教えて!研磨先生④







「研磨先生っ!!俺…もう一人『出演確定』な人に、心当たりがありますっ!」

勢いよく挙手した山口に、研磨は「いいよ。発言を許可する。」と頷き、
山口は嬉しそうに微笑むと、深呼吸…指を折りながら説明を始めた。

・主人公の『日向』『影山』に次ぐ第三の存在かつ、『日』との対極。
・暑苦しいスポ根漫画の中にあり、堂々と『無気力』を貫く…今だ反抗期。
・眉目秀麗ながら、口からは毒を吐く…見え隠れする『ツンデレ』属性。
・尊敬する兄との確執・和解。唯一心を許せる友達…幼馴染の存在。
・本人は望まないのに、『兄貴分』達からの可愛がられっぷり。

「そして何よりも、乙女ゲームには必ず一人存在する…『メガネ』です!」
もはや主人公達よりも、『アレもコレも』美味しいトコ総ざらい…
第二の属性・『ツンデレメガネ系』には、『月島蛍』が確定だと思います!!

山口の理路整然とした提案に、万雷の拍手が響き渡った。
「素晴らしいよ。山口は…乙女ゲームの何たるかを、完全に理解してるね。」
開発サブリーダーは、山口に決まりだね…と、研磨は賞賛を贈った。

「①容姿端麗、②キャラが立っている、③ストーリー性…全て合致するな。」
「こうして列挙してみると、『月島蛍』は本当に…贅沢なキャラですよね。」
こちらも、異議は全くナシだ…と、黒尾と赤葦も賛同した。
だが、一人は未だ黙ったまま項垂れ、ふるふると背を震わせていた。
それに気を止める者は、誰一人おらず…会議はつつがなく進行していく。


「でも、実際問題、『月島蛍』の攻略は…面倒臭そうですね。」
反抗期で、口も悪いですから…いちいちイラっとしてしまいそうです。
…という赤葦の真っ当な意見には、ごくアッサリと『大丈夫!』が出た。

「傾向と対策…『あぁ言えばこう言う』のコツさえ掴めば、結構チョロいです!」
「山口の言う通りだね。攻略レベルとしては、『★☆☆』ぐらいだし。」
「それに、こういう『跳ねっ返り』こそ、攻略し甲斐があるだろうしな。」

だが、これだけ『盛り沢山』な素材は、ストーリーを一つに絞るのが難しい。
『反抗期』『幼馴染』『年上受け◎』…どれを中心に据えるかで、
プレーヤー自身の属性すら、変えてしまいかねないのだ。

「自分で言いだしておきながら、ワガママな発言なんですけど…」
自分がプレーヤーとして『月島蛍』を攻略してみたい反面、
自分ではない『誰か』が『ツッキー』と『ねんごろ』になるのは…
ちょっと、あまりイイ気分じゃないかも、です。

リアルに『ツッキーのツレ』である山口にとっては 、
たとえ『乙女ゲーム』…妄想の世界の出来事だとしても、
『自分以外の女性』が『月島蛍』とイチャつくのは、面白くないだろう。

しかし、研磨先生は、この点についても「大丈夫。」と断言した。
「このゲームが他と一線を画すのは…実は『プレーヤー設定』にある。」

乙女ゲームの主人公…プレーヤーは、当然ながら『女性』が標準である。
そして、主人公の名前は予め設定されており、その名前でスタートすると、
ちゃんとキャラが名前を呼んでくれるのだが…
初期設定名以外の『任意の名前』で開始することもできる。
その際は、キャラには『○○ちゃんは…』ではなく『君は…』等、
主に人称代名詞で呼ばれることになる。

「では、プレーヤー名を『山口忠』にしてしまえば…」
「えっ!?それは…女装してる気分で、ちょっと嫌かも…」
「確かにそれは…俺がプレーヤーでも、ゲームにハマり込み辛いな。」

眉を顰める3人に、研磨は再度「大丈夫だから。」と念を押した。
「ゲーム開始時、名前だけでなく…『性別』も選択制にするんだ。」

『女性』を選べば、通常の『乙女ゲーム』として楽しめる。
そして、『男性』を選んだ場合、『友情』『愛情』『左(攻)』『右(受)』…
こちらはこちらで、様々なルート分岐が可能となるのだ。

「これだと、『BLゲーム』としてもイケる…凄いですっ!」
「『俺だけに優しい』をメイン属性にすると、『月島攻』ルート…」
「『俺の前だけでは素直』だと、『月島受』…実にオイシイです。」

一つのゲームで、様々な嗜好を持つ人々に楽しんで頂ける…
これこそ、最高のエンタテイメント。商業性もバッチリである。


こういうシステムのゲームでいいよね?と研磨が採決を取ろうとすると、
今まで黙って震えていた月島が、「ちょっと待って下さいっ!!」を絶叫した。
「ぼっ、僕は嫌ですっ!!山口が、僕を攻め…そんなの、見たくない!」
僕が山口以外と…っていうのも嫌だし、僕を攻略する…例えば黒尾さん?とか…
そんなルートも姿も、僕は見たくない…断固拒否です!!

月島の悲痛な叫びは…ことごとく却下された。
「それはただのワガママ。単なる月島の『嗜好』ってだけだから。」
「某検索サイトでは、『月島×山口』よりも…『黒尾×月島』が人気上位です。」
「様々な可能性を認め、それを許し、愛す…これが、『平和』の神髄だろうが。」
ゲームなんだから、月島の好きなルート…理想的エンディングを目指せばいいじゃん。
心の狭~い男は、『リアル』でも攻略対象としても…モテませんよ?
っつーか、イロイロな嗜好の人が楽しめないと…売れねぇだろうが。

研磨・赤葦・黒尾からの『正論攻撃』にも、月島は「嫌だ!」と反抗し続ける。
それを一瞬で黙らせたのは、『傾向と対策』に長けた人物だった。

「このゲームで『山口×月島』が妄想できるなら…俺はそれで『大満足』だよ?」
絶対に『リアル』ではソレを求めない…これならどう?


月島が大人しくなると、研磨は山口にマイク(代わりのペン)を向けた。
「『月島蛍』真エンディングに必須な殺し文句…『大正解の選択肢』をどうぞ。」

マイクを受け取った山口は、大きく息を吸い…頬を染めて呟いた。
『月島君』『ツッキー』以外の名前で…呼んでいい?(呼ぶぜ?)

月島の赤面が、『恋愛ゲージMAX到達』の、確固たる証拠となった。




- ⑤へGO! -


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<研磨先生開発メモ>
性別選択画面(案)
①女性
②男性
③女性(元は男性)
④男性(αまたはΩ)

①は通常乙女ルート、②は途中で左右分岐、
③は女体化(ルート自体は①と共用可能)、
④はオメガバース(②と共用ストーリーかつ、左右ではなくαΩ分岐。)



2017/02/27    (2017/02/15分 MEMO小咄より移設)

 

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