は…『幼馴染』だ。
『月島&山口』や『黒尾&研磨』といったコンビも、かなり強力ではあるが、
コンビ称号としては最上級の『阿吽の呼吸』には、到底敵わない。
その上で、どつき系の『夫婦漫才』までデキる…最強の『幼馴染』なのだ。

「対する『赤葦』は…メインと『対等』というより、むしろ『主従関係』だね。」
「メインとの関係性の強さで言うと、『岩泉』には勝てませんね…」

実は意外とドライな、『木兎』と『赤葦』の関係…
だからこそ、この二人の間には『特別な何か』を見出す余地があり、
それが二次創作で『木兎×赤葦』が人気の理由であろう。

「結局、『赤葦』は次回作以降も…『木兎』とセットってことか。」
少々悲しそうな声で、黒尾が小さく呟いた。
だが、「そうとも言い切れない。」と、研磨が力強く断言した。

「メインとの関係性が強くないからこそ…メインからの『切り離し可能』なんだ。」
メインとの強すぎる関係は、『乙女ゲーム』ではむしろマイナス要素…
『月島』攻略には『山口』の助力が必要不可欠なのと同じで、
『岩泉』を攻略するには、まず『及川』を納得させなきゃいけないでしょ?
そういう『筋を通す』的なイベントが不要なのは、かなり有り難いんだよね。

「そうか…『木兎』とは別個独立して、次回作で自由に『赤葦』を扱える…!」
「そして、まがりなりにも『主従関係』…これを最大限生かせるのが、次回作。」
本編が『学園モノ』だからあまり目立たないけど、もし次回作が『戦国モノ』や、
『社会人モノ』になった場合…実に『オイシイ展開』を構築可能なのだ。


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いけないことだとは、十分承知しています。
貴方と私は、敵同士…本来は、相容れない存在のはずです。

こうして貴方と二人で居ることは、主君への裏切り…絶対に赦されません。
ですが、周りから誹られようとも、全てを失うとしても…

「私は、貴方と共に在りたい…そう願ってしまうのです。」


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「何と言う…背徳的な香り。」
「運命に引き裂かれる二人。切なさ溢れる悲恋と…真実の愛。」
あぁ、痺れますね…それに、何だか妙に…ゾクゾクします。

「『岩泉』と『赤葦』の見た目…その『僅かな違い』が、ポイント。」
『岩泉』の方は、『及川』の軟派な雰囲気との対比から、実に『硬派』…
男らしく逞しい…『強さ』を感じさせる。
では『赤葦』はと言えば…無気力さを感じさせる、伏し目がちな瞳。
そのせいか、鋭い眼光が『流し目』にも見えてしまう…
『岩泉』に比べると、実は結構…綺麗系の『女顔』なのだ。

「さっきの『ミニシアター』…『主君』を『主人』に入れ替えてみると…?」
「『昼下がりの和室』コースだっ!!!」

あぁ…今ので、長年の謎…『赤葦さんが妙にエロい』理由が判明したね~!
『人妻っぽい妖艶さ』を感じるのは、そういう背景があったから…成程ね。

深々と納得し合う、山口と月島。
赤葦はモノ言いたげに『流し目』を黒尾に送り…
黒尾はわざとらしく、その視線を『気付かないふり』した。


「そういうわけだから、『赤葦』ほど次回作で生きるキャラはいないんだ。」
純愛良し、悲恋も良し、薫り立つようなエロス良し…最高の素材。
『赤葦』の有無で、このゲームの商業的価値は…ケタが変わると断言できる。
多少『岩泉』とキャラが被っても、『赤葦』だけは絶対に出すべきだね。

「俺は…ゲームに出して貰えるなら、それで構いません。」
「研磨…俺の貯金、全部『開発費』に投資させてくれ!!」
赤葦と黒尾は実に満足そうな表情で、研磨先生と固く握手を交わした。


「ド変態コースの『黒尾』と、人妻エロスの『赤葦』…完全に『ERO要員』だね。」
「ナニをどうヤっても…『クロ赤』がエロくなっちゃうわけだよ。納得~!」




- ⑧へGO! -


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<研磨先生覚書(クロの黒歴史)>

・クロはしばらくの間、『梟谷』を『うぐいすだに』と誤読していた。
・「『うぐいすだに学園』…風俗店っぽい名前だな。」と言っていた。
・『鶯(うぐいす)谷』→山手線の駅。人妻系風俗の聖地。
・ちなみに『池袋(いけふくろうが駅に居る)』→学園系風俗多し。
・梟谷→人妻系な学園?→マジで、そういう奴いたよっ!!→…今に至る。



2017/02/27    (2017/02/23分 MEMO小咄より移設)

 

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